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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】鉄骨梁耐火被覆構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20220809BHJP
   E04B 1/30 20060101ALI20220809BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
E04B1/94 E
E04B1/30 Z
E04B1/58 508T
E04B1/94 D
E04B1/94 V
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018102511
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019206849
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 智仁
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真美
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】実用新案登録第2602470(JP,Y2)
【文献】特開2014-029093(JP,A)
【文献】特開2018-003475(JP,A)
【文献】特開平10-102681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
E04B 1/30
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質部材と、
上下方向に互い対向する一対のフランジ部と、前記一対のフランジ部を接続するウェブ部と、を有し、材軸方向の端部が前記木質部材に接合される鉄骨梁と、
前記鉄骨梁の前記端部に設けられ、前記ウェブ部と対向するとともに前記一対のフランジ部に亘る型枠板と、前記ウェブ部と前記型枠板との間に充填されるセメント系充填材と、を有し、前記鉄骨梁の前記端部を耐火被覆し、前記端部の耐火性能を前記鉄骨梁の材軸方向の中間部の耐火性能よりも高める端部被覆部と、
を備える鉄骨梁耐火被覆構造。
【請求項2】
前記型枠板は、縦耐火ボード又は金属板とされる、
請求項1に記載の鉄骨梁耐火被覆構造。
【請求項3】
木質部材と、
上下方向に互い対向する一対のフランジ部と、前記一対のフランジ部を接続するウェブ部と、を有し、材軸方向の端部が前記木質部材に接合される鉄骨梁と、
前記鉄骨梁の前記端部における前記一対のフランジ部間に配置される耐火ボードを有し、前記鉄骨梁の前記端部を耐火被覆し、前記端部の耐火性能を前記鉄骨梁の材軸方向の中間部の耐火性能よりも高める端部被覆部と、
を備える鉄骨梁耐火被覆構造。
【請求項4】
前記鉄骨梁の前記中間部を耐火被覆する中間被覆部を備え、
前記端部被覆部の耐火性能は、前記中間被覆部の耐火性能よりも高い、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の鉄骨梁耐火被覆構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨梁耐火被覆構造に関する。
【背景技術】
【0002】
木質柱と鉄骨梁との接合構造が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-029093号公報
【文献】特開2014-029092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、火災時に、鉄骨梁から木質柱の柱心材に伝達される火災熱によって柱心材が燃焼しないように、鉄骨梁を耐火被覆している。
【0005】
しかしながら、上記技術において、木質柱等の木質部材の耐火性能をより簡易に高めるためには、さらなる改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、木質部材の耐火性能をより簡易に高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に係る鉄骨梁耐火被覆構造は、木質部材と、上下方向に互い対向する一対のフランジ部と、前記一対のフランジ部を接続するウェブ部と、を有し、材軸方向の端部が前記木質部材に接合される鉄骨梁と、前記鉄骨梁の前記端部における前記一対のフランジ部間に配置される耐火材を有し、前記鉄骨梁の前記端部を耐火被覆する端部被覆部と、を備える。
