(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】電解液の健全性とシステム性能を維持するためのフロー電池洗浄サイクル
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20220809BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20220809BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20220809BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20220809BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20220809BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/04 Z
H01M8/04537
H01M8/04313
H01M8/04858
(21)【出願番号】P 2019558795
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 US2018030024
(87)【国際公開番号】W WO2018201093
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-22
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519297300
【氏名又は名称】イーエスエス テック インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】ESS Tech,Inc.
【住所又は居所原語表記】26440 SW Parkway Avenue,Wilsonville,Oregon 97070 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンズ クレイグ イー.
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-204135(JP,A)
【文献】特表2016-517137(JP,A)
【文献】特開平04-223049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電解液ポンプによる正極室と正極電解液チャンバとの間における正極電解液の循環と、
負極電解液ポンプによる負極室と負極電解液チャンバとの間における負極電解液の循環と、を含み、
レドックスフロー電池容量が閾値電池容量未満である場合
、及び前記正極電解液のSOCが閾値放電SOC未満である場合のうち、1つ以上を含む第1の条件に応じて、レドックスフロー電池の充電状態(SOC)が閾値SOC未満となるまで前記正極電解液と前記負極電解液とを混合することを含む電池洗浄サイクルの実施、を含む、
レドックスフロー電池システムの作動方法。
【請求項2】
前記第1の条件は、前記正極電解液のpHが閾値pH未満である場合をさらに含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記正極電解液と前記負極電解液との混合は、前記正極電解液チャンバから前記負極電解液チャンバへと前記正極電解液の流れを誘導するために、第1の混合バルブを開けることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記正極電解液と前記負極電解液との混合は、前記第1の混合バルブが開いている間、前記負極電解液ポンプを作動することを含む、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記正極電解液と前記負極電解液との混合は、前記第1の混合バルブが開いている間、前記正極電解液ポンプを停止することを含む、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記正極電解液と前記負極電解液との混合は、第1の閾値持続時間の間、前記第1の混合バルブを開けることを含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記電池洗浄サイクルの実施は、前記正極電解液のSOCが前記閾値放電SOCよりも大きい場合、前記レドックスフロー電池システムの作動を放電モードに切り替えることを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記電池洗浄サイクルの実施は、前記正極電解液のpHが前記閾値pHよりも大きい場合に、前記正極電解液の流れをリバランス反応器へと誘導することを含む、請求項
2に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の閾値持続時間の経過に応じて、電解液を前記負極電解液チャンバから前記正極電解液チャンバへと誘導するため、前記第1の混合バルブを閉じ、第2の混合バルブを開けることをさらに含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項10】
充電モード、放電モード、又はアイドルモードにおけるレドックスフロー電池システムの作動を含み、
レドックスフロー電池容量が閾値電池容量未満であることに応じて、
前記レドックスフロー電池システムを前記放電モードで作動するように切り替え、
正極電解液及び負極電解液をリバランス反応器へと流すことにより、電解液の充電状態(SOC)を減らすことを含む、
レドックスフロー電池システムの洗浄方法。
【請求項11】
前記正極電解液のSOC及びpHがそれぞれ閾値正極電解液SOC未満及び閾値pH未満であることに応じて、前記正極電解液と前記負極電解液とを混合することをさらに含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記正極電解液と前記負極電解液との混合は、第1の閾値持続時間の間、正極室から負極室へ電解液を流すことを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の閾値持続時間の経過後、第2の閾値持続時間の間、前記負極室から前記正極室へ電解液を流すことをさらに含む、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の閾値持続時間の後であって前記第2の閾値持続時間の前の遅延時間の間、前記負極室と前記正極室とを流体的に隔離することをさらに含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の閾値持続時間は、前記レドックスフロー電池容量と前記閾値電池容量との差に伴って増加する、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
正極室及び負極室を備えたレドックスフロー電池セルと、
前記正極室と前記負極室との間に流体接続された混合バルブと、
前記正極室を通って電解液を循環させるための正極電解液ポンプ及び負極電解液ポンプと、
メモリに記憶された実行可能な命令を含むコントローラと、を含み、
レドックスフロー電池容量が閾値電池容量未満であることに応じて、正極電解液と負極電解液との混合を含む電池洗浄サイクルを実施すること
と、レドックスフロー電池の充電状態(SOC)が閾値SOC未満である場合、前記電池洗浄サイクルを停止させることを含む、
レドックスフロー電池システム。
【請求項17】
前記正極電解液と前記負極電解液とを混合するための前記実行可能な命令は、前記負極電解液ポンプを作動させ、前記正極電解液ポンプを停止させつつ、第1の閾値持続時間の間、前記混合バルブを開けることを含む、請求項
16に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項18】
前記実行可能な命令は、前記第1の閾値持続時間の後、前記負極電解液ポンプを停止させ、前記正極電解液ポンプを作動させつつ、前記混合バルブを閉じることをさらに含む、請求項
17に記載のレドックスフロー電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、「電解液の健全性とシステム性能を維持するためのフロー電池洗浄サイクル」と題され、2017年4月28日に出願された米国仮出願第62/491,964号の優先権を主張する。上記出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(政府の支援の承認)
本発明は、DOE、ARPA-Eオフィスによって与えられた嘱託番号DEAR0000261の下で政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に所定の権利を有する。
【0003】
本明細書は、包括的に、レドックスフロー電池システムの作動方法に関するものである。
【背景技術】
【0004】
容量の低下は、すべての電池の作動で直面する費用のかかる問題である。容量の低下は、例えば、電池の寿命全体にわたる、正極または負極の副反応、内部短絡、イオン移動等に起因する。鉄のレドックスフロー電池の特定の実施例では、負極側の副反応には、水素の発生に加えて、プロトン(H+)及び鉄(Fe3+)イオンによる鉄の腐食が含まれる。各副反応は、システムの正極電解液の不均衡(imbalance)につながり、結果として容量の低下を引き起こし、当該容量の低下は時間を経るにつれて進み、電池の耐用年数を短くする可能性がある。
【0005】
一般に、レドックスフロー電池システムは、(電池セルに対して)外部サブシステムを使用して正極電解液及び負極電解液の健全性の状態(states of health)を管理することにより、従来の電池に比べて容量損失率が低くなり得る。例えば、Evans(米国特許第9,509,011号)は、正極電解液の化学状態をリバランス及び管理するために用いられるサブシステムを備えたレドックスフロー電池システムを開示している。別の例では、Li(米国特許出願2016/0006054)は、追加の化学物質をレドックスフロー電池システムに追加して、正極電解液の不均衡を低減し得るレドックスフローシステムを開示している。
【0006】
本発明者らは、上記の方法の潜在的な欠点を認識している。具体的には、他の化学物質を追加するには、個別のタンクと、システムの複雑さを増すこと及びコストの全体的な増大とが必要である。さらに、サブシステムの非効率性、長期サイクル及び繰り返しサイクル、電解液の不均衡によって、容量の低下は十分に軽減されない場合がある。
【0007】
一例として、前述の問題は、正極電解液ポンプによる正極室と正極電解液チャンバとの間における正極電解液の循環と、負極電解液ポンプによる負極室と負極電解液チャンバとの間における負極電解液の循環と、を含み、レドックスフロー電池容量が閾値電池容量未満である場合を含む第1の条件に応じて、レドックスフロー電池の充電状態(SOC)が閾値SOC未満となるまで正極電解液と負極電解液とを混合することを含む電池洗浄サイクルの実施、を含む、レドックスフロー電池システムの作動方法によって少なくとも一部を対処し得る。
【0008】
