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特許7121051車両用灯具システム、車両用灯具の制御装置及び車両用灯具の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】車両用灯具システム、車両用灯具の制御装置及び車両用灯具の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/24 20060101AFI20220809BHJP
   B60Q 1/04 20060101ALI20220809BHJP
   B60Q 1/14 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B60Q1/24 B
B60Q1/04 E
B60Q1/14 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019562925
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2018045058
(87)【国際公開番号】W WO2019131055
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2017252005
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】山村 聡志
(72)【発明者】
【氏名】仲田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 隆延
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-090844(JP,A)
【文献】特開2014-061747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/24
B60Q 1/04
B60Q 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車前方を撮像する撮像部と、
前記撮像部から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域それぞれの輝度を検出する輝度解析部と、
前記輝度解析部の検出結果に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定部と、
前記複数の個別領域それぞれに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部と、
前記照度設定部が定めた照度値に基づいて前記光源部を制御する光源制御部と、
を備え、
前記照度設定部は、前記輝度解析部の検出結果に基づいて互いに接する高輝度領域と低輝度領域とを検出し、前記高輝度領域と前記低輝度領域との境界線に沿った高輝度側縁部と低輝度側縁部との輝度差が大きくなるように照度値を設定して前記境界線を強調し、前記照度値の設定において、前記高輝度側縁部の輝度が、前記高輝度領域における前記高輝度側縁部よりも前記境界線から離れた高輝度内側領域の輝度よりも高くなるように照度値を設定する
車両用灯具システム。
【請求項2】
自車前方を撮像する撮像部と、
前記撮像部から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域それぞれの輝度を検出する輝度解析部と、
前記輝度解析部の検出結果に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定部と、
前記複数の個別領域それぞれに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部と、
前記照度設定部が定めた照度値に基づいて前記光源部を制御する光源制御部と、
を備え、
前記照度設定部は、前記輝度解析部の検出結果に基づいて互いに接する高輝度領域と低輝度領域とを検出し、前記高輝度領域と前記低輝度領域との境界線に沿った高輝度側縁部と低輝度側縁部との輝度差が大きくなるように照度値を設定して前記境界線を強調し、前記照度値の設定において、前記低輝度側縁部の輝度が、前記低輝度領域における前記低輝度側縁部よりも前記境界線から離れた低輝度内側領域の輝度よりも低くなるように照度値を設定する
車両用灯具システム。
【請求項3】
自車前方を撮像する撮像部と、
前記撮像部から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域それぞれの輝度を検出する輝度解析部と、
前記輝度解析部の検出結果に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定部と、
前記複数の個別領域それぞれに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部と、
