(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】異種金属接合体の製造方法及び異種金属接合体
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20220809BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20220809BHJP
B23K 10/02 20060101ALI20220809BHJP
B23K 26/323 20140101ALI20220809BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/02 D
B23K9/02 S
B23K10/02 A
B23K26/323
(21)【出願番号】P 2019133128
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 励一
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭兵
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/103376(WO,A1)
【文献】特開2006-116599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/23
B23K 9/02
B23K 10/02
B23K 26/323
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非鉄金属からなり、端面と該端面に隣接する第1面とを有する第1部材と、鋼製の第2部材と、を接合する異種金属接合体の製造方法であって、
前記第1部材における前記端面及び前記第1面に、前記第2部材と接合可能な金属粉末を低温かつ高速噴射することにより、前記端面及び前記第1面にまたがるように皮膜を形成する工程と、
前記皮膜と前記第2部材とが近接するように前記第1部材と前記第2部材とを配置する工程と、
前記皮膜及び前記第2部材間ですみ肉溶接を行う工程と、を有する異種金属接合体の製造方法。
【請求項2】
前記すみ肉溶接は、前記皮膜と前記第2部材のみを溶融させる、請求項1に記載の異種金属接合体の製造方法。
【請求項3】
前記すみ肉溶接は、溶接材料を用いたMAG溶接若しくはMIG溶接、又はTIG溶接、プラズマ溶接若しくはレーザ溶接である、請求項1又は2に記載の異種金属接合体の製造方法。
【請求項4】
前記すみ肉溶接は、重ねすみ肉溶接、T字すみ肉溶接、又は円周すみ肉溶接のいずれかである、請求項1~3のいずれか1項に記載の異種金属接合体の製造方法。
【請求項5】
前記重ねすみ肉溶接は、板状の前記第1部材を上板、前記第2部材を下材とし、
前記上板の端面から前記上板の第1面となる上面にまたがるように前記皮膜を形成し、前記皮膜と前記下材とを溶接するものである、請求項4に記載の異種金属接合体の製造方法。
【請求項6】
前記T字すみ肉溶接は、板状の前記第1部材を立板、前記第2部材を下材とし、
前記立板における前記下材上面に対向する端面から、前記端面に隣接する第1面にまたがるように前記皮膜を形成し、前記第1面側から前記皮膜と前記下材とを溶接する片側すみ肉溶接である、請求項4に記載の異種金属接合体の製造方法。
【請求項7】
前記T字すみ肉溶接は、板状の前記第1部材を立板、前記第2部材を下材とし、
前記立板における前記下材上面に対向する端面から、前記端面にそれぞれ隣接し、互いに対向する前記第1面及
び第2面にまたがるように前記皮膜を形成し、前記第1面側及び前記第2面側のそれぞれから前記皮膜と前記下材とを溶接する両側すみ肉溶接である、請求項4に記載の異種金属接合体の製造方法。
【請求項8】
前記溶接材料は、鋼合金又はニッケル合金のいずれかである、請求項3に記載の異種金属接合体の製造方法。
【請求項9】
前記金属粉末は、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、及びフェライト系とオーステナイト系との2相ステンレス鋼、純鉄、炭素鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の異種金属接合体の製造方法。
【請求項10】
前記皮膜の膜厚が0.5mm以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の異種金属接合体の製造方法。
【請求項11】
非鉄金属からなり、端面と該端面に隣接する第1面とを有する第1部材と、鋼製の第2部材と、が接合された異種金属接合体であって、
前記第1部材と、
前記第1部材における前記端面及び前記第1面に、前記第2部材と接合可能な金属粉末が低温かつ高速噴射されることにより前記端面及び前記第1面にまたがる領域に形成された皮膜と、
前記皮膜が近接するように配置された
前記第2部材と、
前記皮膜と前記第2部材との間に形成されたすみ肉溶接部と、を有する異種金属接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属接合体の製造方法及び異種金属接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の分野においては、CO2排出量の削減を目的とした車体軽量化や衝突安全性強化を実現するため、ボディ骨格等に高張力鋼板(High Tensile Strength Steel:HTSS)が適用されている。