このように、本明細書に記載のシステム及び方法は、従来の電池システムと比較して、繰り返し及び周期的な、充電及び放電によって引き起こされる電池システム容量の低下を低減することを含む、レドックスフロー電池システムの電解液の健全性の向上を維持できる。特に、本明細書で説明されるシステム及び方法は、閾値容量損失(threshold capacity loss)を超える容量の損失を経験することなく、サイクル数を増やしたレドックスフロー電池システムの作動を可能にする。さらに、本明細書に記載の方法及びシステムは、既存の電解液貯蔵チャンバを利用しながら、さらに追加の電解液貯蔵タンクなしで実施することができるため、システムの複雑さとコストが低減される。
【0009】
上記の概要が詳細な説明においてさらに説明される概念の選択を簡略化した形式で導入するために提供されることを、理解されたい。それは、クレームされた構成要件の重要な又は本質的な特徴を特定することを意図するものではなく、その範囲は、詳細な説明に続く請求項によって一意に定義される。さらに、クレームされた構成要件は、上記又は本開示の任意の部分で言及された欠点を解決する実施に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、マルチチャンバ電解液貯蔵タンクを備えるレドックスフロー電池システムの例を示す配置図である。
【
図2】
図2は、
図1のレドックスフロー電池システムの洗浄方法を実施するための、
図1のレドックスフロー電池システムの電解液フロー回路構成の例を示している。
【
図3】
図3は、
図1のレドックスフロー電池システムの洗浄方法を実施するための
図1のレドックスフロー電池システムの電解液フロー回路構成の例を示している。
【
図4】
図4は、
図1の洗浄モードにおけるレドックスフロー電池システムの作動方法の例示的なフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図1のレドックスフロー電池システムの電池容量のパーセント対サイクル数のグラフを示す。
【0011】
(詳細な説明)
本明細書では、レドックスフロー電池システムの例示的な電解液洗浄方法を説明する。洗浄方法(または洗浄モード(mode))は、電解液の健全性とシステム性能を維持するために、
図1に示すレドックスフロー電池システムとともに使用されてもよい。この方法は、正極電解液及び負極電解液の両方で同じ電解液化学物質が使用されるレドックスフロー電池システムで作動するように設計されており、電池容量の低下を経験せずに無制限の再充電サイクルで作動できるシステムとなる。少なくとも1つの実施形態において、洗浄方法は、電池容量を特定(determined)し、特定された電池容量とプリセットされた目標とを比較することに基づいて、システムに一連のステップを実行させる制御機構を含み得る。
【0012】
ハイブリッドレドックスフロー電池は、電極上の固体層として1つ又は複数の電気活性材料の蒸着を特徴とするレドックスフロー電池である。ハイブリッドレドックスフロー電池は、例えば、電池充電プロセスの間中、電気化学反応を介して基板上に固体としてめっきする化学物質を含んでいてもよい。電池が放電している間、めっき種は、電気化学反応を介してイオン化し、電解液に可溶となることがある。ハイブリッド電池システムでは、レドックス電池の充電容量(例えば蓄電量)は、電池充電中にめっきされた金属の量によって制限されることがあり、したがって、めっきシステムの効率と、めっき可能な体積及び表面積と、に依存することがある。
【0013】
レドックスフロー電池システムでは、負極26は、めっき電極と呼ばれ、正極28は、レドックス電極と呼ばれることがある。電池のめっき側(例えば、負極室20)内の負極電解液は、めっき電解液と呼ばれ、電池のレドックス側(例えば、正極室22)内の正極電解液は、レドックス電解液と呼ばれることがある。
【0014】
陽極は、電気活性材料が電子を失う電極を指し、陰極は、電気活性材料が電子を得る電極を指す。電池充電中、正極電解液は、負極26において電子を得る;それゆえ、負極26は、電気化学反応の陰極である。放電中、正極電解液は、電子を失う;それゆえ、負極26は、反応の陽極である。したがって、充電中、負極電解液及び負極は、それぞれ電気化学反応の陰極液及び陰極と呼ばれ、正極電解液及び正極は、それぞれ電気化学反応の陽極液及び陽極と呼ばれることがある。あるいは、放電中、負極電解液及び負極は、それぞれ電気化学反応の陽極液及び陽極と呼ばれ、正極電解液及び正極は、それぞれ電気化学反応の陰極液及び陰極と呼ばれることがある。簡便のため、正及び負という用語は、本明細書では、レドックスフロー電池システムの電極、電解液、及び電極室を指すために使用される。
【0015】
ハイブリッドレドックスフロー電池の一例は、すべて鉄(all iron)のレドックスフロー電池(IFB)であり、電解液は、塩化鉄(例えばFeCl2、FeCl3等)の形で鉄イオンを含み、負極は、金属鉄(metal iron)を含む。例えば、負極では、電池充電中に、第一鉄イオン(ferrous ion)Fe2+が、2つの電子を受け取って金属鉄として負極26をめっきし、電池放電中に、金属鉄Fe0が、2つの電子を失ってFe2+として再溶解する。正極では、充電中に、Fe2+が電子を失って第二鉄イオン(ferric ions)Fe3+を生じ、放電中に、Fe3+が電子を得てFe2+を生じる。電気化学反応は、式(1)及び(2)にまとめられ、正反応(左から右)は、電池充電中の電気化学反応を示し、逆反応(右から左)は、電池放電中の電気化学反応を示す:
Fe2++2e-⇔Fe0 -0.44V (負極) (1)
2Fe2+⇔2Fe3++2e- +0.77V (正極) (2)
【0016】
上記のように、すべて鉄のレドックスフロー電池(IFB)で使用される負極電解液は、充電中に、Fe2+が負極から2つの電子を受け取ってFe0を生じ、基板上をめっきできるように、十分量のFe2+を供給する。放電中、めっきされたFe0は、2つの電子を失い、Fe2+にイオン化し、電解液中に溶解する。上記の反応の平衡電位は、-0.44Vであり、この反応は、所望のシステムに負極端子を提供する。IFBの正極側では、電解液は、充電中に電子を失ってFe3+に酸化するFe2+を供給してもよい。放電中、電解液によって供給されるFe3+は、電極によって供給される電子を吸収することによってFe2+になる。この反応の平衡電位は、+0.77Vであり、所望のシステムの正極端子を作る。
【0017】
IFBは、非再生電解液(電解質、electrolytes)を利用する他のタイプの電池と対照的に、その電解液を充電及び再充電する機能を提供する。充電は、端子40及び42を介して電極に電流を印加することによって達成される。電子が正極を介して負極電解液に引き渡されることができるように(例えば、正極室22において正極電解液中のFe2+がFe3+に酸化されるように)、負極は端子40を介して電圧源の負極側に連結することができる。負極26(例えば、めっき電極)に供給される電子は、負極電解液中のFe2+を還元してめっき基板にFe0を形成し、負極上をめっきすることができる。
【0018】
負極電解液に酸化に利用可能なFe0が残っており、正極電解液に還元に利用可能なFe3+が残っている間、放電を維持することができる。例として、Fe3+の有効性は、外部正極電解液チャンバ又は正極電解液チャンバ52のような外部源を介して追加のFe3+を供給するために、セル18の正極室22側に正極電解液の濃度又は量を増加することによって維持可能である。より一般的には、放電中のFe0の有効性は、IFBシステム内で問題となり得、放電に利用可能なFe0は、めっき効率と同様に、負極基板の表面積及び体積に比例する。充電容量は、負極室20におけるFe2+の有効性に依存していてもよい。例として、Fe2+の有効性は、セル18の負極室20側に負極電解液の濃度又は量を増加するために、外部負極電解液チャンバ50のような外部源を介して追加のFe2+を供給することによって維持可能である。
【0019】
IFBでは、IFBシステムの充電状態に応じて、正極電解液は、第一鉄イオン、第二鉄イオン、第二鉄錯体、又はこれらの任意の組合せを含み、負極電解液は、第一鉄イオン又は第一鉄錯体を含む。前述のように、負極電解液及び正極電解液の両方で鉄イオンを利用すると、電池セルの両側で同じ電解液種を利用することができ、電解液の相互汚染を減らし、IFBシステムの効率を高めることができるため、他のレドックスフロー電池システムと比較して電解液の交換を少なくすることができる。
【0020】
IFBにおける効率の損失は、セパレータ24(例えば、イオン交換膜バリア、微多孔膜など)を通る電解液のクロスオーバーから生じることがある。例えば、正極電解液中の第二鉄イオンは、第二鉄イオンの濃度勾配及びセパレータを横切る電気泳動力によって、負極電解液に向かって動かされることがある。その後、膜バリアを透過して負極室20にクロスオーバーする第二鉄イオンは、クーロン効率の損失をもたらすことがある。低pHレドックス側(例えば、酸性が強い正極室22)から高pHめっき側(例えば、酸性が弱い負極室20)にクロスオーバーする第二鉄イオンは、Fe(OH)3の沈殿をもたらし得る。Fe(OH)3の沈殿は、セパレータ24を損傷し、永久的な電池の性能及び効率の損失を引き起こす可能性がある。例えば、Fe(OH)3沈殿物は、イオン交換膜の有機官能基を化学的に塞ぎ、又はイオン交換膜の小さな微多孔を物理的に詰まらせることがある。いずれの場合も、Fe(OH)3により、膜のオーム抵抗が時間と共に上昇し、電池の性能が低下することがある。沈殿物は、電池を酸で洗浄することによって除去され得るが、絶えず続くメンテナンス及びダウンタイムは、商用電池の使用に不利であることがある。さらに、洗浄は、電解液の定期的な準備に依存し得、プロセスのコスト及び複雑さが増す。電解液のpH変化に応じた特定の有機酸の正極電解液及び負極電解液への添加は、電池の充電及び放電サイクル中の沈殿物の生成を軽減し得る。
【0021】
さらなるクーロン効率の損失は、H+(例えばプロトン)の還元とそれに続くH2(例えば水素ガス)の生成によって引き起こされ得、負極室20におけるプロトンと、めっき金属鉄電極に供給される電子との反応は、水素ガスを生成する。
【0022】
IFB電解液(例えば、FeCl2、FeCl3、FeSO4、Fe2(SO4)3など)は容易に入手可能であり、低コストで製造することができる。IFB電解液は、同じ電解液を負極電解液と正極電解液とに使用できるため再利用の価値が高くなり、その結果、他のシステムと比較してクロスコンタミネーションの問題が低減する。さらに、その電子配置により、鉄は、負極基板上にめっきする際に、通常均一な固体構造に凝固することができる。ハイブリッドレドックス電池で一般的に使用される亜鉛及び他の金属では、めっき中に固体樹状構造が形成される場合がある。IFBシステムの安定した電極形態は、他のレドックスフロー電池と比較して電池の効率を向上させることができる。さらに、鉄のレドックスフロー電池は、毒性のある原材料の使用を減らし、他のレドックスフロー電池の電解液と比べて比較的中性のpHで作動可能である。したがって、IFBシステムは、製造中の他のすべての現在の高度なレドックスフロー電池システムと比較して、環境への有害性が低減する。
【0023】
IFBの充電中、例えば、負極で第一鉄イオンFe
2+が還元され(酸化還元反応で2つの電子を受け取る)、金属鉄Fe
0になる。同時に正極では、第一鉄イオンFe
2+が酸化され(電子を失う)、第二鉄イオンFe
3+になる。
同時に負極では、第一鉄の還元反応がプロトンH
+の還元と競合し、2つのプロトンはそれぞれ単一の電子を受け取って水素ガスH
2を形成し、金属鉄の腐食により第一鉄イオンFe
2+が生成される。水素プロトンの還元と金属鉄(iron metal)の腐食による水素ガスの生成は、それぞれ式(3)と(4)に示されている:
【0024】
