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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂用離型剤
(51)【国際特許分類】
   C08K 5/103 20060101AFI20220809BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20220809BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C08K5/103
C08K5/053
C08L69/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019525514
(86)(22)【出願日】2018-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2018022708
(87)【国際公開番号】W WO2018235716
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2017120198
(32)【優先日】2017-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】田口 勇
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-232076(JP,A)
【文献】特開2005-042003(JP,A)
【文献】特表2013-523965(JP,A)
【文献】国際公開第2005/121247(WO,A1)
【文献】特開2007-204756(JP,A)
【文献】特開2005-336104(JP,A)
【文献】特開2014-084428(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165352(WO,A1)
【文献】特開2012-136558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 5/103
C08K 5/053
C08L 69/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンタエリスリトールと、炭素数8~22の脂肪酸とから構成されるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルを含み、金属元素Caの含有量が20mg/kg超、かつ100mg/kg以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂用離型剤。
【請求項2】
金属元素Caの含有量が50mg/kg以下である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂用離型剤。
【請求項3】
金属元素Ca以外の金属元素の含有量が20mg/kg以下である、請求項1又は2記載のポリカーボネート樹脂用離型剤。
【請求項4】
酸価が3.0mgKOH/g以下及び/又は水酸基価が0.1~30mgKOH/gである、請求項1~3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂用離型剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂用離型剤及び該離型剤を含有するポリカーボネート樹脂組成物並びに該樹脂組成物の成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリカーボネート樹脂は、優れた物性、透明性、耐熱性を有しており、電気電子部品、光学ディスク基板、自動車部品等に幅広く用いられている。
【0003】
また、ポリカーボネート樹脂組成物は、射出成型法等により必要な形状に成形して用いられるが、その成形品の形状が複雑であり、且つ大型であることが多いため、成形品を金型から脱型することが困難な場合があり、更に脱型の際の変形、内部歪みによる成形品の寸法精度低下、強度低下、外観不良等が生じるという問題点を有している。
【0004】
これらの問題を解決する方法として、脂肪酸エステルを配合する方法が広く知られており、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が多く使用されている。ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等の脂肪酸エステルを離型剤として用いられる従来技術としては、特許文献1~12が開示され、それぞれ一定の効果は得られるものの離型性の観点から十分に満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6‐107920号公報
【文献】特開2001‐192543号公報
【文献】特開2001‐342337号公報
【文献】特開2003‐327818号公報
【文献】特開2004‐027105号公報
【文献】特開2004‐083850号公報
【文献】特開2004‐137423号公報
【文献】特開2004‐137472号公報
【文献】特開2005‐042003号公報
【文献】特開2012‐251013号公報
【文献】特開2014‐084428号公報
【文献】特開2014‐189535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、離型性に優れるポリカーボネート樹脂組成物及び該樹脂組成物の成形品に用いるポリカーボネート樹脂用離型剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルに含まれる金属元素Ca量を調整することによって上記課題を解決することを見出した。本発明者は、これらの知見に基づき更に研究を重ね、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記等からなっている。
[1]ペンタエリスリトールと、炭素数8~22の脂肪酸とから構成されるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルを含み、金属元素Caの含有量が16mg/kg以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂用離型剤。
[2]ポリカーボネート樹脂、及び上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂用離型剤を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物及び該樹脂組成物の成形品。
