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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】接合工法及び接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20220809BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
E04B1/41 503B
E04B1/41 503G
E04G23/02 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018117899
(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公開番号】P2019218781
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒金 直樹
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-207653(JP,A)
【文献】特開2008-267136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38-1/61
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート造の既存構造物に対し、別体の追加構造物を接合する接合工法であって、
前記既存構造物と前記追加構造物との接合部分を跨ぐ態様で、前記既存構造物と前記追加構造物との双方に密着する接続部材を配置し、
該接続部材を貫通して、該接続部材と、前記既存構造物並びに前記追加構造物との各々にあと施工アンカーを打込み、前記接続部材と、前記既存構造物並びに前記追加構造物とを接合し、
前記既存構造物と前記追加構造物との各々に対し、少なくとも互いに直交する2方向に向けて前記あと施工アンカーが打込まれるように、前記接続部材を複数固定することを特徴とする接合工法。
【請求項2】
前記接続部材と、前記既存構造物並びに前記追加構造物との密着面を同一平面上に位置させ、平板状をなす前記接続部材を用いることを特徴とする請求項1記載の接合工法。
【請求項3】
前記あと施工アンカーとして、ディスクアンカーを使用することを特徴とする請求項1又は2記載の接合工法。
【請求項4】
コンクリート造の既存構造物に対し、別体の追加構造物が接合された接合構造であって、
前記既存構造物と前記追加構造物との接合部分を跨ぐ態様で、前記既存構造物と前記追加構造物との双方に密着して配置された接続部材が貫通されて、該接続部材と、前記既存構造物並びに前記追加構造物との各々にあと施工アンカーが打込まれ、前記接続部材と、前記既存構造物並びに前記追加構造物とが接合されており、
前記接続部材が複数固定され、該複数の接続部材を固定している複数の前記あと施工アンカーに、前記既存構造物と前記追加構造物との各々に対し、少なくとも互いに直交する2方向に向けて打込まれたあと施工アンカーが含まれていることを特徴とする接合構造。
【請求項5】
前記接続部材と、前記既存構造物並びに前記追加構造物との密着面は同一平面上に位置し、前記接続部材が平板状をなしていることを特徴とする請求項記載の接合構造。
【請求項6】
前記あと施工アンカーとして、ディスクアンカーが使用されていることを特徴とする請求項4又は5記載の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート造の既存構造物に対して別体の追加構造物を接合する接合工法及び接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
あと施工アンカーは、従来から様々な用途に使用されているが、あと施工アンカーが接合部に使用される際には、圧縮応力又はせん断力に対して設計される(例えば特許文献1参照)。すなわち、あと施工アンカーは、長期の引張応力が作用する接合部に対しては、信頼性等の観点から利用されず、このような接合部には、通常、PC鋼棒等を用いた貫通型のアンカーが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-177780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、既存構造物に対して追加構造物を接合する場合は、引張力を保持するために、既存構造物を貫通して貫通型のアンカーを取り付ける必要がある。しかしながら、このような既存構造物を貫通する工事は、室内からの作業も必要となるため、既存構造物の利用者に影響を与える虞があると共に、工事自体が大がかりとなり、コストや工期が増大してしまう。