【0008】
第1態様に係る鉄骨梁耐火被覆構造によれば、鉄骨梁は、上下方向に互いに対向する一対のフランジ部と、一対のフランジ部を接続するウェブ部とを有し、材軸方向の端部が木質部材に接合される。この鉄骨梁の端部は、端部被覆部によって耐火被覆される。
【0009】
端部被覆部は、鉄骨梁の端部における一対のフランジ部間に配置される耐火材を有する。この耐火材によって、火災時に鉄骨梁の端部から木質部材に伝達される火災熱が低減される。したがって、木質部材の耐火性能が高められる。
【0010】
また、耐火材は、前述したように、鉄骨梁の一対のフランジ部間に配置される。この場合、鉄骨梁に耐火材を取り付け易くなるため、耐火材の施工性が向上する。
【0011】
第2態様に係る鉄骨梁耐火被覆構造は、第1態様に係る鉄骨梁耐火被覆構造において、前記鉄骨梁の材軸方向の中間部を耐火被覆する中間被覆部を備え、前記端部被覆部の耐火性能は、前記中間被覆部の耐火性能よりも高い。
【0012】
第2態様に係る鉄骨梁耐火被覆構造によれば、鉄骨梁の材軸方向の中間部を耐火被覆する中間被覆部を備える。また、端部被覆部の耐火性能は、中間被覆部の耐火性能よりも高い。
【0013】
ここで、前述したように、火災時には、鉄骨梁の端部から木質部材に火災熱が伝達される。したがって、端部被覆部の耐火性能を高くし、鉄骨梁の端部の温度上昇を抑制することにより、火災時に鉄骨梁の端部から木質部材に伝達される火災熱を効率的に低減することができる。
【0014】
一方、中間被覆部は、火災時の温度上昇による鉄骨梁の中間部の剛性低下や耐力低下を抑制可能であれば良い。ここで、一般に、鉄骨梁の耐力や剛性が大きく低下する温度は、木質部材が燃焼し始める温度(着火温度)よりも高い。そのため、中間被覆部に求められる耐火性能は、端部被覆部に求められる耐火性能よりも低くなる。
【0015】
したがって、中間被覆部の耐火性能を端部被覆部の耐火性能よりも低くすることにより、換言すると、端部被覆部の耐火性能を中間被覆部の耐火性能よりも高くすることにより、火災時における鉄骨梁の耐力低下や剛性低下、及び木質部材の燃焼を効率的に抑制することができる。
【0016】
第3態様に係る鉄骨梁耐火被覆構造は、第1態様又は第2態様に係る鉄骨梁耐火被覆構造において、前記端部被覆部は、前記鉄骨梁の前記端部に設けられ、前記ウェブ部と対向するとともに前記一対のフランジ部に亘る縦耐火ボードを備え、前記耐火材は、結晶水又は自由水を有し、前記ウェブ部と前記縦耐火ボードとの間に充填される。
【0017】
第3態様に係る鉄骨梁耐火被覆構造によれば、鉄骨梁の端部には、縦耐火ボードが設けられる。縦耐火ボードは、鉄骨梁のウェブ部と対向するとともに一対のフランジ部に亘る。この耐火ボードと鉄骨梁のウェブ部との間に、耐火材が配置される。
【0018】
ここで、耐火材は、結晶水又は自由水を有する。この耐火材が加熱されると、耐火材中の結晶水又は自由水が蒸発し、耐火材、及び鉄骨梁の端部の温度上昇が抑制される。そして、全ての結晶水又は自由水が蒸発するまでは、耐火材、及び鉄骨梁の端部の温度上昇が継続的に抑制される。
【0019】
一方、耐火材が直接的に炎に晒されると、結晶水又は自由水が瞬時に蒸発する可能性がある。この場合、耐火材の耐火性能が早期に失われてしまう。
【0020】
これに対して本発明では、耐火材が、縦耐火ボードによって覆われる。この縦耐火ボード部材によって、火災時に耐火材が炎に直接的に晒されなくなるため、耐火材中の結晶水又は自由水が瞬時に蒸発することが抑制される。したがって、耐火材の耐火性能が早期に失われることが抑制される。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明に係る鉄骨梁耐火被覆構造によれば、木質部材の耐火性能をより簡易に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第一実施形態に係る鉄骨梁耐火被覆構造が適用された鉄骨梁及び木質柱を示す側面図である。
図2図1の2-2線断面図である。
図3図1の3-3線断面図である。
図4図1の4-4線断面図である。
図5図1に示される鉄骨梁の変形例を示す斜視図である。
図6】第一実施形態に係る鉄骨梁耐火被覆構造の変形例が適用された鉄骨梁の材軸方向の端部を示す図3に対応する断面図である。
