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  • 特許-海洋生物の付着防止可能な構造物 図1
  • 特許-海洋生物の付着防止可能な構造物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】海洋生物の付着防止可能な構造物
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/04 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
C22C9/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022068904
(22)【出願日】2022-04-19
【審査請求日】2022-05-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501307273
【氏名又は名称】嶋田金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 寛子
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-19499(JP,A)
【文献】特開平2-274828(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2196333(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C9/04
B32B15/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水との接触面に、質量%で、Cu:63.0%以上67.0%以下、Pb:0又は0を超え0.03%以下、Fe:0又は0を超え0.25%以下、Mn:0又は0を超え0.50%以下、Ni:8.5%以上11.0%以下を含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる洋白の層が形成されたことを特徴とする海洋生物の付着防止可能な構造物。
【請求項2】
海中で使用され、又は、海水に接触可能な状態で使用され、質量%で、Cu:63.0%以上67.0%以下、Pb:0又は0を超え0.03%以下、Fe:0又は0を超え0.25%以下、Mn:0又は0を超え0.50%以下、Ni:8.5%以上11.0%以下を含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる洋白で構成されたことを特徴とする海洋生物の付着防止可能な構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中の貝類や藻類等の生物(即ち、海洋生物)の付着が防止可能な構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントや化学プラントなどでは、海水を冷却水として使用するため、海中に配管等を浸漬させて取水している。この配管等には、海中の貝類や藻類等の生物が付着するため、これら海洋生物の除去作業を定期的に行っており、多大な労力と費用を費やしている。
海水に接する建築物や船舶外殻(船殻)、及び、配管、更には海上構造体も同様であり、特に貝の付着を防止する目的でこれらの構造物に塗料を塗っている場合には、塗料が海中に放出され、年間を通じて金属の原物質が自然界に大量に放たれることになるため、海水環境に悪影響を及ぼす可能性がある。また、その塗料を新たに塗り直す場合、現在塗布されている塗料を人手で剥がした後に新たに塗り直す必要があり、剥離作業の際に発生する粉塵による健康被害が生じるおそれがある。
【0003】
現在、海水を冷却水として使用する熱交換器の管板の材料には、腐食の防止を目的として、アルミニウム黄銅、チタン、ステンレス鋼を使用している(例えば、特許文献1参照)。
しかし、これらの材料は海洋生物の付着を防止する機能を有しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-138093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、海中の貝類や藻類等の生物の付着を、従来よりも抑制、更には防止することができ、これにより、付着生物の除去に伴う労力や費用を低減でき、また、海水環境等への悪影響を防止できる、海洋生物の付着防止可能な構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、海中及び海水の影響が及ぶ範囲での使用に適した金属材料、即ち、貝類や藻類等の生物の付着を従来よりも抑制、更には防止できる金属材料を見出すため、種々の実験を実際に行った。
