(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】酸化膜厚測定装置および該方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/06 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
G01B11/06 Z
(21)【出願番号】P 2018131463
(22)【出願日】2018-07-11
【審査請求日】2020-11-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】乾 昌広
(72)【発明者】
【氏名】高枩 弘行
(72)【発明者】
【氏名】中西 良太
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-293504(JP,A)
【文献】特開平09-033353(JP,A)
【文献】特開平07-270130(JP,A)
【文献】特開2007-010464(JP,A)
【文献】特開平11-325839(JP,A)
【文献】特開平05-142052(JP,A)
【文献】特開平04-040329(JP,A)
【文献】特開2007-010476(JP,A)
【文献】特開2002-303551(JP,A)
【文献】特開平02-085730(JP,A)
【文献】特開2007-218591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する酸化膜厚測定装置であって、
前記鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求めるための膜厚変換情報を記憶する膜厚変換情報記憶部と、
入射光のP偏光を射出する第1P偏光フィルタ部と、
前記鋼板表面の放射光輝度を、前記第1P偏光フィルタ部を介して、前記鋼板表面の法線に対し60度以上の測定角で測定する第1放射光輝度測定部と、
前記膜厚変換情報記憶部に記憶された膜厚変換情報を用いることによって、前記第1放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理部と、
前記酸化物の膜厚に依存しない第2測定波長で、前記第1放射光輝度測定部で測定される測定領域での前記鋼板表面の放射光輝度を第2放射光輝度として測定する第2放射光輝度測定部とを備え、
前記第1放射光輝度測定部は、前記酸化物の膜厚に依存する第1測定波長で、前記鋼板表面の放射光輝度を第1放射光輝度として測定し、
前記膜厚変換情報は、前記第1測定波長における鋼板表面の第1放射光輝度と前記第2測定波長における鋼板表面の第2放射光輝度との差分と、前記酸化物の膜厚との対応関係であり、
前記膜厚処理部は、前記第1放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の第1放射光輝度と前記第2放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の第2放射光輝度との差分を求め、前記膜厚変換情報記憶部に記憶された膜厚変換情報を用いることによって、前記求めた差分に対応する前記酸化物の膜厚を求める、
酸化膜厚測定装置。
【請求項2】
入射光のP偏光を射出する第2P偏光フィルタ部をさらに備え、
前記第2放射光輝度測定部は、前記酸化物の膜厚に依存しない第2測定波長で、前記第1放射光輝度測定部で測定される測定領域での前記鋼板表面の放射光輝度を第2放射光輝度として、前記第2P偏光フィルタ部を介して測定し、
前記膜厚変換情報は、前記60度以上の測定角であってP偏光での、前記第1測定波長における鋼板表面の第1放射光輝度と前記第2測定波長における鋼板表面の第2放射光輝度との差分と、前記酸化物の膜厚との対応関係である、
請求項
1に記載の酸化膜厚測定装置。
【請求項3】
前記第1放射光輝度測定部は、測定波長が4μm以上である、
請求項1
または請求項
2に記載の酸化膜厚測定装置。
【請求項4】
前記第2放射光輝度測定部は、前記第2測定波長が3μm以下である、
請求項
1ないし請求項
3のいずれか1項に記載の酸化膜厚測定装置。
【請求項5】
前記鋼板を搬送する搬送路を形成する搬送路形成部材における、前記鋼板表面の法線を対称軸として前記
第1放射光輝度測定部の光軸に対称な方向上に位置する壁面、を冷却する冷却部をさらに備える、
請求項1ないし請求項
4のいずれか1項に記載の酸化膜厚測定装置。
【請求項6】
鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する酸化膜厚測定装置であって、
前記鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求めるための膜厚変換情報を記憶する膜厚変換情報記憶部と、
入射光のP偏光を射出する第1P偏光フィルタ部と、
前記鋼板表面の放射光輝度を、前記第1P偏光フィルタ部を介して、前記鋼板表面の法線に対し60度以上の測定角で測定する第1放射光輝度測定部と、
前記膜厚変換情報記憶部に記憶された膜厚変換情報を用いることによって、前記第1放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理部と、
前記鋼板を搬送する搬送路を形成する搬送路形成部材における、前記鋼板表面の法線を対称軸として前記
第1放射光輝度測定部の光軸に対称な方向上に位置する壁面、を冷却する冷却部
とを備える、
酸化膜厚測定装置。
【請求項7】
前記
第1放射光輝度測定部は、前記鋼板を搬送する搬送ローラに前記鋼板が当接する当接位置に設定された測定領域で、前記鋼板表面の放射光輝度を測定する、
請求項1ないし請求項
6のいずれか1項に記載の酸化膜厚測定装置。
【請求項8】
鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する酸化膜厚測定方法であって、
前記鋼板表面の放射光輝度を、P偏光フィルタ部を介して、前記鋼板表面の法線に対し60度以上の測定角で測定する
第1放射光輝度測定工程と、
前記鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求めるための膜厚変換情報を用いることによって、前記
第1放射光輝度測定工程で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理工程と、
前記酸化物の膜厚に依存しない第2測定波長で、前記第1放射光輝度測定工程で測定される測定領域での前記鋼板表面の放射光輝度を第2放射光輝度として測定する第2放射光輝度測定工程とを備え、
前記第1放射光輝度測定工程は、前記酸化物の膜厚に依存する第1測定波長で、前記鋼板表面の放射光輝度を第1放射光輝度として測定し、
前記膜厚変換情報は、前記第1測定波長における鋼板表面の第1放射光輝度と前記第2測定波長における鋼板表面の第2放射光輝度との差分と、前記酸化物の膜厚との対応関係であり、
前記膜厚処理工程は、前記第1放射光輝度測定工程で測定された鋼板表面の第1放射光輝度と前記第2放射光輝度測定工程で測定された鋼板表面の第2放射光輝度との差分を求め、前記膜厚変換情報を用いることによって、前記求めた差分に対応する前記酸化物の膜厚を求める、
酸化膜厚測定方法。
【請求項9】
鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する酸化膜厚測定方法であって、
前記鋼板表面の放射光輝度を、P偏光フィルタ部を介して、前記鋼板表面の法線に対し60度以上の測定角で測定する放射光輝度測定工程と、
前記鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求めるための膜厚変換情報を用いることによって、前記放射光輝度測定工程で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理工程と、