図7】第一実施形態に係る鉄骨梁耐火被覆構造の変形例が適用された鉄骨梁の材軸方向の端部を示す図3に対応する断面図である。
図8】(A)及び(B)は、第一実施形態に係る鉄骨梁耐火被覆構造の変形例が適用された鉄骨梁の材軸方向の端部を示す図3に対応する断面図である。
図9】(A)は、第一実施形態に係る鉄骨梁耐火被覆構造の変形例が適用された鉄骨梁の材軸方向の中間部を示す図2に対応する断面図であり、(B)は、第一実施形態に係る鉄骨梁耐火被覆構造の変形例が適用された鉄骨梁の材軸方向の端部を示す図3に対応する断面図である。
図10】第一実施形態に係る鉄骨梁耐火被覆構造の変形例が適用された鉄骨梁の材軸方向の端部を示す斜視図である。
図11】第一実施形態に係る鉄骨梁耐火被覆構造の変形例が適用された鉄骨梁の材軸方向の端部を示す図4に対応する断面図である。
図12】第一実施形態に係る鉄骨梁耐火被覆構造の変形例が適用された鉄骨梁の材軸方向の端部を示す斜視図である。
図13】第二実施形態に係る鉄骨梁耐火被覆構造が適用された鉄骨梁及び木質梁を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第一実施形態)
先ず、第一実施形態について説明する。
【0024】
(鉄骨梁)
図1には、第一実施形態に係る鉄骨梁耐火被覆構造10が適用された鉄骨梁20が示されている。この鉄骨梁20は、H形鋼によって形成されている。
【0025】
図2及び図3に示されるように、鉄骨梁20は、上下方向に互いに対向する一対のフランジ部22と、一対のフランジ部22を接続するウェブ部24とを有している。上側のフランジ部22上には、例えば、鉄筋コンクリート造のスラブ28が設けられる。この鉄骨梁20の材軸方向の端部20E(端部側)は、木質柱30(図1参照)に接合されている。
【0026】
(木質柱)
図4に示されるように、木質柱30には、角柱状に形成されている。この木質柱30には、耐火構造が適用されている。具体的には、木質柱30は、荷重(鉛直荷重)を支持する木質心部32と、木質心部32を耐火被覆する耐火被覆部34とを有している。なお、木質柱30は、木質部材の一例である。
【0027】
(木質心部)
木質心部32は、例えば、集成材や無垢材等の木質材によって、断面矩形状に形成されている。また、木質心部32は、木質柱30が負担する荷重(鉛直荷重)を支持可能な剛性及び耐力を有している。この木質心部32は、耐火被覆部34によって耐火被覆されている。
【0028】
(耐火被覆部)
耐火被覆部34は、一例として、木質心部32の外側に配置される燃え止まり層36と、燃え止まり層36の外側に配置された燃え代層38とを有している。燃え止まり層36は、火災時における燃え代層38の燃焼を停止(自然鎮火)させ、木質心部32の燃焼を抑制する。この燃え止まり層36は、木質心部32の外周面(側面)に沿った環状に形成されており、木質心部32を囲むとともに木質心部32の外周面を被覆している。
【0029】
燃え止まり層36は、木質心部32の外周面に沿って交互に配列された複数のセメント系硬化体36A及び木材36Bを有している。セメント系硬化体36A及び木材36Bは、角柱状に形成され、木質心部32の材軸方向に沿って配置されている。これらのセメント系硬化体36A及び木材36Bは、例えば、接着等によって木質心部32に接着されている。
【0030】
セメント系硬化体36Aは、例えば、モルタルやグラウト等のように、木材36Bよりも高熱容量の高熱容量部材によって形成されている。これにより、燃え止まり層36の熱容量が、全体として木質心部32及び燃え代層38の熱容量よりも大きくなっている。この燃え止まり層36によって、火災時における燃え代層38の燃焼が停止(自然鎮火)される結果、木質心部32の燃焼が抑制される。この燃え止まり層36の外側には、燃え代層38が配置されている。
【0031】
(燃え代層)
燃え代層38は、集成材等の木質材によって形成され、火災時に燃焼して炭化層(断熱層)を形成することにより、木質心部32への火災熱の浸入を抑制する。この燃え代層38は、燃え止まり層36の外周面に沿った環状に形成されており、燃え止まり層36を囲むとともに、燃え止まり層36の外周面を被覆している。また、燃え代層38は、例えば、接着剤等によっても燃え止まり層36の外周面に接着されている。
【0032】
なお、燃え代層38の厚み(層厚)は、木質柱30に求められる耐火性能(耐火時間)や、燃え代層38の燃焼速度及び遮熱性能に応じて適宜設定されている。