結果として、負極室20の負極電解液はpH3~6の範囲で安定する傾向がある。正極室22では、第二鉄イオンFe3+の酸解離定数(pKa)が第一鉄イオンFe2+の酸解離定数よりはるかに低くなる。したがって、より多くの第一鉄イオンが酸化されて第二鉄イオンになると、正極電解液は2未満のpH、特に1に近いpHで安定する傾向がある。
【0025】
したがって、正極電解液(正極室22)が安定状態の第1の範囲で正極電解液pHを維持し、負極電解液(負極室20)が安定状態の第2の範囲で負極電解液pHを維持することは、低い循環性能を低減し、レドックスフロー電池の効率を向上させ得る。
例えば、IFBの負極電解液のpHを3~4に維持すると、鉄腐食反応を低減でき、鉄めっき効率を向上できる一方で、正極電解液のpHを2未満、特に1未満に維持すると、第二鉄イオン/第一鉄イオンの酸化還元反応を促進でき、水酸化第二鉄の形成を低減できる。
【0026】
式(3)及び(4)で示されるように、水素の発生は、レドックスフロー電池システムにおいて電解液の不均衡を引き起こす可能性がある。例えば、充電中に、正極から負極に流れる電子(例えば、第一鉄イオンの酸化の結果)は、式(3)による水素発生によって消費される可能性があり、それによって、式(1)で与えられるめっきに利用可能な電子が減少する。めっきの減少により、電池の充電容量が減少する。さらに、金属鉄の腐食は、電池の放電に利用可能な金属鉄の量が減少するため、電池容量をさらに低下させる。したがって、反応(3)及び(4)による水素生成の結果として、正極室22と負極室20との間の不均衡な電解液の充電状態が発生し得る。さらに、金属鉄の腐食及びプロトンの還元から生じる水素ガスの生成は両方ともプロトンを消費し、その結果、負極電解液のpHが上昇する可能性がある。
図1を参照して上述したように、pHの上昇は、レドックス電池フローシステム内の電解液を不安定にし得、その結果、電池容量及び効率がさらに低下する。
【0027】
レドックスフロー電池システムにおける水素ガス生成によって引き起こされる可能性のある電解液のリバランスの問題に対処するアプローチは、副反応から生成された水素で正極電解液の不均衡なイオンを低減することを含む。例として、IFBシステムでは、第二鉄イオンを含む正極電解液は、式(5)に従って水素ガスによって還元することができる:
【0028】
IFBシステムの例では、第二鉄イオンを水素ガスと反応させることにより、水素ガスをプロトンに戻すことができ、それにより、負極室20及び正極室22において、実質的に一定のpHを維持することができる。さらに、第二鉄イオンを第一鉄イオンに変換することによって、正極室22での正極電解液の充電状態は、負極室20での負極電解液の充電状態とリバランスできる。式(5)はIFBシステムでの電解液のリバランスのために記載されているが、水素ガスで電解液を還元する方法は、式(6)で一般化できる:
式(6)で、M
x+はイオン電荷xを有する正極電解液Mを表し、M
z+はイオン電荷zを有する還元された電解液Mを表す。
【0029】
グラファイトを含む触媒、又は担体貴金属(例えば、カーボン担体Pt、Rd、Ru、又はそれらの合金)触媒を含む触媒は、レドックスフロー電池システムでの実用化のために、式(5)によって示される反応速度(rate of reaction)を高めることができる。一例として、レドックスフロー電池システムで生成された水素ガスは触媒表面へと誘導する(directed)ことができ、水素ガスと電解液(例えば、第二鉄イオンを含む)とは触媒表面で流体接触でき、水素ガスは第二鉄イオンを第一鉄イオンへと化学的に還元し、正の水素イオン(例えば、プロトンなど)を生成する。
【0030】
図1は、レドックスフロー電池システムの概略図である。
図2~3は、
図1に示す電解液貯蔵チャンバを含み、
図1のレドックスフロー電池システムに連結されてもよい、電解液貯蔵チャンバの様々な斜視図を示す。
図4は、
図1のレドックスフロー電池システムの作動に接続され、実行され得る洗浄方法のフロー図を示す。
図5は、
図1のようなレドックス鉄フロー電池及びリチウムイオン電池の両方について、電池容量のパーセント対サイクル数のグラフを示す。
【0031】
図1は、レドックスフロー電池システム10の概略図を提供する。レドックスフロー電池システム10は、マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110に流体接続されたレドックスフロー電池セル18を備えることができる。レドックスフロー電池セル18は、通常、負極室20、セパレータ24及び正極室22を含むことができる。セパレータ24は電気絶縁性のイオン伝導性バリアを備えることができ、それは正極電解液と負極電解液とのバルク混合を防ぎつつ、特定のイオンの伝導を可能にする。例えば、セパレータ24は、イオン交換膜及び/又は微多孔膜を備えることができる。負極室20は、負極26と、電気活性材料を含む負極電解液とを備えることができる。正極室22は、正極28と、電気活性材料を含む正極電解液とを備えることができる。いくつかの例では、複数のレドックスフロー電池セル18を直列または並列に組み合わせて、レドックスフロー電池システムでより高い電圧または電流を生成することができる。さらに
図1に示されているのは、フロー電池システム10に電解液を送り込むために用いられる負極電解液ポンプ30及び正極電解液ポンプ32である。電解液は、セルの外部にある1つ又は複数のタンクに貯蔵され、それぞれ電池の負極室20側と正極室22側を通り、負極電解液ポンプ30及び正極電解液ポンプ32によって送られる。
【0032】
図1に示すように、レドックスフロー電池セル18は、負極電池端子40及び正極電池端子42をさらに含んでもよい。電池端子40及び42に充電電流が印加された場合、正極28で正極電解液が酸化され(1つ又は複数の電子を失う)、負極26で負極電解液が還元される(1つ又は複数の電子を獲得する)。電池放電中、電極上で逆酸化還元反応が起こる。換言すると、正極28で正極電解液が還元され(1つ又は複数の電子を獲得する)、負極26で負極電解液が酸化される(1つ又は複数の電子を失う)。電池の両端の電位差は、正極室22と負極室20における電気化学的酸化還元反応により維持され、反応が持続している間、導体を流れる電流を誘導することが可能である。レドックス電池によって蓄積されるエネルギーの量は、放電用の電解液で利用可能な電気活性材料の量により制限され、電解液の総量と電気活性材料の溶解度に依拠する。
【0033】
フロー電池システム10は、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110をさらに備えてもよい。マルチチャンバ貯蔵タンク110は、隔壁(bulkhead)98によって分割されてもよい。正極電解液及び負極電解液を単一のタンク内に含むことができるように、隔壁98は貯蔵タンク内に複数のチャンバを形成してもよい。負極電解液チャンバ50は、電気活性材料を含む負極電解液を保持し、正極電解液チャンバ52は、電気活性材料を含む正極電解液を保持する。負極電解液チャンバ50と正極電解液チャンバ52との間の所望の容積比をもたらすために、隔壁98は、マルチチャンバ貯蔵タンク110内に配置されてもよい。一例では、隔壁98は、負極及び正極の酸化還元反応の間の化学量論比に従って、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバの容積比を設定するように配置されてもよい。図は、貯蔵タンク110の充填高さ112をさらに示し、各タンク区画内の液位を示すことができる。図はまた、負極電解液チャンバ50の充填高さ112の上方に位置するガスヘッドスペース90と、正極電解液チャンバ52の充填高さ112の上方に位置するガスヘッドスペース92とを示している。ガスヘッドスペース92は、レドックスフロー電池の作動を通して生成され(例えば、プロトン還元及び腐食副反応により)、レドックスフロー電池セル18から電解液を戻すとともにマルチチャンバ貯蔵タンク110に運ばれる水素ガスを貯蔵するために利用できる。水素ガスは、マルチチャンバ貯蔵タンク110内の気液界面(例えば、充填高さ112)で自発的に分離することができ、それにより、レドックスフロー電池システムの一部としての追加の気液分離装置を排除することができる。電解液から分離されると、水素ガスがガスヘッドスペース90及び92を満たす。そのため、貯蔵された水素ガスは、マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から他のガスをパージすることに役立ち、それにより、電解液種の酸化を低減するための不活性ガスブランケットとして機能し、レドックスフロー電池容量損失の低減に役立つことができる。このように、統合マルチチャンバ貯蔵タンク110を利用することによって、従来のレドックスフロー電池システムに共通の負極電解液貯蔵タンク及び正極電解液貯蔵タンク、水素貯蔵タンク並びに気液分離器を別々に有さなくともよくなり、これにより、システム設計の簡略化、システムの物理的な設置面積の削減、並びにシステムコストの削減ができる。
【0034】
図1はまた、ガスヘッドスペース90と92との間の隔壁98に開口部を形成し、2つのチャンバ間のガス圧力を均一化する手段を提供する、溢流孔(spill-over hole)96を示している。溢流孔96は、充填高さ112より上の閾値高さ(threshold height)に配置することができる。溢流孔はさらに、電池がクロスオーバーする場合に、正極電解液チャンバ及び負極電解液チャンバのそれぞれの電解液が自己平衡する機能を有効にする。すべて鉄のレドックスフロー電池システムの場合、同じ電解液(Fe
2+)が負極室20及び正極室22の両方において使用されるため、負極電解液チャンバ50及び正極電解液チャンバ52の間の電解液の溢れはシステム全体の効率を下げ得るが、その一方で、全体的な電解液の構成、電池モジュールの性能及び電池モジュール容量は維持される。漏れのない連続的な加圧状態を維持するために、マルチチャンバ貯蔵タンク110への入口及び出口からのすべての配管接続部にフランジ継手(flange fittings)を利用することができる。マルチチャンバ貯蔵タンクは、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバのそれぞれからの少なくとも1つの出口と、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバのそれぞれへの少なくとも1つの入口と、を含むことができる。さらに、水素ガスをリバランス反応器80及び82へと誘導するために、ガスヘッドスペース90及び92から1つ又は複数の出口接続部を備えることができる。
【0035】
