(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】地盤強度の推定方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
E02D 1/02 20060101AFI20220809BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20220809BHJP
G01N 3/40 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
E02D1/02
G01N3/00 D
G01N3/40 B
(21)【出願番号】P 2018119490
(22)【出願日】2018-06-25
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】森澤 友博
(72)【発明者】
【氏名】大森 慎哉
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-136524(JP,A)
【文献】特開2017-203739(JP,A)
【文献】特開2017-223096(JP,A)
【文献】特開2011-252338(JP,A)
【文献】特開2019-163621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/02
G01N 3/00
G01N 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車台上に配置された機体に後端部が上下回転可能に軸支されたブームと、このブームの先端部に後端部が上下回転可能に軸支されたアームと、このアームの先端部に取付けられたアタッチメントとを備えた油圧重機を用いて、前記ブームを前記ブームの後端部回転中心部を中心にして下方回転させて前記アタッチメントにより対象地盤を押圧し、この時の前記ブームを作動させる油圧シリンダの油圧の大きさと、前記油圧シリンダの筒軸方向と前記後端部回転中心部との離間距離と、前記アタッチメントによる前記対象地盤に対する押圧荷重の作用線と前記後端部回転中心部との離間距離とに基づいて、前記アタッチメントによる前記対象地盤に対する押圧荷重を算出し、算出した前記押圧荷重を用いて前記対象地盤の強度を推定することを特徴とする地盤強度の推定方法。
【請求項2】
前記アタッチメントにより前記対象地盤を押圧した時の前記後端部回転中心部を中心にした回転による前記ブームの先端部の上下変位量と、前記押圧の反力に起因する前記車台の接地支点を中心した回転による前記後端部回転中心部の上下変位量とに基づいて、前記アタッチメントによる前記対象地盤に対する押込み量を算出し、算出した前記押込み量を用いて前記対象地盤の強度を推定する請求項1に記載の地盤強度の推定方法。
【請求項3】
前記アタッチメントとして貫入体を用いて、この貫入体を前記対象地盤に貫入した際の貫入力および貫入量をそれぞれ、前記押圧荷重および前記押込み量として算出し、事前データとして前記貫入体を地盤に貫入した際の貫入力および貫入量と、コーン指数との相関関係を予め把握しておき、算出した前記押圧荷重および前記押込み量と、前記相関関係とに基づいて前記対象地盤の強度として前記対象地盤のコーン指数を算出する請求項2に記載の地盤強度の推定方法
。
【請求項4】
車台上に配置された機体に後端部が上下回転可能に軸支されたブームと、このブームの先端部に前記後端部が上下回転可能に軸支されたアームと、このアームの先端部に取付けられたアタッチメントとを備えた油圧重機と、前記ブームを作動させる油圧シリンダの油圧の大きさを検知する圧力センサと、この圧力センサによる検知圧力が入力される演算部とを有する地盤強度の推定システムであって、
