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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】光波長変換装置及び光複合装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20220809BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20220809BHJP
   H01S 5/022 20210101ALI20220809BHJP
   C04B 35/117 20060101ALI20220809BHJP
   F21V 9/00 20180101ALI20220809BHJP
   F21V 7/00 20060101ALI20220809BHJP
   F21V 29/502 20150101ALI20220809BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20220809BHJP
【FI】
G02B5/20
C09K11/80
H01S5/022
C04B35/117
F21V9/00
F21V7/00 300
F21V29/502 100
F21S2/00 375
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017191058
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019066632
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高久 翔平
(72)【発明者】
【氏名】勝 祐介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 経之
(72)【発明者】
【氏名】志村 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】坂 慎二
(72)【発明者】
【氏名】光岡 健
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-186882(JP,A)
【文献】特開2017-116719(JP,A)
【文献】特開2015-119046(JP,A)
【文献】特開2013-250318(JP,A)
【文献】特開2017-173370(JP,A)
【文献】特開2012-243624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
C09K 11/80
H01S 5/022
C04B 35/117
F21V 9/00
F21V 7/24
F21V 29/502
F21S 2/00
F21Y 115/10
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した光の波長を変換する光波長変換部材と、該光波長変換部材よりも放熱性に優れた放熱部材と、前記光波長変換部材と前記放熱部材とを接合する接合部と、を備えた光波長変換装置において、
前記光波長変換部材は、前記光が入射する第1面に光の反射を抑制する反射防止膜を備え、前記第1面と反対側の第2面に光を反射する反射膜を備え、該反射膜と前記接合部との間に前記反射膜と前記接合部との接合性を向上させる中間膜を備えており、
且つ、前記光波長変換部材は、蛍光性を有する結晶粒子を主体とする蛍光相と、透光性を有する結晶粒子を主体とする透光相と、を有するセラミックス焼結体から構成されたセラミックス蛍光体であり、
さらに、前記透光相の結晶粒子はAlの組成を有し、前記蛍光相の結晶粒子は化学式A12:Ceで表される組成を有するとともに、前記A元素及び前記B元素は、それぞれ下記元素群から選択される少なくとも1種の元素から構成されており、
前記光波長変換部材の前記第1面の平均面粗さ(算術平均粗さSa)が、0.001μm<Sa<0.5μmである、
光波長変換装置。
A:Sc、Y、ランタノイド(但し、Ceは除く)
(但し、Aとして更にGdを含んでいてもよい)
B:Al(但し、Bとして更にGaを含んでいてもよい)
【請求項2】
入射した光の波長を変換する光波長変換部材と、該光波長変換部材よりも放熱性に優れた放熱部材と、前記光波長変換部材と前記放熱部材とを接合する接合部と、を備えた光波長変換装置において、
前記光波長変換部材は、前記光が入射する第1面に光の反射を抑制する反射防止膜を備え、前記第1面と反対側の第2面に光を反射する反射膜を備え、該反射膜と前記接合部との間に前記反射膜と前記接合部との接合性を向上させる中間膜を備えており、
且つ、前記光波長変換部材は、蛍光性を有する結晶粒子を主体とする蛍光相と、透光性を有する結晶粒子を主体とする透光相と、を有するセラミックス焼結体から構成されたセラミックス蛍光体であり、
さらに、前記透光相の結晶粒子はAl の組成を有し、前記蛍光相の結晶粒子は化学式A 12 :Ceで表される組成を有するとともに、前記A元素及び前記B元素は、それぞれ下記元素群から選択される少なくとも1種の元素から構成されており、
前記光波長変換部材の前記第1面の表面粗さ(算術平均粗さRa)が、0.001μm<Ra<0.4μmである、
光波長変換装置。
A:Sc、Y、ランタノイド(但し、Ceは除く)
(但し、Aとして更にGdを含んでいてもよい)
B:Al(但し、Bとして更にGaを含んでいてもよい)
【請求項3】
前記光波長変換部材の前記第1面から前記第2面に至る厚さが、100~400μmである、
請求項1又は2に記載の光波長変換装置。
【請求項4】
前記光波長変換部材の屈折率n1と前記反射防止膜の屈折率n2との比屈折率差Δn{=(n1-n2)/n1}は、0.3以下である、
請求項1~のいずれか1項に記載の光波長変換装置。
【請求項5】
前記請求項1~のいずれか1項に記載の光波長変換装置を備えた、
