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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】腐食抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/00 20060101AFI20220809BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20220809BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20220809BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220809BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220809BHJP
   C09D 129/14 20060101ALI20220809BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20220809BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20220809BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C23F11/00 C
C09D5/08
C09D7/62
C09D7/63
C09D7/65
C09D129/14
C09D133/00
C09D175/04
C09D201/00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019557867
(86)(22)【出願日】2018-04-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 GB2018051083
(87)【国際公開番号】W WO2018197869
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-20
(31)【優先権主張番号】1706574.9
(32)【優先日】2017-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519375011
【氏名又は名称】ヘキシゴン インヒビターズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HEXIGONE INHIBITORS LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100099612
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100064469
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100073450
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ドッズ
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-215574(JP,A)
【文献】特表2008-546910(JP,A)
【文献】特開平11-279452(JP,A)
【文献】特開2007-217732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00
C09D 5/08
C09D 7/62
C09D 7/63
C09D 7/65
C09D 129/14
C09D 133/00
C09D 175/04
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板を保護するのに適した皮膜に添加する微粒子腐食抑制剤であって、前記微粒子腐食抑制剤は、陽イオン交換樹脂中にある有機性の陽イオンから成り、有機性の陽イオンはベンザトリアゾール又はその誘導体であり、前記微粒子腐食抑制剤の微粒子のサイズが1 00ミクロン未満である微粒子腐食抑制剤。