前記ブームを前記ブームの後端部回転中心部を中心にして下方回転させて前記アタッチメントにより対象地盤を押圧して、この時の前記検知圧力と、前記油圧シリンダの筒軸方向と前記後端部回転中心部との離間距離と、前記アタッチメントによる前記対象地盤に対する押圧荷重の作用線と前記後端部回転中心部との離間距離とに基づいて、前記演算部により前記アタッチメントによる前記対象地盤に対する押圧荷重が算出され、算出された前記押圧荷重を用いて前記対象地盤の強度が推定される構成にしたことを特徴とする地盤強度の推定システム。
【請求項5】
前記ブームの先端部の上下変位量を検知する先端部変位センサと、前記ブームの後端部回転中心部の上下変位量を検知する後端部変位センサとを有し、前記先端部変位センサおよび前記後端部変位センサによる検知変位量が前記演算部に入力され、前記アタッチメントにより前記対象地盤を押圧した時の前記先端部変位センサおよび前記後端部変位センサによる検知変位量に基づいて、前記演算部により、前記アタッチメントによる前記対象地盤に対する押込み量が算出され、算出された前記押込み量を用いて前記対象地盤の強度が推定される構成にした請求項4に記載の地盤強度の推定システム。
【請求項6】
前記アタッチメントとして貫入体が使用され、この貫入体を前記対象地盤に貫入した際の貫入力および貫入量がそれぞれ、前記押圧荷重および前記押込み量として算出され、事前データとして前記貫入体を地盤に貫入した際の貫入力および貫入量と、コーン指数との相関関係が予め前記演算部に入力されていて、算出された前記押圧荷重および前記押込み量と、前記相関関係とに基づいて前記演算部により、前記対象地盤の強度として前記対象地盤のコーン指数が算出される構成にした請求項5に記載の地盤強度の推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤強度の推定方法およびシステムに関し、さらに詳しくは、陸上や水中などの様々な対象地盤の強度を、一段と簡便かつ迅速に推定することができる地盤強度の推定方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工事現場の軟弱地盤等では、建設重機やダンプトラック等の走行可能性を確認するために、トラフィカビリティ(建設車両等の走行に耐え得る地盤の性能)を評価する。トラフィカビリティを評価するには、一般に、ポータブルコーン貫入試験によって得られるコーン指数qcが用いられている。この試験方法は地盤工学会基準(JGS 1431-2012)に規定されている。そして、建設機械が同一の轍を数回走行できるコーン指数qcの数値は、一般に、道路土工要綱(2009)から引用されている。
【0003】
ポータブルコーン貫入試験は、作業者が人力でコーンを一定速度で地盤に貫入させて、所定の貫入量時での貫入抵抗力を測定する。この試験方法によれば、比較的簡便にトラフィカビリティを把握することができる。しかしながら、現場で直接、人力を必要とする試験であるため、水底や災害現場等の特殊な地盤に対して実施することができない。また、広範囲で一様ではない(場所により異なる)地盤に対しては多大な時間と労力を要するために適用することが難しい。
【0004】
ポータブルコーン貫入試験の他にも、トラフィカビリティを評価する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、クローラを備えた重機等を用いて、アームの先端部に取付けた貫入体を対象地盤に貫入する方法が提案されている。この方法では、対象地盤に貫入体を貫入した際の貫入力および貫入量を検知して、この検知データから求められる特性値と事前データ(特性値とコーン指数との相関関係)とに基づいて、対象地盤のコーン指数を算出できるので、簡便かつ迅速にトラフィカビリィを把握できる。