(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】流体流通装置及びその流通異常検知方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20220809BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20220809BHJP
G01L 7/18 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B01J19/00 321
B81B1/00
G01L7/18
(21)【出願番号】P 2018091600
(22)【出願日】2018-05-10
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2017140492
(32)【優先日】2017-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】松岡 亮
(72)【発明者】
【氏名】野一色 公二
(72)【発明者】
【氏名】大園 知宏
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-345160(JP,A)
【文献】特開2013-188642(JP,A)
【文献】特表2003-522521(JP,A)
【文献】特表2013-543447(JP,A)
【文献】特表2007-528485(JP,A)
【文献】特開2015-213866(JP,A)
【文献】特表2005-516212(JP,A)
【文献】特開2010-139491(JP,A)
【文献】特開2014-185931(JP,A)
【文献】国際公開第03/060433(WO,A1)
【文献】米国特許第07049622(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
B81B 1/00
G01L 7/18
G01N 21/17、35/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象流体を流通させるための装置であって、
流路形成体であって、それぞれに処理対象流体が流される複数の流体流路と、当該複数の流体流路のそれぞれに対応する複数の検出用空間であって当該複数の検出用空間のそれぞれが特定の長手方向に延びるとともに当該長手方向の両端のうちの少なくとも一方の端が封止されたものと、前記複数の流体流路のそれぞれにおいて設定された流路接続部位と当該流体流路に対応する前記検出用空間において設定された空間接続部位とに接続されて当該流路接続部位と当該空間接続部位とを連通させる複数の連通路と、が形成された流路形成体と、
前記複数の検出用空間のそれぞれに収容される検出用液体及び検出用気体と、
界面位置検出器と、を備え、
前記検出用液体及び検出用気体は、前記検出用空間の長手方向に並んで当該検出用液体と当該検出用気体との間に界面を形成し、かつ、当該検出用液体の存在する領域が前記空間接続部位を含むように、当該検出用空間内に収容され、前記検出用気体は、前記流路接続部位における前記処理対象流体の圧力の変動に応じて前記界面の位置が変動することを許容するように前記検出用空間内に収容され、
前記界面位置検出器は、前記界面の位置を光学的に検出するものであって、前記検出用空間内にその長手方向に沿って測定用光を照射する発光装置と当該測定用光を受けてその強度に対応した信号を出力する受光装置とを含む、流体流通装置。
【請求項2】
請求項1記載の流体流通装置であって、前記複数の検出用空間の少なくとも一部はその長手方向の両端が封止された密閉空間であり、当該密閉空間内に封入される前記検出用気体は前記流路接続部位における前記処理対象流体の圧力の変動に応じて前記界面の位置が変動することを許容するように前記長手方向に膨張及び収縮する、流体流通装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の流体流通装置であって、前記複数の検出用空間の少なくとも一部はその長手方向の一方の端のみが封止されて他方の端が開放された開放空間であり、当該開放空間内の前記検出用気体は前記流路接続部位における前記処理対象流体の圧力の変動に応じて前記界面の位置が変動することを許容するように前記開放空間内に対して出入する、流体流通装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の流体流通装置であって、前記検出用空間の少なくとも一部はその長手方向の一方の端が封止されて他方の端に開閉装置が接続された開閉可能空間であり、前記開閉装置は当該開閉装置が接続された端を封止する閉状態と当該開閉装置が接続された端を開放して前記開閉可能空間に対する前記検出用気体の出入りを許容する開状態とに切換可能であり、前記検出用気体は前記開閉装置が前記閉状態にあるときに前記流路接続部位における前記処理対象流体の圧力の変動に応じて前記界面の位置が変動することを許容するように前記長手方向に膨張及び伸縮する、流体流通装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の流体流通装置であって、前記複数の流体流路が第1の面に沿って互いに平行に延び、前記複数の検出用空間が前記第1の面に対してその法線方向に離間しながら当該第1の面に沿う第2の面に沿って延びる、流体流通装置。
【請求項6】
請求項5記載の流体流通装置であって、前記複数の検出用空間は、当該検出用空間に対応する前記流体流路に沿って延びる、流体流通装置。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の流体流通装置であって、前記複数の連通路のそれぞれは、当該連通路に対応する前記流体流路と前記検出用空間との間に介在して当該流体流路と当該検出用空間とに連通する分離用空間を含み、当該分離用空間内に前記流体流路を流れる処理対象流体と前記検出用液体との間に介在する分離用気体が収容される、流体流通装置。
【請求項8】
請求項7記載の流体流通装置であって、前記複数の流体流路が第1の面に沿って互いに平行に延び、前記複数の検出用空間が前記第1の面に対してその法線方向に離間しながら当該第1の面に沿う第2の面に沿いかつ当該検出用空間に対応する前記流体流路に沿うように延び、前記複数の分離用空間は、前記第1の面と前記第2の面との間に介在する第3の面に沿いかつ当該分離用空間に対応する前記流体流路及び前記検出用空間に沿うように延びる、流体流通装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の流体流通装置であって、前記流路形成体のうち前記各検出用空間の長手方向の少なくとも一方の端を封止する部位は当該流路形成体の外部から当該端に至るまでの光の透過を許容する透光性をもつ、流体流通装置。
【請求項10】
請求項
1~9のいずれかに記載の流体流通装置であって、前記発光装置から前記検出用液体に照射された測定用光のうち当該検出用液体を透過した後の光を受けるように前記受光装置が配置される、流体流通装置。
【請求項11】
請求項
1~9のいずれかに記載の流体流通装置であって、前記検出用気体を通じて前記界面に前記測定用光を照射するように前記発光装置が配置され、かつ、当該測定用光のうち当該界面において反射される光を受けるように前記受光装置が配置される、流体流通装置。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれかに記載の流体流通装置における前記複数の流体流路での前記処理対象流体の流通の異常を検知するための方法であって、前記複数の検出用空間のそれぞれにおける前記界面の位置を検出することと、正常状態からの前記界面の位置の変動に基いて前記流通の異常の判定を行うことと、を含
み、
前記界面の位置は、前記発光装置と前記受光装置とを用いて光学的に検出され、
前記流通の異常の判定では、前記界面の位置について予め設定された初期位置と検出された界面の位置との差が許容範囲を超える場合に流通異常があると判定される、流体流通装置の流通異常検知方法。
【請求項13】