[3]ポリカーボネート樹脂用離型剤の割合が、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.1~3.0質量部である、上記[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物及び該樹脂組成物の成形品。
[4]ポリカーボネート樹脂(又は樹脂組成物)に、上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂用離型剤を添加し、ポリカーボネート樹脂(又は樹脂組成物又はその成形品)の離型性を向上又は改善する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリカーボネート樹脂用離型剤は、ポリカーボネート樹脂組成物に配合することにより、該樹脂組成物の成形品の離型性が向上し、更に物性を損なうことがないという効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ポリカーボネート樹脂用離型剤]
本発明のポリカーボネート樹脂用離型剤(以下、「本発明の離型剤」ともいう)は、ペンタエリスリトールと、炭素数8~22の脂肪酸とから構成されるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルを含んでいる。
【0010】
本発明の離型剤を構成するペンタエリスリトールとしては、市販品を用いることができ、例えば、ペンタリット、ペンタリット-TS(商品名;広栄化学工業社製)、ペンタエリスリトール(商品名;三菱ガス化学社製)等が挙げられる。市販品のペンタエリスリトールには、不純物としてジペンタエリスリトールやトリペンタエリスリトール等の縮合体を含む場合もあるが、本発明ではこのようなペンタエリスリトールを用いることもできる。
【0011】
本発明の離型剤を構成する脂肪酸は、炭素数8~22の脂肪酸である。該脂肪酸は飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、例えば、カプリル酸、ベラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、アイコサペンタエン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、エライジン酸、エルカ酸、オレイン酸、リノール酸、リノール酸、リシノール酸、ヒドロキシステアリン酸、イソステアリン酸等が挙げられ、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルの融点を考慮した場合、ベヘン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸が好ましい。これらは1種又は2種以上を併用しても良い。
【0012】
上記脂肪酸の由来原料に特に制限はなく、例えば、菜種油、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、米油、紅花油、綿実油、ヤシ油、パーム油及びあまに油等の植物性油脂、並びに牛脂、豚脂及び魚油等の動物性油脂が挙げられる。
【0013】
本発明の離型剤は、ペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステル化反応、或いはペンタエリスリトールと脂肪酸の低級アルコールエステルとのエステル交換反応等の反応よって得られた反応物(エステル化生成物)である。本発明ではいずれの反応で得られた反応物であってもよいが、生産性を考慮した場合、エステル化反応を採用することが好ましい。
該反応物は、未反応の脂肪酸及びペンタエリスリトール、ペンタエリスリトールモノ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールジ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールトリ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル等の混合物である。本発明の離型剤は、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルであるが、このようなペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルを含む混合物であってもよい。本発明の離型剤が該混合物である場合、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル含量が、75%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更により好ましい。
【0014】
ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルを含む混合物中のペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル含量は、例えば、二項分布関数により、以下の引数を用いて算出できる。
[引数]
成功回数:4
試行回数:4(=ペンタエリスリトールの価数)
成功率:エステル化率(%)
尚、エステル化率(%)は次に示す式より求めることができる。
エステル化率(%)=(けん化価-酸価)/(けん化価+水酸基価-酸化価)×100」
【0015】
本発明の離型剤(例えば、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル又はペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルを含む混合物)に含まれる金属元素Caの含有量は16mg/kg以上(例えば、18mg/kg以上)であり、好ましくは20mg/kg以上である。上記の含有量であると本発明の効果を発揮するため好ましい。
金属元素Caの含有量の上限に特に制限はないが、金属元素Caの含有量が多い場合、該離型剤を含有するポリカーボネート樹脂組成物及び該樹脂組成物の成形品の物性が低下する場合があるので、金属元素Caの含有量は、好ましくは100mg/kg以下、より好ましくは80mg/kg以下(例えば、60mg/kg以下)、更により好ましくは50mg/kg以下であることが好ましく、45mg/kg以下(40mg/kg以下、35mg/kg以下、30mg/kg以下等)であってもよい。
【0016】
上記金属元素Caの含有量を16mg/kg以上にする方法に特に制限はなく公知の方法を採用することができるが、例えば、金属元素Caを含む原材料(ペンタエリスリトール、脂肪酸等の原材料には、製造方法等によって金属元素Caを含む場合がある)を用いて反応物を作製する方法、反応物を作製する際に金属元素Caを含む触媒を用いる方法、反応物を作製する際のいずれかの工程で金属元素Caを含むカルシウム塩等を添加する方法、前記方法を組み合わせた方法等が挙げられる。