【請求項4】
腐食抑制剤の微粒子のサイズが5ミクロン未満であり、及び/又は、陽イオン交換樹脂に 対する有機性の陽イオンの比率が陽イオン交換樹脂に対する有機性の陽イオンの重量によ って約10%である請求項1又は2による腐食抑制剤。
【請求項13】
金属基板に適した皮膜に添加する微粒子腐食抑制剤を製造する方法であって、溶液中の有機性の陽イオンを用意することによってベンザトリアゾール又はその誘導体である有機性陽イオンを陽イオン交換樹脂と組み合わせる工程と、前記陽イオン交換樹脂を前記溶液と組み合わせてビーズを形成する工程と、前記ビーズを乾燥する工程と、前記ビーズを更に小さい粒子に粉砕する工程とを含み、前記微粒子腐食抑制剤の微粒子のサイズが100ミ クロン未満である微粒子腐食抑制剤を製造する方法。
【請求項14】
前記有機性イオンが溶液へ有機性化合物を溶解することにより生成し、前記有機性化合 は、少なくとも2つのイオンに分離し、一方のイオンは、有機性陽イオンであり、前記溶液は、3より少ないpHを有する請求項13による方法、
【請求項15】
溶液中にベンザトリアゾールを提供し、前記ベンザトリアゾールを有機性陽イオンと陰イオンとに分離するために負に帯電された官能基を有する陽イオン交換樹脂と組み合わせ、前記有機性陽イオンと陽イオン交換樹脂が一体となって腐食抑制剤を形成し、前記腐食抑制剤がビーズに形成され、前記ビーズは溶液から濾過される腐食抑制剤製造方法であって、前記方法は、前記ビーズを乾燥する工程と、前記ビーズをより小さな粒子へ解体する工程を含み、前記有機性の陽イオンがベンザトリアゾール又はその誘導体であり、前記腐 食抑制剤の微粒子のサイズが100ミクロン未満である腐食抑制剤製造方法。
【請求項16】
前記陽イオン交換樹脂が有機性の陽イオン交換樹脂であり、陽イオン交換樹脂中に無機性の陽イオンを含む第2の腐食抑制剤を組み合わせる工程、及び/又は、微粒子の無機性陽イオン変性シリカを含む第2の腐食抑制剤と前記微粒子を混合する工程を含む請求項13 乃至15のいずれかによる方法。
【請求項17】
前記陽イオン交換樹脂がジビニルベンゼンであり、陽イオン交換樹脂中に無機性の陽イオ ンを含む第2の腐食抑制剤を組み合わせる工程、及び/又は、微粒子の無機性陽イオン変 性シリカを含む第2の腐食抑制剤と前記微粒子を混合する工程を含む請求項13乃至15 のいずれかによる方法。
【請求項18】
請求項1乃至のいずれかによる腐食抑制剤をポリマー結合材と組み合わせる工程を含む金属基板用被膜を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食抑制剤、及び金属、特に、排他的ではないが鋼に塗布するために提供される腐食抑制皮膜に関するものである。この腐食抑制ピグメントは、また、アルミニウム合金やマグネシウム合金を保護する。この腐食抑制剤は、特に、亜鉛引き鋼上の亜鉛又は亜鉛合金の如き犠牲(sacrificial)皮膜を保護し、一方、従って、この亜鉛引き鋼は、下層の鋼に付与される耐蝕性を改善する。
【背景技術】
【0002】
腐食抑制剤は、有機性皮膜内に分散される、僅かに可溶性を有する無機塩類パウダーの形態の腐食抑制(防蝕)ピグメントと称されることがあるが、鋼及び亜鉛引き鋼を含む広範囲の金属面を保護するために伝統的に使用されている。典型的な鋼コーティング(被膜)システムは、図1に示されており、鋼基板2と、(典型的には、亜鉛又は亜鉛合金を含む鋼基板、犠牲的に保護する)金属性皮膜4と、(腐食抑制剤を提供すると共に、金属性皮膜と有機性皮膜の間の接着性を改善する)変換皮膜6と、プライマー8と、(典型的には高分子皮膜を含んでいる)バリア10とから成っている。プライマーは、典型的には、ポリマーと、亜鉛又はクロム酸ストロンチウムの如き腐食抑制剤が混合された溶剤とから成っている。図2に示されるようなバリア材が破裂した場合には、亜鉛かクロム酸ストロンチウムに由来した腐食抑制剤のスペシーズは、プライマー2から浸出し、破断点付近で凝結保護層を形成し、それにより、下層の鋼基板2を保護する。これは、図2に表わされている。