図1には示されていないが、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110は、負極電解液チャンバ50及び正極電解液チャンバ52のそれぞれに熱的に接続された1つ又は複数のヒーターをさらに含んでもよい。別の例では、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバのうちの1つのみが、1つ又は複数のヒーターを含んでもよい。正極電解液チャンバのみが1つ又は複数のヒーターを含む場合、負極電解液は、パワーモジュールの電池セルで発生した熱を負極電解液に伝達することにより加熱することができる。このようにして、パワーモジュールの電池セルが加熱され、負極電解液の温度調節が促進される。1つ又は複数のヒーターは、負極電解液チャンバ50及び正極電解液チャンバの温度を、単独で又は共に調整するために、コントローラ88によって作動させることができる。例えば、電解液温度が閾値温度(threshold temperature)未満に下がることに応じて、コントローラは、電解液への熱流束が増加するように、1つ又は複数のヒーターに供給される電力を増加させてもよい。電解液温度は、センサ60及び62を含むマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110に取り付けられた1つ又は複数の温度センサによって示されてもよい。例として、1つ又は複数のヒーターには、コイル型ヒーター、又は、電解液に浸された他の浸漬ヒーター、又は、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバの壁を通して熱を伝達しその中の流体を加熱する表面マントル型ヒーターが含まれ得る。本開示の範囲から逸脱することなく、他の既知のタイプのタンクヒーターを使用することができる。さらに、コントローラ88は、液体レベルが固体充填閾値レベル(solids fill threshold level)未満に低下したことに応じて、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバ内の1つ又は複数のヒーターを停止させてもよい。換言すると、コントローラ88は、液体レベルが固体充填閾値レベルを超えて増加することに応じてのみ、負極電解液チャンバ及び正極電解液チャンバ内の1つ又は複数のヒーターを作動させることができる。このようにして、正極電解液チャンバ及び/又は負極電解液チャンバ内に十分な液体がない状態での1つ又は複数のヒーターの作動を防ぐことができ、したがってヒーターの過熱又は焼損のリスクが低減される。
【0036】
さらに、
図1に示すように、電解液は、通常、マルチチャンバ貯蔵タンク110に貯蔵され、フロー電池システム10全体にわたって負極電解液ポンプ30及び正極電解液ポンプ32によって送り込まれる。負極電解液チャンバ50に貯蔵された電解液は、負極電解液ポンプ30によって電池の負極室20側に送り込まれ、正極電解液チャンバ52に貯蔵された電解液は、正極電解液ポンプ32によって電池の正極室22側に送り込まれる。
【0037】
2つの電解液リバランス反応器80及び82は、それぞれ、レドックスフロー電池システム10において、電池の負極側及び正極側で電解液の再循環流路と直列又は並列に接続されてもよい。冗長性のため(例えば、電池及びリバランス操作に支障を与えることなくリバランス反応器を提供するため)、及び、リバランス能力を向上させるため、1つ又は複数のリバランス反応器は、電池の負極側と正極側において電解液の再循環流路と直列に接続されてもよく、他のリバランス反応器は、電池の負極側と正極側において電解液の再循環流路と並列に接続されてもよい。一例では、電解液リバランス反応器80及び82は、それぞれ、負極室20及び正極室22から負極電解液チャンバ50及び正極電解液チャンバ52への戻り流路に配置されてもよい。電解液リバランス反応器80及び82は、本明細書に記載されるように、副反応、イオンのクロスオーバー等のために生じるレドックスフロー電池システムにおける電解液の電荷の不均衡をリバランスすることができる。一例では、電解液リバランス反応器80及び82は、電解液リバランス反応を実施するため、充填床(packed bed)の触媒表面で水素ガスと電解液とが接触するトリクルベッド反応器(trickle bed reactor)を備えてもよい。他の実施例では、リバランス反応器80及び82は、水素ガスと電解液とを接触させ、充填触媒床(packed catalyst bed)がなくてもリバランス反応を実行することができるフロースルー型反応器(flow-through type reactor)を備えてもよい。
【0038】
レドックスフロー電池システムの作動中、センサ及びプローブは、電解液のpH、濃度、充電状態(電荷の状態、state of charge)等の電解液の化学的特性を監視し、制御してもよい。例えば、
図1に示すように、センサ62及び60は、それぞれ、正極電解液の状態及び負極電解液の状態を監視するために正極電解液チャンバ52及び負極電解液チャンバ50に配置されてもよい。他の例として、
図1に示すセンサ72及び70は、それぞれ、正極室22及び負極室20において正極電解液の状態及び負極電解液の状態を監視してもよい。一例では、センサ70及び72は、レドックスフロー電池セル18のセパレータ24の負極側及び正極側の圧力を示す信号をコントローラ88に送信する圧力センサを含むことができる。セパレータ24の負極室20及び正極室22における圧力は、それぞれ負極電解液及び正極電解液の入口及び出口の流れを制御することにより調整できる。例えば、コントローラは、それに流体接続された真空ポンプのポンプ速度の上昇、負極電解液ポンプ30のポンプ速度の減少、及び負極室からの出口流量を増加させる背圧流量調整器を絞ることのうち1つ又は複数によって、負極室20の圧力を下げることができる。
【0039】
同様に、コントローラは、正極電解液ポンプ32のポンプ速度の上昇、及び、背圧流量調整器を絞って負極室からの出口流量を減らすことのうち1つ又は複数によって、正極室22の圧力を上げることができる。背圧流量調整器は、オリフィスやバルブ等を含んでもよい。例えば、コントローラ88は、バルブをより開いた位置に配置する信号を送信して、負極室20からのより多い出口の流れを誘導し、それにより、負極室の圧力を低下させることができる。正極室の圧力を上げて、負極室の圧力を下げることは、セパレータ24のクロスオーバー圧力(負極分の正極(正極/負極))を上げるのに役立ち得る。正極電解液ポンプ32のポンプ速度の増加及び正極室22の出口での背圧の増加によって正極電解液の流量を増やし、クロスオーバー圧力を上げることは、ポンプ寄生損失が増加し得るため、クロスオーバー圧力を上げる他の方法よりも望ましくない場合がある。
【0040】
センサは、電解液の化学的特性及びその他の特性を監視するために、レドックスフロー電池システム全体の他の場所に配置されてもよい。例えば、センサは、外部酸タンク(図示せず)の酸の量又はpHを監視するために、外部酸タンクに配置されてもよく、外部酸タンクからの酸は、電解液中の沈殿物の形成を低減するため、外部ポンプ(図示せず)によってレドックスフロー電池システムに供給される。他の添加剤をレドックスフロー電池システム10に供給するため、追加の外部タンクとセンサを取り付けてもよい。例えば、フィールド水和システム(field hydration system)の温度センサ、圧力センサ、導電率センサ、及びレベルセンサを含む様々なセンサは、乾燥状態のレドックスフロー電池システムを水和する際に、コントローラ88に信号を送信してもよい。さらに、コントローラ88は、レドックスフロー電池システムの水和中に、フィールド水和システムのバルブ及びポンプ等のアクチュエータに信号を送ってもよい。センサ情報は、一例として、セル18を流れる電解液の流れを制御するため、又は、他の制御機能を実施するために、負極電解液ポンプ30及び正極電解液ポンプ32を順に作動させ得るコントローラ88に送信されてもよい。このように、コントローラ88は、センサ及びプローブの1つ又は組み合わせに対応することができる。レドックスフロー電池セル18は、レドックスフロー電池システム用のパワーモジュールの複数のレドックスフロー電池セルスタックのうちの1つの中に配置されてもよい。レドックスフロー電池セルスタック内の各レドックスフロー電池セル18は、レドックスフロー電池セルスタック内の複数の他のレドックスフロー電池セルと直列及び/又は並列に電気的に接続されてもよい。さらに、各レドックスフロー電池セルスタックは、パワーモジュール内の他の複数のレドックスフロー電池セルスタックと直列及び/又は並列に電気的に接続されてもよい。このようにして、レドックスフロー電池セルスタックを電気的に組み合わせ、パワーモジュールから電力を供給することができる。
【0041】
レドックスフロー電池システム10は、水素ガス源をさらに備えてもよい。一例では、水素ガス源は、別個の専用の水素ガス貯蔵タンクを備えてもよい。
図1に示す例では、水素ガスは、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110に貯蔵され、当該統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から供給されてもよい。統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110は、正極電解液チャンバ52及び負極電解液チャンバ50に追加の水素ガスを供給してもよい。統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110は、追加の水素ガスを電解液リバランス反応器80及び82の入口に交互に供給してもよい。一例として、質量流量計又は(コントローラ88によって制御可能な)他の流量制御装置が統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110からの水素ガスの流れを調整してもよい。
【0042】
統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110は、レドックスフロー電池システム10において生成された水素ガスを補ってもよい。例えば、レドックスフロー電池システム10においてガス漏れが検出された場合、又は、低水素分圧における還元反応率(反応速度、reaction rate)が低すぎる場合、正極電解液中及び負極電解液中の電気活性種の充電状態(電荷の状態、state of charge)をリバランスするために、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から水素ガスが供給されてもよい。一例として、コントローラ88は、測定されたpHの変化に応じて、又は電解液又は電気活性種(electro-active species)の測定された充電状態(電荷の状態、state of charge)の変化に応じて、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から水素ガスを供給してもよい。例えば、負極電解液チャンバ50又は負極室20のpHの上昇は、レドックスフロー電池システム10から水素が漏れていること、及び/又は、利用可能な水素分圧では反応速度(reaction rate)が遅すぎることを示している場合がある。pH上昇に応じて、コントローラ88は、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110からレドックスフロー電池システム10への水素ガスの供給を増加させてもよい。さらなる例として、pHが第1の閾値pHを超えて増加する、又は、pHが第2の閾値pHを超えて減少するというpHの変化に応じて、コントローラ88は、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から水素ガスを供給してもよい。IFBの場合、コントローラ88は、第二鉄イオンの還元速度及びプロトンの生成速度を増加させるため、追加の水素を供給してもよく、これにより、正極電解液のpHを低下させることができる。さらに、正極電解液から負極電解液にクロスオーバーする第二鉄イオンの水素還元によって、又は、正極側で生成されて、プロトン濃度勾配及び電気泳動力により負極電解液にクロスオーバーするプロトンによって、負極電解液のpHは低下する場合がある。このようにして、(正極室からクロスオーバーする)第二鉄イオンがFe(OH)3として沈殿するリスクを低減しながら、負極電解液のpHを安定した範囲内に維持することができる。
