IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7120588新規微生物およびエルゴチオネインの生産方法
<>
  • -新規微生物およびエルゴチオネインの生産方法 図1
  • -新規微生物およびエルゴチオネインの生産方法 図2
  • -新規微生物およびエルゴチオネインの生産方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】新規微生物およびエルゴチオネインの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20220809BHJP
   C12P 17/10 20060101ALI20220809BHJP
   C12R 1/645 20060101ALN20220809BHJP
【FI】
C12N1/14 E
C12P17/10
C12R1:645
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021569722
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2020030145
(87)【国際公開番号】W WO2021140693
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2020002301
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-03051
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-03052
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-03053
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-03054
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】越山 竜行
(72)【発明者】
【氏名】金子 睦
(72)【発明者】
【氏名】東山 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】森田 友岳
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 あずさ
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/004234(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104437(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0121156(US,A1)
【文献】Journal of Bioscience and Bioengineering,2018年,Vol.126, No.6,pp.715-722
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/14
C12P 17/10
C12R 1/645
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディルクメイア・チュラシマエンシスに属する微生物(NITE BP-03054)、パピリオトレマ・フラベセンスに属する微生物(NITE BP-03051)、パピリオトレマ・フラベセンスに属する微生物(NITE BP-03052)、または、アピオトリカム・ポロサムに属する微生物(NITE BP-03053)。
【請求項2】
請求項1に記載の微生物を培養し、エルゴチオネインを含む培養物を得る工程を含む、エルゴチオネインの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規微生物、および、当該新規微生物を培養してエルゴチオネインを得るエルゴチオネインの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エルゴチオネインは含硫アミノ酸の一種である。エルゴチオネインは、ビタミンEの抗酸化作用よりも優れた抗酸化作用を有し、健康および美容等の分野において、利用価値の高い化合物として注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1および非特許文献1には、エルゴチオネイン生産能が増強された形質転換糸状菌が記載されている。
【0004】
