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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】吊り上げ治具および吊り上げ方法
(51)【国際特許分類】
   B66D 3/08 20060101AFI20220809BHJP
   B66D 3/10 20060101ALI20220809BHJP
   B66D 3/04 20060101ALI20220809BHJP
   B66C 11/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B66D3/08 A
B66D3/10
B66D3/04 F
B66C11/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018214625
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020083487
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000178011
【氏名又は名称】山九株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】柴谷 智士
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-112965(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0236608(US,A1)
【文献】実公昭32-007655(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 1/00-5/34
B66C 9/00-11/26;17/00-17/26;
19/00-23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の車輪の一方をそれぞれが有するトロリーの第1分割体および第2分割体を連結することで、高所に架梁されるI鋼又はH鋼である梁鋼材の両側の下部フランジ上に前記一対の車輪が載る状態で、前記トロリーを前記下部フランジに取り付けるための吊り上げ治具であって、
前記梁鋼材の上部フランジに固定されるクランプと、
前記クランプに支持されるとともに、前記梁鋼材の上方かつ一方側に第1定滑車を支持し、前記第1分割体が吊るされた第1動滑車を、前記第1定滑車を利用して前記梁鋼材の一方側に吊り上げるための第1支持アームと、
前記クランプに支持されるとともに、前記梁鋼材の上方かつ他方側に第2定滑車を支持し、前記第2分割体が吊るされた第2動滑車を、前記第2定滑車を利用して前記梁鋼材の他方側に吊り上げるための第2支持アームと、を備え
一端が前記第1支持アームに連結されたロープは、前記第1動滑車および前記第1定滑車に1回以上掛け回された後、前記第2定滑車および前記第2動滑車に1回以上掛け回され、前記第2定滑車を経て地上側に垂らされ、
第1ストッパーにより前記ロープを前記第1定滑車に押し付け、当該押し付け位置での前記ロープの滑りを停止させることで前記第1分割体の吊り下げ位置を固定させるブレーキ固定状態と、前記第1ストッパーを前記ロープから離した状態にするブレーキ解除状態と、に切り替え可能な第1ブレーキと、
第2ストッパーにより前記ロープを前記第2定滑車に押し付け、当該押し付け位置での前記ロープの滑りを停止させることで前記第2分割体の吊り下げ位置を固定させるブレーキ固定状態と、前記第2ストッパーを前記ロープから離した状態にするブレーキ解除状態と、に切り替え可能な第2ブレーキと、を備え、
前記第2分割体は、前記第1分割体よりも重く、
前記第1動滑車に吊り下げられた前記第1分割体および前記第2動滑車に吊り下げられた前記第2分割体が地上に降ろされた状態、かつ前記第1、第2ブレーキが前記ブレーキ解除状態で、地上側に垂らされた前記ロープが引っ張られることで、前記第2分割体が地上に降ろされた状態のまま前記第1分割体が前記梁鋼材の一方側まで吊り上げられ、
前記第1ブレーキが前記ブレーキ固定状態に切り替えられ、
前記ロープが更に引っ張られることで、前記第2分割体が前記梁鋼材の他方側まで吊り上げられ、
前記第2ブレーキが前記ブレーキ固定状態に切り替えられる
ことを特徴とする吊り上げ治具。
【請求項2】
前記第1定滑車は、軸方向に並ぶ複数のシーブと、前記シーブ間にあり前記シーブの外径端よりも前記第1定滑車の軸からの高さがあり前記シーブ上の前記ロープが隣の前記シーブへずれることを防ぐ第1セパレートプレートと、を備え、
前記第1ストッパーは、前記第1定滑車の前記軸と平行に延び、
前記第1セパレートプレートには、前記第1ブレーキが前記ブレーキ固定状態と前記ブレーキ解除状態の間での移行に伴って前記第1ストッパーを挿抜する切り欠きが有り、
前記第2定滑車は、軸方向に並ぶ複数のシーブと、前記シーブ間にあり前記シーブの外径端よりも前記第定滑車の軸からの高さがあり前記シーブ上の前記ロープが隣の前記シーブへずれることを防ぐ第2セパレートプレートと、を備え、
前記第2ストッパーは、前記第2定滑車の前記軸と平行に延び、
前記第2セパレートプレートには、前記第2ブレーキが前記ブレーキ固定状態と前記ブレーキ解除状態の間での移行に伴って前記第2ストッパーを挿抜する切り欠きが有る
ことを特徴とする請求項に記載の吊り上げ治具。
【請求項3】
前記クランプは、共通軸を中心に回動し、前記共通軸が前記上部フランジの上方に位置する姿勢で前記上部フランジを両側から挟む一対のクランプアームと、
前記上部フランジを両側から挟んだ状態で前記一対のクランプアームを締結する締結具と、
を備えることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の吊り上げ治具。
【請求項4】
前記第1支持アームは、前記梁鋼材の一方側に位置する前記クランプアームから側方かつ上方に延び、
前記第2支持アームは、前記梁鋼材の他方側に位置する前記クランプアームから側方かつ上方に延びる
ことを特徴とする請求項に記載の吊り上げ治具。
【請求項5】
一対の車輪の一方をそれぞれが有するトロリーの第1分割体および前記第1分割体よりも重い第2分割体を連結することで、高所に架梁されるI鋼又はH鋼である梁鋼材の両側の下部フランジ上に前記一対の車輪が載る状態で前記トロリーを前記下部フランジに取り付けるために、前記第1分割体および前記第2分割体を前記梁鋼材の両側へ吊り上げる吊り上げ方法であって、