例えば、この貫入力や貫入量を対象地盤の貫入位置で直接検知することなく、より簡便に検知できれば、対象地盤の状態を推定するには一段と有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、陸上や水中などの様々な対象地盤の強度を、一段と簡便かつ迅速に推定することができる地盤強度の推定方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の地盤強度の推定方法は、車台上に配置された機体に後端部が上下回転可能に軸支されたブームと、このブームの先端部に後端部が上下回転可能に軸支されたアームと、このアームの先端部に取付けられたアタッチメントとを備えた油圧重機を用いて、前記ブームを前記ブームの後端部回転中心部を中心にして下方回転させて前記アタッチメントにより対象地盤を押圧し、この時の前記ブームを作動させる油圧シリンダの油圧の大きさと、前記油圧シリンダの筒軸方向と前記後端部回転中心部との離間距離と、前記アタッチメントによる前記対象地盤に対する押圧荷重の作用線と前記後端部回転中心部との離間距離とに基づいて、前記アタッチメントによる前記対象地盤に対する押圧荷重を算出し、算出した前記押圧荷重を用いて前記対象地盤の強度を推定することを特徴とする。
【0009】
本発明の地盤強度の推定システムは、車台上に配置された機体に後端部が上下回転可能に軸支されたブームと、このブームの先端部に前記後端部が上下回転可能に軸支されたアームと、このアームの先端部に取付けられたアタッチメントとを備えた油圧重機と、前記ブームを作動させる油圧シリンダの油圧の大きさを検知する圧力センサと、この圧力センサによる検知圧力が入力される演算部とを有する地盤強度の推定システムであって、前記ブームを前記ブームの後端部回転中心部を中心にして下方回転させて前記アタッチメントにより対象地盤を押圧して、この時の前記検知圧力と、前記油圧シリンダの筒軸方向と前記後端部回転中心部との離間距離と、前記アタッチメントによる前記対象地盤に対する押圧荷重の作用線と前記後端部回転中心部との離間距離とに基づいて、前記演算部により前記アタッチメントによる前記対象地盤に対する押圧荷重が算出され、算出された前記押圧荷重を用いて前記対象地盤の強度が推定される構成にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の地盤強度の推定方法およびシステムによれば、ブームをブーム後端部回転中心部を中心にして下方回転させてアタッチメントにより対象地盤を押圧した際の押圧荷重が、ブームを作動させる油圧シリンダの油圧の大きさと、油圧シリンダの筒軸方向とブーム後端部回転中心部との離間距離と、アタッチメントによる対象地盤に対する押圧荷重の作用線とブーム後端部回転中心部との離間距離とに基づいて算出される。即ち、押圧荷重を、押圧位置で荷重センサ等を用いて直接検知することなく、より簡便に間接的に検知できるので、様々な対象地盤の強度を一段と簡便かつ迅速に推定するには有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の地盤強度の推定システムを用いて、対象地盤に対する押圧荷重を算出する工程を例示する説明図である。
【
図2】
図1での対象地盤に対する押圧荷重を算出する際のモデルを模式的に例示する説明図である。
【
図3】
図1の地盤強度の推定システムを用いて、対象地盤に対する押込み量を算出する工程を例示する説明図である。
【
図4】
図3での対象地盤に対する押込み量を算出する際のモデルを模式的に例示する説明図である。
【
図5】
図1の地盤強度の推定システムを用いて、貫入体を地盤に貫入して対象地盤のコーン指数を算出する工程を例示する説明図である。
【
図6】貫入体を地盤に貫入した際の貫入力と貫入量との関係を例示するグラフ図である。
【
図7】貫入力および貫入量に基づいて特定された特性値と、コーン指数との相関関係を例示するグラフ図である。
【
図8】押圧荷重とブーム用油圧シリンダの油圧力の関係を例示するグラフ図である。
【
図9】
図9(A)は
図8でのCase1~6のそれぞれのデータのY軸切片の値と、段落0030の(1)式のY軸切片成分との相関を示すグラフ図、