前記照度設定部が定めた照度値に基づいて前記光源部を制御する光源制御部と、
を備え、
前記照度設定部は、前記輝度解析部の検出結果に基づいて互いに接する高輝度領域と低輝度領域とを検出し、前記高輝度領域と前記低輝度領域との境界線に沿った高輝度側縁部と低輝度側縁部との輝度差が大きくなるように照度値を設定して前記境界線を強調し、前記照度値の設定において、前記高輝度側縁部の輝度が、前記高輝度領域における前記高輝度側縁部よりも前記境界線から離れた高輝度内側領域の輝度よりも高く、且つ前記低輝度側縁部の輝度が、前記低輝度領域における前記低輝度側縁部よりも前記境界線から離れた低輝度内側領域の輝度よりも低くなるように照度値を設定する
車両用灯具システム。
【請求項4】
自車前方に並ぶ複数の個別領域のそれぞれの輝度を検出する輝度解析部と、
前記輝度解析部の検出結果に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定部と、
前記照度設定部が定めた照度値に基づいて、各個別領域に照射する光の照度を独立に調節可能な光源部を制御する光源制御部と、
を備え、
前記照度設定部は、前記輝度解析部の検出結果に基づいて互いに接する高輝度領域と低輝度領域とを検出し、前記高輝度領域と前記低輝度領域との境界線に沿った高輝度側縁部と低輝度側縁部との輝度差が大きくなるように照度値を設定して前記境界線を強調し、前記照度値の設定において、前記高輝度側縁部の輝度が、前記高輝度領域における前記高輝度側縁部よりも前記境界線から離れた高輝度内側領域の輝度よりも高くなるように照度値を設定する、
車両用灯具の制御装置。
【請求項5】
自車前方に並ぶ複数の個別領域のそれぞれの輝度を検出する輝度解析部と、
前記輝度解析部の検出結果に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定部と、
前記照度設定部が定めた照度値に基づいて、各個別領域に照射する光の照度を独立に調節可能な光源部を制御する光源制御部と、
を備え、
前記照度設定部は、前記輝度解析部の検出結果に基づいて互いに接する高輝度領域と低輝度領域とを検出し、前記高輝度領域と前記低輝度領域との境界線に沿った高輝度側縁部と低輝度側縁部との輝度差が大きくなるように照度値を設定して前記境界線を強調し、前記照度値の設定において、前記低輝度側縁部の輝度が、前記低輝度領域における前記低輝度側縁部よりも前記境界線から離れた低輝度内側領域の輝度よりも低くなるように照度値を設定する、
車両用灯具の制御装置。
【請求項6】
自車前方に並ぶ複数の個別領域のそれぞれの輝度を検出する輝度解析部と、
前記輝度解析部の検出結果に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定部と、
前記照度設定部が定めた照度値に基づいて、各個別領域に照射する光の照度を独立に調節可能な光源部を制御する光源制御部と、
を備え、
前記照度設定部は、前記輝度解析部の検出結果に基づいて互いに接する高輝度領域と低輝度領域とを検出し、前記高輝度領域と前記低輝度領域との境界線に沿った高輝度側縁部と低輝度側縁部との輝度差が大きくなるように照度値を設定して前記境界線を強調し、前記照度値の設定において、前記高輝度側縁部の輝度が、前記高輝度領域における前記高輝度側縁部よりも前記境界線から離れた高輝度内側領域の輝度よりも高く、且つ前記低輝度側縁部の輝度が、前記低輝度領域における前記低輝度側縁部よりも前記境界線から離れた低輝度内側領域の輝度よりも低くなるように照度値を設定する、
車両用灯具の制御装置。
【請求項7】
自車前方に並ぶ複数の個別領域のそれぞれの輝度を検出するステップと、
検出した輝度に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定めるステップと、
定めた照度値に基づいて、各個別領域に光を照射するステップと、
を含み、
前記照度値を定めるステップ、前記輝度を検出するステップの結果に基づいて互いに接する高輝度領域と低輝度領域とを検出し、前記高輝度領域と前記低輝度領域との境界線に沿った高輝度側縁部と低輝度側縁部との輝度差が大きくなるように照度値を設定して前記境界線を強調することを含み、前記照度値の設定は、前記高輝度側縁部の輝度が、前記高輝度領域における前記高輝度側縁部よりも前記境界線から離れた高輝度内側領域の輝度よりも高くなるように照度値を設定することを含む、
車両用灯具の制御方法。
【請求項8】
自車前方に並ぶ複数の個別領域のそれぞれの輝度を検出するステップと、
検出した輝度に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定めるステップと、
定めた照度値に基づいて、各個別領域に光を照射するステップと、
を含み、