光複合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば光波長変換機器、蛍光材、各種照明、映像機器などに用いられるような、光の波長の変換が可能な光波長変換装置及び光複合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばヘッドランプや各種照明機器などでは、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)や半導体レーザー(LD:Laser Diode)の青色光を、光波長変換部材である蛍光体によって波長変換することにより白色を得ている装置が主流となっている。
【0003】
蛍光体としては、樹脂系やガラス系などが知られているが、近年、光源の高出力化が進められており、蛍光体には、より高い耐久性が求められるようになったことから、セラミックス蛍光体に注目が集まっている。
【0004】
また、近年では、上述した蛍光体を用いた装置として、所定方向(例えば上面)から光を入射して光の波長変換を行い、反射膜にて反対方向に反射して、装置の外部に波長変換後の光(即ち蛍光)を放射する装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/021027号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した従来技術では、光波長変換部材である蛍光体に放熱部材を接合させて放熱を行っているが、放熱効果が十分ではない。そのため、蛍光体の温度が上昇すると、温度消光によって、放射される光の強度(即ち発光強度:蛍光強度)が低下する恐れがあった。
【0007】
また、前記従来技術の蛍光体では、その材料として、単一組成のYAG系蛍光体等を用いているが、例えば高い蛍光強度や少ない色ムラなどの十分な光波長変換特性が得られていないのが現状である。
【0008】
本開示は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、放熱特性に優れ、しかも、光波長変換特性に優れた光波長変換装置及び光複合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本開示の第1局面は、入射した光の波長を変換する光波長変換部材と、該光波長変換部材よりも放熱性に優れた放熱部材と、前記光波長変換部材と前記放熱部材とを接合する接合部と、を備えた光波長変換装置に関するものである。
【0010】
この光波長変換装置では、前記光波長変換部材は、前記光が入射する第1面に光の反射を抑制する反射防止膜を備え、前記第1面と反対側の第2面に光を反射する反射膜を備え、該反射膜と前記接合部との間に前記反射膜と前記接合部との接合性を向上させる中間膜を備えている。
【0011】
さらに、前記光波長変換部材は、蛍光性を有する結晶粒子を主体とする蛍光相と、透光性を有する結晶粒子を主体とする透光相と、を有するセラミックス焼結体から構成された
セラミックス蛍光体である。
【0012】
しかも、前記透光相の結晶粒子はAlの組成を有し、前記蛍光相の結晶粒子は化学式A12:Ceで表される組成を有するとともに、前記A元素及び前記B元素は、それぞれ下記元素群から選択される少なくとも1種の元素から構成されている。
【0013】
A:Sc、Y、ランタノイド(但し、Ceは除く)
(但し、Aとして更にGdを含んでいてもよい)
B:Al(但し、Bとして更にGaを含んでいてもよい)
このように、本第1局面では、光波長変換部材に放熱性に優れた(即ち熱伝導率の高い)放熱部材を接合する構成により、光波長変換部材に入射する光(例えばレーザー光)によって発生する熱を効率良く放熱できる。そのため、高いエネルギーの光が入射しても(例えば高いレーザー出力のレーザー光が入射しても)、温度消光が生じにくいので、高い蛍光強度を維持することができる。
【0014】
なお、この放熱部材の材料としては、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)などの材料を採用でき、特に銅を放熱部材に用いるが望ましい。また、放熱部材の厚さとしては、0.1mm~4mmの範囲であることが望ましい。
【0015】
本第1局面では、放熱部材と中間膜との間に接合部を設けることで、放熱部材と反射膜と好適に接合することができる。
この接合部の材料としては、半田(ハンダ)、金属ロウ、銀ペースト、無機バインダーなどの材料を採用できる。なお、熱伝導性を向上させるために、ハンダを用いることが望ましい。また、接合部の厚さとしては、0.01μm~100μmの範囲であることが望ましい。
【0016】
本第1局面では、光波長変換部材の第2面に反射膜を備えているので、光波長変換部材の内部で発生する蛍光を効率良く反射できる。そのため、通常ならば透過する光を反射させて、目的とする方向(即ち外部)に効率よく放射させることができる。よって、光波長変換部材の発光強度が向上する。
【0017】
この反射膜の材料としては、アルミニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ランタン、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化ガドリニウム、酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素などの材料を採用できる。なお、反射膜は、単層でも多層構造でもよい。また、反射膜の厚さとしては、0.1μm~1μmの範囲であることが望ましい。
【0018】
本第1局面では、光波長変換部材の第1面に反射防止膜(例えばARコート)を備えているので、第1面での光の反射を抑制できる。そのため、光波長変換部材に多くの光を入射させることができるので、入射した光を蛍光相の結晶粒子に効率よく吸収させることができる。さらに、反射防止膜がある場合には、光波長変換部材の内部で発生した光を効率よく外部に取り出すことが可能になる。そのため、光波長変換部材の発光強度が向上する。
【0019】