【0033】
耐火被覆部34には、木質心部32の側面32S(外周面)を露出させる溝部40が形成されている。溝部40は、上下方向に延びる矩形の長溝とされている。この溝部40には、ブラケット42が配置されている。
【0034】
ブラケット42は、平断面視にて、T字形状に形成されている。このブラケット42は、ベース部42A、及び接合プレート部42Bを有している。ベース部42Aは、木質心部32の側面32Sに重ねられた状態で、木質心部32を貫通する複数の通しボルト44及びナット46によって木質心部32に固定されている。
【0035】
なお、木質心部32における溝部40と反対側の側面には、支圧板48及びナット50が収容される溝部52が形成されている。また、ブラケット42の形状は、前述したT字形状に限らず、適宜変更可能である。
【0036】
接合プレート部42Bは、ベース部42Aから鉄骨梁20側へ延出している。この接合プレート部42Bは、鉄骨梁20のウェブ部24に重ねられた状態で、ボルト54及びナット56によってウェブ部24に接合されている。
【0037】
なお、鉄骨梁20の端部20Eのウェブ部24には、ボルト54用の貫通孔26(図5参照)が形成されている。また、接合プレート部42Bは、ボルト54及びナット56に限らず、溶接等によってウェブ部24に接合されても良い。また、溝部40には、鉄骨梁20の端部20Eとの隙間を塞ぐロックウール等の断熱材58が設けられている。
【0038】
(鉄骨梁耐火被覆構造)
図1に示されるように、鉄骨梁耐火被覆構造10は、中間被覆部60及び端部被覆部70を有している。中間被覆部60は、鉄骨梁20の材軸方向の中間部20Mを耐火被覆している。一方、端部被覆部70は、鉄骨梁20の材軸方向の端部20Eを耐火被覆している。
【0039】
ここで、火災時には、鉄骨梁20の端部20Eから木質柱30に火災熱が伝達される。そのため、火災時に、鉄骨梁20の端部20Eの温度が上昇すると、当該端部20Eの耐力や剛性が低下するだけでなく、木質柱30が燃焼する可能性がある。一方、鉄骨梁20の中間部20Mは、火災時に耐力や剛性が低下しなければ良い。
【0040】
ここで、一般に、鉄骨梁20の耐力や剛性が著しく低下し始める温度(例えば、350℃~500℃)は、木質柱30が燃焼し始める温度(着火温度、例えば、260℃)よりも高い。そのため、鉄骨梁20の耐力と剛性が低下しないように、鉄骨梁20を全長に亘って一律に耐火被覆すると、鉄骨梁20の端部20Eから木質柱30に伝達される火災熱によって木質柱30が燃焼する可能性がある。
【0041】
この対策として本実施形態では、端部被覆部70の耐火性能を中間被覆部60の耐火性能よりも高くすることにより、火災時に木質柱30の燃焼を抑制している。以下、中間被覆部60及び端部被覆部70の構成について具体的に説明する。
【0042】
(中間被覆部)
図2に示されるように、中間被覆部60は、鉄骨梁20に求められる耐火性能(耐火時間)に応じて、鉄骨梁20の材軸方向の中間部20Mを耐火被覆している。つまり、中間被覆部60は、火災時に鉄骨梁20の耐力と剛性が低下しないように、鉄骨梁20の材軸方向の中間部20Mを耐火被覆している。
【0043】
中間被覆部60は、例えば、吹付けロックウールによって形成されている。この中間被覆部60は、鉄骨梁20のウェブ部24及び下側のフランジ部22の外面を被覆するとともに、上側のフランジ部22の上面22U以外に外面を被覆している。
【0044】
中間被覆部60の耐火性能は、鉄骨梁20に求められる耐火性能に応じて適宜設定される。つまり、中間被覆部60の耐火性能は、火災時に鉄骨梁20が所定温度に達しないように、適宜設定される。
【0045】
なお、鉄骨梁20の材軸方向の中間部20Mとは、鉄骨梁20における材軸方向両側の端部20Eの間の部位を意味する。また、鉄骨梁20の材軸方向の端部20Eとは、鉄骨梁20の端面20Tから少なくともブラケット42の接合プレート部42B全体を含む領域を意味する。
【0046】
(端部被覆部)
端部被覆部70は、火災時に、鉄骨梁20の端部20Eから木質柱30に伝達される熱によって木質柱30(木質心部32)が燃焼しないように、すなわち木質柱30(木質心部32)が着火温度に達しないように、鉄骨梁20の端部20Eを耐火被覆している。
【0047】
端部被覆部70は、仕切ボード72、縦耐火ボード74、及び充填コンクリート78を有している。仕切ボード72、及び縦耐火ボード74は、例えば、断熱性が高いけい酸カルシウムボード等によって矩形の板状に形成されている。
