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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】金属製材料物の非接触劣化検知方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20220809BHJP
   E04B 1/64 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
E04G23/02 A
E04B1/64 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018065901
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019173520
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江里口 玲
(72)【発明者】
【氏名】井坂 幸俊
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-285356(JP,A)
【文献】特開2015-055050(JP,A)
【文献】特開2005-078473(JP,A)
【文献】特開2018-009983(JP,A)
【文献】特開2011-250047(JP,A)
【文献】特開2008-090813(JP,A)
【文献】特開2000-026174(JP,A)
【文献】特開2016-148364(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0252449(US,A1)
【文献】特開2012-018018(JP,A)
【文献】特開2016-098596(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0222084(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0356870(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04B 1/64
C23C 4/08
C23F 13/00
C23F 13/02
C23F 13/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属の被覆物によって覆われることで外側から視認できない状態で設置された、金属製の対象物の非接触劣化検知方法であって、
前記対象物の面のうち、前記被覆物の外表面に近い側の第一面上の位置、又は前記第一面よりも前記被覆物の外表面側の方向に前記対象物から離れた位置に、設置された金属対応RFタグと、
前記金属対応RFタグよりも前記対象物から離れた位置に設置され、前記金属対応RFタグから送信される電波信号を受信可能なリーダ又はリーダライタと、を含み、
前記リーダ又はリーダライタによって受信された、前記金属対応RFタグからの前記電波信号の強度に基づいて、前記対象物の劣化の程度を検知することを特徴とする非接触劣化検知方法。
【請求項2】
前記対象物の面のうち、前記被覆物の外表面に近い側の第一面上の位置、又は前記第一面よりも前記被覆物の外表面側の方向に前記対象物から離れた位置には、前記金属対応RFタグが設置されており、
前記金属対応RFタグよりも前記対象物から離れた位置に、前記リーダ又はリーダライタを設置する工程(b)、及び
前記リーダ又はリーダライタによって、前記金属対応RFタグから送信される前記電波信号を受信する工程(c)
を有することを特徴とする、請求項に記載の非接触劣化検知方法。
【請求項3】
前記工程(c)において読み取られた前記電波信号の強度が、所定の閾値を下回っている場合に、前記対象物が劣化していると判断する工程(d)を更に有することを特徴とする、請求項に記載の非接触劣化検知方法。
【請求項4】
前記工程(c)は、前記電波信号の強度と共に、前記金属対応RFタグに付された識別情報を読み取る工程であり、
前記工程(d)は、
前記リーダ又はリーダライタが、前記識別情報に対応した前記金属対応RFタグが設置された前記対象物の残存量と、前記金属対応RFタグからの前記電波信号の強度との関係を示す基準情報を読み出す工程(d-1)、及び
前記工程(c)において読み取られた前記電波信号の強度と、前記基準情報とに基づいて、前記対象物の残存量を推定する工程(d-2)を有することを特徴とする、請求項に記載の非接触劣化検知方法。
