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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】自動車用エンジン
(51)【国際特許分類】
   F01M 11/00 20060101AFI20220809BHJP
   F01M 11/03 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
F01M11/00 R
F01M11/03 G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019179855
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021055623
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】木村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】山崎 壮介
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-210310(JP,A)
【文献】特開2011-208579(JP,A)
【文献】特開平04-171209(JP,A)
【文献】特開2001-232118(JP,A)
【文献】特開2001-232117(JP,A)
【文献】実開平05-096411(JP,U)
【文献】英国特許出願公開第02512290(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 11/00
F01M 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルパンとストレーナとを備えており、前記オイルパンには、ドレンプラグで塞がれるドレン穴が形成されている一方、前記ストレーナは、前記オイルパンに溜まったオイルに上方から浸漬する吸い口を備えており、
前記ストレーナにおける吸い口の下部には、前記オイルパンが上向きに変形して衝突したときに折損又は変形し得る弱化部が形成されている構成であって
前記ドレン穴は、上向きに傾斜した壁部でかつ前記ドレンプラグを取り外した状態で前記吸い口の弱化部を人が視認できる位置に空いており、前記弱化部が折損又は変形した状態を前記ドレン穴から視認可能である
自動車用エンジン。
【請求項2】
オイルパンとストレーナとを備えており、前記オイルパンには、ドレンプラグで塞がれるドレン穴が形成されている一方、前記ストレーナは、前記オイルパンに溜まったオイルに上方から浸漬する吸い口を備えており、
前記ストレーナにおける吸い口の下部には、前記オイルパンが上向きに変形して衝突したときに折損又は変形し得る弱化部が形成されている構成であって
前記ドレン穴は、前記ドレンプラグを取り外した状態で前記吸い口の弱化部を人が視認できる位置に空いており、
前記弱化部は、最も弱い部分が前記ドレン穴に向くように形成されている、
自動車用エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、オイルストレーナとオイルパンとに特徴を有する自動車用エンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンはオイルを溜めるオイルパンを備えており、オイルパンに溜まったオイルはストレーナで吸い上げられて各部位に送られる。ストレーナは様々な形態があるが、オイルの底面に向けて略下向きに延びる吸い口を備えていることが多い。他方、オイルパンにはオイル交換に際してオイルを抜き取るためのドレン穴を設けており、ドレンプラグを外してオイルを抜き取るようになっている。
【0003】
そして、ストレーナ及びドレン穴に関する先行技術として、特許文献1には、ストレーナの吸い口とドレン穴とを同心に形成して、吸い口の下端とドレンプラグとを係合させると共に、吸い口をドレン穴から抜き取りできるようにした構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平05-96411号のCD-ROM
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、自動車用のエンジンにおいて、車体への搭載態様は自動車の構造によって相違しており、セダンタイプでは乗員室の前方に配置されたエンジンルームに配置されており、フロントグリルからフロントガラスが立ち上がったような形態のワンボックス車では、床下の空間にエンジンを配置している。
【0006】
いずれにしても、エンジンの下面を構成するオイルパンは地面に向けて露出しているため、自動車の走行によって飛び跳ねた小石がオイルパンに当たったり、路面に突出した石にオイルパンが当たってオイルパンが凹んだりすることがあり得る。
【0007】
