(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】水素貯蔵モジュール、水素貯蔵装置及びフィン付き管
(51)【国際特許分類】
C01B 3/00 20060101AFI20220809BHJP
F17C 11/00 20060101ALI20220809BHJP
H01M 8/0606 20160101ALN20220809BHJP
H01M 8/04 20160101ALN20220809BHJP
【FI】
C01B3/00 A
F17C11/00 C
H01M8/0606
H01M8/04 N
(21)【出願番号】P 2019024906
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】504358148
【氏名又は名称】株式会社コベルコE&M
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健人
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 彰利
(72)【発明者】
【氏名】清水 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山内 太郎
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-508855(JP,A)
【文献】特開2009-092148(JP,A)
【文献】特開2002-295798(JP,A)
【文献】特開2005-238976(JP,A)
【文献】特開2010-244946(JP,A)
【文献】特開2018-170211(JP,A)
【文献】特開2008-303955(JP,A)
【文献】特開2002-327898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00
F17C 11/00
H01M 8/0606
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に熱媒体の流路を有する多重管と、
フィン部に水素吸蔵合金を保持し、上記多重管の外周面側に対して挿入されるフィン付き管と、
上記多重管とフィン付き管との間に配置される伝熱シートと
を備える水素貯蔵モジュール。
【請求項2】
上記伝熱シートにより、上記多重管及びフィン付き管が接続されている請求項1に記載の水素貯蔵モジュール。
【請求項3】
上記伝熱シートが、上記多重管の外周面を巻回している請求項1又は請求項2に記載の水素貯蔵モジュール。
【請求項4】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の水素貯蔵モジュールを備える水素貯蔵装置。
【請求項5】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の水素貯蔵モジュールに用いられ、
上記フィン部に上記水素吸蔵合金を保持し、上記多重管の外周面側に挿抜可能なフィン付き管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵モジュール、水素貯蔵装置及びフィン付き管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池自動車、燃料電池フォークリフト等に水素を供給するための水素供給設備が開発されている。この水素供給設備における水素の貯蔵方法としては、液体水素による貯蔵、圧縮ガスによる貯蔵、有機ハイドライドなどに変換しての貯蔵、水素吸蔵合金による貯蔵等が挙げられる。このうち、水素吸蔵合金による貯蔵は、その体積あたりの貯蔵密度を大きくできることから広く利用が検討されている。
【0003】
水素吸蔵合金によって水素を貯蔵可能な水素貯蔵装置としては、熱媒管と、熱媒管の外周面に固定されるフィンと、熱媒管の外周面側に充填される水素吸蔵合金とが容器内に収容されたものが発案されている(特開2004-132503号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
今日、容器内における水素吸蔵合金の偏在化を防ぐ観点等から、水素吸蔵合金を熱媒管の外周面側に保持させることが検討されている。具体的には、水素吸蔵合金をバインダー中に分散させたうえ、このバインダーを熱媒管の外周面側に固着させることで、水素吸蔵合金を熱媒管の外周面側に保持させることが検討されている。
【0006】