この反射防止膜として、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化マグネシウムなどの材料を採用できる。なお、反射防止膜は単層でも多層構造でもよい。また、反射防止膜の厚さとしては、0.01μm~1μmの範囲であることが望ましい。
【0020】
本第1局面では、反射膜(例えばAl層)と接合部(例えばハンダ層)との間に反射膜
と接合部との接合性を向上させる中間膜(例えばNi層)を備えている。そのため、反射膜と接合部との接合性が向上するので、反射膜側の光波長変換部材から接合部側の放熱部材への放熱性が向上するという効果がある。これにより、光波長変換部材の温度消光を抑制できるので、蛍光強度が向上するという利点がある。
【0021】
この中間膜の材料としては、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)などの材料を採用できる。なお、中間膜は単層でも多層構造でもよい。また、中間膜の厚さとしては、0.01μm~1μmの範囲であることが望ましい。
【0022】
また、本第1局面では、基本的な構成として、光波長変換部材は、蛍光性を有する結晶粒子を主体とする蛍光相と、透光性を有する結晶粒子を主体とする透光相と、を有するセラミックス焼結体から構成され、しかも、セラミックス焼結体が、前記元素群から選択される少なくとも1種の元素から構成されているA12:Ceで表されるガーネット構造を有している。
【0023】
このように、光波長変換部材に前記セラミックス焼結体を使用することで、蛍光相と透光相の界面での光の散乱が起き、光の色の角度依存性を減らすことができ、色均質性を向上できる(即ち色ムラを低減できる)。
【0024】
しかも、光波長変換部材に前記セラミックス焼結体を使用することで、熱伝導率が良くなるので、例えばレーザー光等の光の照射によって光波長変換部材にて発生した熱を、効率良く放熱部材に排出することができる。そのため、例えばレーザー光の高出力域でも、高い蛍光特性を維持することができる。
【0025】
また、従来のように、光波長変換部材の種類が単一組成であると光の散乱が起こらずに、光の色の角度依存性が大きくなり、光の色のムラが生じる。また、蛍光体に樹脂を用いると熱伝導率が低いため、放熱ができずに温度消光がおきる。
【0026】
それに対して、本第1局面では、上述した構成のガーネット構造を有するセラミックス焼結体を用いるので、色ムラの発生や温度消光の発生を抑制できる。
つまり、本第1局面では、上述した構成により、高い蛍光強度や少ない色ムラなどの十分な光波長変換特性が得られる。例えば、効率よく青色光を可視光に変換することができる。
【0027】
なお、化学式A12:Ceで表される組成を有する化合物(即ち蛍光相の結晶粒子を構成する物質)は、セラミックス焼結体全体の3vol%~70vol%の範囲であることが望ましい。また、化学式A12:Ceで表される組成を有する化合物におけるCeの含有率(Ce濃度)は、前記化合物の前記Aに対して、0.1mol%~1.0mol%の範囲であることが望ましい。
【0028】
さらに、化学式A12:Ceで表される組成を有する化合物にGdを含む場合には、そのGdの含有率(Gd濃度)は、前記化合物の前記Aに対して、30mol%以下であることが望ましい。同様に、前記化合物にGaを含む場合には、そのGaの含有率(Ga濃度)は、前記化合物の前記Bに対して、30mol%以下であることが望ましい。
【0029】
(2)本開示の第2局面では、前記光波長変換部材の前記第1面から前記第2面に至る厚さが、100μm~400μmであってもよい。
光波長変換部材の厚さが100μmよりも薄い場合、透過方向の蛍光成分が少なくなり、蛍光不足のため蛍光強度が低くなることがある。一方、光波長変換部材の厚さが400
μmよりも厚い場合、光波長変換部材の内部での光の吸収が多くなるので、得られる光自体が少なくなってしまい、蛍光特性が低下することがある。
【0030】
従って、前記厚さの範囲とすることで、高い蛍光特性(即ち蛍光強度)および高い放熱性が得られる。
(3)本開示の第3局面では、前記光波長変換部材の前記第1面の平均面粗さ(算術平均粗さSa)が、0.001μm<Sa<0.5μmであってもよい。
【0031】
光波長変換部材の前記第1面の平均面粗さSaが0.001μmより小さいと、第1面での鏡面反射が起き、入射光を効率的に取り入れられず、蛍光特性(例えば蛍光強度)が低下することがある。一方、第1面の平均面粗さSaが0.5μmより大きいと、第1面での乱反射が起きることで、発せられる光を効率的に取り出せずに、蛍光特性(例えば蛍光強度)が低下することがある。
従って、前記平均面粗さSaの範囲とすることで、高い蛍光特性が得られる。
【0032】
なお、平均面粗さ(算術平均粗さSa)とは、ISO25178で規定されたパラメータである。
(4)本開示の第4局面では、前記光波長変換部材の前記第1面の表面粗さ(算術平均粗さRa)が、0.001μm<Ra<0.4μmであってもよい。
【0033】
光波長変換部材の前記第1面の表面粗さRaが0.001μmより小さいと、第1面での鏡面反射が起き、入射光を効率的に取り入れられず、蛍光特性(例えば蛍光強度)が低下することがある。一方、第1面の表面粗さRaが0.4μmより大きいと、第1面での乱反射が起きることで、発せられる光を効率的に取り出せずに、蛍光特性(例えば蛍光強度)が低下することがある。
従って、前記表面粗さRaの範囲とすることで、高い蛍光特性が得られる。
【0034】
なお、表面粗さ(算術平均粗さRa)とは、JIS B 0601:2013で規定されたパラメータである。
(5)本開示の第5局面では、前記光波長変換部材の屈折率n1と前記反射防止膜の屈折率n2との比屈折率差Δn{=(n1ーn2)/n1}は、0.3以下であってもよい。
【0035】
光波長変換部材の屈折率n1と反射防止膜の屈折率n2との比屈折率差Δn、即ち(n1ーn2)/n1が大きいと、光波長変換部材と反射防止膜との界面の反射率が大きくなるため、光波長変換部材に光が入射しにくくなる。よって、蛍光特性(例えば蛍光強度)が低下することがある。