前記照度値を定めるステップは、前記輝度を検出するステップの結果に基づいて互いに接する高輝度領域と低輝度領域とを検出し、前記高輝度領域と前記低輝度領域との境界線に沿った高輝度側縁部と低輝度側縁部との輝度差が大きくなるように照度値を設定して前記境界線を強調することを含み、前記照度値の設定は、前記低輝度側縁部の輝度が、前記低輝度領域における前記低輝度側縁部よりも前記境界線から離れた低輝度内側領域の輝度よりも低くなるように照度値を設定することを含む、
車両用灯具の制御方法。
【請求項9】
自車前方に並ぶ複数の個別領域のそれぞれの輝度を検出するステップと、
検出した輝度に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定めるステップと、
定めた照度値に基づいて、各個別領域に光を照射するステップと、
を含み、
前記照度値を定めるステップは、前記輝度を検出するステップの結果に基づいて互いに接する高輝度領域と低輝度領域とを検出し、前記高輝度領域と前記低輝度領域との境界線に沿った高輝度側縁部と低輝度側縁部との輝度差が大きくなるように照度値を設定して前記境界線を強調することを含み、前記照度値の設定は、前記高輝度側縁部の輝度が、前記高輝度領域における前記高輝度側縁部よりも前記境界線から離れた高輝度内側領域の輝度よりも高く、且つ前記低輝度側縁部の輝度が、前記低輝度領域における前記低輝度側縁部よりも前記境界線から離れた低輝度内側領域の輝度よりも低くなるように照度値を設定することを含む、
車両用灯具の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具システム、車両用灯具の制御装置及び車両用灯具の制御方法に関し、特に自動車などに用いられる車両用灯具システム、車両用灯具の制御装置及び車両用灯具の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な配光パターンを形成可能な車両用灯具が知られている。例えば、特許文献1には、複数の微小ミラーをアレイ状に配列したDMD(Digital Mirror Device)を用いて配光パターンを形成する技術が開示されている。また、特許文献2には、光源光で自車前方を走査するスキャン光学系を用いて配光パターンを形成する技術が開示されている。また、特許文献3には、LEDアレイを用いて配光パターンを形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-064964号公報
【文献】特開2012-227102号公報
【文献】特開2008-094127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したADB制御によれば、対向車等へのグレアを回避しつつ、自車両の運転者の視認性を向上させることができる。視認性向上により、運転者は前方の障害物をより確実に認識することができるため、運転の安全性が向上する。一方で、運転の安全性を向上させたいという要求は常にある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、運転の安全性を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は車両用灯具システムである。当該システムは、自車前方を撮像する撮像部と、撮像部から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域それぞれの輝度を検出する輝度解析部と、輝度解析部の検出結果に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定部と、複数の個別領域それぞれに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部と、照度設定部が定めた照度値に基づいて光源部を制御する光源制御部と、を備える。照度設定部は、輝度解析部の検出結果に基づいて互いに接する高輝度領域と低輝度領域とを検出し、高輝度領域と低輝度領域との境界線に沿った高輝度側縁部と低輝度側縁部との輝度差が大きくなるように照度値を設定して境界線を強調する。この態様によれば、運転の安全性を向上させることができる。
【0007】
上記態様において、照度設定部は、高輝度側縁部の輝度が、高輝度領域における高輝度側縁部よりも境界線から離れた高輝度内側領域の輝度よりも高くなるように照度値を設定してもよい。また、上記態様において、照度設定部は、低輝度側縁部の輝度が、低輝度領域における低輝度側縁部よりも境界線から離れた低輝度内側領域の輝度よりも低くなるように照度値を設定してもよい。また、上記態様において、照度設定部は、高輝度側縁部の輝度が、高輝度領域における高輝度側縁部よりも境界線から離れた高輝度内側領域の輝度よりも高く、且つ低輝度側縁部の輝度が、低輝度領域における低輝度側縁部よりも境界線から離れた低輝度内側領域の輝度よりも低くなるように照度値を設定してもよい。
【0008】