【0048】
仕切ボード72は、鉄骨梁20の中間部20Mと端部20Eとの境界部に沿って配置されている。また、仕切ボード72は、ブラケット42の接合プレート部42Bよりも、鉄骨梁20の中央側(木質柱30と反対側)に配置されている。
【0049】
仕切ボード72は、鉄骨梁20のウェブ部24の両側にそれぞれ配置されている。各仕切ボード72は、一対のフランジ部22間に配置されている。また、各仕切ボード72は、木質柱30と対向するとともに、一対のフランジ部22に亘って配置されており、図示しない接着剤やビス等によって一対のフランジ部22及びウェブ部24の少なくとも一方に固定されている。この仕切ボード72によって、一対のフランジ部22間の空間が、鉄骨梁20の材軸方向に仕切られている。
【0050】
なお、仕切ボード72は、耐火ボードに限らず、例えば、金属板等によって形成されても良い。
【0051】
図3に示されるように、縦耐火ボード74は、鉄骨梁20の木質柱30側の端部20Eにおいて、仕切ボード72と共に一対のフランジ部22間の空間(以下、「充填空間」という)を区画している。具体的には、縦耐火ボード74は、ウェブ部24の両側にそれぞれ配置されている。各縦耐火ボード74は、一対のフランジ部22間に配置されている。なお、縦耐火ボード74は、型枠板の一例である。
【0052】
各縦耐火ボード74は、鉄骨梁20のウェブ部24と対向するとともに、一対のフランジ部22に亘って配置されており、図示しない接着剤やビス等によって一対のフランジ部22及びウェブ部24の少なくとも一方に固定されている。さらに、縦耐火ボード74は、仕切ボード72と鉄骨梁20における木質柱30側の端面20T(図4参照)に亘って配置されている。これらの縦耐火ボード74及び仕切ボード72によって、一対のフランジ部22間の充填空間76が区画されている。この充填空間76には、充填コンクリート78が充填されている。
【0053】
充填コンクリート78は、例えば、現場打ちコンクリートとされている。この充填コンクリート78は、鉄骨梁20の上側のフランジ部22に形成された充填孔80から充填空間76に充填されている。なお、充填コンクリート78は、耐火材及び充填耐火材の一例である。
【0054】
充填コンクリート78は、自由水を有している。この充填コンクリート78の外側面78Sは、縦耐火ボード74によって耐火被覆されている。また、充填コンクリート78には、ブラケット42の接合プレート部42B、ボルト54、及びナット56が埋設されている。これらの充填コンクリート78及び縦耐火ボード74によって、端部被覆部70の耐火性能(耐火時間)が、中間被覆部60の耐火性能(耐火時間)よりも高くなっている。
【0055】
なお、鉄骨梁20のフランジ部22には、図5に示されるように、充填孔80に替えて、切欠き部82を形成しても良い。また、充填孔80や切欠き部82によるフランジ部22の断面欠損が問題になる場合には、フランジ部22に充填孔80を形成せずに、縦耐火ボード74等に充填孔を形成しても良い。
【0056】
また、端部被覆部70と中間被覆部60とは、部分的にラップさせても良い。これにより、火災時における端部被覆部70と中間被覆部60との境界部(境界目地)の開きが抑制される。
【0057】
(作用)
次に、第一実施形態の作用について説明する。
【0058】
本実施形態によれば、鉄骨梁耐火被覆構造10は、端部被覆部70及び中間被覆部60を有している。端部被覆部70は、鉄骨梁20における木質柱30側の端部20Eを耐火被覆している。これにより、火災時における鉄骨梁20の端部20Eの温度上昇が抑制されるとともに、当該端部20Eから木質柱30に伝達される火災熱が低減される。したがって、木質柱30の耐火性能を高めることができる。
【0059】
また、端部被覆部70の耐火性能は、鉄骨梁20の中間部20Mを耐火被覆する中間被覆部60の耐火性能よりも高くなっている。ここで、前述したように、中間被覆部60は、火災時の温度上昇による鉄骨梁20の中間部20Mの耐力低下や剛性低下を抑制可能であれば良い。また、一般に、鉄骨梁20の剛性が低下し始める温度(例えば、350℃~500℃)は、木質柱30が燃焼し始める温度(着火温度、例えば、260℃)よりも高い。そのため、中間被覆部60に求められる耐火性能は、端部被覆部70に求められる耐火性能よりも低くなる。
【0060】