【0036】
そのため、前記比屈折率差Δnは、0.3以下が好ましい。
(6)本開示の第6局面は、第1~第5局面のいずれかの光波長変換装置を備えた光複合装置である。
【0037】
本第6局面の光複合装置は、発光装置等において、光波長変換装置に光を照射する場合に、放熱性に優れているので、温度消光を抑制できる。また、光波長変換装置にて波長が変換された光(即ち蛍光)は、高い蛍光強度を有する。また、高い色均質性を有する(即ち色ムラが少ない)。
【0038】
<以下に、本発明の各構成について説明する>
・「蛍光相」は、蛍光性を有する結晶粒子を主体とする相であり、「透光相」は、透光性を有する結晶粒子、詳しくは蛍光相の結晶粒子とは異なる組成の結晶粒子を主体とする
相である。
【0039】
・「主体」とは、前記光波長変換部材中において、最も多い量(即ち体積)存在することを示している。例えば、蛍光相には、蛍光性を有する結晶粒子を50体積%以上(好ましくは90体積%以上)含まれていてもよい。また、例えば、透光相には、透光性を有する結晶粒子を50体積%以上(好ましくは90体積%以上)含まれていてもよい。
【0040】
・「光波長変換部材」は、上述した構成を有するセラミックス焼結体であり、各結晶粒子やその粒界には、不可避不純物が含まれていてもよい。このセラミックス焼結体には、透光相及び透光相(従って蛍光性を有する結晶粒子及び透光性を有する結晶粒子)が、セラミックス焼結体の50体積%以上(好ましくは90体積%以上)含まれていてもよい。
【0041】
・「A12:Ce」とは、A12中の元素Aの一部にCeが固溶置換していることを示しており、このような構造を有することにより、同化合物は蛍光特性を示すようになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】実施形態の光波長変換装置を備えた光複合装置を厚み方向に破断した断面を示す断面図である。
図2】実施形態の光波長変換装置を厚み方向に破断した断面を示す断面図である。
図3】光源ユニットを示す説明図である。
図4】(a)は実施例の試料を示す斜視図、(b)は(a)のA-A断面を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に、本開示の光波長変換装置及び光複合装置の実施形態について説明する。
[1.実施形態]
[1-1.光複合装置]
まず、本実施形態の光波長変換装置及び光複合装置について説明する。
【0044】
<光複合装置の構成>
図1に示すように、本実施形態の光波長変換装置1は、例えばアルミナ等の箱状または板状のセラミック製のパッケージ(容器または基板)3に収容されている。以下、光波長変換装置1がパッケージ3に収容されたものが、光複合装置5である。なお、基板上に光波長変換装置1が搭載されたものも収容と称する。
【0045】
前記光波長変換装置1は、光波長変換部材9を含む板状の積層体11と板状の放熱部材13とが、層状の接合部15により接合されたものである。つまり、図2に示すように、光波長変換装置1は、光の入射側(図2の上方)から順番に、反射防止膜17、光波長変換部材9、反射膜19、中間膜21、接合部15、放熱部材13が配置されたもの(詳しくは積層されたもの)である。
【0046】
なお、光波長変換装置1に対しては、後述するように、図2の上方または側方から光が照射される。例えばレーザー光を発生する発光素子(図示せず)から、例えばレーザー光が反射防止膜17の表面(上面:第1面9a)に対して照射される。
【0047】
以下、詳細に説明する。
反射防止膜17は、光波長変換部材9よりも光の反射率が低いものであり、外部からの光の反射を抑制することにより、外部からの光を光波長変換部材9に効率的に取り込むための薄膜である。
【0048】
この反射防止膜17は、例えば、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化マグネシウムのうちの1種の材料からなる薄膜である。なお、反射防止膜17は、前記材料からなる単層であっても同種又は異なる材料からなる多層構造であってもよい。
【0049】
また、反射防止膜17の厚さは、例えば0.01μm~1μmの範囲である。反射防止膜17の厚さが0.01μmより薄いと、反射防止効果が少ない。一方、1μmを超えると、反射防止膜17による光吸収が大きくなり、光の減衰に繋がる。そのため、光波長変換部材9の発光強度が低下する。
【0050】
反射膜19は、光波長変換部材9を透過した光や光波長変換部材9にて発生した蛍光を反射する薄膜である。この反射膜19は、例えば、アルミニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ランタン、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化ガドリニウム、酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素のうちの1種の材料からなる薄膜である。なお、反射膜19は、前記材料からなる単層であっても同種又は異なる材料からなる多層構造であってもよい。
【0051】
また、反射膜19の厚さは、例えば0.1μm~1μmの範囲である。反射膜19の厚さが0.1μmより薄いと、光が透過してしまい、反射効果が少ない。一方、1μmを超えると、反射膜19による光吸収が大きくなる。そのため、光波長変換部材9の発光強度が低下したり、熱の発生源となる。
【0052】
中間膜21は、接合部15の接合性を向上させる薄膜、例えば接合部15がハンダの場合にはハンダの濡れ性を向上させる薄膜である。この中間膜21は、例えば、金、銀、ニッケルのうちの1種の材料からなる薄膜(例えばメッキ膜)である。なお、中間膜21は、前記材料からなる単層であっても同種又は異なる材料からなる多層構造であってもよい。
【0053】