図9(B)は
図8でのCase1~6のそれぞれのデータの傾きと、段落0030の(1)式の傾き成分との相関を示すグラフ図である。
【
図10】対象地盤を押圧した際の各部位の上下変位量の経時変化を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の地盤強度の推定方法およびシステムを、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0015】
図1に例示する本発明の地盤強度の推定システム1(以下、推定システム1という)の実施形態は、油圧重機2と、圧力センサ12と、後端部変位センサ13、先端部変位センサ14および演算部15とを有している。油圧重機2はいわゆる、バックホウであり、クローラ4aを有する走行機構4が車台3に装備されている。
【0016】
クローラ4aは、車台3の左右両側に配置されている。それぞれのクローラ4aは駆動スプロケット4bとプーリ4cとの間に張設されていて、駆動スプロケット4bとプーリ4cとの間には複数のローラ4dが配置されている。それぞれのクローラ4aは、駆動スプロケット4bにより回転駆動される。走行機構4としては、クローラ4aを備えたものに限らず、タイヤ等を備えたものでもよいが、軟弱地盤等を走行するにはクローラ4aを備えた走行機構4が好ましい。
【0017】
車台3の上には平面視で360°旋回可能な機体5が設けられている。機体5には、ブーム6の後端部6aが上下回転可能に軸支されている。ブーム6は延在方向中途の位置で屈曲した形状になっていて、機体5およびブーム6に接続された油圧シリンダ7によってブーム6の後端部回転中心部6bを中心にして回転する。後端部回転中心部6bとは、具体的にはブーム後端部6aを回転可能に軸支している連結ピンである。図中の一点鎖線CLは油圧シリンダ7の筒軸方向を示している。
【0018】
ブーム6の先端部6cはアーム8の後端部8aにピン結合されている。このブーム先端部6cの連結ピンBPと油圧シリンダ7のロッド先端の連結ピンとを結ぶ図中の一点鎖線BLは、ブーム6の先端側の延在方向を示している。
【0019】
アーム後端部8aがブーム先端部6cに上下回転可能に軸支されたアーム8は、ブーム6およびアーム8に接続された油圧シリンダ9によって、アーム後端部8a(連結ピンBP)を中心にして回転する。アーム先端部8bはアタッチメント10にピン結合されている。連結ピンBPを通過してアーム先端部8bに延びる図中の一点鎖線ALは、アーム8の延在方向を示している。
【0020】
アーム先端部8bには様々なアタッチメント10が着脱自在であり、この実施形態ではバケット10aが取り付けられている。アタッチメント10は、アーム8およびアタッチメント10に接続された油圧シリンダ11によってアーム先端部8bを中心にして上下に回転する。
【0021】
圧力センサ12は、ブーム6を作動させる油圧シリンダ7の油圧の大きさ(油圧力Pb)を検知する。検知する実際の油圧力Pbは、シリンダの押す側の圧力からシリンダの引く側の圧力を差し引いた大きさになる。後端部変位センサ13は、後端部回転中心部6bの上下変位量Smを検知する。この実施形態では後端部変位センサ13として機体5に設置された傾斜計が採用されている。先端部変位センサ14は、ブーム先端部6cの上下変位量Sbを検知する。この実施形態では先端部変位センサ14としてブーム6に設置された傾斜計が採用されている。
【0022】
演算部15としては各種のコンピュータ等を用いることができる。演算部15には、圧力センサ12による検知圧力、先端部変位センサ14および後端部変位センサ13による検知変位量が入力される。また、演算部15には所望のデータを予め入力、記憶しておくこともできる。演算部15は入力されたデータや記憶されているデータ等に基づいて様々な演算処理を行う。
【0023】