請求項4記載の流体流通装置における前記複数の流体流路での前記処理対象流体の流通の異常を検知するための方法であって、前記複数の検出用空間のそれぞれにおける前記界面の位置を検出することと、正常状態からの前記界面の位置の変動に基いて前記流通の異常の判定を行うことと、前記開閉可能空間における界面位置に応じて当該開閉可能空間に接続されている前記開閉装置を前記開状態と前記閉状態との間で切換えることと、を含
み、
前記界面の位置は、前記発光装置と前記受光装置とを用いて光学的に検出され、
前記流通の異常の判定では、前記界面の位置について予め設定された初期位置と検出された界面の位置との差が許容範囲を超える場合に流通異常があると判定される、流体流通装置の流通異常検知方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれかに記載の流体流通装置における前記複数の流体流路での前記処理対象流体の流通の異常を検知するための方法であって、前記複数の検出用空間のそれぞれにおける前記界面の位置を検出することと、正常状態からの前記界面の位置の変動に基いて前記流通の異常の判定を行うことと、を含み、
前記界面の位置は、前記発光装置と前記受光装置とを用いて光学的に検出され、
前記複数の検出用空間のそれぞれにおける前記界面の位置について予め設定された初期位置が互いに揃っており、前記流通の異常の判定では、前記複数の検出用空間においてそれぞれ検出された複数の前記界面の位置のばらつきが許容範囲を超える場合に流通異常があると判定される、流体流通装置の流通異常検知方法。
【請求項15】
請求項4記載の流体流通装置における前記複数の流体流路での前記処理対象流体の流通の異常を検知するための方法であって、前記複数の検出用空間のそれぞれにおける前記界面の位置を検出することと、正常状態からの前記界面の位置の変動に基いて前記流通の異常の判定を行うことと、前記開閉可能空間における界面位置に応じて当該開閉可能空間に接続されている前記開閉装置を前記開状態と前記閉状態との間で切換えることと、を含み、
前記界面の位置は、前記発光装置と前記受光装置とを用いて光学的に検出され、
前記複数の検出用空間のそれぞれにおける前記界面の位置について予め設定された初期位置が互いに揃っており、前記流通の異常の判定では、前記複数の検出用空間においてそれぞれ検出された複数の前記界面の位置のばらつきが許容範囲を超える場合に流通異常があると判定される、流体流通装置の流通異常検知方法。
【請求項16】
請求項
12~15のいずれかに記載の流体流通装置の流通異常検知方法であって、前記複数の検出用空間について共通の発光装置及び受光装置を用いて前記界面の位置が検出される、流体流通装置の流通異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象流体の反応、抽出等の化学操作や熱交換を目的として当該処理対象流体を流通させるための複数の流路を形成する流体流通装置及びその流通の異常を検知するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、処理対象流体を流通させるための通路を形成する装置として、特許文献1に記載されるものが知られている。同文献に記載される装置は、複数のマイクロチャネル(微細流路)を形成する流路構造体を備える。当該複数のマイクロチャネルは互いに平行となるように延びながら所定の平面上を蛇行し、当該マイクロチャネルに沿って処理対象流体が流れることを許容する。
【0003】
しかし、前記マイクロチャネルは微細であることから、流通する処理対象流体の粘度の上昇や圧力降下、あるいは当該処理対象流体に含まれる異物等によって流通異常、最悪の場合には閉塞、が発生するおそれがある。当該流通異常は速やかに検出されて洗浄等の対処がなされることが好ましい。
【0004】
前記のような流通異常を検出するための手段として、前記文献に記載される流体流通装置には、本来の流体流路に加え、当該流体流路と装置の外部とを連通する複数の連通流路が形成される。当該連通流路は、当該連通流路を通じて前記流体流路内の複数の位置における処理対象流体の圧力を検出することを可能にし、これにより、当該流体流路内での処理対象流体の流通異常に起因する圧力損失の異常の有無を検出することを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記装置では、流通異常を検出するための手段として、前記複数の連通流路のそれぞれに圧力検出器を接続しなければならない。換言すれば、当該流通異常を検出するための手段は、前記連通流路のそれぞれに接続される複数の圧力検出器に限定されるため、当該手段の選択の自由度はきわめて小さい。従って、当該流通異常の検出に求められる精度や作業の簡便さ等の諸事情によって検出手段を選択するといったことは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、それぞれに処理対象流体が流される複数の流体流路を形成する流体流通装置であって、当該流体流路における処理対象流体の流通の異常の検出を検出するための手段の選択の自由度が高い装置を提供することを目的とする。
【0008】
提供される流体流通装置は、流路形成体であって、それぞれに処理対象流体が流される複数の流体流路と、当該複数の流体流路のそれぞれに対応する複数の検出用空間であって当該複数の検出用空間のそれぞれが特定の長手方向に延びるとともに当該長手方向の両端のうちの少なくとも一方が封止されたものと、前記複数の流体流路のそれぞれにおいて設定された流路接続部位と当該流体流路に対応する前記検出用空間において設定された空間接続部位とに接続されて当該流路接続部位と当該空間接続部位とを連通させる複数の連通路と、が形成された流路形成体と、前記複数の検出用空間のそれぞれに収容される検出用液体及び検出用気体と、を備える。前記検出用液体及び検出用気体は、前記検出用空間の長手方向に並んで当該検出用液体と当該検出用気体との間に界面を形成し、かつ、当該検出用液体の存在する領域が前記空間接続部位を含むように、当該検出用空間内に収容される。前記検出用気体は、前記流路接続部位における前記処理対象流体の圧力の変動に応じて前記界面の位置が変動することを許容するように前記検出用空間内に収容される。
【0009】
この流体流通装置によれば、前記複数の流体流路における流路接続部位での各処理対象流体の圧力が前記検出用空間に収容される検出用液体と検出用気体との界面の位置に変換される。従って、当該流体流路における処理対象流体の流通異常を検出するために当該流体流路内の処理対象流体の圧力を直接検出する必要がなく、当該圧力に対応する前記界面の位置を検出することと、正常状態からの当該界面の位置の変動に基いて前記流通異常の判定を行うことと、を含む流通異常検知方法によって、前記流通異常を的確に検知することができる。このことは、当該流通異常を検知するための手段の選択の自由度を飛躍的に高める。
【0010】
前記複数の検出用空間の少なくとも一部は、その長手方向の両端が前記封止端である密閉空間であってもよい。この場合、当該密閉空間に封入される前記検出用気体は前記流路接続部位における前記処理対象流体の圧力の変動に応じて前記界面の位置が変動することを許容するように前記長手方向に膨張及び収縮するのがよい。
【0011】
あるいは、前記複数の検出用空間の少なくとも一部は、その長手方向の一方の端のみが封止されて他方の端が開放された開放空間であり、当該開放空間内の前記検出用気体は前記流路接続部位における前記処理対象流体の圧力の変動に応じて前記界面の位置が変動することを許容するように前記開放空間内に対して出入するものでもよい。前記検出用空間の一方の端が開放されていることは、両端が封止されている場合に比べ、正常時における界面の位置と異常時における界面の位置との差を大きくすることを可能にし、これにより異常検出を容易にする。
【0012】