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、引張力が作用するような追加構造物を既存構造物に対して接合する場合でも、あと施工アンカーを使用してコスト及び工期を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)コンクリート造の既存構造物に対し、別体の追加構造物を接合する接合工法であって、前記既存構造物と前記追加構造物との接合部分を跨ぐ態様で、前記既存構造物と前記追加構造物との双方に密着する接続部材を配置し、該接続部材を貫通して、該接続部材と、前記既存構造物並びに前記追加構造物との各々にあと施工アンカーを打込み、前記接続部材と、前記既存構造物並びに前記追加構造物とを接合する接合工法。
【0007】
本項に記載の接合工法は、コンクリート造の既存構造物に対して別体の追加構造物を接合するものであり、まず、既存構造物と追加構造物との接合部分を跨ぐ態様で、既存構造物と追加構造物との双方に密着する接続部材を配置する。すなわち、既存構造物に対して追加構造物を接合するための、既存構造物と追加構造物とが接触する適切な位置に追加構造物を配置し、この状態で、既存構造物と追加構造物との接合部分(接触部分)を跨ぐように接続部材を配置する。このとき、接続部材は、少なくとも、既存構造物に対する追加構造物の接合方向と平行な方向に延在するように配置される。更に、接続部材には、前記のように配置された状態で、既存構造物と追加構造物との双方に密着する形状及び大きさを備えるものを使用する。
【0008】
そして、上記のように配置した接続部材を貫通して、この接続部材と、既存構造物並びに追加構造物との各々に、あと施工アンカーを打込む。具体的には、既存構造物に対する追加構造物の接合方向と平行な方向に延在している接続部材の、既存構造物に密着している部位に対し、既存構造物に対する追加構造物の接合方向に対して略直交する方向から、あと施工アンカーを打込み、この際、接続部材を貫通して既存構造物の内部まで打込む。同様に、接続部材の、追加構造物に密着している部位に対し、既存構造物に対する追加構造物の接合方向に対して略直交する方向から、あと施工アンカーを打込み、この際、接続部材を貫通して追加構造物の内部まで打込む。これにより、接続部材と、既存構造物並びに追加構造物とを接合するものである。なお、ここでのあと施工アンカーの打込みとは、あと施工アンカーに用いる金属系アンカーや接着系アンカー等の種類に応じて、各あと施工アンカーの打込みに必要な作業、例えば、打込み部分の削孔、樹脂の注入等の作業を包含するものである。
【0009】
本項に記載の接合工法は、上述したようにあと施工アンカーを使用することで、既存構造物に対する追加構造物の接合方向と平行な方向に作用する引張力を、既存構造物に対する追加構造物の接合方向と略直交する方向に打込まれたあと施工アンカーにより、せん断力として処理するものとなる。すなわち、既存構造物と追加構造物との各々に打込まれたあと施工アンカーには、それらの打込み方向と略直交する方向の引張力が作用するため、その引張力を所謂ダウエル効果によって処理するものである。これにより、既存構造物に対する追加構造物の接合が、あと施工アンカーを使用して実現されるため、例えば既存構造物を貫通して貫通型のアンカーを取り付ける場合と比較して、既存構造物の室内からの作業が不要となる等、施工内容が容易なものとなり、コスト及び工期が抑制されるものである。加えて、引張力が作用するような追加構造物を既存構造物に対して接合しながらも、あと施工アンカーにより引張力をせん断力として処理しているため、耐力的にも何ら問題はなく、十分な信頼性及び安全性が確保されるものである。
【0010】
(2)上記(1)項において、前記既存構造物と前記追加構造物との各々に対し、少なくとも互いに直交する2方向に向けて前記あと施工アンカーが打込まれるように、前記接続部材を複数固定する接合工法(請求項1)。
本項に記載の接合工法は、既存構造物と追加構造物との各々に対し、少なくとも互いに直交する2方向に向けてあと施工アンカーが打込まれるように、接続部材を複数固定するものである。例えば、少なくとも1つの接続部材を、既存構造物及び追加構造物に対して上方から密着させて配置し、上方から既存構造物及び追加構造物の各々へ向けてあと施工アンカーを打込んで固定した場合は、更に別の接続部材を、既存構造物及び追加構造物に対して側方から密着させて配置する。そして、その接続部材を、側方から既存構造物及び追加構造物の各々へ向けてあと施工アンカーを打込んで固定することで、これらのあと施工アンカーと、初めに固定した接続部材に打込まれたあと施工アンカーとが、既存構造物及び追加構造物に対して互いに直交する2方向に向けて打込まれた状態になる。このように、少なくとも互いに直交する2方向に向けて、あと施工アンカーが打込まれることにより、追加構造物がズレたり回転したりすることなく、強固に接合されることとなる。