また、非特許文献2には、エルゴチオネイン生産能が増強された、形質転換したMethylobacrium属の微生物が記載されている。非特許文献2には、Aureobasidium属およびRhodotorula属の微生物がエルゴチオネイン生産能を有することが記載されている。
【0005】
また、非特許文献3には、Pleurotus属の微生物がエルゴチオネイン生産能を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/121285号
【非特許文献】
【0007】
【文献】S. Takusagawa, Biosci. Biotechnol. Biochem., 83, 181-184 (2019)
【文献】Y. Fujitani et al., J. Biosci. Bioeng., 126, 715-722 (2018)
【文献】SY. Lin, Int. J. Med. Mushrooms, 17, 749-761 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エルゴチオネインは、ヒトの体内では生合成されず、一部の微生物で生合成されることが知られている。よって、上述の先行技術文献に記載されるように、エルゴチオネインを産生する微生物の探索、および、エルゴチオネインの生産が増強させるための微生物の改変等の研究開発が進められている。しかしながら、先行技術文献に記載される微生物は、エルゴチオネインの生産量が低く、エルゴチオネインの生産量が高い微生物の探索および開発が望まれる。
【0009】
遺伝子組換え技術により、エルゴチオネインの生産を増強させるように微生物を改変することができる。しかしながら、当該微生物により生産されたエルゴチオネインは食品産業等では利用できない。したがって、遺伝子組換えが行われておらず未改変である、エルゴチオネイン生産量が高い微生物の探索が強く望まれている。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、エルゴチオネインの生産量が高い新規微生物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、スクリーニングの結果、従来の微生物よりもエルゴチオネインの生産量が高い新規微生物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明に係る微生物は、ディルクメイア・チュラシマエンシスに属する微生物(NITE BP-03054)、パピリオトレマ・フラベセンスに属する微生物(NITE BP-03051)、パピリオトレマ・フラベセンスに属する微生物(NITE BP-03052)、または、アピオトリカム・ポロサムに属する微生物(NITE BP-03053)である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、エルゴチオネインの生産量が高い微生物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】1回目のスクリーニング結果を示すグラフである。
図2】2回目のスクリーニング結果を示すグラフである。
図3】新規微生物5株のエルゴチオネイン生産量の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態の微生物は、エルゴチオネインを生産する能力を有するディルクメイア属に属する微生物、エルゴチオネインを生産する能力を有するパピリオトレマ属に属する微生物、または、エルゴチオネインを生産する能力を有するアピオトリカム属に属する微生物である。
【0016】
本実施形態の微生物は、エルゴチオネインの生産量が高い。エルゴチオネインは、含硫アミノ酸の一種であり、優れた抗酸化作用を有する。また、本実施形態の微生物は遺伝子組換え技術等による改変が行われていないため、食品産業でも使用することができる。
【0017】
以下、本実施形態の微生物について詳細に説明する。
【0018】
〔1.ディルクメイア・チュラシマエンシスS111〕
ディルクメイア・チュラシマエンシス(Dirkmeia churashimaensis)S111(以下、「酵母S111」と略記する場合がある)は、茨城県つくば市内で収集した木の葉(若葉)を分離源として初めて分離された微生物である。
【0019】