したがって、中間被覆部60の耐火性能を端部被覆部70の耐火性能よりも低くすることにより、換言すると、端部被覆部70の耐火性能を中間被覆部60の耐火性能よりも高くすることにより、火災時における鉄骨梁20の耐力低下や剛性低下、及び木質柱30の燃焼を効率的に抑制することができる。
【0061】
また、端部被覆部70は、一対のフランジ部22間の充填空間76に充填される充填コンクリート78を有している。充填コンクリート78は、自由水を有している。この自由水が、火災時に蒸発することにより、充填コンクリート78及び鉄骨梁20の端部20Eの温度上昇が抑制される。また、充填コンクリート78中の全ての自由水が蒸発するまでは、充填コンクリート78及び鉄骨梁20の端部20Eの温度上昇が継続的に抑制される。したがって、鉄骨梁20の端部20Eに耐火性能を効率的に高めることができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、充填空間76に充填コンクリート78を充填することにより、鉄骨梁20の端部20Eの熱容量が飛躍的に大きくなる。そのため、鉄骨梁20の下側のフランジ部22の下面の耐火被覆を省略することができる。したがって、鉄骨梁20の端部20Eの下側の有効スペースを広げることができる。
【0063】
ここで、充填コンクリート78が炎に直接的に晒されると、充填コンクリート78中の自由水が瞬時に蒸発する可能性がある。この場合、充填コンクリート78の耐火性能が早期に失われる可能性がある。
【0064】
これに対して本実施形態の充填コンクリート78は、仕切ボード72及び縦耐火ボード74によって区画された一対のフランジ部22間の充填空間76に充填されている。つまり、充填コンクリート78の外側面78Sは、縦耐火ボード74によって耐火被覆されている。この縦耐火ボード74によって、火災時に充填コンクリート78が炎に直接的に晒されなくなるため、充填コンクリート78中の自由水が瞬時に蒸発することが抑制される。したがって、充填コンクリート78の耐火性能が早期に失われることが抑制される。
【0065】
さらに、本実施形態の縦耐火ボード74は、断熱性が高いけい酸カルシウムボード等によって形成されている。これにより、充填コンクリート78中の自由水が瞬時に蒸発することがさらに抑制される。
【0066】
また、充填コンクリート78は、前述したように充填空間76に充填されている。これにより、充填コンクリート78を施工する際に、鉄骨梁20の一対のフランジ部22、仕切ボード72、及び縦耐火ボード74が型枠として機能する。したがって、充填コンクリート78の施工性が向上する。
【0067】
(第一実施形態の変形例)
次に、第一実施形態の変形例について説明する。
【0068】
図6に示される変形例では、上記第一実施形態に係る縦耐火ボード74に替えて、金属板92によって充填空間76が区画されている。なお、金属板92は、型枠板の一例である。
【0069】
具体的には、端部被覆部90の金属板92は、例えば、鋼板等によって矩形の板状に形成されている。この金属板92は、鉄骨梁20のウェブ部24と対向するとともに、一対のフランジ部22に亘って配置されている。また、金属板92は、溶接等によって一対のフランジ部22の端部に接合されている。この金属板92及び仕切ボード72(図1参照)によって区画された充填空間76に、充填コンクリート78が充填されている。
【0070】
このように金属板92によって充填空間76を区画することにより、鉄骨梁20に対する金属板92の取り付け等が容易となる。
【0071】
また、金属板92の外面は、耐火被覆材94によって耐火被覆されている。耐火被覆材94は、例えば、吹付けロックウール等とされている。この耐火被覆材94によって、火災時における金属板92の温度上昇が抑制される。
【0072】
なお、耐火被覆材94は、吹付けロックウールに限らず、例えば、ロックウール等で形成されたシート状の巻き付け系耐火材や、耐火塗料であっても良い。また、耐火塗料を用いた場合には、金属板92の表面(金属面)を意匠に活かすことができる。
【0073】
また、火災時における金属板92の温度上昇は、充填コンクリート78によって抑制される。したがって、耐火被覆材94は、必要に応じて金属板92に設ければ良く、適宜省略可能である。
【0074】
次に、図7に示される変形例では、端部被覆部100の外形が、中間被覆部60の外形(図2参照)と同じになっている。具体的には、端部被覆部100の金属板102には、中間被覆部60の外形に合わせて、鉄骨梁20のウェブ部24側へ凹む凹部104が形成されている。このように端部被覆部100及び中間被覆部60の外形を合せることにより、意匠性が向上する。