【請求項5】
前記対象物が、鉄筋コンクリート構造物に埋め込まれた犠牲陽極材であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の非接触劣化検知方法。
【請求項6】
前記金属対応RFタグは、前記対象物に近い側の面の一部に接着された、故障検知用金属部材を備えることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の非接触劣化検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から視認できない状態で設置された、金属製材料物の非接触劣化検知方法に関する。また、本発明は、かかる非接触劣化検知方法の利用が可能な犠牲陽極材に関する。
【背景技術】
【0002】
塩害によって劣化した鉄筋コンクリート構造物を補修するための方法のひとつとして、断面修復工法がある。これは、塩化物イオンを含有したコンクリート部材を除去し、ポリマー系の補修材などによって、断面を修復する工法である。
【0003】
しかしながら、このような塩化物イオンを含んだコンクリートを断面修復した場合、断面修復箇所と既設コンクリート部材との間において、塩化物イオン量や中性化の進行に差が生じ、既設コンクリート内の鉄筋のアノード反応が加速されて再劣化の原因になることが知られている。この現象は、「マクロセル腐食」と呼ばれる。
【0004】
このマクロセル腐食を防止するための方法のひとつとして、鉄筋よりもイオン化傾向の高い金属材料からなる部材(犠牲陽極材)を設け、犠牲陽極材側をアノード部、鉄筋をカソード部とする防食回路を形成して、鉄筋内に防食電流を流す方法が知られている。この犠牲陽極材としては、亜鉛が広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-026174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
犠牲陽極材を用いたマクロセル腐食の保護は、防食電流を流すことによるものであるため、原理的に、経時的な犠牲陽極材(例えば亜鉛材)の劣化(減肉)が避けられない。しかし、この犠牲陽極材は、鉄筋コンクリート構造物内に埋め込まれているため、外部から視認することができず、その残存量を作業員が容易に知ることはできなかった。このため、実務上は、経験則に基づいて、所定の年数(例えば15年)が経過する毎に、定期的に犠牲陽極材を新しいものと交換するという作業を行うに留まっていた。
【0007】
しかし、鉄筋コンクリート構造物が設置されている環境や、同構造物自体の個々の特性、利用された犠牲陽極材の形状や大きさ、材料などの各種要因によって、個々の鉄筋コンクリート構造物に埋め込まれている犠牲陽極材の劣化(減肉)の速度は異なることが予想される。つまり、上記のように、単に経験則に基づいて犠牲陽極材を交換するという態様を採用すると、既に犠牲陽極材が大幅に減肉されていて鉄筋の腐食が開始・進行してしまっているタイミングで、犠牲陽極材の交換をすることになる場合も想定される。
【0008】
このため、鉄筋コンクリート構造物に埋め込まれている犠牲陽極材の残存量を、外部から簡易に検知できる方法が存在すれば、それぞれの鉄筋コンクリート構造物の環境要因などに応じて、事前に適切なタイミングで犠牲陽極材を交換できるため、好ましい。しかしながら、現時点において、このような方法は知られていない。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑み、外部から視認できない状態で設置された、金属製材料物の劣化の程度を、簡易な方法で検知することのできる方法を提供することを目的とする。また、本発明は、かかる方法を利用することのできる犠牲陽極材を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、金属対応RFタグ、及び当該金属対応RFタグとの間で通信可能なリーダ又はリーダライタを用いることで、金属製材料からなる対象物に接触することなく、当該対象物の劣化を検知することができる方法を見出し、本発明を完成するに至った。更に、本発明者らは、この方法は、鉄筋コンクリート構造物に埋め込まれた犠牲陽極材のみならず、一般的に、非金属材料物に埋め込まれ、外部から視認できない状態で設置された、金属製材料物の劣化を検知する方法に活用できることを新たに見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、非金属の被覆物によって覆われることで外側から視認できない状態で設置された、金属製の対象物の非接触劣化検知方法であって、