【0003】
現在の耐食抑制剤は、亜鉛又はクロム酸ストロンチウムの如き僅かに可溶性のあるクロム塩を含んでおり、このクロム塩は、環境上許容できない程度の毒性を持っている。典型的には、僅かに可溶性のあるリン酸塩技術に基づいた他の環境上許容できる(Cr(vi)のない)抑制ピグメントが利用可能であるが、これらは、クロム酸塩相当物ほど常に有効ではない。その上、抑制剤スペシーズは、時間につれて次第に浸出して、皮膜バリア保護のロスを招き、腐食抑制スペシーズが要求される如き(所謂、「オン・デマンド」のリリースである)時点まで腐食抑制スペシーズを皮膜内に蓄えるのが一層望ましくなる。
【0004】
特開平11-250744号公報は、銅の表面上に置かれるフィルムに組み入れられるベンゾトリアゾール(BTA)の使用を記載している。銅又は銅合金材料は、それらの表面に薄い酸化銅の天然皮膜を有し、また、BTA分子は、銅又は銅合金材料の表面に強いBTAポリマーフィルムを形成するために酸化銅との共有結合部を形成している。このフィルムは、金属の表面に水と空気が進入するのを防ぐ別個の皮膜層である。しかし、この皮膜が破れると、フィルムは、どんな種類の化学反応によっても作用しないで腐食の発生を防止するが、その代わりに、残りのフィルム部分が腐食を加速する下側の金属表面に湿気を保持するように作用する。
【0005】
本発明は、腐食抑制剤、添加物、及び必要な場合(即ち、「スマートな」又は「オン・デマンドの」抑制剤である場合)皮膜から解放されることができ、また公知の抑制剤及び皮膜又はプライマーを担持する抑制剤よりも一層有効であり、且つ環境上受容される腐食抑制剤を含む皮膜を提供することにより、先行技術の問題を克服しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特開平11―250744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一面によれば、陽イオン交換樹脂中に有機性の陽イオンを含んでいる腐食抑制剤が提供される。
【0008】
この腐食抑制剤は、好ましくは、腐食抑制用ピグメントから成っているか、そのように称されている。
【0009】
また、本発明によれば、ポリマー結合材中に設けられ、陽イオン交換樹脂中の有機性の陽イオンを含む腐食抑制剤から成っている金属基板用の皮膜が提供される。
【0010】
この腐食抑制剤は、ポリマー結合剤と組み合わせられて基板に施すための皮膜を形成してもよい。
【0011】
この皮膜は、コーティングシステムの一部として金属基板に施してもよいが、他の材料又は添加物がこの皮膜に提供されてもよいし、及び/又は追加の皮膜層が基板に施されていてもよい。この皮膜は、プライマー(上塗り)と称される。
【0012】
有機性の陽イオンは、有機化合物の一般的な定義に適合するどの陽イオンでもよく、この陽イオンは、少なくとも炭素原子と水素原子とを含んでいる。陽イオン交換樹脂中の有機性の陽イオンは、環境的に受容されつつ腐食抵抗性を付与する改良された能力を有するスマートなリリース腐食抑制剤として作用する有益な特性がある腐食抑制剤を提供する。このような腐食抑制剤は、腐食性電解質を有する条件の下で陽イオン交換樹脂からの有機性の陽イオンを解離せしめることができ、一層の腐食を防ぐために脱プロトン化によって沈殿物又はバリア層を形成するためにプロトン化の形態のイオン(好ましくはベンゾトリアゾール)を隔離する。
【0013】
陽イオン交換樹脂中の有機性の陽イオンを含む腐食抑制剤の有益な腐食抑制特性の発見は、予期された既知の教示に反している。腐食の環境では、リリースされたイオンは、腐食プロセスの電子の損失による金属陽イオンであるのが一般的である。従って、金属陽イオンの存在に取り組み、且つ不溶解性の沈殿物を形成するために、予期されて教示された解決手段は、金属陽イオン又は金属表面と容易に結合する陰イオンを提供することである。しかし、本発明は、それに代えて、通常金属陽イオンを撃退し、従って、金属陽イオンに望ましい効果を有することがなく、かつ一層の腐食を防ぐ不溶性の沈殿物の形成に帰着することがない陽イオンを解放(リリース)することを教示する。