あるいは、前記検出用空間の少なくとも一部はその長手方向の一方の端が封止されて他方の端に開閉装置が接続された開閉可能空間であり、前記開閉装置は当該開閉装置が接続された端を封止する閉状態と当該開閉装置が接続された端を開放して前記開閉可能空間に対する前記検出用気体の出入りを許容する開状態とに切換可能であり、前記検出用気体は前記開閉装置が前記閉状態にあるときに前記流路接続部位における前記処理対象流体の圧力の変動に応じて前記界面の位置が変動することを許容するように前記長手方向に膨張及び伸縮するものでもよい。前記開閉装置は、前記開状態において、前記バルブ付空間を前記開放空間と同等にして異常検出を容易にする一方、適宜閉状態に切換えられることにより、前記検出用空間から外部への前記検出用液体の流出を防ぐことができる。
【0013】
前記複数の検出用空間が前記開閉可能空間を含む場合、前記流通異常検知方法は、前記開閉可能空間における界面位置に応じて当該開閉可能空間に設けられた前記開閉装置を前記開状態と前記閉状態との間で切換えることをさらに含むのが、よい。
【0014】
前記界面の位置は、前記検出用空間内にその長手方向に沿って測定用光を照射する発光装置と当該測定用光を受けてその強度に対応した信号を出力する受光装置とを用いて光学的に検出される。このことは簡素かつ低コストの手段で前記流通異常を検知することを可能にする。具体的には、前記発光装置から前記検出用液体に測定用光を照射して当該測定用光のうち当該検出用液体を透過した後の光の強度を前記受光装置により検出することや、前記検出用気体を通じて前記界面に前記測定用光を照射してそのうち当該界面において反射される光の強度を前記受光装置により検出することにより、前記界面の位置が検出されることが可能である。
【0015】
いずれの場合も、複数の検出用空間について共通の発光装置及び受光装置を使用することが可能である。このことは、当該複数の検出用空間ごとに発光装置及び受光装置を配備する場合に比べて必要な発光装置及び受光装置の数を減らし、低コストで異常検知を行うことを可能にする。勿論、当該複数の検出用空間ごとに発光装置及び受光装置を配備しても前記流通異常の検知が可能である。
【0016】
前記流通異常の判定については、種々の手法を用いることが可能である。例えば、前記界面の位置について予め設定された初期位置と検出された界面の位置との差が許容範囲を超える場合に流通異常があると判定してもよい。この場合、前記複数の検出用空間のそれぞれの前記初期位置は同一に設定されてもよいし、それぞれの初期位置が互いに異なっていてもよい。前記複数の検出用空間のそれぞれにおける前記初期位置が互いに揃っている場合、前記複数の検出用空間においてそれぞれ検出された複数の界面の位置のばらつきが許容範囲を超える場合に流通異常があると判定してもよい。
【0017】
前記複数の流体流路及びこれらに対応する前記複数の検出用空間の配置については、当該複数の流体流路が第1の面に沿って互いに平行に延び、当該複数の検出用空間が前記第1の面に対してその法線方向に離間しながら当該第1の面に沿う第2の面に沿って延びるものが、好適である。当該配置は、コンパクトな構造で処理対象流体の流通及びその流通異常の検知を実現することを可能にする。
【0018】
さらに、前記複数の検出用空間は、当該検出用空間に対応する前記流体流路に沿って延びることが、より好ましい。これにより、構造のコンパクト化はさらに顕著となる。
【0019】
前記複数の連通路のそれぞれは、前記複数の流体流路のそれぞれとこれに対応する前記検出用空間との間に介在して当該流体流路と当該検出用空間とに連通する分離用空間を含み、当該分離用空間内に、前記流体流路を流れる処理対象流体と前記検出用液体との間に介在する分離用気体が収容されることが、より好ましい。当該分離用空間及びこれに収容される当該分離用気体は、前記流体流路を流れる処理対象流体と前記検出用液体とが直接的に接触することを阻止し、これにより、当該検出用液体が前記処理対象流体の性状に影響を与えるのを防ぐことができる。このことは、当該検出用液体を構成する物質の選択の自由度を高める。
【0020】
例えば、前記のように複数の流体流路が第1の平面に沿って互いに平行に延び、当該複数の検出用空間が前記第1の空間と平行な第2の平面に沿って互いに平行に延びるものである場合、前記複数の分離用空間は、前記第1の平面及び前記第2の平面と並行でかつ当該第1の平面と当該第2の平面との間に介在する第3の平面に沿って互いに平行に延びることが、好ましい。このことは、コンパクトな構造で処理対象流体の流通及びその流通異常の検知に加えて前記処理対象流体と前記検出用液体との接触を阻止することを可能にする。
【0021】
前記流路形成体のうち前記各検出用空間の長手方向の少なくとも一方の端を封止する部位は当該流路形成体の外部から当該端に至るまでの光の透過を許容する透光性をもつことが好ましい。このような透光性をもつ部位は、前記流路形成体の外部から前記検出用空間内に測定用光を照射して前記界面の位置を光学的に検出することを容易にする。
【0022】
本発明に係る流体流通装置は、前記界面の位置を検出する界面位置検出器をさらに備える。当該界面位置検出器は、当該界面の位置を光学的に検出するものであって前記検出用空間内にその長手方向に沿って測定用光を照射する発光装置と当該測定用光を受けてその強度に対応した信号を出力する受光装置とを含む。具体的には、前記発光装置から前記検出用液体に照射された測定用光のうち当該検出用液体を透過した後の光を受けるように前記受光装置が配置されたものや、前記検出用気体を通じて前記界面に前記測定用光を照射するように前記発光装置が配置され、かつ、当該測定用光のうち当該界面において反射される光を受けるように前記受光装置が配置されたものが、好適である。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、それぞれに処理対象流体が流される複数の流体流路を形成する流体流通装置であって、当該流体流路における処理対象流体の流通の異常の検出を検出するための手段の選択の自由度が高いものが、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る流体流通装置であるマイクロチャネルリアクタの正面図である。
【
図2】
図1に示されるマイクロチャネルリアクタを構成する流路形成板の正面図である。
【
図4】
図1に示されるマイクロチャネルリアクタの平面図である。
【
図5】
図1のV-V線に沿った断面を示す平面図である。
【
図6】
図5において線VIにより囲まれた部分を拡大して示した断面平面図である。
【
図7】
図1に示されるマイクロチャネルリアクタにおいて各反応流路における流通状態が正常であるときの各検出用空間における検出用液体と検出用気体との界面を示す正面図である。
【
図8】
図1に示されるマイクロチャネルリアクタにおいて一部の反応流路における流通状態に異常があるときの各検出用空間における検出用液体と検出用気体との界面を示す正面図である。
【
図9】本発明の第2の実施の形態に係る流体流通装置であるマイクロチャネルリアクタを構成する流路形成板の正面図である。
【
図10】
図9に示される流路形成板の背面図である。
【
図11】
図9に示されるマイクロチャネルリアクタを構成する検出用空間形成板の正面図である。
【
図13】
図9に示されるマイクロチャネルリアクタの平面図である。
【
図14】
図9に示されるマイクロチャネルリアクタの断面であって
図9~
図12に示されるXIV-XIV線に対応する高さにおける断面を示す平面図である。
【
図15】
図9に示されるマイクロチャネルリアクタの断面であって
図9~
図12に示されるXV-XV線に対応する高さにおける断面を示す平面図である。
【
図16】
図14において線XVIにより囲まれた部分を拡大して示した断面平面図である。
【
図17】
図15において線XVIIにより囲まれた部分を拡大して示した断面平面図である。
【
図18】
図9のXVIII-XVIII線に沿った断面を示す側面図である。
【
図19】
参考例に係る流体流通装置であるマイクロチャネルリアクタの正面図である。
【
図20】
図19に示されるマイクロチャネルリアクタにおいて各反応流路における流通状態が正常であるときの各検出用空間における検出用液体と検出用気体との界面を示す背面図である。
【
図21】
図19に示されるマイクロチャネルリアクタにおいて一部の反応流路における流通状態に異常があるときの各検出用空間における検出用液体と検出用気体との界面を示す背面図である。
