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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】鉄道車両の監視システム
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/10 20060101AFI20220809BHJP
   B61K 13/00 20060101ALI20220809BHJP
   G01M 17/10 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B61F5/10 C
B61K13/00 Z
G01M17/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019004498
(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公開番号】P2020040643
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2018038811
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018165912
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西村 和彦
(72)【発明者】
【氏名】喜多 成充
(72)【発明者】
【氏名】小林 学志
(72)【発明者】
【氏名】海老名 季学
【審査官】岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-131125(JP,A)
【文献】特開2016-159643(JP,A)
【文献】特開2014-214832(JP,A)
【文献】特開平04-123913(JP,A)
【文献】特開2017-071247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/10
B61K 13/00
G01M 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の鉄道車両に対し、車体と台車との間で前記鉄道車両の進行方向における右前方に配置された第1空気ばねの圧力A1、左前方に配置された第2空気ばねの圧力A2、右後方に配置された第3空気ばねの圧力A3、及び左後方に配置された第4空気ばねの圧力A4を検知する検知部と、
前記検知部によって検知された圧力に基づき、前記車体を支持する装置の異常を判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、前記鉄道車両の一定の走行距離又は経過時間における下記式(1)又は式(2)で求められる対角アンバランスPの増加量又は減少量が正の閾値より大きい場合又は負の閾値より小さい場合に、異常と判定すると共に、特定の地点、時刻或いは速度における前記対角アンバランスPの値、又は、特定の区間或いは時間における前記対角アンバランスPの代表値を用い、前記対角アンバランスPのゼロ点を補正する、鉄道車両の監視システム。
P=(A1-A2)-(A3-A4) ・・・(1)
P=(A3-A4)-(A1-A2) ・・・(2)
【請求項2】
走行中の鉄道車両に対し、車体と台車との間で前記鉄道車両の進行方向における右前方に配置された第1空気ばねの圧力A1、左前方に配置された第2空気ばねの圧力A2、右後方に配置された第3空気ばねの圧力A3、及び左後方に配置された第4空気ばねの圧力A4のうち、少なくとも2つの圧力を検知する検知部と、
前記検知部によって検知された圧力に基づき、前記車体を支持する装置の異常を判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、前記鉄道車両の一定の走行距離又は経過時間における下記式(3)から式(8)のいずれかで求められる対角アンバランスPの増加量又は減少量が正の閾値より大きい場合又は負の閾値より小さい場合に、異常と判定すると共に、特定の地点、時刻或いは速度における前記対角アンバランスPの値、又は、特定の区間或いは時間における前記対角アンバランスPの代表値を用い、前記対角アンバランスPのゼロ点を補正する、鉄道車両の監視システム。
P=A1-A2 ・・・(3)
P=A3-A4 ・・・(4)
P=A2+A3 ・・・(5)
P=A1+A4 ・・・(6)
P=A1-A3 ・・・(7)
P=A2-A4 ・・・(8)
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鉄道車両の監視システムであって、