一方、水素吸蔵合金は、使用によって水素吸蔵機能が低下することがある。しかしながら、上記従来の水素貯蔵装置で熱媒管の外周面側に水素吸蔵合金を保持させると、水素吸蔵合金の取り換えコストが大きくなる。すなわち、上記従来の水素貯蔵装置において水素吸蔵合金を取り換える場合、水素吸蔵合金をこの水素吸蔵合金が保持された熱媒管ごと取り換えることを要する。しかしながら、熱媒管は溶接等によって容器に固定されているため、熱媒管の取り換え作業は容易ではなく、取り換え作業に要するコストが大きくなる。また、新たな熱媒管の製造にあたっては、材料の選定や耐圧性試験等の各種試験を経る必要があり、製造コストが大きくなる。
【0007】
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、水素吸蔵合金を容易に取り換え可能な水素貯蔵モジュール、水素貯蔵装置及びフィン付き管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る水素貯蔵モジュールは、内部に熱媒体の流路を有する多重管と、フィン部に水素吸蔵合金を保持し、上記多重管の外周面側に対して挿入されるフィン付き管と、上記多重管とフィン付き管との間に配置される伝熱シートとを備える。
【0009】
当該水素貯蔵モジュールは、フィン付き管が伝熱シートを介して多重管の外周面側を被覆しており、上記フィン付き管が上記多重管に挿抜可能に構成されている。当該水素貯蔵モジュールは、上記フィン付き管と多重管との間に伝熱シートが配置されるので、上記多重管の外周面とフィン付き管の内周面との間にクリアランスを設けることが可能である。従って、当該水素貯蔵モジュールは、水素吸蔵合金が保持されたフィン付き管を多重管から容易に抜き出し、かつ新たな水素吸蔵合金が保持されたフィン付き管を多重管に容易に挿し込むことができる。これにより、当該水素貯蔵モジュールは、水素吸蔵合金を容易に取り換えることができる。
【0010】
上記伝熱シートにより、上記多重管及びフィン付き管が接続されているとよい。このように、上記伝熱シートにより、上記多重管及びフィン付き管が接続されていることによって、上記熱媒体と水素吸蔵合金との熱交換を容易かつ確実に行うことができる。
【0011】
上記伝熱シートが、上記多重管の外周面を巻きまわしていても構わない。このように、上記伝熱シートが、上記多重管の外周面を巻きまわしていることによって、上記伝熱シートを上記多重管の外周面に隙間なく配置しやすい。
【0012】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の一態様に係る水素貯蔵装置は、当該水素貯蔵モジュールを備える。
【0013】
当該水素貯蔵装置は、当該水素貯蔵モジュールを備えるので、水素吸蔵合金を容易に取り換えることができる。
【0014】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の一態様に係るフィン付き管は、当該水素貯蔵モジュールに用いられ、上記フィン部に上記水素吸蔵合金を保持し、上記多重管の外周面側に挿抜可能である。
【0015】
当該フィン付き管によれば、当該水素貯蔵モジュールの水素吸蔵合金を容易に取り換えることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の水素貯蔵モジュール、水素貯蔵装置及びフィン付き管は、水素吸蔵合金を容易に取り換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水素貯蔵装置を示す模式図である。
【
図2】
図1の水素貯蔵装置に備えられる水素貯蔵モジュールを示す模式的縦断面図である。
【
図3】
図2の水素貯蔵モジュールの模式的A-A線断面図である。
【
図4】
図2の水素貯蔵モジュールの水素吸蔵合金を保持させたフィン付き管を示す模式的斜視図である。
【
図5】
図2の水素貯蔵モジュールの多重管及び伝熱シートの積層体を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。なお、本明細書に記載の数値については、記載された上限値と下限値とを任意に組み合わせることが可能である。本明細書では、組み合わせ可能な上限値から下限値までの数値範囲が好適な範囲として全て記載されているものとする。
【0019】
[水素貯蔵装置]
図1の水素貯蔵装置1は、例えば燃料電池に水素を供給するための水素供給設備に用いられる。この燃料電池を搭載する物としては、例えば燃料電池自動車及び燃料電池フォークリフトが挙げられる。当該水素貯蔵装置1は、複数の水素貯蔵モジュール2と、複数の水素貯蔵モジュール2を収容するケーシング3とを備える。
図2及び