【0043】
酸素還元電位(ORP)メータまたは光学センサ等の他のセンサによって検出された、電解液のpHの変化又は電解液の充電状態(電荷の状態、state of charge)の変化に応じて、統合マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110からの水素ガスの供給量(supply rate)を制御するための他の制御スキームが実行されてもよい。さらに、コントローラ88の動作を始動するpHの変化又は充電状態(電荷の状態、state of charge)の変化は、変化率又は一定の期間にわたって測定された変化に基づいてもよい。変化率を算出する期間は、レドックスフロー電池システムの時定数に基づいてあらかじめ特定又は調整されてもよい。例えば、再循環率が高い場合は、当該期間を短縮でき、時定数が小さい場合は、(例えば、副反応やガス漏れによる)濃度の局所的な変化を迅速に測定することができる。
【0044】
図2及び
図3はそれぞれ、電解液フロー回路構成200及び300の例を示し、
図1のレドックスフロー電池システム洗浄用の本明細書に開示される洗浄方法の作動のために、電解液貯蔵チャンバを流体接続してもよい。レドックスフロー電池システム10は、電解液フロー回路構成200及び300のいずれかを含んでいてもよい。
図2において、正極電解液チャンバ52及び負極電解液チャンバ50は、第1の混合バルブ210及びオリフィス220と連結されてもよい。より具体的には、第1の混合バルブ210への入口は、正極電解液ポンプ32の上流の正極電解液チャンバ52からの放電(discharge)時に第2の電解液回路282から電解液を迂回させるように配置された流体流路292内に流体接続されてもよい。第1の混合バルブ210の出口は、負極電解液ポンプ30の下流の第1の電解液回路280に流体接続されてもよい。さらに、オリフィス220への入口は、負極電解液ポンプ30の上流の負極電解液チャンバ50からの放電(discharge)時に第1の電解液回路280から電解液を迂回させるように配置された流体流路290内に流体接続されてもよい。オリフィス220の出口は、正極電解液ポンプ32の下流の第2の電解液回路282に流体接続されてもよい。
【0045】
図3では、フロー回路構成300は、第1のモータ制御混合バルブ210及び第2のモータ制御混合バルブ310にそれぞれ流体接続された正極電解液チャンバ52及び負極電解液チャンバ50を含む。
図2のフロー回路構成200のように、第1の混合バルブ210への入口は、正極電解液ポンプ32の上流の正極電解液チャンバ52からの放電(discharge)時に第2の電解液回路282から電解液を迂回させるように配置された流体流路292内に流体接続されてもよい。第1の混合バルブ210の出口は、負極電解液ポンプ30の下流の第1の電解液回路280に流体接続されてもよい。さらに、混合バルブ310への入口は、負極電解液ポンプ30の上流の負極電解液チャンバ50からの放電(discharge)時に第1の電解液回路280から電解液を迂回させるように配置された流体流路290内に流体接続されてもよい。混合バルブ310の出口は、正極電解液ポンプ32の下流の第2の電解液回路282に流体接続されてもよい。
【0046】
図2及び
図3の両方において、モータ制御混合バルブ210及び310は、レドックスフロー電池システムのコントローラ88などのコントローラによって作動されてもよく、また、正極電解液チャンバ52及び負極電解液チャンバ50はさらにレドックスフロー電池セル18に流体接続される。
図2及び
図3に示すフロー構成は、一般化され、複数タンク又は複数チャンバの単一タンク電解液貯蔵構成に適用され得る。例えば、正極電解液チャンバ52及び負極電解液チャンバ50は、
図1のマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110の正極電解液チャンバ52及び負極電解液チャンバ50に対応してもよい。
【0047】
負極電解液チャンバ50、ヘッドスペース90、及び、負極室20を含むレドックスフロー電池セル18は、第1の電解液回路280に沿って配置される。さらに、
図2には示されていないが、第1のリバランス反応器(例えば、
図1のリバランス反応器80)も、第1の電解液回路280に沿って直列に、又はそれに並列に配置されてもよい。電池の放電、充電、及びアイドルモードの間、負極電解液チャンバ50からの負極電解液は、負極電解液ポンプ30の支援により第1の電解液回路280を通って流れ得る。したがって、負極電解液ポンプ30が作動しているとき(例えば、ON)、負極電解液は、第1の電解液回路280を通って流れる。
【0048】
正極電解液チャンバ52、ヘッドスペース92、及び正極室22を含むレドックスフロー電池セル18は、第2の電解液回路282に沿って配列される。さらに、第2のリバランス反応器(例えば、
図1のリバランス反応器82)もまた、第2の電解液回路282に沿って直列に、又はそれに並列に配置されてもよい。電池の放電、充電、及びアイドルモードの間、正極電解液チャンバ52からの正極電解液は、正極電解液ポンプ32の支援により第2の電解液回路282を通って流れ得る。したがって、正極電解液ポンプ32が作動しているとき(例えば、ON)、正極電解液は、第2の電解液回路282を通って流れる。
【0049】
第1の電解液回路280及び第2の電解液回路282は、レドックスフロー電池システムの作動の洗浄モードを除き、互いに流体分離される。このように、充電、放電、及びアイドルモード中の洗浄モードを除き、第1の電解液回路280の負極電解液チャンバ50からの負極電解液は、第2の電解液回路282の正極電解液チャンバ52からの正極電解液と混合しない。
【0050】
洗浄モードは、1つ又は複数のシステムの利用可能な容量が、所定の電池の充電状態(SOC)での閾値容量より低く、電池充電/放電性能が所定の電池SOCでの閾値性能(threshold performance)より低い場合に作動できる。電池の充電/放電性能には、充電/放電電流、及び/又は、充電/放電電圧をそれぞれ含むことができる。同様に、閾値性能は、閾値充電電流(threshold charge current)、閾値放電電流(threshold discharge current)、閾値充電電圧(threshold charge voltage)、閾値充電電流(a threshold charge current)、又はそれらの組み合わせを指し得る。換言すると、電池充電電圧が閾値充電電圧より低い場合、及び/又は、電池充電電流が閾値充電電流より小さい場合、電池充電性能は、所定の電池SOCにおける閾値充電性能より低くなり得る。これは、負極電解液チャンバ50及び正極電解液チャンバ52の間に電解不均衡が発生した場合に起こり得る。第1の電解液回路280及び第2の電解液回路282は、洗浄モード中に流体接続され得る。よって、正極電解液チャンバ52からの電解液は第1の電解液回路280に流れ、負極電解液チャンバからの電解液は第2の電解液回路282に流れ込み得る。
【0051】
図2の実施形態では、第1の電解液回路280及び第2の電解液回路282は、1つ又は複数の第1の混合バルブ210及びオリフィス220を介して流体接続されてもよい。第1の混合バルブ210は、第2の電解液回路282の正極電解液チャンバ52からの電解液を第1の電解液回路280へと流し得る。一例では、負極電解液チャンバ50からの電解液は、第1の混合バルブ210を介して第1の電解液回路280から第2の電解液回路282へと流れない。
【0052】
オリフィス220は、第1の電解液回路280の負極電解液チャンバ50からの電解液を第2の電解液回路282へと流し得る。一例では、正極電解液チャンバ52からの電解液はオリフィス220を介して第2の電解液回路282から第1の電解液回路280へと流れない。
【0053】
オリフィス220は、第1の電解液回路280から第2の電解液回路282への流量を調整するようなサイズとすることができる。オリフィス220は、負極電解液ポンプ30の流量に基づいたサイズとしてもよい。一例では、オリフィス220は、第1の電解液回路280と第2の電解液回路282との間に、負極電解液ポンプ30の流量に実質的に等しい流量を提供するようなサイズとされる。一例では、第1の電解液回路280と第2の電解液回路282との間の混合割合(mixing rate)は、オリフィス220のサイズが大きくなるにつれて多くなる。
【0054】
いくつかの実施形態では、追加的または代替的に、オリフィス220は、洗浄モードを除き、第1の電解液回路280及び第2の電解液回路282を流体接続する。したがって、第1の電解液回路280と第2の電解液回路282との間の電解液の流れは、回路間の圧力差に基づいてもよい。例えば、第1の電解液回路280の圧力が第2の電解液回路282の圧力よりも大きい場合、オリフィス220は、電解液が第1の回路280から第2の回路282へと流れることを可能にし得る。
【0055】
1つ又は複数のシステムの利用可能な容量が所定の電池の充電状態(SOC)での閾値容量よりも低い場合、及び/又は、電池充電/放電性能が所定の電池SOCでの閾値性能よりも低い場合、洗浄モードと放電モードが開始される。上述の式1及び式2に示すように、負極電解液チャンバ50及び正極電解液チャンバ52の構成は、放電モードの間、実質的に同様である。したがって、システムコントローラ88は、電池の正極側と負極側との間の電荷の不均衡を低減するために、リバランス反応器80及び82を通って流れる正極電解液及び負極電解液を含む、閾値放電SOC(threshold discharge SOC)を超える電池システムの放電を伴う洗浄サイクルの開始を、開始し得る。例えば、正極電解液のpHが閾値放電pHよりも低く、正極電解液SOCが閾値放電SOCよりも低い場合、洗浄サイクルの開始のトリガーとなり得る。閾値放電pHは、正極電解液(低pHを有する)と負極電解液(高pHを有する)との混合に起因するFe(OH)3の沈殿のリスクを低減するように選択され得る。負極電解液に導入される第二鉄イオンの量を減らすように閾値放電SOCを選択してもよい。
【0056】
洗浄モードの間、電解液は最初に第2の電解液回路282から第1の電解液回路280に流れることができる。これには、第1の混合バルブ210を開き、負極電解液ポンプ30を作動させて第2の電解液回路282から第1の電解液回路280に電解液を引き込むことを含んでもよい。さらに、正極電解液ポンプ32は停止されてもよい。したがって、電解液は、正極電解液ポンプ32によって第2の電解液回路282を介して循環されない場合がある。このように、第1の混合バルブ210が開いており、負極電解液ポンプ30が作動している場合、第2の電解液回路282からの電解液と第1の電解液回路280内の電解液とが混合する。逆に、正極電解液ポンプ32が停止している間、第1の電解液回路280を循環する電解液は第2の電解液回路282に流れない場合がある。負極電解液ポンプ30を利用して、洗浄サイクル中に第1の電解液回路280を通して電解液を循環させることにより、電解液チャンバを洗浄するための負極電解液ポンプ30及び正極電解液ポンプ32への追加のポンプは、レドックスフロー電池システム(例えば、
図1のレドックスフロー電池システム10)に含まれなくてもよい。したがって、レドックスフロー電池システム10の充電及び放電中に電解液を循環させるために既に利用されている負極電解液ポンプ30及び正極電解液ポンプ32以外の追加のポンプを有するシステムと比較して、パッケージングの制約及び製造コストが削減される。