前記梁鋼材の上部フランジに固定された吊り上げ治具により、前記梁鋼材の上方において前記梁鋼材の一方側に第1定滑車が支持され、前記梁鋼材の他方側に第2定滑車が支持され、前記吊り上げ治具における前記梁鋼材の一方側に位置する部位に一端が連結されたロープが、前記第1分割体が吊るされた第1動滑車、および前記第1定滑車に1回以上掛け回された後、前記第2定滑車、および前記第2分割体が吊るされた第2動滑車に1回以上掛け回され、前記第2定滑車を経て地上側に垂らされ、前記第1、第2分割体が地上に降ろされた状態で、地上側に垂らされた前記ロープを引っ張ることで、前記第2分割体が地上に降ろされた状態のまま前記第1分割体を前記梁鋼材の一方側まで吊り上げ、
前記吊り上げ治具の第1ブレーキにより前記ロープの前記第1定滑車における滑りを停止させ、前記第1分割体を前記梁鋼材の一方側に吊り上げた状態を固定させ、
地上側に垂らされた前記ロープを引っ張ることで、前記第2分割体を前記梁鋼材の他方側まで吊り上げ、
前記吊り上げ治具の第2ブレーキにより前記ロープの前記第2定滑車における滑りを停止させ、前記第2分割体を前記梁鋼材の他方側に吊り上げた状態を固定させる
ことを特徴とする吊り上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリーの梁鋼材への引き上げ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
重量物を吊り上げて移動させるために、プレーントロリーやギヤードトロリーが用いられる(例えば特許文献1)。これらのトロリーは、高所にある梁鋼材の下部フランジに取り付けられる。梁鋼材としては、門型クレーンや設備架構のI型鋼や、設備架構のH型鋼が挙げられる。トロリーの梁鋼材への設置は、梁鋼材の高さ付近まで組まれた仮設足場を利用して、または高所作業車を利用して作業員により行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-340397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
仮設足場を利用してトロリーを設置する場合、仮設足場の組み立てに時間がかかる。梁鋼材が高所にある程、仮設足場を高くまで組み立てる必要が生じ、仮設足場の組み立てに時間がかかる。トロリーの重量は、例えば、吊上荷重が3tonのものは30kg、5tonのものは60kg、10tonものは100kgある。このような大きな重量のあるトロリーを仮設足場の上部へ安定して引き上げることは難しい。
【0005】
高所作業車を利用して大きな重量のあるトロリーを設置する場合、設置作業に作業員が二人必要となり、高所作業車に作業員二人分の重量とトロリーの重量とがかかる。この場合、該重量が高所作業車の重量制限一杯となり、高所作業車がブームを伸ばすと、高所作業車の安全装置が作動するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、上記課題を解決できるトロリーの梁鋼材への引き上げ技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の吊り上げ治具は、一対の車輪の一方をそれぞれが有するトロリーの第1分割体および第2分割体を連結することで、高所に架梁されるI鋼又はH鋼である梁鋼材の両側の下部フランジ上に前記一対の車輪が載る状態で、前記トロリーを前記下部フランジに取り付けるための吊り上げ治具であって、前記梁鋼材の上部フランジに固定されるクランプと、前記クランプに支持されるとともに、前記梁鋼材の上方かつ一方側に第1定滑車を支持し、前記第1分割体が吊るされた第1動滑車を、前記第1定滑車を利用して前記梁鋼材の一方側に吊り上げるための第1支持アームと、前記クランプに支持されるとともに、前記梁鋼材の上方かつ他方側に第2定滑車を支持し、前記第2分割体が吊るされた第2動滑車を、前記第2定滑車を利用して前記梁鋼材の他方側に吊り上げるための第2支持アームと、を備える。
【0008】
本発明によれば、第1、第2支持アームが梁鋼材の上方かつ両側に第1、第2定滑車を支持する。これにより、第1、第2定滑車を利用して、第1、第2支持アームの下方に第1、第2動滑車を吊るすことができ、ひいては第1、第2動滑車を介してトロリーの第1、第2分割体を吊るすことができる。そして、第1、第2定滑車および第1、第2動滑車を利用して、トロリーの第1、第2分割体を梁鋼材の両側に吊り上げることができる。第1、第2分割体を梁鋼材の両側に吊り上げた状態にできるので、第1、第2分割体の連結作業を、高所作業車に乗った作業員が一人で行うことが可能である。
本発明によれば、トロリーを分割した第1、第2分割体を順に吊り上げるので、トロリーそのものを吊り上げる場合に比べて軽い力で第1、第2分割体を吊り上げることができる。
本発明によれば、第1、第2分割体の吊り上げを、第1、第2定滑車および第1、第2動滑車を利用して行うので、第1、第2分割体の重量よりも軽い力で行うことができる。
トロリーを梁鋼材まで引き上げる際に、従来は、高所作業車に作業員二人およびトロリーを載せていたので、その重量により高所作業車の安全装置が作動するおそれがあった。本発明によれば、高所作業車に、作業員1人および吊り上げ治具を載せればよい。吊り上げ治具は、構成が簡素であり、トロリーよりも軽量に作成できる。そのため、本発明によれば、高所作業車の載置重量を大幅に軽減でき、高所作業車の重量制限による安全装置の作動を防止できる。
トロリーを梁鋼材まで引き上げて梁鋼材に設置する方法として、仮設足場を利用する方法もあるが、仮設足場の組み立てに非常に時間がかかる。本発明によれば、トロリーの設置に、高所作業車による吊り上げ治具の梁鋼材への引き上げ、吊り上げ治具の梁鋼材への取り付け、吊り上げ治具を利用してのトロリーの第1、第2分割体の吊り上げを行う必要がある。しかし、これらの作業時間は、仮設足場の組み立て時間に比べて非常に短くて済む。
【0009】
本発明では、一端が前記第1支持アームに連結されたロープは、前記第1動滑車および前記第1定滑車に1回以上掛け回された後、前記第2定滑車および前記第2動滑車に1回以上掛け回され、前記第2定滑車を経て地上側に垂らされ、第1ストッパーにより前記ロープを前記第1定滑車に押し付け、当該押し付け位置での前記ロープの滑りを停止させることで前記第1分割体の吊り下げ位置を固定させるブレーキ固定状態と、前記第1ストッパーを前記ロープから離した状態にするブレーキ解除状態と、に切り替え可能な第1ブレーキと、第2ストッパーにより前記ロープを前記第2定滑車に押し付け、当該押し付け位置での前記ロープの滑りを停止させることで前記第2分割体の吊り下げ位置を固定させるブレーキ固定状態と、前記第2ストッパーを前記ロープから離した状態にするブレーキ解除状態と、に切り替え可能な第2ブレーキと、を備え、前記第2分割体は、前記第1分割体よりも重く、前記第1動滑車に吊り下げられた前記第1分割体および前記第2動滑車に吊り下げられた前記第2分割体が地上に降ろされた状態、かつ前記第1、第2ブレーキが前記ブレーキ解除状態で、地上側に垂らされた前記ロープが引っ張られることで、前記第1分割体が前記梁鋼材の一方側まで吊り上げられ、前記第1ブレーキが前記ブレーキ固定状態に切り替えられ、前記ロープが更に引っ張られることで、前記第2分割体が前記梁鋼材の他方側まで吊り上げられ、前記第2ブレーキが前記ブレーキ固定状態に切り替えられる。
