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  • 特許-木質床構造 図1
  • 特許-木質床構造 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】木質床構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/43 20060101AFI20220809BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20220809BHJP
   E04B 1/98 20060101ALI20220809BHJP
   E04F 15/18 20060101ALI20220809BHJP
   E04F 15/20 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
E04B5/43 Z
E04B1/94 E
E04B1/98 C
E04F15/18 601B
E04F15/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018026412
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2019143311
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】梅野 圭介
(72)【発明者】
【氏名】花井 厚周
(72)【発明者】
【氏名】飯田 智裕
(72)【発明者】
【氏名】田口 裕子
(72)【発明者】
【氏名】島田 潤
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-309708(JP,A)
【文献】特開2011-112860(JP,A)
【文献】特開平05-148947(JP,A)
【文献】特開2001-020433(JP,A)
【文献】特開2007-205152(JP,A)
【文献】特開2000-110340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00 - 1/99
E04F 15/18
E04B 5/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブを形成する木製床版と、
前記木製床版の上面に載置され、水分を担持してゲル状とされた保水材と、
前記木製床版に載置された束材に支持された床材と、
を有する木質床構造。
【請求項2】
前記保水材は前記木製床版の上面を覆うように配置されている、請求項1に記載の木質床構造。
【請求項3】
前記保水材は容器に封入された状態で前記木製床版の上面に敷き詰められている、請求項1又は請求項2に記載の木質床構造。
【請求項4】
木製床版と、
前記木製床版の上面に載置され、水分を担持してゲル状とされた保水材と、
前記木製床版に載置された束材に支持された床材と、
を有し、
前記保水材は容器に封入された状態で前記木製床版の上面に敷き詰められ、
前記容器は、水の沸点以下の温度で融解する素材によって形成されている、木質床構造。
【請求項5】
木製床版と、
前記木製床版の上面に載置され、水分を担持してゲル状とされた保水材と、
前記木製床版に載置された束材に支持された床材と、
を有し、
前記保水材は容器に封入された状態で前記木製床版の上面に敷き詰められ、
前記容器は、水を通さず蒸気を通す素材によって形成されている、木質床構造。
【請求項6】
記保水材が単位体積あたりに担持できる水分量は、コンクリートより多い、
請求項1~5の何れか1項に記載の木質床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、CLT(Cross Laminated Timber)を用いて床板を形成した住宅構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-53187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のようにCLT等の木質材料を床板として用いる場合、コンクリートを用いる場合と比較して軽量であるが上階から下階へ重量衝撃音が伝播し易い。また、木質材料はコンクリートより燃え易いため、火災が発生した際には、延焼が拡大する蓋然性が高くなる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮して、重量衝撃音の伝播を抑制し、耐火性能を得ることができる木質床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の木質床構造は、スラブを形成する木製床版と、前記木製床版の上面に載置され、水分を担持してゲル状とされた保水材と、前記木製床版に載置された束材に支持された床材と、を有する。
【0007】
請求項1の木質床構造では、木製床版の上面に、水分を担持した保水材が載置されている。これにより木製床版の重量を増し木製床版の固有振動数を変化させる。これにより木製床版の共振現象による重量衝撃音の増幅を抑制できる。また、床材上で火災が発生した際には、保水材に担持された水分が蒸発し、気化熱を奪うことで火勢を弱くすると共に木製床版の温度上昇を抑制できる。このため木製床版の耐火性能が向上する。