【0003】
また、更なる車体軽量化を目的として、軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金材のような非鉄金属と、鋼材とを接合した異種金属接合材についても需要が高くなっている。異種金属を接合する方法として、一般的には、釘又はネジ等で接合する方法、及びSPR(Self-Pierce Riveting)又はFDS(Flow Drilling Screw;登録商標)を利用して接合する方法がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、アルミニウム製のルーフパネルのフランジ部とスチール製のボデーサイドパネルのフランジ部との接合方法として、フランジ部の端縁近傍に円形閉ループ状の軌跡をもって接着剤を連続的に塗布した接着剤層をあらかじめ形成し、SPRで接合する異種金属パネルの接合構造が開示されている。
【0005】
しかしながら、釘、ネジ又はリベットを用いる方法では、釘及びネジが比較的高価であるか、又はリベットを作成するための工程が必要となるため、接合材の製造コストが高くなるとともに、釘、ネジ及びリベットの重量分だけ、得られる接合材が重くなるという問題がある。また、上記特許文献1に記載の接合方法を採用しようとすると、接合に用いる装置等を完全に入れ替えて新規設備とする必要があり、製造コストが大幅に上昇する。
【0006】
一方、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とを一般的な方法で直接溶接すると、接合界面に脆弱な金属間化合物が形成され、良好な強度を得ることができない。例えば、溶接材料(フィラー)としてフッ化物が含有されたフラックス入りワイヤを用いてMIG(Metal Inert Gas)溶接する方法についても検討されているが、溶接材料に種々の工夫を施しても、接合安定性が欠如するか、又は、接合されたとしても接合強度が極めて低いものとなる。
【0007】
また、溶接によって異種金属を接合する方法として、例えば特許文献2には、鋼母材に、アルミニウムあるいはアルミニウム合金を溶射により付着させて溶射皮膜を形成したのちに、溶射皮膜と鋼母材とを対置し、溶接によりアルミニウム合金溶接ビードを形成することで両者を溶接する方法が開示されている。さらに、特許文献3には、鋼からなる第1基材の表面に、コールドスプレー法によりアルミニウム又はアルミニウム合金皮膜を形成し、この皮膜とアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2基材とを対向させて溶接する接合方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-321880号公報
【文献】特開昭54-28744号公報
【文献】特開2013-188780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2や特許文献3に記載の接合方法では、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる皮膜と鋼からなる母材との接合強度が十分ではなく、その結果、溶接により接合された継手についても、所望の強度を得ることができないという問題点がある。
特に、異種金属同士をすみ肉溶接により溶接する場合にあっては、接合面を大きく確保するのが困難であることから、より高い接合強度を得ることが求められる。そこで、鋼材と、非鉄金属からなる部材との接合において、すみ肉溶接の場合であっても高い強度を得ることができる接合技術が求められている。
【0010】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、新規設備が不要であって製造コストの上昇を抑制することができるとともに、すみ肉溶接の場合であっても、非鉄金属からなる部材と鋼製の部材とを高い接合強度で接合することができる異種金属接合体の製造方法及び異種金属接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明の上記目的は、異種金属接合体の製造方法に係る下記(1)の構成により達成される。
【0012】
(1) 非鉄金属からなり、端面と該端面に隣接する第1面とを有する第1部材と、鋼製の第2部材と、を接合する異種金属接合体の製造方法であって、
前記第1部材における前記端面及び前記第1面に、前記第2部材と接合可能な金属粉末を低温かつ高速噴射することにより、前記端面及び前記第1面にまたがるように皮膜を形成する工程と、
前記皮膜と前記第2部材とが近接するように前記第1部材と前記第2部材とを配置する工程と、
前記皮膜及び前記第2部材間ですみ肉溶接を行う工程と、を有する異種金属接合体の製造方法。
【0013】
また、異種金属接合体の製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、下記(2)~(10)の構成に関する。
【0014】