【0010】
本発明によれば、第1支持アームに一端が連結され、第1支持アームの第1定滑車および第1動滑車に掛け回されたロープが、第2支持アームの第2定滑車および第2動滑車に掛け回される。第2分割体は、第1分割体よりも重いことから、地上側に垂らされたロープを引っ張ると、第2分割体が地上に降ろされた状態のまま第1分割体を吊り上げることができる。そして、第1ブレーキをブレーキ固定状態にしてロープを引っ張ることで、第2分割体を吊り上げることができる。
本発明によれば、上記のようにロープおよび第1、第2動滑車を使用することで、第1、第2ブレーキの切り替えとロープの牽引だけで、第1、第2分割体を順次吊り上げることができる。第1、第2分割体の吊り下げも同様である。従って、本発明によれば、第1、第2分割体の吊り上げ・吊り下ろし作業を簡単に行うことができる。
本発明の吊り上げ治具では、第1支持アームに第1ロープを使用し、第2支持アームに第2ロープを使用することもできる。すなわち、第1ロープを、一端を第1支持アームに連結するとともに、第1定滑車および第1動滑車に掛け回した後に地上側に垂らしてもよい。第1ロープを引っ張って第1分割体を吊り上げた後に第1ブレーキをブレーキ固定状態にすることで、第1分割体を吊り上げた状態に固定できる。また、第2ロープを、一端を第2支持アームに連結するとともに、第2支持アームの第2定滑車および第2動滑車に掛け回した後に地上側に垂らしてもよい。第2ロープを引っ張って第2分割体を吊り上げた後に第2ブレーキをブレーキ固定状態にすることで、第2分割体を吊り上げた状態に固定できる。
このように第1、第2ロープを使用して第1、第2分割体を吊り上げる場合、第1、第2ロープを引っ張る地上側の作業員は、第1ロープを引っ張る際の立ち位置と、第2ロープを引っ張る際の立ち位置とを、梁鋼材を挟んで反対側に変更することとなる。第1、第2分割体を吊り上げ後に第1、第2分割体の高さを揃える場合には、地上側の作業員が、第1ロープまたは第2ロープを引っ張ることとなる。また、第1、第2ロープを2つのリールに別々に巻くこととなり、該2つのリールおよび本発明の吊り上げ治具を複数人で持ち運ぶこととなる。
一方、1本のロープで第1、第2分割体を吊り上げる場合、作業員は、立ち位置の変更を不要にできる。第1、第2分割体を吊り上げた後に第1、第2分割体の高さを揃える場合には、地上側の作業員がロープを固定した後、高所側の作業員が、第1、第2ストッパーをブレーキ解除状態にする等の操作を行うことで、簡単に第1、第2分割体の高さを揃えることができる。例えば高所側の作業員が同時に第1、第2ストッパーをブレーキ解除状態にし、重い側の第2分割体を下げ、軽い側の第1分割体を上げることで、第1、第2分割体の高さを揃えることができる。また、1本のロープで第1、第2分割体を吊り上げる場合、リールは1本のロープを巻くだけよいので1つあればよく、該リールおよび本発明の吊り上げ治具を一人で持ち運ぶことができる。このように、1本のロープで第1、第2分割体を吊り上げる方が、2本のロープで第1、第2分割体を吊り上げるよりも、操作性および治具全体の軽量化の観点からはメリットがある。
【0011】
本発明では、前記第1定滑車は、軸方向に並ぶ複数のシーブと、前記シーブ間にあり前記シーブの外径端よりも前記第1定滑車の軸からの高さがあり前記シーブ上の前記ロープが隣の前記シーブへずれることを防ぐ第1セパレートプレートと、を備え、前記第1ストッパーは、前記第1定滑車の前記軸と平行に延び、前記第1セパレートプレートには、前記第1ブレーキが前記ブレーキ固定状態と前記ブレーキ解除状態の間での移行に伴って前記第1ストッパーを挿抜する切り欠きが有り、前記第2定滑車は、軸方向に並ぶ複数のシーブと、前記シーブ間にあり前記シーブの外径端よりも前記第1定滑車の軸からの高さがあり前記シーブ上の前記ロープが隣の前記シーブへずれることを防ぐ第2セパレートプレートと、を備え、前記第2ストッパーは、前記第2定滑車の前記軸と平行に延び、前記第2セパレートプレートには、前記第2ブレーキが前記ブレーキ固定状態と前記ブレーキ解除状態の間での移行に伴って前記第2ストッパーを挿抜する切り欠きが有る。
【0012】
本発明によれば、第1定滑車においてシーブ間に第1セパレートプレートがあるので、ロープのシーブ間でのずれを防止できる。第1セパレートプレートの切り欠き内に第1ストッパーを挿抜できるので、第1ブレーキのブレーキ解除状態およびブレーキ固定状態の間での移行時に、第1セパレートプレートが第1ストッパーに干渉することを防止できる。第2定滑車においても同様である。
【0013】
本発明では、前記クランプは、共通軸を中心に回動し、前記共通軸が前記上部フランジの上方に位置する姿勢で前記上部フランジを両側から挟む一対のクランプアームと、前記上部フランジを両側から挟んだ状態で前記一対のクランプアームを締結する締結具と、を備える。
【0014】
本発明によれば、吊り上げ治具の梁鋼材への設置は、吊り上げ治具を開いた状態で梁鋼材上に置き、締結具により一対のクランプアームを締結するだけでよい。吊り上げ治具の梁鋼材からの撤去は、締結具による一対のクランプアームの締結を解除し、吊り上げ治具を持ち上げるだけでよい。従って、吊り上げ治具の設置及び撤去が容易である。
【0015】
本発明では、前記第1支持アームは、前記梁鋼材の一方側に位置する前記クランプアームから側方かつ上方に延び、前記第2支持アームは、前記梁鋼材の他方側に位置する前記クランプアームから側方かつ上方に延びる。
【0016】
本発明によれば、第1、第2支持アームは、クランプから側方かつ上方に延びるので、第1、第2分割体からの負荷に対して強い構造である。
【0017】
本発明の吊り上げ方法は、一対の車輪の一方をそれぞれが有するトロリーの第1分割体および前記第1分割体よりも重い第2分割体を連結することで、高所に架梁されるI鋼又はH鋼である梁鋼材の両側の下部フランジ上に前記一対の車輪が載る状態で前記トロリーを前記下部フランジに取り付けるために、前記第1分割体および前記第2分割体を前記梁鋼材の両側へ吊り上げる吊り上げ方法であって、前記梁鋼材の上部フランジに固定された吊り上げ治具により、前記梁鋼材の上方において前記梁鋼材の一方側に第1定滑車が支持され、前記梁鋼材の他方側に第2定滑車が支持され、前記吊り上げ治具における前記梁鋼材の一方側に位置する部位に一端が連結されたロープが、前記第1分割体が吊るされた第1動滑車、および前記第1定滑車に1回以上掛け回された後、前記第2定滑車、および前記第2分割体が吊るされた第2動滑車に1回以上掛け回され、前記第2定滑車を経て地上側に垂らされ、前記第1、第2分割体が地上に降ろされた状態で、地上側に垂らされた前記ロープを引っ張ることで、前記第1分割体を前記梁鋼材の一方側まで吊り上げ、前記吊り上げ治具の第1ブレーキにより前記ロープの前記第1定滑車における滑りを停止させ、前記第1分割体を前記梁鋼材の一方側に吊り上げた状態を固定させ、地上側に垂らされた前記ロープを引っ張ることで、前記第2分割体を前記梁鋼材の他方側まで吊り上げ、前記吊り上げ治具の第2ブレーキにより前記ロープの前記第2定滑車における滑りを停止させ、前記第2分割体を前記梁鋼材の他方側に吊り上げた状態を固定させる。