【0057】
第2の電解液回路282からの電解液は、第1の閾値持続時間の間、第1の電解液回路280に流れ得る。第1の閾値持続時間は一定(fixed)であってもよい。あるいは、第1の閾値持続時間は、電池SOCと閾値SOCとの間の差に基づいて調整され得る。一例では、第1の閾値持続時間は、電池SOCと閾値SOCとの差が増加するにつれて増加し、その結果、第2の電解液回路282から第1の電解液回路280に流れる電解液の量が増加する。
【0058】
第1の閾値持続時間の経過に応じて、負極電解液ポンプ30が動作している間に第1の混合バルブ210が閉じられる。したがって、第1の電解液回路280及び第2の電解液回路282の両方からの電解液は、第2の電解液回路282に流れることなく第1の電解液回路280を通って流れ続ける。これは、遅延時間(time delay)を引き起こし得る。一例では、遅延時間は一定である。あるいは、遅延時間は、第1の閾値持続時間と比例関係にあってもよく、第1の閾値持続時間が増加するにつれて、遅延時間は増加する。このようにして、遅延時間の間、電解液は第1の電解液回路280のみを通って流れる。遅延時間中に第1の電解液回路280のみを流れる電解液は、第2の電解液回路282から第1の電解液回路280へとさらなる電解液が流れない遅延時間の間に第1の電解液回路280内の電解液をより徹底的に混合するのに役立つ。
【0059】
遅延時間の経過に応じて、負極電解液ポンプ30が停止し、正極電解液ポンプ32が作動し、それにより、オリフィス220を介して第1の電解液回路280から第2の電解液回路282への電解液の流れが促進される。第2の閾値持続時間の間、電解液は第1の電解液回路280から第2の電解液回路282へと流れ得る。一例では、第2の閾値持続時間は、第1の閾値持続時間と完全に等しい。あるいは、第2の閾値持続時間は、オリフィスのサイズと第1の閾値持続時間との組み合わせに基づいてもよい。いずれにせよ、第2の閾値持続時間は、電解液が第1の電解液回路280から第2の電解液回路282に流れ、第1の電解液回路280及び第2の電解液回路282の両方の電解液量のバランスを取るために望ましい時間であり得る。
【0060】
追加的または代替的に、電池SOCが閾値放電SOCよりも小さい場合にのみ、洗浄サイクルを作動させ、電解液を第1の電解液回路280から第2の電解液回路に流してもよい。電池SOCが閾値放電SOCよりも大きいことに応じて、洗浄モードを停止し、電池システムを充電モード、放電モード、又はアイドルモードでの作動に戻すことができる。一例では、洗浄モードを停止することは、第1の混合バルブ210を閉じ、第1の電解液回路280と第2の電解液回路282との間の電解液の流れを阻止することを含む。
【0061】
図3の実施形態では、第1の混合バルブ210及び第2の混合バルブ310は、それぞれ電気的、液圧的、及び/又は、空圧式を動力とするものとすることができ、コントローラ88に電気的に接続され得る。レドックスフロー電池セル18の充電状態(SOC)が閾値SOCより低くなり、電解液pHが閾値pHより低くなることに応じて、正極電解液チャンバ52及び負極電解液チャンバ50は洗浄モードに入る。例えば、正極電解液pHが閾値放電pH未満であり、正極電解液SOCが閾値放電SOCよりも低い場合、洗浄サイクルの開始のトリガーとなり得る。閾値放電pHは、正極電解液(低pHを有する)と負極電解液(高pHを有する)の混合に起因するFe(OH)
3の沈殿のリスクを低減するように選択され得る。負極電解液に導入される第二鉄イオンの量を減らすように閾値放電SOCを選択してもよい。
【0062】
第2の混合バルブ310は、
図2のオリフィス220の位置と同様の電池システムの位置に配置される。第2の混合バルブ310は、洗浄モードを除く作動中に、第1の電解液回路280及び第2の電解液回路282が混合するのを防ぐように配置してもよい。このように、第1の混合バルブ210及び第2の混合バルブ310を含む
図3の構成は、第1の混合バルブ210及びオリフィス220を含む
図2の構成よりも有利であり得る。しかしながら、
図2の構成は、実施により費用がかからず、より簡単であり得る。
【0063】
例えば、第1の混合バルブ210が開いており、負極電解液ポンプ30が作動して、第2の電解液回路282から第1の電解液回路280の電解液の流れを促進すると、第2の混合バルブ310は閉位置に動く。このように、電解液が第2の回路282から第1の回路280へと流れる間、正極電解液ポンプ32を作動させることができる。このように、第2の回路282の電解液の一部は残り、第2の回路282を通って循環することができ、残りの部分は、第1の部分280へと誘導される。
【0064】
さらなる例として、追加又は代替として、第1の閾値持続時間に続く遅延時間の間、第2の混合バルブ310及び第1の混合バルブ210が閉位置へと動かされ、それにより、第1の電解液回路280及び第2の電解液回路282は互いに流体的に隔離する。しかしながら、第2の混合バルブ310を
図2のオリフィス220の位置に配置することによって、正極電解液ポンプ32は、遅延時間の間作動し得る。
【0065】
別の例として、追加又は代替として、負極電解液ポンプ30が停止し、電解液が第1の電解液回路280から第2の電解液回路282へと流れるように誘導される遅延時間に続いて、第2の混合バルブ310が開位置に動かされ、第1の混合バルブ210が閉位置に動かされる。正極電解液ポンプが作動している間に第2の混合バルブ310を開位置に動かすことにより、電解液は第1の電解液回路280から第2の電解液回路282へと流れることができる。電解液は、第2の混合バルブ310を介して第2の電解液回路282から第1の電解液回路280へと流れない。
【0066】
したがって、
図2及び
図3は、IFBシステム用の正極電解液及び負極電解液に同じ化学成分、例えばFe
2+、塩及び水などを利用するフロー電池システムの実施形態を示しており、さらに、これらのレドックスフロー電池システムを洗浄モードで作動させる工程を含み、これにより、従来のレドックスフロー電池システムと比較して、全体的な容量が低下することなく、充電及び放電サイクル数を増やすことができる。
【0067】
負極電解液チャンバ50及び正極電解液チャンバ52等のレドックスフロー電池システムの2つの電解液タンクは、1つのモータ制御混合バルブ(例えば、第1の混合バルブ210)及び1つの制御オリフィス(例えば、オリフィス220)と、又は、2つのモータ制御混合バルブ(例えば、第1の混合バルブ210及び第2の混合バルブ310)と、接続される。
【0068】
IFBレドックスフロー電池システムを作動する際に、所定の電解液SOCにおいてシステムの充電/放電電流及び電圧を監視することにより、電池容量を追跡することができる。IFB電池容量が第1の閾値SOC、例えばフルSOCの90%未満であることが検出されると、洗浄サイクルのトリガーとなり得る。
【0069】
洗浄サイクルの作動中、レドックスフロー電池システムは自動的に放電モードになり得、リバランスシステムがオンになり、すべての電解液の充電状態が急速に低下する。正極電解液の充電状態が閾値放電SOCよりも低く、正極電解液のpHが閾値放電pHよりも低い場合に応じて、第1の混合バルブ210を開いて、正極電解液を負極側に押しやる(例えば、第1の電解液回路280)。さらに、一例では、ポンプ32を停止して、正極電解液を負極側(例えば、第1の電解液回路280)に押しやるのを助けることができる。
【0070】
第1の閾値持続時間にわたって第1の混合バルブ210が開くことに応じて、第1の制御バルブが閉じられ、次いで、第1の電解液回路280内の混合電解液が、オリフィス220を介して、又は、第2の混合バルブ310が開くことによって、第2の電解液回路282内の正極電解液チャンバ52に戻される。上記の洗浄サイクル工程は、電池の充電状態が閾値電池SOC、例えばフルSOCの2%より低くなるまで繰り返されてもよく、その後、レドックスフロー電池システム10は、充電/放電モードで作動する準備ができ得る。
【0071】
図4は、
図1のレドックスフロー電池システム10等のレドックスフロー電池システムにおいて電解液を洗浄するための例示的な方法400を示している。方法400(例えば、レドックスフロー電池システムを洗浄モードで作動する)及び本明細書に含まれる残りの方法を実行するための命令は、コントローラの非一時的メモリに記憶された命令と、例えば
図1を参照して上記で説明したセンサなどのレドックスフロー電池システム10のセンサから受信した信号とを組み合わせたものに基づいて、コントローラ(例えば、コントローラ88)によって実行され得る。コントローラは、以下に説明する方法に従って、レドックスフロー電池システムのアクチュエータを使用して、その作動を調整することができる。
【0072】
方法400は405から始まり、レドックスフロー電池システムの作動条件が特定(determined)され得る。一例として、405で、所定の電解液の充電状態等におけるシステムの充電/放電モードの状態、電流、電圧、pH、導電率等を含む電解液の化学的特性は、様々なセンサ及び/又はプローブ(例えば、センサ60、62、70、72)を用いて測定できる。410において、方法400は、洗浄サイクル始動条件(cleansing cycle triggering condition)が満たされているかどうかをコントローラが特定することを含み得る。一例として、レドックスフロー電池容量が閾値目標電池容量(threshold target battery capacity)(例えば、閾値SOC)未満である場合、洗浄サイクル始動条件が満たされ得る。一例として、電池の充電状態(電荷の状態、state of charge)は光スキャナによって特定され得、電解液濃度は電解液電位を測定するためのORPプローブを用いて監視される。一例では、閾値目標電池容量は、レドックスフロー電池容量の90%を含み得る。別の例では、閾値目標電池容量は、レドックスフロー電池容量の97%を含み得る。
【0073】
さらに、洗浄サイクル始動条件は、正極電解液のpHが閾値放電pH未満である場合、及び/又は正極電解液SOCが閾値放電SOC未満である場合を含み得る。上述のように、閾値放電pHは、正極電解液(低pHを有する)と負極電解液(高pHを有する)の混合に起因するFe(OH)3の沈殿のリスクを低減するように選択され得る。負極電解液に導入される第二鉄イオンの量を減らすように閾値放電SOCが選択されてもよい。レドックスフロー電池の放電の間、第二鉄イオンは第一鉄イオンに還元される(式(2))ため、閾値放電SOC未満で洗浄サイクルを始動すると、正極電解液中の第二鉄イオンの濃度を大幅に減少させることに役立つことができ、それによりFe(OH)3のリスクが大幅に減少する。一例では、正極電解液SOCが閾値放電SOC未満の場合、正極電解液は実質的に第二鉄イオンを含まない。一例では、閾値放電pHは、pH1を含んでもよい。別の例では、電池SOCが閾値放電SOC未満である場合にのみ、洗浄サイクル始動条件が満たされ得る。
【0074】
洗浄サイクル始動条件が満たされる場合、方法400は415に進み、コントローラは現在の電池の作動条件を維持することができ、洗浄サイクルは作動しない。そのため、電解液は正極電解液チャンバ及び負極電解液チャンバの間を流れない。電池容量が目標電池容量未満であると判断された場合、方法400は410から420に進む。
【0075】