【
図22】本発明の第
3の実施の形態に係る流体流通装置であるマイクロチャネルリアクタの流路形成板の背面図である。
【
図23】
図22に示されるマイクロチャネルリアクタにおいて一部の反応流路における流通状態に異常があるときの各検出用空間における検出用液体と検出用気体との界面を示す背面図である。
【
図24】本発明の第
4の実施の形態に係る流体流通装置であるマイクロチャネルリアクタの流路形成板の背面図である。
【
図25】
図24に示されるマイクロチャネルリアクタの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1~
図8は、本発明の第1の実施の形態に係る流体流通装置であるマイクロチャネルリアクタを示す。当該マイクロチャネルリアクタは、流路形成体10を備える。当該流路形成体10は、複数の反応流路と、当該複数の反応流路のそれぞれに対応する複数の導入流路を形成するブロック体である。前記複数の反応流路のそれぞれは、当該反応流路に流される処理対象流体である第1流体と、当該反応流路に前記導入流路を通じて導入される処理対象流体である第2流体と、を混合して両者間の化学反応を起こさせるための流路であり、微小な流路面積を有しながら前記第1及び第2流体の流通を許容する流体流路である。
【0027】
前記流路形成体10は、互いに板厚方向に積層される複数(この実施の形態では3枚)の流路形成板11と、当該流路形成板11の板厚方向の両外側にそれぞれ配置される表側外板12及び裏側外板13と、互いに隣接する流路形成板11同士の間に介在する複数(この実施の形態では2枚)の仕切り板16と、を有する。これらの板11,12,13,16の積層状態は、例えば、互いに隣接する板同士の溶接等による接合やボルト等による板厚方向の締結によって保持される。
【0028】
前記複数の流路形成板11のそれぞれは、
図2に示される表側面(第1の平面)20とその反対側の面であって
図3に示される裏側面(第2の平面)30とを有する。前記表側面20には、前記複数の反応流路を形成するための複数(この実施の形態では5本)の反応流路形成溝21,22,23,24,25が形成され、当該反応流路形成溝21~25と、前記表側面20に密着する前記仕切り板16の裏側面または前記表側外板12の裏側面と、によって、当該反応流路形成溝21~25と同形状の反応流路が画定される。前記裏側面30には前記複数本の反応流路形成溝21,22,23,24,25にそれぞれ対応する複数の導入流路を形成するための複数(この実施の形態では5本)の導入流路形成溝31,32,33,34,35が形成され、当該導入流路形成溝31~35と、前記裏側面30に密着する前記仕切り板16の表側面または前記裏側外板13の表側面と、によって、当該導入流路形成溝31~35と同形状の導入流路が画定される。
【0029】
前記表側面20に形成された前記反応流路形成溝21~25は、互いに平行に延びながら上下方向に蛇行する。具体的に、当該反応流路形成溝21~25が形成される領域は、その上流端から順に並ぶ13の区域、すなわち、第1上向き流路区域A1、第1上側中継区域B1、第1下向き流路区域C1、第1下側中継区域D1、第2上向き流路区域A2、第2上側中継区域B2、第2下向き流路区域C2、第2下側中継区域D2、第3上向き流路区域A3、第3上側中継区域B3、第3下向き流路区域C3、第3下側中継区域D3、及び第4上向き流路区域A4に分けられる。
【0030】
前記第1~第4上向き流路区域A1~A4では、反応流路形成溝21~25のそれぞれが上下方向に延びて処理対象流体が上向きに流れることを許容する。当該第1~第4上向き流路区域A1~A4は、流路形成板11の左右方向に間隔を置いて並ぶ。このうち最も上流側(
図2では左側)の前記第1上向き流路区域A1では各反応流路形成溝21~25の上流端(
図2では下端)が前記流路形成板11の下端面にまで至って下向きに開口する第1流体入口27を形成している。逆に、最も下流側(
図2では右側)の前記第4上向き流路区域A4では各反応流路形成溝21~25の下流端(
図2では上端)が前記流路形成板11の上端面にまで至って上向きに開口する流体出口28を形成している。
【0031】
前記第1~第3下向き流路区域C1~C3では、反応流路形成溝21~25のそれぞれが上下方向に延びて処理対象流体が下向きに流れることを許容する。当該第1~第3下向き流路区域C1~C3は、正面からみて前記第1~第3上向き流路区域A1~A3のそれぞれの右側に隣接する。
【0032】
前記第1~第3上側中継区域B1~B3では、前記流路形成板11の上部において前記反応流路21~25のそれぞれが左右方向に延び、前記第1~第3上向き流路区域A1~A3の下流端(上端)とそのすぐ下流側(
図2では右側)の第1~第3下向き流路形成区域C1~C3の上流端(上端)とをそれぞれ左右方向に中継する。同様に、前記第1~第3下側中継区域D1~D3では、前記流路形成板11の下部において前記反応流路21~25のそれぞれが左右方向に延び、前記第1~第3下向き流路区域C1~C3の下流端(下端)とそのすぐ下流側(
図2では右側)の第2~第4上向き流路形成区域A2~A4の上流端(下端)とをそれぞれ左右方向に中継する。
【0033】
前記導入流路形成溝31~35は、前記反応流路21~25の上流側端部にそれぞれ第2流体を導入すべく、
図3に示されるように、互いに平行に延びながらL字状に屈曲する形状を有する。具体的に、当該導入流路形成溝31~35が形成される領域は、裏側から見て前記流路形成板11の右端面から左向きに延びる第1導入区域E1と、当該第1区域E1の終端から上向きに延びる第2導入区域E2とに分けられる。前記第1導入区域E1における各導入流路形成溝31~35の上流端は裏側から見て右側に開口する第2流体入口37を形成する。前記第2導入区域E2では、前記導入流路形成溝31~35がこれに対応する反応流路形成溝21~25のちょうど裏側の位置で当該反応流路形成溝21~25に沿って上向きに適当な長さだけ延びる。
【0034】
さらに、前記流路形成体20には、前記各導入流路形成溝31~35の終端(
図3では上端)とこれに対応する前記反応流路形成溝21~25とをそれぞれ連通する板厚方向の貫通孔である複数(この実施の形態では5個)の導入孔38が形成されている。これらの導入孔38は、前記各導入流路形成溝31~35により画定される導入流路に供給される第2流体が当該各導入孔38を通じて前記反応流路形成溝21~25が画定する各反応流路に導入されることを可能にする。
【0035】
前記各反応流路の第1流体入口27には、当該第1流体入口27に前記第1流体を供給するための第1流体入口ヘッダ2が接続される。当該第1流体入口ヘッダ2は、前記各第1流体入口27を覆うように前記流路形成体10の下端面に取付けられる。同様に、前記各導入流路の第2流体入口37には、当該第2流体入口37に前記第2流体を供給するための第2流体入口ヘッダ3が接続される。当該第2流体入口ヘッダ3は、前記各第2流体入口37を覆うように前記流路形成体10の側端面(表側から見て左側端面、裏側から見て右側端面)に取付けられる。同様に、前記流体出口28には当該流体出口28から排出される処理対象流体を受け入れるための図示されない出口ヘッダが接続される。
【0036】
前記流路形成体10では、前記反応流路形成溝21~25等により画定される各反応流路の第1流体入口27に第1流体が供給されるとともに、前記導入流路形成溝31~35等により画定される各導入流路の第2流体入口37に第2流体が供給され、当該第2流体が導入孔38を通じて前記反応流路に導入されることにより前記第1流体と合流する。このようにして混合された第1及び第2流体は、前記反応流路を流れる間に互いに反応し、当該反応によって生じた流体が流体出口28を通じて排出される。
【0037】
このように前記流路形成体10が形成する各反応流路は微細であるため、流通する処理対象流体の粘度の上昇や圧力降下、あるいは当該処理対象流体に含まれる異物等によって流通異常、最悪の場合には閉塞、が発生するおそれがある。当該流通異常は速やかに検出されて洗浄等の対処がなされることが好ましい。
【0038】