リボソームRNA遺伝子の26SrDNAのD1/D2領域およびITS領域の塩基配列を決定した。そして、テクノスルガラボ微生物同定システム(TechnoSuruga Laboratory, Japan)データベースDB-FU10.0および国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA(EMBL)/GenBank)に対するBLAST相同検索を行った。その結果、酵母S111はディルクメイア・チュラシマエンシスに帰属された。また、実施例に示す通り、炭素源としてのエリスリトールおよびコハク酸塩ならびに窒素源としての硝酸塩の資化性、37℃での生育性について相違が認められた以外は、ディルクメイア・チュラシマエンシスとほぼ類似した生理・生化学的性状を示す。
【0020】
酵母S111は、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室、独立行政法人製品評価技術基盤機構(Natural Institute of Technology and Evaluation;以下、「NITE」と略記する)の特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託した(原寄託日:2019年10月25日、受託番号:NITE BP-03054)。
【0021】
酵母S111の培養方法は、ディルクメイア属の微生物に対して行われる一般的な培養方法に準じて行えばよい。培養形態は液体培地を用いた回分培養あるいは培養系に炭素源および/または有機窒素源を連続添加する流加培養であり、通気攪拌することが望ましい。培地としては、ディルクメイア属に属する微生物が資化可能な炭素源、窒素源、または無機塩類などの必要な栄養源を含有する培地を使用してもよい。培養pHは3~8が好ましく、培養温度は20℃~37℃が好ましく、培養時間は2~14日が好ましい。
【0022】
〔2.パピリオトレマ・フラベセンスEA071〕
パピリオトレマ・フラベセンス(Papiliotrema flavescens)EA071(以下、「酵母EA071」と略記する場合がある)は、本栖湖周辺で収集したススキの葉を分離源として初めて分離された微生物である。
【0023】
リボソームRNA遺伝子の26SrDNAのD1/D2領域およびITS領域の塩基配列を決定した。そして、テクノスルガラボ微生物同定システム(TechnoSuruga Laboratory, Japan)データベースDB-FU10.0および国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA(EMBL)/GenBank)に対するBLAST相同検索を行った。その結果、酵母EA071はパピリオトレマ・フラベセンスに帰属された。また、実施例に示す通り、炭素源としてのイヌリンおよび水溶性デンプンについて相違が認められた以外は、パピリオトレマ・フラベセンスとほぼ類似した生理・生化学的性状を示す。
【0024】
酵母EA071は、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託した(原寄託日:2019年10月25日、受託番号:NITE BP-03051)。
【0025】
酵母EA071の培養方法は、パピリオトレマ属の微生物に対して行われる一般的な培養方法に準じて行えばよい。培養形態は液体培地を用いた回分培養あるいは培養系に炭素源および/または有機窒素源を連続添加する流加培養であり、通気攪拌することが望ましい。培地としては、パピリオトレマ属に属する微生物が資化可能な炭素源、窒素源、または無機塩類などの必要な栄養源を含有する培地を使用してもよい。培養pHは3~8が好ましく、培養温度は20℃~30℃が好ましく、培養時間は2~14日が好ましい。
【0026】
〔3.パピリオトレマ・フラベセンスEA361〕
パピリオトレマ・フラベセンス(Papiliotrema flavescens)EA361(以下、「酵母EA361」と略記する場合がある)は、諏訪湖周辺で収集した木の皮を分離源として初めて分離された微生物である。
【0027】
リボソームRNA遺伝子の26SrDNAのD1/D2領域およびITS領域の塩基配列を決定した。そして、テクノスルガラボ微生物同定システム(TechnoSuruga Laboratory, Japan)データベースDB-FU10.0および国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA(EMBL)/GenBank)に対するBLAST相同検索を行った。その結果、酵母EA361はパピリオトレマ・フラベセンスに帰属された。また、実施例に示す通り、炭素源としてのイヌリンおよび水溶性デンプンについて相違が認められた以外は、パピリオトレマ・フラベセンスとほぼ類似した生理・生化学的性状を示す。
【0028】