前記判定部は、前記鉄道車両の一定の走行距離又は経過時間における前記対角アンバランスPの代表値が正の閾値より大きい場合又は負の閾値より小さい場合に、異常と判定する、鉄道車両の監視システム。
【請求項4】
請求項に記載の鉄道車両の監視システムであって、
前記代表値は、線路形状が同様の複数の取得地点で取得された前記対角アンバランスPの大きさである、鉄道車両の監視システム。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の鉄道車両の監視システムであって、
前記判定部は、前記鉄道車両の一定の走行距離又は経過時間における前記対角アンバランスPの積分値が一定以上となった場合に、異常と判定する、鉄道車両の監視システム。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の鉄道車両の監視システムであって、
前記判定部は、前記対角アンバランスPが正の閾値より大きい状態又は負の閾値より小さい状態が一定の走行距離又は経過時間において継続した場合に、異常と判定する、鉄道車両の監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両の監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の台車は、鉄道車両の走行安全性、走行安定性、乗り心地等に関わる重要部品である。そのため、台車は定期的に目視検査、又は非破壊検査(例えば磁粉探傷検査等)によって欠陥の確認が行われる。
【0003】
上記検査は、営業運転中に行うことはできないため、定期検査の間では欠陥の発見ができない。そこで、台車内部に気体を封入し、圧力を検知することで走行中の台車の異常を検知する方法が提案されている。しかし、この方法は、台車の構造を変える必要があるため、コストが大きくなる。
【0004】
一方で、台車と車体との間に配置された複数の空気ばねの圧力を検知し、これらの圧力のアンバランスによって異常を検出する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-159643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記公報の方法では、アンバランス値が閾値を超えた状態が判定期間以上続いた場合に異常と判定する。上記方法では、比較的短い10秒程度の判定期間が設けられるため、誤判定を防ぐためにはアンバランス値の閾値を大きくする必要がある。そのため、上記方法は、大きな異常又は急激な異常が検知対象となり、徐々に進行する異常を早期に検知することができない。
【0007】
本開示の一局面は、走行中の鉄道車両において車体を支持する装置の異常を早期に発見できる鉄道車両の監視システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、検知部と、判定部と、を備える鉄道車両の監視システムである。検知部は、走行中の鉄道車両に対し、車体と台車との間で鉄道車両の進行方向における右前方に配置された第1空気ばねの圧力A1、左前方に配置された第2空気ばねの圧力A2、右後方に配置された第3空気ばねの圧力A3、及び左後方に配置された第4空気ばねの圧力A4を検知する。判定部は、検知部によって検知された圧力に基づき、車体を支持する装置の異常を判定する。
【0009】
判定部は、下記式(1)又は式(2)で求められる対角アンバランスPの大きさと、鉄道車両の走行距離又は経過時間との関係によって、異常を判定する。
P=(A1-A2)-(A3-A4) ・・・(1)
P=(A3-A4)-(A1-A2) ・・・(2)
【0010】
このような構成によれば、対角アンバランスPの絶対値が小さな値であっても、対角アンバランスPの値が走行中に継続された際等に異常として判定することができる。そのため、長い時間又は長い距離をかけて(例えば数時間をかけて)徐々に進行する異常を早期に発見できる。また、対角アンバランスPの絶対値が大きくなる箇所に鉄道車両が長時間停車した場合に、誤って異常と判定されることが避けられる。
【0011】
本開示の別の態様は、検知部と、判定部と、を備える鉄道車両の監視システムである。検知部は、走行中の鉄道車両に対し、車体と台車との間で鉄道車両の進行方向における右前方に配置された第1空気ばねの圧力A1、左前方に配置された第2空気ばねの圧力A2、右後方に配置された第3空気ばねの圧力A3、及び左後方に配置された第4空気ばねの圧力A4のうち、少なくとも2つの圧力を検知する。判定部は、検知部によって検知された圧力に基づき、車体を支持する装置の異常を判定する。