【0018】
本発明によれば、上記の吊り上げ治具の効果と同様、吊り上げ治具を利用してトロリーの第1、第2分割体を梁鋼材の両側に吊り上げた状態にできるので、作業員は、高所作業車を利用して1人で第1、第2分割体を連結でき、トロリーを梁鋼材の下部フランジに取り付けることができる。
本発明によれば、トロリーの第1、第2分割体を順に吊り上げるので、トロリーそのものを吊り上げる場合に比べ、軽い力で吊り上げ作業を行うことができる。また、第1、第2定滑車および第1、第2動滑車を利用して吊り上げ作業を行うので、第1、第2分割体の重量よりも軽い力で吊り上げ作業を行うことができる。
本発明によれば、第1、第2ブレーキの切り替えとロープの牽引だけで、第1、第2分割体を吊り上げることができるので、作業員がトロリーや第1、第2分割体を持ち上げる作業を減らすことができ、トロリーの設置作業を安全に行うことができる。
本発明によれば、吊り上げ治具を利用してトロリーの第1、第2分割体を梁鋼材の両側に吊り上げた状態にできるので、トロリーの梁鋼材への設置を、仮設足場を組む場合に比べて短時間で行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】吊り上げ治具の目的を説明するための図である。
図2】吊り上げ治具を示す図である。
図3】第1クランプアームの側面図である。
図4】第2クランプアームの側面図である。
図5】第1定滑車を示す図である。
図6】第2定滑車を示す図である。
図7】ブレーキ解除状態を示す図である。
図8】ブレーキ固定状態を示す図である。
図9】治具の梁鋼材への設置作業を説明するための図である。
図10】第1動滑車への第1分割体の連結作業を説明するための図である。
図11】第2動滑車への第2分割体の連結作業を説明するための図である。
図12】梁鋼材の一方側に第1分割体を吊り上げる作業を説明するための図である。
図13】梁鋼材の他方側に第2分割体を吊り上げる作業を説明するための図である。
図14】第1、第2分割体の連結作業を説明するための図である。
図15】治具の設置操作方法の第2変形例を説明するための図である。
図16】第2変形例における第1分割体の吊り上げ作業を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(吊り上げ治具1の構成)
図1は、吊り上げ治具1の目的を説明するための図である。
吊り上げ治具1は、高所に架梁される梁鋼材8に設置される。梁鋼材8は、I鋼又はH鋼であってもよい。吊り上げ治具1は、トロリー9の第1、第2分割体91,92を梁鋼材8の両側に吊り上げるのに利用できる。トロリー9は、一対の車輪911、921の一方をそれぞれが有する分割体に分割できる。軽い側の分割体を第1分割体91とし、重い側の分割体を第2分割体92とする。すなわち、第2分割体92は、第1分割体91よりも重い。
【0021】
第2分割体92は、梁鋼材8の下部フランジ81の下方に配置される連結軸922を備える。連結軸922には、重量物を連結するためのフック923がある。第1分割体91には、連結軸922が挿入される筒部912がある。第2分割体92の連結軸922を第1分割体91の筒部912に挿入する等して、第2分割体92を第1分割体91に連結できる。
【0022】
トロリー9は、梁鋼材8の両側の下部フランジ81上に設置される車輪911、921により梁鋼材8上を移動し、フック923に吊り下げられる重量物を梁鋼材8に沿って移動させる。本実施形態では、トロリー9は、環状のハンドチェーン924が第2分割体92に回転可能に吊り下げられたギヤードトロリーであるものとする。作業者がハンドチェーン924を引き下げて回転させると、第2分割体92内のギアが回転して車輪911、921を回転させ、トロリー9が梁鋼材8上を移動するようになっている。トロリー9は、作業員に押されることにより梁鋼材8上を移動するプレーントロリーであってもよい。トロリー9は、車輪911,921を回転させるモータを内蔵し、ボタン操作で鋼材8上を移動させることができる電動トロリーであってもよい。
【0023】
作業員は、梁鋼材8の両側に吊り上げられたトロリー9の第1、第2分割体91,92を連結することで、梁鋼材8の両側の下部フランジ81上に一対の車輪911、921が載る状態で、トロリー9を下部フランジ81に取り付けることができる。
【0024】
図2は、吊り上げ治具1を示す図である。以下、吊り上げ治具1を単に治具1と記載する。
治具1は、クランプ2、第1、第2支持アーム41,42、第1、第2ブレーキ51,52を備える。
【0025】
クランプ2は、梁鋼材8の上部フランジ82に固定される。クランプ2は、第1、第2クランプアーム21,22と、締付ボルト3(締結具)とを備える。
【0026】
第1、第2クランプアーム21,22は、対となっており、互いに上端部が共通軸23に連結される。第1、第2クランプアーム21,22は、共通軸23を中心に回動する。第1、第2クランプアーム21,22は、梁鋼材8の上方に共通軸23が位置する逆V字状の姿勢で、梁鋼材8の上部フランジ82を両側から挟む。
【0027】
梁鋼材8に対して図2中左側(一方側)に位置するクランプアームを第1クランプアーム21と記載し、図2中右側(他方側)に位置するクランプアームを第2クランプアーム22と記載する。第1クランプアーム21の下部右側には、上部フランジ82の左端部が挿入される溝211がある。第2クランプアーム22の下部左側には、上部フランジ82の右端部が挿入される溝221がある。
【0028】
図3は、第1クランプアーム21の側面図である。
第1クランプアーム21は、一対の鋼板212が、厚みを規定するカラー213を介してボルト214およびナット217により、また、共通軸23を利用して連結されている。第1クランプアーム21の中央部には、ネジ受け215が固定されている。ネジ受け215の長手方向中央部にはネジ穴216がある。
【0029】
図4は、第2クランプアーム22の側面図である。
第2クランプアーム22は、第1クランプアーム21と同様の構成を有する。ただし、第2クランプアーム22では、ネジ受け223のネジ穴224における雌ねじの向きが、第1クランプアーム21のネジ穴216における雌ねじの向きと逆である。