酵母EA361は、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託した(原寄託日:2019年10月25日、受託番号:NITE BP-03052)。
【0029】
酵母EA361の培養方法は、パピリオトレマ属の微生物に対して行われる一般的な培養方法に準じて行えばよい。培養形態は液体培地を用いた回分培養あるいは培養系に炭素源および/または有機窒素源を連続添加する流加培養であり、通気攪拌することが望ましい。培地としては、パピリオトレマ属に属する微生物が資化可能な炭素源、窒素源、または無機塩類などの必要な栄養源を含有する培地を使用してもよい。培養pHは3~8が好ましく、培養温度は20℃~30℃が好ましく、培養時間は2~14日が好ましい。
【0030】
〔4.アピオトリカム・ポロサムEA702〕
アピオトリカム・ポロサム(Apiotrichum porosum)EA702(以下、「酵母EA702」と略記する場合がある)は、いわき市で収集した土壌を分離源として初めて分離された微生物である。
【0031】
リボソームRNA遺伝子の26SrDNAのD1/D2領域およびITS領域の塩基配列を決定した。そして、テクノスルガラボ微生物同定システム(TechnoSuruga Laboratory, Japan)データベースDB-FU10.0および国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA(EMBL)/GenBank)に対するBLAST相同検索を行った。その結果、酵母EA702はアピオトリカム・ポロサムに帰属された。また、実施例に示す通り、炭素源としてのイヌリンおよび耐性試験における50%D-グルコースについて相違が認められた以外は、パピリオトレマ・フラベセンスとほぼ類似した生理・生化学的性状を示す。
【0032】
酵母EA702は、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託した(原寄託日:2019年10月25日、受託番号:NITE BP-03053)。
【0033】
酵母EA702の培養方法は、アピオトリカム属の微生物に対して行われる一般的な培養方法に準じて行えばよい。培養形態は液体培地を用いた回分培養あるいは培養系に炭素源および/または有機窒素源を連続添加する流加培養であり、通気攪拌することが望ましい。培地としては、アピオトリカム属に属する微生物が資化可能な炭素源、窒素源、または無機塩類などの必要な栄養源を含有する培地を使用してもよい。培養pHは3~8が好ましく、培養温度は20℃~27℃が好ましく、培養時間は2~14日が好ましい。
【0034】
〔エルゴチオネインの生産方法〕
本実施形態のエルゴチオネインの生産方法は、上記微生物を培養し、エルゴチオネインを含む培養物を得る工程を含む。
【0035】
エルゴチオネインを含む培養物からのエルゴチオネインの回収は、例えば、通常の微生物培養物からエルゴチオネインを回収し精製する方法で行えばよい。培養物には、培養上清、培養菌体、培養菌体破砕物等が含まれる。例えば、培養物を遠心分離等して菌体を回収する。回収した菌体を熱水抽出に供する等により、エルゴチオネインを含む抽出液を得る。そして、当該抽出液を精製することによって、エルゴチオネインを回収することができる。微生物のエルゴチオネインの生産量は、例えば、得られた抽出液を、高速液体クロマトグラフィー装置およびLCMS等の質料分析装置によって測定することによって、定量することができる。
【0036】
〔まとめ〕
本実施形態に係る微生物は、ディルクメイア・チュラシマエンシスに属する微生物(NITE BP-03054)、パピリオトレマ・フラベセンスに属する微生物(NITE BP-03051)、パピリオトレマ・フラベセンスに属する微生物(NITE BP-03052)、または、アピオトリカム・ポロサムに属する微生物(NITE BP-03053)である。
【0037】
また、本実施形態に係るエルゴチオネインの生産方法は、上記微生物を培養し、エルゴチオネインを含む培養物を得る工程を含む。
【0038】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例
【0039】
以下の実施例中、特に記載がない限り、%は質量%を表す。
【0040】
(1)環境から採取した分離源での集積培養
まず、植物および土壌等の環境からの微生物サンプル採取を2回に分けて行った。その結果、合計113のサンプル(1回目30、2回目83)を採取した。
【0041】