【0012】
判定部は、下記式(3)から式(8)のいずれかで求められる対角アンバランスPの大きさと、鉄道車両の走行距離又は経過時間との関係によって、異常を判定する。
P=A1-A2 ・・・(3)
P=A3-A4 ・・・(4)
P=A2+A3 ・・・(5)
P=A1+A4 ・・・(6)
P=A1-A3 ・・・(7)
P=A2-A4 ・・・(8)
【0013】
このような構成によっても、対角アンバランスPの値が走行中に継続された際等に異常として判定することができる。なお、上記式(3)から式(8)のいずれかで求められるPの値は、いずれも複数の空気ばねにおける圧力の対角アンバランスの変化に追従して変動する(つまり、増大又は減少する)値であり、空気ばねの圧力の対角アンバランスを表す指標である。
【0014】
本開示の別の態様は、検知部と、判定部と、を備える鉄道車両の監視システムである。検知部は、走行中の鉄道車両に対し、車体と台車との間で鉄道車両の進行方向における右前方に配置された第1空気ばねの圧力A1、左前方に配置された第2空気ばねの圧力A2、右後方に配置された第3空気ばねの圧力A3、及び左後方に配置された第4空気ばねの圧力A4のうち、少なくとも1つの圧力を検知する。判定部は、検知部によって検知された圧力に基づき、車体を支持する装置の異常を判定する。
【0015】
判定部は、下記式(9)から式(12)のいずれかで求められる対角アンバランスPの大きさと、鉄道車両の走行距離又は経過時間との関係によって、異常を判定する。
P=A1 ・・・(9)
P=A2 ・・・(10)
P=A3 ・・・(11)
P=A4 ・・・(12)
【0016】
このような構成によっても、対角アンバランスPの値が走行中に継続された際等に異常として判定することができる。なお、上記式(9)から式(12)のいずれかで求められるPの値は、いずれも複数の空気ばねにおける圧力の対角アンバランスの変化に追従して変動する値であり、空気ばねの圧力の対角アンバランスを表す指標である。
【0017】
本開示の一態様では、判定部は、鉄道車両の一定の走行距離又は経過時間における対角アンバランスPの代表値が正の閾値より大きい場合又は負の閾値より小さい場合に、異常と判定してもよい。このような構成によれば、容易かつ確実に支持装置の異常を早期に発見できる。
【0018】
本開示の一態様では、判定部は、鉄道車両の一定の走行距離又は経過時間における対角アンバランスPの積分値が一定以上となった場合に、異常と判定してもよい。このような構成によれば、より高精度に支持装置の異常を判定できる。
【0019】
本開示の一態様では、判定部は、対角アンバランスPが正の閾値より大きい状態又は負の閾値より小さい状態が一定の走行距離又は経過時間において継続した場合に、異常と判定してもよい。このような構成によっても、より高精度に支持装置の異常を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態における鉄道車両の監視システムの構成を概略的に示すブロック図である。
図2図2は、鉄道車両の模式的な正面図である。
図3図3Aは、台車が正常な状態における4つの空気ばねの状態を示す模式図であり、図3Bは、台車に変形が入り始めた状態における4つの空気ばねの状態を示す模式図であり、図3Cは、台車に変形が入った後の平衡状態における4つの空気ばねの状態を示す模式図である。
図4】第1閾値と第2閾値との関係を示す模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す鉄道車両の監視システム(以下、単に「監視システム」ともいう。)1は、走行中の鉄道車両において、鉄道車両の車体10を支持する装置を監視するためのシステムである。監視システム1は、検知部2と、判定部3とを備える。
【0022】
<鉄道車両>
監視システム1が監視対象とする鉄道車両は、図1及び図2に示すように、車体10と、台車11と、輪軸12と、第1空気ばね21、第2空気ばね22、第3空気ばね23及び第4空気ばね24とを有する。
【0023】
第1空気ばね21、第2空気ばね22、第3空気ばね23及び第4空気ばね24は、それぞれ、車体10と台車11との間に配置される。これらの空気ばねは、鉛直方向に伸縮可能に構成されており、台車11上において車体10を鉛直方向に支持している。
【0024】
第1空気ばね21は、鉄道車両の進行方向Dにおける右前方に配置されている。第2空気ばね22は、進行方向Dにおける左前方に配置されている。第3空気ばね23は、進行方向Dにおける右後方に配置されている。第4空気ばね24は、進行方向Dにおける左後方に配置されている。
