(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】製鋼スラグの蒸気エージング用保温カバー及び製鋼スラグの蒸気エージング方法
(51)【国際特許分類】
C04B 5/00 20060101AFI20220809BHJP
C21C 5/28 20060101ALI20220809BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20220809BHJP
【FI】
C04B5/00 C ZAB
C04B5/00 Z
C21C5/28 C
B09B3/70
(21)【出願番号】P 2018146991
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000156260
【氏名又は名称】株式会社 テツゲン
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩二
(72)【発明者】
【氏名】近野 洋
(72)【発明者】
【氏名】本田 明裕
(72)【発明者】
【氏名】真沢 正人
(72)【発明者】
【氏名】山本 充
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-206744(JP,A)
【文献】特開2007-136495(JP,A)
【文献】特開平08-133796(JP,A)
【文献】特開2017-081814(JP,A)
【文献】特開2011-084424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 5/00-28/36
B09B 3/00-3/80
C21C 5/28-5/50
B28B 11/00-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグ上に複数個隣接して配置して使用する製鋼スラグの蒸気エージング用保温カバーであって、材料を鋼板で構成し、前記鋼板に測温用の穴を有
し、前記鋼板の周囲に前記鋼板の外側にはみ出すように耐熱ゴムシートを設置することを特徴とする製鋼スラグの蒸気エージング用保温カバー。
【請求項2】
前記保温カバーに取っ手を設置したことを特徴とする請求項1に記載の製鋼スラグの蒸気エージング用保温カバー。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の保温カバーを製鋼スラグ上に複数個隣接して配置することを特徴とする製鋼スラグの蒸気エージング方法。
【請求項4】
前記保温カバーの前記測温用の穴に熱電対を挿入することを特徴とする請求項
3に記載の製鋼スラグの蒸気エージング方法。
【請求項5】
前記保温カバーを重機により搬送することを特徴とする請求項
3または4に記載の製鋼スラグの蒸気エージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製造における製鋼スラグの蒸気エージングに用いる保温カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造において転炉等の精錬過程で生成される製鋼スラグは、冷却後に所定粒度に破砕し、道路用路盤材等に用いている。しかし、製鋼スラグを道路用路盤材等に使用する際、内部に未反応のCaOやMgOを含むことから、雨水などの水分と反応して体積膨張し、路面に凹凸が発生することがある。これを防ぐためには、事前に未反応のCaOやMgOの反応を促進させ、膨張性を安定化する必要がある。反応促進方法としては、蒸気を使用した蒸気エージング方法が一般的である。蒸気エージング方法は、製鋼スラグを蒸気配管が底面敷設された設備に積み付け、底面より高温の蒸気を噴出させながら保温養生し、膨張反応を促進させる方法である。
【0003】
例えば、高温スラグ(高炉スラグや転炉スラグ)を予め湿らせておいて製鋼スラグに接触させることにより、高温スラグの顕熱によって製鋼スラグの水分を水蒸気化することが提案されている(特許文献1)。また、蒸気使用量の節減を目的に、過熱蒸気を使用して、製鋼スラグの空隙率に応じて過熱蒸気量を制御する方法も提案されている(特許文献2)。
【0004】
いずれの場合においても、積み付けた製鋼スラグ上面に加熱蒸気を放散させないために保温シートを被せ保温状態を保つのが一般的となっている。シートの敷設作業は重労働であることから、シート敷設作業の自動化の提案もいくつかなされている。
【0005】
例えば、製鋼スラグをピット内に堆積させ、ピットの両側壁上にレールを配置し、この対のレール上に保温シートの巻取りドラムを載設した自動走行台車を跨設し、それにより自動的にシートを展開、巻取る装置が提案されている(特許文献3)。また、巻取りドラムと走行台車を一体化させて機構を簡便化し、効率的に且つ経済的に保温シートを展開、巻取る装置も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-236736号公報
【文献】特開平4-202033号公報
【文献】特開平7-187730号公報