前記鋼板を搬送する搬送路を形成する搬送路形成部材における、前記鋼板表面の法線を対称軸として前記放射光輝度測定工程の測定での光軸に対称な方向上に位置する壁面、を冷却する冷却工程とを備える、
酸化膜厚測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する酸化膜厚測定装置および酸化膜厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板は、優れた耐食性、加工性および表面美観等の諸特性を有し、このため、例えば、自動車用鋼板として好適に使用されている。この溶融亜鉛めっきでは、焼鈍工程で鋼板表面に生成される酸化物が、溶融亜鉛めっき工程で形成されるめっき層のめっき特性に悪影響を与えることが知られている。このため、前記酸化物の膜厚を測定し、還元工程で前記酸化物を好適に還元する必要があり、前記酸化物の膜厚の測定が重要である。
【0003】
このような前記酸化物の膜厚を測定する技術は、例えば、特許文献1に提案されている。この特許文献1に開示された酸化膜計測装置は、2色型放射計によって被測定物から測定された2つの分光放射輝度信号を受信する手段、前記2つの分光放射輝度信号から2つの放射率と温度を求める手段、予め被測定物の膜厚と上記2つの放射率との関係を保持しているメモリー、および、2つの放射率と前記メモリーとを比較して被測定物の膜厚を求める膜厚比較演算部を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1に開示された酸化膜計測装置は、例えば300オングストローム以下での薄い膜厚を測定できるが(前記特許文献1第3頁右上欄第11行ないし第13行)、比較的、厚い膜厚を測定することが難しい。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、より厚い膜厚も測定できる酸化膜厚測定装置および酸化膜厚測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる酸化膜厚測定装置は、鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する酸化膜厚測定装置であって、前記鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求めるための膜厚変換情報を記憶する膜厚変換情報記憶部と、入射光のP偏光を射出する第1P偏光フィルタ部と、前記鋼板表面の放射光輝度を、前記第1P偏光フィルタ部を介して、前記鋼板表面の法線に対し60度以上の測定角で測定する第1放射光輝度測定部と、前記膜厚変換情報記憶部に記憶された膜厚変換情報を用いることによって、前記第1放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理部とを備える。好ましくは、上述の酸化膜厚測定装置において、前記膜厚変換情報は、前記60度以上の測定角であってP偏光での、前記鋼板表面の放射光輝度と前記酸化物の膜厚との対応関係(輝度膜厚対応関係)であり、前記膜厚処理部は、前記膜厚変換情報記憶部に記憶された膜厚変換情報を用いることによって、前記放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の放射光輝度に対応する前記酸化物の膜厚を求める。
【0008】
鋼板表面の放射光輝度と酸化物の膜厚との関係は、一般に、酸化物の膜厚の増加に従って、鋼板表面の放射光輝度が単調に増加した後に、ピークとなり、その後、減少したり、あるいは、増減を繰り返したりするプロファイルを持つ。このため、この関係を用いることによって、放射光輝度計で測定した鋼板表面の放射光輝度に対応する酸化物の膜厚を求めると、酸化物の膜厚が1つに決定できない場合が生じ得る。このため、前記関係を用いることによって酸化物の膜厚を求める場合には、前記ピークに対応する膜厚までしか測定できないという制約がある。種々検討した結果、発明者は、鋼板表面の法線に対し60度以上の測定角で測定される鋼板表面におけるP偏光の放射光輝度では、前記ピークがより厚い膜厚側にシフトすることを見出した。上記酸化膜厚測定装置は、このような知見に基づき、鋼板表面の法線に対し60度以上の測定角で測定される鋼板表面におけるP偏光の放射光輝度を用いるので、より厚い膜厚も測定できる。
【0009】
そして、上述の酸化膜厚測定装置において、前記酸化物の膜厚に依存しない第2測定波長で、前記第1放射光輝度測定部で測定される測定領域での前記鋼板表面の放射光輝度を第2放射光輝度として測定する第2放射光輝度測定部をさらに備え、前記第1放射光輝度測定部は、前記酸化物の膜厚に依存する第1測定波長で、前記鋼板表面の放射光輝度を第1放射光輝度として測定し、前記膜厚変換情報は、前記第1測定波長における鋼板表面の第1放射光輝度と前記第2測定波長における鋼板表面の第2放射光輝度との差分と、前記酸化物の膜厚との対応関係(差分輝度膜厚対応関係)であり、前記膜厚処理部は、前記第1放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の第1放射光輝度と前記第2放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の第2放射光輝度との差分を求め、前記膜厚変換情報記憶部に記憶された膜厚変換情報を用いることによって、前記求めた差分に対応する前記酸化物の膜厚を求める。前記第1放射光輝度測定部と揃え、より精度良く測定する観点から、好ましくは、上述の酸化膜厚測定装置において、入射光のP偏光を射出する第2P偏光フィルタ部をさらに備え、前記第2放射光輝度測定部は、前記酸化物の膜厚に依存しない第2測定波長で、前記第1放射光輝度測定部で測定される測定領域での前記鋼板表面の放射光輝度を第2放射光輝度として、前記第2P偏光フィルタ部を介して測定し、前記膜厚変換情報は、前記60度以上の測定角であってP偏光での、前記第1測定波長における鋼板表面の第1放射光輝度と前記第2測定波長における鋼板表面の第2放射光輝度との差分と、前記酸化物の膜厚との対応関係である。
【0010】
外乱が生じると、前記外乱により、前記第1放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の放射光輝度と前記第2放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の放射光輝度とには、同様のノイズが生じる。上記酸化膜厚測定装置は、前記第1放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の第1放射光輝度と前記第2放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の第2放射光輝度との差分を用いるので、外乱が生じた場合に生じるノイズを相殺できるから、より精度良く酸化物の膜厚を求めることができる。
【0013】
他の一態様では、これら上述の酸化膜厚測定装置において、前記第1放射光輝度測定部は、測定波長(第1測定波長)が4μm以上である。
【0014】
これによれば、前記酸化物の膜厚に依存する、5μm以上の第1測定波長で放射光輝度を測定する放射光輝度測定部を備えた酸化膜厚測定装置が提供できる。
【0015】
他の一態様では、これら上述の酸化膜厚測定装置において、前記第2放射光輝度測定部は、前記第2測定波長が3μm以下である。
【0016】
これによれば、前記酸化物の膜厚に依存しない、3μm以下の第2測定波長で放射光輝度を測定する第2放射光輝度測定部を備えた酸化膜厚測定装置が提供できる。
【0017】
他の一態様では、これら上述の酸化膜厚測定装置において、前記鋼板を搬送する搬送路を形成する搬送路形成部材における、前記鋼板表面の法線を対称軸として前記第1放射光輝度測定部の光軸に対称な方向上に位置する壁面、を冷却する冷却部をさらに備える。好ましくは、上述の酸化膜厚測定装置において、前記冷却部は、前記搬送路形成部材における、前記鋼板表面の法線を対称軸として前記第2放射光輝度測定部の第2光軸に対称な方向上に位置する壁面、を冷却する。このような酸化膜厚測定装置は、前記第1放射光輝度測定部の光軸に対称な方向上に位置する壁面が冷却部で冷却されるので、背景放射が抑制されるから、より精度良く酸化物の膜厚を求めることができる。
