(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】チップドレス用切削カッター
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20220809BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20220809BHJP
B23C 5/12 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B23K11/30 350
B23K11/11 530
B23C5/12 Z
(21)【出願番号】P 2018078416
(22)【出願日】2018-04-16
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591260948
【氏名又は名称】株式会社キョクトー
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】手澤 和宏
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0225262(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/30
B23K 11/11
B23C 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸心周りに回転可能な回転ホルダと、該回転ホルダに装着され、回転状態の上記回転ホルダに接近させた中心軸が上記回転軸心に一致するスポット溶接用電極チップの先端部に接触して当該先端部を切削する切削プレートとを備えたチップドレス用切削カッターであって、
上記切削プレートは、上記回転軸心周りの周方向に対して交差するように延びるすくい面部と、
上記電極チップを上記回転ホルダに接近させた際、上記電極チップの先端部に
接触する逃げ面部と、
上記すくい面部及び上記逃げ面部の連続部分に形成され、且つ、上記回転軸心と交差する方向に
弓形に湾曲しながら延び、上記回転ホルダに接近させた上記電極チップの先端部を切削する切刃部とを備え、
上記逃げ面部には、
当該逃げ面部において上記切刃部
から上記回転ホルダの回転方向とは反対側に離間した位置から上記回転軸心周りの周方向に沿って上記切刃部から離れるように延びる
形状をなすとともに、上記電極チップを上記回転ホルダに接近させた状態で開放周縁が上記電極チップに接触する凹条溝部が上記回転軸心と交差する方向に所定の間隔をあけて複数形成され
、
該凹状溝部は、傾斜する形状をなしており、当該凹状溝部の深さは、上記切刃部から離れるにつれて徐々に深くなっていることを特徴とするチップドレス用切削カッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接用電極チップの先端部を切削するために用いるチップドレス用切削カッターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、特許文献1に開示されているチップドレス用切削カッターは、上下方向に延びる回転軸心周りに回転可能な回転ホルダを備えている。回転ホルダは、平面視で略C字状をなし、回転軸心から径方向外側に向かうにつれて次第に回転軸心周りの周方向に拡がって外側方に開放する切欠部を有している。回転ホルダの上下面には、当該回転ホルダの中央部分に行くにつれて次第に縮径する一対の嵌合面部が回転軸心方向に対称に形成され、嵌合面部には、回転軸心を中心として延びる円弧状の複数の溝部が回転軸心と交差する方向に複数連続的に形成されている。切欠部における回転軸心から外側方に延びる一方の内側面には、側面視で略T字状をなす切削プレートが取り付けられている。該切削プレートは、一方の板面が回転ホルダへの取付部分に対向する一方、他方の板面がすくい面部を構成しており、すくい面部は、回転軸心周りの周方向に対して交差するように延びている。すくい面部の上側及び下側には、当該すくい面部と略直交する一対の逃げ面部が設けられている。該両逃げ面部は、回転ホルダの回転軸心から離れるにつれて次第に回転軸心に沿って離間する湾曲形状をなすとともに嵌合面部に対応する形状をなしている。すくい面部及び各逃げ面部の交差部分には、回転軸心と交差するように延びる切刃部が回転軸心に沿って対称となるように一対形成されている。