走行機構4の駆動、機体5の旋回、ブーム6、アーム8およびアタッチメント10の動きは、機体5のキャビンに搭乗した操縦者によってコントロールされる。キャビン4に操縦者が搭乗することなく、遠隔操作によってこれらの動きがコントロールされる構成にすることもできる。
【0024】
次に、この推定システム1を用いて、対象地盤Gの強度を推定する手順の一例を説明する。
【0025】
図1に例示するように、対象地盤Gの所定位置に油圧重機2を配置する。次いで、後端部回転中心部6bを中心にしてブーム6を下方回転させて、バケット10aの背面で対象地盤Gの所望の押圧位置Pを押圧して押圧荷重Qを付与する。この際に、油圧シリンダ9、11は実質的に稼働させずに、油圧シリンダ7だけを稼働させる。即ち、ブーム6に対してアーム8およびバケット10aを一定の姿勢に維持しつつ、ブーム6を下方回転させて押圧位置Pを押圧する。
【0026】
押圧位置Pに押圧荷重Qを付与する時には、押圧位置P近傍の対象地盤Gに対する押圧アーム8(延在方向AL)の交差角度aは概ね垂直(90°±10°)に設定するとよい。これにより、安定して押圧荷重Qを付与し易くなる。また、この時のブーム6の先端側の延在方向BLは、押圧位置P近傍の対象地盤Gに対して概ね平行(180°±10°)にするとより安定する。
【0027】
この対象地盤Gに対する押圧工程では、油圧シリンダ7の油圧の大きさが逐次、圧力センサ12によって検知される。圧力センサ12による検知圧力は逐次、演算部15に入力される。演算部15では、油圧シリンダ7によってブーム6に付与された油圧力Pbが算出される。油圧シリンダ7の仕様(シリンダ内径、シリンダロッド外径など)は既知であり、この仕様のデータは演算部15に入力されているので、ブーム6に付与された油圧力Pbが迅速に算出できる。尚、油圧力Pbはこの実施形態のように油圧シリンダ7の油圧を計測して算出する方法だけでなく、例えば、油圧シリンダ7に設置した荷重計によって油圧力Pbを計測することもできる。
【0028】
図1の押圧工程は、
図2に例示するように後端部回転中心部6bまわりのモーメントのつり合いのモデルとして簡略化できる。
図2に例示するモデルでは、油圧シリンダ7によりブーム6に付与された油圧力Pbと、油圧重機2(ブーム6)に作用する押圧荷重Qの反力との後端部回転中心部6bまわりのモーメントがつり合うと考えることができる。
図2では、油圧力Pbの作用方向(油圧シリンダ7の筒軸方向CL)と後端部回転中心部6bとの離間距離がdb、押圧荷重Qの反力の作用方向(鉛直方向)と後端部回転中心部6bとの離間距離がdpで示されている。押圧位置Pを通る一点鎖線が押圧荷重Qの作用線を示している。
【0029】
油圧重機2の仕様(ブーム6、アーム8、アタッチメント10の寸法など)は既知である。また、対象地盤Gに押圧荷重Qを付与する時の油圧重機2の姿勢(筒軸方向CL、延長方向BL、ALなど)は把握できる。したがって、離間距離db、dpは、これら情報に基づいて演算部15により算出することも、予め演算部15に入力しておくこともできる。
【0030】
そして、演算部15は、油圧力Pb、離間距離db、dpを用いて下記(1)式に基づいて押圧荷重Qを算出する。
(油圧力Pb-Pb0)×離間距離db+押圧荷重(反力)Q×離間距離dp=0・・・(1)
ここで、Pb0は未載荷状態(バケット10aが対象地盤Gに接触する前の押圧荷重Qがゼロの状態)の油圧力である。
【0031】
次いで、算出された押圧荷重Qの大きさに基づいて、対象地盤Gの地盤強度が推定される。例えば、算出された押圧荷重Qが同じ場合に、押圧位置Pの対象地盤Gの変形が大きいほど地盤強度が低い(軟弱地盤)、変形が小さいほど地盤強度が高い(強固な地盤)であると推定される。陸上および水中の平坦な地盤に限らず、法面などの地盤強度も簡易的に推定できる。
【0032】