【0018】
本発明の他の一態様にかかる酸化膜厚測定装置は、鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する酸化膜厚測定装置であって、前記鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求めるための膜厚変換情報を記憶する膜厚変換情報記憶部と、入射光のP偏光を射出する第1P偏光フィルタ部と、前記鋼板表面の放射光輝度を、前記第1P偏光フィルタ部を介して、前記鋼板表面の法線に対し60度以上の測定角で測定する第1放射光輝度測定部と、前記膜厚変換情報記憶部に記憶された膜厚変換情報を用いることによって、前記第1放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理部と、前記鋼板を搬送する搬送路を形成する搬送路形成部材における、前記鋼板表面の法線を対称軸として前記第1放射光輝度測定部の光軸に対称な方向上に位置する壁面、を冷却する冷却部とを備える。このような酸化膜厚測定装置は、前記第1放射光輝度測定部の光軸に対称な方向上に位置する壁面が冷却部で冷却されるので、背景放射が抑制されるから、より精度良く酸化物の膜厚を求めることができる。
【0019】
他の一態様では、これら上述の酸化膜厚測定装置において、前記第1放射光輝度測定部は、前記鋼板を搬送する搬送ローラに前記鋼板が当接する当接位置に設定された測定領域で、前記鋼板表面の放射光輝度を測定する。好ましくは、上述の酸化膜厚測定装置において、前記搬送ローラは、前記鋼板の搬送方向を変えるデフレクタローラである。好ましくは、上述の酸化膜厚測定装置において、前記搬送ローラは、前記鋼板を狭持して搬送する一対のローラである。
【0020】
このような酸化膜厚測定装置は、振動のより少ない測定領域で放射光輝度を測定できるので、より精度良く放射光輝度を測定でき、この結果、より精度良く酸化物の膜厚を求めることができる。
【0021】
本発明の他の一態様にかかる酸化膜厚測定方法は、鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する酸化膜厚測定方法であって、前記鋼板表面の放射光輝度を、P偏光フィルタ部を介して、前記鋼板表面の法線に対し60度以上の測定角で測定する第1放射光輝度測定工程と、前記鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求めるための膜厚変換情報を用いることによって、前記第1放射光輝度測定工程で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理工程と、前記酸化物の膜厚に依存しない第2測定波長で、前記第1放射光輝度測定工程で測定される測定領域での前記鋼板表面の放射光輝度を第2放射光輝度として測定する第2放射光輝度測定工程とを備え、前記第1放射光輝度測定工程は、前記酸化物の膜厚に依存する第1測定波長で、前記鋼板表面の放射光輝度を第1放射光輝度として測定し、前記膜厚変換情報は、前記第1測定波長における鋼板表面の第1放射光輝度と前記第2測定波長における鋼板表面の第2放射光輝度との差分と、前記酸化物の膜厚との対応関係であり、前記膜厚処理工程は、前記第1放射光輝度測定工程で測定された鋼板表面の第1放射光輝度と前記第2放射光輝度測定工程で測定された鋼板表面の第2放射光輝度との差分を求め、前記膜厚変換情報を用いることによって、前記求めた差分に対応する前記酸化物の膜厚を求める。本発明の他の一態様にかかる酸化膜厚測定方法は、鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する酸化膜厚測定方法であって、前記鋼板表面の放射光輝度を、P偏光フィルタ部を介して、前記鋼板表面の法線に対し60度以上の測定角で測定する放射光輝度測定工程と、前記鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求めるための膜厚変換情報を用いることによって、前記放射光輝度測定工程で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理工程と、前記鋼板を搬送する搬送路を形成する搬送路形成部材における、前記鋼板表面の法線を対称軸として前記放射光輝度測定工程の測定での光軸に対称な方向上に位置する壁面、を冷却する冷却工程とを備える。好ましくは、上述の酸化膜厚測定方法において、前記鋼板を搬送する搬送ローラに前記鋼板が当接する当接位置に、前記放射光輝度測定工程で前記鋼板表面の放射光輝度を測定する測定領域が設定される。
【0022】
このような酸化膜厚測定方法は、上述の知見に基づき、鋼板表面の法線に対し60度以上の測定角で測定される鋼板表面におけるP偏光の放射光輝度を用いるので、より厚い膜厚も測定できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる酸化膜厚測定装置および酸化膜厚測定方法は、より厚い膜厚も測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態における酸化膜厚測定装置の構成を示す外観図である。
【
図2】前記酸化膜厚測定装置における第1放射光輝度測定部の第1光軸を含む断面での断面図である。
【
図3】前記酸化膜厚測定装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【
図4】測定角と放射率単調増加上限膜厚との関係を示す図である。
【
図7】単層膜の反射率を計算するための計算モデルを説明するための図である。
【
図8】2個の第1および第2測定波長での、酸化膜厚と放射率との関係を示す図である。
【
図9】第1実施形態における酸化膜厚測定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図10】第2実施形態における酸化膜厚測定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図11】変形形態の酸化膜厚測定装置における測定領域を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0026】
実施形態における酸化膜厚測定装置は、鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する装置であって、前記鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求めるための膜厚変換情報を記憶する膜厚変換情報記憶部と、入射光のP偏光を射出するP偏光フィルタ部と、前記鋼板表面の放射光輝度を、前記P偏光フィルタ部を介して、前記鋼板表面の法線に対し60度以上の測定角で測定する放射光輝度測定部と、前記膜厚変換情報記憶部に記憶された膜厚変換情報を用いることによって、前記放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理部とを備える。このような酸化膜厚測定装置について、以下に、第1および第2実施形態で、より具体的に説明する。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、実施形態における酸化膜厚測定装置の構成を示す外観図である。
図2は、前記酸化膜厚測定装置における第1放射光輝度測定部の第1光軸を含む断面での断面図である。
図3は、前記酸化膜厚測定装置の電気的な構成を示すブロック図である。
図4は、測定角と放射率単調増加上限膜厚との関係を示す図である。
図4の横軸は、角度であり、その縦軸は、放射率が酸化膜厚に対し単調に増加する膜厚範囲における上限膜厚である。
図5は、酸化膜厚と放射率との関係を示す図である。
図5の横軸は、酸化膜厚であり、その縦軸は、放射率である。
図6は、測定波長と放射率との関係を示す図である。
