(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】セメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 7/26 20060101AFI20220809BHJP
C04B 28/04 20060101ALI20220809BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20220809BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C04B7/26
C04B28/04
C04B22/14 B
C04B22/06 Z
(21)【出願番号】P 2018181537
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】中口 歩香
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大亮
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊一郎
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-226759(JP,A)
【文献】特開2014-185241(JP,A)
【文献】特開2009-007189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02,
C04B40/00-40/06,
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3CaO・SiO
2の割合が35.0~50.0質量%であり、3CaO・Al
2O
3の割合が2.0~8.0質量%であるポルトランドセメントクリンカ粉末と、
二水石膏
と、半水石膏
と、
フライアッシュと、
II型無水石膏粉末、を含むセメント組成物であって、
上記ポルトランドセメントクリンカ粉末
と上記二水石膏
と上記半水石膏
の合計量100質量%中のSO
3の割合が
1.8~2.7質量%であり、
上記セメント組成物中の上記フライアッシュの割合が25.0~35.0質量%であり、
上記セメント組成物中の上記II型無水石膏粉末の割合(SO
3換算)は、下限値が
0.5質量%であり、かつ、上限値が下記式(1)から算出される数値である数値範囲内であ
り、
上記II型無水石膏粉末のブレーン比表面積が3,000~6,000cm
2
/gであり、
上記セメント組成物のブレーン比表面積が3,000~3,800cm
2
/gであり、
上記半水石膏の量と、上記二水石膏及び上記半水石膏の合計量とのSO
3
換算の質量比(上記半水石膏のSO
3
換算の量/(上記二水石膏及び上記半水石膏の合計のSO
3
換算の量))が0.3~0.95であることを特徴とするセメント組成物。
0.23×C
3A+
2.41 ・・・(1)
(上記式(1)中、C
3Aは、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末中の3CaO・Al
2O
3の割合(質量%)である。)
【請求項2】
上記ポルトランドセメントクリンカ粉末中の3CaO・Al
2O
3の割合が3.0~7.5質量
%である請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセメント組成物を製造するための方法であって、
上記ポルトランドセメントクリンカ粉末と、上記二水石膏
と、上記半水石膏
の合計量100質量%中のSO
3の割合が
1.8~2.7質量%となるように、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末に対する上記二水石膏及び
上記半水石膏
の配合量を定める工程と、
上記セメント組成物中の上記フライアッシュの割合に基いて、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末に対する上記フライアッシュの配合量を定める工程と、
ボーグの計算式を用いて、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末中の3CaO・Al
2O
3の割合の数値を算出し、得られた数値を上記式(1)に代入して、上記式(1)から算出される数値を得て、次いで、上記セメント組成物中の上記II型無水石膏粉末の割合(SO
3換算)について、下限値が
0.5質量%であり、かつ、上限値が上記式(1)から算出される数値である数値範囲内であるという条件を満足するように、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末に対する上記II型無水石膏粉末の配合量を定める工程と、
上記二水石膏及び
上記半水石膏
の上記定めた配合量、上記フライアッシュの上記定めた配合量、及び、上記II型無水石膏粉末の上記定めた配合量を用いて、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末と、上記二水石膏
と、上記半水石膏
と、上記フライアッシュと、上記II型無水石膏粉末を混合して、上記セメント組成物を得る工程、