【0030】
図2に戻り、締付ボルト3は、左右ネジであり、軸部31の先端側のネジの向きと基端側のネジの向きが逆になっている。締付ボルト3は、第1、第2クランプアーム21,22のネジ穴216、224に通され、一方向に回されることで、第1、第2クランプアーム21,22を閉じる方向に移動させる。締付ボルト3は、逆方向に回されることで、第1、第2クランプアーム21,22を開く方向に移動させる。本実施形態では、上部フランジ82を挟んだ状態で第1、第2クランプアーム21,22を締結するための締結具の例として、締付ボルト3を挙げた。しかし、締結具は、適宜のものを利用でき、例えば単なるボルトおよびナットであってもよい。第1、第2クランプアーム21,22を、ボルトの頭部と、ボルトに締められるナットとで両側から締結してもよい。
【0031】
第1支持アーム41は、クランプ2に支持され、梁鋼材8の上方かつ図2中左側(一方側)に第1定滑車61を支持する。第1支持アーム41は、図1に参照されるように、第1分割体91が吊るされた第1動滑車71を、第1定滑車61を利用して梁鋼材8の図1中左側に吊り上げるためのものである。
【0032】
具体的に、第1支持アーム41は、第1クランプアーム21において、締付ボルト3の締結位置と共通軸23の連結位置との間から、図2中左側、かつ上方に延びる。第1支持アーム41は、一対の鋼板411(図3)が、厚みを規定するカラー412(図3)を介してボルト413およびナット415(図3)により連結される。鋼板411は、第1クランプアーム21の鋼板212に固定されている。第1支持アーム41の下部側には、ロープ93の一端を連結するための孔414がある。
【0033】
ロープ93の一端は、第1支持アーム41に対し、ロープ93が孔414に通されて結ばれることにより連結されてもよい。ロープ93の一端は、環状の台付索とされ、孔414に掛けられたシャックル等に掛けられてもよい。第1支持アーム41は、先端側にて第1定滑車61を支持する。
【0034】
図5は、第1定滑車61を示す図である。図5の中心線より上側は断面図を示し、中心線より下側は側面図を示す。
第1定滑車61では、軸方向において、シーブ611(滑車)が2つ並ぶ。シーブ611は、シーブボルト612に設けられる。シーブボルト612は、頭部に六角穴が設けられたキャップボルトである。シーブボルト612は、軸部の先端部にネジが形成されており、該ネジに袋ナット618が締結される。シーブボルト612の軸部には、先端部を除いてネジが形成されていない。
【0035】
シーブ611は、ベアリング613を内蔵しており、シーブボルト612に対して回転可能である。シーブ611の外周には、ロープ93を案内する溝614がある。シーブ611は、第1定滑車61の軸方向において一方側に寄せられている。シーブ611間、および2つのシーブ611の軸方向における他方側には、セパレートプレート615(第1セパレートプレート)がある。各要素411、613,615の間には、要素613,615を位置決めするカラー616がある。カラー616は、筒状であり、シーブボルト612に嵌められる。
【0036】
セパレートプレート615は、シーブ611の外径端よりもシーブボルト612(第1定滑車62の軸)からの高さがあり、シーブ611上のロープ93が隣のシーブ611へずれることを防ぐ。
【0037】
図2に戻り、第2支持アーム42は、第1支持アーム41と対となっており、第1支持アーム41と同様の構成を有する。第2支持アーム42は、第2クランプアーム22において、締付ボルト3の締結位置と共通軸23の連結位置との間から、図2中右側、かつ上方に延びる。第2支持アーム42は、一対の鋼板421(図4)がカラー423(図4)を介してボルト422および袋ナット424(図4)により連結されている。鋼板421は、第2クランプアーム22の鋼板225に固定されている。
【0038】
第2支持アーム42の下部側には、ロープ93の一端を連結するのに利用できる孔423がある。第2支持アーム42は、先端側にて第2定滑車62を支持する。
【0039】
図6は、第2定滑車62を示す図である。図6の中心線より上側は断面図を示し、中心線より下側は側面図を示す。
第2定滑車62は、軸方向にシーブ621が3つ並ぶ点が第1定滑車61と異なり、他の構成は第1定滑車61と同様である。シーブ621の外周には、ロープ93を案内する溝624がある。シーブ621は、ベアリング623を内蔵し、シーブボルト622に対して回転可能に設けられる。シーブボルト622は、頭部に六角穴が設けられたキャップボルトであり、先端部に袋ナット628が締結される。シーブ621間にセパレートプレート625(第2セパレートプレート)がある。ベアリング623およびセパレートプレート625は、シーブボルト622に嵌められるカラー626によって位置決めされる。セパレートプレート625は、シーブ621の外径端よりもシーブボルト622(第2定滑車62の軸)からの高さがあり、シーブ621上のロープ93が隣のシーブ621へずれることを防ぐ。
【0040】
図7は、ブレーキ解除状態を示す図である。図8は、ブレーキ固定状態を示す図である。
第1ブレーキ51は、金属製であり、第1支持アーム41に支持される。第1ブレーキ51は、ブレーキ解除状態とブレーキ固定状態との間で切り替え可能である。第1ブレーキ51は、図7のブレーキ解除状態において、ストッパーバー511(第1ストッパー)をロープから離した状態にする。第1ブレーキ51は、図8のブレーキ固定状態において、ストッパーバー511によりロープ93を第1定滑車61に押し付け、当該押し付け位置でのロープ93の滑りを停止させる。これにより、第1ブレーキ51は、第1分割体91の吊り下げ位置を固定させる。以下では、第1ブレーキ51がトグルスイッチである場合の第1ブレーキ51の構成例を説明する。第1ブレーキ51は、ブレーキ解除状態とブレーキ固定状態との間で切り替え可能であれば、適宜のものを使用できる。
【0041】
第1ブレーキ51の本体プレート512は、基端部が第1支持アーム41のカラー213に嵌められ、第1支持アーム41に固定される。本体プレート512には、レバー513が、第1支持アーム41に対して立てられた姿勢で連結される。レバー513の基端部は、本体プレート512に回動可能に連結される。スイッチアーム514は、第1支持アーム41に対して寝かせられた姿勢で、本体プレート512に回動可能に連結される。スイッチアーム514の先端には、第1支持アーム41側に延びるアームバー515があり、アームバー515の先端にストッパーバー511が取り付けられている。ストッパーバー511は、第1定滑車61の軸と平行に延び、金属製である。ストッパーバー511は、シーブ611に跨る棒状、具体的には円柱状である(図5も参照)。
【0042】