(2) 前記すみ肉溶接は、前記皮膜と前記第2部材のみを溶融させる、(1)に記載の異種金属接合体の製造方法。
(3) 前記すみ肉溶接は、溶接材料を用いたMAG溶接若しくはMIG溶接、又はTIG溶接、プラズマ溶接若しくはレーザ溶接である、(1)又は(2)に記載の異種金属接合体の製造方法。
(4) 前記すみ肉溶接は、重ねすみ肉溶接、T字すみ肉溶接、又は円周すみ肉溶接のいずれかである、(1)~(3)のいずれか1つに記載の異種金属接合体の製造方法。
(5) 前記重ねすみ肉溶接は、板状の前記第1部材を上板、前記第2部材を下材とし、
前記上板の端面から前記上板の第1面となる上面にまたがるように前記皮膜を形成し、前記皮膜と前記下材とを溶接するものである、(4)に記載の異種金属接合体の製造方法。
(6) 前記T字すみ肉溶接は、板状の前記第1部材を立板、前記第2部材を下材とし、
前記立板における前記下材上面に対向する端面から、前記端面に隣接する第1面にまたがるように前記皮膜を形成し、前記第1面側から前記皮膜と前記下材とを溶接する片側すみ肉溶接である、(4)に記載の異種金属接合体の製造方法。
(7) 前記T字すみ肉溶接は、板状の前記第1部材を立板、前記第2部材を下材とし、
前記立板における前記下材上面に対向する端面から、前記端面にそれぞれ隣接し、互いに対向する前記第1面及び第2面にまたがるように前記皮膜を形成し、前記第1面側及び前記第2面側のそれぞれから前記皮膜と前記下材とを溶接する両側すみ肉溶接である、(4)に記載の異種金属接合体の製造方法。
(8) 前記溶接材料は、鋼合金又はニッケル合金のいずれかである、(3)に記載の異種金属接合体の製造方法。
(9) 前記金属粉末は、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、及びフェライト系とオーステナイト系との2相ステンレス鋼、純鉄、炭素鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種を含む、(1)~(8)のいずれか1つに記載の異種金属接合体の製造方法。
(10) 前記皮膜の膜厚が0.5mm以上である、(1)~(9)のいずれか1つに記載の異種金属接合体の製造方法。
【0015】
また、本発明の上記目的は、異種金属接合体に係る下記(11)の構成により達成される。
(11) 非鉄金属からなり、端面と該端面に隣接する第1面とを有する第1部材と、鋼製の第2部材と、が接合された異種金属接合体あって、
前記第1部材と、
前記第1部材における前記端面及び前記第1面に、前記第2部材と接合可能な金属粉末が低温かつ高速噴射されることにより前記端面及び前記第1面にまたがる領域に形成された皮膜と、
前記皮膜が近接するように配置された前記鋼製の第2部材と、
前記皮膜と前記第2部材との間に形成されたすみ肉溶接部と、を有する異種金属接合体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の異種金属接合体の製造方法によれば、新規設備が不要であって製造コストの上昇を抑制することができるとともに、すみ肉溶接の場合であっても、非鉄金属からなる部材と鋼からなる部材とを高い接合強度で接合可能な異種金属接合体の製造方法を提供することができる。また、本発明の異種金属接合体は、高い接合強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、本発明の第1の実施形態に係る異種金属接合体を示す上面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の第1の実施形態に係る異種金属接合体を示す
図1AにおけるL-L断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の第2の実施形態に係る異種金属接合体を示す上面図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の第2の実施形態に係る異種金属接合体を示す
図2AにおけるM-M断面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の第3の実施形態に係る異種金属接合体を示す上面図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の第3の実施形態に係る異種金属接合体を示す
図3AにおけるN-N断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第4の実施形態に係る異種金属接合体を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の第5の実施形態に係る異種金属接合体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る異種金属接合体及びその製造方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0019】
本発明者らは、非鉄金属からなる部材と、鋼製の部材との異種金属を接合するにあたり、従来の設備を用いることができ、すみ肉溶接の場合であっても、高い接合強度を得ることが可能な異種金属接合体を得る方法について鋭意検討を重ねた。その結果、非鉄金属からなる部材の表面の少なくとも一部に、鋼製の部材と接合可能な金属粉末を低温かつ高速で噴射して皮膜を形成し、この皮膜と鋼製の部材とをすみ肉溶接することにより、高い接合強度を有する異種金属接合体が得られることを見出した。