図6の横軸は、測定波長であり、その縦軸は、放射率である。
図7は、単層膜の反射率を計算するための計算モデルを説明するための図である。
図8は、2個の第1および第2測定波長での、酸化膜厚と放射率との関係を示す図である。
図8の横軸は、酸化膜厚であり、その縦軸は、放射率である。
【0028】
第1実施形態における酸化膜厚測定装置Daは、例えば、
図1ないし
図3に示すように、第1および第2P偏光フィルタ部1-1、1-2と、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2と、制御処理部3aと、記憶部4aと、入力部5と、出力部6と、インターフェース部(IF部)7と、冷却部8とを備え、鋼板WKを搬送する搬送路を形成する搬送路形成部材HSに配置される。なお、
図3には、冷却部8の記載が省略されている。
【0029】
搬送路形成部材HSは、断面矩形形状の比較的長尺な中空な角柱状部材であり、その内部が耐火物等の断熱材で覆われ、鋼板WKを搬送する搬送路を形成している。搬送路形成部材HSは、その一方端で、例えば、鋼板WKの表面に所定の膜厚で酸化膜を形成するために、搬送されて走行中の鋼板WKを直火バーナーで加熱する直火加熱炉の下流側に連結され、その他方端で、鋼板WKの表面に形成された酸化膜を還元する還元装置の上流側に連結されて配置される。この直火加熱炉の加熱により、搬送路形成部材HS内を搬送される鋼板WKは、自発光している。搬送路形成部材HSには、上壁から所定の第1方向で外部へ延びる筒状の第1測定窓形成部材(第1覗管部材)HSaが連結され、上壁から所定の第2方向で外部へ延びる筒状の第2測定窓形成部材(第2覗管部材)HSbが連結されている。これら第1および第2方向については、後述する。第1測定窓形成部材HSaにおける搬送路に臨む一方端には、所定の第1測定波長を少なくとも透過する例えばAl2O3等の第1窓部材(不図示)が嵌め込まれ、その他方端には、第1P偏光フィルタ部1-1を介して第1放射光輝度測定部2-1が取り付けられている。筒状の第1測定窓形成部材HSaにおける中心軸は、第1放射光輝度測定部2-1の光軸AX-1と略一致する。第2測定窓形成部材HSbにおける搬送路に臨む一方端には、所定の第2測定波長を少なくとも透過する例えば石英ガラス等の第2窓部材(不図示)が嵌め込まれ、その他方端には、第2P偏光フィルタ部1-2を介して第2放射光輝度測定部2-2が取り付けられている。筒状の第2測定窓形成部材HSbにおける中心軸は、第2放射光輝度測定部2-2の光軸AX-2と略一致する。
【0030】
第1P偏光フィルタ部1-1は、第1測定波長において、入射光のP偏光を透過して射出し、それ以外の状態の光を遮断する光学素子である。第2P偏光フィルタ部1-2は、第2測定波長において、入射光のP偏光を透過して射出し、それ以外の状態の光を遮断する光学素子である。
【0031】
第1放射光輝度測定部2-1は、制御処理部3aに接続され、制御処理部3aの制御に従って、鋼板WKにおける鋼板表面の放射光輝度を、第1P偏光フィルタ部1-1を介して、前記鋼板表面の法線NLに対し60度以上の第1測定角θ1で測定する装置である。本実施形態では、第1放射光輝度測定部2-1は、さらに、鋼板WKの鋼板表面に形成される酸化物(例えば鉄系酸化物等)の膜厚dに依存する第1測定波長λ1で測定する。第1放射光輝度測定部2-1は、その測定した放射光輝度を制御処理部3aへ出力する。
【0032】
第2放射光輝度測定部2-2は、制御処理部3aに接続され、制御処理部3aの制御に従って、第1放射光輝度測定部2-1で測定される測定領域(測定位置)Pでの前記鋼板表面の放射光輝度を、第2P偏光フィルタ部1-2を介して、前記鋼板表面の法線NLに対し所定の第2測定角θ2で測定する装置である。本実施形態では、第2放射光輝度測定部2-2は、さらに、鋼板WKの鋼板表面に形成される酸化物の膜厚dに依存しない第2測定波長λ2で測定する。第2放射光輝度測定部2-2は、その測定した放射光輝度を制御処理部3aへ出力する。
【0033】
第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2は、それぞれ、例えば、測定波長を規定するための、所定の波長帯を透過するバンドパス光学フィルタと、前記バンドパス光学フィルタ介して鋼板WKの表面の放射光強度を受光する受光素子と、前記受光素子の出力レベルと放射光輝度との対応関係を予め記憶する記憶部と、前記バンドパス光学フィルタ介して鋼板WKの表面の放射光強度を受光して得られた前記受光素子の出力レベルから、前記対応関係を用いることで放射光輝度を求める情報処理部とを備える。第1放射光輝度測定部2-1におけるバンドパス光学フィルタ(第1バンドパス光学フィルタ)の波長帯(第1波長帯)は、第1測定波長を含むように設定され、第2放射光輝度測定部2-2におけるバンドパス光学フィルタ(第2バンドパス光学フィルタ)の波長帯(第2波長帯)は、第2測定波長を含むように設定される。なお、これら前記記憶部および前記情報処理部は、後述の記憶部4aおよび制御処理部3aと兼用されて良い。あるいは、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2それぞれに放射温度計が利用されても良い。市販の放射温度計は、通常、測定波長が限定され、バンドパス光学フィルタが組み込まれている。また、放射光輝度は、温度(設定放射率を1としたときの表示温度)と測定波長とから、いわゆるプランクの法則より算出できる。このため、例えば、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2は、それぞれ、鋼板WKの表面の温度を測定する放射温度計と、前記放射温度計で測定された温度と前記放射温度計の測定波長から放射光輝度を求める情報処理部とを備える。第1放射光輝度測定部2-1に用いられる放射温度計(第1放射温度計)おける測定波長は、第1測定波長に設定され、第2放射光輝度測定部2-2に用いられる放射温度計(第2放射温度計)おける測定波長は、第2測定波長に設定される。なお、これら前記情報処理部は、後述の制御処理部3aと兼用されて良い。また、ハーフミラー等の分光器を組み込んでいない、複数の放射温度計をこのように組み合わせて用いることで装置の低コスト化を図ることができる。前記放射温度計には、例えばサーモパイル(thermopile)やボロメータ(bolometer)や焦電センサ等を備えた放射温度計が利用できる。
【0034】
これら第1および第2測定角θ1、θ2ならびに第1および第2測定波長λ1、λ2について説明する。
【0035】
直火加熱炉の加熱工程による酸化の進行に伴い、放射率εは、酸化物の膜厚dの増加に従って、単調に増加した後に、ピークとなり、その後、減少したり、あるいは、増減を繰り返したりするプロファイルを持つ。この放射率εの振動の原因は、酸化膜表面での放射と、酸化膜と金属表面界面での放射が干渉を起こすためであると考えられている(平本一男他、「酸化プロセス中の金属の分光放射率挙動」、鉄と鋼 Vol.85 (1999) No.12、P863-869参照)。これにより、例えば、
図7に示すように、鋼板WKの鋼板表面に単層の酸化膜WK2が形成される場合、反射率Rは、次式1で表され、放射率εは、次式3で表される。
式1;R=(ρ
01+ρ
12e
-2iδ)/(1+ρ
01ρ
12e
-2iδ)
式2;δ=(2N
1dcosθ)/λ
式3;ε=1-R
ここで、θは、入射角であり、λは、波長であり、dは、酸化膜厚であり、N
1は、酸化膜WK2の複素屈折率であり、ρ
01は、鋼板WKを取り巻く雰囲気(空気や窒素等)と酸化膜WK2との界面での反射率であり、ρ
12は、酸化膜WK2と酸化膜WK2下における酸化していない鋼板本体WK1との界面での反射率であり、iは、虚数単位(i
2=-1)であり、eは、ネイピア数(e≒2.71828)である。なお、放射光輝度は、放射率と温度に依存し、ここでは、鋼板WKの温度は、所定の温度で一定と仮定している。したがって、
図3や
図4に記載された放射率変化は、放射光輝度変化に読み替えることができる。
