(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池システムの動作方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20220809BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20220809BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20220809BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20220809BHJP
H01M 8/04082 20160101ALI20220809BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/04537
H01M8/04746
H01M8/04 J
H01M8/04082
(21)【出願番号】P 2019558766
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 US2018030023
(87)【国際公開番号】W WO2018201092
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-22
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519297300
【氏名又は名称】イーエスエス テック インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】ESS Tech,Inc.
【住所又は居所原語表記】26440 SW Parkway Avenue,Wilsonville,Oregon 97070 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ドアマス エヴァン
(72)【発明者】
【氏名】グロバーグ ティアゴ
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0127542(US,A1)
【文献】国際公開第2016/117265(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/117263(WO,A1)
【文献】特開2006-147376(JP,A)
【文献】特表2017-505514(JP,A)
【文献】特開2007-207620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗の閾値増加よりも大きなレドックスフロー電池の抵抗の増加に応じて、
前記レドックスフロー電池の正極室圧力を上げる、及び
前記レドックスフロー電池の負極室圧力を下げる
、
のうち1つ又はそれ以上を実行することによってクロスオーバー圧力を増加させ、
前記クロスオーバー圧力が、前記正極室圧力から前記負極室圧力を減じたものに等しい、
レドックスフロー電池の動作方法。
【請求項2】
さらに、レドックスフロー電池システムの充電に応じて、前記レドックスフロー電池の正極室圧力を上げる、及び前記レドックスフロー電池の負極室圧力を下げる、のうち1つ又はそれ以上を実行することによって、前記クロスオーバー圧力を閾値クロスオーバー圧力まで上げる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記閾値クロスオーバー圧力が、レドックスフロー電池のセパレータ膜の突破圧力未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記負極室圧力を下げることが、負極室に流体接続された真空ポンプの速度を上げることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記負極室圧力を下げることが、前記負極室に負極電解液を供給する電解液ポンプの速度を下げること含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記負極室圧力を下げることが、前記負極室から負極電解液の出口流れを増加させるために、前記負極室の出口に流体接続された背圧流量調整器を絞ることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記正極室圧力を上げることが、正極室に正極電解液を供給する電解液ポンプの速度を上げることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記正極室圧力を上げることが、正極室からの正極電解液の出口流れを減少させるために、前記正極室の出口に流体接続された背圧流量調整器を絞ることを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
イオン透過性セパレータによって電気的に分離された負及び正極室と;
負及び正極室に負及び正極電解液をそれぞれ供給する負及び正極電解液ポンプと、
基板上のメモリーに常駐する実行命令を含むコントローラと、を備え、
レドックスフロー電池システムの充電に応じて、
抵抗の閾値増加よりも大きなレドックスフロー電池の抵抗の増加に応じて、
前記レドックスフロー電池の正極室圧力を上げる、及び
前記レドックスフロー電池の負極室圧力を下げる
、
のうち1つ又はそれ以上を実行することによってクロスオーバー圧力を増加させ、
前記クロスオーバー圧力が、前記正極室圧力から前記負極室圧力を減じたものに等しい、
レドックスフロー電池システム。
【請求項10】
前記負極室圧力を下げるための前記実行命令が、負極ポンプの速度を含む、請求項9に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項11】
さらに、負極室に流体結合された真空ポンプを備え、前記負極室圧力を下げるための前記実行命令が、前記真空ポンプの速度を上げることを含む、請求項10に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項12】
前記正極室圧力を上げるための前記実行命令が、前記正極電解液ポンプの速度を上げることを含む。請求項11に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項13】
さらに、前記正極室の出口に流体接続された背圧流量調整器を備え、前記正極室圧力を上げるための前記実行命令が、前記背圧流量調整器を絞ることによって前記正極室から正極電解液の出口流れを減らすことを含む、請求項12に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項14】
前記イオン透過性セパレータが、ハイブリッド膜を含み、前記ハイブリッド膜が、前記負極室に面する微多孔膜及び前記正極室に面するイオン交換膜を含む、請求項13に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項15】
閾値クロスオーバー圧力が、3以上7kPa以下である、請求項13に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項16】
正極室圧力を負極室圧力よりも高く維持し、
クロスオーバー圧力を膜突破圧力よりも低く維持し、前記クロスオーバー圧力が、前記正極室圧力から前記負極室圧力を減じたものに等しい、レドックスフロー電池の動作方法
であって、
前記レドックスフロー電池の抵抗の増加が閾値の増加よりも小さいことに応じて、前記クロスオーバー圧力が下限閾値クロスオーバー圧力よりも高くなるように維持しつつ、前記クロスオーバー圧力を下げることを含む、レドックスフロー電池の動作方法。
【請求項17】
前記レドックスフロー電池の抵抗の前記増加が前記閾値の増加よりも大きくなり始めたことに応じて、前記クロスオーバー圧力が前記膜突破圧力よりも低くなるように維持しつつ、前記クロスオーバー圧力を上げることをさらに含む、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記レドックスフロー電池の抵抗の前記増加が、閾値期間にわたって決定される、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