そして、電極チップの中心軸が回転ホルダの回転軸心に一致した状態で回転状態の回転ホルダの嵌合面部に電極チップの先端部を嵌合させると、電極チップの先端部に切刃部が接触して電極チップの先端部が切削されるようになっている。その際、嵌合面部に形成された隣り合う2つの溝部の連続部分が電極チップの先端部に対して当該電極チップの中心軸と交差する方向に引っ掛かるとともに、電極チップの先端部に対する回転ホルダの回転を案内するようになるので、切削時に回転ホルダの回転軸心と電極チップの中心軸とがずれるのを防いで切削プレートの切削動作が安定するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の切削カッターは、回転ホルダの嵌合面部に円弧状の溝部を複数形成する必要があり、加工が煩雑で製造コストが嵩むという問題がある。また、特許文献1の如き切削カッターは、切刃部のメンテナンスのために切削プレートを周期的に交換するが、繰り返し切削作業を行って回転ホルダにおける各溝部の形状が変化してしまうと、回転ホルダもメンテナンスのために交換する必要が生じてしまい、ラインタクトに影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、切削動作を安定させることができ、しかも、メンテナンス回数を減らすことができる低コストなチップドレス用切削カッターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、回転ホルダではなく切削プレートに複数の溝形状を形成するようにしたことを特徴とする。
【0007】
具体的には、回転軸心周りに回転可能な回転ホルダと、該回転ホルダに装着され、回転状態の上記回転ホルダに接近させた中心軸が上記回転軸心に一致するスポット溶接用電極チップの先端部に接触して当該先端部を切削する切削プレートとを備えたチップドレス用切削カッターを対象とし、次のような対策を講じた。
【0008】
すなわち、第1の発明では、上記切削プレートは、上記回転軸心周りの周方向に対して交差するように延びるすくい面部と、上記電極チップを上記回転ホルダに接近させた際、上記電極チップの先端部に接触する逃げ面部と、上記すくい面部及び上記逃げ面部の連続部分に形成され、且つ、上記回転軸心と交差する方向に弓形に湾曲しながら延び、上記回転ホルダに接近させた上記電極チップの先端部を切削する切刃部とを備え、上記逃げ面部には、当該逃げ面部において上記切刃部から上記回転ホルダの回転方向とは反対側に離間した位置から上記回転軸心周りの周方向に沿って上記切刃部から離れるように延びる形状をなすとともに、上記電極チップを上記回転ホルダに接近させた状態で開放周縁が上記電極チップに接触する凹条溝部が上記回転軸心と交差する方向に所定の間隔をあけて複数形成され、該凹状溝部は、傾斜する形状をなしており、当該凹状溝部の深さは、上記切刃部から離れるにつれて徐々に深くなっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明では、回転ホルダが回転状態において電極チップの先端部を嵌合面部に嵌合させると、切削プレートの切刃部によって切削された直後の電極チップの先端部の領域が、各凹条溝部の開放周縁に接するようになる。すると、各凹条溝部の開放周縁が電極チップの先端部に対して中心軸と交差する方向に引っ掛かるとともに、電極チップの先端部に対する回転を案内するようになるので、切削作業時に回転ホルダの回転軸心が電極チップの中心軸からずれるのを防いで切削作業を安定させることができる。また、回転ホルダの嵌合面部よりも面積が狭い切削プレートの逃げ面部に各凹条溝部を形成するので、特許文献1に比べて加工が簡単で製造コストを低く抑えることができる。さらに、各凹条溝部が切刃部を有する切削プレートに設けられているので、繰り返し切削作業を行った後、メンテナンスをする際に、切削プレートを回転ホルダから取り外すことで切刃部のメンテナンスと同時に凹条溝部のメンテナンスを行うことができる。したがって、特許文献1の如き構造の切削カッターに比べてメンテナンスに手間がかからない。
【0011】