そこで、前記マイクロチャネルリアクタは、前記流通異常を検出するための手段として、複数の検出用空間及びこれらに対応する複数の連通路と、前記複数の検出用空間のそれぞれに収容される検出用液体61及び検出用気体62と、当該検出用液体61と当該検出用気体62との界面64の位置を検出する界面位置検出器と、を含み、当該界面位置検出器は発光装置71と受光装置72とを含む。その詳細は次のとおりである。
【0039】
1)検出用空間及び連通路について
前記複数の検出用空間及び連通路は、前記複数の反応流路と同様に前記流路形成体10によって形成される。具体的に、当該流路形成体10の各流路形成板11の裏側面30には、前記複数の導入流路形成溝31~35に加え、第1検出領域F1、第2検出領域F2及び第3検出領域F3のそれぞれにおいて複数の(この実施の形態では5本の)検出用空間形成溝51,52,53,54,55が形成されるとともに、当該検出用空間形成溝51~55のそれぞれに対応して複数の連通孔58が形成されている。
【0040】
前記第1~第3検出領域F1~F3は、前記反応流路形成溝21~25の第1~第3下向き流路区域C1~C3にそれぞれ対応する領域であり、前記検出用空間形成溝51~55は、前記第1~第3下向き流路区域C1~C3における前記反応流路形成溝21~25のちょうど裏側の位置において当該反応流路形成溝21~25に沿うように上下方向に延びる。前記検出用空間形成溝51~55のそれぞれは、好ましくは、前記反応流路形成溝21~25のそれぞれの幅と等しい幅を有する。
【0041】
前記検出用空間形成溝51~55は、前記裏側面30に密着する前記仕切り板16の表側面または前記裏側外板13の表側面とともに、当該検出用空間形成溝51~55と同形状の検出用空間を画定する。この実施の形態では、前記検出用空間形成溝51~55の上端及び下端がそれぞれ前記流路形成板11の上端面及び下端面に至っており、従って前記検出用空間のそれぞれは上下方向に延びるとともに上側及び下側のそれぞれに開口を有する形状をもつ。後にも説明するように、前記開口のうち下側の開口は全て前記発光装置71によって封止され、上側の開口は全て前記受光装置72によって封止される。
【0042】
前記複数の連通孔58のそれぞれは、前記連通路、すなわち、前記複数の流体流路のそれぞれにおいて適当な高さ位置に設定された流路接続部位と当該流体流路に対応する前記検出用空間において設定された空間接続部位とに接続されて当該流路接続部位と当該空間接続部位とを連通させる連通路、を構成する。具体的に、前記複数の連通孔58は、前記流路接続部位に相当する前記反応流路形成溝21~25の底部から前記空間接続部位に対応する前記検出用空間形成溝51~55の底部に至るまで前記流路形成板11をその板厚方向に貫通している。
【0043】
2)検出用液体61及び検出用気体62について
前記検出用液体61及び前記検出用気体62は、前記検出用空間のそれぞれにおいてその長手方向に並んで当該検出用液体61と当該検出用気体62との間に前記界面64を形成する。この実施の形態では、前記検出用液体61の上側に前記検出用気体62が位置するように、換言すれば、前記検出用液体61及び前記検出用気体62がそれぞれ前記発光装置71及び前記受光装置72に接触するように、前記検出用空間に収容される。
【0044】
前記界面64の位置は、マイクロチャネルリアクタの使用当初は
図7に示されるような初期位置に設定される。当該初期位置は、前記各反応流路内を前記処理対象流体が正常に(つまり流通異常がない状態で)流れるときの前記界面64の位置である。当該初期位置は、前記連通孔58の高さ位置よりも高い位置、すなわち、前記検出用液体61の存在する領域が前記空間接続部位を含むような位置、に設定され、好ましくは前記連通孔58の高さ位置よりも十分高い位置に設定される。
図6~
図8では、前記検出用液体61の存在領域に多数の細かいドットが付されている。
【0045】
前記検出用気体62は、前記界面64の位置が上下方向に変動することを許容するように、前記検出用空間の長手方向(この実施の形態では上下方向)に膨張及び収縮する。前記界面64の変動は、後にも説明するように、流路接続部位において前記反応流路内を流れる前記処理対象流体の圧力の変動に対応して生ずる。
【0046】
前記検出用液体61及び前記検出用気体62をそれぞれ構成する物質は、流体流路である前記反応流路に流される処理対象流体の性質や使用状況に応じて設定される。具体的に、前記検出用液体61は、前記処理対象流体と接触し、場合によっては当該検出用液体61の一部が前記反応流路内に流出するため、前記処理対象流体との反応が生じない物質により構成されることが好ましい。また、前記検出用気体62は前記検出用液体61と接触して当該検出用液体61との間に前記界面64を形成するためのものであるから、当該検出用液体61及び検出用気体62同士の反応も生じないように両者の物質が選定されることが好ましい。一般に、前記検出用気体62に空気を用いることが可能である場合、当該空気の使用によって装置のコストの低減が可能である。空気中に含まれる酸素が検出用液体61の性状に影響を与える場合には、前記検出用気体62は窒素ガスあるいはその他の不活性ガスにより構成されることが、好ましい。
【0047】
3)界面位置検出器について
前記界面位置検出器は、前記界面64の位置を光学的に検出する。具体的に、前記発光装置71は、前記各検出用空間の下側開口を封止するように前記流路形成体10の下端面に装着され、前記検出用空間のそれぞれの内部に当該検出用空間の長手方向(この実施の形態では上下方向)に沿って
図7及び
図8に矢印で示すように上向きに測定用光を照射する。前記受光装置72は、前記各検出用空間の上側開口を封止するように前記流路形成体10の上端面に装着されるとともに、前記複数の検出用空間のそれぞれに対応する複数の受光素子を含む。各受光素子は、これに対応する検出用空間に照射された測定用光のうち前記検出用液体61及び前記検出用気体62を透過した後の光のみを受けてその強度に対応した電気信号である検出信号を生成し、出力する。当該受光素子が受ける光の強度は、当該受光素子に対応する検出用空間内での前記検出用液体61及び前記検出用気体62のそれぞれの存在領域の長さの比によって変わるので、それぞれの受光素子から出力される検出信号に基いて、それぞれの検出用空間における前記界面64の高さ位置を特定することが可能である。
【0048】
このマイクロチャネルリアクタによれば、次のようにして各反応流路(流体流路)における流通異常の有無が検出される。
【0049】
まず、各反応流路内を処理対象流体が正常に流れている状態では、前記第1~第3下向き流路区域C1~C3のそれぞれにおいて反応流路形成溝21~25により画定される複数の反応流路を流れる処理対象流体の圧力はいずれも正常な圧力に保たれる。よって当該複数の反応流路にそれぞれ対応する複数の検出用空間における検出用液体61と検出用気体62との界面64の位置はいずれも
図7に示すような初期位置に保たれる。受光装置72は、当該初期位置に対応する検出信号を出力する。
【0050】
これに対し、前記第1~第3下向き流路区域C1~C3のいずれかにおいて、いずれかの反応流路に一部閉塞または完全閉塞が生じた場合、その下流側における処理対象流体の圧力は低下する。この処理対象流体の圧力の低下に伴い、前記閉塞が生じた前記反応流路に対応する検出用空間に収容されている検出用液体61の一部が前記反応流路に流出し、当該検出用液体61と検出用気体62との界面64の位置は、前記のように低下した圧力と前記検出用空間内の検出用液体61の高さとが対応するような位置まで降下する。例えば、前記第2下向き流路区域C2において前記連通孔58の下流側(この実施の形態では下側)の位置で前記反応流路形成溝24により形成される反応流路内に閉塞が生じた場合、その下流側における処理対象流体の圧力は正常な状態に比べて前記閉塞の度合いに応じて低下し、これにより、
図8に示すように、第3下向き流路区域C3に対応する第3検出領域F3において前記反応流路形成溝24に対応する検出用空間形成溝54により形成される検出用空間内の検出用液体61と検出用気体62との界面64の位置が前記初期位置から降下する。当該界面64の位置の降下に対応して、受光装置72が出力する検出信号も変動する。