【0075】
なお、図8(A)に示される変形例のように、一対のフランジ部22の端部よりも内側に平板状の金属板106を配置することも可能である。
【0076】
次に、上記実施形態では、鉄骨梁20の一対のフランジ部22間に充填コンクリート78を設けたが、図8(B)に示されるように、一対のフランジ部22の間には、耐火材としての耐火ボード108を設けても良い。
【0077】
耐火ボード108は、例えば、けい酸カルシウムボードや石こうボード等によって形成されており、一対のフランジ部22間に積層された状態で配置されている。この耐火ボード108によっても、鉄骨梁20の端部20Eから木質柱30に伝達される火災熱を低減することができる。
【0078】
また、耐火ボード108を鉄骨梁20の一対のフランジ部22間に設けることにより、鉄骨梁20に耐火ボード108を取り付け易くなる。したがって、耐火ボード108の施工性が向上する。
【0079】
なお、一対のフランジ部22間には、ロックウール等で形成されたシート状の巻き付け系耐火材を設けることも可能である。
【0080】
次に、図9(A)及び図9(B)に示される変形例では、中間被覆部110及び端部被覆部112が、鉄骨梁20を囲む縦耐火ボード114及び横耐火ボード116をそれぞれ有している。これにより、中間被覆部110及び端部被覆部112の外形(断面形状)が同じになっている。
【0081】
縦耐火ボード114及び横耐火ボード116は、けい酸カルシウムボード等によって形成されている。縦耐火ボード114は、一対のフランジ部22の幅方向の両側にそれぞれ配置されている。各縦耐火ボード114は、ウェブ部24と対向するとともに、一対のフランジ部22に亘って配置されている。
【0082】
横耐火ボード116は、下側のフランジ部22の下面に沿って配置されており、当該下面を耐火被覆している。また、横耐火ボード116は、縦耐火ボード114に亘って配置されている。この横耐火ボード116及び縦耐火ボード114は、上側が開口した断面U字状を成しており、鉄骨梁20の上面以外の外面(側面及び下面)を耐火被覆している。
【0083】
ここで、図9(B)に示されるように、端部被覆部112は、充填コンクリート78を有している。充填コンクリート78は、縦耐火ボード114及び横耐火ボード116によって区画された充填空間76に充填コンクリート78が充填されている。これにより、端部被覆部112の耐火性能が、中間被覆部110の耐火性能よりも高くされている。
【0084】
このように縦耐火ボード114及び横耐火ボード116を用いることにより、中間被覆部110及び端部被覆部112の外形を容易に合わせることができる。
【0085】
次に、図10及び図11に示される変形例では、鉄骨梁20の端面20Tに、端部プレート120が設けられている。端部プレート120は、鉄骨梁20の端面20Tに溶接等によって接合されている。また、端部プレート120には、複数の貫通孔122が形成されている。
【0086】
図11に示されるように、端部プレート120は、木質心部32の側面32Sに重ねられた状態で、通しボルト44及びナット46によって木質心部32に固定されている。このようにブラケット42(図4参照)に替えて、端部プレート120を介して木質柱30と鉄骨梁20の端部20Eとを接合することも可能である。
【0087】
なお、図12に示されるように、端部プレート120には、通しボルト44が締結される袋ナット128を溶接等によって予め固定しておくことも可能である。
【0088】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態について説明する。なお、第二実施形態において、第一実施形態と同じ構成の部材等には、同符号を付して説明を適宜省略する。
【0089】
第二実施形態では、図13に示されるように、鉄骨梁(鉄骨小梁)20の端部20Eが木質梁130に接合されている。
【0090】
具体的には、木質梁130は、荷重(鉛直荷重)を支持する木質心部132と、木質心部132を耐火被覆する耐火被覆部134とを有している。なお、木質梁130は、木質部材の一例である。
【0091】
木質梁130の木質心部132及び耐火被覆部134の構成は、基本的に、第一実施形態に係る木質柱30の木質心部32及び耐火被覆部34の構成と同様であるが、木質梁130では、木質心部132の上面上にスラブ28が設けられる。そのため、木質梁130の上面以外の外周面(側面及び下面)が耐火被覆部134によって耐火被覆されている。