そして、オイルパンの凹みが大きくてストレーナの吸い口に衝撃が及び、吸い口が折損したり変形したりすることがあるが、この場合、折損や変形の程度によって、走行可能であったり走行不能になったりする。従って、吸い口のダメージの状況を容易に確認できると好ましい。
【0008】
この点、特許文献1のようにストレーナとドレン穴とを同心に形成すると、オイルパンが凹んで吸い口がダメージを受けた場合、ドレンプラグを取り外すと吸い口を視認することはできる。しかし、吸い口の端面を下方から視認できるに過ぎないため、吸い口がどのようなダメージを受けているかは把握できない場合があり、走行可能か否かの判断をし難い場合があるという問題がある。
【0009】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、
「オイルパンとストレーナとを備えており、前記オイルパンには、ドレンプラグで塞がれるドレン穴が形成されている一方、前記ストレーナは、前記オイルパンに溜まったオイルに上方から浸漬する吸い口を備えており、
前記ストレーナにおける吸い口の下部には、前記オイルパンが上向きに変形して衝突したときに折損又は変形し得る弱化部が形成されている
という基本構成であり、請求項1では、上記基本構成において、
「前記ドレン穴は、上向きに傾斜した壁部でかつ前記ドレンプラグを取り外した状態で前記吸い口の弱化部を人が視認できる位置に空いており、前記弱化部が折損又は変形した状態を前記ドレン穴から視認可能である」
という構成になっている。
他方、請求項2の発明では、請求項1において、
前記ドレン穴は、前記ドレンプラグを取り外した状態で前記吸い口の弱化部を人が視認できる位置に空いており、
前記弱化部は、最も弱い部分が前記ドレン穴に向くように形成されている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0011】
本願発明では、自動車の走行中にオイルパンが路面に接触して変形し、その変形によってストレーナの吸い口に衝撃がかかると、弱化部が破損したり変形したりして、吸い口が閉じてしまうことを防止できる。従って、路面との接触による衝撃がさほど強くない場合は、オイルの吸い込み機能は維持されるためエンジンの運転(自動車の走行)を継続できる。
【0012】
そして、本願発明では、吸い口のダメージ状態を人がドレン穴から視認できるため、オイルパンを取り外すことなく、運転を続行できる状態か否かを容易に判断できる。ドレン穴を人の指が挿入できる大きさに設定しておくと、暗くてオイルパンの内部を視認し難い場合でも、指をドレン穴に挿入して吸い口に触れることにより、吸い口のダメージの状況を把握することができる。
【0013】
このように、本願発明では、オイルパンを外すことなく吸い口のダメージの状況を確認できるため、その後の対応を迅速に採ることができる。
請求項2のように、ドレン穴をオイルパンのうち傾斜した壁部に形成すると、ドレン穴とドレンプラグはオイルパンの最下面よりも高い位置に位置しているため、ドレンプラグが路面に衝突することを防止できる。また、オイルパンの後部に形成すると、ドレン穴及びドレンプラグが車体の前進方向に向いて後ろに位置しているため、路面への衝突に際してオイルパンが大きく凹んでも、ドレンプラグが損傷することを防止して、オイルの抜き取りを容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態のエンジンを後方から見た背面図である。
図2図1のII-II 視底面図である。
図3】補助クランクケースの斜視図である。
図4】補助クランクケースを図1のIV-IV方向から見た図である。
図5図1の V-V視方向から見た側断面図である。
図6】補助クランクケースを上から見た斜視図である。
図7図7の VII-VII視断面ある。
図8図6のVIII-VIII視断面図である。
図9】補助クランクケースの底面図である。
図10】(A)は図9のX-X視断面図、(B)は作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右・上下の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向であり、左右方向はクランク軸線方向と直交した水平方向であり、上下方向は鉛直方向である。前と後ろについては、エンジンに使用されている一般的な呼び方に準じて、タイミングチェーンや補機が配置されている側を前、ミッションが配置されている側を後ろとしている。念のため、図1~4に方向を明示している。
【0016】
シリンダブロックのうち気筒軸線の方向の区別としては、圧縮行程のときにピストンが向いた方向に位置した面を頂面と呼び、膨張行程のときにピストンが向いた面を底面と称して、鉛直方向である上下方向と区別している。
【0017】
(1).エンジンの概要