また、中間膜21の厚さは、例えば0.01μm~1μmの範囲である。中間膜21の厚さが0.01μmより薄いと、例えば濡れ性が低下し接合が上手くいかない恐れがある。一方、1μmを超えると、熱伝導性が低下し、熱引き効果が悪くなる恐れがある。
【0054】
接合部15は、光波長変換部材9側の構成(詳しくは反射膜19)と放熱部材13とを、(中間膜21を介して)接合する層である。接合部15は、例えば、半田(ハンダ)、金属ロウ、銀ペースト、無機バインダーのうちの1種の材料からなる層(固化した層)である。なお、接合部15は、前記材料からなる単層であっても同種又は異なる材料からなる多層構造であってもよい。
【0055】
また、接合部15の厚さは、例えば0.01μm~100μmの範囲である。接合部15の厚さが0.01μmより薄いと、接合強度が低く剥離が生じる恐れがある。一方、100μmを超えると、厚み方向の両側における熱膨張差が大きくなり、剥離の原因となる恐れがある。
【0056】
放熱部材13は、光波長変換部材9の放熱性を高めるための板材、即ち光波長変換部材9よりも高い熱伝導性を有する板材である。この放熱部材13は、例えば、銅、アルミニウム、窒化アルミニウムのうちの1種の材料からなる板材である。なお、放熱部材13は、前記材料からなる単層であっても同種又は異なる材料からなる多層構造であってもよい。
【0057】
また、放熱部材13の厚さは、例えば0.1mm~4mmの範囲である。放熱部材13の厚さが0.1mmより薄いと、十分な熱引き効果が得られない恐れがある。一方、4mmを超えると、厚み方向の両側における熱膨張差が大きくなり、剥離の原因となる恐れがある。
【0058】
<光複合装置の機能>
図1に示すように、前記光複合装置5では、発光素子から放射された光は、反射防止膜17を介して、透光性を有する光波長変換部材9を透過するとともに、その光の一部は光波長変換部材9の内部で波長変換されて発光する。つまり、光波長変換部材9では、発光素子から放射される光の波長とは異なる波長の蛍光を発する。
【0059】
そして、光波長変換部材9にて発生した蛍光の一部は、反射防止膜17を介して、図1の上方等の外部に照射される。
また、光波長変換部材9を透過した光又は光波長変換部材9にて発生した蛍光の他の一部は、反射膜19にて反射し、再度光波長変換部材9に入射し、その後、反射防止膜17を介して、図1の上方等の外部に照射される。
【0060】
例えば、LDから照射される青色光が、光波長変換部材9によって波長変換されることにより、全体として白色光が光波長変換部材9から外部(例えば図1の上方)に照射される。
【0061】
上述した光複合装置5は、例えば図3に示すような光源ユニット25に用いられる。
光源ユニット25は、光複合装置5に、周知の(発光素子等を備えた)青色レーザー(即ち第1青色レーザー27、第2青色レーザー29)を加え、さらにダイクロイックミラー31とレンズ33とを備えている。
【0062】
なお、光複合装置5におけるパッケージ3には、LEDやLDなどの発光素子を搭載する発光素子搭載領域が設けられていてもよい。
この光源ユニット25では、第1青色レーザー27から光複合装置5の光波長変換装置1に対して、図3の右方向にレーザー光(即ち第1青色光)照射される。この第1青色光は、光波長変換装置1にて波長変換されるとともに、反射して黄色光として、図3の左方向に出力される。
【0063】
この黄色光は、図3の左右方向に対して45°傾斜したダイクロイックミラー31にて反射して、レンズ33に出力される。
一方、第2青色レーザー29からレンズ33側(図3の上方向に)照射された第2青色光は、ダイクロイックミラー31を透過して、レンズ33に出力される。
【0064】
これにより、レンズ33に出力される光は、第1青色光と黄色光とが混合されて、レンズ33からは図3の上方に白色光が出力される。
[1-2.光波長変換部材]
次に、光波長変換部材9について説明する。
【0065】
本実施形態の光波長変換部材9は、蛍光性を有する結晶粒子(即ち蛍光相粒子)を主体とする蛍光相と、透光性を有する結晶粒子(即ち蛍光相粒子)を主体とする透光相と、を有するセラミックス焼結体から構成されたものである。
【0066】
この光波長変換部材9では、透光相の結晶粒子はAlの組成を有し、蛍光相の結晶粒子は化学式A12:Ceで表される組成を有している。また、前記A元素及び前記B元素は、それぞれ下記元素群から選択される少なくとも1種の元素から構成され
ている。
【0067】
A:Sc、Y、ランタノイド(但し、Ceは除く)
(但し、Aとして更にGdを含んでいてもよい)
B:Al(但し、Bとして更にGaを含んでいてもよい)
例えば光波長変換部材9では、透光相の結晶粒子はAlの組成を有し、蛍光相の結晶粒子は化学式A12:Ceで表される組成を有している。また、前記A元素及び前記B元素は、それぞれ下記元素群から選択される少なくとも1種の元素から構成されている。
【0068】
なお、前記化学式A12:CeのA及びBは、化学式A12:Ceで示される物質(いわゆるガーネット構造を有する物質)を構成する各元素(但し異なる元素)を示しており、Oは酸素、Ceはセリウムである。
【0069】
例えば、前記化学式A12:Ceの化合物としては、化学式YAl12:Ceで示される化合物(いわゆるYAG系化合物)が挙げられる。
また、本実施形態では、光波長変換部材9の上面である第1面9aから下面である第2面9bに至る厚さが、100μm~400μmである。
【0070】
さらに、光波長変換部材9の第1面9aの平均面粗さ(算術平均粗さSa)が、0.001μm<Sa<0.5μmである。また、光波長変換部材9の第1面1aの表面粗さ(算術平均粗さRa)が、0.001μm<Ra<0.4μmである。
【0071】
なお、光波長変換部材9では、化学式A12:Ceで表される化合物は、セラミックス焼結体全体の例えば3vol%~70vol%の範囲である。
また、化学式A12:Ceで表される化合物におけるCe濃度は、化合物のA元素に対して例えば0.1mol%~1.0mol%の範囲である。
[1-3.各部材の屈折率]