【0025】
台車11は、台車枠、車高調整装置等から構成されている。台車11の上面には、第1空気ばね21、第2空気ばね22、第3空気ばね23及び第4空気ばね24が取り付けられている。台車11の下面には、輪軸12が取り付けられている。
【0026】
例えば、台車枠に変形が発生すると、図2に示すように、各空気ばねの圧力間の差(つまり、アンバランス)が大きくなる。監視システム1は、このような車体支持装置の異常を検知する。なお、車体支持装置には、台車11を構成する台車枠及び車高調整装置に加え、第1空気ばね21、第2空気ばね22、第3空気ばね23及び第4空気ばね24も含まれる。
【0027】
<検知部>
検知部2は、走行中の鉄道車両に対し、第1空気ばね21の圧力A1、第2空気ばね22の圧力A2、第3空気ばね23の圧力A3、及び第4空気ばね24の圧力A4を検知する。検知部2は、公知の圧力センサによって構成される。
【0028】
<判定部>
判定部3は、検知部2によって検知された圧力に基づき、車体支持装置の異常を判定する。判定部3は、例えば入出力部を備えるコンピュータにより構成される。
【0029】
判定部3は、4つの空気ばねにおけるアンバランスの関係を利用して、異常を判定する。すなわち、判定部3は、下記式(1)又は式(2)で求められる対角アンバランスPの大きさと、鉄道車両の走行距離又は経過時間との関係によって、異常を判定する。
P=(A1-A2)-(A3-A4) ・・・(1)
P=(A3-A4)-(A1-A2) ・・・(2)
【0030】
車体支持装置に異常がない場合、図3Aに示すように、車体面10Aと台車面11Aとに挟まれた4つの空気ばねにおけるアンバランスは小さい。一方、例えば台車枠の右後方部分が変形した場合、まず、図3Bに示すように、変形近傍の第3空気ばね23の圧力A3が小さくなる。
【0031】
その後、変形が進展し、平衡状態(つまり釣り合い状態)となると、対角線上に配置された第2空気ばね22の圧力A2が変化し、図3Cに示すように、第3空気ばね23の圧力A3と第2空気ばね22の圧力A2とが均衡される。しかし、第2空気ばね22の圧力A2及び第3空気ばね23の圧力A3は、第1空気ばね21の圧力A1及び第4空気ばね24の圧力A4よりも小さくなる。そのため、対角アンバランスPの絶対値が大きくなる。さらに変形が進むと空気ばね圧の変化量が大きくなるため、対角アンバランスPの絶対値が拡大する。
【0032】
判定部3は、鉄道車両の一定の走行距離又は経過時間における対角アンバランスPの代表値が正の閾値より大きい場合又は負の閾値より小さい場合に、異常と判定する。対角アンバランスPは、正常な車両であっても、緩和曲線や分岐器の通過時等に増減する。しかし、このような車体支持装置の異常に基づかない対角アンバランスPの増減は、短距離又は短時間で回復する。そのため、対角アンバランスPを走行距離又は経過時間ベースで継続的に監視することで、異常の判定を的確に行える。
【0033】
なお、異常の判定において正の閾値及び負の閾値のどちらを用いるかは、対角アンバランスPの算出式として上記式(1)及び式(2)のどちらを選択するかによって適宜決定される。つまり、鉄道車両の運行時に対角アンバランスPの値が正の側に存在する場合は、正の閾値を用い、対角アンバランスPの値が負の側に存在する場合は、負の閾値を用いる。
【0034】
具体的には、対角アンバランスPに対し距離又は時間のローパスフィルタを使用し、各地点又は各時刻での対角アンバランスPのうち、一定距離又は一定時間を走行する間持続されない値を除去したものを「一定の走行距離又は経過時間における対角アンバランスPの代表値」とする。或いは、一定の走行距離又は経過時間における各地点又は各時刻での対角アンバランスPの平均値を「一定の走行距離又は経過時間における対角アンバランスPの代表値」としてもよい。
【0035】
なお、ローパスフィルタの代わりに、予め定められた1又は複数の取得地点で対角アンバランスPを取得する設備を用いて、「一定の走行距離又は経過時間における対角アンバランスPの代表値」を取得してもよい。複数の取得地点を用いる場合は、線路形状が同様の複数の地点(例えば、発車直後の地点、高速走行地点等の走行速度が同じになる地点)が取得地点として設定される。
【0036】
上記設備は、例えば、取得地点の通過信号を入力として受けた際に対角アンバランスPを取得する。取得地点の通過信号は、取得地点の地上側に配置された機器から設備に送信されてもよいし、スイッチ押下、電源投入等の人為的行為に基づいて設備に直接入力されてもよい。
【0037】