【0014】
しかし、有機性の陽イオンが解放(リリース)されると、腐食性環境によって脱プロトン化されて中性となり、また、環境がアルカリ性の場合、陰イオンの形態に再び脱プロトン化されると、金属陽イオンと反応して不溶性の沈殿物を形成することが解った。アンバーライト(AMBERLITE登録商標)の如き陽イオン交換樹脂中の有機性の陽イオンを使用すると、陽イオン交換樹脂が塩化物カウンターイオン(対イオン)を有しないので、製造工程は溶解物の無駄な流れがなくなる。陽イオンの樹脂を用いることによって、腐食抑制剤は、抑制剤が加えられる皮膜の硬化を促進することもできる。
【0015】
陽イオン交換樹脂中に有機性の陽イオンを含む腐食抑制剤に関連した一層の利益は、金属基板上の皮膜の硬化を改善する結果である。硬化の促進の結果、物理的特性が改善されることによって、この硬化工程が促進されることが解った。
【0016】
亜鉛引き鋼を保護する場合には、有機性の陽イオンが分離して亜鉛又は酸化亜鉛犠牲層に保護を付与する。これは、犠牲層の寿命を改善する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の1つの態様は、陽イオン交換樹脂中に有機性の陽イオンを含む第1の腐食抑制剤と無機性の変性シリカを含む第2の腐食抑制剤とから成り、基板上の耐蝕性を付与する皮膜に添加するための添加物にまで及ぶのが好ましい。有機性の陽イオンの変性シリカは、カルシウム陽イオン変性シリカであるのが好ましい。
【0018】
混合物として第1と第2との腐食抑制剤を提供することによって、この混合物が存在する皮膜の保護性能は、不溶性沈殿物が増加することを意味することが定められている。陽イオン交換樹脂中の陽イオンと無機性の陽イオン変性シリカとの間の相乗効果が達成される。
【0019】
第1と好ましくは第2との腐食抑制剤は、微粒子であるのが有益である。これは、皮膜内での分散によって基板に腐食からの保護を付与することができる。陽イオン交換樹脂中の有機性の陽イオンと無機性の陽イオン変性シリカとは、それぞれ微粒子の形態で供給され混合物として提供されるのが好ましい。この混合物は、好ましくは、陽イオン交換樹脂対無機性の平成シリカとの重量割合が、1:10と10:1との間であるのが有益な範囲である。
【0020】
有機性の陽イオンは、アゾール、オキシム又は疎水性のアミノ酸であるのが好ましく、アゾールは、少なくとも1つの窒素原子を含んでいる五員環によって特徴づけられた多数の合成物のうちのどれかであるのが特徴である。この有機性の陽イオンは、5メチルベンゾトリアゾールその他の如きベンゾトリアゾール(Benzotriazole)又はその誘導体であるのが好ましい。ベンザトリアゾールは、室温と室圧で粉末であり、ベンザトリアゾールをプロトン化すると、正に帯電されたベンザトリアゾールを提供するので、陽イオン交換樹脂に引きつけられて腐食抑制剤を形成する。ベンゼン環、ベンザトリアゾールを含む有機性陽イオンが有益であることが解った。(陽イオン及び陰イオンを含む)電解質が存在すると、陽イオンは、陽イオン交換樹脂によって隔離され、陽イオン交換樹脂は、プロトン化されたベンザトリアゾールを電解質に解放して脱プロント化し(これは、下のフィルムpHを中和する)、結局pHが7.2より上で陰イオンの形態に変わる。他の有益な効果は、ベンザトリアゾールが中性の形態であるとき、バリア層が金属面に形成することができることである。一端のアゾール基は、金属面と結合し、陽極の溶解で解放された金属イオンと結合する。吸着されたベンザトリアゾールは、金属陽イオンとベンザトリアゾール陰イオンのとの反応によって形成された沈殿物が、更なる腐食攻撃に対して表面をブロックする抑制フィルムを形成しつつ、電子移動反応を抑えると思われる。
【0021】
時には陽イオン交換ポリマーと称される陽イオン交換樹脂は、時にはビーズと称される複数の粒子から形成されるのが好ましい不溶解性のマトリックスである。これらのビーズは、0.5-1mmの直径を有していてもよい。このイオン交換樹脂は、イオン交換サイトを提供する。