前記レドックスフロー電池の抵抗の前記増加が、充電モード外で決定される、請求項
17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、「レドックスフロー電池システムの動作方法及びシステム」と題され、2017年4月28日に出願された米国仮出願第62/491,963号に対する優先権を主張する。ここで、上記の出願の全ての内容は、あらゆる目的のために参照によって組み込まれる。
【0002】
政府支援の承認
本発明は、DOE、ARPA-Eオフィスによって与えられた嘱託番号DEAR0000261の下で政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に所定の権利を有する。
【0003】
本明細書は、一般的に、レドックスフロー電池システムの動作方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0004】
レドックスフロー電池は、電力及び容量を独立に調節し、従来の電池技術に比較して性能の損失を減らして数千サイクルの充電及び放電する能力があるため、グリッド規模の貯蔵用途に適している。レドックスフロー電池セルは、一般的に、異なる2種類の膜セパレータ;イオン交換膜(IEM)及び微多孔膜を用いる。IEMは、一般的に、イオン選択性が高いが、抵抗率及びコストが高いのに対し、微多孔膜は、安価で抵抗率が低いが、イオン選択性が低い。イオン選択性が低いセパレータで動作すると、レドックスフロー電池の全体の効率が低下する可能性がある。
【0005】
いくつかのレドックスフロー電池は、微多孔膜層の全体の抵抗率及びコストを軽減しつつIEM層のより高いイオン選択性を開発することを試みるために、IEMと、並んでラミネートされた微多孔膜層と、の両方を含む、VANADiоnTM-20膜などのハイブリッドセパレータを用いている。
【発明の概要】
【0006】
発明者らは、上記のシステムに関し、種々の問題を見出した。すなわち、微多孔膜層の疎水性のため、微多孔膜は、水性電解液で完全に濡れることが困難であり、空気及び他の気泡がその中に拡散して浸透する可能性がある。微多孔膜層における気泡の存在は、電池の効率を低下させるレドックスフロー電池の抵抗率、の大幅な増加を引き起こすことができる。完全に濡れていても、微多孔膜層を含むレドックスフロー電池セルは、特に充電モード動作中に抵抗率が増加することがしばしばある。
【0007】
上記の問題は、レドックスフロー電池の動作方法によって、少なくとも部分的に処理可能であり、当該動作方法は、負極室圧力よりも正極室圧力を高く維持すること、及び膜突破圧力よりもクロスオーバー圧力を小さく維持すること、を含み、クロスオーバー圧力は、正極室圧力から負極室圧力を減じたものに等しい。
【0008】
このようにして、セパレータの突破を減らしつつその中に閉じ込められた気泡を減らすことによって、前記セパレータを横切るイオン抵抗を低いレベルで維持可能であり、それによって前記レドックスフロー電池システムの性能が向上する。
【0009】
上記の概要が詳細な説明においてさらに説明される概念の選択を簡略化した形式で導入するために提供されることを、理解されたい。それは、クレームされた構成要件の重要な又は本質的な特徴を特定することを意図するものではなく、その範囲は、詳細な説明に続く請求項によって一意に定義される。さらに、クレームされた構成要件は、上記又は本開示の任意の部分で言及された欠点を解決する実施に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、レドックスフロー電池システムの一例の概略図を示す。
【
図2A】
図2Aは、レドックスフロー電池セルの詳細図を示す。
【
図2B】
図2Bは、レドックスフロー電池セルの詳細図を示す。
【
図2C】
図2Cは、レドックスフロー電池セルの詳細図を示す。
【
図2D】
図2Dは、レドックスフロー電池セルの詳細図を示す。
【
図3】
図3は、レドックスフロー電池抵抗を含む、レドックスフロー電池システムの動作状態を示すデータプロットの一例である。
【
図4】
図4は、レドックスフロー電池抵抗を含む、レドックスフロー電池システムの動作状態を示すデータプロットの一例である。
【
図5】
図5は、レドックスフロー電池セル膜の一例における、圧力透過性プロットを示す。
【
図6】
図6は、レドックスフロー電池システムの動作方法の一例におけるフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ハイブリッドレドックスフロー電池は、電極上の固体層として1つ又は複数の電気活性材料の蒸着を特徴とするレドックスフロー電池である。ハイブリッドレドックスフロー電池は、例えば、電池充電プロセスの間中電気化学反応を介して基板上に固体としてめっきする化学物質を含んでいてもよい。電池が放電している間、めっき種は、電気化学反応を介して酸化し、電解液に可溶となることがある。ハイブリッド電池システムでは、レドックス電池の充電容量(例えば蓄電量)は、電池充電中にめっきされた金属の量によって制限されることがあり、したがって、めっきシステムの効率と、めっき可能な体積及び表面積と、に依存することがある。
【0012】
レドックスフロー電池システムでは、負極26は、めっき電極と呼ばれ、正極28は、レドックス電極と呼ばれることがある。電池のめっき側(例えば、負極室20)内の負極電解液は、めっき電解液と呼ばれ、電池のレドックス側(例えば、正極室22)内の正極電解液は、レドックス電解液と呼ばれることがある。
【0013】
陽極は、電気活性材料が電子を失う電極を指し、陰極は、電気活性材料が電子を得る電極を指す。電池充電中、正極電解液は、負極26において電子を得る;それゆえ、負極26は、電気化学反応の陰極である。放電中、正極電解液は、電子を失う;それゆえ、負極26は、反応の陽極である。したがって、充電中、負極電解液及び負極は、それぞれ電気化学反応の陰極液及び陰極と呼ばれ、正極電解液及び正極は、それぞれ電気化学反応の陽極液及び陽極と呼ばれることがある。あるいは、放電中、負極電解液及び負極は、それぞれ電気化学反応の陽極液及び陽極と呼ばれ、正極電解液及び正極は、それぞれ電気化学反応の陰極液及び陰極と呼ばれることがある。簡便のため、正及び負という用語は、本明細書では、レドックスフロー電池システムの電極、電解液、及び電極室を指すために使用される。
【0014】
ハイブリッドレドックスフロー電池の一例は、すべて鉄(all iron)のレドックスフロー電池(IFB)であり、電解液は、塩化鉄(例えばFeCl2、FeCl3等)の形で鉄イオンを含み、負極は、金属鉄を含む。例えば、負極では、電池充電中に、第一鉄イオンFe2+が、2つの電子を受け取って金属鉄として負極26をめっきし、電池放電中に、金属鉄Fe0が、2つの電子を失ってFe2+として再溶解する。正極では、充電中に、Fe2+が電子を失って第二鉄イオンFe3+を生じ、放電中に、Fe3+が電子を得てFe2+を生じる。電気化学反応は、式(1)及び(2)にまとめられ、正反応(左から右)は、電池充電中の電気化学反応を示し、逆反応(右から左)は、電池放電中の電気化学反応を示す:
Fe2+ + 2e- ⇔ Fe0 -0.44V (負極) (1)
2Fe2+ ⇔ 2Fe3+ + 2e- +0.77V (正極) (2)
【0015】
上記のように、すべて鉄のレドックスフロー電池(IFB)で使用される負極電解液は、充電中に、Fe2+が負極から2つの電子を受け入れてFe0を生じ、基板上をめっきできるように、十分量のFe2+を供給する。放電中、めっきされたFe0は、2つの電子を失い、Fe2+に酸化し、電解液中に溶解する。上記の反応の平衡電位は、-0.44Vであり、この反応は、所望のシステムに負端子を供給する。IFBの正側では、電解液は、充電時に、電子を失ってFe3+に酸化するFe2+を供給してもよい。放電中、電解液によって供給されるFe3+は、電極によって供給される電子を吸収することによってFe2+になる。この反応の平衡電位は、+0.77Vであり、所望のシステムの正端子を作る。
【0016】
IFBは、非再生電解液を利用する他のタイプの電池と対照的に、その電解液を充電及び再充電する機能を提供する。充電は、端子40及び42を介して電極に電流を印加することによって達成される。負極は、端子40を介して電圧源の負側に結合されてもよく、そのため、電子は、正極を介して(例えば、正極室22において正極電解液中のFe2+がFe3+に酸化される)負極電解液に引き渡されてもよい。負極26(例えばめっき電極)に供給される電子は、負極電解液中のFe2+を還元してめっき基板にFe0を生じ、負極上をめっきすることができる。