本実施形態は、4気筒エンジンに適用している。エンジンは、図1に示すように(図2も参照)、シリンダブロック1とその頂面に固定されたシリンダヘッド2、及びシリンダヘッド2の頂面に固定されたヘッドカバー3を備えており、気筒軸心O1を大きく寝かせたスラント型エンジンになっている。気筒軸心O1は、鉛直線O2に対して、約60°強(水平面O3に対しては、30°弱)の角度で傾斜している。
【0018】
このように、気筒軸心O1を水平に近い姿勢に大きくスラントさせていることにより、オイルパン4は、補助クランクケース5を介してシリンダブロック1の底面に取付けられている。すなわち、シリンダブロック1の底面に補助クランクケース5を固定して、補助クランクケース5の下面にオイルパン4を固定している。
【0019】
本実施形態では、シリンダブロック1、シリンダヘッド2、補助クランクケース5、オイルパン4は機関本体を構成している。補助クランクケース5はアルミダイキャスト品であり、オイルパン4は板金加工品である。
【0020】
図7に示すように、クランク軸6のジャーナル部は、クランクキャップ7の群によってシリンダブロック1の底側開口部の回転自在に保持されている。従って、図3に明示するように、補助クランクケース5の前後両壁部に、クランクキャップ7を逃がすための切り欠き部8が形成されている。
【0021】
図1に平行斜線を付して示すように、補助クランクケース5及び補助クランクケース5の後面には、ミッションケースを固定するための受けリブ9が形成されている(従って、平行斜線は端面の表示ではない。図5を除いて他の図も同様である。)。
【0022】
本実施形態では、吸気側面は上向きになって、排気側面は下向きになっている。このため、図1に示すように、シリンダヘッド2の下方に触媒ケース10が配置されて、シリンダブロック1等の上方に、サージタンク11を備えた吸気マニホールド12が配置されている。図2に示すように、は、本体の前面部には、クランク軸6で駆動されるタイミングチェーン13が配置されており、タイミングチェーン13はフロントカバー14で覆われている。
【0023】
本実施形態のエンジンは、クランク軸6を車両の前後方向に向けた姿勢で車体に搭載されている。すなわち、縦置き式のエンジンである。従って、エンジンの前後方向と車体の前後方向とは一致している。また、本実施形態のエンジンはワンボックス車用のものであり、乗員室の床下の下方空間に配置されている。
【0024】
シリンダブロック1には、動弁室に溜まったオイルをオイルパン4に戻すオイル戻し通路が形成されているが、縦置き式エンジンでは、車体の旋回時にオイルが前側でかつタイミングチェーン13の張り側に寄る傾向があり、このため、オイルの戻しが不十分になることがある。
【0025】
そこで、本実施形態では、シリンダブロック1とフロントカバー14とで構成されているタイミングチェーン配置空間をオイル戻しの補助通路に兼用しており、車体の旋回時に、タイミングチェーン13の周回を利用してオイルをオイルパン4に戻すようにしている。タイミングチェーン13の掻き出し作用によって補助通路を流れてオイルは、図2に矢印15で示すように、補助クランクケース5の後部を介してオイルパン4に流下する。
【0026】
(2).補助クランクケースの基本構造
図7に示すように、シリンダブロック1には、シリンダボア17が開口している。他方、例えば図3,4から容易に理解できるように、補助クランクケース5はシリンダブロック1と下方とに向けて開口しており、下面にオイルパン4が固定されている。
【0027】
従って、例えば図8に示すように、補助クランクケース5は、クランク軸線方向に長く延びる上側長手側部(上面部)18及び下側長手側部19と、これらを繋ぐバッフルプレート(底板)20を有しており、これらの三者は、例えば図3に示す前後の壁部21,22によって一体に繋がっている。
【0028】
例えば図2に示すように、バッフルプレート20には、複数のオイル落とし穴23(23a,23b,23c)が空いている。オイル落とし穴23は複数空いており、総称するときは符号23を付し、個別に名称を付けて示す必要がある場合は、a,b,cの添え字を付けている。
【0029】
補助クランクケース5の上側長手側部18及び下側長手側部19とには、図3に示すように、補助クランクケース5をシリンダブロック1に固定するための内向きのボス部24が、前後方向に断続的に並べて形成されている。オイルパン4の上面は水平状になっているため、上側長手側部18の左右幅は大きくて、下側長手側部19の左右幅は大きくなっている。
【0030】
例えば図3,7,8に示すように、補助クランクケース5の上側長手側部18には、下向きの段部25が前後方向(クランク軸線方向)に長い姿勢で形成されており、段部25の底端にバッフルプレート20が繋がっている。
【0031】
オイルポンプは、図2に表示したいフロントカバー14に配置されており、オイルポンプには、例えば図8に示すストレーナ26からオイルが吸い上げられる。図8に示すように、ストレーナ26は、クランク軸線方向に長い横向きパイプ27(図4も参照)とその先端に接続された吸い口28とで構成されている。従って、屈曲した構造になっている。