【0022】
この陽イオン交換樹脂は、有機性の陽イオン交換樹脂であるのが好ましい。この有機性の陽イオン交換樹脂がスルホン化基の如き負に帯電された基(グループ)を備えたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体であってもよいことが意図される。この有機性の陽イオン交換樹脂は、有機性の陽イオンを吸引して腐食抑制剤を形成する有機性の陽イオン交換樹脂であるのが有益であることが解っている。
【0023】
ジビニルベンゼンは、スルホン化された官能基を有するスチレン・ジビニルベンゼン共重合体であることが好ましい。
【0024】
好ましくは、基板に施すために、1つ以上の腐食抑制剤から成る添加物がポリマー結合剤に含まれている。このポリマー結合剤は、腐食抑制剤(複数)を担持し、かつポリマー内でそれを結合するように作用する。このポリマーは、室温と室圧では液体であるのが有益である。腐食抑制剤(複数)は、室温と室圧で固体であるのが有益であり、ポリマー結合剤を介して分散される。ポリマー結合剤は、アクリル樹脂、ポリウレタン又はポリビニール・ブチラールの1つ以上から選択することができる。
【0025】
固体、好ましくは、ポリマー結合剤に組み入れられた微粒子の腐食抑制剤(複数)は、有機性の塗料、皮膜又はプライマーを形成する。その後、この塗料又は皮膜は、金属体、例えばシートの如き基板に塗布するのに用いられる。
【0026】
腐食抑制剤(複数)の微粒子のサイズは、皮膜の塗布に基づいて、好ましくは、100ミクロン未満、一層好ましくは、50ミクロン未満、好ましくは、20ミクロン未満、更に好ましくは、5ミクロン未満である。微粒子の腐食抑制剤は、好ましくは、ポリマー結合剤を介して分散される。
【0027】
陽イオン交換樹脂マトリックスに対する有機性の陽イオンの比率は、イオン交換樹脂マトリックスに対する有機性のイオンの約10重量%であることが意図される。適切な組成の一例は、抑制剤10g当り、脱イオン化水中の0.1乃至0.4M ベンザトリアゾール100mlである。
【0028】
本発明による皮膜は、陽イオン交換樹脂マトリックス中に有機性の陽イオンを含み、更に、相乗作用で働く陽イオン交換樹脂中の無機性の陽イオンを含む第2の腐食抑制剤を含んでいてもよい。これは、抑制用陽イオン貯蔵部を提供するために組込まれていてもよい。この利点は、皮膜が破れる位置で腐食が引き起こされる皮膜の欠陥を防ぐことである。この第2の腐食抑制剤は、陰極の剥離又は糸状腐食を防止することができる。
【0029】
適切な無機性の陽イオンは、水酸化物の陰イオン、例えば、コバルト、カルシウム、セリウム、亜鉛及びマグネシウムとで高度に不溶性の沈殿物を形成する陽イオンとすることができる。
【0030】
陽イオン交換樹脂は、例えば、スルホン化官能基を備えたジビニル・ベンゼン・マトリックスとすることができる。陽イオンを位置保持する負の電荷を維持するスルホン化基が有益である。
【0031】
本発明の他の態様によれば、陽イオン交換樹脂中の有機性の陽イオンを含む第1の腐食抑制剤と陽イオン交換樹脂中の無機性の陽イオンを含む第2の腐食抑制剤を含んで基板上に耐蝕性を付与する皮膜に添加する添加物又はピグメントとして定義されてもよい。
【0032】
これらの第1と第2の腐食抑制剤は、混合された、好ましくは、微粒子の形態であってもよい。これらは、ポリマー結合剤に、一緒に又は別々に添加して皮膜を生成してもよい。第2の腐食抑制剤の微粒子のサイズは、第1の腐食抑制剤のサイズと同じか同様であってもよい。
【0033】
また、本発明によれば、有機性陽イオンを陽イオン交換樹脂と組み合わせる工程を含む腐食抑制剤を製造する方法がある。
【0034】
有機性の陽イオンは溶液で提供されてもよい。また、この方法は、陽イオン交換樹脂を溶液と組み合わせる工程を更に含んでいてもよい。陽イオン交換樹脂は、固体の形態であるのが有益である。イオン交換の結果として複数の変性固体ビーズが形成される。有機性のイオンと陽イオン交換樹脂マトリックスとの組み合わせは、混合されるのが好ましい。