次に、スクリーニング培地2mLを含む15mLのプラスチックチューブに採取したサンプルをそれぞれ浸漬し、200rpmにおいて、3~5日間25℃にて培養した。スクリーニング培地は抗生物質を含むYM培地を使用した。具体的には、1%グルコース、0.5%ペプトン、0.3%酵母エキス、0.3%麦芽エキス、0.01%ストレプトマイシン硫酸塩、0.005%クロラムフェニコールを含む培地を使用した。
【0042】
そして、目視により培地が濁った(微生物が増殖した)、111のサンプル(1回目30、2回目81)を選抜した。
【0043】
(2)酸化ストレス負荷によるサンプルの選抜
上記(1)で選抜した111のサンプルの培養液を、YM培地で100倍または100000倍に希釈した。そして、YM寒天培地、および、3mMのHが添加されたYM寒天培地(以下、H含有YM寒天培地と略記する。)に希釈した培養液を塗布し、25℃において2~5日間培養した。
【0044】
YM寒天培地上に生育したコロニーの数と、H含有YM寒天培地上に生育したコロニーの数をカウントした。そして、YM寒天培地およびH含有YM寒天培地の両方においてコロニーが生育した83のサンプルを選抜した。
【0045】
さらに、選抜した83のサンプルの寒天培地上で生育したコロニーについて、目視で形態および色を観察し、種類が異なる酵母様のコロニー164個(1回目51個、2回目113個)を選抜した。
【0046】
(3)選抜コロニーの96ウェルにおける培養
上記(2)で選抜したコロニー164個を、1mLのYM培地を含む96ウェルプレートに植菌し、1600rpmにおいて、3~4日間25℃にて培養した。培養後、回収した培養液を2000rpmにおいて、10分間4℃にて遠心分離させた。遠心分離により得られた菌体ペレットを純粋1mLで洗浄し、再度遠心分離に供した。
【0047】
遠心分離により得られた菌体ペレットに0.1mLの純水を加えて懸濁した。得られた懸濁液を96℃において10分間加熱して、菌体内成分を抽出した。そして、抽出した菌体内成分を遠心分離に供して菌体残渣を取り除き、抽出液が得られた。
【0048】
(4)LCMSによる抽出液中のエルゴチオネインの定量分析
上記(3)で得られた抽出液0.15mLとアセトニトリル0.35mLとを混合した溶液を0.45μmのPVDFフィルターで濾過した。得られた濾液をLCMS測定のサンプルとして使用した。
【0049】
LCMS分析には、島津製作所社製LCMS-2020を用いた。また、LCのカラムには、SHODEX社製Asahipak NH2P-40 2D+ガードカラムを使用した。LCの移動相として、10mMギ酸アンモニウムとアセトニトリルとの混合液(10mMギ酸アンモニウム/アセトニトリル=30/70(v/v))を使用した。また、流速は0.1mL/minとし、25℃において分析を行った。
【0050】
MS検出においては、ESIイオン化とAPCIイオン化とを同時に行うDUISモードでイオン化させた。また、エルゴチオネインを検出可能なm/z=230(+)のSIMモードで検出を行った。
【0051】
上記(2)で選抜したコロニー164個の抽出液を分析した結果、エルゴチオネインの生産量が高かった14個のコロニー(1回目5個、2回目9個)を選抜した。
【0052】
また、図1および2はそれぞれ、微生物サンプル採取1回目および2回目で採取した微生物サンプルが生産するエルゴチオネインの量を示すグラフである。図1および2の横軸は、上記(3)において培養後に得られた培養液をOD600にて測定して得られた値を示す。縦軸は、上記(3)において培養後に得られた培養液中のエルゴチオネインの量(mg/L(培養液))を示す。エルゴチオネインの量は、LCMS分析によって得られた値である。図1および2中、丸で囲ったコロニーが選抜した14個のコロニーである。
【0053】
(5)エルゴチオネイン生産微生物のフラスコにおけるスケールアップ培養
上記(4)で選抜した14個のコロニーを、50mLのYM培地を含む300mLフラスコに植菌し、200rpmにおいて、7日間25℃にて培養した(n=1)。
【0054】
培養3~7日目の培養液を適宜採取した。上記(3)と同様に、菌体を遠心分離および洗浄後、熱水抽出により抽出液を回収した。
【0055】
得られた抽出液を、上記(4)と同様に、LCMSにより分析を行い、エルゴチオネインの生産量が高かった5株(S111、EA071、EA361、EA701、EA702)を選抜した。
【0056】
選抜した5株のコロニーを、50mLのYM培地を含む300mLフラスコに植菌し、200rpmにおいて、5日間25℃にて培養した(n=3)。そして、培養3日目および5日目のエルゴチオネインの生産量を、LCMSにより測定した。選抜した5株のコロニーのエルゴチオネインの生産量を図3に示す。
【0057】