【0036】
前記入射角θの正反射方向から放射光輝度を観測し(入射角θ=測定角θ)、前記波長λを測定波長として上述の式1ないし式3を用いることによって、測定角θを変えながら、酸化物の膜厚dに対する放射率εの関係を求めると(シミュレートすると)、
図4に示すように、酸化膜厚dの増加に従って放射率εが単調に増加する酸化膜厚dの範囲における上限膜厚d
maxは、測定角θが0度から60度未満では、ほとんど変化しないが、測定角θが60度以上になると大きくなる。このような知見に基づき、第1測定角θ1は、60度以上の角度、例えば、65度や75度や80度等に設定される。このため、前記第1方向は、鋼板表面の法線NLに対し60度以上の第1測定角θ1の方向であり、筒状の第1測定窓形成部材HSaは、前記上壁から前記第1測定角θ1の方向で外部へ延びる。
【0037】
さらに、上述の式1ないし式3を用いることによって、観測する光の状態がS偏光のみである場合、観測する光の状態がS偏光およびP偏光である場合(従前)、および、観測する光の状態がP偏光のみである場合それぞれについて、酸化物の膜厚dに対する放射率εの関係を求めると、
図5に示すように、酸化膜厚dの増加に従って放射率εが単調に増加する酸化膜厚dの範囲における上限膜厚d
maxは、観測する光の状態がS偏光のみである場合、観測する光の状態がS偏光およびP偏光である場合(従前)、および、観測する光の状態がP偏光のみである場合の順で、大きくなる。このような知見に基づき、上述のように、第1放射光輝度測定部2-1は、第1P偏光フィルタ部1-1を介して鋼板表面の放射光輝度を測定するように構成されている。
【0038】
一方、上述の式1ないし式3を用いることによって、所定の酸化膜厚dにおいて、測定波長λを変えながら、放射率εを求めると、
図6に示すように、酸化膜厚が0.8μmでは、放射率εは、測定波長λが長くなると曲線α1のように振動的に変化し、酸化膜厚が0.5μmでは、放射率εは、同様に、測定波長λが長くなると曲線α2のように振動的に変化し、酸化膜厚が0.3μmでは、放射率εは、同様に、測定波長λが長くなると曲線α3のように振動的に変化する。ここで、測定波長が4μmないし20μmの範囲β2内では、測定波長λに対し酸化膜厚dが変化している。このような知見に基づき、第1放射光輝度測定部2-1の測定波長(第1測定波長)λ1は、酸化膜厚に依存する波長として、4μm以上に設定される。一方、測定波長が1μmないし3μmの範囲β1内では、測定波長λに対し酸化膜厚dが変化しない。このような知見に基づき、第2放射光輝度測定部2-2の測定波長(第2測定波長)λ2は、酸化膜厚に依存しない波長として、3μm以下に設定される。
【0039】
このように第2放射光輝度測定部2-2は、酸化膜厚に依存しない波長で測定するので、第2測定角θ2は、任意の角度でよく、第1測定角θ1と等しくても、異なっていても良い。前記第2方向は、第2測定角θ2の方向であり、筒状の第2測定窓形成部材HSbは、前記上壁から前記第2測定角θ2の方向で外部へ延びる。本実施形態では、鋼板表面の法線NLを含み搬送方向に直交する平面(後述のXYZ直交座標系でのYZ平面)に対し対称的に構成するために、第2測定角θ2は、第1測定角θ1と等しい。
【0040】
図1ないし
図3に戻って、搬送路形成部材HSにおける上壁から一方側壁に亘って冷却部8が配置されている。冷却部8は、搬送路形成部材HSを冷却する装置であり、例えば、断面L字状の箱形のハウジングと、前記ハウジングを冷却するように前記ハウジング内に収容され、水等の冷却液が流通される流通管とを備えて構成され、前記ハウジングが、搬送路形成部材HSにおける上壁から一方側壁に沿うように配設される。
【0041】
鋼板WKは、前記直火加熱炉で加熱されているので、搬送路形成部材HSの内壁は、鋼板WKによって加熱され、輻射熱を放射する。この搬送路形成部材HSの内壁から輻射される輻射熱は、再び鋼板WKに入射され、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2に入射され、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2の背景放射となる。この背景放射は、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2にとって抑制されることが好ましい。このため、本実施形態では、前記鋼板表面の法線NLを対称軸として第1放射光輝度測定部2-1の第1光軸AX-1に対称な方向上に位置する壁面が、冷却部8によって冷却される、搬送路形成部材HSにおける上壁から一方側壁に亘る内壁面となるように、第1測定窓形成部材HSaが配置され、前記鋼板表面の法線NLを対称軸として第2放射光輝度測定部2-2の第2光軸AX-2に対称な方向上に位置する壁面が、冷却部8によって冷却される、搬送路形成部材HSにおける上壁から一方側壁に亘る前記内壁面となるように、第2測定窓形成部材HSbが配置される。より具体的には、
図1に示すように、鋼板WKの搬送方向をX軸とし、このX軸に直交し鋼板WKにおける鋼板表面の法線NLをZ軸とし、これらX軸およびZ軸それぞれに直交する方向をY軸とするXYZ直交座標系を設定すると、第1測定角θ1は、Z軸と第1放射光輝度測定部2-1の第1光軸AX-1とのなす角であり、この第1光軸AX-1をXY平面に射影した第1射影線SAX-1とX軸とのなす角φ1が所定の角度(コンパクト化のために例えば45度以上の角度)となるように第1測定窓形成部材HSaが配置される。すなわち、第1測定窓形成部材HSaは、鋼板WKの搬送方向に対し傾斜して配置されている。これにより、冷却部8は、搬送路形成部材HSにおける、前記鋼板表面の法線NLを対称軸として第1放射光輝度測定部2-1の第1光軸AX-1に対称な方向上に位置する壁面を冷却でき、第1放射光輝度測定部2-1の背景放射が低減できる。同様に、第2測定角θ2は、Z軸と第2放射光輝度測定部2-2の第2光軸AX-2とのなす角であり、この第2光軸AX-2をXY平面(-XY平面)に射影した第2射影線SAX-2(不図示)とX軸(-X軸)とのなす角φ2(不図示)が所定の角度(コンパクト化のために例えば45度以上の角度)となるように第2測定窓形成部材HSbが配置される。すなわち、第2測定窓形成部材HSbは、鋼板WKの搬送方向に対し傾斜して配置されている。これにより、冷却部8は、搬送路形成部材HSにおける、前記鋼板表面の法線NLを対称軸として第2放射光輝度測定部2-2の第2光軸AX-2に対称な方向上に位置する壁面を冷却でき、第2放射光輝度測定部2-2の背景放射が低減できる。
【0042】
入力部5は、制御処理部3aに接続され、例えば、酸化膜厚の測定開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、例えば、鋼板WKの名称や後述の膜厚変換情報等の前記酸化膜厚の測定を行う上で必要な各種データを酸化膜厚測定装置Daに入力する装置であり、例えば、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ、キーボードおよびマウス等である。出力部6は、制御処理部3aに接続され、制御処理部3aの制御に従って、入力部5から入力されたコマンドやデータ、および、当該酸化膜厚測定装置Daによって測定された測定結果等を出力する装置であり、例えばCRTディスプレイ、LCD(液晶表示装置)および有機ELディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0043】
IF部7は、制御処理部3aに接続され、制御処理部3aの制御に従って、外部機器との間でデータの入出力を行う回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS-232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、IrDA(Infrared Data Asscoiation)規格等の赤外線通信を行うインターフェース回路、および、USB(Universal Serial Bus)規格を用いたインターフェース回路等である。また、IF部7は、外部機器との間で通信を行う回路であり、例えば、データ通信カードや、IEEE802.11規格等に従った通信インターフェース回路等であっても良い。