420において、方法400は、レドックスフロー電池システムの洗浄サイクルの始動(triggering)(例えば、作動(activating))を含む。420の洗浄サイクル中に、電解液の充電状態(state of charge)をより迅速に低下させるために、リバランスシステムが作動する。リバランスシステムの作動は、第1の電解液回路280内の電解液を、それに直列及び/又は並列に流体接続された1つ又は複数のリバランス反応器80に誘導するコントローラ、並びに、第2の電解液回路282内の電解液を、それに直列及び/又は並列に流体接続された1つ又は複数のリバランス反応器82に誘導するコントローラを含むことができる。さらに、420は、レドックスフロー電池システムを自動的に放電モードにするコントローラを含む。一例では、電池が420より前にアイドルモードであり、洗浄サイクル始動条件が満たされ(例えば、電池の充電状態が閾値目標電池容量未満であると判断され)、洗浄サイクルが始動すると、コントローラは電池を放電モードに切り替える。電池SOCは、複数の電池モード及び/又は作動条件全体にわたって監視され、コントローラは、電池SOCが閾値目標電池容量未満に低下した場合など、洗浄サイクル始動条件が満たされることに応じて洗浄サイクルを始動するように信号を送ることができる。
【0076】
いくつかの例では、方法は、電池SOCと閾値目標電池容量との間の差を特定することをさらに含み得る。例えば、電池SOCが満充電された電池SOC(例えば、100%のSOC)の70%で、閾値目標電池容量がフルSOCの90%である場合、測定される差は20%である。さらに、洗浄サイクル始動条件は、電池SOCと満充電の電池SOCとの差が閾値SOCの差よりも大きいことを含み得る。一例では、閾値SOCの差は5%を含んでもよく、又は、3%を含んでもよい。
【0077】
次に、方法400は430に進み、正極電解液の充電状態(電荷の状態、state of charge)と正の正極電解液のpHの両方が特定され、所定の設定値(pre-determined set points)と比較される。一例として、正極電解液の充電状態(電荷の状態、state of charge)は光スキャナによって特定され得、正極電解液のpHはpHメータを用いて測定され得る。正極電解液の充電状態(電荷の状態、state of charge)又は正極電解液のpHがそれぞれの所定の設定値よりも大きいと判断された場合、方法400は420に戻り、システム洗浄サイクルの作動が繰り返され、及び/又は、継続される。上述のように、正極電解液のpHの設定値は、正極電解液(低pHを有する)と負極電解液(高pHを有する)の混合に起因するFe(OH)3の沈殿のリスクを低減するように選択できる。正極電解液SOCの設定値は、正極電解液が負極電解液と混合されるときに負極電解液に導入される第二鉄イオンの量を減らすように選択されてもよい。正極電解液の充電状態(電荷の状態、state of charge)とpHの両方がそれぞれの所定の設定値よりも低いと判断された場合、方法400は440に続く。
【0078】
440において、方法400は、1つ又は複数の混合バルブ210及び310の位置を調整し、1つ又は複数の電解液ポンプ30及び32のポンプの状態を調整して第2の電解液回路282から第1の電解液回路280へと電解液の流れを誘導する、コントローラ88を含む。1つまたは複数の混合バルブ210及び310の位置の調整は、第1の閾値持続時間の間、第2の電解液回路282から第1の電解液回路280及び負極電解液チャンバ50へと(例えば、正極)電解液を誘導する電解液ポンプ30を作動させつつ、モータ制御混合バルブ210を開けるシグナルを送るコントローラを含んでもよい。さらに、正極電解液ポンプ32は、特にレドックスフロー電池システムが
図2のオリフィス220を含むフロー回路構成200を含む場合、停止されてもよい。したがって、電解液は、正極電解液ポンプ32によって第2の電解液回路282を介して循環されない場合がある。このように、第1の混合バルブ210が開き、負極電解液ポンプ30が作動する場合、第2の電解液回路282からの電解液は、第1の電解液回路280の電解液へと流れて混合される。逆に、正極電解液ポンプ32が停止している間、第1の電解液回路280内を循環する電解液は第2の電解液回路282に流れないことがある。したがって、440において、コントローラは1つ又は複数の混合バルブ210及び310の位置を調整でき、第1の電解液回路280から第2の電解液回路282への電解液の流れは誘導せず、第2の電解液回路282から第1の電解液回路280へと電解液の流れを誘導する1つ又は複数の電解液ポンプ30及び32のポンプの状態を調整できる。
【0079】
レドックスフロー電池システムがフロー回路構成300を含む場合、混合バルブの位置と電解液ポンプの状態を調整して、電解液を第2の電解液回路282から第1の電解液回路280へと誘導するために、混合バルブ310を閉じて、電解液の第1の電解液回路280から第2の電解液回路282への流れを遮断することを含んでもよい。さらに、電解液ポンプ32を作動させて、第2の電解液回路282の電解液の循環を維持しつつ、第2の電解液回路282内の電解液の一部は、開いた混合バルブ210を介し、作動する電解液ポンプ30に導かれて第1の電解液回路280へと流れてもよい。電解液ポンプ32がオンである間、混合バルブ310が閉じられるため、電解液は、第1の電解液回路280から第2の電解液回路282へは流れない。
【0080】
次に、方法400は442に続き、コントローラは、第1の閾値持続時間が経過したかどうかを判断する。第1の閾値持続時間は、十分な量の電解液を第2の電解液回路282から第1の電解液回路280へと流し、所定の閾値目標電池容量を超えたレドックスフロー電池システム容量を維持するため、第1の電解液回路280においてそれらを混合する持続時間に対応し得る。したがって、第1の閾値持続時間は、電池SOCと閾値目標電池容量との差が増加するにつれて増加し得る。例えば、閾値目標電池容量が90%の場合、洗浄サイクルが始動した時点で電池SOCが80%の場合と比較して、電池SOCが70%の場合の第1の閾値持続時間は長くなる。追加又は代替として、第1の閾値持続時間は一定であってもよい。一例では、第1の閾値持続時間は500秒を含み得る。442において、コントローラが第1の閾値持続時間が経過したと判断した場合、方法400は444に続く。コントローラが第1の閾値持続時間が経過していないと判断した場合、方法400は440に戻り、調整された混合バルブの位置及び第2の電解液回路から第1の電解液回路へと電解液を誘導する電解液ポンプの状態が維持される。
【0081】
方法400は444へと続き、ここで、コントローラは混合バルブの位置を調整し、第2の電解液回路から第1の電解液回路への電解液の誘導を停止できる。第2の電解液回路から第1の電解液回路への電解液の流れの停止は、電解液(第1の閾値持続時間の経過前の、第2の電解液回路282から第1の電解液回路280に誘導された電解液を含む)の循環を維持するために、電解液ポンプ30が作動及びオンに維持されている間に混合バルブ210を閉じる、コントローラを含む。
【0082】
次に、方法400は446へと続き、そこでコントローラは遅延時間が経過したかどうかを判断する。一例では、遅延時間は一定の遅延時間を含む。あるいは、遅延時間は、第1の閾値持続時間と比例関係にあってよく、第1の閾値持続時間が増加するにつれて、遅延時間も増加する。このようにして、遅延時間の間、電解液は第1の電解液回路280のみを通って流れる。遅延時間中に第1の電解液回路280のみを流れる電解液は、第2の電解液回路282から第1の電解液回路280にさらなる電解液が流れない遅延時間の間、第1の電解液回路280内の電解液をより完全に混合するのに役立つ。遅延時間が経過していない場合、方法400は444に戻り、第2の電解液回路282から第1の電解液回路280への電解液の流れを停止するために調整された混合バルブの位置が維持される。コントローラが、遅延時間が経過したと判断した場合、方法400は450へと続く。
【0083】
450において、方法400は、1つ又は複数の混合バルブ210及び310の位置を調整し、第1の電解液回路280から第2の電解液回路282への電解液の流れを促進するための電解液ポンプの状態を調整するコントローラを含む。第1の電解液回路280から第2の電解液回路282への流れの促進は、モータ制御混合バルブ210を閉じ、電解液ポンプ30を停止し、電解液ポンプ32を作動するコントローラを含んでもよい。混合バルブ210が閉じているときに電解液ポンプ30を停止させつつ電解液ポンプ32を作動させると、第1の電解液回路280から第2の電解液回路282への電解液の誘導が促進される。レドックスフロー電池システム10がフロー回路構成300を含む場合、第1の電解液回路280から第2の電解液回路282への電解液の流れの促進は、さらに、モータ制御混合バルブ310を開けるコントローラを含んでもよい。混合バルブ210が閉じた後、負極電解液は、第1の電解液回路280から第2の電解液回路282に流れることができ、これには、オリフィス220(レドックスフロー電池システム10がフロー回路構成200を含む場合)、又は、混合バルブ310(レドックスフロー電池システム10がフロー回路構成300を含む場合)のいずれかを介して、負極電解液チャンバ50から正極電解液チャンバ52に流れる電解液が含まれる。
【0084】
フロー回路構成200の例では、ステップ450は、オリフィス220(特定の電解液混合割合(mixing rate)に合わせたサイズ)を介して、電解液を第1の電解液回路280から正極電解液チャンバ52を含む第2の電解液回路282に流すことを含む。フロー回路構成300の例では、ステップ450は、電解液を正極電解液チャンバ52に戻すようにモータ制御混合バルブ310を開けるコントローラを含む。
【0085】
次に、方法400は456へと続き、コントローラは、第2の閾値持続時間が経過したかどうかを判断する。第2の閾値持続時間は、第1の電解液回路280及び第2の電解液回路282の両方の電解液量のバランスを取るため、第1の電解液回路280から第2の電解液回路282へと流れることができる電解液量の持続時間に対応し得る。一例では、第2の閾値持続時間は第1の閾値持続時間と等しくてもよい。あるいは、レドックスフロー電池システム10がフロー回路構成200を含む場合、第2の閾値持続時間は、オリフィス220のサイズと第1の閾値持続時間との組み合わせに基づいてもよい。オリフィス220は、第1の電解液回路280から第2の電解液回路282への流量を調整するサイズにすることができ、及び/又は、オリフィス220は、負極電解液ポンプ30の流量に基づいたサイズにすることができる。一例では、オリフィス220は、負極電解液ポンプ30の流量に実質的に等しい、第1の電解液回路280及び第2の電解液回路282との間の流量を提供するサイズである。例えば、第1の電解液回路280と第2の電解液回路282との間の混合割合は、オリフィス220のサイズの増加に伴って増加する。オリフィスの直径(例えば、主流方向を横断する断面直径)の増加に伴い、第1の電解液回路280から第2の電解液回路282への電解液の流量はより多くなり得る。逆に、オリフィスの直径(例えば、主流方向を横断する断面直径)の減少に伴い、第1の電解液回路280から第2の電解液回路282への電解液の流量はより少なくなり得る。コントローラが第2の閾値持続時間が経過していないと判断した場合、方法400は450に戻り、コントローラは、調整された混合バルブの位置及び電解液ポンプの状態を維持し、第1の電解液回路280から第2の電解液回路282への電解液の流れを促進する。第2の閾値持続時間が経過した場合、方法400は460へと続く。