前記対象物の面のうち、前記被覆物の外表面に近い側の第一面上の位置、又は前記第一面よりも前記被覆物の外表面側の方向に前記対象物から離れた位置に、設置された金属対応RFタグと、
前記金属対応RFタグよりも前記対象物から離れた位置に設置され、前記金属対応RFタグから送信される電波信号を受信可能なリーダ又はリーダライタと、を含み、
前記リーダ又はリーダライタによって受信された、前記金属対応RFタグからの前記電波信号の有無に基づいて、前記対象物の劣化を検知することを特徴とする。
【0012】
なお、本明細書において、「リーダ」とは、金属対応RFタグから送信される電波信号を読み取る機能を備え、金属対応RFタグに対して情報の書き込み機能を備えない機器を指し、「リーダーライタ」とは、金属対応RFタグから送信される電波信号を読み取る機能と共に、金属対応RFタグに対して情報の書き込み機能を備える機器を指す。以下では、煩雑さを避けるために、リーダ又はリーダライタという記載を、「リーダライタ等」と略記することがある。
【0013】
金属対応RFタグは、当該金属対応RFタグの、リーダライタ等とは反対側の近傍の位置に金属材料が存在していると、リーダライタ等との間で通信が形成される一方、前記位置に金属材料が存在しない場合には、リーダライタ等に対して送信される信号強度が極めて低下する性質を有する。つまり、上記方法によれば、リーダライタ等によって受信された電波信号の強度が十分高い場合には、金属製の対象物があまり劣化(減肉)されておらず、逆に、電波信号が検知できない程度に低い場合には、金属製の対象物が劣化していることを検知できる。
【0014】
そして、上記方法の場合、リーダライタ等のみ、又はリーダライタ等と金属対応RFタグとを、測定対象となる対象物が設置されている現場に持参するのみで、容易に対象物の劣化の程度を検知できる。
【0015】
なお、上記方法において、前記リーダ又はリーダライタによって受信された、前記金属対応RFタグからの前記電波信号の強度に基づいて、前記対象物の劣化の程度を検知するものとしても構わない。
【0016】
より詳細には、上記方法は、
前記被覆物の前記外表面上又は前記外表面よりも外側に前記金属対応RFタグを設置する工程(a)、
前記金属対応RFタグよりも前記対象物から離れた位置に、前記リーダ又はリーダライタを設置する工程(b)、及び
前記リーダ又はリーダライタによって、前記金属対応RFタグから送信される前記電波信号を受信する工程(c)
を有するものとすることができる。
【0017】
また別の態様として、上記方法は、
前記対象物の面のうち、前記被覆物の外表面に近い側の第一面上の位置、又は前記第一面よりも前記被覆物の外表面側の方向に前記対象物から離れた位置には、前記金属対応RFタグが設置されており、
前記金属対応RFタグよりも前記対象物から離れた位置に、前記リーダ又はリーダライタを設置する工程(b)、及び
前記リーダ又はリーダライタによって、前記金属対応RFタグから送信される前記電波信号を受信する工程(c)
を有するものとすることができる。
【0018】
上記方法において、
前記工程(c)において読み取られた前記電波信号の強度が、所定の閾値を下回っている場合に、前記対象物が劣化していると判断する工程(d)を更に有するものとしても構わない。
【0019】
この場合において、前記工程(c)は、前記電波信号の強度と共に、前記金属対応RFタグに付された識別情報を読み取る工程であり、
前記工程(d)は、
前記リーダ又はリーダライタが、前記識別情報に対応した前記金属対応RFタグが設置された前記対象物の残存量と、前記金属対応RFタグからの前記電波信号の強度との関係を示す基準情報を読み出す工程(d-1)、及び
前記工程(c)において読み取られた前記電波信号の強度と、前記基準情報とに基づいて、前記対象物の残存量を推定する工程(d-2)を有するものとしても構わない。
【0020】
前記対象物は、非金属の被覆物によって覆われることで外側から視認できない状態で設置された、金属材料物であれば、特に限定されない。一例として、前記対象物は、鉄筋コンクリート構造物に埋め込まれた犠牲陽極材とすることができる。
【0021】
前記金属対応RFタグは、前記対象物に近い側の面の一部に接着された、故障検知用金属部材を備えるものとすることができる。