【0011】
(3)上記(2)項において、前記接続部材と、前記既存構造物並びに前記追加構造物との密着面を同一平面上に位置させ、平板状をなす前記接続部材を用いる接合工法(請求項2)。
本項に記載の接合工法は、既存構造物に対して接合するための位置に追加構造物を配置する際に、既存構造物の任意の面と追加構造物の任意の面とが同一平面上に位置するように、追加構造物を配置する。更に、接続部材として平板状の接続部材を用い、同一平面上に位置する既存構造物の面と追加構造物の面との双方に密着させて配置するものである。このため、あと施工アンカーを、接続部材の、既存構造物並びに追加構造物との密着面とは反対の面から、それらの面と略直交する方向へ向けて打込むことになる。これにより、既存構造物への密着面と追加構造物への密着面との間に段差がある接続部材や、肉厚の接続部材等を用いる場合と比較して、あと施工アンカーの打込みが容易になり、コストや工期が更に抑制されるものとなる。
【0012】
(4)上記(2)(3)項において、前記あと施工アンカーとして、ディスクアンカーを使用する接合工法(請求項)。
本項に記載の接合工法は、あと施工アンカーとして、一般的なあと施工アンカーよりも剛性が高いディスクアンカーを使用することで、せん断力に対する耐性が非常に高まるため、信頼性及び安全性が向上すると共に、打込み本数が低減されて工期がより一層抑制されるものとなる。
【0013】
(5)コンクリート造の既存構造物に対し、別体の追加構造物が接合された接合構造であって、前記既存構造物と前記追加構造物との接合部分を跨ぐ態様で、前記既存構造物と前記追加構造物との双方に密着して配置された接続部材が貫通されて、該接続部材と、前記既存構造物並びに前記追加構造物との各々にあと施工アンカーが打込まれ、前記接続部材と、前記既存構造物並びに前記追加構造物とが接合されている接合構造。
(6)上記(5)項において、前記接続部材が複数固定され、該複数の接続部材を固定している複数の前記あと施工アンカーに、前記既存構造物と前記追加構造物との各々に対し、少なくとも互いに直交する2方向に向けて打込まれたあと施工アンカーが含まれている接合構造(請求項4)。
【0014】
(7)上記(6)項において、前記接続部材と、前記既存構造物並びに前記追加構造物との密着面は同一平面上に位置し、前記接続部材が平板状をなしている接合構造(請求項5)。
(8)上記(6)(7)項において、前記あと施工アンカーとして、ディスクアンカーが使用されている接合構造(請求項)。
そして、(5)から(8)項に記載の接合構造は、各々、上記(1)から(4)項の接合工法を利用して実現されることで、上記(1)から(4)項の接合工法と同等の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記のような構成であるため、引張力が作用するような追加構造物を既存構造物に対して接合する場合でも、あと施工アンカーを使用してコスト及び工期を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係る接合構造を模式的に示す模式図である。
図2】本発明の実施の形態に係る接合工法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、又、図面の全体にわたって、同一部分若しくは対応する部分は、同一の符号で示している。
図1は、本発明の実施の形態に係る接合構造10の構成を、側方から模式的に示している。図示のように、接合構造10は、コンクリート造の既存構造物12に対して、図示の例では図中左方向から、別体の追加構造物14が接合されたものである。又、接合構造10は、図示の例において、2つの接続部材18(18A、18B)と、4つのあと施工アンカー30(30A~30D)とが利用されている。
【0018】
2つの接続部材18のうち、一方の接続部材18Aは、既存構造物12と追加構造物14との接合部分16を跨ぐ態様で、既存構造物12と追加構造物14との双方に、図中上方から密着して配置されている。同様に、もう一方の接続部材18Bも、既存構造物12と追加構造物14との接合部分16を跨ぐ態様で、既存構造物12と追加構造物14との双方に、図中紙面手前側から密着して配置されている。又、本実施の形態では、接続部材18Aと既存構造物12との密着面20、及び、接続部材18Aと追加構造物14との密着面22が、同一平面上に位置すると共に、接続部材18Aが平板状をなしている。更に、図1には図示されていないが、接続部材18Bと既存構造物12との密着面、及び、接続部材18Bと追加構造物14との密着面もまた、同一平面上に位置しており、接続部材18Bが平板状をなしている。
【0019】