【0017】
負極電解液に酸化に利用可能なFe0が残っており、正極電解液に還元に利用可能なFe3+が残っている間、放電を維持することができる。例として、Fe3+の有効性は、外部正極電解液タンク又は正極電解液チャンバ52のような外部源を介して追加のFe3+を供給するために、セル18の正極室22側に正極電解液の濃度又は体積を増加することによって維持可能である。より一般的には、放電中のFe0の有効性は、IFBシステム内で問題となり得、放電に利用可能なFe0は、めっき効率と同様に、負極基板の表面積及び体積に比例する。充電容量は、負極室20におけるFe2+の有効性に依存していてもよい。例として、Fe2+の有効性は、セル18の負極室20側に負極電解液の濃度又は体積を増加するために、負極電解液チャンバ50又は外部負極電解液タンク50のような外部源を介して追加のFe2+を供給することによって維持可能である。
【0018】
IFBでは、IFBシステムの充電状態に応じて、正極電解液は、第一鉄イオン、第二鉄イオン、第二鉄錯体、又はこれらの任意の組合せを含み、負極電解液は、第一鉄イオン又は第一鉄錯体を含む。前述のように、負極電解液及び正極電解液の両方で鉄イオンを利用すると、電池セルの両側で同じ電解液種を利用することができ、電解液の相互汚染を減らし、IFBシステムの効率を高めることができるため、他のレドックスフロー電池システムに比較して電解液の交換を少なくすることができる。
【0019】
IFBにおける効率の損失は、セパレータ24(例えば、イオン交換膜バリア、微多孔膜など)を通る電解液のクロスオーバーから生じることがある。例えば、正極電解液中の第二鉄イオンは、第二鉄イオンの濃度勾配及びセパレータを横切る電気泳動力によって、負極電解液に向かって動かされることがある。続いて、膜バリアを透過して負極室20にクロスオーバーする第二鉄イオンは、クーロン効率の損失をもたらすことがある。低pHレドックス側(例えば、酸性が強い正極室22)から高pHめっき側(例えば、酸性が弱い負極室20)にクロスオーバーする第二鉄イオンは、Fe(OH)3の沈殿をもたらし得る。Fe(OH)3の沈殿は、セパレータ24を損傷し、永久的な電池の性能及び効率の損失を引き起こす可能性がある。例えば、Fe(OH)3沈殿物は、イオン交換膜の有機官能基を化学的に塞ぎ、又はイオン交換膜の小さな微多孔を物理的に詰まらせることがある。いずれの場合も、Fe(OH)3により、膜のオーム抵抗が時間と共に上昇し、電池の性能が低下することがある。沈殿物は、電池を酸で洗浄することによって除去され得るが、絶えず続くメンテナンス及びダウンタイムは、商用電池の使用に不利であることがある。さらに、洗浄は、電解液の定期的な準備に依存することがあり、プロセスのコスト及び複雑さが増す。電解液のpH変化に応じて特定の有機酸を正極及び負極に添加すると、電池の充電及び放電サイクル中の沈殿物の生成を軽減し得る。
【0020】
追加のクーロン効率の損失は、H+(例えばプロトン)の還元とそれに続くH2(例えば水素ガス)の生成によって引き起こされ得、負極室20におけるプロトンの電子との反応は、めっき金属鉄電極において、水素ガスを生成する。
【0021】
IFB電解液(例えば、FeCl2、FeCl3、FeSO4、Fe2(SO4)3など)は容易に入手可能であり、低コストで製造することができる。IFB電解液は、同じ電解液を負極電解液と正極電解液とに使用できるため再利用の価値が高くなり、その結果、他のシステムと比較してクロスコンタミネーションの問題が低減する。さらに、その電子配置により、鉄は、負極基板上にめっきする際に、通常均一な固体構造に凝固することができる。ハイブリッドレドックス電池で一般的に使用される亜鉛および他の金属では、めっき中に固体樹状構造が形成される場合がある。IFBシステムの安定した電極形態は、他のレドックスフロー電池と比較して電池の効率を向上させることができる。さらに、鉄のレドックスフロー電池は、毒性のある原材料の使用を減らし、他のレドックスフロー電池の電解液と比べて比較的中性のpHで動作可能である。したがって、IFBシステムは、製造中の他のすべての現在の高度なレドックスフロー電池システムと比較して、環境への有害性が低減する。
【0022】
図1は、レドックスフロー電池システム10の概略図を提供する。レドックスフロー電池システム10は、マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110に流体接続されたレドックスフロー電池セル18を備えることができる。レドックスフロー電池セル18は、通常、負極室20、セパレータ24及び正極室22を含むことができる。セパレータ24は電気絶縁性のイオン伝導性バリアを備えることができ、それは正極電解液と負極電解液とのバルク混合を防ぎつつ、特定のイオンの伝導を可能にする。例えば、セパレータ24は、イオン交換膜及び/又は微多孔膜を備えることができる。負極室20は、負極26と、電気活性材料を含む負極電解液とを備えることができる。正極室22は、正極28と、電気活性材料を含む正極電解液とを備えることができる。いくつかの例では、複数のレドックスフロー電池セル18を直列または並列に組み合わせて、レドックスフロー電池システムでより高い電圧または電流を生成することができる。さらに
図1に示されているのは、フローバッテリーシステム10に電解液を送り込むために用いられる負極電解液ポンプ30及び正極電解液ポンプ32である。電解液は、セルの外部にある1つ又は複数のタンクに貯蔵され、それぞれ電池の負極室20側と正極室22側を通り、負極電解液ポンプ30及び正極電解液ポンプ32によって送られる。
【0023】
図1に示すように、レドックスフロー電池セル18は、負極電池端子40及び正極電池端子42をさらに含んでもよい。電池端子40及び42に充電電流が印加されると、正極28で正極電解液が酸化され(1つ又は複数の電子を失う)、負極26で負極電解液が還元される(1つ又は複数の電子を獲得する)。電池放電中、電極上で逆酸化還元反応が起こる。換言すると、正極28で正極電解液が還元され(1つ又は複数の電子を獲得する)、負極26で負極電解液が酸化される(1つ又は複数の電子を失う)。電池の両端の電位差は、正極室22と負極室20における電気化学的酸化還元反応により維持され、反応が持続している間、導体を流れる電流を誘導することが可能である。レドックス電池によって蓄積されるエネルギーの量は、放電用の電解液で利用可能な電気活性材料の量により制限され、電解液の総量と電気活性材料の溶解度に依拠する。
【0024】
フロー電池システム10は、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110をさらに備えてもよい。マルチチャンバ貯蔵タンク110は、隔壁98によって分割されてもよい。正極電解液および負極電解液を単一のタンク内に含むことができるように、隔壁98は貯蔵タンク内に複数のチャンバを形成してもよい。負極電解液チャンバ50は、電気活性材料を含む負極電解液を保持し、正極電解液チャンバ52は、電気活性材料を含む正極電解液を保持する。負極電解液チャンバ50と正極電解液チャンバ52との間の所望の体積比をもたらすために、隔壁98は、マルチチャンバ貯蔵タンク110内に配置されてもよい。1つの実施例では、隔壁98は、負極および正極の酸化還元反応の間の化学量論比に従って、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバの容積比を設定するように配置されてもよい。図は、貯蔵タンク110の充填高さ112をさらに示し、各タンク区画内の液位を示すことができる。図はまた、負極電解液チャンバ50の充填高さ112の上方に位置するガスヘッドスペース90と、正極電解液チャンバ52の充填高さ112の上方に位置するガスヘッドスペース92とを示している。ガスヘッドスペース92は、レドックスフロー電池の動作を通して生成され(例えば、プロトン還元および腐食副反応により)、レドックスフロー電池セル18から電解液を戻すとともにマルチチャンバ貯蔵タンク110に運ばれる水素ガスを貯蔵するために利用できる。水素ガスは、マルチチャンバ貯蔵タンク110内の気液界面(例えば、充填高さ112)で自発的に分離することができ、それにより、レドックスフロー電池システムの一部としての追加の気液分離装置を排除することができる。電解液から分離されると、水素ガスがガスヘッドスペース90および92を満たす。そのため、貯蔵された水素ガスは、マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から他のガスをパージすることに役立ち、それにより、電解液種の酸化を低減するための不活性ガスブランケットとして機能し、レドックスフロー電池容量損失の低減に役立つことができる。このように、統合マルチチャンバ貯蔵タンク110を利用することによって、従来のレドックスフロー電池システムに共通の負極および正極電解液貯蔵タンク、水素貯蔵タンク並びに気液分離器を別々に有さなくともよくなり、これにより、システム設計の簡略化、物理的システムの設置面積の削減、並びにシステムコストの削減ができる。