【0022】
本発明に係る非接触劣化検知方法によれば、対象物の劣化が進行して残存量が少ないほど、リーダライタ等で受信される電波信号の強度は低下する。このため、対象物の劣化が極めて進行している場合、リーダライタ等において電波信号を全く受信できない場合が考えられる。このような場合、リーダライタ等及び/又は金属対応RFタグが、故障をしているのか、対象物が滅失する程度にまで劣化が進行しているのかを判定することができない。
【0023】
これに対し、上記のように、金属対応RFタグに故障検知用金属部材を予め接着しておくことで、対象物が滅失する程度にまで劣化が進行していた場合においても、故障検知用金属部材が存在することに伴い、リーダライタ等及び/又は金属対応RFタグが故障していなければ、リーダライタ等において所定強度(以下、「最低基準強度」と呼ぶ。)の電波信号を受信することができる。よって、リーダライタ等側で実際に受信された電波信号の強度を、この最低基準強度と比較することで、対象物の劣化の程度を推定できる。また、実際に、リーダライタ等側で電波信号が受信できなかった場合には、リーダライタ等及び/又は金属対応RFタグが故障していることを認識することができる。
【0024】
また、本発明は、
鉄筋コンクリート構造物に埋め込まれることで、当該鉄筋コンクリート構造物に含まれる鉄筋の腐食を抑制する、金属製の犠牲陽極材であって、
向かい合う2面のうちの一方の面の一部に取り付けられた、金属対応RFタグを有することを別の特徴とする。
【0025】
かかる犠牲陽極材を鉄筋コンクリート構造物に設けることで、マクロセル腐食を抑制しつつ、経時的な犠牲陽極材の劣化(減肉)の程度を、上記方法によって検知又は推定することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、外部から視認できない状態で設置された、金属製材料物の劣化を、簡易な方法で検知することが可能となり、また、かかる方法で劣化を検知することのできる犠牲陽極材が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る非接触劣化検知方法の第一実施形態の態様を模式的に示す図面である。
図2図1において、犠牲陽極材が劣化している場合の態様を模式的に示す図面である。
図3】リーダライタの機能ブロック図の一例である。
図4】サーバとの通信が可能なリーダライタの機能ブロック図の一例である。
図5図1において、犠牲陽極材が故障検知用金属部材を備える場合の態様を模式的に示す図面である。
図6A】金属対応RFタグの一方の面を模式的に示す平面図である。
図6B】金属対応RFタグの一方の面を模式的に示す別の平面図である。
図6C】金属対応RFタグの一方の面を模式的に示す更に別の平面図である。
図7図1において、犠牲陽極材がほぼ滅失する程度にまで劣化している場合の態様を模式的に示す図面である。
図8】本発明に係る非接触劣化検知方法の第二実施形態の態様を模式的に示す図面である。
図9】本発明に係る非接触劣化検知方法の別実施形態の態様を模式的に示す図面である。
図10】本発明に係る非接触劣化検知方法の別実施形態の態様を模式的に示す図面である。
図11A】実施例1の測定結果を示すグラフである。
図11B】実施例1の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の非接触劣化検知方法、及び犠牲陽極材の実施形態につき、適宜図面を参照して説明する。なお、以下の図面において、説明の都合上、一部が誇張して図示されている場合があり、実際の寸法比と図面上の寸法比とは必ずしも一致しない。
【0029】
[第一実施形態]
図1は、本発明に係る非接触劣化検知方法の第一実施形態の態様を模式的に示す図面である。図1において、コンクリート構造物10は、コンクリート部材11、鉄筋12、犠牲陽極材13を有する。犠牲陽極材13は、例えば亜鉛(Zn)やアルミニウム(Al)などの金属材料、又はこれらを含む合金材料からなる。犠牲陽極材13は、非金属の保護層14によって外表面が封止されており、外部からは視認できない態様である。本実施形態では、犠牲陽極材13が、劣化測定の「対象物」に相当する。
【0030】
なお、図1に示す例では、犠牲陽極材13がシート状部材で構成されている場合が想定されている。
【0031】
そして、本実施形態では、犠牲陽極材13の2面(13a,13b)のうち、鉄筋12とは反対側の面、すなわちコンクリート構造物10の外表面10aに近い側の面13a上に、金属対応RFタグ2が設置されている。この犠牲陽極材13の面13aが「第一面」に対応する。