図3に示すように、水素貯蔵モジュール2は、内部に熱媒体の流路を有する多重管11と、フィン部12bに水素吸蔵合金13を保持し、多重管11の外周面側に対して挿入されるフィン付き管12と、多重管11とフィン付き管12との間に配置される伝熱シート14とを備える。多重管11は、例えば内管11aと外管11bとの2重管である。内管11a及び外管11bは部分的に連結されていてもよく、分離されていてもよい。多重管11の一端側(
図2のX方向側)において、内管11a及び外管11bの端部はいずれも開口している。これに対し、多重管11の他端側(
図2のX方向の反対側)では、内管11aの端部は開口する一方、外管11bの他端は閉塞されている。また、多重管11の他端側では、内管11aの他端側開口は、外管11bの閉塞部分と軸方向に間隔を空けて配置されている。これにより、内管11aの内部空間S1は、内管11aの他端側開口を介して、内管11aと外管11bとの隙間領域S2に連通している。多重管11の上記一端側の開口のうち、内管11aの開口は内部空間S1に上記熱媒体を流入可能な流入口21aとして構成されている。多重管11の上記一端側の開口のうち、内管11aと外管11bとに挟まれる領域は、隙間領域S2から上記熱媒体を外部に流出可能な流出口21bとして構成されている。フィン付き管12は、多重管11の外周面側に挿抜可能に構成されている。多重管11と伝熱シート14との間、及び伝熱シート14とフィン付き管12との間には、接着剤層等の他の層を有しない。
【0020】
当該水素貯蔵装置1は、多重管11の流入口21aに連通する流入路15と、多重管11の流出口21bに連通する流出路16と、外管11bの一端側を保持する第1保持部材17aと、内管11bの一端側を保持する第2保持部材17bと、多重管11の他端側(流入路15及び流出路16との連通側と反対側)を支持する支持部材18とを備える。第1保持部材17aは、例えば板状である。第1保持部材17aは、複数の外管11bが挿入され、これらの外管11bの外周面と周縁部で接合される複数の第1孔を有する。第2保持部材17bは、例えば板状である。第2保持部材17bは、複数の内管11aが挿入され、これらの内管11aの外周面と周縁部で接合される複数の第2孔を有する。かかる構成において、当該水素貯蔵装置1は、内管11aの開口が露出する側において第2保持部材17bとケーシング3とで囲まれる空間が流入路15を構成し、第1保持部材17aと第2保持部材17bとケーシング3とで囲まれる領域が流出路16を構成している。
【0021】
第1保持部材17aは、外管11bと着脱可能に構成されてもよいが、外管11bをケーシング3内の所定位置に確実に固定すると共に、フィン付き管12の挿抜作業等を容易かつ確実に行うことができるよう外管11bと着脱不能又は着脱困難に構成されていてもよい。また、外管11bは、ケーシング3内において水素ガス雰囲気空間を区画する部材として機能する。そのため、第1保持部材17aに対して外管11bを着脱不能又は着脱困難に構成することで、外管11bの着脱に起因する水素漏れを容易に防止することができる。一方、内管11aは、例えば第2保持部材17bと共に取り外し可能に構成されることが好ましい。内管11aは、ケーシング3内において水素ガス雰囲気空間を区画する部材として機能することを要しない。そのため、内管11aは、清掃やメンテナンスの容易化を図ることができるよう、必要に応じて外管11bから抜き出せることが好ましい。
【0022】
支持部材18は、複数の多重管11と着脱可能に構成されている。つまり、複数の多重管11は、支持部材18を取り外すことで、流入路15及び流出路16との連通側で第1保持部材17a及び第2保持部材17bによって片持ち梁状に保持可能に構成されている。多重管11は、第1保持部材17a及び支持部材18との接続部分に挟まれる領域が、伝熱シート14及びフィン付き管12が積層される積層領域として構成されている。
【0023】
<水素貯蔵モジュール>
水素貯蔵モジュール2は、それ自体本発明の一態様を構成する。水素貯蔵モジュール2は、水素吸蔵合金13により水素を吸蔵可能に構成されている。また、水素貯蔵モジュール2は、水素吸蔵合金13が吸蔵した水素を放出することで、水素を燃料電池に供給可能に構成されている。
【0024】
(多重管)
多重管11は直管状である。上述のように、多重管11は内管11a及び外管11bを有する。内管11a及び外管11bは例えば円筒状である。外管11bの外周面は、多重管11の外周面(すなわち、多重管11における最外周面)を構成している。内管11aは外管11bの径方向の内側に挿入されることで配置される。内管11aの上記一端側の端縁は外管11bの上記一端側の端縁よりも突出している。内管11aは、第2保持部材17bに嵌合されてもよく、溶接されてもよく、その他の方法で接合されてもよい。また、外管11bは、第1保持部材17aに嵌合されてもよく、溶接されてもよく、その他の方法で接合されてもよい。