スイッチアーム514は、リンク機構516を介してレバー513に連結される。第1ブレーキ51では、図7に示すように、レバー513が倒されると、スイッチアーム514は、リンク機構516により持ち上がった状態となり、この状態で姿勢が固定される。これにより、第1ブレーキ51は、ブレーキ解除状態となる。
【0043】
第1ブレーキ51では、図8に示すように、レバー513が第1支持アーム41に対して正立した状態にされると、スイッチアーム514は、リンク機構516により寝かされた状態となる。そして、ストッパーバー511がロープ93を第1定滑車61に押し付けた状態でスイッチアーム514の姿勢が固定される。これにより、第1ブレーキ51は、ブレーキ固定状態となる。
【0044】
第2ブレーキ52は、第2支持アーム42に設けられ、第1ブレーキ51と左右逆向きの姿勢である。第2ブレーキ52のストッパーバー521(第2ストッパー)は、第2定滑車62の3つのシーブ621に跨る(図6参照)。第2ブレーキ52の他の構成は、第1ブレーキ51と同様である。
【0045】
図7に示すように、セパレートプレート615において、シーブ611に対して上側かつシーブ611の真上よりも治具1の中央側に位置する部分には、切り欠き617がある。切り欠き617に対し、第1ブレーキ51は、ブレーキ解除状態およびブレーキ固定状態の移行に伴ってストッパーバー511を挿抜する。ストッパーバー511は、ブレーキ固定状態時に切り欠き617内に挿入された状態で、ロープ93を第1定滑車61のシーブ611に押し付ける。第2ブレーキ52のセパレートプレート625にも、第1ブレーキ51の切り欠き617と同様の切り欠き627(図6)がある。
【0046】
(治具1の設置操作方法)
治具1は、梁鋼材8への設置前に、図1に参照されるように、ロープ93が掛け回された状態にされる。ロープ93の一端は、第1支持アーム41の孔414を利用して第1支持アーム41に連結される。一端が第1支持アーム41に連結されたロープ93に第1動滑車71が取り付けられる。第1動滑車71は、シーブ711を2つ備え、シャックル等を掛ける部位があれば、適宜のものを利用できる。ロープ93は、第1動滑車71と第1支持アーム41の第1定滑車61とに2回掛け回される。治具1の持ち運びを容易にするため、第1動滑車71が第1支持アーム41のすぐ下方に位置するようにロープ93が掛け回される。第1ブレーキ51はブレーキ固定状態とされ、第1動滑車71の位置が固定される。
【0047】
第1定滑車61を経たロープ93は、第2支持アーム42の第2定滑車62に掛け回される。第2定滑車62に掛け回されたロープ93に第2動滑車72が取り付けられる。第2動滑車72は、シーブ721を2つ備え、シャックル等を掛ける部位があれば、適宜のものを利用できる。ロープ93は、第2動滑車72と第2定滑車62とに2回掛け回された後、第2定滑車62を経て地上側に垂らされる。第2定滑車62を経たロープ93の端部931は、リール94(図9)に巻かれる。ロープ93は、第2動滑車72が第2支持アーム42のすぐ下方に位置するように掛け回される。第2ブレーキ52はブレーキ固定状態とされ、第2動滑車72の位置が固定される。
【0048】
以下、治具1の設置操作を、高所作業車に乗る作業員と地上の作業員との2人で行う例を説明する。なお、高所作業車に乗る作業員は複数人でもよい。地上の作業員も複数人でもよい。
【0049】
図9に示すように、作業員は、高所作業車に乗り、治具1を梁鋼材8まで引き上げる。この際、治具1から下がるロープ93を巻き取っているリール94は、地上の作業員が保持したままであり、ロープ93の端部931は地上側に垂らされた状態とされる。
【0050】
高所作業車の作業員は、治具1を開いた状態で梁鋼材8上に置き、締付ボルト3を締めることで、第1、第2クランプアーム21,22を、上部フランジ82を挟んだ状態で締結する。これにより、治具1が梁鋼材8上に設置される(手順1)。
【0051】
図10に示すように、高所作業車の作業員は、第1、第2ブレーキ51、52をブレーキ解除状態にし、第1動滑車71に介錯ロープを結び地上から引っ張る等して第1動滑車71を地上へ下ろす。地上の作業員は、第1動滑車71に、トロリー9の軽い側の第1分割体91を玉掛けする(手順2)。なお、玉掛けとは、第1分割体91を、シャックル等を介して第1動滑車71に連結することを意味する。
【0052】
図11に示すように、高所作業車の作業員は、第2動滑車72に介錯ロープを結び地上から引っ張る等して第2動滑車72を地上へ下ろす。地上の作業員は、第2動滑車72に、トロリー9の重い側の第2分割体92を玉掛けする(手順3)。
【0053】
これにより、重さの異なる第1、第2分割体91,92が、ロープ93に第1、第2動滑車71、72を介して連結され、地上に降ろされた状態とされる。なお、「第1、第2分割体91,92が地上に降ろされた状態」とは、第1、第2分割体91,92が地上に直置きされた状態の他、第1、第2分割体91,92がトラックの荷台や台車に置かれた状態も含む。
【0054】
第1、第2分割体91,92が地上に降ろされた状態で、図12に示すように、地上の作業員がロープ93の端部931を引っ張ると、重い側の第2分割体92が地上に降ろされた状態で、軽い側の第1分割体91が吊り上げられることとなる。重い側の第2分割体92が連結される第2動滑車72、および第2定滑車62では、ロープ93は滑ることとなる。
【0055】
軽い側の第1分割体91が連結される第1動滑車71は、4本のロープ93に支持される。従って、第1分割体91の重量の4分の1以上の力でロープ93の端部931を引っ張れば、分割体91を吊り上げることができる。例えば、吊上荷重10tのトロリー9の重量は100kgであり、軽い側の第1分割体91は40kgとなる。この場合、40kgfの4分の1である10kgf(98N)以上の力でロープ93の端部931を引っ張れば、第1分割体91を吊り上げることができる。
【0056】
地上の作業員は、ロープ93の端部931を引っ張り、第1分割体91を梁鋼材8の図12中左側まで吊り上げる。高所作業車の作業員は、第1ブレーキ51をブレーキ固定状態にし、第1分割体91を梁鋼材8の図12中左側に吊り上げた状態で固定する(手順4)。
【0057】
続いて、地上の作業員は、図13に示すように、再度ロープ93の端部931を引っ張る。第1ブレーキ51がブレーキ固定状態とされていることにより、ロープ93の一端は第1ブレーキ51および第1定滑車61の間で固定された状態とされる。これにより、ロープ93の端部931が引っ張られると、今度は、重い側の第2分割体92が吊り上げられる。
【0058】
第2動滑車72は4本のロープ93に支持されているので、第2分割体92の重量の4分の1以上の力でロープ93の端部931を引っ張れば、第2分割体92を吊り上げることができる。例えば、吊上荷重10tのトロリー9の重量は100kgであり、重い側の第2分割体92は60kgとなる。従って、60kgfの4分の1である15kgf(147N)以上の力でロープ93の端部931を引っ張れば、第2分割体92を吊り上げることができる。