【0032】
図1に示す状態は、例えば、コンクリート部材11の一部を削り落とし、鉄筋12の近傍に犠牲陽極材13を設置した後、犠牲陽極材13の面13a上に金属対応RFタグ2を設置し、その後に、例えばFRP(繊維強化プラスチック)などの非金属材料からなる、1~5mm厚程度の保護層14で被覆することで実現される。すなわち、本実施形態の例では、現場のコンクリート構造物10内には、予め犠牲陽極材13と共に金属対応RFタグ2が埋め込まれている。なお、図示しないが、鉄筋12と犠牲陽極材13とは、導電性材料からなる部材によって電気的に接続されている。
【0033】
作業員は、コンクリート構造物10に含まれる犠牲陽極材13の劣化の有無又はその程度を確認する場合、コンクリート構造物10に埋め込まれた金属対応RFタグ2との間で無線通信が可能なリーダライタ3を当該コンクリート構造物10の現場に持参する。そして、リーダライタ3を、犠牲陽極材13が埋め込まれている領域の近傍に設置又は把持し(工程(b)に対応)、リーダライタ3から所定周波数の無線信号W1を金属対応RFタグ2に向けて放射して、金属対応RFタグ2から送信される無線信号W2を受信する(工程(c))。
【0034】
リーダライタ3は、専用機器であっても構わないし、無線信号W2の受信が可能な専用アプリケーションプログラムがインストールされた、スマートフォンやタブレットPCなどの汎用機器であっても構わない。なお、本実施形態では、「リーダライタ3」を用いる場合を例として説明するが、少なくとも金属対応RFタグ2との間で通信可能な機器であればよく、すなわち、金属対応RFタグ2に対する情報の書き込み機能を有しない、いわゆる「リーダ」であっても構わない。以下の実施形態においても同様である。
【0035】
金属対応RFタグ2は、信号発信源(ここではリーダライタ3)とは反対側の位置に金属材料物が存在すると、リーダライタ3からの無線信号W1を受信して、無線信号(応答信号)W2を送信することのできるRFタグである。一例として、金属対応RFタグ2は、920MHz帯の無線信号W1に対応している。
【0036】
図2に示すように、犠牲陽極材13が劣化(減肉)している場合、金属対応RFタグ2の面(2a,2b)のうち、コンクリート構造物10の外表面と反対側の面2b側に形成されている犠牲陽極材13の厚みが低下したり、一部欠損が生じたりする。この場合、金属対応RFタグ2において受信される、リーダライタ3からの無線信号W1の強度が低くなる。この結果、金属対応RFタグ2からリーダライタ3側へ送信される無線信号W2の強度も低くなる。さらに、犠牲陽極材13の劣化が進行すると、リーダライタ3は金属対応RFタグ2との間で通信ができなくなる。
【0037】
つまり、リーダライタ3側で受信される無線信号W2の強度が低い場合には、犠牲陽極材13の劣化が進行していることを検知することができる。よって、例えば予め犠牲陽極材13を交換すべきであることを示す閾値を設定しておくことで、この閾値よりもリーダライタ3側で受信される無線信号W2の強度が低い場合には、犠牲陽極材13の交換時期が到来していることが確認できる。また、リーダライタ3の通信感度によっては、金属対応RFタグ2との通信の有無で犠牲陽極材13の劣化が生じたことを知ることができる。
【0038】
なお、図2では、犠牲陽極材13の面13a上に金属対応RFタグ2が設置されている場合が図示されているが、犠牲陽極材13の劣化が進行する結果、犠牲陽極材13の面13aと金属対応RFタグ2との接触が外れる場合も考えられる。かかる場合は、図1の状態と比較して、リーダライタ3側で受信される無線信号W2の強度が更に低下する。
【0039】
リーダライタ3は、無線信号W2の強度に応じて、犠牲陽極材13の劣化の程度を、初期時点からの残存比率の値そのものや、残存比率に応じた指標(A/B/Cなど)などを表示する機能を有していても構わない。図3は、リーダライタ3の機能ブロック図の一例である。リーダライタ3は、記憶部31、判定処理部32、表示出力部33、及び通信部34を備える。記憶部31は、フラッシュメモリ、ハードディスクなどの記憶媒体で構成される。判定処理部32は、取得した情報に基づいて演算処理を行う処理部であり、専用のハードウェア又はソフトウェアで構成される。表示出力部33は、所定の表示用の演算処理を行うと共に、不図示のモニタに処理後の内容を表示する機能的手段である。通信部34は、無線通信を行うためのインタフェースである。