2つの接続部材18の各々は、上述したように配置された状態で、あと施工アンカー30によって固定されている。より詳しくは、一方の接続部材18Aには、図中上方から貫通されて、2つのあと施工アンカー30A、30Bが打込まれている。そのうちのあと施工アンカー30Aは、接続部材18Aを貫通して既存構造物12の内部まで打込まれ、あと施工アンカー30Bは、接続部材18Aを貫通して追加構造物14の内部まで打込まれている。同様に、もう一方の接続部材18Bには、図中紙面手前側から貫通されて、2つのあと施工アンカー30C、30Dが打込まれ、あと施工アンカー30Cは、接続部材18Bを貫通して既存構造物12の内部まで打込まれ、あと施工アンカー30Dは、接続部材18Bを貫通して追加構造物14の内部まで打込まれている。
【0020】
又、本実施の形態では、あと施工アンカー30A~30Dの各々にディスクアンカーが用いられている。ここでのディスクアンカーとは、ねじ切り加工等が施されたボルト部と、このボルト部と同軸上に配置されて円盤形をなすディスク部とを含み、ディスク部の円盤形の周囲に、ボルト部の先端側へ向かって突出したフランジが設けられたものである。更に、ディスクアンカーには、ボルト部とディスク部とが一体化された一体型ディスクアンカーや、ボルト部とディスク部とが別体の分離型ディスクアンカー等が含まれている。なお、本発明の実施の形態に係る接合構造10で用いられるあと施工アンカー30は、ディスクアンカーに限定されるものではなく、他の金属系アンカーや接着系アンカーであってもよい。
【0021】
上記のような構成により、接合構造10は、既存構造物12に対して、一方の接続部材18Aを固定しているあと施工アンカー30Aと、もう一方の接続部材18Bを固定しているあと施工アンカー30Cとが、互いに直交する2方向に向けて打込まれている。同様に、追加構造物14に対して、一方の接続部材18Aを固定しているあと施工アンカー30Bと、もう一方の接続部材18Bを固定しているあと施工アンカー30Dとが、互いに直交する2方向に向けて打込まれている。このようにして、接合構造10は、接続部材18の各々と、既存構造物12並びに追加構造物14とが接合されているものである。
【0022】
続いて、図2に示すフロー図の流れに沿って、上述したような構成の接続構造10を構築するための、本発明の実施の形態に係る接合工法について説明する。ここでは、図1に示した接続構造10を構築する場合を例にして説明することとし、接続構造10の構成については、適宜、図1を参照のこと。
S10(追加構造物配置):既存構造物12に対して接合するための適切な位置に、追加構造物14を配置する。例えば、図1の例では、既存構造物12及び追加構造物14の図中上側の面が同一平面上に位置し、かつ、既存構造物12及び追加構造物14の図中紙面手前側の面が同一平面上に位置するように、追加構造物14を配置する。このとき、追加構造物14を適切な位置に配置した状態で、追加構造物14の形状や大きさに応じた適切な器具を用いて追加構造物14を支持してもよく、又、接着剤等により既存構造物12に対して追加構造物14を仮固定してもよい。
【0023】
S20(接続部材配置):追加構造物14の接合に用いる接続部材18のうち、まだ固定していない接続部材18を配置する。ここでは、図1に示す平板状の接続部材18Aを、既存構造物12と追加構造物14との接合部分16を跨ぐ態様で、既存構造物12と追加構造物14との双方に、図1における上方から密着させて配置する。このとき、接続部材18Aと既存構造物12との密着面20、及び、接続部材18Aと追加構造物14との密着面22は、上記S10における追加構造物14の配置により、同一平面上に位置している。
【0024】
S30(あと施工アンカー打込み):上記S20で配置した接続部材18に対して、あと施工アンカー30を打込む。具体的には、図1に示すように、接続部材18Aの、既存構造物12へ密着している部位(図中右側の部位)に対して、図中上方から、接続部材18Aを貫通して既存構造物12の内部まで、あと施工アンカー30Aを打込む。同様に、接続部材18Aの、追加構造物14へ密着している部位(図中左側の部位)に対して、図中上方から、接続部材18Aを貫通して追加構造物14の内部まで、あと施工アンカー30Bを打込む。
【0025】
ここで、あと施工アンカー30としてディスクアンカーを打込む場合について簡単に説明すると、まず、ドリル等によって、接続部材18Aの上から接続部材18Aを貫通して、ディスクアンカーのボルト部の長さに応じた適切な深さに、既存構造物12又は追加構造物14の内部を削孔する。続いて、削孔した孔内を清掃し、孔内に接着樹脂を注入した状態で、接続部材18Aの上からディスクアンカーのボルト部を挿入する。このとき、ディスクアンカーが一体型である場合は、ディスク部のフランジが接続部材18Aの上面に食い込むまで挿入し、ディスクアンカーが分離型である場合は、ボルト部の後端側からディスク部を挿通して、ディスク部のフランジを接続部材18Aの上面に食い込ませる。更に、何れの場合であっても、接続部材18Aの、ディスクアンカーのディスク部のフランジが食い込んだ円環状の溝内に、接着樹脂を注入する。そして、ディスクアンカーが分離型の場合は、ボルト部の後端側からナットを締め付けて固定する。このようにして、ディスクアンカーの打込みを行うものである。