【0051】
従って、このマイクロチャネルリアクタによれば、前記複数の検出用空間にそれぞれ対応して出力される複数の検出信号を監視することにより、流通異常が生じた反応流路を特定することが可能である。具体的には、前記検出信号のうちのいずれかの初期状態からの変動が一定以上となったとき、つまり、前記界面64の位置について予め設定された前記初期位置と検出された界面の位置との差が許容範囲を超えるとき、にその界面64に対応する反応流路に流通異常があると判定することが、可能である。
【0052】
本発明の第2の実施の形態を、
図10~
図18を参照しながら説明する。
【0053】
前記第1の実施の形態に係るマイクロチャネルリアクタでは、反応流路を流れる処理対象流体と検出用液体61とが直接接触するため、当該検出用液体61を構成する物質は前記処理対象流体の性状に影響を与えないものに制限される。これに対し、第2の実施の形態に係るマイクロチャネルリアクタは、前記処理対象流体と前記検出用液体61との直接的な接触を阻止するように両者を分離する手段を具備することにより、前記検出用液体61を構成する物質の選択の自由度を高める。
【0054】
前記分離の手段は、複数の分離用空間と、当該複数の分離用空間のそれぞれに収容される分離用気体66と、を含む。具体的には次のとおりである。
【0055】
前記複数の分離用空間は、前記複数の反応流路のそれぞれとこれに対応する前記検出用空間との間に介在して当該流体流路と当該検出用空間とに連通する。当該複数の分離用空間は、前記反応流路及び前記検出用空間と同じく前記流路形成体10によって形成される。
【0056】
具体的に、第2の実施の形態に係る流路形成体10は、第1の実施の形態に係る複数の流路形成板11のそれぞれに代わるものとして、互いに積層される流路形成板14と空間形成板15とからなる複数のペアを具備する。前記流路形成板14は、前記第1の実施の形態に係る流路形成板14と同様、
図9に示される表側面20と、
図10に示される裏側面30と、を有し、前記空間形成板15は、
図11に示される表側面40と、その反対側の面であって
図12に示される裏側面50と、を有する。そして、前記流路形成板14の裏側面30と前記空間形成板15の表側面40とが密着するように両板14,15が互いに重ね合わされる。前記空間形成板15の裏側面50とこれに隣り合う前記流路形成板14の表側面20との間には第1の実施の形態と同様に仕切り板16が介在し、板厚方向の両外側には表側外板12及び裏側外板13がそれぞれ配置される。
【0057】
第1の実施の形態に係る流路形成板14と同様、前記流路形成板14の表側面20には前記仕切り板16または前記表側外板12の裏側面とともに複数(この実施の形態では5本)の反応流路を画定する反応流路形成溝21~25が形成され、前記裏側面30には、前記空間形成板15の表側面40とともに、前記複数の反応流路に対応する(第2流体の)導入流路を画定する導入流路形成溝31~35が形成されている。
【0058】
前記第1の実施の形態と異なり、この第2の実施の形態に係る前記反応流路板14の裏側面30には、検出用空間形成溝51~55ではなく、第1分離領域G1、第2分離領域G2及び第3分離領域G3のそれぞれに位置する複数の(この実施の形態では5本の)分離用空間形成溝41,42,43,44,45と、当該分離用空間形成溝51~55のそれぞれに対応する複数の連通孔48と、が形成されている。前記検出用空間形成溝51~55は、前記流路形成板14ではなく前記空間形成板15の裏側面50に形成されている。
【0059】
前記第1~第3分離領域G1~G3は、前記反応流路形成溝21~25の第1~第3下向き流路区域C1~C3にそれぞれ対応する領域である。それぞれの分離領域において、前記分離用空間形成溝41~45は、前記第1~第3下向き流路区域C1~C3における前記反応流路形成溝21~25のちょうど裏側の位置で当該反応流路形成溝21~25に沿うように上下方向に延びる。前記分離用空間形成溝41~45のそれぞれは、好ましくは、前記反応流路形成溝41~45のそれぞれの幅と等しい幅を有する。
【0060】
前記分離用空間形成溝41~45は、前記裏側面30に密着する前記空間形成板15の表側面40とともに、当該分離用空間形成溝41~45と同形状の検出用空間を画定する。
図18に示されるように、前記分離用空間形成溝41~45の下端はこれに対応する反応流路形成溝21~25の下端よりも高い位置において封止された封止端である。同様に、前記分離用空間形成溝41~45の上端はこれに対応する反応流路形成溝21~25の上端よりも低い位置において封止された封止端である。
【0061】
前記複数の連通孔48のそれぞれは、前記分離用空間形成溝41~45の上端の底部から、当該上端と同じ高さ位置における反応流路形成溝21~25の底部に至るまで、前記流路形成板14をその板厚方向に貫通し、これにより前記反応流路とこれに対応する前記分離用空間とを相互に連通する。
【0062】
前記空間形成板15の表側面40に溝は形成されず、当該表側面40は専ら画定面として機能する。すなわち、当該表側面40は、前記流路形成板14の裏側面30と密着することにより、前記導入流路形成溝31~35とともに複数の導入流路を画定しかつ前記分離用空間形成溝41~45とともに複数の分離用空間を画定する。
【0063】
前記空間形成板15の裏側面50では、第1の実施の形態に係る流路形成板11の裏側面30と同様、当該第1~第3検出領域F1~F3のそれぞれに、前記検出用空間形成溝51~55及び複数の連通孔58が形成されている。前記第1~第3検出領域F1~F3は、前記第1~第3下向き流路区域C1~C3のそれぞれに対応し、さらには前記第1~第3分離領域G1~G3のそれぞれに対応する。前記検出用空間形成溝51~55は、前記分離用空間形成溝41~45に沿って延びる。前記複数の連通孔58は、前記分離用空間形成溝41~45のそれぞれの下端の高さ位置と同等の高さ位置に形成され、当該下端と前記検出用空間形成溝51~55とを相互に連通するように前記空間形成板15をその板厚方向に貫通する。
【0064】
従って、この実施の形態に係る前記各連通孔58は、これに対応する分離用空間及び前記連通孔48と協働して、前記反応流路とこれに対応する検出用空間とを連通する連通路を構成する。換言すれば、この実施の形態に係る前記連通路は、前記反応流路と前記検出用空間との間に介在する分離用空間を含んでいる。
【0065】
前記検出用液体61は、前記検出用空間だけでなく、前記連通孔58を通じて前記分離用空間にも入り込んでいる。前記分離用気体66は、
図18に示されるように、前記分離用空間における検出用液体61の上面と前記反応流路を流れる処理対象流体との間に介在するように当該分離用空間内に収容され、これにより当該検出用液体61と当該処理対象流体との直接的な接触を阻止する。当該分離用気体66は、前記処理対象流体及び前記検出用液体61の双方に対して影響を与えないものであればよい。その条件を満たす範囲で、空気、不活性ガス、その他の気体が前記分離用気体66として選定される。
【0066】
本発明は、以上説明した実施の形態に限定されない。具体的には次のとおりである。
【0067】
A)処理対象流体について
本発明に係る処理対象流体は、前記第1及び第2流体のような反応操作の対象となる流体に限定されない。換言すれば、本発明に係る流体流通装置は前記マイクロチャネルリアクタに限定されず、よってその流体流路は前記反応流路に限定されない。前記処理対象流体は、例えば、抽出等の他の化学操作を受けるものでもよいし、熱媒体との熱交換によって加熱または冷却されるものでもよい。つまり、本発明に係る流体流通装置は、例えば、抽出操作のための流体流路を形成する抽出装置であってもよいし、処理対象流体とこれを加熱または冷却するための熱媒体との間で熱交換を行わせるための流路を形成する熱交換器であってもよい。
【0068】
B)界面の位置の検出について