本発明の他の態様は、車両用灯具の制御装置である。当該制御装置は、自車前方に並ぶ複数の個別領域のそれぞれの輝度を検出する輝度解析部と、輝度解析部の検出結果に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定部と、照度設定部が定めた照度値に基づいて、各個別領域に照射する光の照度を独立に調節可能な光源部を制御する光源制御部と、を備える。照度設定部は、輝度解析部の検出結果に基づいて互いに接する高輝度領域と低輝度領域とを検出し、高輝度領域と低輝度領域との境界線に沿った高輝度側縁部と低輝度側縁部との輝度差が大きくなるように照度値を設定して境界線を強調する。
【0009】
また、本発明の他の態様は、車両用灯具の制御方法である。当該制御方法は、自車前方に並ぶ複数の個別領域のそれぞれの輝度を検出するステップと、検出した輝度に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定めるステップと、定めた照度値に基づいて、各個別領域に光を照射するステップと、を含む。照度値を定めるステップにおいて、輝度を検出するステップの結果に基づいて互いに接する高輝度領域と低輝度領域とを検出し、高輝度領域と低輝度領域との境界線に沿った高輝度側縁部と低輝度側縁部との輝度差が大きくなるように照度値を設定して境界線を強調する。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、運転の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。
図2図2(A)は、光偏向装置の概略構成を示す正面図である。図2(B)は、図2(A)に示す光偏向装置のA-A断面図である。
図3】自車前方の様子を模式的に示す図である。
図4図4(A)は、輝度解析部が生成した輝度画像データを示す模式図である。図4(B)は、高輝度領域と低輝度領域との境界線を示す模式図である。
図5図5(A)および図5(B)は、実施の形態に係る輪郭強調制御を説明するための模式図である。
図6図6(A)及び図6(B)は、実施の形態に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の一例を示すフローチャートである。
図7図7(A)および図7(B)は、変形例1に係る輪郭強調制御を説明するための模式図である。
図8図8(A)および図8(B)は、変形例2に係る輪郭強調制御を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限り、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
【0014】
図1は、実施の形態に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図1では、車両用灯具システム1の構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0015】
車両用灯具システム1は、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置に適用される。一対の前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、図1には車両用灯具2として一方の前照灯ユニットの構造を示す。
【0016】
車両用灯具システム1が備える車両用灯具2は、車両前方側に開口部を有するランプボディ4と、ランプボディ4の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー6とを備える。透光カバー6は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成される。ランプボディ4と透光カバー6とにより形成される灯室8内には、光源部10と、撮像部12と、制御装置50とが収容される。
【0017】
光源部10は、自車前方に並ぶ複数の個別領域(図3参照)のそれぞれに照射する光の照度(強度)を独立に調節可能な装置である。光源部10は、光源22と、反射光学部材24と、光偏向装置26と、投影光学部材28とを有する。各部は、図示しない支持機構によりランプボディ4に取り付けられる。
【0018】
光源22は、LED(Light emitting diode)、LD(Laser diode)、EL(Electroluminescence)素子等の半導体発光素子や、電球、白熱灯(ハロゲンランプ)、放電灯(ディスチャージランプ)等を用いることができる。
【0019】
反射光学部材24は、光源22から出射された光を光偏向装置26の反射面に導くように構成される。反射光学部材24は、内面が所定の反射面となっている反射鏡で構成される。なお、反射光学部材24は、中実導光体などであってもよい。また、光源22から出射した光を光偏向装置26に直接導くことができる場合は、反射光学部材24を設けなくてもよい。