【0025】
内管11aの内部空間S1及び内管11aと外管11bとの間の隙間空間S2は、水素吸蔵合金13を冷却又は加熱するための上記熱媒体の流路として構成されている。水素貯蔵モジュール2は、上記流路を冷却用熱媒体が流れることで、水素吸蔵合金13による水素の吸蔵を促進する。一方、水素貯蔵モジュール2は、上記流路を加熱用熱媒体が流れることで、水素吸蔵合金13による水素の放出を促進する。
【0026】
多重管11は伝熱管である。より詳しくは、多重管11は、例えばバヨネット型二重伝熱管である。水素貯蔵モジュール2は、多重管11がバヨネット型二重伝熱管であることによって、多重管11をケーシング3内で片持ち梁状に固定しやすい。これによって、フィン付き管12を多重管11の他端側から挿抜しやすい。
【0027】
上述のように、外管11bの他端側の開口は閉塞されている。つまり、多重管11は、一端側の開口(流入口21a)から流入された熱媒体が一端側の開口(流出口21b)から流出するよう構成されている。これにより、多重管11は、他端側に他の流路を連通することを要しない。その結果、多重管11は、この他端側からフィン付き管12を容易に挿抜することができる。
【0028】
複数の多重管11は、平行に配置されている。複数の多重管11は、例えば中心軸が水平方向と平行に配置されてもよく、中心軸が鉛直方向と平行に配置されてもよい。当該水素貯蔵装置1は、複数の多重管11を鉛直方向と平行に配置することで、装置全体の設置面積を小さくし、省スペース化を図りやすい。
【0029】
多重管11の主成分としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼等が挙げられる。なお、「主成分」とは、質量換算で最も含有量の大きい成分をいう。
【0030】
(熱媒体)
上記熱媒体としては、水素吸蔵合金13と熱交換可能な物質であれば特に限定されるものではなく、例えば水、油、ロングライフクーラント、空気、蒸気等が挙げられる。
【0031】
(フィン付き管)
フィン付き管12は、それ自体本発明の一態様を構成する。フィン付き管12は、多重管11に挿抜可能なカートリッジである。
図4に示すように、フィン付き管12は、筒状の胴部12aと胴部12aの外周面に固定されるフィン部12bとを有する。フィン付き管12は、例えば伝熱管である胴部12aの外周面にフィン部12bが固定されたフィンチューブである。フィン付き管12は、胴部12aの外周面側に水素吸蔵合金13を保持している。水素吸蔵合金13は、フィン部12bの間に保持されている。具体的には、水素吸蔵合金13は、例えば水素吸蔵合金13に吸蔵される水素の放出加熱温度よりも高い軟化点、好ましくは100℃以上の軟化点を有する合成樹脂を主成分とするバインダー19中に分散しており、このバインダー19が胴部12aの外周面に固着することで、バインダー19を介して胴部12aの外周面側に保持されている。これにより、フィン付き管12及び水素吸蔵合金13は一体的に、つまり分離困難に構成されている。上記合成樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂や、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロイド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。フィン付き管12は、多重管11が一端側で片持ち梁状に保持された状態で、多重管11のその自由端側(他端側)から挿抜可能に構成されている。
【0032】
(胴部)
胴部12aは直管状である。胴部12aの内周面の横断面(中心軸と垂直な断面)の形状は、多重管11の外周面(つまり外管11bの外周面)の横断面の形状と略同じである。胴部12aは、例えば円筒状である。多重管11の平均外径D1は、胴部12aの平均内径D2よりも僅かに小さい。胴部12aの平均内径D2と多重管11の平均外径D1との差の下限としては、0.5mmが好ましく、1.0mmがより好ましい。一方、上記差の上限としては、2.0mmが好ましく、1.5mmがより好ましい。上記差が上記下限に満たないと、フィン付き管12の多重管11への挿抜作業が容易でなくなるおそれがある。逆に、上記差が上記上限を超えると、伝熱シート14によって多重管11及び胴部12aを容易かつ確実に接続することが困難になるおそれがある。なお、「内径」とは等面積の真円に換算した場合の内径を意味し、「外径」とは等面積の真円に換算した場合の外径を意味する。また、「平均内径」とは、軸方向における任意の10点の内径の平均値をいい、「平均外径」とは、軸方向における任意の10点の外径の平均値をいう。
【0033】