【0025】
図1はまた、ガスヘッドスペース90と92との間の隔壁98に開口部を形成し、2つのチャンバ間のガス圧力を均一化する手段を提供する、溢流孔(spill-over hole)96を含む。溢流孔96は、充填高さ112より上の閾値高さに配置することができる。溢流孔はさらに、電解液がクロスオーバーする場合に、正極電解液チャンバおよび負極電解液チャンバのそれぞれの電解液が自己平衡する機能を有効にする。すべて鉄(all iron)のレドックスフロー電池システムの場合、同じ電解液(Fe
2+)が負極室20及び正極室22の両方において使用されるため、負極電解液チャンバ50及び正極電解液チャンバ52の間の電解液の溢れはシステム全体の効率を下げ得るが、その一方で、全体的な電解液の構成、電池モジュールの性能および電池モジュール容量は維持される。漏れのない連続的な加圧状態を維持するために、マルチチャンバ貯蔵タンク110への入口および出口からのすべての配管接続部にフランジ継手(flange fittings)を利用することができる。マルチチャンバ貯蔵タンクは、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバのそれぞれからの少なくとも1つの出口と、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバのそれぞれへの少なくとも1つの入口と、を含むことができる。さらに、水素ガスをリバランス反応器80及び82へと導くために、ガスヘッドスペース90及び92から1つ又は複数の出口接続部を備えることができる。
【0026】
図1には示されていないが、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110は、負極電解液チャンバ50および正極電解液チャンバ52のそれぞれに熱的に接続された1つ又は複数のヒータをさらに含んでもよい。別の例では、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバのうちの1つのみが、1つ又は複数のヒータを含んでもよい。正極電解液チャンバのみが1つ又は複数のヒータを含む場合、負極電解液は、パワーモジュールの電池セルで発生した熱を負極電解液に伝達することにより加熱することができる。このようにして、パワーモジュールの電池セルが加熱され、負極電解液の温度調節が促進される。1つ又は複数のヒータは、負極電解液チャンバ50及び正極電解液チャンバの温度を、単独で又は共に調整するために、コントローラ88によって作動させることができる。例えば、電解液温度が閾値温度未満に下がることに応じて、コントローラは、電解液への熱流束が増加するように、1つ又は複数のヒータに供給される電力を増加させてもよい。電解液温度は、センサ60及び62を含むマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110に取り付けられた1つ又は複数の温度センサによって示されてもよい。例として、1つ又は複数のヒータには、電解液に浸された、コイル型ヒータ若しくは他の浸漬ヒータ、又は、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバの壁を通して熱を伝達しその中の液体を加熱する表面マントル型ヒータが含まれ得る。本開示の範囲から逸脱することなく、他の既知のタイプのタンクヒータを使用することができる。さらに、コントローラ88は、液体レベルが固体充填閾値レベル未満に低下したことに応じて、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバ内の1つ又は複数のヒータの動作を停止させてもよい。換言すると、コントローラ88は、液体レベルが固体充填閾値レベル(solids fill threshold level)を超えて増加することに応じてのみ、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバ内の1つ又は複数のヒータを作動させることができる。このようにして、正極電解液チャンバ及び/又は負極電解液チャンバ内に十分な液体がない状態での1つ又は複数のヒータの作動を防ぐことができ、したがってヒータの過熱又は焼損のリスクが低減される。
【0027】
図1に示すように、電解液は、マルチチャンバ貯蔵タンク110に一般に貯蔵され、フロー電池システム10全体にわたって負極電解液ポンプ30及び正極電解液ポンプ32によって送り込まれる。負極電解液チャンバ50に貯蔵された電解液は、負極電解液ポンプ30によって電池の負極室20側に送り込まれ、正極電解液チャンバ52に貯蔵された電解液は、正極電解液ポンプ32によって電池の正極室22側に送り込まれる。
【0028】
2つの電解液リバランス反応器80,82は、それぞれ、レドックスフロー電池システム10において、電池の負極側及び正極側で電解液の再循環流路と直列又は並列に接続されてもよい。冗長性のため(例えば、電池及びリバランス操作に支障を与えることなくリバランス反応器を提供するため)、及び、リバランス能力を向上させるため、1つ以上のリバランス反応器は、電池の負極側と正極側において電解液の再循環流路と直列に接続されてもよく、他のリバランス反応器は、電池の負極側と正極側において電解液の再循環流路と並列に接続されてもよい。1つの実施例では、電解液リバランス反応器80,82は、それぞれ、負極室20及び正極室22から負極電解液源チャンバ50及び正極電解液源チャンバ52への戻り流路に配置されてもよい。電解液リバランス反応器80,82は、本明細書に記載されるように、副反応、イオンのクロスオーバー等のために生じるレドックスフロー電池システムにおける電解液の電荷の不均衡をリバランスすることができる。1つの実施例では、電解液リバランス反応器80,82は、電解液リバランス反応を実施するため、パッキングされた床の触媒表面で水素ガスと電解液とが接触するトリクルベッド反応器(trickle bed reactor)を備えてもよい。他の実施例では、リバランス反応器80,82は、水素ガスと電解液と接触させ、パッキングされた触媒床(catalyst bed)がなくてもリバランス反応を実行することができるフロースルー型反応器(flow-through type reactor)を備えてもよい。
【0029】
レドックスフロー電池システムの動作中、センサ及びプローブは、電解液のpH、濃度、電荷の状態等の電解液の化学的特性を監視し、制御する。例えば、
図1に示すように、センサ62,60は、それぞれ、正極電解液チャンバ52及び負極電解液チャンバ50における正極電解液の状態及び負極電解液の状態を監視するように配置されてもよい。他の実施例として、
図1に示すセンサ72,70は、それぞれ、正極室22及び負極室20における正極電解液の状態及び負極電解液の状態を監視してもよい。1つの実施例では、センサ72,70は、レドックスフロー電池セル18のセパレータ24の正及び負側における圧力を示す信号をコントローラ88に送信する圧力センサを含んでいてもよい。セパレータ24の負及び正極室20,22における圧力は、負及び正極それぞれの入口及び出口の流れを制御することによって調整されてもよい。例えば、コントローラは、それに流体接続された真空ポンプ25のポンプ速度を上げること、負極電解液ポンプ30のポンプ速度を下げること、及び負極室からの出口流れを増加させるために背圧流量調整器21を絞ること、のうち1つ又はそれ以上によって、負極室20における圧力を下げてもよい。
【0030】