【0026】
S40(接続部材判定):追加構造物14の接合に用いる接続部材18を、あと施工アンカー30により全て固定したか否かを判定する。その結果、固定していない接続部材18がまだ残っている(例えば接続部材18B)と判定した場合(NO)は、その接続部材18を固定するために、上記S20へと復帰する。すなわち、追加構造物14の接合に用いる全ての接続部材18を固定するまで、上記S20~S40を繰り返し実行する。他方、接続部材18を全て固定したと判定した場合(YES)は、本発明の実施の形態に係る接合工法が終了となる。
なお、本発明の実施の形態に係る接合工法は、図2の構成に限定されるものではなく、作業ステップの一部が変更、追加、削除されたものであってもよい。
【0027】
又、本発明の実施の形態に係る接合構造10及び接合工法は、図1の例に限定されるものではなく、例えば、既存構造物12に対して追加構造物14を接合するために、1つのみの接続部材18を用いてもよく、3つ以上の接続部材18を用いてもよい。複数の接続部材18を用いる場合、既存構造物12及び追加構造物14の共通する面上(例えば図1における上側の面上)に、各々が既存構造物12と追加構造物14との接合部分16を跨ぐ態様で、複数の接合部材18が並べられて配置されていてもよい。加えて、3つ以上の異なる方向から、既存構造物12及び追加構造物14の双方に密着するように、3つ以上の接続部材18を固定してもよい。この場合は、既存構造物12と追加構造物14との各々に対し、互いに異なる3つ以上の方向に向けて、あと施工アンカー30が打込まれることになる。
【0028】
更に、既存構造物12及び追加構造物14の双方に密着するものであれば、接続部材18の形状や大きさも任意であり、平板状に限定されるものではない。例えば、接続部材18と既存構造物12との密着面20、及び、接続部材18と追加構造物14との密着面22が、同一平面上ではなく段差を介して位置している場合は、接続部材18がその段差に対応する形状を有していてもよい。又、あと施工アンカー30も、接続部材18毎に、既存構造物12と追加構造物14との各々に打込まれるものが含まれていれば、その数量は任意であり、例えば、1つの接続部材18に対して3つ以上のあと施工アンカー30が打込まれてもよい。
【0029】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る接合工法は、例えば図1に示すような接合構造10を、図2に示すような流れに沿って構築するものであり、まず、既存構造物12と追加構造物14との接合部分16を跨ぐ態様で、既存構造物12と追加構造物14との双方に密着する接続部材18を配置する(図2のS20)。すなわち、既存構造物12に対して追加構造物14を接合するための、既存構造物12と追加構造物14とが接触する適切な位置に追加構造物14を配置し(図2のS10)、この状態で、既存構造物12と追加構造物14との接合部分(接触部分)16を跨ぐように接続部材18を配置する。このとき、接続部材18は、少なくとも、既存構造物12に対する追加構造物14の接合方向と平行な方向(図1における左右方向)に延在するように配置される。更に、接続部材18には、前記のように配置された状態で、既存構造物12と追加構造物14との双方に密着する形状及び大きさを備えるものを使用する。
【0030】
そして、上記のように配置した接続部材18を貫通して、この接続部材18と、既存構造物12並びに追加構造物14との各々に、あと施工アンカー30を打込む(図2のS30)。具体的には、既存構造物12に対する追加構造物14の接合方向と平行な方向に延在している接続部材18の、既存構造物12に密着している部位に対し、既存構造物12に対する追加構造物14の接合方向(図1における左右方向)に対して略直交する方向から、あと施工アンカー30を打込み、この際、接続部材18を貫通して既存構造物12の内部まで打込む。同様に、接続部材18の、追加構造物14に密着している部位に対し、既存構造物12に対する追加構造物14の接合方向に対して略直交する方向から、あと施工アンカー30を打込み、この際、接続部材18を貫通して追加構造物14の内部まで打込む。これにより、接続部材18と、既存構造物12並びに追加構造物14とを接合するものである。
【0031】