胴部12aは、軸方向の両側が開口したスリーブ状である。胴部12aの平均厚さ(平均外径と平均内径との差)は、外管11bの平均厚さよりも小さいことが好ましい。胴部12aの平均厚さの下限としては、1.0mmが好ましく、1.5mmがより好ましい。一方、上記平均厚さの上限としては、3.0mmが好ましく、2.5mmがより好ましい。上記平均厚さが上記下限に満たないと、胴部12aの強度が不十分となるおそれがある。逆に、上記平均厚さが上記上限を超えると、胴部12aの製造コストが大きくなり、フィン付き管12の交換コストが大きくなるおそれや、胴部12aが重くなり、フィン付き管12の挿抜作業が容易でなくなるおそれがある。
【0034】
胴部12aの主成分としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0035】
(フィン部)
フィン部12bは、例えば胴部12aと同様の材料で胴部12aと一体的に形成されている。フィン部12bは、胴部12aの軸方向に沿って巻回するよう螺旋状に設けられている。当該水素貯蔵装置1は、フィン部12bが上述の螺旋状であることによって、フィン部12bとバインダー19との接触面積を比較的大きくしやすく、ひいてはフィン付き管12からの水素吸蔵合金13の脱落を防止しやすい。また、フィン部12bを螺旋状とすることで、フィン部12bの施工が容易となる。
【0036】
胴部12aの軸方向におけるフィン部12bの平均ピッチPの下限としては、5mmが好ましく、10mmがより好ましい。一方、上記平均ピッチPの上限としては、25mmが好ましく、20mmがより好ましい。上記平均ピッチPが上記下限に満たないと、水素吸蔵合金13の充填量を十分に大きくすることができないおそれがある。逆に、上記平均ピッチPが上記上限を超えると、水素吸蔵合金13の熱交換量が不十分となるおそれや、フィン部12bとバインダー19との接触面積が不十分となり、水素吸蔵合金13をフィン部12b間に十分に保持し難くなるおそれがある。
【0037】
(水素吸蔵合金)
水素吸蔵合金13は、胴部12aの外周面側でフィン部12bの間に充填されている。水素吸蔵合金13は、圧力又は温度を制御することで水素を吸蔵及び放出できる合金である。水素吸蔵合金13としては、公知のものを用いることができ、例えば2元系合金、3元系合金、4元系合金、5元系合金等が挙げられる。
【0038】
上記2元系合金としては、例えばLaNi5等のLaNi系合金、TiFe系合金、MnNi系合金、CaNi系合金、TiMn系合金、TiZr系合金、ZrMn系合金などが挙げられる。
【0039】
上記3元系合金としては、例えばTi25Cr50V25、Ti25Cr25V50、Ti20Cr45V35等のTiCrV系合金、Ti36Cr32Mn32、Ti30Cr35Mn35等のTiCrMn系合金、TiVMo系合金などが挙げられる。
【0040】
上記4元系合金としては、例えばTi30Cr45V10Mo15、Ti25Cr50V20Mo5等のTiCrVMo系合金、Ti25Cr44V25Fe6等のTiCrVFe系合金、Ti25Cr50V20Ni5等のTiCrVNi系合金などが挙げられる。
【0041】
上記5元系合金としては、例えばTi11Cr12V71Mo5Ni1等のTiCrVMoNi合金などが挙げられる。
【0042】
(伝熱シート)
伝熱シート14は多重管11と胴部12aとの間に介在し、多重管11の外周面と胴部12aの内周面とに当接する。この伝熱シート14により、多重管11及びフィン付き管12が接続される。これにより、当該水素貯蔵装置1は、上記熱媒体と水素吸蔵合金13との熱交換を容易かつ確実に行うことができる。伝熱シート14は、多重管11の外周面上で外側に広がろうとすることで、胴部12aの内周面側を押圧する。これにより、伝熱シート14はフィン付き管12を多重管11の外周面側に固定可能に構成されている。また、伝熱シート14は、フィン付き管12の挿抜時等に胴部12aが多重管11と擦れることを抑制する緩衝材としても機能する。つまり、当該水素貯蔵装置1は、伝熱シート14を備えることで、多重管11及び胴部12aの擦れに起因する損傷を抑制し、水素貯蔵モジュール2の伝熱機能を十分に高めることができる。
【0043】
伝熱シート14は、例えばアルミニウムを主成分とする。水素貯蔵モジュール2は、1枚の伝熱シート14からなる単層体が多重管11及び胴部12aの間に介在していてもよく、伝熱シート14が多重に積層された積層体が多重管11及び胴部12aの間に介在してもよい。伝熱シート14は、多重管11の胴部12aとの対向面の全面を被覆することが好ましい。
【0044】