【0086】
方法400は460へと続き、コントローラは、レドックスフロー電池の充電状態を特定し、プリセット値、第2の閾値SOC,SOCTH2と比較した場合を特定する。例えば、コントローラによって電池の充電状態がプリセット値よりも高いと判定された場合、方法400はステップ440に戻り、1つ又は複数の混合バルブの位置及び電解液ポンプの状態が、第2の電解液回路282から第1の電解液回路280へと電解液の流れが誘導されるように調整される。よって、電解液の流れは逆になり、電解液は正極電解液チャンバ52から負極電解液チャンバ50へと流れる。460において、コントローラによって電池の充電状態がプリセット値SOCTH2未満であると判断された場合、方法400は470へと続く。一例では、プリセット値SOCTH2は、閾値低目標電池容量(threshold lower target battery capacity)よりも小さい。例えば、閾値低目標電池容量が2%の場合、プリセット値SOCTH2は2%未満となり得る。
【0087】
470において、コントローラは、
図1を参照して説明したように、レドックスフロー電池システム10が充電/放電/アイドル作動に戻る準備ができていると判断する。したがって、レドックスフロー電池システム10がフロー回路構成300を含む場合において、コントローラは、第2の混合バルブ310の位置が完全に閉位置となるように調整することができる。
よって、470の後、混合バルブ210及び310は両方とも完全に閉位置となり、電解液は、正極電解液チャンバ52と負極電解液チャンバ50との間を含む、第1の電解液回路280と第2の電解液回路282との間の流れがブロックされる。次に474で、コントローラは洗浄サイクルを終了し、レドックスフロー電池システム10の作動を充電/放電/アイドルモードに戻すことができる。レドックスフロー電池システム10の作動を充電/放電/アイドルモードに戻すには、1つまたは複数の電解液ポンプ30及び32を作動させ、負極電解液チャンバ50及び正極電解液チャンバ52の間と、負極室20及び正極室22との間でそれぞれ電解液を再循環させるコントローラを含むことができる。474及び415の後、方法400は終了する。
【0088】
図5は、
図2又は
図3のフロー回路構成を含み、本明細書で説明された洗浄方法に従って作動するレドックス鉄フロー電池(IFB)システムの例と、典型的なリチウムイオン電池との性能比較を示すグラフである。図では、レドックス鉄フロー電池システムとリチウムイオン電池の両方について、電池容量の割合がY軸にグラフ化され、X軸にサイクル数が示されている。グラフは、10,000サイクル超にわたって、IFBレドックスフロー電池システムが容量の損失を実質的に経験しないことを示している。これに対し、リチウムイオン電池は、サイクル毎に容量を着実に失い、10,000サイクル後にその総容量の~45%を失う。図に示されている結果は、本明細書で説明されているIFBレドックスフロー電池システムの洗浄方法の利点を明確に示している。当該結果は、IFBシステムが10,000サイクル超、フル容量で作動可能であり、このシステムの容量低下の軽減は、作動パフォーマンスが低く、したがって著しく少ないサイクル数で交換の必要があるリチウムイオン電池システムよりも優れていることを示している。
【0089】
このように、本明細書に記載のシステム及び方法は、従来の電池システムと比較して、繰り返し及び周期的な、充電及び放電によって引き起こされる電池システム容量の低下を低減することを含む、レドックスフロー電池システムの電解液の健全性の向上を維持する技術的効果を達成できる。特に、本明細書で説明されるシステム及び方法は、閾値容量損失を超える容量の損失を経験することなく、サイクル数を増やしたレドックスフロー電池システムの作動を可能にする。さらに、本明細書に記載の方法及びシステムは、既存の電解液貯蔵チャンバを利用しながら、さらに追加の電解液貯蔵タンクなしで実施することができるため、システムの複雑さとコストが低減される。
【0090】
したがって、レドックスフロー電池システムの作動方法は、正極電解液ポンプによる正極室と正極電解液チャンバとの間における正極電解液の循環と、負極電解液ポンプによる負極室と負極電解液チャンバとの間における負極電解液の循環と、を含み、レドックスフロー電池容量が閾値電池容量未満である場合を含む第1の条件に応じて、レドックスフロー電池の充電状態(SOC)が閾値SOC未満となるまで正極電解液と負極電解液とを混合することを含む電池洗浄サイクルの実施、を含む。方法の第1の例では、第1の条件は、正極電解液のSOCが閾値放電SOC未満である場合をさらに含む。方法の第2の例は、第1の例を含んでいてもよく、さらに、第1の条件が正極電解液のpHが閾値pH未満である場合をさらに含むことを、含む。方法の第3の例は、第1の例及び第2の例のうち1つ又は複数を含んでいてもよく、正極電解液と負極電解液との混合は、正極電解液チャンバから負極電解液チャンバへと正極電解液の流れを誘導するために、第1の混合バルブを開けることを含むことをさらに含む。方法の第4の例は、第1の例~第3の例のうち1つ又は複数を含んでいてもよく、正極電解液と負極電解液との混合は、第1の混合バルブが開いている間、負極電解液ポンプを作動することを含むことを、さらに含む。方法の第5の例は、第1の例~第4の例のうち1つ又は複数を含んでいてもよく、正極電解液と負極電解液との混合は、第1の混合バルブが開いている間、正極電解液ポンプを停止することを含むことをさらに含む。方法の第6の例は、第1の例~第5の例のうち1つ又は複数を含んでいてもよく、正極電解液と負極電解液との混合は、第1の閾値持続時間の間、第1の混合バルブを開けることを含むことをさらに含む。方法の第7の例は、第1の例~第6の例のうち1つ又は複数を含んでいてもよく、電池洗浄サイクルの実施は、正極電解液のSOCが閾値放電SOCよりも大きい場合、レドックスフロー電池システムの作動を放電モードに切り替えることを含むことをさらに含む。方法の第8の例は、第1の例~第7の例のうち1つ又は複数を含んでいてもよく、電池洗浄サイクルの実施は、正極電解液のpHが閾値pHよりも大きい場合、正極電解液の流れをリバランス反応器へと誘導することを含むことをさらに含む。方法の第9の例は、第1の例~第8の例のうち1つ又は複数を含んでいてもよく、第1の閾値持続時間の経過に応じて、電解液を前記負極電解液チャンバから前記正極電解液チャンバへと誘導するため、第1の混合バルブを閉じ、第2の混合バルブを開けることをさらに含む。
【0091】
したがって、レドックスフロー電池システムの洗浄方法は、充電モード、放電モード、又はアイドルモードにおけるレドックスフロー電池システムの作動を含み、レドックスフロー電池容量が閾値電池容量未満であることに応じて、レドックスフロー電池システムを放電モードで作動するように切り替え、正極電解液及び負極電解液をリバランス反応器へと流すことにより、電解液の充電状態(SOC)を減らすことを含む。第1の例では、方法は、正極電解液のSOC及びpHがそれぞれ閾値正極電解液SOC未満及び閾値pH未満であることに応じて、正極電解液と負極電解液とを混合することを含んでいてもよい。方法の第2の例は、第1の例を含んでいてもよく、正極電解液と負極電解液との混合は、第1の閾値持続時間の間、正極室から負極室へ電解液を流すことをさらに含む。方法の第3の例は、第1の例又は第2の例の1つ又は複数を含んでいてもよく、第1の閾値持続時間の経過後、第2の閾値持続時間の間、負極室から正極室へ電解液を流すことをさらに含む。方法の第4の例は、第1の例~第3の例の1つ又は複数を含んでいてもよく、第1の閾値持続時間の後であって第2の閾値持続時間の前の遅延時間の間、負極室と正極室とを流体的に隔離することをさらに含む。方法の第5の例は、第1の例~第4の例の1つ又は複数を含んでいてもよく、第1の閾値持続時間は、レドックスフロー電池容量と閾値電池容量との差に伴って増加することをさらに含む。
【0092】
したがって、レドックスフロー電池システムは、正極室及び負極室を備えたレドックスフロー電池セルと、正極室と負極室との間に流体接続された混合バルブと、正極室を通って電解液を循環させるための正極電解液ポンプ及び負極電解液ポンプと、メモリに記憶された実行可能な命令を含むコントローラと、を含み、レドックスフロー電池容量が閾値電池容量未満であることに応じて、正極電解液と負極電解液との混合を含む電池洗浄サイクルを実施することを含む。レドックスフロー電池システムの第1の例は、正極電解液と負極電解液とを混合するための実行可能な命令が、負極電解液ポンプを作動させ、正極電解液ポンプを停止させつつ、第1の閾値持続時間の間、混合バルブを開けることを含む。レドックスフロー電池システムの第2の例は、第1の例を含み、第1の閾値持続時間後に、負極電解液ポンプを停止させ、正極電解液ポンプを作動させつつ、混合バルブを閉じることをさらに含む、実行可能な命令をさらに含む。レドックスフロー電池システムの第3の例は、第1の例及び第2の例のうち1つ又は複数を含み、レドックスフロー電池の充電状態(SOC)が閾値SOC未満の場合、電池洗浄サイクルを停止することをさらに含む、実行可能な命令をさらに含む。
【0093】
本明細書に含まれる例示的な制御及び判断ルーチンは、様々な電池及び/又は車両システム構成で使用できることに留意されたい。本明細書で開示される制御方法及びルーチンは、実行可能な命令として非一時的なメモリに記憶され、様々なセンサ、アクチュエータ、及び他の電池ハードウェアと組み合わせたコントローラを含む制御システムによって実施されてもよい。本明細書で説明する特定のルーチンは、イベント駆動型、割り込み駆動型、マルチタスク処理、マルチスレッド処理等の任意の数の処理戦略の1つ又は複数を表してもよい。したがって、例示された様々な動作(action)、作動(operation)、及び/又は機能は、例示された順序で、並行して、又は場合によっては省略されて実施されてもよい。同様に、処理の順序は、本明細書で説明される例示的な実施形態の特徴及び利点を達成するために必ずしも必要ではないが、例示及び説明を容易にするために提供される。例示された動作(action)、作動(operation)、及び/又は機能の1つ又は複数は、用いられる特定の戦略に応じて繰り返し実施されてもよい。さらに、記載された動作(action)、作動(operation)及び/又は機能は、エンジン制御システム内のコンピューター読み取り可能な記憶媒体の非一時的メモリにプログラムされるコードをグラフィカルに表してもよく、記載されたアクションは、電子コントローラと組み合わされて、様々な電池ハードウェア部品を含むシステムによって命令が実行されることによって実施される。
【0094】
以下の特許請求の範囲は、新規かつ非自明とみなされる特定の組み合わせ及びサブコンビネーションを特に挙げている。これらの請求項は、「1つの(an)」要素又は「第1の(a first)」要素又はそれらの同等物を意味してもよい。そのようなクレームは、1つ又は複数のそのような要素の組み込みを含むと理解されるべきであり、2つ以上のそのような要素を必要とすることも除外することもないと理解されるべきである。開示された特徴、機能、要素、及び/又は特性の他の組み合わせ及びサブコンビネーションは、本請求項の補正を通じて、又は本出願又は関連出願における新しい請求項の提示を通じて請求されてもよい。そのような請求項は、元の請求項よりも広い、狭い、等しい、又は異なる範囲であっても、本開示の構成要件内に含まれるものとみなされる。