【0092】
ここで、鉄骨梁20の端部20Eは、ブラケット42を介して木質梁130の木質心部132に接合されている。この鉄骨梁20の端部20Eには、上記第一実施形態と同様に、端部被覆部70が設けられている。
【0093】
これにより、端部被覆部70によって、火災時における鉄骨梁20の端部20Eの温度上昇が抑制されるとともに、鉄骨梁20の端部20Eから木質梁130の木質心部132に伝達される火災熱が低減される。したがって、上記第一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0094】
なお、鉄骨梁20の端部20Eは、ブラケット42に限らず、前述した端部プレート120(図11参照)等を介して木質梁130に接合しても良い。
【0095】
(変形例)
次に、上記第一実施形態及び第二実施形態の変形例について説明する。なお、以下では、上記第一実施形態を例に各種の変形例について説明するが、これらの変形例は、第二実施形態にも適用可能である。
【0096】
上記第一実施形態では、耐火材が、充填コンクリート78とされるが、耐火材は、例えば、コンクリートやグラウト、モルタル等のセメント系充填材(充填耐火材)であっても良い。また、耐火材は、結晶水を有する石こうや、水酸化アルミニウム等であっても良いし、自由水を有するロック―ル等であっても良い。なお、結晶水を含む耐火材では、火災時に結晶水が蒸発することにより、耐火材の温度上昇が抑制される。
【0097】
また、上記第一実施形態では、縦耐火ボード74がけい酸カルシウムボードによって形成されるが、縦耐火ボードは、例えば、石こうボードや、ロックウールボード、モルタルボード、セラミックファイバーボード、PCボード、ALCボード等であっても良い。
【0098】
また、上記第一実施形態では、中間被覆部60が吹付けロックウールによって形成されるが、中間耐火被覆部は、例えば、前述した各種の縦耐火ボードや、ロックウール成形品等の巻き付け系耐火材、耐火塗料によって形成されても良い。また、中間被覆部60は、鉄骨梁20に求められる耐火性能に応じて設ければ良く、適宜省略可能である。
【0099】
また、上記第一実施形態における木質柱30の燃え止まり層36は、木質心部32への火炎熱の浸入を抑制可能な層であれば良く、例えば、難燃性を有する難燃性層(難燃性型)や、熱の吸収が可能な吸熱性層(吸熱性型)であっても良い。
【0100】
難燃性層としては、木材に難燃薬剤を注入して不燃化処理した難燃薬剤注入層が挙げられる。また、吸熱性層としては、一般木材よりも熱容量が大きな材料、一般木材よりも断熱性が高い材料、または一般木材よりも熱慣性が高い材料によって形成しても良いし、これらの材料と一般木材とを適宜組み合わせて形成しても良い。さらに、難燃性層と、吸熱性層とを適宜組み合わせて(例えば、難燃性層と、吸熱性層とを交互に配置して)、燃え止まり層等を形成しても良い。
【0101】
なお、一般木材よりも熱容量が大きな材料としては、モルタル、石材、ガラス、繊維補強セメント、石こう等の無機質材料、各種の金属材料などが挙げられる。また、一般木材よりも断熱性が高い材料としては、けい酸カルシウム板、ロックウール、グラスウールなどが挙げられる。一般木材よりも熱慣性が高い材料としては、セランガンバツ、ジャラ、ボンゴシ等の木材が挙げられる。
【0102】
また、上記第一実施形態では、耐火被覆部34を燃え止まり層36及び燃え代層38の二層構造にした例を示したが、これに限らない。例えば、燃え止まり層36を省略し、耐火被覆部34を燃え代層38のみで構成しても良いし、燃え代層38を省略し、耐火被覆部34を燃え止まり層36のみで構成しても良い。また、木質柱は、耐火被覆部を備えない無耐火構造であっても良い。
【0103】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0104】
10 鉄骨梁耐火被覆構造
20 鉄骨梁
20E 端部(鉄骨梁の材軸方向の端部)
20M 中間部鉄骨梁の材軸方向の中間部)
22 フランジ部
24 ウェブ部
30 木質柱(木質部材)
60 中間被覆部
70 端部被覆部
74 縦耐火ボード
78 充填コンクリート(耐火材)
100 端部被覆部
110 中間被覆部
112 端部被覆部
114 縦耐火ボード
130 木質梁(木質部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13