【0020】
例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金板の表面に、純鉄等の粉末を低温かつ高速噴射して金属皮膜を形成すると、アルミニウム又はアルミニウム合金板と、純鉄製の皮膜とは、高強度の機械的な結合が得られるため、その後の鋼材との溶接により、接合強度の高い異種金属接合体が得られることが分かった。
【0021】
すなわち、本発明に係る異種金属接合体の製造方法は、非鉄金属からなり、端面と該端面に隣接する第1面とを有する第1部材と、鋼製の第2部材と、を接合する異種金属接合体の製造方法であって、第1部材における端面及び第1面に、第2部材と接合可能な金属粉末を低温かつ高速噴射することにより、端面及び第1面にまたがるように皮膜を形成する工程と、皮膜と第2部材とが近接するように第1部材と第2部材とを配置する工程と、皮膜及び第2部材間ですみ肉溶接を行う工程と、を有する。
【0022】
また、本発明に係る異種金属接合体は、非鉄金属からなり、端面と該端面に隣接する第1面とを有する第1部材と、第1部材における端面及び第1面に、第2部材と接合可能な金属粉末が低温かつ高速噴射されることにより端面及び1面にまたがる領域に形成された皮膜と、皮膜が近接するように配置された鋼製の第2部材と、皮膜と第2部材との間に形成されたすみ肉溶接部と、を有する。
【0023】
以下、本発明に係る異種金属接合体の製造方法及び異種金属接合体について、具体的な実施形態を挙げて、より詳細に説明する。
【0024】
<第1の実施形態:重ねすみ肉溶接>
本発明の第1の実施形態について説明する。第1の実施形態は、重ねすみ肉溶接の場合である。
図1Aは、本発明の第1の実施形態に係る異種金属接合体を示す上面図であり、
図1Bは、
図1AにおけるL-L断面図である。
図1A及び
図1Bに示すように、アルミニウム合金板(第1部材)1の端面1aから、この端面1aに隣り合う面、すなわち上面(第1面)1bにまたがるように、純鉄製の金属粉末が低温かつ高速噴射されることにより得られる、純鉄製の皮膜2が形成されている。
そして、鋼板(第2部材)3上には、その上面3aと皮膜2とが隣接するようにアルミニウム合金板1が配置されており、皮膜2と鋼板3とからなる隅部に鋼製溶接金属(すみ肉溶接部)4が形成されている。
【0025】
第1の実施形態に係る異種金属接合体の製造方法について、詳細に説明する。まず、アルミニウム合金板(第1部材)1の端面1aと上面(第1面)1bとの連続する領域に、純鉄からなる金属粉末を低温かつ高速で噴射して、皮膜2を形成する。次いで、鋼板(第2部材)3上にアルミニウム合金板1を重ねて配置する。このとき、鋼板3の上面3aに対してアルミニウム合金板1の端面1aが略垂直となり、皮膜2と鋼板3とが隣接するように配置される。その後、皮膜2と鋼板3との間の隅部に対して、鋼製の溶接材料を用いたアーク溶接を実施し、皮膜2、鋼板3及び溶接材料が溶融した鋼製溶接金属4を形成することにより、鋼板3とアルミニウム合金板1とが接合された異種金属接合体を製造することができる。
【0026】
純鉄からなる金属粉末を低温かつ高速噴射して皮膜2を形成する方法としては、コールドスプレー法が好適である。コールドスプレー法とは、ガスと金属粉末とを音速以上の高速で対象物に吹きつけることにより皮膜2を形成する方法である。この方法は、作動ガスが比較的低温であるため(例えば、鉄粒子融点以下である900℃以下)、純鉄等の相対的に高融点な金属粉末とアルミニウム合金板1は溶融し合うことがなく、純鉄からなる金属粉末は、その速度エネルギーによってアルミニウム合金板1に食い込み、ミクロ的な機械的締結状態となる。
【0027】
したがって、金属間化合物が生成せず、また、脆い相ができないことから、結果として、アルミニウム合金板1の一部に強固な純鉄の皮膜2が形成される。なお、後述するように、コールドスプレー法では、使用するガス種、圧力、温度、金属粉末の粒子径等を適宜選択して実施することができる。
【0028】
アルミニウム合金板1の表面に鋼材と接合可能な材料からなる皮膜2を形成する方法としては、上記コールドスプレー法以外に、プラズマ溶射やアーク溶射などその他の溶射方法が考えられる。しかし、これらは作動ガス温度が高く(例えば、鉄粒子の融点以上である2000℃以上)、鉄粒子及びアルミニウム合金板1の融点を超えて液状となるため、化学反応によって金属間化合物が生成し、脆い皮膜しか形成できないことから、コールドスプレー法を用いることが好ましい。また、皮膜2は、アルミニウム合金板1における端面1aと上面1bとの全域にわたって形成する必要はなく、鋼製溶接金属4を形成する端面1aと上面1bにおける少なくとも一部の領域に形成すればよい。
【0029】
このように製造された第1の実施形態に係る異種金属接合体においては、アルミニウム合金板1の表面に、純鉄の粉末を高速で噴射して皮膜2を形成するため、アルミニウム合金板1の表面には微細な凹凸が形成される。したがって、純鉄からなる皮膜2とアルミニウム合金板1とは、アンカー効果によって機械的に締結されることにより、強固に結合される。また、皮膜2と鋼板3とは一般的なアーク溶接により強固に接合されるため、鋼板3とアルミニウム合金板1との異種金属同士を、間接的に高い接合強度で接合することができる。