伝熱シート14(シート1枚分)の平均厚さの下限としては、0.05mmが好ましく、0.1mmがより好ましい。一方、上記平均厚さの上限としては、1.0mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。上記平均厚さが上記下限に満たないと、伝熱シート14の強度が不十分となり、フィン付き管12の挿入時等に伝熱シート14が破断するおそれがある。逆に、上記平均厚さが上記上限を超えると、伝熱シート14が不必要に厚くなり、伝熱シート14がフィン付き管12の挿入の妨げとなるおそれがある。
【0045】
図5に示すように、伝熱シート14は、多重管11の外周面を巻回していることが好ましい。これにより、伝熱シート14を多重管11の外周面に隙間なく配置しやすい。
【0046】
伝熱シート14は、例えば矩形状(より詳しくは長方形状)のシートである。伝熱シート14は、例えば長手方向に延びる辺が多重管11の中心軸と平行になるよう配置される。伝熱シート14は、短手方向に沿って外管11bの外周面に巻きまわすことで外管11bの外周面に積層される。この構成によると、伝熱シート14を多重管11の外周面に隙間なく被覆させやすい。その結果、伝熱シート14によって多重管11及び胴部12aを確実に接続しやすい。
【0047】
また、水素貯蔵モジュール2は、伝熱シート14が多重管11の外周面を螺旋状に巻回する構成を採用することも可能である。この構成によると、伝熱シート14の側縁と多重管11の周方向とが平行にならない。そのため、フィン付き管12を周方向に回しながら多重管11に挿抜することが容易となる。
【0048】
伝熱シート14が多重管11の外周面を螺旋状に巻回する場合、伝熱シート14は、その一部分又は全部を重ね合わせながら多重管11の外周面を巻回してもよい。この構成によると、重ね合わせ部分の合計厚さがその他の部分の厚さよりも大きくなるため、この重ね合わせ部分で多重管11と胴部12aとをより確実に接続することができる。
【0049】
(ケーシング)
ケーシング3は、複数の水素貯蔵モジュール2を収容するタンクである。ケーシング3は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼等を主成分として形成される。ケーシング3は、複数の水素貯蔵モジュール2の水素吸蔵合金13に水素を供給可能な水素入口3aと、複数の水素貯蔵モジュール2の水素吸蔵合金13から放出された水素を外部に供給可能な水素出口3bとを有する。水素入口3a及び水素出口3bにはフィルター(不図示)が配置されている。ケーシング3は、例えば複数の多重管11の自由端側(支持部材18によって固定される側)の側壁3cが取り外し可能に構成されている。なお、水素入口3a及び水素出口3bを、1つの開口によって兼ねることも可能である。また、当該水素貯蔵装置1は、後述のように第1保持部材17aが水素ガス雰囲気空間を区画する隔壁として機能する。そのため、ケーシング3は、第1保持部材17aを挟む両側の部分でその機能に応じて強度等を変更してもよい。
【0050】
(流入路)
流入路15は、上述の熱媒体をケーシング3内に導入可能な熱媒体入口15aを有する。流入路15は、熱媒体入口15aから導入された熱媒体を複数の水素貯蔵モジュール2の多重管11の流入口21aから内部空間S1に供給可能に構成されている。
【0051】
(流出路)
流出路16は、上述の熱媒体をケーシング3外に排出可能な熱媒体出口16aを有する。流出路16は、複数の水路貯蔵モジュール2の多重管11の流出口21bから流出された熱媒体をケーシング3外に排出可能に構成されている。
【0052】
(保持部材)
第1保持部材17a及び第2保持部材17bは、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼等を主成分として構成される。第1保持部材17aは、ケーシング3に固定されている。第1保持部材17aは、ケーシング3内において外管11bの一方側の開口が露出される空間と水素ガス雰囲気空間とを区画している。第2保持部材17bは、ケーシング3内において内管11aの一方側の開口が露出される空間と外管11bの一方側の開口が露出する空間とを区画している。
【0053】
(支持部材)
支持部材18は、例えば複数の多重管11の自由端側の端部が挿入される複数の開口を有するパンチングプレートある。支持部材18は、ケーシング3の内面に着脱可能に接続されている。複数の多重管11は、支持部材18をケーシング3から取り外し、支持部材18を多重管11の自由端側の端部から取り外すことで保持部材17等によって片持ち梁状に保持される。
【0054】
<フィン付き管の挿抜手順>