その結果、上記した金属材料として後述する化学組成の洋白に想到した。
この洋白は、優れた強度とばね特性から水晶発振子ケースやトランジスタキャップ、ボリウム(ボリューム)用摺動片、時計文字盤等の電子機器用材料に用いられ、また、光沢の美しさと耐食性から装飾品、洋食器、管楽器等にも広く用いられている。
つまり、本発明者らは、海洋生物の付着を防止でき、海中及び海水の影響が及ぶ範囲での使用に適するという洋白の新たな用途を見出した。
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係る海洋生物の付着防止可能な構造物は、海水との接触面に、質量%で、Cu:63.0%以上67.0%以下、Pb:0又は0を超え0.03%以下、Fe:0又は0を超え0.25%以下、Mn:0又は0を超え0.50%以下、Ni:8.5%以上11.0%以下を含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる洋白の層が形成されている。
【0008】
前記目的に沿う第2の発明に係る海洋生物の付着防止可能な構造物は、海中で使用され、又は、海水に接触可能な状態で使用され、質量%で、Cu:63.0%以上67.0%以下、Pb:0又は0を超え0.03%以下、Fe:0又は0を超え0.25%以下、Mn:0又は0を超え0.50%以下、Ni:8.5%以上11.0%以下を含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる洋白で構成されている。
【0009】
上記した洋白は、Cu-Ni-Zn系の合金であり、JIS H3110(2018年)に規定する合金番号C7451に相当する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る海洋生物の付着防止可能な構造物は、構造物の海水との接触面に、上記した化学組成の洋白の層を形成することにより、又は、海中で使用する構造物や海水に接触可能な状態で使用する構造物そのものを、上記した化学組成の洋白で構成することにより、海中の貝類や藻類等の生物の付着を、従来よりも抑制、更には防止することができる。
これにより、従来よりもメンテナンス作業を行う頻度を低減できるため、付着生物の除去に伴う労力や費用を低減でき、また、生物の付着防止のための塗料の不使用による海水環境等への悪影響を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】海中へ浸漬した実施例に係る試験片と比較例に係る試験片への貝の付着状況を示す写真である。
図2】従来例に係る試験片の海中への浸漬前と浸漬後の貝の付着状況を示す写真である。
図3】従来例に係る試験片の海中への浸漬後の貝の付着状況を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る海洋生物の付着防止可能な構造物は、従来よりも貝類や藻類等の海洋生物の付着を抑制、更には防止可能であり、海中及び海水の影響が及ぶ範囲での使用に適したものである。
以下、詳しく説明する。
【0013】
構造物は、海中及び海水の影響により、海中の貝類や藻類等の生物が付着するもの、あるいは、付着するおそれがあるものである。具体的には、発電プラント(継手(フランジやエルボ)、配管、線材等の構成部品)や化学プラント、船舶の構成部品(船底、スクリュー、舵等)、海上構造体(洋上風力発電設備)等がある。
この構造物の海水との接触面には、洋白の層(洋白層)が形成されている。洋白層は、対象物の海水との接触面に、例えば、電気めっきや溶融めっき等を用いて洋白をめっきしたり、溶射等を用いて洋白を被覆したり、また、洋白を薄板材(厚さが4mm以下程度)に加工して貼り付けたりすることで、形成できる。
また、構造物自体(そのもの)を、洋白で構成(構造物を洋白を用いて加工や鋳造等で成形等)することもできる。
【0014】
洋白は、質量%で、Cu(銅):63.0%以上67.0%以下、Pb(鉛):0又は0を超え0.03%以下、Fe(鉄):0又は0を超え0.25%以下、Mn(マンガン):0又は0を超え0.50%以下、Ni(ニッケル):8.5%以上11.0%以下を含み、残部がZn(亜鉛)及び不可避的不純物からなるCu-Ni-Zn系の合金であり、例えば、JIS H3110(2018年)に規定する合金番号C7451に相当する合金である。
この洋白は、柔軟性と屈曲加工性に富み、耐食性にも比較的優れており、引張り強さ等の機械的性質においては黄銅より優れている。一般には、Niが増すほどばね性が、Znが増すほど強度が、Cuが増すほど展延性が上がる。また、一般的な金属と同様に導体である。
本発明者らは、種々の実験を実際に行った結果、上記した洋白が更に、海洋生物の付着を抑制、更には防止する機能を有することを新たに見出した。
【実施例