【0030】
すなわち、上記第1の実施形態に係る異種金属接合体の製造方法は、鋼製溶接金属4だけに着目すれば、異種金属接合同士の接合ではなく、鋼板3と純鉄からなる皮膜2との同種金属同士の接合となる。
【0031】
なお、純鉄の粉末はアルミニウム合金板1の表面と比較して硬質であるため、アルミニウム合金板1の表面に純鉄の粉末を高速で噴射した場合に、粉末の形状が潰れず、球状を保ったままアルミニウム合金板1にめり込む。また、純鉄はアルミニウム合金と比較して高密度であって重いため、鋼材にアルミニウム又はアルミニウム合金粉末を噴射して皮膜を形成する場合と比較して、粉末が母材に衝突したときの運動エネルギーが大きいものとなり、アルミニウム合金板1により深くめり込む。従って、強いアンカー効果を得ることができる。
【0032】
また、第1の実施形態では、鋼製の溶接材料を用いたアーク溶接を実施し、鋼製溶接金属4を形成しているため、アルミニウム合金の溶接ビードを形成する従来の溶接方法と比較して、継ぎ手の強度を高めることができるとともに、溶接材料に関するコストを低減することができる。
【0033】
また、第1の実施形態においては、アルミニウム合金板1の端面1aから上面1bにまたがるように皮膜2を形成しているため、端面1aのみに皮膜2を形成する場合と比較して、アルミニウム合金板1と皮膜2との機械的な締結力を高めることができ、結果として、アルミニウム合金板1と皮膜2との接合強度を著しく向上させることができる。よって、本実施形態のような、接合面を大きく確保するのが困難なすみ肉溶接の場合であっても、異種金属間で高い接合強度を得ることができる。
【0034】
<第2の実施形態:T字すみ肉溶接(片面)>
本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、T字すみ肉溶接(片面)の場合である。
図2Aは、本発明の第2の実施形態に係る異種金属接合体を示す上面図であり、
図2Bは、
図2AにおけるM-M断面図である。第2の実施形態は、アルミニウム合金板(第1部材)11を立板、鋼板(第2部材)13を下板(下材)として、T字となるように配置されて溶接された接合体である。
図2A及び
図2Bに示すように、アルミニウム合金板11の端面11aから、この端面11aに隣接する一方の面(第1面)11bにまたがるように、純鉄製の金属粉末が低温かつ高速噴射されることにより得られる、純鉄製の皮膜12が形成されている。
また、アルミニウム合金板11の端面11aが鋼板13の上面13aに対向するように配置されている。すなわち、鋼板13上には、その上面13aと皮膜12とが近接するようにアルミニウム合金板11が配置されており、皮膜12と鋼板13とからなる隅部に鋼製溶接金属(すみ肉溶接部)14が形成されている。
【0035】
第2の実施形態に係る異種金属接合体の製造方法について、詳細に説明する。まず、アルミニウム合金板(第1部材)11の端面11aと、この端面11aに隣接する一方の面(第1面)11bとの連続する領域に、純鉄からなる金属粉末を低温かつ高速で噴射して、皮膜12を形成する。次いで、アルミニウム合金板11の端面11aが鋼板13の上面13aに対向するように、アルミニウム合金板11を配置する。このとき、鋼板13の上面13aに対してアルミニウム合金板11の一方の面11bが略垂直となり、皮膜12と鋼板13とが近接するように配置される。その後、一方の面11b側から、皮膜12と鋼板13との間の隅部に対して、鋼製溶接材料を用いたアーク溶接を実施し、皮膜12、鋼板13及び溶接材料が溶融した鋼製溶接金属14を形成することにより、鋼板13とアルミニウム合金板11とが接合された異種金属接合体を製造することができる。
【0036】
アルミニウム合金板11の表面に純鉄からなる金属粉末を低温かつ高速噴射して、皮膜12を形成する方法は、第1の実施形態と同様であり、純鉄からなる金属粉末は、その速度エネルギーによってアルミニウム合金板11に食い込み、強いミクロ的な機械的締結状態を得ることができる。したがって、金属間化合物が生成せず、また、脆い相ができないことから、結果として、アルミニウム合金板11の一部に強固な純鉄の皮膜12が形成される。
また、皮膜12と鋼板13とは一般的なアーク溶接により強固に接合され、高強度の鋼製溶接材料14を形成するので、鋼板13とアルミニウム合金板11との異種金属を高い接合強度で接合することができる。
【0037】
また、第2の実施形態においても、アルミニウム合金板11の端面11aから一方の面11bにまたがるように皮膜12を形成しているため、端面11a又は一方の面11bのみに皮膜12を形成する場合と比較して、アルミニウム合金板11と皮膜12との機械的な締結力を高めることができ、結果として、アルミニウム合金板11と皮膜12との接合強度を著しく向上させることができる。よって、本実施形態のような、接合面を大きく確保するのが困難なすみ肉溶接の場合であっても、異種金属間で高い接合強度を得ることができる。