本実施形態では、光波長変換部材9の屈折率n1と反射防止膜17の屈折率n2との比屈折率差Δn{=(n1ーn2)/n1}は、0.3以下である。
【0072】
例えば下記表1に示すように、光波長変換部材9と反射防止膜17との材料を選択した場合には、その屈折率は下記表1に示す値となる。
【0073】
【表1】
また、各光波長変換部材9と各反射防止膜17とを組み合わせた場合の材料を選択した場合には、その比屈折率差は下記表2に示す値となる。
【0074】
【表2】
[1-4.光波長変換部材及び光複合装置の製造方法]
a)まず、光波長変換部材9を製造する手順について、簡単に説明する。
【0075】
前記実施形態の構成を満たすように、セラミックス焼結体である光波長変換部材9の粉末材料の秤量等を行った(即ち調製した)。
次に、調製した粉末材料に、有機溶剤と分散剤とを加え、ボールミルにて粉砕混合を行い、スラリーを作製した。
【0076】
次に、得られたスラリーを、乾燥、造粒した。
次に、得られた造粒粉を、プレス成形した。
次に、プレス成形体を、所定温度で所定時間焼成し、セラミックス焼結体を得た。
【0077】
なお、上述したプレス成形によるセラミックス焼結体の製造方法以外に、スラリーをシート成形して得られたシート成形体を焼成することにより、セラミックス焼結体を得てもよい。
【0078】
b)次に、光複合装置5を製造する手順について、簡単に説明する。
前記セラミック焼結体である光波長変換部材9の第1面9aに、例えばスパッタリング等によって、反射防止膜17を形成した。
【0079】
また、光波長変換部材9の第2面9bに、例えばスパッタリング等によって、反射膜19を形成した。
次に、反射膜19の表面に、例えばスパッタリング等によって、中間膜21を形成した。なお、中間膜21の形成方法は、スパッタリング以外に、メッキ等を採用できる。或いは、例えばNiシート等の金属シートなどを熱圧着して形成してもよい。
【0080】
その後、例えばハンダ等の周知の接合材料を用いて、積層体11(詳しくは中間膜21)と放熱部材13とを接合した(即ちハンダ付けした)。これによって、光波長変換装置1を得た。
【0081】
次に、容器3の底部の表面に、例えば接着剤を用いて、光波長変換装置1を接合して、光複合装置5を得た。
[1-5.効果]
次に、本実施形態の効果を説明する。
【0082】
(1)本実施形態では、光波長変換部材9に放熱性に優れた放熱部材13を接合する構成により、光波長変換部材9に入射する光によって発生する熱を効率良く放熱できる。そのため、高いエネルギーの光が入射しても、温度消光が生じにくいので、高い蛍光強度を維持することができる。
【0083】
本実施形態では、放熱部材13と中間膜21との間に接合部15を設けることで、放熱部材13と反射膜19と好適に接合することができる。
本実施形態では、光波長変換部材9の第2面9bに反射膜19を備えているので、光波長変換部材9の内部で発生する蛍光等を効率良く反射できる。そのため、光波長変換部材9の発光強度が向上する。
【0084】
本実施形態では、光波長変換部材9の第1面9aに反射防止膜17を備えているので、第1面9aでの光の反射を抑制できる。そのため、光波長変換部材9に多くの光を入射させることができるので、入射した光を蛍光相の結晶粒子に効率よく吸収させることができる。また、反射防止膜17がある場合には、光波長変換部材9の内部で発生した光を効率よく外部に取り出すことが可能になる。そのため、光波長変換部材9の発光強度が向上する。
【0085】
本実施形態では、反射膜19と接合部15との間に中間膜21を備えている。そのため、反射膜19と接合部15との接合性が向上するので、光波長変換部材9側から放熱部材13側への放熱性が向上する。これにより、光波長変換部材9の温度消光を抑制できるので、蛍光強度が向上する。
【0086】
また、本第実施形態では、基本的な構成として、光波長変換部材9は、蛍光性を有する結晶粒子を主体とする蛍光相と、透光性を有する結晶粒子を主体とする透光相と、を有するセラミックス焼結体から構成され、しかも、セラミックス焼結体が、前記元素群から選択される少なくとも1種の元素から構成されているA12:Ceで表されるガーネット構造を有している。
【0087】
そのため、蛍光相と透光相の界面での光の散乱が起き、光の色の角度依存性を減らすことができ、色均質性が向上する(即ち色ムラを低減できる)。
しかも、光波長変換部材9に上記セラミックス焼結体を使用することで、熱伝導率が良くなるので、光の照射によって光波長変換部材9にて発生した熱を、効率良く放熱部材13に排出することができる。そのため、例えばレーザー光の高出力域でも、高い蛍光特性を維持することができる。
【0088】
また、上述した構成のガーネット構造を有するセラミックス焼結体を用いるので、色ムラの発生や温度消光の発生を抑制できる。
つまり、本実施形態では、上述した構成により、高い蛍光強度や少ない色ムラなどの十分な光波長変換特性が得られる。
【0089】
(2)本実施形態では、光波長変換部材9の第1面9aから第2面9bに至る厚さが、100μm~400μmである。よって、高い蛍光特性(即ち蛍光強度)および高い放熱性が得られる。
【0090】
(3)本実施形態では、光波長変換部材9の第1面9aの平均面粗さ(算術平均粗さSa)が、0.001μm<Sa<0.5μmである。よって、高い蛍光特性が得られる。
(4)本実施形態では、光波長変換部材9の第1面9aの表面粗さ(算術平均粗さRa)が、0.001μm<Ra<0.4μmである。よって、高い蛍光特性が得られる。
【0091】
(5)本実施形態では、光波長変換部材9の屈折率n1と反射防止膜17の屈折率n2との比屈折率差Δn{=(n1ーn2)/n1}は、0.3以下である。よって、高い蛍光特性が得られる。
[2.実施例]
次に、前記実施形態の具体的な実施例について説明する。
【0092】
ここでは、下記表3、表4に記載のNo.1~32の光波長変換装置の各試料、即ち実施例1~5の光波長変換装置の各試料を作製した。