この実施形態では上述したように、対象地盤Gを押圧した際の押圧荷重Qが、油圧シリンダ7の油圧の大きさ(油圧力Pb)と、油圧シリンダ7の筒軸方向CLと、離間距離db、dpとに基づいて算出できる。押圧荷重Qを、押圧位置Pで荷重センサ等を用いて直接検知することができない不安定な地盤や危険な位置にある地盤も存在するが、この実施形態では、押圧荷重Qを、押圧位置Pで荷重センサ等を用いて直接検知することなく、より簡便に間接的に検知できる。それ故、様々な対象地盤Gの強度を一段と簡便かつ迅速に推定するには有利になっている。
【0033】
図3には、先の推定システム1を用いて、押圧位置Pに押圧荷重Qを付与した時の対象地盤Gに対する押込み量Sを算出する場合が例示されている。
【0034】
図3では、
図1に例示した押圧工程と同様に、実質的に油圧シリンダ7だけを稼働させてブーム6を下方回転させて、押圧位置Pを押圧して押圧荷重Qを付与する。この際に、押圧荷重Qによって押圧位置Pは当初の位置よりも押込み量Sだけ沈下する。
【0035】
押圧荷重Qが小さい場合は機体5の上下変位はほとんど生じないが、押圧荷重Qが大きくなると、押圧荷重Qの反力によって機体5は
図3に例示するように、車台3の接地支点MPを中心にして上方に回転する。即ち、機体5が接地支点MPを中心にして起伏する。接地支点MPはクローラ4aが対象地盤Gと接している最後端位置となる。
【0036】
機体5に上下変位が実質的に生じない条件下では、後端部回転中心部6bを中心にしたブーム6の下方回転によるブーム先端部6cの上下変位量Sbを、押込み量Sと見なすことができる。しかしながら、機体5が上下変位する場合には、後端部回転中心部6bも上下変位するため、押込み量Sを高精度で把握するには、後端部回転中心部6bの上下変位量Smも考慮する必要がある。
【0037】
そこで、この実施形態では押込み量Sを算出する際に、
図3の押圧工程を簡略化した
図4に例示するモデルを使用して、押込み量Sを上下変位量SbとSmの合計値として算出する。
図4(A)は、後端部回転中心部6bを中心にしたブーム6の下方回転によるブーム先端部6c(連結ピンBP)の上下変位量Sbを示している。
図4(B)は、押圧荷重Qの反力に起因する接地支点MPを中心にした機体5の上方回転による後端部回転中心部6bの上下変位量Smを示している。
【0038】
ブーム先端部6c(連結ピンBP)が、後端部回転中心部6bに対して仰角Abにある状態から、後端部回転中心部6bを中心にしてブーム6を微小角度ΔAbだけ下方回転させて押圧位置Pに押圧荷重Qを付与することで上下変位量Sbだけ沈下した場合を考える。この押圧工程では、ブーム先端部6c(連結ピンBP)の上下変位量Sb、後端部回転中心部6bの上下変位量Smがそれぞれ逐次、先端部変位センサ14、後端部変位センサ13により検知される。先端部変位センサ14、後端部変位センサ13による検知変位量は逐次、演算部15に入力される。
【0039】
後端部回転中心部6bとブーム先端部6c(連結ピンBP)との離間距離Lbは把握することができるので、後端部回転中心部6bと連結ピンBPを通る鉛直軸との離間距離は、Lbcos(Ab)となる。上下変位量Sbは、
図4(A)に示すブーム先端部6c(連結ピンBP)の鉛直下方に位置する直角の頂点の下方変位量になる。そこで、上下変位量Sbは演算部15により以下の(2)式により算出される。
上下変位量Sb=Lbcos(Ab)・sin(ΔAb)≒(ΔAb)・Lbcos(Ab)・・・(2)
【0040】
そして、この押圧工程において、後端部回転中心部6bが、接地支点MPに対して仰角Amにある状態から、接地支点MPを中心にして機体5が微小角度ΔAmだけ上方回転した場合を考える。接地支点MPと後端部回転中心部6bとの離間距離Lmは把握することができるので、接地支点MPと後端部回転中心部6bとの離間距離は、Lmcos(Am)となる。上下変位量Smは、
図4(B)に示す後端部回転中心部6bの鉛直下方に位置する直角の頂点の上方変位量になる。そこで、上下変位量Smは演算部15により以下の(3)式により算出される。