判定部3は、対角アンバランスPの代表値の走行距離又は経過時間に応じた変化を監視する。判定部3は、対角アンバランスPの代表値が予め定められた正の閾値より大きい場合又は負の閾値より小さい場合に、車体支持装置に異常があると判定する。
【0038】
なお、鉄道車両は機器の配置等の条件によって、固有の対角アンバランスPの初期値を有している。そのため、特定の地点、時刻或いは速度における対角アンバランスPの値、又は、特定の区間或いは時間における対角アンバランスPの代表値を用い、対角アンバランスPのゼロ点を補正することで、精度を高めることができる。
【0039】
さらに、判定部3は、鉄道車両の一定の走行距離又は経過時間における対角アンバランスP又はその代表値の積分値(つまり、グラフにおいて対角アンバランスP又はその代表値と、走行距離又は経過時間とで囲まれた領域の面積)が一定以上となった場合に、異常と判定してもよい。この場合は、対角アンバランスPの変化量と対角アンバランスPが閾値を超える頻度とを考慮して異常が判定されるので、検出精度が向上する。
【0040】
また、判定部3は、一定の走行距離又は経過時間における対角アンバランスPの増加量又は減少量が正の閾値より大きい場合又は負の閾値より小さい場合に、車体支持装置に異常があると判定してもよい。ここでの閾値は、鉄道車両の走行距離又は経過時間に応じて増加又は減少させてもよい。車体支持装置の異常が発生した時点より、対角アンバランスPの値は常に増加傾向となるか、又は常に減少傾向となるため、走行距離又は経過時間に応じた対角アンバランスPの増減分に合わせて閾値を設定することで、車体支持装置の異常を検知することができる。
【0041】
さらに、判定部3は、対角アンバランスP(「一定の走行距離又は経過時間における対角アンバランスPの代表値」を含む)が正の閾値より大きい状態又は負の閾値より小さいアンバランス状態が一定の走行距離又は経過時間において継続した場合に、異常と判定してもよい。この場合、判定部3は、対角アンバランスPに対する正又は負の第1閾値と、走行距離又は経過時間に対する正の第2閾値とを判定に使用する。
【0042】
つまり、判定部3は、アンバランス状態の継続走行距離又は継続時間が第2閾値を超えた場合に、異常と判定する。この場合は、対角アンバランスPが第1閾値を超える(又は下回る)継続時間又は継続走行距離を考慮して異常が判定されるので、検出精度が向上する。
【0043】
第2閾値は、第1閾値の関数としてもよい。例えば、第1閾値が大きくなるほど、第2閾値が小さくなるような関係を持たせてもよい。これにより、アンバランス量の小さい状態では、継続時間が短い場合は異常と判定されない一方で、アンバランス量が大きい状態では、継続時間が短くても異常と判定される。
【0044】
図4に示すように、第2閾値V2を第1閾値V1の関数とすることで、対角アンバランスPの大きさを第1軸、継続時間T又は継続走行距離Dを第2軸とした直交座標系において、任意の領域を異常と判定される領域Aから除外することができる。なお、図4中、Nは、異常でないと判定される領域である。
【0045】
上記各判定手法において、対角アンバランスPに対する緩和曲線や分岐器による線路形状の影響は同一地点では同じ値となるため、過去に同じ地点を通過した時の対角アンバランスPとの比較によって、緩和曲線や分岐器による線路形状の影響を除外し、車体支持装置の異常を判定してもよい。
【0046】
また、対角アンバランスPは車体支持装置の異常が無くとも一定の範囲内で変動する。車体支持装置の異常が無い場合は走行距離又は経過時間により対角アンバランスPを積分すると常にゼロ付近の値である。一方、車体支持装置の異常が不可逆である場合、対角アンバランスPを走行距離又は経過時間により積分すると車体支持装置の異常が発生した時点から増大する。このため、対角アンバランスPを走行距離又は経過時間により積分することで、ゼロリセットした地点又は時期からの蓄積した車体支持装置の異常を判定することができる。
【0047】
判定部3は、車両支持装置の異常の判定結果を通知する機能を有する。通知の方法としては、判定部3が接続された鉄道車両の運転システムを介して、鉄道車両内及び/又は車両外部の管理システムに警告等を表示させる方法が挙げられる。これにより、車両支持装置の不具合を早期に発見することができると共に、迅速な対応が可能となる。
【0048】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)対角アンバランスPの絶対値が小さな値であっても、対角アンバランスPの値が走行中に継続された際に異常として判定することができる。そのため、長い時間又は長い距離をかけて(例えば数時間をかけて)徐々に進行する異常を早期に発見できる。また、対角アンバランスPの絶対値が大きくなる箇所に鉄道車両が長時間停車した場合に、誤って異常と判定されることが避けられる。