【0059】
地上の作業員は、ロープ93の端部931を引っ張り、重い側の第2分割体92を梁鋼材8の図13中右側まで吊り上げる。高所作業車の作業員は、第2ブレーキ52をブレーキ固定状態にし、第2分割体92を梁鋼材8の図13中右側に吊り上げた状態で固定する(手順5)。
【0060】
以上により、梁鋼材8の両側にトロリー9の第1、第2分割体91,92が吊り上げられた状態となる。
【0061】
図14に示すように、高所作業車の作業員は、梁鋼材8の両側に吊り上げられた第1、第2分割体91,92を連結する。これにより、トロリー9の一対の車輪911,921が梁鋼材8の両側の下部フランジ81上に載る状態で、トロリー9を梁鋼材8の下部フランジ81に取り付けることができる(手順6)。
【0062】
この後、高所作業車の作業員は、第1、第2分割体91,92を第1、第2動滑車71、72から取り外し、締付ボルト3を緩めて治具1を梁鋼材8から取り外すことで、治具1を地上へ下ろすことができる。
【0063】
上記手順1~6を、逆の順序で行うことで、梁鋼材8に取り付けられたトロリー9を撤去し、地上へ下ろすことができる。
【0064】
なお、実施形態では、ロープ93は、第1定滑車61および第1動滑車71に2回掛け回されていたが、1回のみ掛け回されてもよいし、3回以上掛け回されてもよい。ロープ93は、実施形態では、第2定滑車62および第2動滑車72に2回掛け回された後、第2定滑車62を経て地上側に下ろされていた。しかし、ロープ93は、第2定滑車62および第2動滑車72に1回のみ掛け回された後、または3回以上掛け回された後、第2定滑車62を経て地上側に下ろされてもよい。
【0065】
(治具1の設置操作方法の第1変形例)
トロリ9ーに取り付けるチェーンブロックを吊り上げる際に、トロリー9の吊り上げに使用した治具1を使用してもよい。この場合、高所作業車の作業員は、第2ブレーキ52のみをブレーキ解除状態にする。第2動滑車72が地上へ下ろされ、地上の作業員が第2動滑車72にチェーンブロックを玉掛けする。その後、地上の作業員は、ロープ93の端部931を引っ張り、チェーンブロックを梁鋼材8に取り付けられたトロリー9の近傍まで吊り上げる。高所作業車の作業員は、第2ブレーキ52をブレーキ固定状態にした後、チェーンブロックをトロリー9に取り付ける。上記と逆の手順を行うことで、トロリー9に取り付けられたチェーンブロックを撤去し、地上へ下ろすことができる。
【0066】
(効果)
本実施形態では、第1、第2支持アーム41,42が梁鋼材8の上方かつ両側に第1、第2定滑車61,62を支持する。これにより、本実施形態では、第1、第2定滑車61,62を利用して、第1、第2支持アーム41,42の下方に第1、第2動滑車71,72を吊るすことができ、ひいては第1、第2動滑車71,72を介してトロリー9の第1、第2分割体91,92を、第1、第2支持アーム41,42の下方に吊るすことができる。
【0067】
そして、本実施形態では、第1、第2定滑車61,62および第1、第2動滑車71,72を利用して、トロリー9の第1、第2分割体91,92を梁鋼材8の両側に吊り上げることができる。このため、本実施形態では、高所作業車に乗った作業員が、一人で、第1、第2分割体91,92の連結作業を行うことが可能である。
【0068】
本実施形態では、トロリー9を分割した第1、第2分割体91,92を吊り上げるので、トロリー9そのものを吊り上げる場合に比べて軽い力で第1、第2分割体91,92を吊り上げることができる。
【0069】
第1、第2分割体91,92の吊り上げを、第1、第2定滑車61,62および第1、第2動滑車71,72を利用して行うので、第1、第2分割体91,92の重量よりも軽い力、本実施形態では第1、第2分割体91,92の重量の4分の1の力で行うことができる。そのため、本実施形態では、吊上荷重10tの100kgのトロリー9を吊り上げる場合でも、第1分割体91を10kgf(98N)で、第2分割体92を15kgf(147N)で吊り上げることができ、第1、第2分割体91,92を軽々と吊り上げることができる。そして、本実施形態では、吊り上げられた状態の第1、第2分割体91,92を連結することでトロリー9を設置できるので、トロリー9の設置作業を、手足の挟まれや腰痛等の発生を抑えて安全に行うことができる。
【0070】
トロリー9を梁鋼材8まで吊り上げる際に、従来は、高所作業車に作業員二人およびトロリー9を載せていたので、その重量により高所作業車の安全装置が作動するおそれがあった。本実施形態では、高所作業車に、作業員1人および治具1を載せればよい。ここで、吊上荷重10tonのトロリー9は例えば100kgになる。一方、治具1は、コンパクトに作成でき、また、主に鋼板212、225、411,421で構成されることから、吊上荷重10tonのトロリー9を吊り上げ可能なものでも例えば13kg程度と、トロリー9よりも大幅に軽量に作成できる。そのため、本実施形態では、高所作業車の載置重量を大幅に軽減でき、高所作業車の重量制限による安全装置の作動を防止できる。
【0071】
トロリー9を梁鋼材8まで吊り上げて梁鋼材8に設置する方法として、仮設足場を利用する方法もあるが、仮設足場の組み立てに非常に時間がかかる。本実施形態では、トロリー9の設置に、高所作業車による治具1の梁鋼材8への引き上げ、治具1の梁鋼材8への取り付け、治具1を利用してのトロリー9の第1、第2分割体91,92の吊り上げを行う必要がある。しかし、これらの作業時間は、仮設足場の組み立て時間に比べて非常に短くて済む。
【0072】
第1支持アーム41に一端が連結され、第1支持アーム41の第1定滑車61および第1動滑車71に掛け回されたロープ93は、第2支持アーム42の第2定滑車62および第2動滑車72に掛け回される。第2分割体92は、第1分割体91よりも重いことから、地上側に垂らされたロープ93を引っ張ると、第2分割体92が地上に降ろされた状態のまま第1分割体91を吊り上げることができる。そして、第1ブレーキ51をブレーキ固定状態にしてロープ93を引っ張ることで、今度は第2分割体92を吊り上げることができる。このように、本実施形態では、第1、第2ブレーキ51,52の切り替えとロープ93の牽引だけで、第1、第2分割体91,92を順次吊り上げることができる。第1、第2分割体91,92の吊り下げも同様である。そのため、本実施形態では、第1、第2分割体91,92の吊り上げ・吊り下ろし作業を簡単に行うことができる。
【0073】