同様に、コントローラは、正極ポンプ32のポンプ速度を上げること、及び負極室からの出口流れを減少させるために背圧流量調整器23を絞ること、のうち1つ又はそれ以上によって、正極室22における圧力を上げてもよい。背圧流量調整器21、23は、オリフィス、バルブ等を含んでいてもよい。例えば、コントローラ88は、バルブ21をより開いた位置に配置し、負極室20からより高い出口流れを誘導する信号を送信してもよく、それによって、負極室圧力を下げる。正極室圧力(レドックスフロー電池の非ガス発生側)を上げて負極室圧力(レドックスフロー電池のガス発生側)を下げると、セパレータ24のクロスオーバー圧力(正から負)を上げることができる。換言すると、正のクロスオーバー圧力は、レドックスフロー電池の非ガス発生側における圧力が、レドックスフロー電池のガス発生側における圧力よりも大きいことを指し得る。正のクロスオーバー圧力を持つことによって、電池のガス発生側において発生した気泡の膜への浸透を緩和可能である。IFBの場合、水素ガスは、IFBの負側における副反応によって生成され、IFBの負側が、電池のガス発生側に対応する。正極電解液の流れを増加すること、正極電解液ポンプ32のポンプ速度を上げること、及び正極室22の出口における背圧を上げることによってクロスオーバー圧力を上げることは、ポンプの寄生損失が増加することがあるため、クロスオーバー圧力を上げる他の方法よりも望ましくない。
【0031】
センサは、電解液の化学的特性及びその他の特性を監視するために、レドックスフロー電池システム全体のその他の場所に配置されてもよい。例えば、センサは、外部酸タンク(図示せず)の酸の体積又はpHを監視するために、外部酸タンクに配置されてもよく、外部酸タンクからの酸は、電解液中の沈殿物の形成を低減するため、外部ポンプ(図示せず)によってレドックスフロー電池システムに供給される。他の添加剤をレドックスフロー電池システム10に供給するため、追加の外部タンクとセンサを取り付けてもよい。例えば、フィールド水和システムの温度センサ、圧力センサ、導電率センサ、及びレベルセンサを含む様々なセンサは、乾燥状態のレドックスフロー電池システムを水和する際に、コントローラ88に信号を送信してもよい。さらに、コントローラ88は、レドックスフロー電池システムの水和中に、フィールド水和システムのバルブ及びポンプ等のアクチュエータに信号を送ってもよい。センサ情報は、1つの実施例として、セル18を流れる電解液の流れを制御するため、又は、他の制御機能を実行するために、ポンプ30及び32を順に作動させ得るコントローラ88に送信されてもよい。このように、コントローラ88は、センサ及びプローブの1つ又は組み合わせに対して応じてもよい。レドックスフロー電池セル18は、レドックスフロー電池システム用のパワーモジュールの複数のレドックスフロー電池セルスタックの1つの中に配置されてもよい。レドックスフロー電池セルスタック内のそれぞれのレドックスフロー電池セル18は、レドックスフロー電池セルスタック内の他のレドックスフロー電池セルと直列及び/又は並列に電気接続されてもよい。さらに、それぞれのレドックスフロー電池セルスタックは、パワーモジュール内の他の複数のレドックスフロー電池セルスタックと直列及び/又は並列に電気接続されてもよい。このようにして、レドックスフロー電池セルスタックは、電気的に組み合わせられてパワーモジュールから電源を供給してもよい。
【0032】
レドックスフロー電池システム10は、水素ガス源をさらに備えてもよい。1つの実施例では、水素ガス源は、別個の専用の水素ガス貯蔵タンクを備えてもよい。
図1に示す例では、水素ガスは、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110に貯蔵され、当該統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から供給されてもよい。統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110は、正極電解液チャンバ52及び負極電解液チャンバ50に追加の水素ガスを供給してもよい。統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110は、追加の水素ガスを電解液リバランス反応器80,82の入口に交互に供給してもよい。1つの実施例として、質量流量計又はコントローラ88によって制御可能な他の流量制御装置が統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110からの水素ガスの流れを調整してもよい。
【0033】
統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110は、レドックスフロー電池システム10において生成された水素ガスを補ってもよい。例えば、レドックスフロー電池システム10においてガス漏れが検出された場合、又は、低水素分圧における還元反応速度が低すぎる場合、正極電解液及び負極電解液中の電気活性種の電荷の状態をリバランスするために、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から水素ガスが供給されてもよい。1つの実施例として、コントローラ88は、測定されたpHの変化に応じて、又は電解液又は電気活性種(electro-active species)の測定された電荷の状態の変化に応じて、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から水素ガスを供給してもよい。例えば、負極電解液チャンバ50又は負極室20のpHの上昇は、レドックスフロー電池システム10から水素が漏れていること、及び/又は、利用可能な水素分圧では反応速度が遅すぎることを示している場合がある。pH上昇に応じて、コントローラ88は、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110からレドックスフロー電池システム10への水素ガスの供給を増加させてもよい。さらなる例として、第1の閾値pHを超えて増加する、又は、第2の閾値pHを超えて減少するというpHの変化に応じて、コントローラ88は、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から水素ガスを供給してもよい。IFBの場合、コントローラ88は、第二鉄イオン(ferric ion)の還元速度及びプロトンの生成速度を増加させるため、追加の水素を供給してもよく、これにより、正極電解液のpHを低下させることができる。さらに、正極電解液から負極電解液にクロスオーバーする(crossing over)第二鉄イオンの水素還元によって、又は、正極側で生成されて、プロトン濃度勾配及び電気泳動力により負極電解液にクロスオーバーするプロトンによって、負極電解液pHは低下する場合がある。このようにして、第二鉄イオン(正極室からクロスオーバーする)がFe(OH)3として沈殿するリスクを低減しながら、負極電解液のpHを安定した領域内に維持することができる。
【0034】
酸素還元電位(ORP)メータまたは光学センサ等の他のセンサによって検出された、電解液のpHの変化又は電解液の電荷の状態の変化に応じて、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110からの水素ガスの供給速度を制御するための他の制御スキームが実装されてもよい。さらに、コントローラ88の動作をトリガーするpHの変化又は電荷の状態の変化は、変化率又は一定の期間にわたって測定された変化の速さに基づいてもよい。変化の速さを算出する期間は、レドックスフロー電池システムの時定数に基づいて事前に決定又は調整されてもよい。例えば、時定数が小さいため、(例えば、副反応やガス漏れによる)濃度の局所的な変化を迅速に測定することができ、再循環率が高い場合は、当該期間を短縮できる。
【0035】
ここで