なお、各試料のうち、No.1~12、18~32が本開示の範囲内の試料(本開示例)であり、No.13~17が本開示の範囲外(比較例)の試料である。
[2-1.試料の評価方法]
まず、各試料に対して実施した各評価の方法について説明する。
【0093】
<耐レーザー出力>
各試料に対して、465nmの波長を有するレーザー光(即ち青色LD光)を、レンズで0.1mm幅まで集光して照射した。そして、各試料にて反射した光を、分光放射照度計(コニカミノルタ製CL-500A)によって色度値(X方向)を測定した。この測定の際には、青色LD光を照射する出力密度を、0~100W/mmの間で徐々に増加させた。
【0094】
そして、レーザー出力5W/mm時の色度値に対して60%以下になった場合に、温度消光が生じたと判断し、その時のレーザー出力密度を、下記表4に記載した。100W/mmでも消光しないものについては、「>100」と記載した。なお、耐レーザー出力に関しては、100W /mm以上まで消光しないものが好ましい。
【0095】
<蛍光強度>
各試料に対し、465nmの波長を有する青色LD光を、レンズで0.1mm幅まで集光して照射した。そして、各試料にて反射した光をレンズによって集光させ、パワーセンサーによりその発光強度(即ち蛍光強度)を測定した。このとき照射される出力密度は40W/mmとなるようにした。
【0096】
この蛍光強度は、YAG:Ce単結晶体の強度を100とした時の相対値(%)で評価した。なお、蛍光強度に関しては、100%以上であることが好ましい。
<色ムラ>
色ムラ(即ち色バラツキ)は、照度計による色度バラツキ測定によって評価した。
【0097】
具体的には、各試料に対し、465nmの波長を有する青色LD光をレンズで集光させて0.5mm幅とし、これを照射して反射した光について、分光放射照度計(コニカミノルタ製CL-500A)によって色度を測定した。
【0098】
照射は、各試料の表面(即ち第1面であるサンプル面)に対して、9mm角の中央部分を3mm間隔で9個所の領域に区分し、各領域の色度(X方向)のバラツキ(Δx)を評価した。その結果(色バラツキ)を、下記表4に記載した。バラツキ(Δx)とは色度方向の偏差の最大値を示し、Δx<0.03となることが好ましい。
【0099】
なお、色度とは、国際照明委員会(CIE)が1931年に策定した国際表示法で、CIE-XYZ表色系で示される色度である。つまり、表色上の3原色を数値化し、xy座標空間で色を表したxy色度図(いわゆるCIE色度図)で示される色度である。
【0100】
<表面粗さ>
・各試料を作製する前の段階において、光波長変換装置の第1面の平均粗さ(算術平均粗さRa)及び平均面粗さ(算術平均粗さSa)を、非接触三次元測定機インフィニートフォーカスG5(アリコナイメージング社製)にて測定した。
【0101】
算術平均粗さRaに関しては、JIS B 0601:2013で規定されたパラメータであり、サンプルの任意の5箇所について測定し、その平均値を下記表4に記載した。なお、算術平均粗さSaは、二次元の算術平均粗さRaを三次元に拡張したものであり、ISO25178で規定されたパラメータであり、その測定結果を下記表4に記載した。
【0102】
・また、各試料の作製後(即ち反射防止膜の形成後)において、下記の方法によって、光波長変換装置の第1面の平均粗さ(算術平均粗さRa)を測定した。
具体的には、図4(a)に示すように、各試料の層構造を観察できるように、各試料を厚み方向に破断し、その破断面(例えば図4(b)参照)について、任意の5箇所の10000倍の画像を得た。得られた画像に対して画像処理し、JIS B 0601:2013に則り、蛍光体(即ち光波長変換部材)の表面の算術平均粗さRaを測定し、5点平均を算出した。その結果を、下記表4の「二次元表面粗さRa」の欄に記載した。
【0103】
なお、表3には、各試料について、蛍光体(光波長変換部材)の種類、A元素の種類、B元素の種類、反射防止膜の有無、反射膜の有無、中間膜の、蛍光体の厚みを記載した。
なお、蛍光体の厚みは、16mm角の蛍光体において、中央部と端部との合計4個所の厚みをマイクロメータで測定し、その平均値を求めて、前記蛍光体の厚みとした。
[2-2.試料の製造方法及び評価結果]
次に、各試料の製造方法と、各試料の評価結果について説明する。
【0104】
<実施例1>
下記表3等に示す条件により、No.1~12の光波長変換装置の試料を作製した。
具体的には、各試料の光波長変換装置のセラミックス焼結体の組成(即ちAlーA12:Ce)に応じて、下記表3に示すように、Al(平均粒径0.2μm)、Y(平均粒径1.2μm)、Lu(平均粒径1.1μm)、Sc(平均粒径1.2μm)、CeO(平均粒径1.5μm)、Gd(平均粒径1.1μm)、Ga(平均粒径1.1μm)の各粉末材料を秤量した。
【0105】
このとき、A12:Ce量は、セラミックス焼結体全体の30vol%に固定するように、各粉末材料を秤量した。なお、Gd、Gaを添加する場合には、A元素又はB元素に対して、それぞれ、Gd又はGaを15mol%に固定した。
【0106】
これらの粉末を、エタノールと共にボールミル中に投入し、16hr粉砕混合を行った。得られたスラリーを乾燥・造粒し、得られた造粒粉をプレス成形した。得られた成形体を大気雰囲気中で焼成を行った。この際、焼成温度を1600℃、保持時間を10時間として焼成を行った。これによって、セラミックス焼結体(即ち光波長変換部材である蛍光体)を得た。
【0107】
次に、得られた蛍光体を、16mm角、厚さ200μmに加工した。
次に、前記加工後の蛍光体の上面(第1面)に、スパッタリングによって、厚さ1μm
のSiOからなる反射防止膜を形成した。
【0108】
また、蛍光体の下面(第2面)に、スパッタリングによって、厚さ1μmのAlからなる反射膜を形成した。
次に、反射膜の表面に、スパッタリングによって厚さ1μmのNiからなる中間膜を形成した。
【0109】
次に、反射防止膜、反射膜、中間膜を形成した蛍光体を、3.5mm角に切断した。また、銅板からなる放熱基板(即ち放熱部材)を、12mm角、厚さ1.5mmの形状に加工した。