また、切削プレートにおける切刃部周りの肉厚を減らすことなく各凹条溝部を逃げ面部に形成可能になるので、切削作業時において回転ホルダに対する電極チップのずれを確実に防止でき、しかも、切刃部周辺の剛性を高めて切刃部における刃毀れを確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るチップドレッサの斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る切削カッターが取り付けられた回転ホルダの斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る切削カッターの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係るチップドレッサ10を示す。該チップドレッサ10は、溶接ガン(図示せず)のシャンクに嵌め込まれて対向する一対の電極チップ11(
図2参照)の先端部11aをそれぞれ切削するためのものであり、筒中心線方向が上下方向に向く円筒状のモータケース部10aと、該モータケース部10aの上端部分から水平方向に延びる板状ケース部10bと、モータケース部10aの側面に取り付けられ、モータケース部10a及び板状ケース部10bに加わる上下方向の衝撃を吸収する衝撃吸収機構部10cとを備え、モータケース部10aの内部には、回転軸が上方に向かって延びる駆動モータ(図示せず)が収容されている。
【0015】
板状ケース部10bの延出端側上面及び下面には、
図2に示すように、互いに対向する円形状の貫通孔10dが一対形成されている。
【0016】
板状ケース部10b内部における両貫通孔10dの間には、リング状をなす出力歯車6が上下一対のベアリング7を介して上下方向に延びる回転軸心C1周りに回転可能に取り付けられ、出力歯車6は、図示しない駆動モータ及び歯車噛合機構によって回転軸心C1周りに回転するようになっている。
【0017】
出力歯車6の中央には、上下に貫通する取付用孔6aが設けられ、該取付用孔6aには、切削カッター1が装着されている。
【0018】
該切削カッター1は、上下方向に延びる回転軸心C1周りに回転可能な平面視で略C字状をなす回転ホルダ5を備え、該回転ホルダ5は、
図3に示すように、回転軸心C1から径方向外側に向かうにつれて次第に回転軸心C1周りの周方向に拡がって外側方に開放する切欠部5aを有している。
【0019】
また、回転ホルダ5の上端周縁には、その他の部分よりも外側方に拡がるフランジ部5bが形成されている。
【0020】
さらに、回転ホルダ5の上下面には、
図2及び
図3に示すように、当該回転ホルダ5の中央部分に行くにつれて次第に縮径する一対の嵌合面部5cが回転軸心C1方向に対称に形成されている。
【0021】
嵌合面部5cの形状は、電極チップ11の先端部11aの湾曲形状に対応していて、電極チップ11の中心軸が回転軸心C1に一致した状態で電極チップ11の先端部11aが嵌合するようになっている。
【0022】
切欠部5aにおける回転軸心C1から外側方に延びる一方の内側面には、側面視で略T字状をなす段差状に窪む取付段差部5dが形成されている。
【0023】
該取付段差部5dには、電極チップ11の先端部11aを切削するための金属製切削プレート2が装着されている。
【0024】
該切削プレート2は、
図3及び
図4に示すように、金属板を略T字状に切り出して形成したものであり、ネジ3及びワッシャー4を用いて略中央部分に形成された取付孔2fを介して取付段差部5dに固定するようになっている。
【0025】
切削プレート2は、取付段差部5dに取り付けた状態で一方の板面が取付段差部5dの底面に対向する一方、他方の板面がすくい面部2aを構成するようになっていて、該すくい面部2aは、回転軸心C1周りの周方向に対して交差するように延びている。
【0026】
すくい面部2aの上側及び下側には、当該すくい面部2aと略直交する一対の逃げ面部2bが設けられている。
【0027】
すわなち、両逃げ面部2bは、回転軸心C1に沿う方向に所定の間隔をあけて一対形成され、回転軸心C1から離れるにつれて次第に回転軸心C1に沿って離間する湾曲形状をなしている。
【0028】
そして、両逃げ面部2bは、切削プレート2を回転ホルダ5に取り付けた状態で嵌合面部5cに対応する形状をなしていて、電極チップ11をその中心軸が回転軸心C1に一致する状態で接近させると、電極チップ11の先端部11aに対向するようになっている。
【0029】
切削プレート2の回転軸心C1から遠い側の上部及び下部には、側面視で矩形に切り欠かれた形状の位置決め凹部2cが一対形成されている。
【0030】
すくい面部2a及び各逃げ面部2bの連続部分には、回転軸心C1と交差する方向に緩やかに湾曲しながら延びる切刃部2dが回転軸心C1に沿って対称となるように一対形成されている。