図3中、各株の左の棒グラフは、培養3日目のエルゴチオネインの生産量を示す。各株の右の棒グラフは、培養5日目のエルゴチオネインの生産量を示す。
【0058】
(7)選抜した5株の同定
選抜した5株の帰属分類群の推定は、リボソームRNA遺伝子の26S rDNAのD1/D2領域およびITS領域の塩基配列の解析により行った。
【0059】
塩基配列の解析の結果、S111株はディルクメイア・チュラシマエンシス、EA071株およびEA361株はパピリオトレマ・フラベセンス、EA701株およびEA702株はアピオトリカム・ポロサムに属すると推定された。
【0060】
表1は選抜した5株のエルゴチオネイン(EGT)の生産量と生産速度を示す。表2は、公知の微生物の生産量と生産速度を示す。表1および2中、特に記載がない限り、エルゴチオネイン(EGT)の生産量の単位はmg/Lであり、EGTの生産速度はmg/L/d(1日当たりのエルゴチオネインの生産量)である。また、表1のEGTの生産量は、培養5日目のエルゴチオネインの生産量を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1および2より、選抜した5株のエルゴチオネインの生産量は、既知のエルゴチオネイン生産微生物のエルゴチオネインの生産量の同等以上だったことが分かった。また、選抜した5株のエルゴチオネインの生産速度も、既知のエルゴチオネイン生産微生物の生産速度の同等以上であったことが分かった。
【0064】
(8)S111株の分子系統学的位置および生理学的性質
S111株の26S rDNAのD1/D2領域塩基配列およびITS-5.8 rDNA塩基配列について、国際塩基配列データベースに対するBLAST相同検索を行った。その結果、担子菌系酵母の一種であるディルクメイア・チュラシマエンシスの複数の塩基配列に対して、相同率98.4~100%の相同性を示した。また、得られた塩基配列をもとに解析した分子系統樹において、S111株はディルクメイア・チュラシマエンシスの複数の塩基配列と同一の分子系統学的位置を示した。
【0065】
S111株を、YM寒天平板培地上で27℃7日間培養し、形成されたコロニーを観察した。コロニーの周縁の形状は全縁であり、隆起状態は平坦、シワ状だった。また、コロニーの表面の形状は平滑であった。さらに、コロニーは鈍光性およびバター様を有し、薄橙色~クリーム色であった。
【0066】
また、S111株を、YM寒天平板培地上で27℃7日間培養後、細胞形態性状についても観察した。栄養細胞は楕円形~卵形であり、増殖は出芽によることが認められた。培養開始4週間以上経過した平板で有性生殖器官の形成は認められなかった。
【0067】
上記のS111株の形態学的性質は、D1/D2領域およびITS領域のDNA配列解析で帰属されたディルクメイア・チュラシマエンシスの特徴にほぼ一致していた。S111株の生理学的性質を表3に示す。
【0068】
表3中、「+」は陽性を示す。「-」は陰性を示す。「W」は弱い陽性を示す。「D」は試験開始後1週間以上の時間をかけて徐々に陽性になったことを示す、「L」は試験開始後2週間以降に急速に陽性になったことを示す。
【0069】
【表3】
【0070】
分子系統学的位置および生理学的性質ならびにエルゴチオネインの生産量の測定より、S111株はディルクメイア・チュラシマエンシスに帰属される新規微生物と判断した。
【0071】
(9)EA071株の分子系統学的位置および生理学的性質
EA071株の26S rDNAのD1/D2領域塩基配列およびITS-5.8 rDNA塩基配列について、国際塩基配列データベースに対するBLAST相同検索を行った。その結果、担子菌系酵母の一種であるクリプトコッカス・フラベセンス(Cryptococcus flavescens、現行名パピリオトレマ・フラベセンス)の複数の塩基配列に対して、相同率99.4~100%の相同性を示した。また、得られた塩基配列をもとに解析した分子系統樹において、EA071株はパピリオトレマ属で構成される系統群に含まれた。そして、クリプトコッカス・フラベセンス(現行名パピリオトレマ・フラベセンス)CBS942Tと同一の分子系統学的位置を示した。
【0072】
EA071株を、YM寒天平板培地上で27℃7日間培養し、形成されたコロニーを観察した。コロニーの周縁の形状は全縁であり、隆起状態はクッション形だった。また、コロニーの表面の形状は平滑であった。さらに、コロニーは輝光性および粘稠性を有し、クリーム色であった。
【0073】
また、EA071株を、YM寒天平板培地上で27℃7日間培養後、細胞形態性状についても観察した。栄養細胞は亜球形~楕円形であり、増殖は出芽によることが認められた。培養開始4週間以上経過した平板で有性生殖器官の形成は認められなかった。