上下変位量Sm=-Lmcos(Am)・sin(ΔAm)≒-(ΔAm)・Lmcos(Am)・・・(3)
【0041】
(2)式および(3)式から押込み量Sは、演算部15により下記(4)式により算出される。
押込み量S=(ΔAb)・Lbcos(Ab)-(ΔAm)・Lmcos(Am)・・・(4)
【0042】
次いで、算出された押込み量Sの大きさに基づいて、対象地盤Gの地盤強度が推定される。例えば、同じ押圧荷重Qを押圧位置Pに付与している場合に、算出された押込み量Sが大きいほど地盤強度が低い(軟弱地盤)、押込み量Sが小さいほど地盤強度が高い(強固な地盤)であると推定される。陸上および水中の平坦な地盤に限らず、法面などの地盤強度も簡易的に推定できる。
【0043】
この実施形態では上述したように、対象地盤Gを押圧した際の押込み量Sが、ブーム先端部6cの上下変位量Sbと、ブーム後端部回転中心部6bの上下変位量Smとに基づいて算出できる。押込み量Sを、押圧位置Pで変位センサ等を用いて直接検知することができない不安定な地盤や危険な位置にある地盤も存在するが、この実施形態では、押込み量Sを、押圧位置Pで変位センサ等を用いて直接検知することなく、より簡便に間接的に検知できる。それ故、様々な対象地盤Gの強度を一段と簡便かつ迅速に推定するには有利になっている。しかも、算出される押込み量Sには、ブーム先端部6cの上下変位量Sbだけでなく、ブーム後端部回転中心部6bの上下変位量Smも考慮されているので推定精度を向上させることができる。
【0044】
この実施形態においても先の実施形態で述べた様々な条件、仕様を適用することができる。また、先の実施形態とこの実施形態とを組み合わせることもできる。即ち、押圧荷重Qを、油圧シリンダ7の油圧の大きさ(油圧力Pb)と、油圧シリンダ7の筒軸方向CLと、離間距離db、dpとに基づいて算出するとともに、押込み量Sを、ブーム先端部6cの上下変位量Sbと、ブーム後端部回転中心部6bの上下変位量Smとに基づいて算出する。そして、算出した押圧荷重Qおよび押込み量Sに基づいて、対象地盤Gの強度を推定する。
【0045】
図5に例示する推定システム1では、アタッチメント10として貫入体10bがアーム先端部8bに取り付けられている。貫入体10bには必要に応じて様々な形態のものを使用することができる。
【0046】
この貫入体10bを上述した実施形態と同様に、実質的に油圧シリンダ7だけを稼働させてブーム6を後端部回転中心部6bを中心にして下方回転させて、押圧位置Pを押圧することで対象地盤Gに貫入させる。対象地盤Gに貫入した際の貫入力および貫入量をそれぞれ、上述した押圧荷重Qおよび押込み量Sとして演算部15により算出する。
【0047】
事前データとして貫入体10bを地盤に貫入した際の貫入力Qおよび貫入量Sと、コーン指数qcとの相関関係を予め把握しておき、この相関関係を演算部15に入力、記憶しておく。コーン指数qcとは、地盤工学会基準(JGS 1431-2012)に規定された試験方法またはJIS A 1228:2000に規定された試験方法により得られる数値である。事前データとして、力学特性(硬さや強さ)の異なる様々な地盤についてのデータを含むことが望ましい。
【0048】
例えば、事前試験として、様々な地盤に対して、貫入体10bを垂直に貫入してその際に要する貫入力Qおよび貫入体10bの貫入量Sを測定する。貫入量Sが概ね10cm~30cmになるまで測定する。この測定によって、
図6に例示する貫入力Qと貫入量Sとの関係を示すデータが得られる。
図6には、硬く強い地盤(コーン指数q
cが大きい地盤)のデータM1と軟らかく弱い地盤(コーン指数q
cが小さい地盤)のデータM2とが記載されている。
【0049】
それぞれのデータM1、M2おいて、例えば、降伏荷重A、線形区間での傾きB、基準荷重Qrefに対応する沈下量C、基準沈下量Srefに対応する荷重D等を特性値Rcとする。また、事前試験の対象になった地盤のコーン指数qcを把握しておく。