なお、第1の実施形態と同様に、上記皮膜12は、アルミニウム合金板11における端面11aと一方の面11bとの全域にわたって形成する必要はなく、鋼製溶接金属14を形成する端面11aと一方の面11bにおける少なくとも一部の領域に形成すればよい。
【0038】
<第3の実施形態:T字すみ肉溶接(両面)>
本発明の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態は、T字すみ肉溶接(両面)の場合である。
図3Aは、本発明の第3の実施形態に係る異種金属接合体を示す上面図であり、
図3Bは、
図3AにおけるN-N断面図である。第3の実施形態も第2の実施形態と同様に、アルミニウム合金板(第1部材)21を立板、鋼板(第2部材)23を下板(下材)として、T字となるように溶接された接合体である。ただし、第3の実施形態は、アルミニウム合金板21の両面側に鋼製溶接金属24a及び24bが形成されている例である。
図3A及び
図3Bに示すように、アルミニウム合金板21の端面21aから、この端面21aにそれぞれ隣接し、互いに対向する両方の面(すなわち、一方の面(第1面)21b及び一方の面に対向する他方の面(第2面)21c)にまたがるように、純鉄製の金属粉末が低温かつ高速噴射されることにより得られる、純鉄製の皮膜22が形成されている。
そして、アルミニウム合金板21は、その端面21aが鋼板23の上面23aに対向するように配置されている。すなわち、鋼板23上には、その上面23aと皮膜22とが近接するようにアルミニウム合金板21が配置されている。また、アルミニウム合金板21の一方の面21b側において、皮膜22と鋼板23とからなる隅部に鋼製溶接金属(すみ肉溶接部)24aが形成されているとともに、他方の面21c側において、皮膜22と鋼板23とからなる隅部に鋼製溶接金属(すみ肉溶接部)24bが形成されている。
【0039】
第3の実施形態に係る異種金属接合体の製造方法について、詳細に説明する。まず、アルミニウム合金板(第1部材)21の端面21aと、この端面21aに隣り合う一方の面(第1面)21bと、端面21aに隣り合う他方の面(第2面)21cとの連続する領域に、純鉄からなる金属粉末を低温かつ高速で噴射して、皮膜22を形成する。次いで、アルミニウム合金板21の端面21aが鋼板23の上面23aに対向するように、アルミニウム合金板21を配置する。このとき、鋼板23の上面23aに対してアルミニウム合金板21の一方の面21b及び他方の面21cが略垂直となり、皮膜22と鋼板23とが近接するように配置される。その後、皮膜22と鋼板23との間の隅部に対して、一方の面21b側から、鋼製溶接材料を用いたアーク溶接を実施し、皮膜22、鋼板23及び鋼製溶接材料が溶融した鋼製溶接金属24aを形成する。その後同様にして、皮膜22と鋼板23との間の隅部に対して、他方の面21c側から、鋼製溶接材料を用いたアーク溶接を実施し、鋼製溶接金属24bを形成する。これにより、鋼板23とアルミニウム合金板21とが接合された異種金属接合体を製造することができる。
【0040】
なお、アルミニウム合金板21の表面に純鉄からなる金属粉末を低温かつ高速噴射して、皮膜22を形成する方法は、第1の実施形態と同様であり、純鉄からなる金属粉末は、その速度エネルギーによってアルミニウム合金板21に食い込み、強いミクロ的な機械的締結状態を得ることができる。したがって、金属間化合物が生成せず、また、脆い相ができないことから、結果として、アルミニウム合金板21の一部に強固な純鉄の皮膜22が形成される。
また、皮膜22と鋼板23とは一般的なアーク溶接により強固に接合され、高強度の鋼製溶接材料24a及び24bを形成するので、鋼板23とアルミニウム合金板21との異種金属を高い接合強度で接合することができる。
【0041】
また、第3の実施形態においても、アルミニウム合金板21の端面21aから一方の面21b及び他方の面21cにまたがるように皮膜22を形成しているため、端面21a、一方の面21b、他方の面21cに部分的に皮膜22を形成する場合と比較して、アルミニウム合金板21と皮膜22との機械的な締結力を高めることができ、結果として、アルミニウム合金板21と皮膜22との接合強度を著しく向上させることができる。よって、本実施形態のような、接合面を大きく確保するのが困難なすみ肉溶接の場合であっても、異種金属間で高い接合強度を得ることができる。
なお、第1の実施形態と同様に、上記皮膜22は、アルミニウム合金板21における端面21aと一方の面21b及び他方の面21cとの全域にわたって形成する必要はなく、鋼製溶接金属24を形成する端面21aと一方の面21b及び他方の面21cにおける少なくとも一部の領域に形成すればよい。
【0042】
<第4の実施形態:重ねすみ肉溶接の変形例>
なお、本発明においては、板材だけでなく、自動車等の分野で多用される押出材や鋳造材、鍛造材であっても問題なく使用することができる。
図4は、本発明の第4の実施形態に係る異種金属接合体を示す斜視図である。第4の実施形態は、
図1A及び
図1Bに示す重ねすみ肉溶接の変形例である。
【0043】
図4に示すように、第4の実施形態は、アルミニウム合金製の角パイプ(第1部材)31と鋼製の角パイプ(第2部材)33との異種金属接合体を示している。すなわち、角パイプ31の端面31a及びこの端面31aに隣接する第1面31bにまたがるように皮膜32を形成し、皮膜32と角パイプ33とをすみ肉溶接して鋼製溶接金属34を形成することにより、異種金属接合体を得ることができる。なお、皮膜32の形成方法及び皮膜32と角パイプ33とのすみ肉溶接方法は、