【0074】
上記のEA071株の形態学的性質は、D1/D2領域およびITS領域のDNA配列解析で帰属されたパピリオトレマ・フラベセンスの特徴にほぼ一致していた。EA071株の生理学的性質を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
分子系統学的位置および生理学的性質ならびにエルゴチオネインの生産量の測定より、EA071株はパピリオトレマ・フラベセンスに帰属される新規微生物と判断した。
【0077】
(10)EA361株の分子系統学的位置および生理学的性質
EA361株の26S rDNAのD1/D2領域塩基配列およびITS-5.8 rDNA塩基配列について、国際塩基配列データベースに対するBLAST相同検索を行った。その結果、担子菌系酵母の一種であるクリプトコッカス・フラベセンス(現行名パピリオトレマ・フラベセンス)の複数の塩基配列に対して、相同率99.4~100%の相同性を示した。また、得られた塩基配列をもとに解析した分子系統樹において、EA361株はパピリオトレマ属で構成される系統群に含まれた。そして、クリプトコッカス・フラベセンス(現行名パピリオトレマ・フラベセンス)CBS942Tと同一の分子系統学的位置を示した。
【0078】
EA361株を、YM寒天平板培地上で27℃7日間培養し、形成されたコロニーを観察した。コロニーの周縁の形状は全縁であり、隆起状態はクッション形だった。また、コロニーの表面の形状は平滑であった。さらに、コロニーは輝光性および粘稠性を有し、クリーム色であった。
【0079】
また、EA361株を、YM寒天平板培地上で27℃7日間培養後、細胞形態性状についても観察した。栄養細胞は亜球形~楕円形であり、増殖は出芽によることが認められた。培養開始4週間以上経過した平板で有性生殖器官の形成は認められなかった。
【0080】
上記のEA361株の形態学的性質は、D1/D2領域およびITS領域のDNA配列解析で帰属されたパピリオトレマ・フラベセンスの特徴にほぼ一致していた。EA071株の生理学的性質を表5に示す。
【0081】
【表5】
【0082】
分子系統学的位置および生理学的性質ならびにエルゴチオネインの生産量の測定より、EA361株はパピリオトレマ・フラベセンスに帰属される新規微生物と判断した。
【0083】
(11)EA702株の分子系統学的位置および生理学的性質
EA702株の26S rDNAのD1/D2領域塩基配列およびITS-5.8 rDNA塩基配列について、国際塩基配列データベースに対するBLAST相同検索を行った。その結果、担子菌系酵母の一種であるトリコスポロン・ポロサム(現行名アピオトリカム・ポロサム)の複数の塩基配列に対して、相同率99.3~100%の相同性を示した。また、得られた塩基配列をもとに解析した分子系統樹において、EA702株はトリコスポロン(アピオトリカム)属で構成される系統群に含まれた。そして、トリコスポロン・ポロサム(現行名アピオトリカム・ポロサム)CBS2040Tと同一の分子系統学的位置を示した。
【0084】
EA702株を、YM寒天平板培地上で27℃7日間培養し、形成されたコロニーを観察した。コロニーの周縁の形状は菌糸状であった。コロニーの隆起状態は、周縁部が扁平であり、中央部が隆起だった。また、コロニーの表面の形状はシワ状であった。コロニーは鈍光性を有していた。さらに、コロニーは湿性~やや乾燥状であり、色が白色~白クリーム色であった。
【0085】
また、EA702株を、YM寒天平板培地上で27℃7日間培養後、細胞形態性状についても観察した。栄養細胞は楕円形~卵形であり、増殖は出芽によることが認められた。また、菌糸伸長に伴い、側出芽的に増殖した。培養開始4週間以上経過した平板で有性生殖器官の形成は認められなかった。
【0086】
上記のEA702株の形態学的性質は、D1/D2領域およびITS領域のDNA配列解析で帰属されたアピオトリカム・ポロサムの特徴にほぼ一致していた。EA702株の生理学的性質を表6に示す。
【0087】
【表6】
【0088】
分子系統学的位置および生理学的性質ならびにエルゴチオネインの生産量の測定より、EA702株はパピリオトレマ・フラベセンスに帰属される新規微生物と判断した。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の微生物は、エルゴチオネインの生産量が高く、健康および美容等の分野において利用可能である。
【受託番号】
【0090】
NITE BP-03051
NITE BP-03052
NITE BP-03053
NITE BP-03054
図1
図2
図3