を含むセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムなどのマスコンクリートに発生する温度ひび割れは、漏水や鉄筋の腐食などの原因になる。したがって、耐久性や機能性に優れた構造物を建設するためには、温度ひび割れをできる限り減らす必要があり、温度ひび割れの低減対策が重要となる。
マスコンクリートの温度ひび割れの低減対策の一つに、セメントの一部をフライアッシュで置換して、コンクリートの温度上昇の原因であるセメントの水和発熱量を低減する方法がある。そして、近年、中庸熱ポルトランドセメントの30質量%をフライアッシュで置換してなる中庸熱フライアッシュセメントが、ダム用コンクリートに用いられるセメントの主流になっている。また、上記セメントは、水和発熱量の低減のほかに、コンクリートのワーカビリティの改善や長期強度の増進等の効果を有している。
一方、近年、ポルトランドセメントクリンカの原料として、廃棄物の使用量を増やすことへの要請から、中庸熱ポルトランドセメントクリンカの製造においても、原料として廃棄物の使用量を増やすことが求められている。そして、原料中の、廃棄物の使用量を増やした場合、中庸熱ポルトランドセメント中の3CaO・Al2O3(アルミネート相;以下、「C3A」ともいう。)の割合が大きくなることで、中庸熱ポルトランドセメントの水和熱が大きくなることが懸念されている。
【0003】
セメント組成物の水和熱を低減することができる技術として、特許文献1には、C2S(ビーライト;2CaO・SiO2)100重量部に対して、C2AS(2CaO・Al2O3・SiO2)を10~100重量部含有し、かつ、C3A(アルミネート相)の含有量が20重量部以下であることを特徴とする焼成物が記載されている。また、特許文献1には、該焼成物を粉砕してなるセメント混和材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、容易に製造することができ、強度発現性に優れ、かつ、水和熱の小さい、フライアッシュを含むセメント組成物(中庸熱フライアッシュセメントに相当するもの)、特に、C3Aの割合が大きくても水和熱の小さいセメント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の鉱物組成を有するポルトランドセメントクリンカ粉末と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方と、フライアッシュと、II型無水石膏粉末を特定の割合で含むセメント組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]を提供するものである。
[1] 3CaO・SiO2の割合が35.0~50.0質量%であり、3CaO・Al2O3の割合が2.0~8.0質量%であるポルトランドセメントクリンカ粉末と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方と、フライアッシュと、II型無水石膏粉末、を含むセメント組成物であって、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末と、上記二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方の合計量100質量%中のSO3の割合が1.5~2.7質量%であり、上記セメント組成物中の上記フライアッシュの割合が25.0~35.0質量%であり、上記セメント組成物中の上記II型無水石膏粉末の割合(SO3換算)が、下限値が0.1質量%であり、かつ、上限値が下記式(1)から算出される数値である数値範囲内であることを特徴とするセメント組成物。
0.23×C3A+3.41 ・・・(1)
(上記式(1)中、C3Aは、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末中の3CaO・Al2O3の割合(質量%)である。)
[2] 上記ポルトランドセメントクリンカ粉末中の3CaO・Al2O3の割合が3.0~7.5質量である前記[1]に記載のセメント組成物。
【0007】
[3] 前記[1]又は[2]に記載のセメント組成物を製造するための方法であって、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末と、上記二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方の合計量100質量%中のSO3の割合が1.5~2.7質量%となるように、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末に対する上記二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方の配合量を定める工程と、上記セメント組成物中の上記フライアッシュの割合に基いて、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末に対する上記フライアッシュの配合量を定める工程と、ボーグの計算式を用いて、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