【0040】
記憶部31には、予め、金属対応RFタグ2から受信した無線信号W2の強度と、犠牲陽極材13の残存量との相関関係に対応する情報(以下、「基準情報」と呼ぶ。)が記憶されている。通信部34において、金属対応RFタグ2から無線信号W2を受信すると、判定処理部32は、記憶部31に記憶されている基準情報を読み出すと共に(工程(d-1))、この基準情報と実際に受信された無線信号W2の強度とに基づいて、犠牲陽極材13の残存量を推定する(工程(d-2))。そして、表示出力部33は、この判定結果に基づく情報を、リーダライタ3に設けられたモニタ(不図示)に表示させる。これにより、作業員は、リーダライタ3に設けられたモニタの情報を確認するのみで、犠牲陽極材13の残存量及び/又は劣化の程度を認識できる。
【0041】
更に、上記基準情報は、所定のサーバ40から取得して記憶部31内で更新されるものとしても構わない(図4参照)。無線信号W2には、予め金属対応RFタグ2に付された識別情報(i1)を含むことができる。通信部34は、金属対応RFタグ2から、識別情報i1を含む無線信号W2を受信すると、識別情報i1に対応した犠牲陽極材13に係る上記基準情報を、サーバ40からダウンロードして記憶部31に(一時的に)格納する。そして、判定処理部32は、実際に受信された無線信号W2の強度と、サーバ40からダウンロードされた基準情報とに基づいて、犠牲陽極材13の残存量を推定する。
【0042】
この方法によれば、個々のコンクリート構造物10に設けられた犠牲陽極材13の特性を考慮した基準情報に基づいて、犠牲陽極材13の残存量が推定できるため、犠牲陽極材13の劣化の程度を、より高い精度で判定することができる。サーバ40に格納されている基準情報は、犠牲陽極材13の種類や形状に応じて、コンクリート構造物10内に設置される前に、予め犠牲陽極材13の厚みと受信される無線信号W2の強度との関係が測定されることで得られたデータとすることができる。
【0043】
更に、金属対応RFタグ2は、図5に示すように、犠牲陽極材13側の面2bの一部上面に、故障検知用金属部材5が接着されているものとしても構わない。図6Aは、金属対応RFタグ2の犠牲陽極材13側の面2bを模式的に示す図面の一例である。接着には、接着剤を用いることができる。
【0044】
上述したように、金属対応RFタグ2は、リーダライタ3とは反対側の位置に金属材料物が存在する場合に、リーダライタ3から送信された無線信号W1を正しく受信することができる。逆に言えば、仮に金属対応RFタグ2が故障検知用金属部材5を備えない場合において、犠牲陽極材13がほとんど滅失する程度にまで劣化(減肉)している場合(図7参照)、リーダライタ3は、金属対応RFタグ2からの無線信号W2をほとんど検知することができないことが考えられる。かかる場合、作業員は、金属対応RFタグ2、及び/又はリーダライタ3が故障しているために、無線信号W2が検知できないのか、犠牲陽極材13が大きく減肉しているために無線信号W2が検知できないのかを、認識することができない。
【0045】
しかしながら、図5及び図6Aに示すように、金属対応RFタグ2が故障検知用金属部材5を備えることで、仮に、犠牲陽極材13がほとんど滅失する程度にまで劣化している場合であっても、金属対応RFタグ2は、故障検知用金属部材5に基づく強度(最低基準強度)の無線信号W1を受信できるため、この強度の無線信号W1に対応した無線信号W2がリーダライタ3側に送信される。つまり、作業員は、無線信号W2を検知できなかった場合には、金属対応RFタグ2、及び/又はリーダライタ3が故障していることを認識できる。また、リーダライタ3側で受信される無線信号W2の信号強度は、最低基準強度よりも高い強度の範囲内で、犠牲陽極材13の劣化の進行の程度に応じて低下するため、上記と同様の方法により、犠牲陽極材13の劣化の程度を判定することができる。
【0046】
金属対応RFタグ2の面2b上における、故障検知用金属部材5の配置の態様は、図6Aの場合に限定されない。他の配置の態様を、図6B及び図6Cに示す。図6B及び図6Cに図示された配置の態様は、故障検知用金属部材5が、金属対応RFタグ2の面2bの外周の内側の位置において、面2bの中央領域を取り囲むように配置されている。図6Aの配置の態様とは異なり、図6B及び図6Cの配置の態様のように、故障検知用金属部材5が金属対応RFタグ2の面2b上において偏在しないようにすることで、犠牲陽極材13がどこから劣化(減肉)しても、より正確に犠牲陽極材13の劣化の程度を推定できるという効果を奏する。