【0031】
逃げ面部2bには、切刃部2dに接近する位置から回転軸心C1周りの周方向に沿って切刃部2dから離れるように延びる凹条溝部2eが回転軸心C1と交差する方向に等間隔に複数形成されている。
【0032】
各凹条溝部2eは、断面略V字状をなし、その深さ寸法が切刃部2dから離れるにつれて次第に深くなる傾斜形状をなしている。
【0033】
そして、中心軸を回転軸心C1に一致させた状態の電極チップ11をX1方向に回転する切削カッター1に接触させると、
図5に示すように、電極チップ11の先端部11aに切削プレート2の切刃部2dが接触して先端部11aが切削されるとともに、各凹条溝部2eの開放周縁が先端部11aに接触するようになっている。
【0034】
次に、チップドレッサ10を用いて電極チップ11の先端部11aを切削する作業について説明する。
【0035】
まず、
図2に示すように、先端部11aの状態が悪い一対の電極チップ11をチップドレッサ10の板状ケース部10bの上方及び下方にそれぞれ移動させるとともに、両電極チップ11の中心軸を回転軸心C1に一致させる。
【0036】
次いで、チップドレッサ10の図示しない駆動モータ及び歯車噛合機構を回転駆動させて切削カッター1を回転軸心C1周りに回転させる。
【0037】
しかる後、各電極チップ11を回転ホルダ5の各嵌合面部5cに回転軸心C1に沿って接近させ、各嵌合面部5cに各電極チップ11の先端部11aを嵌合させる。すると、
図5に示すように、切削プレート2における各切刃部2dが各電極チップ11の先端部11aに接触して当該各先端部11aをそれぞれ切削し始める。このとき、切削プレート2の各切刃部2dによって切削された直後の各電極チップ11の先端部11aの領域が逃げ面部2bに設けられた各凹条溝部2eの開放周縁に接する。すると、各凹条溝部2eの開放周縁が各電極チップ11の先端部11aに対して中心軸と交差する方向に引っ掛かるとともに、各電極チップ11の先端部11aに対する回転を案内するようになるので、切削作業時に回転ホルダ5の回転軸心C1が電極チップ11の中心軸からずれるのを防いで切削作業を安定させることができる。
【0038】
また、回転ホルダ5の嵌合面部5cよりも面積が狭い切削プレート2の逃げ面部2bに各凹条溝部2eを形成するので、特許文献1に比べて加工が簡単で製造コストを低く抑えることができる。
【0039】
さらに、各凹条溝部2eが切刃部2dを有する切削プレート2に設けられているので、繰り返し切削作業を行った後、メンテナンスをする際に、切削プレート2を回転ホルダ5から取り外すことで切刃部2dのメンテナンスと同時に凹条溝部2eのメンテナンスを行うことができる。したがって、特許文献1の如き構造の切削カッター1に比べてメンテナンスに手間がかからない。
【0040】
それに加えて、逃げ面部2bに形成された各凹条溝部2eは、その深さ寸法が切刃部2dから離れるにつれて次第に深くなる傾斜形状をなしているので、切削プレート2における切刃部2d周りの肉厚を減らすことなく各凹条溝部2eを逃げ面部2bに形成可能になる。したがって、切削作業時において回転ホルダ5に対する電極チップ11のずれを確実に防止でき、しかも、切刃部2d周辺の剛性を高めて切刃部2dにおける刃毀れを確実に防ぐことができる。
【0041】
尚、本発明の切削カッター1を用いて切削作業を行うと、各凹条溝部2eの開放周縁によって、電極チップ11の先端部11aに同心円状の環状溝が形成され、電極チップ11の先端部11aが凹凸面になるが、溝の深さは浅く、溶接性には影響を及ぼさない。
【0042】
また、本発明の実施形態では、切削プレート2に一対の切刃部2dが形成されているが、これに限らず、いずれか一方の切刃部2dだけが設けられていてもよい。
【0043】
また、本発明の実施形態では、各凹条溝部2eの断面が略V字状をなしているが、これに限らず、湾曲形状であってもよい。
【0044】
また、本発明の実施形態では、各凹条溝部2eが傾斜形状をなしているが、傾斜形状であることが必須ではない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、スポット溶接用電極チップの先端部を切削するために用いるチップドレス用切削カッターに適している。
【符号の説明】
【0046】
1 切削カッター
2 切削プレート
2a すくい面部
2b 逃げ面部
2d 切刃部
2e 凹条溝部
5 回転ホルダ
10 チップドレッサ
11 電源チップ
11a 先端部
C1 回転軸心