【0017】
上記金属元素Caを含む触媒及び金属元素Caを含むカルシウム塩としては、例えば、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等の無機カルシウム塩、オクタン酸カルシウム、デカン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ベヘン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、モンタン酸カルシウム等の長鎖脂肪酸のカルシウム塩等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を併用しても良い。
【0018】
本発明の離型剤に含まれる金属元素Ca以外の金属元素(以下、「その他の金属元素」ともいう)の含有量に特に制限はないが、好ましくは20mg/kg以下、より好ましくは10mg/kg以下、更により好ましくは5mg/kg以下である。その他の金属元素の含有量が上記の範囲であると、該離型剤を含有するポリカーボネート樹脂組成物及び該樹脂組成物の成形品の耐熱性、着色性及び物性が向上するため好ましい。尚、上記その他の金属元素としては、例えば、Na、Sn、Zn等が挙げられる。これらその他の金属元素の含有量は、その他の金属元素のそれぞれが上記の範囲であることが好ましい。
【0019】
その他の金属元素を20mg/kg以下にする方法に特に制限はなく公知の方法を採用することができるが、例えば、その他の金属元素の含有量が低い原材料或いは含まない原材料を用いて反応物を作製する方法、反応物を作製する際にその他の金属元素を含む触媒を用いない方法、反応物を作製する際のいずれかの工程でその他の金属元素を除去する方法、前記方法を組み合わせてその他の金属元素を低減する方法等が挙げられる。
【0020】
本発明の離型剤の製造方法としては、上記のとおり公知の方法が採用されるが、例えばエステル化反応による製造方法としては下記の方法を例示することができる。
例えば、金属元素Caを含む触媒を用いて作製する方法としては、以下の方法が挙げられる。
攪拌機、加熱用のジャケット、窒素導入管、水分定量管、空冷管等を備えた通常の反応容器に、ペンタエリスリトールと脂肪酸とを仕込み、金属元素Caを含む触媒を加えて攪拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、温度調節器を用いて所定温度で加熱することにより金属元素Caを含むジペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルが得られる。
ここで、脂肪酸の仕込みモル比は、ペンタエリスリトール1.0モルに対し、好ましくは3.5~4.5モルであり、より好ましくは3.8~4.0モルである。金属元素Caを含む触媒の使用量は、用いたペンタエリスリトールと脂肪酸との合計量に対し、金属元素Caを含む触媒中のCa元素として好ましくは0.0016~0.010質量%であり、より好ましくは0.0020~0.0070質量%である。反応温度は通常、約190~250℃の範囲、好ましくは約210~240℃の範囲である。また、反応圧力条件は減圧下又は常圧下どちらでもよい。反応の終点は、通常反応混合物の酸価を測定し、約3.0以下を目安に決められる。
【0021】
例えば、金属元素Caを含むカルシウム塩を用いて作製する方法としては、以下の方法が挙げられる。
攪拌機、加熱用のジャケット、窒素導入管、水分定量管、空冷管等を備えた通常の反応容器に、ペンタエリスリトールと脂肪酸とを仕込み、金属元素Caを含まない触媒を加えて或いは加えないで、攪拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、温度調節器を用いて所定温度で加熱し、その後必要により中和、吸着剤処理、ろ過することによりエステル化反応した反応物(エステル化生成物)を得る。その後、得られた反応物が80~160℃の範囲内で長鎖脂肪酸のカルシウム塩を添加することにより、金属元素Caを含むペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルが得られる。
ここで、脂肪酸の仕込みモル比、反応温度、反応圧力条件、反応の終点等の条件は、金属元素Caを含む触媒を用いて作製する方法で記載した同等の条件を例示することができる。
【0022】
上記各方法において、金属元素Caを含まない触媒の使用量は、用いたペンタエリスリトールと脂肪酸との合計量に対し、0.01~1質量%であり、好ましくは0.05~0.2質量%である。
尚、金属元素Caを含まない触媒としては特に制限はないが、酸化スズ(II)、オクチル酸錫(II)、ジラウリン酸ジブチル錫(IV)、ジブチルチ錫オキシド(IV)等の錫触媒、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ‐n‐ブトキシド等のチタン触媒等の金属系触媒が挙げられる。これらは1種又は2種以上を併用してもよい。
【0023】
エステル化反応によって得られた反応物(エステル化生成物)は、所望により、分子蒸留法、クロマトグラフィー等の方法によって、エステル化生成物中の過剰の脂肪酸、未反応のペンタエリスリトール、或いはエステル反応で生成した水等を除去することもできる。
上記分子蒸留法としては、例えば、流下薄膜式分子蒸留機や遠心式分子蒸留機を用いることが挙げられ、具体的には、まず通常約100~200℃の温度、約20~10Paの真空条件下で水分等の低沸点化合物を除いたのち、続いて通常約200℃~300℃の温度、約10Pa~0.1Paの高真空条件下で未反応である脂肪酸等を留分として除去しエステル化生成物を得ることができる。
【0024】
エステル化反応によって得られた反応物のその他の金属元素の含有量を低減したい場合、その他の金属元素を除去する処理を行うことができる。具体的には、吸着剤処理、中和処理等によってその他の金属元素を除去する処理方法が挙げられる。吸着剤処理の具体例としては、製造工程のいずれかでケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム等を含む吸着剤を添加し、所望により加熱混合した後、ろ過により吸着剤を除去する方法等が挙げられる。
【0025】
ここで、上記吸着剤の添加量に特に制限はないが、その他の金属元素を含む物質100質量部に対して例えば0.1~5質量部を添加し、所望により加熱混合する場合の吸着処理温度として例えば70~100℃であり、吸着処理の処理時間として例えば、0.5~3.0時間等を例示することができる。上記吸着剤の具体例としてはキョーワード200、キョーワード700(商品名;協和化学工業社製)等が挙げられる。