末中の3CaO・Al2O3の割合の数値を算出し、得られた数値を上記式(1)に代入して、上記式(1)から算出される数値を得て、次いで、上記セメント組成物中の上記II型無水石膏粉末の割合(SO3換算)について、下限値が0.1質量%であり、かつ、上限値が上記式(1)から算出される数値である数値範囲内であるという条件を満足するように、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末に対する上記II型無水石膏粉末の配合量を定める工程と、上記二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方の上記定めた配合量、上記フライアッシュの上記定めた配合量、及び、上記II型無水石膏粉末の上記定めた配合量を用いて、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末と、上記二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方と、上記フライアッシュと、上記II型無水石膏粉末を混合して、上記セメント組成物を得る工程、を含むセメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセメント組成物は、強度発現性に優れ、かつ、水和熱の小さいものであり、また、特定の材料を混合するという容易な方法で製造することができる。
また、本発明のセメント組成物は、C3Aの割合が大きくても、水和熱の小さいものであり、ポルトランドセメントクリンカの原料として廃棄物の使用量を増やすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のセメント組成物は、3CaO・SiO2(エーライト;以下、「C3S」ともいう。)の割合が35.0~50.0質量%であり、C3A(3CaO・Al2O3)の割合が2.0~8.0質量%であるポルトランドセメントクリンカ粉末と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方と、フライアッシュと、II型無水石膏粉末、を含むセメント組成物であって、ポルトランドセメントクリンカ粉末と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方の合計量100質量%中のSO3の割合が1.5~2.7質量%であり、セメント組成物中のフライアッシュの割合が25.0~35.0質量%であり、セメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合(SO3換算)は、下限値が0.1質量%であり、かつ、上限値が下記式(1)から算出される数値である数値範囲内であることを特徴とするセメント組成物。
0.23×C3A+3.41 ・・・(1)
(上記式(1)中、C3Aは、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末中の3CaO・Al2O3の割合(質量%)である。)
本発明において、セメント組成物とは、ペースト、モルタルまたはコンクリートを調製するための他の材料(減水剤、消泡剤、収縮低減剤等の各種セメント混和剤や、細骨材、粗骨材、及び、水等)は含まれないものとする。
【0010】
ポルトランドセメントクリンカ粉末中のC3S(エーライト)の割合は、35.0~50.0質量%、好ましくは37.0~47.0質量%、特に好ましくは39.0~45.0質量%である。該割合が35.0質量%未満であると、セメント組成物の強度発現性(特に、初期強度発現性)が低下する。該割合が50.0質量%を超えると、水和熱を小さくする効果が低下する。
ポルトランドセメントクリンカ粉末中のC3A(アルミネート相)の割合は、ポルトランドセメントクリンカの製造の容易性の観点からは、2.0質量%以上であり、ポルトランドセメントクリンカの原料として廃棄物の使用量を増やすことができる観点からは、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは4.0質量%以上、特に好ましくは5.5質量%以上である。また、上記割合は、水和熱を小さくする観点からは、8.0質量%以下、好ましくは7.5質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、特に好ましくは6.5質量%以下である。
【0011】
ポルトランドセメントクリンカ粉末中の2CaO・SiO2(ビーライト;以下、「C2S」ともいう。)の割合は、セメント組成物の強度発現性や水和熱等の観点から、好ましくは30.0~40.0質量%、より好ましくは32.0~38.0質量%である。
また、ポルトランドセメントクリンカ粉末中の4CaO・Al2O3・Fe2O3(フェライト相;以下、「C4AF」ともいう。)の割合は、ポルトランドセメントクリンカの製造の容易性等の観点から、好ましくは8.5~14.0質量%、より好ましくは9.0~13.5質量%である。
【0012】
なお、本明細書において、ポルトランドセメントクリンカ粉末中、C3S、C2S、C3A、及びC4AFの各割合は、ポルトランドセメントクリンカ粉末全量(100質量%)中の割合として、セメントクリンカ原料やセメントクリンカ(焼成物)の化学成分に基づき、下記のボーグの計算式を用いて算出することができる。