【0110】
次に、蛍光体と放熱基板とを接合した。ここでは、蛍光体(詳しくは中間膜)と放熱基板との間に、接合部の材料としてハンダ(即ちPbを主成分とするハンダや、Pbフリーハンダ)を配置し、蛍光体と放熱基板とのハンダ付けを行った。これによって、光波長変換装置の各試料を得た。
【0111】
次に、この製造方法によって得られた本開示の範囲のNo.1~12の各試料の光波長変換装置について、上述した評価方法による評価を行った。その結果を、下記表4に記す。
表4から明らかなように、本開示の範囲内の各試料では、耐レーザー出力が高く(即ち100W/mmでも消光が発生せず)、蛍光強度が110%以上と高く、色バラツキ(色ムラ)が0.028以下と小さく、好結果が得られた。
【0112】
なお、表1には記載しないが、セラミックス焼結体の相対密度はいずれの試料も99%以上であった。なお、他の実施例2~5の試料についても同様であった。
<実施例2>
下記表3等に示す条件により、本開示の範囲外のNo.13、14の光波長変換装置の試料を作製し、前記実施例1と同様に評価を行った。
【0113】
この実施例2の試料の作製方法は、基本的には、実施例1と同様である。
但し、実施例1とは、蛍光体の種類が異なる。つまり、No.13の試料は、YAG粒子を樹脂中に分散させたものであり、No.14の試料は、YAG単結晶のものである。
【0114】
この結果を、下記表4に示すが、実施例2の試料は、耐レーザー出力が75W/mm以下であり、十分ではない。これは、蛍光体自身の熱伝導率が低く、発生する熱が多くなり、温度消光が発生したと考えられる。
【0115】
<実施例3>
下記表3等に示す条件により、本開示の範囲外のNo.15~17の光波長変換装置の試料を作製し、前記実施例1と同様に評価を行った。
【0116】
この実施例3の試料の作製方法は、基本的には、実施例1と同様である。
但し、No.15の試料は、反射防止膜がなく、No.16の試料は、反射膜がなく、No.17の試料は、中間膜がないものである。
【0117】
この結果を、下記表4に示すが、No.15の試料は、反射防止膜がないため、入射する光(即ち青色光)を効率良く吸収できず、蛍光強度が低下した。No.16の試料は、反射膜がないため、反射光が接合部に吸収されてしまい、蛍光強度が低下した。No.17の試料は、中間膜がないため、ハンダの濡れ性が低下し、蛍光体と放熱基板との接合ができなかった。
【0118】
<実施例4>
下記表3等に示す条件により、本開示の範囲内のNo.18~26の光波長変換装置の試料を作製し、前記実施例1と同様に評価を行った。
【0119】
この実施例4の試料の作製方法は、基本的には、実施例1と同様である。但し、各試料では、蛍光体の厚みを50μm~450μmの範囲で変更した。
この結果を、下記表4に示すが、No.18~26の試料は、実施例1と同様に、耐レーザー出力が高く、蛍光強度が高く、色バラツキが小さく、好適な結果が得られた。
【0120】
特に、蛍光体の厚みが100μm~400μmの範囲のNo.19~25の試料は、他のNo.18、26の試料に比べて、蛍光強度が高く、しかも、高いレーザー出力の範囲で蛍光を維持しており、好適であった。
【0121】
一方、蛍光体の厚みが100μmより薄いNo.18の試料では、透過方向の蛍光成分が少なくなるため、蛍光不足となり、蛍光強度が低くなった。また、蛍光体の厚みが400μmより厚いNo.26の試料では、蛍光体が厚いため、蛍光体内部での光の吸収が大きくなり、蛍光強度が低くなった。
【0122】
<実施例5>
下記表3等に示す条件により、本開示の範囲内のNo.27~32の光波長変換装置の試料を作製し、前記実施例1と同様に評価を行った。
【0123】
この実施例5の試料の作製方法は、基本的には、実施例1と同様である。
但し、各試料では、蛍光体の第1面の算術平均粗さSaを、0.0008~0.5μmの範囲で変更した。なお、算術平均粗さSaは、蛍光体表面の機械研磨や、ブラスト処理などの表面処理によって変更することができる。
【0124】
この結果を、下記表4に示すが、No.27~32の試料は、実施例1と同様に、耐レーザー出力が高く、蛍光強度が大きく、色バラツキが小さく、好適な結果が得られた。
特に、算術平均粗さSaが、0.001μm<Sa<0.5μmであり、算術平均粗さRaが、0.001μm<Ra<0.4μmであるNo.28~31の試料は、他のNo.27、32の試料に比べて、蛍光強度が高く好適であった。
【0125】
一方、蛍光体表面の算術平均粗さSaが0.0001μmよりも小さいNo.27の試料では、蛍光体表面での光の反射が高くなり、蛍光強度が低下した。同様に、蛍光体表面の算術平均粗さSaが0.5μmより大きなNo.32の試料では、蛍光体表面の乱反射によって発せられる光を効率よく得られなので、蛍光強度は低下した。
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
[3.他の実施形態]
本開示は前記実施形態になんら限定されるものではなく、本開示を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【0128】
(1)例えば、前記光波長変換装置や光複合装置の用途としては、蛍光体、光波長変換機器、ヘッドランプ、照明、プロジェクター等の光学機器など、各種の用途が挙げられる。
(2)光複合装置に対して光を照射する発光素子としては特に限定はなく、周知のLEDやLDなど、各種のものを採用できる。
【0129】
(3)なお、上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を、省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0130】
1…光波長変換装置
5…光複合装置
9…光波長変換部材
9a…第1面
9b…第2面
13…放熱部材
15…接合部
17…反射防止膜
19…反射膜
21…中間膜
25…発光装置
図1
図2
図3
図4