本発明の実施の形態に係る接合工法は、上述したようにあと施工アンカー30を使用することで、既存構造物12に対する追加構造物14の接合方向と平行な方向に作用する引張力を、既存構造物12に対する追加構造物14の接合方向と略直交する方向に打込まれたあと施工アンカー30により、せん断力として処理することができる。すなわち、既存構造物12と追加構造物14との各々に打込まれたあと施工アンカー30には、それらの打込み方向と略直交する方向の引張力が作用するため、その引張力を所謂ダウエル効果によって処理するものである。これにより、既存構造物12に対する追加構造物14の接合を、あと施工アンカー30を使用して実現することができるため、例えば既存構造物12を貫通して貫通型のアンカーを取り付ける場合と比較して、既存構造物12の室内からの作業が不要となる等、施工内容が容易なものとなり、コスト及び工期を抑制することが可能となる。加えて、引張力が作用するような追加構造物14を既存構造物12に対して接合しながらも、あと施工アンカー30により引張力をせん断力として処理しているため、耐力的にも何ら問題はなく、十分な信頼性及び安全性を確保することができる。
【0032】
更に、本発明の実施の形態に係る接合工法は、既存構造物12に対して接合するための位置に追加構造物14を配置する際に、既存構造物12の任意の面と追加構造物14の任意の面とが同一平面上に位置するように、追加構造物14を配置する。更に、接続部材18として平板状の接続部材18を用い、同一平面上に位置する既存構造物12の面と追加構造物14の面との双方に密着させて配置するものである。このため、あと施工アンカー30を、接続部材18の、既存構造物12並びに追加構造物14との密着面20、22とは反対の面から、それらの面と略直交する方向へ向けて打込むことになる。これにより、既存構造物12への密着面と追加構造物14への密着面との間に段差がある接続部材18や、肉厚の接続部材18等を用いる場合と比較して、あと施工アンカー30の打込みが容易になり、コストや工期を更に抑制することが可能となる。
【0033】
又、本発明の実施の形態に係る接合工法は、既存構造物12と追加構造物14との各々に対し、少なくとも互いに直交する2方向に向けてあと施工アンカー30が打込まれるように、接続部材18を複数固定するものである。例えば、図1に示すように、1つの接続部材18Aを、既存構造物12及び追加構造物14に対して上方から密着させて配置し、上方から既存構造物12及び追加構造物14の各々へ向けてあと施工アンカー30A、30Bを打込んで固定した場合は、更に別の接続部材18Bを、既存構造物12及び追加構造物14に対して側方(図中紙面手前方向)から密着させて配置する。そして、その接続部材18Bを、側方から既存構造物12及び追加構造物14の各々へ向けてあと施工アンカー30C、30Dを打込んで固定することで、これらのあと施工アンカー30C、30Dと、初めに固定した接続部材18Aに打込まれたあと施工アンカー30A、30Bとが、既存構造物12及び追加構造物14に対して互いに直交する2方向に向けて打込まれた状態になる。このように、少なくとも互いに直交する2方向に向けて、あと施工アンカー30を打込むことにより、追加構造物14がズレたり回転したりすることなく、強固に接合することができる。
【0034】
しかも、本発明の実施の形態に係る接合工法は、あと施工アンカー30として、一般的なあと施工アンカー30よりも剛性が高いディスクアンカーを使用することとすれば、せん断力に対する耐性が非常に高まるため、信頼性及び安全性を向上することができると共に、打込み本数を低減して工期をより一層抑制することが可能となる。
【0035】
なお、本発明の実施の形態に係る接合構造10及び接合工法が対象とする既存構造物12は、鉄筋コンクリートを含むコンクリート造の構造物であれば、例えば、マンション等の居住用の構造物、学校等の公共施設、テナントが入居するビルや商業施設等を含み、特に限定されるものではない。又、本発明の実施の形態に係る接合構造10及び接合工法が対象とする追加構造物14は、接続部材18を介してあと施工アンカー30を打込むことができる構成のものであれば、例えば、庇、非常階段、耐震改修用の追加部材等を含み、特に限定されるものではない。一例として、鉄筋コンクリート造のマンションに非常階段を後付けするために、本発明の実施の形態に係る接合構造10及び接合工法を適用する場合、マンションの廊下を構成するスラブ部分(既存構造物12)に対して、非常階段を構成するステップ(追加構造物14)を接合するイメージになる。これにより、外部柱や杭を用いることなく、非常階段等の追加構造物14を後付けすることができる。
【符号の説明】
【0036】
10:接合構造、12:既存構造物、14:追加構造物、16:接合部分、18(18A、18B):接続部材、20:接続部材と既存構造物との密着面、22:接続部材と追加構造物との密着面、30(30A~30D):あと施工アンカー
図1
図2