図1A及び
図1Bに示す第1の実施形態と同様であり、同様の効果を得ることができる。
【0044】
<第5の実施形態:重ねすみ肉溶接の他の変形例>
図5は、本発明の第5の実施形態に係る異種金属接合体を示す斜視図である。第5の実施形態は、第4の実施形態と同様、
図1A及び
図1Bに示す重ねすみ肉溶接の他の変形例である。
【0045】
図5に示すように、第5の実施形態は、対向する2枚の板状部と、これら2枚の板状部の中央を長手方向に連結する連結部とを有し、断面がH型のアルミニウム合金製H型部材(第1部材)41と、これと同様のH型断面形状を有する鋼製H型部材(第2部材)43との異種金属接合体を示している。すなわち、アルミニウム合金製H型部材41の板状部の端面41aから、この端面41aに隣接する第1面41bにまたがるように皮膜42を形成し、鋼製H型部材43の板状部の上にアルミニウム合金製H型部材41の板状部を重ねて配置した後、皮膜42と鋼製H型部材43の板状部とをすみ肉溶接して鋼製溶接金属44を形成することにより、異種金属接合体を得ることができる。なお、皮膜42の形成方法及び皮膜42と鋼製H型部材43とのすみ肉溶接方法は、
図1A及び
図1Bに示す第1の実施形態と同様であり、同様の効果を得ることができる。
【0046】
以上、第1~第5の各実施形態について詳細に説明したが、これらの実施形態に係る異種金属接合体の製造方法では、アルミニウム合金板への熱影響をより最小限に抑えるためには、皮膜及び鋼板(第2部材)のみを溶融させるように、適切な溶接条件を選択することが好ましい。
【0047】
<各構成要素の説明>
続いて、上述の第1~第5の実施形態に係る製造方法において、皮膜、その材料となる金属粉末、非鉄金属からなる第1部材、鋼製の第2部材、及び溶接方法について、以下に詳細に説明する。
【0048】
(金属粉末の金属種)
皮膜と鋼板とをアーク溶接により接合するためには、皮膜の材料として、鋼板と所望の接合強度で溶接することができるとともに、溶接により得られる溶接金属の特性が良好となる金属材料を選択することが重要である。
【0049】
上述の実施形態では、純鉄からなる金属粉末を使用して皮膜を形成した例を記載したが、金属粉末の種類は純鉄に限定されず、例えば、鋼板との間で良好な接合継手を容易に溶接することができるステンレス鋼(SUS)を選択することができる。
特に、種々のステンレス鋼のうち、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、及びフェライト系とオーステナイト系との2相ステンレス鋼は、マルテンサイト系ステンレス鋼に比べ耐食性に優れるため、腐食環境に晒される自動車の材料として適している。よって、コールドスプレーに用いる金属粉末としては、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、及びフェライト系とオーステナイト系との2相ステンレス鋼から選択された少なくとも1種の金属からなる粉末を使用することができる。
【0050】
一方、金属粉末として、例えば、CrやNiなど焼入れ元素が多量に添加されたステンレス鋼を使用すると、鋼板が高張力鋼板やホットスタンプ材である場合に、母材希釈を受けた溶接金属の全て、もしくは一部がマルテンサイト変態し、硬度が高くなりすぎて、接合強度(継手強度)が低下したり、割れが発生したりするおそれがある。このような場合には、コールドスプレーに用いる金属粉末として、純鉄、炭素鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属を含む粉末を使用することができる。
【0051】
なお、本明細書において、純鉄とは、工業用として容易に入手が可能であり、純度が99.9質量%以上のものを表す。また、炭素鋼とは、鉄と炭素を主成分とし、ケイ素、マンガン、不純物リン、硫黄及び銅等を微量に含む鉄鋼材料を表す。なお、ニッケル合金としては、通称インコネル合金、インコロイ合金、ハステロイ合金と呼ばれるNiを主成分として、Mo、Fe、Co、Cr及びMn等を適当量添加した合金を用いることができる。
【0052】
(金属粉末の粒子径及び形状)
皮膜の材料となる金属粉末の粒子径については特に限定されないが、コールドスプレーのガス圧を1MPa以下の低圧条件とした場合には、例えば20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
一方、ガス圧を1MPa~5MPaの高圧条件とした場合には、例えば50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
金属粉末の粒子形状についても特に限定されないが、流動性の観点から球状であることが好ましい。
【0053】
(作動ガスの種類)
コールドスプレーにおいて使用するガスについては特に限定されないが、一般的には、空気、窒素、ヘリウム又はそれらの混合ガスを用いて行われる。一方、皮膜が酸化すると、溶接性に悪影響を及ぼすおそれがあるため、ガス種として窒素やヘリウムを用いるのが好ましい。
【0054】
(作動ガスの温度)