【0035】
この方法は、溶液からイオン交換樹脂ビーズをろ過する工程を更に含んでいるのが好ましい。この方法は、ビーズを乾燥する工程を含んでいるのが好ましい。ビーズは、熱処理されるのが好ましい。
【0036】
この方法は、ビーズを解体してより小さな粒子とする工程を含むのが好ましく、この工程は、粉ひきの如き種々の機械的方法によって達成することができる。ビーズを機械的に解体することによってパウダーが生成されるのが有益である。
【0037】
有機性の陽イオンは、幾つかの異なる技術によって生産することができる。有機性の陽イオンは、有機化合物を溶液に溶かすことにより生産されてもよく、この有機化合物は、少なくとも2つのイオンに分離することができ、一方のイオンは、有機性の陽イオンであり、溶液は、3未満のpHを有する。3未満のpHが好ましい。溶液のpHの減少は、溶液にリン酸の如き酸性材料を添加することにより達成することができる。
【0038】
それに代わる工程では、有機化合物は、溶液で用意され、この有機性化合物を有機性の陽イオンと陰イオンとに分離するために負に帯電された官能基を有する陽イオン交換樹脂と組み合わせられ、有機性の陽イオンと陽イオン交換樹脂とが一緒になって腐食抑制剤を形成する。この溶液は、水又は水溶剤混合物であってもよい。この方法は、溶液を加熱する工程を更に含んでいるのが好ましい。有機化合物を溶解する結果形成された有機性の陽イオンは、負に帯電された官能基の出現によって陽イオン交換樹脂に入るが、この官能基は、例えば、スルホン酸官能基である。従って、これは、スルホン化官能基を提供する。
【0039】
有機性の陽イオンは、アゾールであるのが好ましく、ベンザトリアゾールを含んでいるのが好ましい。このイオン交換樹脂マトリックスは、有機性の陽イオン交換樹脂マトリックスであるのが好ましく、ジビニルベンゼン/スチレン共重合体が好適である。
【0040】
この方法は、更に、無機性陽イオンを陽イオン交換樹脂と組み合わせることにより形成された第2の腐食抑制剤を組み合わせて皮膜とする工程を含んでいてもよい。
【0041】
この方法は、陽イオン交換樹脂中の有機性の陽イオンから成る微粒子状の第1の腐食抑制剤を微粒子状の無機性の陽イオン変性シリカと混合して皮膜用の添加物を形成する工程を含んでいてもよい。
【0042】
以下の図面を参照して本発明の実施例を例示的にのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、典型的な金属基板と被覆層(複数)との概略分解図を示す。
図2図2は、被膜層(複数)の破損が金属基板に達した場合の腐食抑制剤の作用を示す。
図3図3は、皮膜に含まれる抑制剤のない皮膜を施した金属基板の腐食の進行が、(i)開始後240分であり、その後(ii)の780分までの60分のライン毎であり、腐食抑制がされていないシステムとクロム酸ストロンチュウム腐食抑制システムについて欠陥部からの距離対時間が示されている。
図4図4は、陽イオン交換樹脂中のベンザトリアゾールの0.1PVFを装填した溶融亜鉛メッキ鋼(HDG)の表面上の被覆の層間剥離を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、排他的ではないが、特に、亜鉛引き鋼を腐食から保護するのに応用するスマートリリース腐食抑制剤を提供するために開発された。この腐食抑制剤は、室温と室圧とで液体の形態で金属表面にプライマーとして施されるのが通常であり、有機性のイオン、好ましくはアゾール、一層好ましくは、ベンゼトリアノゾレイト(benzotriazolate)(BTA)を含んでいる。これは、イオン交換マトリックスに添加される。1つの実施例におけるイオン交換樹脂マトリックスは、化学式1で示されるようなスルホン酸塩官能基を備えたジビニルベンゼン共重合体である。3つの窒素原子を備えたベンゼン環は、ベンザトリアゾレートで、余分な水素陽イオンにより正に帯電されている。イオン交換樹脂マトリックスは、残りの成分であり、負に帯電されているのが示されている。