【0044】
記憶部4aは、制御処理部3aに接続され、制御処理部3aの制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、酸化膜厚測定装置Daの各部2(2-1、2-2)、4a~8を制御する制御プログラムや、後述の膜厚変換情報記憶部41aに記憶された膜厚変換情報を用いることによって、放射光輝度測定部2で測定された鋼板表面の放射光輝度(本実施形態では第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2で測定された鋼板表面の各放射光輝度)に基づいて、前記鋼板表面に生成された酸化物の膜厚(酸化膜厚)dを求める膜厚処理プログラム等の制御処理プログラムが含まれる。前記各種の所定のデータには、鋼板WKの名称や膜厚変換情報等の、これら各プログラムを実行する上で必要なデータが含まれる。このような記憶部4aは、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。記憶部4aは、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部3aのワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。そして、記憶部4aは、膜厚変換情報を記憶する膜厚変換情報記憶部41aを機能的に備える。
【0045】
膜厚変換情報記憶部41aは、膜厚変換情報を記憶するものである。前記膜厚変換情報は、鋼板WKにおける鋼板表面の放射光輝度に基づいて、前記鋼板表面に生成される酸化物の膜厚(酸化膜厚)dを求めるための情報である。より具体的には、鋼板表面の放射光輝度から酸化膜厚dを求めるので、前記膜厚変換情報は、前記60度以上の測定角(第1測定角θ1)であってP偏光での、前記鋼板表面の放射光輝度と前記酸化膜厚との対応関係(輝度膜厚対応関係)である。より詳しくは、本実施形態では、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2それぞれで測定された第1および第2放射光輝度の差分から酸化膜厚dを求めるので、前記膜厚変換情報は、例えば、
図8に示すように、前記60度以上の測定角(第1測定角θ1、第2測定角θ2は任意で良いので第2測定角θ2には依存しない)であってP偏光での、第1測定波長λ1における鋼板表面の第1放射光輝度γ1と第2測定波長λ2における鋼板表面の第2放射光輝度γ2との差分△γと、酸化膜厚dとの対応関係(差分輝度膜厚対応関係)である。このような差分輝度膜厚対応関係は、例えば、複数のサンプルから予め求められる。あるいは、例えば、差分輝度膜厚対応関係は、上述の式1ないし式3を用いることによってシミュレーションによって予め求められる。そして、差分輝度膜厚対応関係は、例えばルックアップテーブル形式で、あるいは例えば関数式で、膜厚変換情報記憶部41aに予め記憶される。
【0046】
制御処理部3aは、酸化膜厚測定装置Daの各部2(2-1、2-2)、4a~8を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、膜厚変換情報記憶部41aに記憶された膜厚変換情報を用いることによって、放射光輝度測定部2で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて酸化膜厚dを求めるための回路である。本実施形態では、制御処理部3aは、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2それぞれで第1および第2放射光輝度を測定し、膜厚変換情報記憶部41aに記憶された膜厚変換情報としての差分輝度膜厚対応関係を用いることによって、第1および第2放射光輝度の差分から酸化膜厚dを求める。制御処理部3aは、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部3aは、制御処理プログラムが実行されることによって、制御部31および膜厚処理部32aを機能的に備える。
【0047】
制御部31は、当該酸化膜厚測定装置Daの各部2(2-1、2-2)、4a~8を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、酸化膜厚測定装置Daの全体制御を司るものである。
【0048】
膜厚処理部32aは、膜厚変換情報記憶部41aに記憶された膜厚変換情報を用いることによって、放射光輝度測定部2で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて酸化膜厚dを求めるものである。より具体的には、膜厚処理部32aは、膜厚変換情報記憶部41aに記憶された膜厚変換情報としての輝度膜厚対応関係を用いることによって、放射光輝度測定部2で測定された鋼板表面の放射光輝度に対応する酸化膜厚dを求める。より詳しくは、本実施形態では、膜厚処理部32aは、第1放射光輝度測定部2-1で測定された鋼板表面の第1放射光輝度と第2放射光輝度測定部2-2で測定された鋼板表面の第2放射光輝度との差分を求め、膜厚変換情報記憶部41aに記憶された膜厚変換情報としての差分輝度膜厚対応関係を用いることによって、前記求めた差分に対応する酸化膜厚dを求める。
【0049】
このような制御処理部3a、記憶部4a、入力部5、出力部6およびIF部7は、例えばデスクトップ型やノード型等のパーソナルコンピュータPC等によって構成可能である。
【0050】
次に、第1実施形態の動作について説明する。
図9は、第1実施形態における酸化膜厚測定装置の動作を示すフローチャートである。
【0051】
このような構成の酸化膜厚測定装置Daは、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。その制御処理プログラムの実行によって、制御処理部3aには、制御部31および膜厚処理部32aが機能的に構成される。
【0052】
そして、鋼板WKにおける鋼板表面の酸化膜厚を測定するにあたって、まず、酸化膜厚測定装置Daは、制御処理部3aの制御部31によって、冷却部8に冷却液を流通させる。なお、酸化膜厚の測定に関わらず、常時、冷却部8に冷却液を流通させるように、酸化膜厚測定装置Daが構成されても良い。
【0053】
例えば測定開始の指示を入力部5で受け付けると、
図9において、制御処理部3aの制御部31は、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2それぞれに鋼板WKにおける鋼板表面の放射光輝度を測定させ、第1放射光輝度測定部2-1は、鋼板表面の法線に対し60度以上の第1測定角θ1で、第1P偏光フィルタ部1-1を介して第1測定波長λ1での鋼板表面の放射光輝度を測定すると、その測定結果の第1放射光輝度(P偏光の第1放射光輝度)を制御処理部3aへ出力し、第2放射光輝度測定部2-2は、第1放射光輝度測定部2-1が第1放射光輝度を測定した測定領域Pにおいて、第2P偏光フィルタ部1-2を介して第2測定波長λ2での鋼板表面の放射光輝度を測定すると、その測定結果の第2放射光輝度(P偏光の第2放射光輝度)を制御処理部3aへ出力する(S11)。
【0054】
続いて、第1および第2放射光輝度を測定すると、制御処理部3aの膜厚処理部32aは、第1放射光輝度から第2放射光輝度を減算することによって、第1および第2放射光輝度の差分を求め、膜厚変換情報記憶部41aに記憶されている膜厚変換情報、本実施形態では、差分輝度膜厚対応関係から、前記求めた差分に対応する酸化膜厚dを求める(S12)。
【0055】
続いて、酸化膜厚dを求めると、制御処理部3aの制御部31は、この求めた酸化膜厚dを出力部6で出力し、処理を終了する。なお、必要に応じて、制御処理部3aの制御部31は、この求めた酸化膜厚dをIF部7に出力してもよい。