図2A~2Dを参照すると、それらは、負極電解液270が流れる負極室210と、正極電解液280が流れる正極室220と、を含むレドックスフロー電池セル200の一例の部分詳細図を示す。負極室210及び正極室220は、レドックスフロー電池システム10の負極室20及び正極室22にそれぞれ対応していてもよい。負極電解液270及び正極電解液280のバルク流れ方向は、それぞれ矢印272,282によって示される。セパレータ230は、正及び負極室210,220の間に介在し、正極室220に面したイオン交換膜(IEM)層236に隣接して配置される負極室210に面した、疎水性(例えば油ベース又は非油ベースだが孔径が小さい)微多孔膜層234を含む。換言すると、負極電解液270は、微多孔膜層234に隣接して流れ、正極電解液280は、IEM層236に隣接して流れる。さらに、セパレータは、疎水性及び親水性の表面特性の両方を示すハイブリッド膜でもよい。1つの実施例では、イオン交換膜は、ナフィオン膜を含んでいてもよい。他の実施例では、セパレータ230は、ハイブリッド膜を備えていてもよく、IEMの層で微多孔質基材をコーティングし、IEM層236と同様であり得る。
【0036】
図2Aは、負極室210及び正極室220の両方がそれぞれ負極電解液270及び正極電解液280で満たされている場合を示しており、電解液が乾燥状態で前に電池セルに導入された場合の電池セル起動条件を含む。その疎水性のため(又は小さな穴から生じる毛管力のため)、微多孔膜層234は、不完全に濡れていることがあり、そのため、乾燥状態から最初に濡れたときにその孔内に閉じ込められた空気を含む可能性がある。微多孔膜層230内におけるガスの存在は、セパレータ230のイオン抵抗を増加させ、これにより、セパレータ230を横切るイオン移動度を低下させる可能性がある。結果として、レドックスフロー電池システムの効率及び性能は、微多孔膜層234内における空気の存在によって低下する可能性がある。さらに
図2Bに示すように、レドックスフロー電池セルの充電中、負極室210において起こる副反応(例えば、水素プロトン及び金属腐食の還元)は、水素ガスを生成し、微多孔膜層234内に閉じ込められることができる。微多孔膜層234内における水素ガスの存在は、セパレータ230を横切る抵抗をさらに増加させる可能性がある。
【0037】
図2Cは、負極電解液270が負極室210から排出され、アルゴン(Ar)及び/又は空気などの不活性ガスで満たされたレドックスフロー電池セルを示し、負極電解液が最初に排出される電池セルの排出中の状態に似ている。正極室220が水性正極電解液280で満たされているため、正極室220から負極室210までセパレータ230を横切って、正の水圧がかかる。したがって、水は、IEM層236を横切って押し入り、微多孔膜層234からのガス(例えば、空気、水素)のパージを助けることができる。微多孔膜層234からのガスのこのパージは、負極室210の排出に続いて、レドックスフロー電池セルで観察される性能のステップ増加(step-increases)(例えば、より速い充電及び放電速度)を説明可能である。したがって、正のクロスオーバー圧力でレドックスフロー電池を動作させることによって、正極室における圧力が、負極室における圧力よりも大きく維持され、レドックスフロー電池セルセパレータ230の微多孔膜層からのガスのパージを助け、レドックスフロー電池セルの抵抗を減らすことが可能である。正のクロスオーバー圧力の維持は、
図1を参照して上述されたように、正極室220における圧力を上げる、及び負極室210における圧力を下げる、のうち1つ又はそれ以上によって実行されてもよい。
【0038】
逆に、
図2Dは、正極電解液280が正極室220から排出され、アルゴン(Ar)及び/又は空気などの不活性ガスで満たされたレドックスフロー電池セルを示し、正極電解液が最初に排出される電池セルの排出中の状態に似ている。負極室210が水性正極電解液280で満たされているため、負極室210から正極室220までセパレータ230を横切って、正の水圧がかかる。したがって、親水性のIEM層236は、疎水性の微多孔膜層234から水を吸い上げる。しかしながら、微多孔膜層234の疎水性の性質のため、負極室210からの水による微多孔膜層234の濡れは、IEMからの水の乾燥よりもかなり遅いことがある。換言すると、微多孔膜層234からIEM層236への水の物質移動速度は、負極電解液270から微多孔膜層234への水の物質移動速度よりも、著しく速いことがある。その結果、
図2Dの条件下では、スタックを横切る抵抗は、急速かつ迅速に上がり、微多孔膜層234を再度濡らすために負極室210に負極電解液270を満たして循環させたのちにのみ下がることが観察された。したがって、負のクロスオーバー圧力でレドックスフロー電池を動作させることによって、正極室における圧力は、負極室における圧力よりも低く維持され、レドックスフロー電池セルの抵抗を上げて、レドックスフロー電池の性能を低下させる。
【0039】
図3は、データプロット300を示し、レドックスフロー電池システムの種々の試験動作条件を示し、パワーモジュール電圧310、電流320、正の位置繰り圧力330、及び負の入口圧力340を含む。図に示すように、正の入口圧力330及び負の入口圧力340(それぞれセパレータの正側及びセパレータの負側における圧力に対応)は、レドックスフロー電池システムの動作中、ほぼ同等であった。換言すると、試験動作時における膜の正側から負側への圧力差又はクロスオーバー圧力は、無視してよい程度だった。そのように、正の入口圧力340及び負の入口圧力340のプロットは、2つの値が実質的に等しいデータプロット300の部分に沿って互いに重なり合うことがある。電気抵抗は、電圧310を電流320で割ることによって計算され、内部抵抗グラフ300により、経時的な抵抗の視覚化が可能である。動作試験中、レドックスフロー電池システムパワーモジュールは、65分間動作し、内部抵抗は、初期の100ミリオームから205ミリオームまで増加した。初期抵抗の約2倍の内部抵抗の増加は、セパレータの孔内における気泡の存在に起因するものと考えられる。
図2A-Dを参照して説明したように、セパレータの疎水側における負極電解液での副反応から生成される水素ガスは、充電時に膜孔に移動し、膜を通るイオン移動度の低下を引き起こす。内部抵抗のこの増加は、電池モジュールの全体的な効率を低下させため、問題がある。
【0040】
図4は、他のデータプロット400を示し、レドックスフロー電池システムの種々の試験動作条件を示し、パワーモジュール電圧410、電流420、正の入口圧力430、及び負の入口圧力440を含む。電気抵抗は、電圧を電流で割ることによって計算され、内部抵抗グラフ400によって、経時的な抵抗の視覚化が可能である。これらの試験条件中、パワーモジュールは、正の入口圧力430が負の入口圧力440よりも高いことから分かるように、正負の圧力差又はクロスオーバー圧力を5kPaとして約1時間運転される。試験動作中、パワーモジュール内部抵抗は、約100ミリオームの初期内部抵抗に維持された。
図2A-2Dを参照して上で説明したように、スタックの正側における電解液圧力が高いと、水をセパレータに押し出し、そこに入り込んだ水素気泡を全てパージする。したがって、クロスオーパー圧力が無視できる(例えば
図3)際におけるレドックスフロー電池システムの動作時に観察される抵抗の増加は、軽減される。パワーモジュールの内部抵抗が低いときにレドックスフロー電池システムを動作させると、電池モジュール全体の効率が上がるため有益である。
【0041】
図5は、プロット500を示し、濡れハイブリッド膜(510,520,及び540)及び非コーティング微多孔膜(530)を示す水カラム透過性圧力試験を含む。特に、カラムの高さは、時刻0で膜に加えられた静水圧を示す。4kPa(510)、6kPa(520)、及び12kPa(530,540)の様々な水圧が膜に加えられた。4kPaの印加圧力510に対応するデータは、約1250分後に圧力損失がないことを示し、4kPaが膜透過圧力(突破圧力)を下回っていることを示唆する。膜突破圧力以下で動作させると、レドックスフロー電池セルの正負の電解液管におけるイオン混合を減らすことが可能である。同様に、6kPaの印加圧力520に対応するデータは、約1250分後に圧力損失がないことを示し、6kPaが膜突破圧力を下回っていることを示唆する。対照的に、12kPaの印加圧力530,540に対応するデータは、時刻0ですぐに圧力の連続的な損失(水カラムの高さの損失によって示される)が始まることを示し、水が、12kPaで膜を破っていることを示唆する。換言すると、12kPaは、膜の突破圧力よりも大きい。コーティングしていない微多孔質基板530を使用すると、540に比較して530のカラムの高さの減少速度が速くなることから分かるように、膜を通る水の突破速度が増加するため、膜の性能が低下するようだ。したがって、膜の突破圧力は、6kPaから12kPaまでの間であると決定可能である。突破圧力をより正確に評価するために、6と12kPaとの中間の圧力でさらに試験が行われてもよい。したがって、セパレータを横切る閾値圧力より上、ただし突破圧力よりも下でレドックスフロー電池セルを動作させることによって、レドックスフロー電池の内部抵抗を維持しつつ、膜突破を軽減することができる。