【文献】特開2004-59376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蒸気エージングに際し、保温シートを隙間無く被せ、そして外すために複数の人員を必要とするだけでなく、積み付けた製鋼スラグに登って作業するため、転倒等の安全性の観点から問題がある。作業を効率的に行うため、機械的に保温シートの敷設・撤去(巻取り)を行う方法も提案されているが(特許文献3、4)、ピットが必要になるなど構造的に複雑となり、設備費、維持費が高価となる。
【0008】
また、使用する保温シートは、使用するごとに熱や折りたたむことにより劣化し、部分的に破れが生じる。破れた部分は、補修しないとそこから熱が放散され、蒸気エージングの処理効率が下がるため、数回の破れ補修の後は新品の保温シートに交換することになる。また、保温シートを巻き取る際、スラグの膨張等により、機械式巻取りの場合均一に巻き取れない場合が多く、何回も巻取りをし直す必要が生じる。
【0009】
さらに、蒸気エージング処理による品質確保のために、製鋼スラグに熱電対を挿し、温度を管理しながら作業する場合がある。しかし足場の不安定な保温シート上から熱電対を挿すことは、作業上の負荷が大きいだけでなく危険性を伴う。また、熱電対を挿し込むため保温シートに穴を開けてしまうのでシートの劣化にもつながる。
【0010】
本発明は、製鋼スラグの蒸気エージングにおける保温シート掛けの作業性、安全性、および保温シートの耐久性、保温性などの問題を解決することを課題とし、これら問題を解決した保温養生設備および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは課題を解決するために鋭意検討し、本発明を成した。本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]
材料を鋼板で構成し、前記鋼板に測温用の穴を有することを特徴とする製鋼スラグの蒸気エージング用保温カバー。
[2]
前記保温カバーに取っ手を設置したことを特徴とする[1]に記載の製鋼スラグの蒸気エージング用保温カバー。
[3]
前記鋼板の周囲に、前記鋼板の外側にはみ出すように耐熱ゴムシートを設置することを特徴とする[1]または[2]に記載の製鋼スラグの蒸気エージング用保温カバー。
[4]
[1]~[3]のいずれか一項に記載の保温カバーを製鋼スラグ上に複数個隣接して配置することを特徴とする製鋼スラグの蒸気エージング方法。
[5]
前記保温カバーの前記測温用の穴に熱電対を挿入することを特徴とする[4]に記載の製鋼スラグの蒸気エージング方法。
[6]
前記保温カバーを重機により搬送することを特徴とする[4]または[5]に記載の製鋼スラグの蒸気エージング方法。
【発明の効果】
【0012】
従来、保温シートを利用していた時は保温シートの被せ、外し作業にそれぞれ4~8人の人員を要していたが、本発明により重機での保温カバーの設置、外し作業は1人での作業が可能となった。
また、本発明により、重機だけで作業できるため作業上の危険性を大幅に下げることができた。
さらに、蒸気エージング処理後の膨張率を従来の保温シート養生と比較すると、95~105%程度の結果が確認されており、従来の保温シート養生と同等の蒸気エージング効果を有するといえる。
これらのことから、本発明に係る製鋼スラグの蒸気エージング用保温カバーは簡単な構造、操作で従来の技術と同等の効果を有しながら、経済性、耐久性、作業性、保温性に優れた蒸気エージング処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明に係る製鋼スラグ蒸気エージング用保温カバー1(以下単に保温カバーという)の概要図である。
図1(a)は保温カバーを上面からみた概要図であり、
図1(b)は、これを複数枚組み合わせて設置した場合を示す概要図である。
図1(c)は、保温カバーの取っ手4の一例を示す概要図である。
【
図2】本発明の実施例で示す蒸気エージング用保温カバーを示す図である。
【
図3】本発明の実施例での保温カバーの設置方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る製鋼スラグの蒸気エージング用保温カバーについて、
図1を基に説明する。
保温カバー1は、測温用の穴5を開けた鋼板2と、その周囲に耐熱ゴムシート3を有する。重機により保温カバーを搬送させることにより作業性が向上するため、取っ手4を取り付けるとよい。また、安価で耐久性に優れた保温カバーとするため金属製、特に鋼製とするとよい。軽量化の観点からはアルミニウムなど、鋼以外の材料も使用することができる。もちろん、樹脂や繊維強化樹脂(複合材料)などの材料を使用することもできる。以下、鋼製で板状(鋼板)の保温カバーを例に説明する。
【0015】
保温カバーは重機を用いて製鋼スラグの山の形状に合わせ設置していく。耐熱ゴムシート3が付いているので、設置面に凹凸があったり、
図1(b)のように隣接する保温カバー同士が多少ずれてしまっても、製鋼スラグを密閉して覆うことが可能となる。
【0016】
鋼板2は所有の蒸気エージング設備の大きさや性能に見合った厚みやサイズのものを使用すればよい。また、鋼板2の裏面に断熱シートを取り付けるとより保温性が向上する。