【0056】
なお、上述の処理S12において、膜厚処理部32aは、輝度膜厚対応関係から、第1放射光輝度に対応する酸化膜厚dを求めても良い。この場合では、第2P偏光フィルタ部1-2、第2放射光測定部2-2およびこれらを取り付けるための第2測定窓形成部材HSbが省略できる。
【0057】
以上、説明したように、本実施形態における酸化膜厚測定装置Daおよびこれに実装された酸化膜厚測定方法は、上述の知見に基づき、鋼板表面の法線NLに対し60度以上の第1測定角θ1で測定される鋼板表面におけるP偏光の放射光輝度を用いるので、より厚い膜厚も測定できる。
【0058】
上記酸化膜厚測定装置Daおよび酸化膜厚測定方法は、第1放射光輝度測定部2-1で測定された鋼板表面の第1放射光輝度と第2放射光輝度測定部2-2で測定された鋼板表面の第2放射光輝度との差分を用いるので、外乱が生じた場合に生じるノイズを相殺できるから、より精度良く酸化膜厚を求めることができる。
【0059】
上記酸化膜厚測定装置Daおよび酸化膜厚測定方法は、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2それぞれの各光軸AX-1、AX-2に対称な各方向上に位置する壁面が冷却部8で冷却されるので、背景放射が抑制されるから、より精度良く酸化膜厚を求めることができる。
【0060】
本実施形態によれば、酸化膜厚に依存する、4μm以上の第1測定波長で放射光輝度を測定する第1放射光輝度測定部2-1を備え、前記酸化膜厚に依存しない、3μm以下の第2測定波長で放射光輝度を測定する第2放射光輝度測定部2-2を備えた酸化膜厚測定装置Daが提供できる。
【0061】
次に、別の実施形態について説明する。
【0062】
(第2実施形態)
連続稼働中では、鋼板WKは、略一定温度であるが、何らかの原因で鋼板WKの温度が変化する場合もある。第2実施形態における酸化膜厚測定装置は、鋼板表面における放射光輝度と温度から放射率を求め、この求めた放射率に基づいて酸化膜厚dを求めるものである。
【0063】
このような第2実施形態における酸化膜厚測定装置Dbは、例えば、
図1ないし
図3に示すように、第1P偏光フィルタ部1-1と、第1放射光輝度測定部2-1と、制御処理部3bと、記憶部4bと、入力部5と、出力部6と、IF部7と、冷却部8と、温度測定部9とを備え、搬送路形成部材HSに配置される。すなわち、第2実施形態における酸化膜厚測定装置Dbは、第1実施形態における酸化膜厚測定装置Daに対し、制御処理部3aおよび記憶部4aに代え、制御処理部3bおよび記憶部4bを備え、第2P偏光フィルタ部1-2および第2放射光輝度測定部2-2を備えない一方で、さらに、温度測定部9を備える。このため、これら第2実施形態の酸化膜厚測定装置Dbにおける第1P偏光フィルタ部1-1、第1放射光輝度測定部2-1、入力部5、出力部6、IF部7、冷却部8および搬送路形成部材HSは、それぞれ、第1実施形態の酸化膜厚測定装置Daにおける第1および第2P偏光フィルタ部1-1、1-2、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2、入力部5、出力部6、IF部7、冷却部8および搬送路形成部材HSと同様であるので、その説明を省略する。
【0064】
温度測定部9は、制御処理部3bに接続され、制御処理部3bの制御に従って、第1放射光輝度測定部2-1で測定される測定領域Pでの鋼板表面の温度を測定する装置である。温度測定部9は、例えば、サーモパイルや、ボロメータや、焦電センサ等を備えて構成される放射温度計、あるいは接触式温度計等である。搬送路形成部材HSには、第1放射光輝度測定部2-1で測定される測定領域Pにおいて、温度測定部9が鋼板WKにおける鋼板表面の法線方向から前記鋼板表面を臨むことができるように、例えば、温度測定部取付開口(
図1に不図示)がその上壁に設けられ、温度測定部9が取り付けられる。あるいは、搬送路形成部材HSには、第1放射光輝度測定部2-1で測定される測定領域Pにおいて、第1および測定窓形成部材HSa、HSbと同様な、筒状の第3測定窓形成部材(
図1に不図示)がその上壁から前記法線方向で外部へ延びるように連結され、前記第3測定窓形成部材における搬送路に臨む一方端には、断熱性の第3窓部材が嵌め込まれ、その他方端には、温度測定部9が取り付けられる。温度測定部9は、前記測定した鋼板表面の温度を制御処理部3bへ出力する。
【0065】
なお、上述したように、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2が放射温度計を備えて構成される場合には、温度測定部9は、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2のいずれかと兼用でき、酸化膜厚測定装置Dbは、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2とは別途に温度測定部9を備える必要がなく、低コスト化できる。すなわち、第2実施形態における酸化膜厚測定装置Dbは、上述のように、第1放射光輝度測定部2-1および温度測定部9を備えて構成されて良く、あるいは、放射光輝度測定部および温度測定部9として機能する第1放射光輝度測定部2-1を備えて構成されて良く、あるいは、第1放射光輝度測定部2-1および温度測定部9として機能する第2放射光輝度測定部2-2を備えて構成されて良い。
【0066】
記憶部4bは、制御処理部3bに接続され、制御処理部3bの制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、酸化膜厚測定装置Dbの各部2-1、4b~8を制御する制御プログラムや、後述の膜厚変換情報記憶部41bに記憶された膜厚変換情報を用いることによって、第1放射光輝度測定部2-1で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて、前記鋼板表面に生成された酸化物の膜厚(酸化膜厚)dを求める膜厚処理プログラム等の制御処理プログラムが含まれる。前記各種の所定のデータには、鋼板WKの名称や膜厚変換情報等の、これら各プログラムを実行する上で必要なデータが含まれる。このような記憶部4bは、例えばROM、EEPROM、RAM等を備える。そして、記憶部4bは、膜厚変換情報を記憶する膜厚変換情報記憶部41bを機能的に備える。
【0067】
膜厚変換情報記憶部41bは、厚変換情報を記憶するものである。前記膜厚変換情報は、鋼板WKにおける鋼板表面の放射光輝度に基づいて、前記鋼板表面に生成される酸化物の膜厚(酸化膜厚)dを求めるための情報である。より具体的には、鋼板表面の放射率εから酸化膜厚dを求めるので、前記膜厚変換情報は、前記60度以上の測定角(第1測定角θ1)であってP偏光での、前記鋼板表面の放射率εと前記酸化膜厚dとの対応関係(放射率膜厚対応関係)である。このような放射率膜厚対応関係は、例えば、複数のサンプルから予め求められる。あるいは、例えば、放射率膜厚対応関係は、上述の式1ないし式3を用いることによってシミュレーションによって予め求められる。そして、放射率膜厚対応関係は、例えばルックアップテーブル形式で、あるいは例えば関数式で、膜厚変換情報記憶部41bに予め記憶される。
【0068】
制御処理部3bは、酸化膜厚測定装置Dbの各部2-1、4b~8を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、膜厚変換情報記憶部41bに記憶された膜厚変換情報を用いることによって、放射光輝度測定部2で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて酸化膜厚dを求めるための回路である。本実施形態では、制御処理部3bは、第1放射光輝度測定部2-1で測定された鋼板表面の放射光輝度および温度測定部9で測定された鋼板表面の温度に基づいて鋼板表面の放射率を求め、膜厚変換情報記憶部41bに記憶された膜厚変換情報を用いることによって、この求めた鋼板表面の放射率に対応する酸化物の膜厚を求める。制御処理部3aは、例えば、CPUおよびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部3bは、制御処理プログラムが実行されることによって、制御部31および膜厚処理部32bを機能的に備える。