【0042】
ここで
図6を見ると、それは、レドックスフロー電池システムの動作の方法600を示し、レドックスフロー電池システム10を含む。方法600は、コントローラ88の基板上のメモリーに格納された実行可能な命令として、コントローラ88によって実行されてもよい。方法600を実行する間、コントローラ88は、レベル、温度、圧力、流量計、及び導電率センサなどの種々のセンサ及び計器から信号を受信し、それに応じて信号を送信して、ポンプ、バルブ、ヒータなどのレドックスフロー電池システム10の種々の装置を作動させてもよい。
図6は、610で始まり、コントローラ88は、レドックスフロー電池セルのpH、電池SOC、電解液濃度、負及び正極室圧力などのレドックスフロー電池システムの種々の動作条件を決定する。
【0043】
次に、620において、方法600は、セパレータ24の閾値クロスオーバー圧力を決定する。1つの実施例では、閾値クロスオーバー圧力は、膜突破圧力に対応していてもよい。膜突破圧力は、
図5を参照して説明されたようにセパレータ24を水カラム圧力試験にかけるなどのオフライン試験において予め決定可能である。他の実施例では、膜突破圧力は、レドックスフロー電池セルのパイロット規模又は実験室規模の試験を通して決定されてもよい。例えば、クロスオーバー圧力は、パイロットレドックスフロー電池セルの動作中に徐々に上げることが可能であり、突破圧力は、電解液の混合及び電池の充電/放電の低下が観察されるときに示されることが可能である。他の実施例では、閾値クロスオーバー圧力は、膜突破圧力よりも低い圧力に対応していてもよい。例えば、閾値クロスオーバー圧力は、突破圧力の割合で設定されてもよいし、突破圧力よりも閾値膜圧力差だけ低い圧力に設定されてもよい。このようにして、圧力スパイク中又は膜の劣化及び経時的な透過性の変化などによる突破事象は、軽減可能である。このようにして、レドックスフロー電池システムの膜突破時の動作のリスクは、減らすことが可能である。
【0044】
方法600は、630において続き、レドックスフロー電池システムは、膜閾値圧力よりも低いクロスオーバー圧力(正極側圧力が負極側よりも高い)で動作される。別の言い方をすれば、非ガス発生側圧力は、ガス発生側圧力よりも高い。クロスオーバー圧力は、膜閾値圧力の予め決定された割合となるように選択されてもよい。例えば、クロスオーバー圧力は、膜閾値圧力の60から80%とされてもよい。あるいは、クロスオーバー圧力は、クロスオーバー圧力よりも予め決定された圧力差だけ低くなるように選択されてもよい。例えば、クロスオーバー圧力は、クロスオーバー圧力よりも2kPaだけ低くなるように選択されてもよい。クロスオーバー圧力は、レドックスフロー電池セル18に出入りする負極及び正極電解液の流量を制御することによって、調整されてもよい。例えば、クロスオーバー圧力は、正極電解液ポンプ32のポンプ速度を上げる、負極電解液ポンプ30のポンプ速度を下げる、正極室22の出口における背圧を上げる(例えば背圧流量調整器23を絞ることによって)、負極室20の出口における背圧を下げる、及びレドックスフロー電池セルの負極側における真空を上げる(例えばそれに流体結合された真空ポンプ25の速度を上げることによって)、の1つ又はそれ以上によって上げられてもよい。逆に、クロスオーバー圧力は、正極電解液ポンプ32のポンプ速度を下げる、負極電解液ポンプ30のポンプ速度を上げる、負極室20の出口における背圧を上げる(例えば背圧流量調整器21を絞ることによって)、負極室20の出口における背圧を上げる、及びレドックスフロー電池セルの負極側における真空を下げる(例えばそれに流体結合された真空ポンプ25の速度を下げることによって)、の1つ又はそれ以上によって下げられてもよい。正極電解液ポンプ32のポンプ速度を上げ、正極室22の出口における背圧を上げることによって正極電解液の流れを増やしてクロスオーバー圧力を上げることは、ポンプの寄生損失が増えるため、クロスオーバー圧力を上げる他の方法よりも望ましくないことがある。
【0045】
次に、640において、方法600は、レドックスフロー電池システムが充電モードで操作しているかを判定することによって、続く。レドックスフロー電池システムが充電モードで動作している場合、負極室内の水素ガスは、充電モードで動作していないときよりも速く生成され、セパレータの孔における気泡の侵入及び閉じ込めのリスクが高まる。したがって、充電モードでの動作に応じて、コントローラは、644において、クロスオーバー圧力を閾値クロスオーバー圧力に設定してもよい。閾値クロスオーバー圧力は、セパレータ24に侵入して閉じ込められた気泡をパージするのに十分高いが、突破を軽減する突破圧力よりも十分に低いように選択される予め決定されたクロスオーバー圧力であってもよい。上述のように、コントローラ88は、正極室22における圧力を上げる、及び負極室20における圧力を下げる、のうち1つ又は両方によってクロスオーバー圧力を上げてもよい。例えば、正極室22における圧力を上げるために、コントローラ88は、正極室への流量を上げるために正極電解液ポンプ32の速度を上げる、背圧流量調整器23を絞ることによって正極室22からの出口流れを減らす、のうち1つ又はそれ以上を実行してもよい。さらに、負極室20における圧力を下げるために、コントローラ88は、負極室20への真空を上げるために真空ポンプ25の速度を上げる、負極室への電解液の流量を減らすために負極ポンプ30の速度を下げる、背圧流量調整器21を絞ることによって負極室20からの出口流れを増やす、のうち1つ又はそれ以上を実行してもよい。クロスオーバー圧力を突破圧力よりも低く維持しつつ、クロスオーバー圧力を上げることによって、コントローラ88は、突破による負極電解液の正極電解液との混合を減らしつつ、レドックスフロー電池の抵抗を維持可能である。
【0046】
レドックスフロー電池システムが640において充電モードで動作せず、クロスオーバー圧力を閾値クロスオーバー圧力に設定した後に644から続ける場合、方法600は、650において続いてもよく、コントローラ88は、レドックスフロー電池の抵抗の増加が閾値の抵抗の増加よりも大きいことを判定する。抵抗の閾値増加は、典型的な動作変動及びノイズを超える抵抗に対応することがある。例えば、閾値抵抗を超える抵抗の増加は、セパレータ24における気泡の侵入を示すことがある。さらに、抵抗の閾値増加は、閾値期間にわたって測定されてもよく、抵抗の閾値増加が抵抗の閾値増加率に対応し、セパレータ24へのガス侵入によって特徴付けられる。抵抗の閾値増加よりも大きい抵抗の増加に応じて、コントローラ88は、644において上述したように、クロスオーバー圧力を突破圧力よりも低く維持しつつ、654において、クロスオーバー圧力を増加させてもよい。このように、充電モードの動作外であっても、コントローラ88は、突破を減らしつつレドックスフロー電池の抵抗を維持可能であり、それによってレドックスフロー電池の性能を向上可能である。
【0047】
1つの実施例では、抵抗のレドックスフロー電池閾値増加は、所与の充電状態における電池充電電圧及び電池充電電流のためのレドックスフロー電池システムの予め決定されたルックアップテーブル特性(look up table characteristic)によって示されてもよい。ルックアップテーブルに示されているよりも、レドックスフロー電池電流が所与の充電電圧において低い、又はレドックスフロー電池電圧が所与の充電電流で高い場合、レドックスフロー電池抵抗増加は、閾値抵抗よりも大きいことがある。
【0048】