【0017】
鋼板2の形状は特に限定しないが、隣接する保温カバー同士が隙間なく並べるため、四角形にすることが好ましい。正方形であれば縦横どちらでも配置できるため、さらに好ましい。
【0018】
耐熱ゴムシート3は鋼板2にボルトなどで固定すればよい。大きさは製鋼スラグとの隙間、保温カバー1同士の隙間を埋めるための面積を必要とする。
【0019】
耐熱ゴムシート3は隣接する保温カバーとの隙間を塞ぐことを目的とするため、鋼板2の外側にある程度はみ出すように設置させる。はみ出す長さは短すぎると隣接する保温カバーとの隙間を埋めることができず、密閉性が損なわれる。逆に耐熱ゴムシートのはみ出す長さが長すぎると、重機で設置する際の作業性が悪化するとともに、シートの折れ曲がり等により密閉性が損なわれる。このシートの折れ曲がり等の変形はシートの材質、厚みの影響もあるが、一般的に入手可能な耐熱ゴムの場合、5~15mmの厚みが良好である。耐熱ゴムシートのはみ出し量は300~700mmほどが好ましい。
【0020】
耐熱ゴムシート3は、はみ出し量を考慮した矩形のゴムシートを鋼板2の各辺に設置してもよいし、はみ出し量を考慮した鋼板2と相似形のゴムシートを鋼板2の全面に設置してもよい。耐熱ゴムシート3はボルトなどで鋼板2に固定すればよく、耐熱ゴムシート3が破損した際も補修、交換が簡単に行えるようにすることが好ましい。
【0021】
取っ手4はくぼみなどの引っ掛かりをつけると重機で掴みやすく、作業性が向上する。例えば
図1(c)に示すように、断面がT形状にすることにより、重機などでの把持性が向上する。
【0022】
鋼板2に測温用の穴を開けておくと簡単に製鋼スラグに熱電対を挿すことができ、測定箇所も統一することができる。測温用の穴5は使用する熱電対と同程度のサイズにするとよい。また、測温用の穴は、熱電対を挿入するための切れ目を付けた耐熱ゴムシートで覆うとよい。
【0023】
以上のような構成を有する保温カバーにすることにより、密閉性がよく、作業性も格段に改善され、さらには長寿命化し経済性も著しく改善された保温カバーを得ることができる。
なお、前述したように、本発明に係る保温カバーによる蒸気エージング処理後の膨張率を従来の保温シート養生と比較すると、95~105%程度の結果が確認されており、従来の保温シート養生と同等の蒸気エージング効果を有することが確認された。
【実施例】
【0024】
本発明における保温カバーの設置方法の実施例について
図2、
図3を用いて説明する。
図2は保温カバーの仕様図で、
図3は設置方法を示している。
図2中に各部位の寸法を記載している。Wは上面視縦長さをDは上面視横長さを示し、Hは厚さを示す。耐熱ゴムシートの寸法は保温カバーの鋼板の短辺部へ設置するものを記載した。鋼板の長辺部へ設置するゴムシートの寸法は短辺部に準じた。
保温カバーの鋼板側面に設置した耐熱ゴムシートは、はみ出し量(垂れ下がり量)が420mmとし、鋼板にボルトにより固定した。鋼板に固定するために80mmをのり代部(ボルト固定するため鋼板と重複配置した部分の長さ)とした。従って、鋼板側面に配置した耐熱ゴムシートの幅は500mmとなるようにした。
【0025】
図3に示すように、底面敷設された蒸気配管9をコの字状に囲むように造られた盛土8の内側に製鋼スラグ7を積み付け、その上に保温カバー1を配置した。保温カバー配置のための重機は油圧ショベル(質量:33500kg、エンジン定格出力:200kW)にアタッチメントとしてフォーク(質量:2300kg、爪長さ:1440mm、360°全旋回式)を装着したものを使用した。フォークを取り付けた油圧ショベル(以下単にパワーフォーク)6は盛土8のスロープより上面へ登る。盛土8の側面に仮置きしている保温カバー1に設置した取っ手をパワーフォーク6で掴み、製鋼スラグ7上に配置していく。
今回はアタッチメントとしてフォークを装着した重機の例を示したが、保温カバーは鋼製のため、マグネットを装着した重機の使用も可能である。マグネットにて搬送する場合は、保温カバーに取っ手を設置しなくてもよい。保温カバー1の設置は、
図3のように製鋼スラグ7法面部への設置も製鋼スラグ7上面から行い、保温カバーが仮置きしてある側面とは反対側の端から設置していくことで重機の移動距離が少なくて済む。保温カバー1を仮置きしている盛土8付近に保温カバー1を設置する場合は盛土8側面またはスロープ上から設置してもよい。保温カバー1を全て設置したら盛土8スロープから降りる。
【0026】
蒸気エージング終了後、保温カバー1をはがす際は端から順に保温カバー1を盛土8の側面へ片付けていく。保温カバー1は1列に積み上げていくと高くなり危険なので、2列で積み上げるとよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、鉄鋼製造における転炉等の製鋼スラグの蒸気エージングにおいて利用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 保温カバー
2 鋼板
3 耐熱ゴムシート
4 取っ手
5 測温用の穴
6 パワーフォーク
7 製鋼スラグ
8 盛土
9 蒸気配管