【0069】
制御部31は、当該酸化膜厚測定装置Dbの各部2(2-1、2-2)、4b~8を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、酸化膜厚測定装置Dbの全体制御を司るものである。
【0070】
膜厚処理部32bは、膜厚変換情報記憶部41bに記憶された膜厚変換情報を用いることによって、放射光輝度測定部2で測定された鋼板表面の放射光輝度に基づいて酸化膜厚dを求めるものである。より具体的には、膜厚処理部32bは、第1放射光輝度測定部2-1で測定された鋼板表面の放射光輝度および温度測定部9で測定された鋼板表面の温度に基づいて鋼板表面の放射率εを求め、膜厚変換情報記憶部41bに記憶された膜厚変換情報としての放射率膜厚対応関係を用いることによって、前記求めた鋼板表面の放射率εに対応する酸化膜厚dを求める。
【0071】
次に、第2実施形態の動作について説明する。
図10は、第2実施形態における酸化膜厚測定装置の動作を示すフローチャートである。
【0072】
このような構成の酸化膜厚測定装置Dbは、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。その制御処理プログラムの実行によって、制御処理部3bには、制御部31および膜厚処理部32bが機能的に構成される。
【0073】
そして、鋼板WKにおける鋼板表面の酸化膜厚を測定するにあたって、まず、酸化膜厚測定装置Dbは、制御処理部3bの制御部31によって、冷却部8に冷却液を流通させる。なお、上述と同様に、酸化膜厚の測定に関わらず、常時、冷却部8に冷却液を流通させるように、酸化膜厚測定装置Dbが構成されても良い。
【0074】
例えば測定開始の指示を入力部5で受け付けると、
図10において、制御処理部3bの制御部31は、第1放射光輝度測定部2-1に鋼板WKにおける鋼板表面の放射光輝度を測定させ、第1放射光輝度測定部2-1は、鋼板表面の法線に対し60度以上の第1測定角θ1で、第1P偏光フィルタ部1-1を介して第1測定波長λ1での鋼板表面の放射光輝度を測定すると、その測定結果の第1放射光輝度(P偏光の第1放射光輝度)を制御処理部3bへ出力する(S21)。
【0075】
そして、制御処理部3bの制御部31は、温度測定部9に鋼板WKにおける鋼板表面の温度を測定させ、温度測定部9は、第1放射光輝度測定部2-1が第1放射光輝度を測定した測定領域Pにおいて、鋼板表面の温度を測定すると、その測定結果の温度を制御処理部3bへ出力する(S22)。
【0076】
続いて、第1放射光輝度および温度を測定すると、制御処理部3bの膜厚処理部32bは、第1放射光輝度測定部2-1で測定された鋼板表面の第1放射光輝度および温度測定部9で測定された鋼板表面の温度に基づいて鋼板表面の放射率εを求め、膜厚変換情報記憶部41bに記憶された膜厚変換情報、本実施形態では放射率膜厚対応関係から、この求めた放射率εに対応する酸化膜厚dを求める(S23)。
【0077】
続いて、酸化膜厚dを求めると、制御処理部3bの制御部31は、この求めた酸化膜厚dを出力部6で出力し、処理を終了する。なお、必要に応じて、制御処理部3bの制御部31は、この求めた酸化膜厚dをIF部7に出力してもよい。
【0078】
第2実施形態における酸化膜厚測定装置Dbおよびこれに実装された酸化膜厚測定方法は、上述の知見に基づき、鋼板表面の法線NLに対し60度以上の第1測定角θ1で測定される鋼板表面におけるP偏光の放射光輝度を用いるので、より厚い膜厚も測定できる。
【0079】
上記酸化膜厚測定装置Dbおよび酸化膜厚測定方法は、放射光輝度測定部2で測定された鋼板表面の放射光輝度および温度測定部9で測定された鋼板表面の温度に基づいて鋼板表面の放射率を求め、この求めた鋼板表面の放射率に対応する酸化膜厚を求めるので、鋼板表面の温度を考慮してより精度良く酸化膜厚を求めることができる。
【0080】
なお、上述の実施形態において、第1放射光輝度測定部2-1は、鋼板WKを搬送する搬送ローラに鋼板WKが当接する当接位置に設定された測定領域で、鋼板表面の放射光輝度を測定するように、配置されても良い。第2放射光輝度測定部2-2を備える場合には、第2放射光輝度測定部2-2も、鋼板WKを搬送する搬送ローラに鋼板WKが当接する当接位置に設定された前記測定領域で、鋼板表面の放射光輝度を測定するように、配置される。測定領域の鋼板WKが振動すると、第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2で測定される放射光輝度の精度が低下してしまうが、このような酸化膜厚測定装置D(Da、Db)は、振動のより少ない測定領域で放射光輝度を測定できるので、より精度良く放射光輝度を測定でき、この結果、より精度良く酸化膜厚を求めることができる。好ましくは、前記搬送ローラは、鋼板WKの搬送方向を変えるデフレクタローラである。このようなデフレクタローラでは、鋼板WKがデフレクタローラに押し付けられるので、振動がより低減できる。また好ましくは、前記搬送ローラは、鋼板WKを狭持して搬送する一対のローラである。このような一対のローラでは、前記一対のローラで鋼板WKが狭持されるので、振動がより低減できる。また、鋼板WKの表裏両面における各酸化膜厚を測定できるように、前記測定領域は、
図11に示すように、設定されても良い。
図11は、変形形態の酸化膜厚測定装置における測定領域を説明するための図である。搬送路には、搬送方向に並設された2個の第1および第2デフレクタローラR-1、R-2が備えられ、鋼板WKは、第1デフレクタローラR-1の紙面右面に当接して搬送方向を変え、第2デフレクタローラR-2の紙面左面に当接して搬送方向を変える。すなわち、鋼板WKは、第1デフレクタローラR-1と第2デフレクタローラR-2との間で、第1デフレクタローラR-1の第1回転軸と第2デフレクタローラR-2の回転軸とを結ぶ線分と当該鋼板WKが交差するように、第1および第2デフレクタローラR-1、R-2それぞれに架け渡される。そして、鋼板WKが第1デフレクタローラR-1に当接する紙面右面の当接位置に表面測定領域Pfが設定され、鋼板WKが第2デフレクタローラR-2に当接する紙面左面の当接位置に裏面測定領域Pbが設定される。2個の第1および第2酸化膜厚測定装置D-1、D-2(不図示)が用意され、第1酸化膜厚測定装置D-1は、前記表面測定領域Pfを測定するように配置され、第2酸化膜厚測定装置D-2は、前記裏面測定領域Pbを測定するように配置される。
【0081】
また、上述の実施形態では、1つの測定領域Pを第1および第2放射光輝度測定部2-1、2-2で同時に測定できるように、第1および第2測定窓形成部材HSa、HSbは、鋼板表面の法線NLを含み搬送方向に直交する平面(後述のXYZ直交座標系でのYZ平面)に対し互いに対称となるように配設されたが、これに限定されるものではなく、適宜に変更できる。例えば、第1および第2測定窓形成部材HSa、HSbは、互いに平行で、所定の間隔を空けて鋼板WKの搬送方向に沿って並置されても良い。このような場合では、第2放射光輝度測定部2-2が第1放射光輝度測定部2-1の測定領域と同一の測定領域を測定するように、第2放射光輝度測定部2-2は、第1放射光輝度測定部2-1が測定したタイミングから、鋼板WKの搬送速度に応じた時間だけずらしたタイミングで測定すればよい。
【0082】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0083】
Da、Db 酸化膜厚測定装置
1-1 第1P偏光フィルタ部
1-2 第2P偏光フィルタ部
2-1 第1放射光輝度測定部
2-2 第2放射光輝度測定部
3a、3b 制御処理部
4a、4b 記憶部
32a、32b 膜厚処理部
41a、41b 膜厚変換情報記憶部