次に、660において、650における閾値増加よりも大きな抵抗の増加がなく、抵抗の閾値増加率よりも大きな抵抗の増加率を含み、654から続く場合、コントローラ88は、レドックスフロー電池の抵抗における増加が、下限閾値抵抗増加よりも小さいことを判定してもよい。下限閾値抵抗増加は、閾値期間にわたる下限抵抗増加に対応していてもよく、セパレータへのガス侵入のリスクがより低いことを示す。抵抗増加が下限閾値抵抗増加よりも小さい場合、コントローラ88は、それに応じてクロスオーバー圧力を下げ、クロスオーバー圧力を下限閾値クロスオーバー圧力よりも大きく維持する。下限閾値クロスオーバー圧力は、クロスオーバー圧力に対応していてもよく、それよりも低い場合、セパレータへのガス侵入のリスクが高い。1つの実施例では、下限クロスオーバー圧力は、0に対応していてもよく、レドックスフロー電池システムの動作中に、正極室圧力が、負極室圧力よりも大きい又は等しくなるように維持される。コントローラ88は、正極電解液ポンプ32の速度を下げる、背圧流量調整器23を絞ることによって正極室22からの出口流れを上げる、負極電解液ポンプ30の速度を上げる、真空ポンプ25の速度を下げる、及び背圧流量調整器21を絞ることによって負極室20からの出口流れを下げる、のうち1つ又はそれ以上を実行することによって、クロスオーバー圧力を下げてもよい。クロスオーバー圧力を下限閾値クロスオーバー圧力よりも大きく維持しつつクロスオーバー圧力を低下させることによって、レドックスフロー電池システムの動作コストを減らすことができる。664の後、抵抗増加が660における抵抗の下限閾値増加よりも大きい場合、方法600は、終了する。
【0049】
したがって、レドックスフロー電池システムの動作方法は、レドックスフロー電池の抵抗が抵抗の閾値増加よりも大きいことに応じて、レドックスフロー電池の正極室圧力を上げる、及びレドックスフロー電池の負極室圧力を下げる、のうち1つ又はそれ以上を実行することによってクロスオーバー圧力を上げ、クロスオーバー圧力は、正極室圧力から負極室圧力を減じたものに等しい。方法の第1の例は、レドックスフロー電池システムの充電に応じて、正極室圧力を上げる、及び負極室圧力を下げる、のうち1つ又はそれ以上を実行することによって、クロスオーバー圧力を閾値クロスオーバー圧力まで上げることを含む。方法の第2の例は、第1の例を任意で含み、さらに、閾値クロスオーバー圧力が、レドックスフロー電池のセパレータ膜の突破圧力よりも小さいことを含む。方法の第3の例は、第1及び第2の例のうち1つ又はそれ以上を任意で含み、さらに、負極室圧力を下げることが、負極室に流体結合された真空ポンプの速度を上げることを含む。方法の第4の例は、第1から第3の例のうち1つ又はそれ以上を任意で含み、さらに、負極室圧力を下げることが、負極室に負極電解液を供給する電解液ポンプの速度を下げることを含む。方法の第5の例は、第1から第4の例のうち1つ又はそれ以上を任意で含み、さらに、負極室圧力を下げることが、負極室からの負極電解液の出口流れを増やすために負極室の出口に流体結合された背圧流量調整器を絞ることを含む。方法の第6の例は、第1から第5の例のうち1つ又はそれ以上を任意で含み、さらに、正極室圧力を上げることが、正極室に正極電解液を供給する電解液ポンプの速度を上げることを含む。方法の第7の例は、第1から第6の例のうち1つ又はそれ以上を任意で含み、さらに、正極室圧力を上げることが、正極室からの正極電解液の出口流れを減らすために正極室の出口に流体結合された背圧流量調整器を絞ることを含む。
【0050】
したがって、レドックスフロー電池システムは、イオン透過性セパレータによって電気的に分離された負及び正極室と、負及び正極室に負極及び正極電解液を供給する負極及び正極電解液ポンプと、コントローラと、を含み、コントローラの基板上のメモリーに常駐する実行可能な命令を含み、レドックスフロー電池システムの充電に応じて、正極室圧力を上げる、及び負極室圧力を下げる、のうち1つ又はそれ以上を実行することによってクロスオーバー圧力を増加させ、クロスオーバー圧力が、正極室圧力から負極室圧力を減じたものに等しい。レドックスフロー電池システムの第1の例は、負極室圧力を下げるための実行可能な命令が、負極電解液ポンプの速度を下げることを含む。レドックスフロー電池システムの第2の例は、第1の例を任意で含み、さらに、負極室に流体結合された真空ポンプを含み、負極室圧力を下げるための実行可能な命令が、真空ポンプの速度を下げることを含む。レドックスフロー電池システムの第3の例は、第1及び第2の例のうち1つ又はそれ以上を任意で含み、さらに、正極室圧力を上げるための実行可能な命令が、正極電解液ポンプの速度を上げることを含む。レドックスフロー電池システムの第4の例は、第1から第3の例のうち1つ又はそれ以上を任意で含み、さらに、正極室の出口に流体結合された背圧流量調整器を含み、正極室圧力を上げるための実行可能な命令が、背圧流量調整器を絞ることによって正極室からの正極電解液の出口流れを減らすことを含む。レドックスフロー電池システムの第5の例は、第1から第4の例のうち1つ又はそれ以上を任意で含み、さらに、イオン透過性セパレータが、ハイブリッド膜を含み、ハイブリッド膜が、微多孔膜層が、負極室に面しており、イオン交換膜層が、正極室に面している。レドックスフロー電池システムの第6の例は、第1から第5の例のうち1つ又はそれ以上を任意で含み、さらに、閾値クロスオーバー圧力が、3以上7kPa以下であることを含む。
【0051】
このように、レドックスフロー電池の動作方法は、正極室圧力を負極室圧力よりも高く維持すること、及びクロスオーバー圧力を膜突破圧力よりも低く維持することを含み、クロスオーバー圧力は、正極室圧力から負極室圧力を減じたものに等しい。方法の第1の例は、レドックスフロー電池の抵抗の増加が閾値増加よりも小さいことに応じて、クロスオーバー圧力を下限クロスオーバー圧力よりも高く維持しつつ、クロスオーバー圧力を下げることを含む。方法の第2の例は、第1の例を任意で含み、さらに、レドックスフロー電池の抵抗の増加が閾値増加よりも大きくなり始めたことに応じて、クロスオーバー圧力が膜突破圧力よりも低くなるように維持しつつ、クロスオーバー圧力を上げることを含む。方法の第3の例は、第1及び第2の例のうち1つ又はそれ以上を任意で含み、さらに、レドックスフロー電池の抵抗の増加が、閾値期間にわたって決定されることを含む。方法の第4の例は、第1から第3の例のうち1つ又はそれ以上を任意で含み、さらに、レドックスフロー電池の抵抗の増加が、充電モード外で決定されることを含む。
【0052】
このように、セパレータのイオン抵抗を減らす技術的効果は、セパレータの突破を減らしつつ、その中に閉じ込められた気泡を減らすことによって達成可能であり、レドックスフロー電池システムの性能を向上させることができる。
【0053】
本開示に含まれる例示的な制御及び判断手順(estimation routines)は、様々な電池構成で使用可能であることに留意されたい。本開示で開示される制御方法及び手順は、実行可能な命令として非一時的なメモリーに格納され、様々なセンサ、アクチュエータ、及び他の電池ハードウェアと組み合わせられたコントローラを含む制御システムによって実行されてもよい。ここで説明された特定の手順は、イベント駆動、割り込み駆動、マルチタスク、マルチスレッドなどの任意の数の処理ストラテジーのうち1つ又はそれ以上を表していてもよい。したがって、示された様々なアクション、動作、及び/又は機能は、示されたシーケンスにおいて、平行して又は場合によっては省略されて実行されてもよい。同様に、処理の順序は、本開示で開示された例示的な実施形態の特徴及び利点を達成するために必ずしも必要なものではないが、例示及び説明の容易のために提供される。示されているアクション、動作、及び/又は機能の1つ又はそれ以上は、使用されている特定のストラテジーに応じて繰り返し実行される。さらに、説明されたアクション、動作、及び/又は機能は、エンジン制御システム内のコンピューター可読記憶媒体の非一時的メモリーにプログラムされるコードをグラフィカルに表すことができ、説明されたアクションは、電子コントローラと組み合わせられて様々な電池ハードウェアの構成を含むシステムで命令を実行することによって行われる。
【0054】
以下の請求項は、新規かつ非自明とみなされる特定の組合せ及び部分的組合せを特に指摘している。これらの請求項は、要素「an」又は要素「a first」又はそれらの同等物を指すことがある。そのような請求項は、2以上のそのような要素を必要とすることも除外されることもなく、そのような要素を1つ又はそれ以上組み込むことを含むと理解されるべきである。開示された特徴、機能、要素、及び/又は特性の他の組合せ及び部分的組合せは、現在の請求項の補正を通じて、又は、本願又は関連する出願における新しい請求項の提示を通じて、請求されることがある。そのような請求項は、元の請求項よりも、広い、狭い、等しい、又は異なる範囲であっても、本開示の構成要件内に含まれるものとみなされる。