【0008】
請求項2の木質床構造は、前記保水材は前記木製床版の上面を覆うように配置されている。
【0009】
請求項2の木質床構造では、保水材が、木製床版の上面を覆うように配置されている。これにより木製床版の上部に保水材による保水層が形成される。このため、例えば保水材が木製床版の上面に離散的に配置されている場合と比較して、耐火性能が高くなる。
【0010】
請求項3の木質床構造は、前記保水材は容器に封入された状態で前記木製床版の上面に敷き詰められている。
【0011】
請求項3の木質床構造では、保水材が容器に封入されている。このため、容器に水を注入しない状態で敷き詰めることができる。水を注入するまでは保水材は軽量なので敷き詰め作業が容易である。
請求項4の木質床構造は、木製床版と、前記木製床版の上面に載置され、水分を担持してゲル状とされた保水材と、前記木製床版に載置された束材に支持された床材と、を有し、前記保水材は容器に封入された状態で前記木製床版の上面に敷き詰められ、前記容器は、水の沸点以下の温度で融解する素材によって形成されている。
請求項5の木質床構造は、木製床版と、前記木製床版の上面に載置され、水分を担持してゲル状とされた保水材と、前記木製床版に載置された束材に支持された床材と、を有し、前記保水材は容器に封入された状態で前記木製床版の上面に敷き詰められ、前記容器は、水を通さず蒸気を通す素材によって形成されている。
請求項6の木質床構造は、前記保水材が単位体積あたりに担持できる水分量は、コンクリートより多い。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る木質床構造は、重量衝撃音の伝播を抑制し、耐火性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(A)は本発明の実施形態に係る木質床構造を示す断面図であり、(B)は保水袋が敷き詰められた状態を示す平面図であり、(C)は保水袋が千鳥状に敷き詰められた状態を示す平面図である。
図2】(A)は本発明の実施形態に係る木質床構造において、乾燥状態の保水材が入れられた袋体を木製床版の上面に敷設した状態を示す断面図であり、(B)は保水材をトレー状の容器に配置した変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(木質床構造)
本発明の実施形態に係る木質床構造は、図1(A)に示す木製床版20における重量衝撃音の伝播を抑制し、かつ耐火性能を高めるための床構造である。木質床構造は、木製床版20と、木製床版20の上面に載置され、水分を担持した保水材32と、木製床版20に載置された束材40に支持された床材50と、を備えている。
【0015】
木製床版20は、CLTを用いて形成されている。木製床版20には所定の間隔で束材40が配置され、束材40の上には下地材52を介してフローリング材54が敷設されている。なお、下地材52とフローリング材54とを組合わせて、床材50と称するものとする。フローリング材54としては、木材、木材と樹脂等の複合材、タイルカーペットなど、任意の素材を適宜採用できる。
【0016】
保水材32は、高吸水性高分子材料(例えばセルロース系高分子材料)によって形成され、非保水状態では粉状又は繊維状であり吸水することで膨張して粘性を持ったゲル状に変化する。図1(A)に示すように、保水材32は非透水性の袋体34に、吸水状態で封入されて木製床版20の上面に敷き詰められている。袋体34は、熱せれられることにより融解する。具体的には、袋体34は、水の沸点以下の温度で融解する素材によって形成されている。これにより、火災時などに袋体が炎に晒された場合、袋体34が融解して、保水材32に担持された水分が蒸発できる。なお、保水材32と袋体34とを組合わせて、保水袋30と称するものとする。袋体34は、本発明における容器の一例である。
【0017】
保水袋30は、束材40と密着して配置されている。すなわち、束材40は2つの保水袋30によって挟み込まれるようにして配置されている。図1(B)に示すように、束材40を挟み込んでいる部分以外の部分においては、隣接する保水袋30同士は密着して配置されている。なお、保水袋30は図1(B)に示すように2方向に整列させて配置してもよいし、図1(C)に示すように千鳥状に配置してもよい。このようにすることで、木製床版20の上部に、保水材32による耐火被覆層が形成される。
【0018】
保水袋30を施工する際には、まず図2(A)に示すように、非保水状態(乾燥状態)の保水材32を入れた袋体34を、束材40の間へ配置する。袋体34には図示しない給水口が設けられており、当該給水口へホースの先端を差し込んで水を供給する。これにより粉状の保水材32が水を吸水して膨張し、図1(A)に示すように袋体34の内部に密実に充填される。水を含んだ保水材32はゲル状とされているため、保水袋30は束材40の形状に沿って変形する。
【0019】
(作用・効果)
本発明の実施形態に係る木質床構造によると、木製床版20の上面に、水分を担持した保水材32が封入された保水袋30が載置されている。保水袋30は、隣り合う保水袋30と密着するようにして敷き詰められている。これにより木製床版20で形成されるスラブの重量を増し木製床版の固有振動数を変化させる。これにより木製床版20の共振現象による重量衝撃音の増幅を抑制できる。