水素貯蔵モジュール2は、例えばケーシング3の側壁3cを取り外し、支持部材18を取り外した状態で、多重管11の外周面に伝熱シート14を巻回したうえ、フィン部12bに水素吸蔵合金13が保持されたフィン付き管12を多重管11の自由端側から挿入することで組み立てられる。このフィン付き管12の挿入によって多重管11とフィン付き管12とが伝熱シート14を介して接続される。水素貯蔵モジュール2の組立後には、支持部材18を取り付けたうえ、ケーシング3の側壁3cを取り付ければよい。なお、水素貯蔵モジュール2は、多重管11にフィン付き管12を挿入した後に、多重管11及びフィン付き管12の間に伝熱シート14を配置することも可能である。
【0055】
一方、水素貯蔵モジュール2からフィン付き管12を取り外す場合、例えばケーシング3の側壁3cを取り外し、支持部材18を取り外した状態で、フィン付き管12を多重管11の自由端側から抜き出せばよい。水素貯蔵モジュール2は、フィン付き管12を多重管11に挿抜することで、ケーシング3に固定された多重管11を取り外しすることなく、水素吸蔵合金13を容易に取り換えることができる。
【0056】
<利点>
当該水素貯蔵モジュール2は、フィン付き管12が伝熱シート14を介して多重管11の外周面側を被覆しており、フィン付き管12が多重管11に挿抜可能に構成されている。当該水素貯蔵モジュール2は、フィン付き管12と多重管11との間に伝熱シート14が配置されるので、多重管11の外周面とフィン付き管12の内周面との間にクリアランスを設けることが可能である。従って、当該水素貯蔵モジュール2は、水素吸蔵合金13が保持されたフィン付き管12を多重管11から容易に抜き出し、かつ新たな水素吸蔵合金13が保持されたフィン付き管12を多重管11に容易に挿し込むことができる。これにより、当該水素貯蔵モジュール2は、水素吸蔵合金13を容易に取り換えることができる。
【0057】
当該水素貯蔵装置1は、当該水素貯蔵モジュール2を備えるので、水素吸蔵合金13を容易に取り換えることができる。
【0058】
当該フィン付き管12は、多重管11に対して容易に挿抜することができるので、水素貯蔵モジュール2の水素吸蔵合金13を容易に取り換えることができる。
【0059】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0060】
例えば上記フィン付き管は複数のフィンによってフィン部が形成されてもよい。この場合、上記複数のフィンは、例えば胴部の軸方向に間隔を空けてフランジ状に設けられてもよく、胴部を軸方向に沿って巻回するよう螺旋状に設けられてもよく、軸方向と平行に延在するよう設けられてもよい。
【0061】
上記伝熱シートは、予め筒状に形成した伝熱シートを多重管の外周面側に挿入してもよく、複数の伝熱シートを用いて多重管の外周面を被覆してもよい。また、上記伝熱シートは、上述のように多重管のフィン付き管(より詳しくはフィン付き管の胴部)との対向面の全面を被覆することが好ましいが、多重管とフィン付き管との間の伝熱性が十分に得られる場合であれば、多重管のフィン付き管との対向面を部分的に被覆してもよい。
【0062】
上記流入路及び流出路は、必ずしもケーシング内に設けられる必要はない。また、上記流入路及び流出路は熱媒体が流れる流路を構成する限り、その具体的構成は特に限定されるものではない。上記流入路及び流出路は、上述のように内管及び外管と接続される保持部材(第1保持部材及び第2保持部材)によって区画される空間によって形成されてもよく、多重管に接続される配管によって形成されてもよい。
【0063】
上記複数の水素貯蔵モジュールの配置は、上述の実施形態の構成に限定されるものではない。例えば当該水素貯蔵装置は、ケーシングの対向する一対の内面側から複数の水素貯蔵モジュールが中央側に突出するよう設けられてもよい。
【0064】
当該水素貯蔵装置は、必ずしも複数の水素貯蔵モジュールを備える必要はなく、1つの水素貯蔵モジュールのみを備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明の水素貯蔵モジュールは、水素吸蔵合金を容易かつ安価に取り換えることができるので、水素貯蔵装置のメンテナンス性能を高めるのに適している。
【符号の説明】
【0066】
1 水素貯蔵装置
2 水素貯蔵モジュール
3 ケーシング
3a 水素入口
3b 水素出口
3c 側壁
11 多重管
11a 内管
11b 外管
12 フィン付き管
12a 胴部
12b フィン部
13 水素吸蔵合金
14 伝熱シート
15 流入路
15a 熱媒体入口
16 流出路
16a 熱媒体出口
17a 第1保持部材
17b 第2保持部材
18 支持部材
19 バインダー
21a 流入口
21b 流出口
P ピッチ
S1 内部空間
S2 隙間領域
D1 多重管外管の外径
D2 フィン付き管胴部の内径