【0032】
図4に一点鎖線で示すように、ストレーナ26の横向きパイプ27は、補助クランクケース5の内部のうち下側長手側部19の前端部に沿った箇所に配置されており、補助クランクケース5の前壁部21と下側長手側部19とにボルトで固定されている。前壁部21に固定するボルトはクランク軸線方向に長い姿勢になっている一方、下側長手側部19に固定するボルトは、クランク軸線と直交した姿勢になっている。
【0033】
図7に示すように、横向きパイプ27の先端部には、吸い口28と連通する穴29が空いている。また、図2,6,9,10に示すように、補助クランクケース5のバッフルプレート20には、吸い口28が通過する逃がし穴30が空いている。
【0034】
オイルポンプで吸引されたオイルは、図3に示すオイルフィルタ31で濾過される。例えば図6に示すように、補助クランクケース5の前壁部21には、オイルフィルタ31を固定するための取り付け座32を前向きに突設している。なお、図3に符号33,34で示すのは、オイル通路を形成するボス部である。
【0035】
また、図7に符号35で示すのは、シリンダブロック1に形成したPCV通路である。補助クランクケース5には、クランク軸6の回転によって発生してオイルミスト流がPCV通路35に向かうことを阻止するため、庇状のバッフルリブ36と、PCV通路35と対向したランド部37とを形成している。
【0036】
(3).バッフルプレートの構造
図8に示すように(図10も参照)、補助クランクケース5のバッフルプレート20には、クランク軸線方向から見た正断面視において上向きに膨れた湾曲部20aが形成されている。湾曲部20aは、全体として緩く湾曲しているが、最も高い頂点(稜線)が、オイルパン4(及びバッフルプレート20)を左右に二分する長手中心線O4(図6,9参照)よりも)シリンダブロック1に近い部位に位置するように、シリンダブロック1に寄せられている(オフセットされている。)。本実施形態では、バッフルプレート20は全体的に湾曲しているが、湾曲部20aをクランク軸6に近い部位のみに形成して、バッフルプレート20を湾曲部20aと平坦部とで構成することも可能である。
【0037】
また、図6に示すように、バッフルプレート20のうちオイルフィルタ取り付け座32に近い前部は、湾曲部20aを備えていない平坦部20bになっている。従って、平坦部20bは湾曲部20aの下端よりも低くなっている。そして、既述のとおり、車体の旋回時にタイミングチェーン13を利用してオイルがオイルパン4に向けて掻き出されるが、掻き出されたオイルは平坦部20bに向かう。そこで、平坦部20bに、その長手方向に長い(左右方向に長い)補助オイル落とし穴23を空けている。
【0038】
また、バッフルプレート20には、シリンダブロック1に設けたオイル戻し通路から流下したオイルがダイレクトに入り込むメインオイル落とし穴23bと、バッフルプレート20の上面を流れたオイルや、ピストン冷却用オイルジェットのオイルようにクランク室に飛散したオイルが入り込むサブオイル落とし穴23cとが形成されている。
【0039】
クランク室に飛散したオイルはメインオイル落とし穴23bにも流入するので、厳密には、メインとサブとの区別はつけ難いが、湾曲部20aの頂点40よりもクランク軸6に近い部位に形成されているものをメインオイル落とし穴23bと呼び、湾曲部20aの頂点40よりもクランク軸6から遠くに形成されているものをサブオイル落とし穴23cと呼ぶことができる。
【0040】
さて、エンジンの暖機運転時間を短縮するためにはオイルの早期昇温が必要であり、そのためには、エンジンの各部を巡って昇温したオイルをオイルポンプに戻して循環させるのが有益である。しかし、シリンダブロック1から戻ったオイルがオイルパン4に広く拡散すると、エンジンを巡って昇温したオイルを有効利用できずに、オイルの早期昇温が損なわれてしまう。
【0041】
これに対して、実施形態のように、バッフルプレート20に湾曲部20aを形成して、湾曲部20aの頂点40よりクランク軸6に近い部位にメインオイル落とし穴23bを形成すると、シリンダブロック1のオイル落とし通路から流下したオイルはストレーナ26における吸い口28の近傍部に流下するため、昇温したオイルを再び吸い上げて循環させることができる。従って、オイルの早期昇温を実現して暖機時間の短縮化に貢献できる。
【0042】
オイルをオイルパン4のうちシリンダブロック1に近い部位に戻す手段としては、バッフルプレート20に左右長手のリブを突設することも可能であるが、この場合は、補助クランクケース5をダイキャストで製造するに際して型抜きが困難になる。すなわち、補助クランクケース5は、図8の状態で上下に離反する上型と下型とをメイン型として、上型に設けたスライド型によって内面を形成することになるが、スライド型は図8に矢印41で示す方向にスライドするため、リブを突設することはできない。