【0049】
[2.第2実施形態]
[2-1.構成]
第2実施形態の鉄道車両の監視システム1は、判定部3が使用する対角アンバランスPの算出式を除いて、第1実施形態の鉄道車両の監視システム1と同じである。
【0050】
第2実施形態では、判定部3は、上記式(1)又は式(2)の替わりに、下記式(3)から式(8)のいずれかを用いて、対角アンバランスPを求める。判定部3が対角アンバランスPを用いて異常を判定する手順は、第1実施形態と同様である。
P=A1-A2 ・・・(3)
P=A3-A4 ・・・(4)
P=A2+A3 ・・・(5)
P=A1+A4 ・・・(6)
P=A1-A3 ・・・(7)
P=A2-A4 ・・・(8)
【0051】
なお、上記式(3)から式(8)は、上記式(1)又は(2)における任意の2つの空気ばねの圧力をゼロとしたものである。例えば、式(3)は、式(1)においてA3及びA4をゼロとしたものであり、式(4)は、式(2)においてA1及びA2をゼロとしたものである。
【0052】
第2実施形態では、検知部2は、第1空気ばね21の圧力A1、第2空気ばね22の圧力A2、第3空気ばね23の圧力A3、及び第4空気ばね24の圧力A4のうち、対角アンバランスPの算出に用いられる少なくとも2つの圧力を検知すればよい。
【0053】
そのため、台車11は、圧力の測定対象とならない空気ばねを、必ずしも備えてなくてもよい。換言すれば、第2実施形態の監視システム1は、台車11に配置された空気ばねが2つ又は3つの鉄道車両に対しても監視が可能である。
【0054】
例えば、台車11に第1空気ばね21と第4空気ばね24とのみが取り付けられた鉄道車両に対しては、上記式()によって対角アンバランスPを算出することによって、異常の判定を行うことができる。
【0055】
[2-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(2a)台車11に4つ未満の空気ばねが取り付けられた鉄道車両に対しても、長い時間又は長い距離をかけて徐々に進行する異常を早期に発見できる。
【0056】
[3.第3実施形態]
[3-1.構成]
第3実施形態の鉄道車両の監視システム1は、判定部3が使用する対角アンバランスPの算出式を除いて、第1実施形態の鉄道車両の監視システム1と同じである。
【0057】
第3実施形態では、判定部3は、上記式(1)又は式(2)の替わりに、下記式(9)から式(12)のいずれかを用いて、対角アンバランスPを求める。判定部3が対角アンバランスPを用いて異常を判定する手順は、第1実施形態と同様である。
P=A1 ・・・(9)
P=A2 ・・・(10)
P=A3 ・・・(11)
P=A4 ・・・(12)
【0058】
なお、上記式(9)から式(12)は、上記式(1)又は(2)における任意の3つの空気ばねの圧力をゼロとしたものである。例えば、式(9)は、式(1)においてA2、A3及びA4をゼロとしたものである。
【0059】
第3実施形態では、検知部2は、第1空気ばね21の圧力A1、第2空気ばね22の圧力A2、第3空気ばね23の圧力A3、及び第4空気ばね24の圧力A4のうち、対角アンバランスPの算出に用いられる少なくとも1つの圧力を検知すればよい。
【0060】
そのため、台車11は、第2実施形態と同じように、圧力の測定対象とならない空気ばねを、必ずしも備えてなくてもよい。換言すれば、第3実施形態の監視システム1は、台車11に配置された空気ばねが1つの鉄道車両に対しても監視が可能である。
【0061】
例えば、台車11に第1空気ばね21のみが取り付けられた鉄道車両に対しては、上記式(9)によって対角アンバランスPを算出することによって、異常の判定を行うことができる。
【0062】
[3-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(3a)台車11に1つのみの空気ばねが取り付けられた鉄道車両に対しても、長い時間又は長い距離をかけて徐々に進行する異常を早期に発見できる。
【0063】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0064】
(4a)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0065】
1…鉄道車両の監視システム、2…検知部、3…判定部、10…車体、
10A…車体面、11…台車、11A…台車面、12…輪軸、21…第1空気ばね、
22…第2空気ばね、23…第3空気ばね、24…第4空気ばね。
図1
図2
図3
図4