本発明は、流体流路での流通異常による圧力を検出用液体と検出用気体との界面の位置に変換することにより、当該流通異常を検出するための手段の選択の自由度を高める(つまり当該手段が圧力検出器に限定されないようにする)ことを特徴とするものである。参考例としては、前記界面の位置を検出するための具体的手段は自由に設定されることが可能であり、必ずしも当該界面の位置を光学的に検出するものに限られない。
【0069】
また、
別の参考例として、流体流通装置は、必ずしも界面位置検出器を具備しなくてもよく、当該流体流通装置における界面の位置を検出するために当該流体流通装置とは独立した検出器が用いられてもよい。
図19~
図21は、その一例である
参考例に係るマイクロチャネルリアクタを示す。当該マイクロチャネルリアクタは、第1の実施の形態と同様に流路形成体10を備えるが、当該流路形成体10は、前記発光装置71及び受光装置72に代わって前記各検出用空間の上端開口及び下端開口を封止する部位である上側封止板81及び下側封止板82を含む。そして、当該上側封止板81及び下側封止板82の少なくとも一方(
図19~
図21に示される形態では上側封止板81)が、前記流路形成体10の外部から前記検出用空間の端(
図19~
図21では上端)に至るまでの光の透過を許容する透光性を有する。
【0070】
前記透孔性は、前記流路形成体10の外部から前記検出用空間内に測定用光を照射して前記界面64の位置を光学的に検出することを容易にする。
図20及び
図21は、その透光性を利用して、前記マイクロチャネルリアクタとは独立した汎用の位置検出器70により前記界面64の位置を検出する例を示している。当該位置検出器70は、前記上側封止板81及びその下方の検出用空間内の検出用気体62を通して当該検出用気体62と検出用液体61との界面64に測定用光を照射することが可能な発光素子と、当該測定用光のうち前記界面64で反射されてきた光のみを受けてその強度に対応した電気信号(検出信号)を生成して出力する受光素子と、を併有する。当該受光素子が出力する検出信号は、前記検出用空間において前記検出用気体62が占める領域の長さに対応するので、当該検出信号に基いて前記界面64の位置を把握することが可能である。
【0071】
このような反射式の位置検出器70は、多数の検出用空間について共通して使用されることが可能であり、これにより装置のコストは飛躍的に低減する。例えば、当該位置検出器70が各検出領域F1~F3に存在する5つの検出用空間にそれぞれ対応する5つの受光素子を含む場合には、当該検出領域ごとに前記位置検出器70を前記上側封止板内にあてがって検出を行うことが可能である。当該位置検出器70は、あるいは、第1の実施の形態と同様にマイクロチャネルリアクタ(またはその他の流体流通装置)の構成要素としてこれに一体に組み込まれることも可能である。また、前記上側封止板82に加えて下側封止板61も透光性を有するものでは、当該下側封止板61の下方から当該下側封止板61を通じて前記第1及び第2の実施の形態と同様に検出用空間内に測定用光を上向きに照射し、そのうち前記検出用液体61を透過した光を上側封止板62を通じて受光装置により受けることも可能である。
【0072】
C)界面の初期位置について
複数の検出用空間のそれぞれにおける界面の初期位置は、
図7に示されるように相互揃えられるのではなく互いに異なっていてもよい。この場合も、検出用空間のそれぞれについて設定された初期位置と検出された界面の位置との差が許容範囲を超える場合に流通異常があると判定することが可能である。また、
図7に示されるように前記初期位置が互いに揃えられている場合、検出された複数の界面の位置のばらつきが許容範囲を超える場合に流通異常があると判定することも可能である。
【0073】
D)流路及び検出用空間の配置及び本数について
複数の流体流路及びこれらに対応する前記複数の検出用空間の配置及び本数は、自由に設定されることが可能である。例えば、当該複数の流体流路と当該複数の検出用空間とが交差していてもよいし、当該複数の流体流路のそれぞれに対して当該流体流路の並び方向と同じ方向に各検出用空間が隣接していてもよい。つまり、流体流路と検出用空間とが交互に並んでいてもよい。しかし、第1及び第2の実施の形態のように、複数の流体流路が第1の面(第1及び第2の実施の形態では流路形成板11,14の表側面20に相当する平面)に沿って互いに平行に延び、複数の検出用空間が前記第1の面に対してその法線方向に離間しながら当該第1の面に沿う第2の面(第1の実施の形態では流路形成板11の裏側面30、第2の実施の形態では空間形成板15の裏側面50に相当する平面)に沿って延びるような配置は、コンパクトな構造で処理対象流体の流通及びその流通異常の検知を実現することを可能にする。
【0074】
流体流路及び検出用空間の長手方向は上下方向に限定されない。当該長手方向は、水平方向またはこれに対して傾斜する方向であってもよい。
【0075】
前記各実施の形態では、検出用空間が形成される領域(第1~第3検出領域F1~F3)が第1~第3下向き流路区域C1~C3に対応する領域に設定されているが、当該領域の場所及び数も自由に設定されることが可能である。例えば、検出用空間の領域は前記第1~第4上向き流路区域A1~A4に対応する領域や中継領域に対応する領域であってもよい。また、流体流路のうち下流側の区域に対応する領域にのみ検出用空間が形成されてもよい。
【0076】
さらに、前記検出用空間の形状や位置は、流体流路の具体的な形状にかかわらず自由に設定されることが可能である。例えば、当該流体流路が曲線状に延びるものである場合、前記検出用空間は当該流体流路に沿って曲線状に延びるものでもよいし、当該流体流路とは異なる形状を有するものでもよい。
【0077】
E)分離用空間について
分離用空間が形成される場合、その形状や位置は、これに対応する流体流路と検出用空間との間に介在するという条件を満たす範囲で自由に設定されることが可能である。例えば、分離用空間は流体流路の長手方向または検出用空間の長手方向と異なる方向に延びる形状のものや、立方体に近い形状のものであってもよい。しかし、第2の実施の形態のように、複数の流体流路が前記第1の面と前記第2の面との間に介在する第3の面(第2の実施の形態では前記流路形成板14の裏側面30)に沿って互いに平行に延びるような配置は、コンパクトな構造で処理対象流体と検出用液体との直接的な接触を阻止することができる利点がある。
【0078】
F)流路形成体の構造について
流路形成体の具体的な構造は限定されない。当該流路形成体は、例えば、単一の部材からなるブロック状のもの、あるいは、単一層においてのみ流体流路を形成するものでもよい。
【0079】
G)検出用空間の封止について
本発明に係る検出用空間は、その両端のうちの少なくとも一方の端が封止されていればよく、他方の端は必ずしも封止されていなくてもよい。例えば、本発明に係る流体流通装置の複数の検出用空間の一部または全部が、一方の端は封止されているが他方の端は開放されている開放空間であってもよい。
【0080】
図22は、その一例である第
3の実施の形態に係るマイクロチャネルの検出用空間を示す。当該マイクロチャネルは、第1の実施の形態に係るマイクロチャネルと同様に流路形成板11を有し、その裏側面30に設定された第1検出領域F1、第2検出領域F2及び第3検出領域F3のそれぞれにおいて複数の(この実施の形態でも5本の)検出用空間形成溝51,52,53,54,55が形成されるとともに、当該検出用空間形成溝51~55のそれぞれに対応して複数の連通孔58が形成されている。しかし、各検出用空間形成溝51~55の下端は前記第1の実施の形態と同様に発光装置71によって封止されているのに対し、上端は大気に開放されている。具体的には、当該上端が開口する流路形成体10の上面と受光装置72との間に隙間74が設けられ、当該受光装置72の下方において前記各検出用空間形成溝51~55の上端が前記隙間74に開放されている。従って、当該検出用空間形成溝51~55のそれぞれによって形成される検出用空間は、その下端が封止されているが上端が開放された開放空間となっている。
【0081】
前記各検出用空間の上端の開放は、
図23に示すように、対応する反応流路が正常であるときの界面64の位置(
図23では検出用空間形成溝51~53,55により形成される検出用空間内の界面64の位置)を、前記第1の実施の形態に係る界面64の位置(