【0026】
本発明の離型剤の酸価に特に制限はないが、物性、耐熱性の観点から3.0mgKOH/g以下が好ましく、1.5mgKOH/g以下がより好ましい。
また、本発明の離型剤の水酸基価に特に制限はないが、物性、耐熱性の観点から0.1~30mgKOH/gが好ましく、0.5~20mgKOH/gがより好ましく、1~10mgKOH/gが更により好ましい。
【0027】
[ポリカーボネート樹脂組成物及び該樹脂組成物の成形品]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いられるポリカーボネート樹脂としては、2価フェノールとホスゲンとを反応させるホスゲン法、又は2価フェノールとカーボネート前駆体等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体である。具体的には2価フェノールとホスゲンの反応、2価フェノールとジフェニルカーボネートとのエステル交換反応等が挙げられる。
【0028】
上記2価フェノールとしては、2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)メタン、1,1‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)エタン、4,4'‐ジヒドロキシジフェニル、2,2‐ビス(4‐ヒドロキシ‐3,5‐ジメチルフェニル)プロパン等のビス(4‐ヒドロキシフェニル)アルカン;ビス(4‐ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの2価フェノールは、1種を用いたホモポリマーでも、2種以上を用いたコポリマーであってもよい。
【0029】
上記カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、ハロホルメート、炭酸エステル等が挙げられ、具体的にはホスゲン、二価フェノールのジハロホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等が挙げられる。
【0030】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、分岐構造を有していてもよく、分岐構造を導入するための分岐剤としては、例えば1,1,1‐トリス(4‐ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α’’‐トリス(4‐ヒドロキシフェニル)‐1,3,5‐トリイソプロピルベンゼン;1‐〔α‐メチル‐α‐(4’‐ヒドロキシフェニル)エチル〕‐4‐〔α’,α’‐ビス(4’’‐ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、フロログルシン、トリメリット酸、及びイサチンビス(o‐クレゾール)等が挙げられる。
【0031】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、樹脂組成物の物性面から、通常10,000~100,000、好ましくは10,000~40,000である。
【0032】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いられる本発明の離型剤の添加量は、射出成型時の離型性、成形性、物性等の観点から、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.1~3.0質量部が好ましく、0.2~2.0質量部がより好ましい。
【0033】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般的にポリカーボネート樹脂組成物に用いられるその他の添加剤を配合することができる。その他の添加剤としては、例えば、本発明の離型剤以外の離型剤、耐候剤、紫外線吸収剤、流動性改良剤、帯電防止剤、無機充填剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、抗菌剤、相溶化剤等が挙げられる。
【0034】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の樹脂或いはエラストマーを配合することもでき、その他の樹脂として例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、アクリロニトリル/スチレン-アクリロニトリル樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。エラストマーとしては例えばアクリル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、イソブチレン/イソプレンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴム、メタクリル酸メチル/スチレン/ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル/アクリロニトリル/スチレンゴム等が挙げられる。
【0035】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の成形方法としては、ポリカーボネート樹脂、本発明の離型剤、更に所望によりその他の添加剤、その他の樹脂、エラストマー等を配合し、リボンブレンダー、ドラムタンブラー等で予備混合した後、単軸或いは多軸押出機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー等で混練することによりペレット状とした後、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、発泡成形法等により成形品とする方法が挙げられる。混練及び成形の際の加熱温度は240~300℃が好ましい。
【0036】
このようして得られた本発明のポリカーボネート樹脂組成物の成形品は、光ディスク基板等の光学材料、複写機、ファックス、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、パソコン、プリンター、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジ等のOA機器、家庭電化製品、電気・電子機器部品等に用いられる。
【0037】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例
【0038】
<ポリカーボネート樹脂用離型剤の作製>
[ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル1の作製]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機及び冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ペンタエリスリトール(商品名:ペンタリットTS;広栄化学社製)184.0g、ステアリン酸300(商品名;新日本理化社製)1060.8g及びパルミチン酸98(商品名;ナチュラルオレオ社製)355.2gを加え、触媒として水酸化カルシウム(和光純薬工業社製)0.088gを加えた。これらを窒素気流下、235℃で反応水を留去しつつ、酸価が3.0以下となるまで常圧で反応させた後、80℃まで冷却することで1400gのペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル1を得た。ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル1は、本発明の実施例に相当するものである。
上記方法で得られたペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルの金属元素Ca、Na及びSnの含有量はまとめて表1に示す。また、酸価(mgKOH/g)、水酸基価(mgKOH/g)、けん化価(mgKOH/g)、エステル化率(%)及びテトラエステル含有率(%)についても表1に示す。更に後述するペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル2~7の上記項目についても同様に表1に示す。
尚、金属元素Ca、Na及びSnの含有量は、ICP発光分析装置(株式会社島津製作所製ICPE‐9800)を用いて酸分解‐誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP‐AES法)によって測定したものである。また、上記以外の金属元素、例えば、Zn等も同様に測定することができる。
更に酸価及び水酸基価は、「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人 日本油化学会編)の[2.3.1‐2013 酸価]及び[2.3.6.2‐1996 ヒドロキシル価]に準じて測定されたものである。
また、けん化価は、「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人 日本油化学会編)の[3.3.2-1996 けん化価]に準じて測定されたものであり、エステル化率及びテトラエステル含有率は、前記式及び方法により、算出されたものである。
【0039】
[ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル2の作製]
ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル1の作製において、ペンタエリスリトール(商品名:ペンタリットTS;広栄化学社製)184.0gを187.8g、ステアリン酸300(商品名;新日本理化社製)1060.8gを564.9g及びパルミチン酸98(商品名;ナチュラルオレオ社製)355.2gを847.3gに変更した以外は同様に操作して、1400gのペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル2を得た。ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル2は、本発明の実施例に相当するものである。
【0040】
[ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル3の作製方法]
ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル2の作製において、水酸化カルシウム(和光純薬工業社製)0.088gを0.060gに変更した以外は同様に操作して、1400gのペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル3を得た。ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル3は、本発明の実施例に相当するものである。
【0041】
[ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル4の作製方法]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機及び冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ペンタエリスリトール(商品名:ペンタリットTS;広栄化学社製)188.8g、ステアリン酸300(商品名;新日本理化社製)1059.2g及びミリスチン酸98(商品名;ナチュラルオレオ社製)352gを加え、触媒として水酸化カルシウム(和光純薬工業社製)0.088gを加えた。これらを窒素気流下、235℃で反応水を留去しつつ、酸価が3.0以下となるまで常圧で反応させた後、80℃まで冷却することで1400gのペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル4を得た。ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル4は、本発明の実施例に相当するものである。
【0042】
[ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル5の作製方法]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機及び冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ペンタエリスリトール(商品名:ペンタリットTS;広栄化学社製)172.8g、ステアリン酸300(商品名;新日本理化社製)1120g及びべへン酸(商品名:Behenic acid-85;Godrej社製)355.2gを加え、触媒として水酸化カルシウム(和光純薬工業社製)0.088gを加えた。これらを窒素気流下、235℃で反応水を留去しつつ、酸価が3.0以下となるまで常圧で反応させた後、80℃まで冷却することで1400gのペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル5を得た。ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル5は、本発明の実施例に相当するものである。
【0043】
[ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル6の作製]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機及び冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ペンタエリスリトール(商品名:ペンタリットTS;広栄化学社製)184.0g、ステアリン酸300(商品名;新日本理化社製)1060.8g及びパルミチン酸98(商品名;ナチュラルオレオ社製)355.2gを加え、触媒として酸化錫(商品名:和光純薬工業社製)0.8gを加えた。これらを窒素気流下、235℃で反応水を留去しつつ、酸価が1.0以下となるまで常圧で反応させた後、130℃まで冷却した。中和処理として85%リン酸(和光純薬工業社製)1.376gを添加して30分間混合した後、90℃まで冷却した。更に金属元素を除去する処理としてキョーワード200(商品名;協和化学工業社製、水酸化アルミニウム系吸着剤)及びキョーワード700(商品名;協和化学工業社製、ケイ酸アルミニウム系吸着剤)をそれぞれ3.2g添加し、30分攪拌混合した後、前記吸着剤を濾過により除去することで1400gのペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル6を得た。ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル6は、本発明の離型剤の比較例に相当するものである。
【0044】
[ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル7の作製]
ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル2の作製において、ペンタエリスリトール(商品名:ペンタリットTS;広栄化学社製)187.8gをペンタエリスリトール(商品名:ペンタリット;広栄化学社製)188.8gに、ステアリン酸300(商品名;新日本理化社製)564.9gを1056.0gに、及びパルミチン酸98(商品名;ナチュラルオレオ社製)847.3gを355.2gとし、更に触媒を使用しない、とした以外は同様に操作して1400gのペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル7を得た。ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル7は、本発明の離型剤の比較例に相当するものである。
【0045】
【表1】
【0046】
<ポリカーボネート樹脂組成物及び該樹脂組成物の成形品の作製>
(1)原材料
ポリカーボネート樹脂(商品名:パンライトL‐1225Y;帝人化成社製)
ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル1~7(上記方法で得られたもの)
【0047】
(2)ポリカーボネート樹脂組成物の配合
上記原材料を用いて作製したポリカーボネート樹脂組成物及び該樹脂組成物の成形品の配合組成を表2に示した。ポリカーボネート樹脂組成物1~5は実施例、ポリカーボネート樹脂組成物6、7は比較例、ポリカーボネート樹脂組成物8は参考例である。
【0048】
【表2】
【0049】
<ポリカーボネート樹脂組成物の作製方法>
表2に記載の原材料の20倍量を、ストランドダイを備える二軸押出機(型式:TP20‐T;サーモ・プラスチック社製)を用いて成形温度280℃の条件で溶融混練して押出し、ストランドを切断してペレット状としたのち、恒温器(型式:GPHH-201;エスペック社製)で120℃・5時間乾燥してペレット状のポリカーボネート樹脂組成物1~8を得た。
【0050】
<ポリカーボネート樹脂組成物の成形品の作製とその評価>
(1)離型性評価
ポリカーボネート樹脂組成物1~8のいずれか約60gを離型力評価装置(FUTABA CORPORATION社製)を備えた金型と射出成形機(型式:IS 55EPN;東芝機械社製)を用いて、下記成型加工条件でカップ型のポリカーボネート樹脂組成物1~8の成形品をそれぞれ作製し、突出しピンにより該成形品を金型から外す際に要する力(離型力)を測定した。測定は10回行い平均値とした。尚、離型力は、数値が小さいほど離型性が良いことを示す。得られた平均値を下記評価基準で記号化した。結果を表3に示す。
(射出成形機の成型加工条件)
成形温度:NH/H1/H2/H3=300℃/300℃/280℃/260℃
射出圧:89MPa
保圧:30MPa
背圧:2MPa
スクリュー回転数:100rpm
金型温度:80℃
冷却時間:30秒
(評価基準)
○:離型力が30kg未満。
△:離型力が30kg以上50kg未満。
×:離型力が50kg以上。
【0051】
(2)物性(引張り強さ)の評価
ポリカーボネート樹脂組成物1~8のいずれか約50gを射出成形機(型式:IS 55EPN;東芝機械社製)を用いて、下記成型加工条件で行ってテストピース型の成形品(ダンベル型試験片)をそれぞれ作製し、ポリカーボネート樹脂組成物1~8の成形品の物性:引張り試験(JISK‐7161)を行った。測定は5回行い、物性の指標として引張り試験時の最大点応力を平均値とした。尚、最大点応力は数値が高い方が成形品の強度が高いことを示す。得られた平均値を下記評価基準で記号化した。結果を表3に示す。
(射出成形機の成型加工条件)
成形温度:NH/H1/H2/H3=300℃/300℃/280℃/260℃
射出圧:89MPa
保圧:30MPa
背圧:2MPa
スクリュー回転数:100rpm
金型温度:80℃
冷却時間:30秒
(評価基準)
○:引張最大点応力の低下が離型剤無添加の場合と比較して3.0MPa未満。
△:引張最大点応力の低下が離型剤無添加の場合と比較して3.0以上5.0MPa未満。
×:引張最大点応力の低下が離型剤無添加の場合と比較して5.0MPa以上。
【0052】
【表3】
結果より、本発明の離型剤(ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル1~5)を用いたポリカーボネート樹脂組成物1~5の成形品は、離型性を向上することができた。また、物性(引っ張り強さ)を維持することもできた。
一方、離型剤としてペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル6を用いたポリカーボネート樹脂組成物6の成形品は、物性(引っ張り強さ)を維持しているが、離型性を向上することはできなかった。また、離型剤としてペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル7を用いたポリカーボネート樹脂組成物7の成形品は、離型性を向上することはできず、更に物性(引っ張り強さ)を維持できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂用の離型剤等を提供できる。