【0045】
【化1】
【0046】
腐食抑制剤の構造は、正に帯電された腐食電解質イオンが存在するまで、プロトン化されたベンザトリアゾール(benzotriazole)の腐食抑制陽イオンを位置保持するために負電荷を有するスルホン化基を備えたイオン交換樹脂の反復ユニットから成っている。
【0047】
典型的な実施例による腐食抑制剤を作るため、ベンザトリアゾールは0.25Mのモル濃度で水に溶解される。この溶液は、ベンザトリアゾールを溶解するために加熱することができ、又はそのpHは、酸を用いて調節される。ベンザトリアゾールの実験による適切な量は、水1リットル当たり29.78gである。室温であってもよいが、ある量の溶液が得られ、又はこの溶液は、例えば、40℃まで加熱することができる。また、スルホン化官能基を備えたジビニルベンゼン共重合体がこの溶液に添加される。例えば、10gのジビニルベンゼン共重合体を添加してベンザトリアゾールを含む100mlの溶液とする。この混合物は、典型的には、1時間撹拌され、ビーズが形成されるように放置して沈殿する。一旦ビーズが沈殿すると、上澄みの溶液はデカントされ、交換体の原重量の10gに対して100mlの比率で0.25Mより高いベンザトリアゾール溶液と交換される。これはより多くのイオン交換を促進する。頂部の溶液を、更なる時間、典型的には1時間撹拌し、更なる沈殿の期間後に残された上澄みもデカントされ、更なる溶液と交換される。マトリックス内でBTAが飽和するのを確保するために、頂部の溶液を、例えば、4時間、更に撹拌する。その結果得られたビーズは、ろ過されて脱イオン化された水で洗われる。このプロセスによれば、BTAを備えたジビニルベンゼン共重合体の塩素陰イオンの交換が最大となるのが確保される。
【0048】
腐食抑制剤用の他のプロセスルートは、イオン交換カラムプロセスを介してベンザトリアゾール溶液を流すことである。樹脂ビーズは、カラム内で静止しており、腐食抑制剤の溶液は、カラム内を流れ、ビーズは、溶液から腐食抑制剤をピックアップする。これらのビーズは、カラムから取り除かれて、以下の方法を用いて処理される。
【0049】
ビーズは、ジビニル・ベンゼン・マトリックス内にBTAを含んでいる。その後、ビーズは、ある期間乾燥されるが、それは、40℃で、夜間中であり、次いで、(典型的には、1時間)ボールミルで砕いてプライマー被膜の如き被膜に添加することができるパウダーの形態を得る。このようにして形成されるパウダー材料は、1-30%W/Wの範囲でプライマーに添加してもよい。
【0050】
ポリマー結合剤内の任意の第2の腐食抑制剤を提供する陽イオン交換樹脂中の無機性の陽イオンは、相乗的に作用するので有益である。この第2の腐食抑制剤は、次の典型的な手順によって達成することができる。陽イオン交換樹脂ビーズ(例えばアンバーライト(Amberlite(登録商標))又はダウエックスDowex(登録商標))を1moldm-3の関連する金属塩化物の水溶液に分散し、その結果生成した懸濁液を2時間撹拌した。その後、この懸濁液を夜通し放置して沈殿し、上澄み液をデカントした。硝酸銀水溶液試験によって上澄み液に塩化物イオンを検知することができなくなるまで、新鮮な蒸留水の中で遠心分離と再分散との繰り返しのサイクルによって樹脂ビーズを徹底的に洗浄した。陽イオン交換樹脂に陽イオンを添加するためにイオン交換カラム内に無機性の陽イオン溶液を用いることができる。
【0051】
最後に、この樹脂ビーズを40℃で空気中にて乾燥し、遊星ミルで砕いて直径が5ミクロン未満の粒子サイズを付与するか、ジェトミルで粉砕して5ミクロンのd50を付与する。その後、第2の腐食抑制剤をポリマー結合剤と第1の腐食抑制剤に組み込んでもよい。
【0052】
この腐食抑制剤は、無機性の陽イオン変性シリカ、好ましくは、カルシウム陽イオン変性シリカ(その一例は、商標シールデックス(Shieldex)(登録商標)名で販売されている)と混合することができる。陽イオン交換樹脂中の有機性の陽イオンは、好ましくは、微粒子状の無機性陽イオン変性シリカと混合されるが、この混合は、微粒子の形態に破断される前に行ってもよいことは認識されることであろう。