【0047】
なお、図6A図6Cのいずれの場合においても、故障検知用金属部材5及び/又は犠牲陽極材13が、異種金属腐食することを防止する観点で、故障検知用金属部材5と犠牲陽極材13との間に、絶縁性の保護層(例えば樹脂シート)を介在させるのが好ましい。
【0048】
故障検知用金属部材5は、劣化を検知する対象である金属(本実施形態では犠牲陽極材13を構成する金属)よりも劣化しにくい金属材料であれば特に材料は限定されず、例えば、鉄、銅、ステンレス、亜鉛、アルミニウムなどを用いることができ、この中では、錆に対する耐性の高いステンレスが好ましい。
【0049】
なお、上記では、金属対応RFタグ2が犠牲陽極材13の面13a上に、接着剤などを介して接着されているものとして説明したが、金属対応RFタグ2と犠牲陽極材13の面13aとの間に、例えば厚みが2mm以下程度の薄い被覆材が介在されているものとしても構わない。
【0050】
[第二実施形態]
図8は、本発明に係る非接触劣化検知方法の第二実施形態の態様を模式的に示す図面である。以下、第一実施形態と異なる箇所を中心に説明する。
【0051】
図8に示される、コンクリート構造物10は、図1と同様に、コンクリート部材11、鉄筋12、犠牲陽極材13を有し、犠牲陽極材13は、非金属の保護層14によって外表面が封止されている。一方、金属対応RFタグ2は、第一実施形態とは異なり、コンクリート構造物10内に埋め込まれていない。
【0052】
作業員は、かかるコンクリート構造物10に含まれる犠牲陽極材13の劣化の程度を確認する場合、金属対応RFタグ2とリーダライタ3とを当該コンクリート構造物10が設置されている現場に持参する。そして、金属対応RFタグ2をコンクリート構造物10の外表面10aに設置し(工程(a))、リーダライタ3を金属対応RFタグ2から離間した位置に設置又は把持する(工程(b))。そして、第一実施形態と同様に、リーダライタ3から所定周波数の無線信号W1を金属対応RFタグ2に向けて放射し、金属対応RFタグ2から送信される無線信号W2を受信できるか否か、及び受信できる場合にはその電波強度を確認する(工程(c))。
【0053】
保護層14は、一般的に厚み14tが1~5mm程度であり、厚くても10mm程度以下である。保護層14の厚み14tが、上記範囲内に収まるような場合には、金属対応RFタグ2は、保護層14よりも内側に埋め込まれている犠牲陽極材13の存在により、リーダライタ3からの無線信号W1を受信して、無線信号(応答信号)W2を送信することができる。なお、第一実施形態の場合よりも、リーダライタ3側で無線信号W1の強度を高めるものとしても構わない。
【0054】
本実施形態の態様においても、第一実施形態と同様の理由により、リーダライタ3が受信する無線信号W2の強度に基づいて、犠牲陽極材13の劣化の程度を検知することが可能となる。本実施形態の場合、金属対応RFタグ2が埋め込まれていない、既設のコンクリート構造物10に対して、金属対応RFタグ2とリーダライタ3とを現場に持参して測定するのみで、犠牲陽極材13の劣化の程度を判定することができる。
【0055】
なお、本実施形態において、金属対応RFタグ2は、コンクリート構造物10の外表面10a上に接触するように設置するものとして説明したが、コンクリート構造物10の外表面10aから少し離した位置に設置するものとしても構わない。
【0056】
また、本実施形態においても、金属対応RFタグ2が故障検知用金属部材5を備えるものとしても構わない。
【0057】
[別実施形態]
以下、別実施形態について説明する。
【0058】
〈1〉図9に示すように、金属対応RFタグ2は、コンクリート構造物10内において、犠牲陽極材13と離間した位置に埋め込まれているものとしても構わない。
【0059】
〈2〉図10に示すように、犠牲陽極材13は、コンクリート構造物10の一部の箇所に、シート形状物ではなく柱状物として埋め込まれているものとしても構わない。この場合、犠牲陽極材13が埋め込まれた周辺に補修コンクリート15が設けられており、その外側がコンクリート部材11からなるものとすることができる。補修コンクリート15も、保護層14と同様に非金属材料であるため、リーダライタ3で受信される電波信号の有無及びその強度によって、犠牲陽極材13の劣化(減肉)を検知することができる。
【0060】