C3S(質量%)=(4.07×CaO(質量%))-(7.60×SiO2(質量%))-(6.72×Al2O3(質量%))-(1.43×Fe2O3(質量%))
C2S(質量%)=(2.87×SiO2(質量%))-(0.754×C3S(質量%))
C3A(質量%)=(2.65×Al2O3(質量%))-(1.69×Fe2O3(質量%))
C4AF(質量%)=3.04×Fe2O3(質量%)
【0013】
セメント組成物に含まれる、上述したポルトランドセメントクリンカ粉末、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方の合計100質量%中のSO3の割合は、1.5~2.7質量%、好ましくは1.7~2.6質量%、より好ましくは1.8~2.5質量%である。該割合が1.5質量%未満であると、セメント組成物の流動性及び強度発現性が低下する。該割合が2.7質量%を超えると、水和熱を小さくする効果が低下する。
セメント組成物中の、半水石膏の量と、二水石膏及び半水石膏の合計量とのSO3換算の質量比(半水石膏のSO3換算の量/(二水石膏及び半水石膏の合計のSO3換算の量))は、セメント組成物の流動性及び強度発現性の観点から、好ましくは0.3~0.95、より好ましくは0.4~0.9、特に好ましくは0.5~0.85である。
【0014】
なお、本発明において、ポルトランドセメントクリンカ粉末と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方を含む材料の例としては、以下の(1)~(3)等が挙げられる。
(1) 上述した鉱物組成を有するポルトランドセメント(中庸熱ポルトランドセメント)
(2) 2種以上のポルトランドセメント(例えば、普通ポルトランドセメントと低熱ポルトランドセメント)を上述した鉱物組成となるように混合してなるもの
(3) 2種以上のポルトランドセメントクリンカ(例えば、普通ポルトランドセメントクリンカと低熱ポルトランドセメントクリンカ)を上述した鉱物組成となるように混合したものと、二水石膏を同時に粉砕してなるもの
【0015】
フライアッシュは、コンクリート混和材料またはセメント混合材として使用されるフライアッシュであれば特に限定されず、例えば、「JIS A 6201:2015(コンクリート用フライアッシュ)」に規定されるI種またはII種に相当するものが挙げられる。
セメント組成物中、フライアッシュの割合は、25.0~35.0質量%、好ましくは27.0~34.0質量%、より好ましくは28.0~33.0質量%である。上記割合が25.0質量%未満であると、水和熱が大きくなる。上記割合が35.0質量%を超えると、強度発現性が低下する。フライアッシュの割合が上記数値範囲内であれば、強度発現性に優れかつ水和熱の小さいセメント組成物となるため、マスコンクリートの製造に好適に用いることができる。
【0016】
セメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合(SO3換算)は、下限値が0.1質量%であり、かつ、上限値が下記式(1)から算出される数値である数値範囲内である。
0.23×C3A+3.41 ・・・(1)
(上記式(1)中、C3Aは、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末中の3CaO・Al2O3の割合(質量%)である。なお、上記ポルトランドセメントクリンカ粉末が、2種以上のポルトランドセメントクリンカからなる場合は、その合計量中の3CaO・Al2O3の割合(質量%)である。)
上記下限値は、水和熱をより小さくする観点からは、0.1質量%、好ましくは0.3質量%、より好ましくは0.5質量%、さらに好ましくは1.5質量%、特に好ましくは2.0質量%である。
上記上限値は、セメント組成物の強度発現性(特に初期強度発現性)を向上させ、初期材齢における膨張を小さくする(ひび割れが発生しにくくする)観点から、好ましくは0.23×C3A+2.91、より好ましくは0.23×C3A+2.41である。
なお、上記式(1)から算出される数値は、上述する下限値(例えば、0.1質量%)を超える数値であるものとする。
【0017】
II型無水石膏粉末のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~6,000cm2/g、より好ましくは3,300~5,000cm2/g、特に好ましくは3,500~4,500cm2/gである。該ブレーン比表面積が3,000cm2/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。該ブレーン比表面積が6,000cm2/g以下であれば、セメント組成物の流動性がより向上する。
なお、本発明では、無水石膏としてII型無水石膏を用いている。II型無水石膏以外の無水石膏として、可溶性無水石膏(III型無水石膏)があるが、可溶性無水石膏を用いた場合、水和熱を小さくする効果は見られない。
【0018】