第1定滑車61においてシーブ611間にセパレートプレート615があるので、ロープ93のシーブ611間でのずれを防止できる。セパレートプレート615の切り欠き617内にストッパーバー511を挿抜できるので、第1ブレーキ51のブレーキ固定状態時に、セパレートプレート615がストッパーバー511に干渉することを防止できる。第2定滑車62においても同様である。
【0074】
治具1の梁鋼材8への設置は、治具1を開いた状態で梁鋼材8上に置き、締付ボルト3を締めるだけでよい。治具1の梁鋼材8からの撤去は、締付ボルト3を緩め、治具1を持ち上げるだけでよい。従って、治具1の設置及び撤去が容易である。
【0075】
第1、第2支持アーム41,42は、クランプ2から側方かつ上方に延びているので、第1、第2分割体91,92からの負荷に対して強い構造である。
【0076】
実施形態の第1、第2分割体91,92の吊り上げ方法は、作業員が第1、第2ブレーキ51,52の切り替えとロープ93の牽引を行うだけで、第1、第2分割体91,92を順次吊り上げることができる。従って、実施形態の吊り上げ方法は、作業員がトロリー9や第1、第2分割体91,92を持ち上げる作業を減らすことができ、トロリー9の設置作業を安全に行うことを可能にする。
【0077】
なお、治具1、ロープ93、および第1、第2動滑車71、72を含んだ装置を、トロリー9等の重量物の吊り上げ装置として捉えることができる。実施形態の治具1の構造、設置操作方法、および効果は単なる例示であり、本発明を限定するものとして解釈されるべきでない。実施形態の治具1の構造は、適宜の構成を追加でき、また代替の構成を取ることができる。実施形態の治具1の設置操作方法は、手順の順序の変更、適宜の手順の追加を行うことができ、また、代替の手順を採用できる。
【0078】
(治具1の設置操作方法の第2変形例)
図15は、治具1の設置操作方法の第2変形例を説明するための図である。
実施形態では、ロープ93を第1、第2支持アーム41,42間に掛け回すことで、第1支持アーム41および第2支持アーム42で同一のロープ93を使用している。しかし、本第2変形例のように、第1支持アーム41側では第1ロープ93Aを使用し、第2支持アーム42側では第2ロープ93Bを使用することもできる。
【0079】
第1、第2分割体91,92を吊り上げる前に、第1ロープ93Aは、一端が第1支持アーム41に連結され、第1定滑車61および第1動滑車71に掛け回された後に端部931A側が地上側に垂らされた状態とされる。第1ロープ93Aの端部931A側は、リール94Aに巻き取られた状態とされる。第1動滑車71は、地上にあり、第1分割体91に連結される。第1ロープ93Aの端部931Aおよび第1動滑車71は、梁鋼材8に対して一方側(図15中左側)にある。
【0080】
同様に、第2ロープ93Bは、一端が第2支持アーム42に連結され、第2定滑車62および第2動滑車72に掛け回された後に端部931B側が地上側に垂らされた状態とされる。第2ロープ93Bの端部931B側は、リール94Bに巻き取られた状態とされる。第2定滑車62は、地上にあり、第2分割体92に連結される。第2ロープ93Bの端部931Bおよび第2動滑車72は、梁鋼材8に対して他方側(図15中右側)にある。
【0081】
図16は、第1分割体91の吊り上げ作業を説明するための図である。
地上の作業員が第1ロープ93Aの端部931Aを引っ張って第1分割体91を吊り上げ、高所作業車の作業員が第1ブレーキ51をブレーキ固定状態にすることで、第1分割体91を吊り上げた状態に固定できる。続いて、地上の作業員が梁鋼材8に対して他方側(図16中右側)に移動し、同様に、第2ロープ93Bの端部931Bを引っ張って第2分割体92を吊り上げる。そして、高所作業車の作業員が第2ブレーキ52をブレーキ固定状態にすることで、第2分割体92を吊り上げた状態に固定できる。その後、高所作業車の作業員が第1分割体91および第2分割体92を連結することで、トロリー9を梁鋼材8の下部フランジ81に取り付けることができる。
【0082】
このように2本の第1、第2ロープ93A,93Bを使用して第1、第2分割体91,92を吊り上げる場合、地上の作業員は、第1ロープ93Aを引っ張る際の立ち位置と、第2ロープ93Bを引っ張る際の立ち位置とを、梁鋼材8を挟んで反対側に変更することとなる。第1、第2分割体91,92を吊り上げ後に第1、第2分割体91,92の高さを揃える場合には、地上の作業員が、第1ロープ93Aまたは第2ロープ93Bを引っ張ることとなる。また、第1、第2ロープ93A,93Bを2つのリール94A,94Bに別々に巻くこととなり、2つのリール94A,94Bおよび治具1は、重量及び嵩があるために複数人で持ち運ぶこととなる。
【0083】
一方、実施形態のように1本のロープ93で第1、第2分割体91,92を吊り上げる場合、作業員は、立ち位置の変更を不要にできる。第1、第2分割体91,92を吊り上げた後に第1、第2分割体91,92の高さを揃える場合には、地上の作業員がロープ93の端部931(リール94)を固定した後、高所作業車の作業員が、第1、第2ストッパー51,52をブレーキ解除状態にする等の操作を行うことで、簡単に第1、第2分割体91,92の高さを揃えることができる。例えば高所作業者の作業員が同時に第1、第2ストッパー51,52をブレーキ解除状態にし、重い側の第2分割体92を下げ、軽い側の第1分割体91を上げることで、第1、第2分割体91,92の高さを揃えることができる。
【0084】
また、実施形態のように1本のロープ93で第1、第2分割体91,92を吊り上げる場合、リール94は1本のロープ93を巻くだけよいので1つあればよく、該リール94および治具1を一人で持ち運ぶことが可能である。従って、1本のロープ93で第1、第2分割体91,92を吊り上げる方が、2本のロープ93A,93Bで第1、第2分割体91,92を吊り上げるよりも、操作性および治具1全体の軽量化の観点からはメリットがある。
【符号の説明】
【0085】
1…吊り上げ治具
2…クランプ
3…締付ボルト(締結具)
8…梁鋼材
9…トロリー
21,22…クランプアーム
41…第1支持アーム
42…第2支持アーム
51…第1ブレーキ
52…第ブレーキ
61…第1定滑車
62…第2定滑車
71…第1動滑車
72…第2動滑車
81…下部フランジ
82…上部フランジ
91…第1分割体
92…第2分割体
93…ロープ
511…ストッパーバー(第1ストッパー)
521…ストッパーバー(第2ストッパー)
611…第1定滑車のシーブ
612…シーブボルト(第1定滑車の軸)
615…セパレートプレート(第1セパレートプレート)
617…第1セパレートプレートの切り欠き
621…第2定滑車のシーブ
622…シーブボルト(第2定滑車の軸)
625…セパレートプレート(第2セパレートプレート)
627…第2セパレートプレートの切り欠き
911,921…車輪
図1
図2
図3
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図16