上述の通り、皮膜の基材としてアルミニウム又はアルミニウム合金材を用いた場合、コールドスプレーにおいて使用するガスの温度が高いと、金属粉末が溶融し、アルミニウム又はアルミニウム合金材と化学反応を起こして金属間化合物を生成するおそれがある。よって、作動ガスの温度は、コールドスプレーに用いられる金属粉末の融点よりも低い温度とすることが好ましい。なお、本実施形態に係る異種金属接合体を得るにあたっては、例えば、室温(20℃)~500℃とすることが好ましい。
【0055】
(皮膜の膜厚)
コールドスプレーにより形成する皮膜の膜厚が0.5mm未満であると、皮膜及び鋼板のみを溶融させるような溶接条件を適宜選択したとしても、アークの狙い位置のバラつきの影響により、皮膜2及び鋼板3のみを溶融させることが困難となる場合があるため、ロバスト性が低くなる。
そこで、皮膜2の膜厚を0.5mm以上とすることにより、アークの狙い位置のバラつきに柔軟に対応することができるため、厳しい条件設定が不要となる。よって、皮膜2の膜厚は0.5mm以上であることが好ましく、0.9mm以上であることがより好ましい。
一方、皮膜2の膜厚が3mmを超えると、成膜時間が長くなり、製造コストアップとなるおそれがある。したがって、皮膜2の膜厚は3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。
【0056】
(非鉄金属からなる第1部材)
上記実施形態では、第1部材としてアルミニウム合金材を使用したが、本発明は非鉄金属からなる部材であれば特に限定されず、例えば、マグネシウム又はマグネシウム合金材、銅または銅合金材等を使用することができる。例えば、本発明を自動車等に用いる部材に適用する場合には、強度の観点から、2000系、5000系、6000系及び7000系等のアルミニウム合金材を用いることが好ましい。なお、上述の第4及び第5の実施形態に示すように、本発明においては、板材だけでなく、自動車等の分野で多用される押出材や鋳造材、鍛造材であっても問題なく使用することができる。
【0057】
(鋼製の第2部材)
鋼製の第2部材としては、一般的に鉄鋼と呼ばれる金属からなる部材であれば、特に限定されない。ただし、近年、自動車のボディ骨格等に用いられる鋼板としては、車体軽量化や衝突安全性強化を目的として高張力鋼材(ハイテン材)等が多用されている。鋼-アルミの異種金属接合法として普及している機械的接合法では、引張強度が980MPa以上の鋼板に適用することが困難である。よって、引張強度が980MPa以上の高張力鋼板において、本発明は特に有効である。
【0058】
(溶接方法)
上記実施形態では、アーク溶接により皮膜と鋼材とを接合したが、本発明では、溶接方法はアーク溶接に限定されず、レーザ溶接などを用いてもよい。なお、アーク溶接としても、溶接材料を用いたMAG溶接若しくはMIG溶接、又はTIG溶接若しくはプラズマ溶接などを適宜用いることができる。なお、TIG溶接及びプラズマ溶接については、溶接材料を用いる溶接方法と、溶接材料を用いない溶接方法があるが、本実施形態においては、いずれの溶接方法も適用することができる。
TIG溶接、プラズマアーク溶接及びレーザ溶接において溶接材料を用いると、第1部材と第2部材との間に不可避的にギャップが生じた場合であっても、溶接材料によりギャップを埋めることができる。したがって、上述の第1~第5の実施形態においては、皮膜と第2部材とが隣接する(すなわち、これら部材が接触している状態)ように第1部材と第2部材とを配置したが、本実施形態では両者を必ずしも隣接する位置となるように配置する必要はない。すなわち、皮膜と第2部材とは近接(すなわち、これら部材が接触している状態、又は僅かに離間している状態)していればよく、溶接材料で埋めることができるような間隔であれば、ギャップを有していてもよい。
また、アーク溶接は、最も普及している金属溶接接合方法であるため、アーク溶接を利用する場合は新規設備等が不要であり、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0059】
更に、レーザ溶接を用いる際は、非鉄金属からなる第1部材、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金材への熱影響を最小限に抑え、皮膜及び鋼材(第2部材)のみを溶融させるよう、適切な溶接条件を選択することが好ましい。これにより、アルミニウム又はアルミニウム合金材の溶融を抑制することができるため、接合強度の低下を防止して良好な異種金属接合体を得ることができる。なお、レーザ溶接条件としては、熱源、出力、溶接速度、溶接部の直径、及び皮膜と鋼材との間隔等を適宜選択することができる。
【0060】
アーク溶接及びレーザ溶接に用いられる溶接材料としては、鋼合金又はニッケル合金が適用される。鋼合金の溶接材料としては、例えば、JIS Z3312,AWS E7.18がある。
【符号の説明】
【0061】
1、11、21 アルミニウム合金板
1a、11a、21a、31a、41a 端面
1b、3a、13a、23a 上面
2、12、22、32、42 皮膜
3、13、23 鋼板
4、14、24a、24b、34、44 鋼製溶接金属
11b、21b 一方の面
21c 他方の面(第2面)
31、33 角パイプ
31b、41b 第1面
41、43 H型部材