【0053】
フィルムの下を腐食から保護するために、上塗りが施された熱浸漬亜鉛メッキ(HDG)が施された鋼上に多層システムでプライマーを用いてもよい。ベンザトリアゾレートが腐食電解質に接触すると、ベンザトリアゾレートが解放され、その後、このベンザトリアゾレートが電解質イオンを隔離する。典型的には、プライマーは、亜鉛又は亜鉛合金の表面上に使用され、亜鉛表面上に付着することにより保護層を形成する。腐食があると、有機性の交換マトリックスは、腐食の結果形成されたイオンを隔離し、また、マトリックスに活性剤を有することによって、ベンゾトリアゾールの解放がゆっくりとなる。
【0054】
一連の被膜は、イオン交換樹脂マトリックス中にベンザトリアゾールから形成された腐食抑制剤の種々の体積部分を分散させることにより用意され、次いでポリビニール・ブチラール結合剤に混合される。その後、この混合物は、HDG鋼に施され、インサイチュ走査ケルヴィン(in situ scanning Kelvin)探針を用いて陰極の層間剥離による腐食抑制駆動された被膜の不良において混合物の効率を評価した。存在するNa+及び他の陽イオンが被膜内で隔離され、欠陥電解質に解放される際に、ベンザトリアゾールを解放して局部的なpHによって脱プロトン化する。脱プロトン化されたベンザトリアゾールは、中性のままとし、または、まわりのpHがほぼpH6より高い場合に、中性の脱プロトン化されたベンゾトリアゾールを再び脱プロント化して、Zn2+―(Zn(BTA))を有する沈殿物を形成するように反応することができるベンザトリアロザート(benzatrialozate)陰イオンを形成することができる。従って、不溶性の沈殿物が形成されて、界面電子移行をブロックする。他の効果は、ベンザトリアゾールが本来疎水性であり、一層で金属面に結合し、他のベンザトリアゾール分子を引きつけて電解質と酸素とに障壁を形成することである。
【0055】
上記した正常な腐食条件の下では、有機性の陽イオン(ベンゾトリアロザーテ)は,陽イオン交換樹脂から交換して金属陽イオンと反応して合成物を形成し、金属の表面で腐食プロセスの自由イオンと反応する。無機性の陽イオン変性シリカの効果は、無機性の陽イオン変性シリカ(カルシウム)との反応が生じて不溶性の沈殿物を形成する第3の可能性を提供することである。この第3のルートによって形成される沈殿物は、不溶性が高く、更なる腐食に対する障壁を強くする。
【0056】
図3は、皮膜に抑制剤がなく上塗りを施した金属基板の腐食の進行が、(i)開始後240分で、その後、各ラインの60分毎で(ii)780分までであるのを示す。これは、皮膜の下での腐食が進行する場合の時間に対する腐食の進行を示し、780分後に、非プロトン化皮膜に対して12mmの腐食があることを示す。上方のラインは、皮膜の完全な測定のポテンシャルwp示し、下方のラインは、60分間隔での腐食の正面を表す結合ラインを有する皮膜の層間分離のポテンシャルを示す。非抑制システムとクロム酸ストロンチュウム抑制システムとに対する欠陥部からの距離対時間が挿入されており、これは、伝統的なクロム酸ストロンチウムは、腐食抑制剤として使用する場合の相対的な有効性を示している。
【0057】
図4は、熱浸漬亜鉛メッキ鋼(HDG)の表面の皮膜の層間剥離を示し、陽イオン交換樹脂中に0.1PVFのベンザトリアゾールを装填している。この表現は、欠陥サイトでは欠陥の最初の進行が1mmの距離であってその後欠陥の進行がないことを示す図4のグラフと直接比較することができる。従って、本発明の典型的な実施例による腐食抑制剤が存在すると、高度の腐食防止システムを提供することによって以後の欠陥進行が停止される。これは、付加的な欠陥の進行がないことを示す1800分までの多層に覆われたプロットの存在によって更に示されている。
【0058】
本発明は例示的にのみ記載され、また、添付の特許請求の範囲によって与えられる保護の範囲を逸脱することなく、種々の変形、修正をなすことができることは、当業者によって理解されることと思う。
図1
図2
図3
図4