【0043】
これに対して実施形態のように湾曲部20aを形成すると、湾曲部20aは、スライド型の後退を許容した状態で形成できるため、製造上の問題を招来することなく、オイルをメインオイル落とし穴23bに集中的に戻して早期昇温を実現できる。この点、本実施形態の大きな利点の一つである。
【0044】
また、バッフルプレート20は、その機能としてオイルの跳ね上がりを防止できるが、補助クランクケース5に一体に形成されているため、補助クランクケースの剛性を向上できる。更に、バッフルプレート20が湾曲していると、車体が左右に揺れてオイルが揺れ動くにおいて、オイルの動きを滑らかにして吸い口28への流入性を向上できる利点がある。
【0045】
(4).吸い口・ドレン穴
ストレーナ26を構成する吸い口28は合成樹脂製であり、図10(A)に示すように(図8も参照)、全体として下方に向けて緩く窄まっていると共に、下に向けて前に行くように傾斜している(左右方向にも傾斜している)。
【0046】
また、吸い口28の下部は、請求項に記載した弱化部の一例として、薄肉化された小径部28aになっている。従って、小径部28aは衝撃に対して弱い弱化部になっており、オイルパン4が路面の石などに当たって上向きに凹むと、小径部28aが破損したり変形したりする。従って、吸い口28が上端の付け根から折損するようなことはなくて、軽度の損傷のときにエンジンの運転を継続できる。
【0047】
更に述べると、ストレーナ26の吸い口28はオイルパン4の最も深いに部位に配置されているため、オイルパン4は、走行時に吸い口28の近傍において路面に当たりやすいが、仮に、オイルパン4が路面に当たって凹み変形しても、吸い口28に対するダメージを下部に留めておくことにより、継続運転を可能にしている。
【0048】
吸い口28の小径部28aは、単に薄肉化することによって形成してもよいし、肉厚は全体として均等にしつつ小径化してもよい。肉厚を全体として均等化した場合は、内面には小径部28aの上端の箇所に段ができる。
【0049】
さて、オイルパン4のバッフルプレート20にはオイル交換に際してオイルを抜き取るドレン穴42が空いており、ドレン穴42は、下方からねじ込んだドレンプラグ(ボルト)43で塞がれている。
【0050】
そして、本実施形態では、ドレン穴42は、オイルパン4のうち吸い口28の下端部の後ろに位置した後ろ壁部44の傾斜部に、吸い口28の小径部28aを人が視認できる位置にドレン穴42を空けている。
【0051】
従って、オイルパン4で凹んで吸い口28の小径部28aが折損したり変形したりすると、オイルを抜いて内部を覗き見ることにより、ダメージがオイルの吸引を可能な状態か可能でない状態であるかを確認できる。その結果、サービス工場に走行できるかレッカー車を使用せざるを得ないかかの判断を簡単に行える。
【0052】
吸い口28を視認することは、ライトでオイルパン4の内部を覗き見ること行えるが、ライトが無かったり暗くて視認し難い場合は、指先を小径部に当てて、感触によってダメージの状態を把握できる。すなわち、指先が届いて折損状態や曲がり状態を判る場合は運転可能であり、吸い口28が根元から大きく曲がって指先が届かない場合は運転不能と判断できる。
【0053】
実施形態のように、ドレン穴42をオイルパン4のうち後部の傾斜した後ろ壁部44に形成すると、ドレン穴42とドレンプラグ43はオイルパン4の最下面よりも高い位置に位置しているため、ドレンプラグ43が路面に衝突することを防止できる。また、ドレン穴42は、車体の前進方向に向いて後ろに位置しているため、路面への衝突に際してオイルパン4が大きく凹んでも、ドレンプラグ43が損傷することを防止して、オイルの抜き取りを容易に行える。
【0054】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えは、適用されるエンジンはスラント型に限らず、シリンダボアを鉛直状又はそれに近い姿勢にしたエンジンにも適用できる。この場合は、補助クランクケースは不要である。また、吸い口の弱化部としては、下端寄りの部位に環状のノッチを形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本願発明は、内燃機関に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 シリンダブロック
4 オイルパン
5 補助クランクケース
6 クランク軸
18 補助クランクケースの上側長手側部
19 補助クランクケースの下側長手側部
20 補助クランクケースのバッフルプレート
20a 湾曲部
23(23a~23c) オイル落とし穴
26 ストレーナ
27 ストレーナを構成する横向きパイプ
28 ストレーナを構成する吸い口
30 逃がし穴
40 湾曲部の頂点
42 ドレン穴
43 ドレンプラグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10