セメント組成物中の全SO3の割合は、水和熱を小さくする観点からは、好ましくは2.2質量%以上、より好ましくは2.3質量%以上、さらに好ましくは2.5質量%以上、特に好ましくは3.5質量%以上である。また、上記割合は、強度発現性(特に材齢7日以降における強度発現性)の向上の観点からは、好ましくは7.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、さらに好ましくは5.5質量%以下、特に好ましくは4.5質量%以下である。
【0019】
本発明のセメント組成物のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~4,000cm2/g、より好ましくは3,100~3,900cm2/g、さらに好ましくは3,150~3,850cm2/g、特に好ましくは3,200~3,800cm2/gである。該ブレーン比表面積が3,000cm2/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。該ブレーン比表面積が4,000cm2/g以下であれば、セメント組成物の流動性がより向上する。
【0020】
本発明のセメント組成物の「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した、材齢7日における水和熱は、好ましくは240J/g以下、より好ましくは235J/g以下、特に好ましくは230J/g以下である。
また、本発明のセメント組成物の「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した、材齢28日における水和熱は、好ましくは290J/g以下、より好ましくは285J/g以下、特に好ましくは280J/g以下である。
【0021】
上述した原料を適宜混合することによって、本発明のセメント組成物を製造することができる。このようなセメント組成物の製造方法の例としては、以下の(i)~(vi)の方法等が挙げられる。
(i) 中庸熱ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方を含む中庸熱ポルトランドセメントであって、該中庸熱ポルトランドセメント中のSO3の割合が1.5~2.7質量%である中庸熱ポルトランドセメントと、フライアッシュと、II型無水石膏粉末を混合してセメント組成物を得る、セメント組成物の製造方法
【0022】
(ii) 普通ポルトランドセメント(普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方を含むもの)と、低熱ポルトランドセメント(低熱ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方を含むもの)と、フライアッシュと、I型無水石膏粉末を混合してセメント組成物を得る、セメント組成物の製造方法
(iii) 中庸熱ポルトランドセメントクリンカとフライアッシュと二水石膏を同時に粉砕して粉砕物を得た後、該粉砕物とII型無水石膏粉末を混合してセメント組成物を得る、セメント組成物の製造方法
【0023】
(iv) 普通ポルトランドセメントクリンカと低熱ポルトランドセメントクリンカとフライアッシュと二水石膏を同時に粉砕して粉砕物を得た後、該粉砕物とII型無水石膏粉末を混合してセメント組成物を得る、セメント組成物の製造方法
(v) 中庸熱ポルトランドセメントクリンカと二水石膏とフライアッシュとII型無水石膏を同時に混合しながら粉砕してセメント組成物を得る、セメント組成物の製造方法
(vi) 普通ポルトランドセメントクリンカと低熱ポルトランドセメントクリンカと二水石膏とフライアッシュとII型無水石膏を同時に混合しながら粉砕してセメント組成物を得る、セメント組成物の製造方法
【0024】
本発明のセメント組成物の製造方法において、セメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合(SO3換算)は、原料であるポルトランドセメントクリンカ粉末中のC3Aの量に応じて、特定の範囲内に定める必要がある。
すなわち、予め、ボーグの計算式を用いて、ポルトランドセメントクリンカ粉末中の3CaO・Al2O3の割合を算出した後、得られた数値を上述の式(1)に代入して、式(1)から算出される数値を得て、セメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合(SO3換算)について、その下限値が0.1質量%であり、かつ、その上限値が上記式(1)から算出される数値である数値範囲内であるという条件を満足するように、原料であるII型無水石膏の量を定める。