【0050】
事前試験によるデータ(特性値Rc)と事前試験の対象になった地盤のコーン指数q
cとを整理すると、
図7に例示する特性値Rcとコーン指数q
cとの相関関係を得ることができる。
図7には、特性値Rcを上述した降伏荷重A、傾きB、沈下量C、荷重Dにした場合のコーン指数q
cとの相関関係がそれぞれ、データR1、R2、R3、R4として記載されている。この特性値Rcとコーン指数q
cとの相関関係が事前データとして演算部15に入力、記憶しておく。特性値Rcは1種類にすることも複数種類にすることもできる。対象地盤Gのコーン指数q
cを算出する際には、使用する特性値Rcを決定しておく。
【0051】
そして、算出した貫入力Qおよび貫入量Sと、上記の相関関係とに基づいて対象地盤Gの強度として対象地盤Gのコーン指数qcを算出する。
【0052】
具体的には、
図7に例示したデータR1、R2、R3、R4のうち、この対象地盤Gのコーン指数q
cを算出する際に使用すると決定していた特性値Rcに関するデータに、算出した特性値Rcの値を当てはめる。例えばデータR1を使用する場合は、算出した特性値Rcの値をデータR1に当てはめて、この特性値Rcに対応するコーン指数q
cを算出する。このように算出したコーン指数qcが対象地盤Gのコーン指数q
cになる。次いで、算出したコーン指数q
cの数値の大きさに基づいて、従来と同様に、対象地盤Gのトラフィカビリティを評価することができる。
【実施例】
【0053】
図1に例示した押圧工程を所定の同一条件下で、押圧する地盤の種類だけを異ならせて行い、その際のブームを作動させる油圧シリンダの油圧力Pbと、押圧位置での押圧荷重Qとを測定した。押圧荷重Qは押圧位置に設置した荷重計により測定し、押圧した地盤は剛性(硬さ)を異ならせた6種類(Case1~6)である。その結果を
図8に例示する。
図8の横軸の油圧力Pbでは、プラス値はブームを押し上げる方向の力であり、マイナス値はブームを押し下げる方向の力である。
【0054】
図8の結果から、いずれの種類の地盤においても油圧力Pbの減少により押圧荷重Qが増大するほぼ線形で可逆的な関係であることが分かる。
図9(A)は
図8でのCase1~6のそれぞれのデータのY軸切片の値と、上述した(1)式のY軸切片成分(-Pb×(db/dp))との相関を示す。
図9(B)は
図8でのCase1~6のそれぞれのデータの傾きと、上述した(1)式の傾き成分(-db/dp)との相関を示す。
図9(A)、(B)は、
図8のY軸切片の値、傾きが離間距離db、dpの値から推測される値(段落0030の(1)式)と調和的であることを示している。それ故、
図2に例示したモデルを用いて、油圧力Pbと離間距離db、dpとに基づいて押圧荷重Qを算出できることが分かる。
【0055】
次に、
図3に例示した押圧工程を押圧する所定の地盤に対して行い、その際の押圧位置の押込み量Sの経時変化を押圧位置に設置した変位計により測定した。また、
図4に例示したモデルを用いて、この押圧工程でのブーム先端部の上下変位量Sb、後端部回転中心部の上下変位量Smの経時変化を算出し、その結果を
図10に示す。
図10には上下変位量SbとSmを合計した結果も示している。
図10の結果から、上下変位量SbとSmの合計値が、実測した押込み量Sと概ね一致することが分かる
。
【符号の説明】
【0056】
1 推定システム
2 油圧重機
3 車台
4 走行機構
4a クローラ
4b 駆動スプロケット
4c プーリ
4d ローラ
5 機体
6 ブーム
6a ブーム後端部
6b 後端部回転中心部
6c ブーム先端部
7 油圧シリンダ
8 アーム
8a アーム後端部
8b アーム先端部
9 油圧シリンダ
10 アタッチメント
10a バケット
10b 貫入体
11 油圧シリンダ
12 圧力センサ
13 後端部変位センサ(傾斜計)
14 先端部変位センサ(傾斜計)
15 演算部
G 対象地盤