【0015】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
(試験1)
実施例と比較例の試験片を海中に浸漬し、貝の付着状況を確認した結果について、図1を参照しながら説明する。
ここでは、4種類の試験片を海水の状況が異なるA港とB港で海水に浸漬して実験を行った。なお、試験片には、実施例として前記した合金番号C7451の洋白(図1の上図の左端と図1の下図)を、比較例として、黄銅鋳物(JIS H5120(2016年)に規定する黄銅鋳物1種(合金記号CAC201):図1の上図の左から2番目と3番目)と合金番号C7701の洋白(図1の上図の右端)を、それぞれ使用した。この合金番号C7701の洋白は、JIS H3130(2018年)に規定される合金であり、質量%で、Cu:54.0%以上58.0%以下、Pb:0又は0を超え0.03%以下、Fe:0又は0を超え0.25%以下、Mn:0又は0を超え0.50%以下、Ni:16.5%以上19.5%以下を含み、残部がZn(亜鉛)及び不可避的不純物からなり、実施例として使用した合金番号C7451の洋白と比較して、Cuの含有量が少なく、Niの含有量が多い合金(ばね用洋白)である。
【0016】
図1の上図に示すように、実施例の試験片には、浸漬から2年経過後も貝類の付着が確認されなかったが、比較例の試験片である黄銅鋳物と合金番号C7701の洋白には、土、藻類、及び、フジツボの付着が確認された。
なお、実施例の試験片は、図1の下図に示すように、異なる海水に浸漬させた場合も同様に、浸漬から2年経過後も貝類の付着が確認されなかった。
このように、実施例の試験片は、比較例の試験片と比較して、海中の貝類や藻類等の生物の付着を抑制、更には防止できており、特に同じ洋白でも、実施例である合金番号C7451の洋白を使用することで、比較例である合金番号C7701の洋白と比較して、海洋生物の付着防止について非常に良好な結果が得られることが分かった。
【0017】
(試験2)
従来から海水が接触する環境下で使用されている金属材料を海中に浸漬し、貝の付着スピードを確認した結果について、図2図3を参照しながら説明する。
ここでは、5種類の試験片をA港で海水に浸漬して実験を行った。なお、試験片は、銅製のもの(図2の浸漬開始前と18日経過後の左端、図3の上図の左端)と、一般的な4種類の黄銅系の材料で構成されたもの(図2の上図と下図、図3の上図の左端以外)である。
図2の上図に示す状態で、5種類の試験片を海水に浸漬させたところ、海水温の低い冬の時期にも関わらず、図2の下図に示すように、18日経過後には貝類の付着が発生していた。更に、図3の上図に示すように、2ヶ月経過後には全ての試験片に貝類の更なる付着が確認された。なお、図3の中図と下図は、上図中の黄銅系の材料で構成された試験片の拡大写真である。
【0018】
従って、本発明の海洋生物の付着防止可能な構造物により、海中の貝類や藻類等の生物の付着を、従来よりも抑制、更には防止することができることを確認できた。
【0019】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の海洋生物の付着防止可能な構造物を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
前記実施の形態においては、構造物の一例として、発電プラントや化学プラント、船舶の構成部品、海上構造体を挙げたが、海中で使用され、又は、海水に接触可能な状態で使用されるものであれば、特に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明に係る海洋生物の付着防止可能な構造物は、海中の貝類や藻類等の生物の付着を、従来よりも抑制、更には防止することができる。これにより、付着生物の除去に伴う労力や費用を低減でき、また、生物の付着防止のための塗料の不使用による海水環境等への悪影響を防止できる。
【要約】
【課題】海中の貝類や藻類等の生物の付着を、従来よりも抑制、更には防止することができ、これにより、付着生物の除去に伴う労力や費用を低減でき、また、海水環境等への悪影響を防止できる、海洋生物の付着防止可能な構造物を提供する。
【解決手段】本発明に係る海洋生物の付着防止可能な構造物は、海中で使用され、又は、海水に接触可能な状態で使用され、質量%で、Cu:63.0%以上67.0%以下、Pb:0又は0を超え0.03%以下、Fe:0又は0を超え0.25%以下、Mn:0又は0を超え0.50%以下、Ni:8.5%以上11.0%以下を含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる洋白で構成されている。また、構造物の海水との接触面に、上記した成分の洋白からなる層が形成されてもよい。
【選択図】図1
図1
図2
図3