なお、セメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合(SO3換算)を大きくするほど、セメント組成物の水和熱が小さくなる傾向がある。また、セメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合(SO3換算)が2.0質量%以上の場合、該割合を大きくするほど、セメント組成物の強度発現性が低下する傾向がある。これらのことを考慮して、セメント組成物の配合設計において、セメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合(SO3換算)は、目的とするセメント組成物の強度発現性や水和熱に応じて、上記数値範囲内で、適宜、定めればよい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)中庸熱ポルトランドセメントM1~M3;中庸熱ポルトランドセメントクリンカ粉末と半水石膏と二水石膏の混合物、半水石膏と二水石膏の質量比(半水石膏(SO3換算):二水石膏(SO3換算))=1:1、太平洋セメント社製、鉱物組成等の詳細は表1に示す。表1中、「鉱物組成(質量%)」は、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ粉末の鉱物組成を意味し、「SO3(質量%)」は、中庸熱ポルトランドセメント中のSO3の割合を意味する。
(2)II型無水石膏粉末(表2~4中、「無水石膏」と示す。);ブレーン比表面積:4,220cm2/g
(3)フライアッシュ;「JIS R 6201:2015(コンクリート用フライアッシュ)」に規定されるII種に相当するもの、ブレーン比表面積:3,900cm2/g
(4)細骨材;「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に規定される標準砂
(5)水;水道水
【0026】
【0027】
実施例及び比較例における水和熱及びモルタル圧縮強さの測定方法を以下に示す。
[水和熱]
「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して、材齢7日、及び、材齢28日における水和熱を測定した。
[モルタル圧縮強さ]
「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠して、材齢3日、材齢7日、及び、材齢28日におけるモルタル圧縮強さを測定した。
【0028】
[実施例1~3、比較例1~2]
中庸熱ポルトランドセメントM1と、フライアッシュと、II型無水石膏粉末を、セメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合(SO3換算)が表2に示す値(表2中の「無水石膏(質量%)」)となるように、ミキサーを用いて混合して、セメント組成物を得た。得られたセメント組成物のブレーン比表面積は3,200~3,320cm2/gであった。
なお、中庸熱ポルトランドセメントM1とフライアッシュの合計量(100質量%)中のフライアッシュの割合は30.0質量%とした。また、セメント組成物(中庸熱ポルトランドセメントM1とフライアッシュとII型無水石膏の混合物)中のフライアッシュの割合を、表2中の「FA(質量%)」の欄に示す。
得られたセメント組成物の水和熱、及び、モルタル圧縮強さを測定した。結果を表2に示す。
【0029】
【0030】
中庸熱ポルトランドセメントM1において、上記式(1):0.23×C3A+3.41を用いて算出される数値は4.01質量%であった。
このことから、本発明のセメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合(SO3換算)の上限値は4.01質量%であることがわかる。すなわち、中庸熱ポルトランドセメントM1を用いたセメント組成物において、II型無水石膏粉末の割合を0.1~4.01質量%の範囲内の数値にすることで、強度発現性に優れ、かつ、水和熱の小さいセメント組成物を得ることができる。
具体的には、表2より、実施例1~3のセメント組成物(II型無水石膏粉末の割合が1.0~4.0質量%であるもの)のモルタル圧縮強さ(材齢3日:11.7~14.1N/mm2、材齢7日:17.0~19.6N/mm2、材齢28日:36.4~38.0N/mm2)は大きく、水和熱(材齢7日:183~203J/g、材齢28日:239~254J/g)は小さいことがわかる。
一方、比較例1のセメント組成物(II型無水石膏粉末の割合が0質量%であるもの)の、材齢7日のモルタル圧縮強さ(18.0N/mm2)は、実施例1~3の材齢7日のモルタル圧縮強さと同程度であり、材齢28日のモルタル圧縮強さ(38.6N/mm2)は、実施例1~3の材齢28日におけるモルタル圧縮強さよりも大きいものの、水和熱(材齢7日:210J/g、材齢28日:258J/g)は、実施例1~3の各材齢における水和熱よりも大きいことがわかる。また、比較例2のセメント組成物(II型無水石膏粉末の割合が5.0質量%であるもの)の、水和熱(材齢7日:175J/g、材齢28日:232J/g)は、実施例1~3の各材齢における水和熱よりも小さいものの、モルタル圧縮強さ(材齢3日:9.8N/mm2、材齢7日:14.5N/mm2、材齢28日:35.2N/mm2)は、実施例1~3の各材齢におけるモルタル圧縮強さよりも小さいことがわかる。
【0031】
[実施例4~6、比較例3~4]
中庸熱ポルトランドセメントM2と、フライアッシュと、II型無水石膏粉末を、セメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合(SO3換算)が表3に示す値(表3中の「無水石膏(質量%)」)となるように、ミキサーを用いて混合して、セメント組成物を得た。得られたセメント組成物のブレーン比表面積は3,220~3,300cm2/gであった。