〈3〉第一実施形態において、一つのコンクリート構造物10の複数の箇所に、金属対応RFタグ2が埋め込まれているものとしても構わない。この場合、リーダライタ3が受信する無線信号W2には、各金属対応RFタグ2に対応した識別情報(i1)を含めることができるため、場所毎の無線信号W2の強度を検知することができる。これにより、犠牲陽極材13の場所毎の劣化の傾向を知ることができる。
【0061】
〈4〉上記実施形態では、劣化検知の対象物が、コンクリート構造物10内に埋め込まれた犠牲陽極材13である場合を採り上げて説明したが、視認不能な箇所に埋め込まれている金属製の対象物の、劣化の程度を検知する方法として一般的に適用可能である。例えば、土壌内や構造物中に埋設された鉄製配管の錆の程度を、同様の方法で検知することができる。
【実施例
【0062】
以下、実施例を参照して説明する。
【0063】
[実施例1]
対象物として、犠牲陽極材13を模擬した亜鉛板を用い、この亜鉛板の上面に金属対応RFタグ2を載置した。そして、この金属対応RFタグ2と亜鉛板との接触面積を意図的に低下させながら、リーダライタ3で受信される無線信号W2の強度を測定した。金属対応RFタグ2と亜鉛板との接触面積の低下は、犠牲陽極材13が劣化していることを模擬したものである。
【0064】
リーダライタ3は、対応する信号の周波数が920MHz帯で、出力が250mWのものを用いた。リーダライタ3と金属対応RFタグ2との離間距離は5cmとした。亜鉛板は、大きさが横60mm×縦50mm×厚み25mmのものと、横50mm×縦20mm×厚み25mmのものの2種類を用いた。金属対応RFタグ2の大きさは、横25mm×縦9mm×厚み3mmのものを用いた。
【0065】
この結果を、図11A及び図11Bに示す。両図において、横軸は亜鉛板と金属対応RFタグ2との接触面積の減少率であり、縦軸はリーダライタ3で受信された無線信号W2の強度(相対値)である。なお、接触面積の減少率が0%であるとは、金属対応RFタグ2の面の全てが亜鉛板に接触している場合を指す。
【0066】
図11A及び図11Bによれば、いずれも、亜鉛板と金属対応RFタグ2との接触面積が少なくなるほど、リーダライタ3で受信された無線信号W2の強度が低下することが示されている。この結果から、犠牲陽極材13が劣化するほど、リーダライタ3で受信された無線信号W2の強度が低下することが分かり、リーダライタ3で受信された無線信号W2の強度に基づいて、犠牲陽極材13(対象物)の劣化の程度を検知・推定できることが確認される。
【0067】
[実施例2]
対象物として、鉄からなるみがき棒鋼(直径16mm)を用いた。そして、このみがき棒鋼の面上に、上記実施例1で用いた金属対応RFタグ2を、長手方向がみがき棒鋼の軸方向に一致するような向きで設置した。そして、金属対応RFタグ2から5cm離した位置でリーダライタ3を稼働させ、リーダライタ3において受信された無線信号W2の信号強度を測定したところ、35(相対値)であった。
【0068】
次に、同じみがき棒鋼において、錆が発生している箇所(錆の層厚1mm)の上面に金属対応RFタグ2を設置して、同様の測定を行った。この結果、リーダライタ3において受信された無線信号W2の信号強度は、20(相対値)であった。この結果、錆が存在することで、リーダライタ3において受信された無線信号W2の信号強度が低下することが分かる。従って、犠牲陽極材13の場合と同様に、金属対応RFタグ2を鉄筋上に設置することで、鉄筋が腐食したか否か、あるいは腐食の程度を測定することができる。
【0069】
つまり、この実施例2によれば、犠牲陽極材13に限らず、一般的に、リーダライタ3において受信された無線信号W2の信号強度に応じて、金属材料物の劣化の程度が検知・推定できることが確認される。
【0070】
なお、金属対応RFタグ2は、上記実施例1ににおける亜鉛や実施例2における鉄に限られず、他の種類の金属であっても通信が可能である。すなわち、本発明に係る方法によって劣化を検知する対象物は、亜鉛や鉄に限定されず、他の種類の金属であっても構わない。
【符号の説明】
【0071】
2 : 金属対応RFタグ
3 : リーダライタ
10 : コンクリート構造物
11 : コンクリート部材
12 : 鉄筋
13 : 犠牲陽極材
13a,13b : 犠牲陽極材の面
14 : 保護層
15 : 補修コンクリート
31 : 記憶部
32 : 判定処理部
33 : 表示出力部
34 : 通信部
40 : サーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B