【0020】
また、束材40は保水袋30によって挟み込まれている。保水袋30にはゲル状の保水材が充填されているため、保水袋30は束材40に沿って変形し、束材40に密着する。このため束材40の振動が抑制され、安定して床材50を支持できる。
【0021】
また、木製床版20は保水材32に被覆されている。これにより床材50の上部空間で火災が発生した際に、木製床版20が直接炎に煽られることが抑制される。また、保水材32に担持された水分が蒸発し、気化熱を奪うことで火勢を弱くすると共に木製床版20の温度上昇を抑制できる。このため木製床版20の耐火性能が向上する。
【0022】
また、本実施形態においては、保水材32が袋体34に封入されている。このため、袋体34に水を注入しない状態で木製床版20の上面に敷き詰めることができる。水を注入するまでは保水材32は軽量なので敷き詰め作業が容易である。また、工場から施工現場への運搬も容易である。
【0023】
また、保水材32は、水をかけるだけで粉状からゲル状に変化し、水分を担持する。このため、例えば木製床版20の上部にコンクリートを打設して耐火被覆を形成する場合と比較して、施工が容易である。さらに、保水材32の吸水反応は、コンクリートの硬化反応より所要時間が短い。このため施工期間を短縮できる。
【0024】
さらに、同体積あたりに担持できる水分量は、コンクリートと比較して保水材32のほうが多い。このため、耐火被覆層として必要な厚みを薄くできる。これにより例えば階高を小さくして、建材の使用量を低減できる。
【0025】
また、保水材32はゲル状とされているため、粘性の低い液体を用いる場合と比較して、地震時に液体が大きく揺れるスロッシング現象を抑制することができる。
【0026】
なお、本実施形態において保水袋30は束材40と密着して配置し、隣接する保水袋30同士も密着して配置しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば保水袋30は束材40と密着させなくてもよいし、保水袋30同士も密着させなくてもよい。これらを密着させなくても木製床版20で形成されるスラブの重量が大きくなるため、重量衝撃音の低減効果を得ることができる。また、木製床版20の耐火性能も向上する。
【0027】
また、本実施形態においては袋体34に予め保水材32を入れておき、施工現場で水を供給するものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば袋体34は、中身が空の状態で木製床版20の上に敷き詰め、水を担持した状態の保水材32をフレキシブルホースなどで注入してもよい。このようにすることで、水の注入量に偏りが生じることを抑制できる。このため保水材32の保水量を安定させることができる。
【0028】
また、本実施形態においては、袋体34を、水の沸点以下の温度で融解する素材によって形成したが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、水を通さず蒸気を通す素材であれば、融解する必要はない。水を通さず蒸気を通す素材としては、微細孔が形成された通気性フィルム等を用いることができる。又は、保水材32の水分が蒸発して袋体34の内部の圧力が大きくなった際に、部分的に破断して蒸気が抜ける機構を備えた素材を用いてもよい。
【0029】
また、本実施形態においては、保水材32は袋体34の内部に封入されているものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。保水材32は、例えば図2(B)に示すようなトレー状の容器36に配置してもよい。このように上部が開放した容器36を用いると、施工現場における水の供給が容易である。なお、常温で水分が蒸発する材料を保水材32として用いる場合、保水材32に水を吸水させたあと、容器36に非透水性の蓋を被せることが好適である。
【0030】
このように、本発明における「木製床版の上面を覆うように配置されている」状態とは、木製床版20の全面を覆う状態だけではなく、保水材32を収容する容器の形状によっては、部分的に覆わない部分を備えている状態を含む。
【0031】
また、本実施形態において、保水材32は木製床版20の上面のみに敷設されるものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば図1に示す木製床版20の最下層の内側の層におけるひき板20Aを部分的に省略し、ここに形成された隙間に保水材32を注入してもよい。このようにすることで、木製床版20の下部空間で発生した火災に対して、最下層のひき板が燃え難くなる。これにより耐火性能をさらに向上させることができる。
【0032】
また、本実施形態においては、木製床版20はCLTを用いて形成したが、本発明の実施形態はこれに限らない。木製床版20は、例えば集成材やLVLなどを用いて形成してもよいし、ツーバイフォー材等の規格木材を並べて形成してもよい。あるいは、床梁、根太及び合板を用いて形成した床としてもよい。
【符号の説明】
【0033】
20 木製床版
32 保水材
34 袋体(容器)
40 束材
50 床材
図1
図2