なお、中庸熱ポルトランドセメントM2とフライアッシュの合計量(100質量%)中のフライアッシュの割合は30.0質量%とした。また、セメント組成物(中庸熱ポルトランドセメントM2とフライアッシュとII型無水石膏の混合物)中のフライアッシュの割合を、表3中の「FA(質量%)」の欄に示す。
得られたセメント組成物の水和熱、及び、モルタル圧縮強さを測定した。結果を表3に示す。
【0032】
【0033】
中庸熱ポルトランドセメントM2において、上記式(1):0.23×C3A+3.41を用いて算出される数値は5.02質量%であった。
このことから、本発明のセメント組成物中、II型無水石膏粉末の割合(SO3換算)の上限値は5.02質量%であることがわかる。すなわち、中庸熱ポルトランドセメントM2を用いたセメント組成物において、II型無水石膏粉末の割合を0.1~5.02質量%の範囲内の数値にすることで、強度発現性に優れ、かつ、水和熱の小さいセメント組成物を得ることができる。
具体的には、表3より、実施例4~6のセメント組成物(II型無水石膏粉末の割合が1.0~5.0質量%であるもの)のモルタル圧縮強さ(材齢3日:13.2~16.8N/mm2、材齢7日:21.2~23.8N/mm2、材齢28日:38.3~41.2N/mm2)は大きく、水和熱(材齢7日:207~229J/g、材齢28日:263~284J/g)は小さいことがわかる。
一方、比較例3のセメント組成物(II型無水石膏粉末の割合が0質量%であるもの)の、材齢7日のモルタル圧縮強さ(22.2N/mm2)は、実施例4~6の材齢7日のモルタル圧縮強さと同程度であり、材齢28日のモルタル圧縮強さ(41.5N/mm2)は、実施例4~6の材齢28日におけるモルタル圧縮強さよりも大きいものの、水和熱(材齢7日:234J/g、材齢28日:291J/g)は、実施例4~6の各材齢における水和熱よりも大きいことがわかる。また、比較例4のセメント組成物(II型無水石膏粉末の割合が6.0質量%であるもの)の、水和熱(材齢7日:198J/g、材齢28日:250J/g)は、実施例4~6の各材齢における水和熱よりも小さいものの、モルタル圧縮強さ(材齢3日:12.1N/mm2、材齢7日:17.9N/mm2、材齢28日:36.7N/mm2)は、実施例4~6の各材齢におけるモルタル圧縮強さよりも小さいことがわかる。
【0034】
[実施例7~9、比較例5~6]
中庸熱ポルトランドセメントM3と、フライアッシュと、II型無水石膏粉末を、セメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合(SO3換算)が表4に示す値(表4中の「無水石膏(質量%)」)となるように、ミキサーを用いて混合して、セメント組成物を得た。得られたセメント組成物のブレーン比表面積は3,140~3,220cm2/gであった。
なお、中庸熱ポルトランドセメントM3とフライアッシュの合計量(100質量%)中のフライアッシュの割合は30.0質量%とした。また、セメント組成物(中庸熱ポルトランドセメントM3とフライアッシュとII型無水石膏の混合物)中のフライアッシュの割合を、表4中の「FA(質量%)」の欄に示す。
得られたセメント組成物の水和熱、及び、モルタル圧縮強さを測定した。結果を表4に示す。
【0035】
【0036】
中庸熱ポルトランドセメントM3において、上記式(1):0.23×C3A+3.41を用いて算出される数値は4.63質量%であった。
このことから、本発明のセメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合(SO3換算)の上限値は4.63質量%であることがわかる。すなわち、中庸熱ポルトランドセメントM3を用いたセメント組成物において、II型無水石膏粉末の割合を0.1~4.63質量%の範囲内の数値にすることで、強度発現性に優れ、かつ、水和熱の小さいセメント組成物を得ることができる。
具体的には、表4より、実施例7~9のセメント組成物(II型無水石膏粉末の割合が1.0~4.0質量%であるもの)のモルタル圧縮強さ(材齢3日:12.5~15.6N/mm2、材齢7日:19.4~22.1N/mm2、材齢28日:37.5~39.5N/mm2)は大きく、水和熱(材齢7日:198~218J/g、材齢28日:247~269J/g)は小さいことがわかる。
一方、比較例5のセメント組成物(II型無水石膏粉末の割合が0質量%であるもの)の、材齢7日のモルタル圧縮強さ(20.2N/mm2)は、実施例7~8の材齢7日のモルタル圧縮強さと同程度であり、材齢28日のモルタル圧縮強さ(40.1N/mm2)は、実施例7~9の材齢28日におけるモルタル圧縮強さよりも大きいものの、水和熱(材齢7日:222J/g、材齢28日:275J/g)は、実施例7~9の各材齢における水和熱よりも大きいことがわかる。また、比較例6のセメント組成物(II型無水石膏粉末の割合が4.0質量%であるもの)の、水和熱(材齢7日:190J/g、材齢28日:242J/g)は、実施例7~9の各材齢における水和熱よりも小さいものの、モルタル圧縮強さ(材齢3日:11.7N/mm2、材齢7日:16.2N/mm2、材齢28日:36.2N/mm2)は、実施例7~9の各材齢におけるモルタル圧縮強さよりも小さいことがわかる。