図8に示される位置)よりも高くすることができる。このことは、当該正常時の界面64の位置と異常時の界面64の位置との落差を大きくして両者の判別(すなわち正常/異常の判定)が容易に行われることを可能にする。
【0082】
前記開放空間に収容される検出用気体は、空気が好ましい。このことは、当該開放空間を大気にそのまま開放することを可能にする。検出用気体に空気以外の気体、例えば窒素ガスあるいはその他の不活性ガス、が用いられる場合、当該不活性ガスが封入されたチャンバ内に流体流通装置全体が収容されるのが、よい。
【0083】
本発明に係る流体流通装置の複数の検出用空間の一部または全部は、あるいは、一方の端は封止されているが他方の端にはこれを開閉するための開閉装置が設けられている開閉可能空間であってもよい。
【0084】
図24及び
図25は、その一例である第
4の実施の形態に係るマイクロチャネルの要部を示す。当該マイクロチャネルでは、各検出用空間形成溝51~55の下端が発光装置71によって封止されているのに対し、上端には領域F1,F2,F3ごとに設けられた開閉装置90が接続されている。
【0085】
各開閉装置90は、前記領域F1,F2,F3のうち当該開閉装置90に対応する領域に含まれる複数の検出用空間の上端を覆うフード92と、当該フード92内に連通するとともに当該フード92から側方に突出する連通管94と、当該連通管94の端部に連結された開閉可能なバルブ96と、を有する。各開閉装置90は、その前記バルブ96が開閉されることにより、当該開閉装置90が割り当てられた複数の検出用空間のそれぞれの上端を前記連通管94及び前記バルブ96を通じて開放することにより前記検出用気体の前記検出用空間に対する出入を許容する開状態と、当該検出用空間の上端を封止する閉状態と、に切換可能である。
【0086】
前記フード92は、この実施の形態では前記流路形成体10の上端面と前記受光装置72との間に介在している。この場合、当該フード92は前記受光装置72による受光を可能にする程度の透光性を有することが好ましい。
【0087】
前記各開閉装置90の装備は、装置全体の大型化を抑えながら、第3の実施の形態でのメリット、すなわち正常時の界面64の位置と異常時の界面64の位置との落差を大きくして両者の判別(すなわち正常/異常の判定)が容易に行われることを可能にするというメリット、を得ることを可能にする。具体的に、前記開閉装置90を開状態に切換える(つまり当該開閉装置90に含まれるバルブ96を開く)ことにより、第3の実施の形態と同様に当該開閉装置90が接続されたそれぞれの検出用空間を大気に開放して正常時における界面64の高さを大きくすることができる一方、当該界面64の高さが過剰となる事態(つまり前記界面64が上端に達して検出用液体61が装置外部に溢れる事態)が生じるおそれのある検出用空間についてはこれに接続される開閉装置90を閉状態に切換える(つまり当該開閉装置90に含まれるバルブ96を閉じる)ことにより、前記事態を回避することができる。例えば、いずれかの検出用空間における前記界面64の高さが予め設定された許容高さに達した場合には当該検出用空間に接続されている開閉装置90のバルブ96を閉じるといった操作が行われるのが、好ましい。
【0088】
本発明に係る開閉装置の大きさや個数は限定されない。当該開閉装置は、例えば、流体流通装置に含まれる全ての検出用空間の一端を一括して開閉するような大型のものであってもよい。あるいは、複数の検出用空間のそれぞれを個別に開閉する複数の開閉装置が装備されてもよい。
【0089】
前記第3及び第4の実施の形態についても、検出用空間が延びる方向は上下方向に限定されない。各検出用空間の直径が小さくて検出用液体を保持するのに十分な毛細管現象が生じるのであれば、複数の検出用空間の少なくとも一部が開放空間や開閉可能空間であっても、当該開放空間や開閉可能空間が水平方向に延びるようにマイクロチャネルが配置されることも可能である。
【実施例】
【0090】
図1~
図8に示されるマイクロチャネルリアクタにおいて、処理対象流体が各反応流路を正常に流れるときの計測点(例えば第1検出領域F1における連通孔58の位置)における圧力P1は、処理対象流体の粘度をμ、処理対象流体の流速をu、前記計測点から流体出口28までの距離をL、各反応流路の内径である流路径をd、出口圧力をPoとすると、次式(1)によって表される。
【0091】
P1=32*μ*u*L/d2+Po …(1)
前記反応流路において例えば完全閉塞が生じた場合、その反応流路には前記処理対象流体が流れず、前記流速uは0となるため、この時の前記計測点の圧力P2は次式(2)で表される。
【0092】
P2=Po …(2)
前記のような圧力変化ΔP(=P2-P1)の分だけ界面64の位置が低下し、よって検出用空間の上端から当該界面64までの距離、つまり前記検出用気体62が占める領域の高さ寸法である気体高さ寸法H、が増大する。正常時の気体高さ寸法をH1、完全閉塞時の気体高さ寸法をH2とすると、両者の関係は次式(3)で表される。
【0093】
H2=H1*P1/P2 …(3)
よって、前記圧力変化ΔPに伴う前記基体高さ寸法の変化量ΔHは次式(4)で表される。
【0094】
ΔH=H2-H1=H1(P1/P2-1) …(4)
次の表1は、前記処理対象流体の粘度μが0.001Pa・s、正常時の処理対象流体の流速uが100mm/s、計測点から流路出口までの距離Lが10m、出口圧力Poが大気圧(≒100kPaA)であって、異常時に計測点圧力が当該大気圧まで低下する場合の、種々の流路径d及び初期気体高さ寸法H1に対応した気体高さ寸法の変化量を示す。
【0095】
【0096】
前記表1において、流路径dが2.0mmである場合に着目すると、この場合における気体高さ寸法変化量ΔH、すなわち正常時の界面高さと異常時の界面高さとの落差、は18.6mmと小さい値になっている。さらに、この値は、処理流体の粘度が低いほど、処理流体の流速が低いほど、また計測点から流路出口までの距離が短くなるほど、小さくなる。そして、当該落差が小さいほど、流体流路における流通が正常であるか異常であるかの判別は難しくなる。
【0097】
しかし、少なくとも一部の検出用空間(
図22では全ての検出用空間)の上端を開放して開放空間とし、当該開放空間に対する検出用気体の出入りを可能にすることにより、正常時の界面位置をより高くしてその分だけ前記落差を大きくすることが可能である。例えば、
図22に示されるように各検出用空間の上端が開放された場合、当該検出用空間における液柱高さ(連通孔58から界面64までの検出用液体の寸法)に相当する圧力が計測点圧力と釣り合うため、前記距離Lが10m(=10000mm)、正常時の計測的圧力P1が表1に示されるように109.3kPaAであるときの当該正常時の当該液柱高さは、10000×(109.3-101.3)/101.3=789.7mmとなる。これに対し、仮に流路が完全に閉塞して計測点圧力が大気圧となった場合の前記液柱高さは0mmとなる。従って、正常時及び異常時における液柱高さの差つまり前記界面の落差は789.7mmと非常に大きな値となる。このことは、異常の有無の判定を著しく容易にする。
【0098】
さらに、前記開放空間を開閉可能空間、例えば上端に
図24及び
図25に示すような開閉装置90が接続された空間、に置き換えた場合には、正常時の界面高さが検出用空間の上端に近づいた時点で前記開閉装置90のバルブ96を閉じることにより、検出用液体の流出を防ぐことができる。このことは、当該流出の確実な防止のために検出用空間の長さを必要以上に大きくすることなく(つまり装置全体の高さ寸法を過剰に大きくすることなく)異常検出を容易にすることを可能にする。
【符号の説明】
【0099】
10 流路形成体
11 流路形成板
20 流路形成板の表側面
21~25 反応流路形成溝
30 流路形成板の裏側面
40 空間形成板の表側面
41~45 分離用空間形成溝
48 連通孔
50 空間形成板の裏側面
51~55 検出用空間形成溝
58 連通孔
61 検出用液体
62 検出用気体
64 界面
66 分離用気体
70 位置検出器
71 発光装置
72 受光装置
81 上側封止板
82 下側封止板
84 バルブ