【0020】
光偏向装置26は、投影光学部材28の光軸上に配置され、光源22から出射された光を選択的に投影光学部材28へ反射するように構成される。光偏向装置26は、例えばDMD(Digital Mirror Device)で構成される。すなわち、光偏向装置26は、複数の微小ミラーをアレイ(マトリックス)状に配列したものである。これらの複数の微小ミラーの反射面の角度をそれぞれ制御することで、光源22から出射された光の反射方向を選択的に変えることができる。
【0021】
つまり、光偏向装置26は、光源22から出射された光の一部を投影光学部材28へ向けて反射し、それ以外の光を、投影光学部材28によって有効に利用されない方向へ向けて反射することができる。ここで、有効に利用されない方向とは、例えば、投影光学部材28には入射するが配光パターンの形成にほとんど寄与しない方向や、図示しない光吸収部材(遮光部材)に向かう方向と捉えることができる。
【0022】
図2(A)は、光偏向装置の概略構成を示す正面図である。図2(B)は、図2(A)に示す光偏向装置のA-A断面図である。光偏向装置26は、複数の微小なミラー素子30がマトリックス状に配列されたマイクロミラーアレイ32と、ミラー素子30の反射面30aの前方側(図2(B)に示す光偏向装置26の右側)に配置された透明なカバー部材34とを有する。カバー部材34は、例えば、ガラスやプラスチック等で構成される。
【0023】
ミラー素子30は略正方形であり、水平方向に延びミラー素子30をほぼ等分する回動軸30bを有する。マイクロミラーアレイ32の各ミラー素子30は、第1反射位置(図2(B)において実線で示す位置)と、第2反射位置(図2(B)において点線で示す位置)とを切り替え可能に構成されている。第1反射位置は、光源22から出射された光を、所望の配光パターンの一部として利用されるように投影光学部材28へ向けて反射する位置である。第2反射位置は、光源22から出射された光が有効に利用されないように反射する位置である。各ミラー素子30は、回動軸30b周りに回動して、第1反射位置と第2反射位置との間で個別に切り替えられる。各ミラー素子30は、オン時に第1反射位置をとり、オフ時に第2反射位置をとる。
【0024】
図3は、自車前方の様子を模式的に示す図である。上述のように光源部10は、灯具前方に向けて互いに独立に光を照射可能な個別照射部としてのミラー素子30を複数有する。光源部10は、ミラー素子30によって自車前方に並ぶ複数の個別領域Rに光を照射することができる。各個別領域Rは、撮像部12、より具体的には例えば高速カメラ36の1ピクセル又は複数ピクセルの集合に対応する領域である。また、本実施の形態では、各個別領域Rと各ミラー素子30とが対応付けられている。
【0025】
図2(A)及び図3では、説明の便宜上、ミラー素子30及び個別領域Rを横10×縦8の配列としているが、ミラー素子30及び個別領域Rの数は特に限定されない。例えば、マイクロミラーアレイ32の解像度(言い換えればミラー素子30及び個別領域Rの数)は1000~30万ピクセルである。また、光源部10が1つの配光パターンの形成に要する時間は、例えば0.1~5msである。すなわち、光源部10は、0.1~5ms毎に配光パターンを変更することができる。
【0026】
図1に示すように、投影光学部材28は、例えば、前方側表面及び後方側表面が自由曲面形状を有する自由曲面レンズからなる。投影光学部材28は、その後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方に投影する。投影光学部材28は、その後方焦点が車両用灯具2の光軸上、且つマイクロミラーアレイ32の反射面の近傍に位置するように配置される。なお、投影光学部材28は、リフレクタであってもよい。
【0027】
光源22から出射された光は、反射光学部材24で反射されて、光偏向装置26のマイクロミラーアレイ32に照射される。光偏向装置26は、第1反射位置にある所定のミラー素子30によって投影光学部材28へ向けて光を反射する。この反射された光は、投影光学部材28を通過して灯具前方に進行し、各ミラー素子30に対応する各個別領域Rに照射される。これにより、所定形状の配光パターンが灯具前方に形成される。
【0028】
撮像部12は、自車前方を撮像する装置である。撮像部12は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。高速カメラ36は、比較的フレームレートが高く、例えば200fps以上10000fps以下(1フレームあたり0.1~5ms)である。一方、低速カメラ38は、比較的フレームレートが低く、例えば30fps以上120fps以下である(1フレームあたり約8~33ms)。また、高速カメラ36は、比較的解像度が小さく、例えば30万ピクセル以上500万ピクセル未満である。一方、低速カメラ38は、比較的解像度が大きく、例えば500万ピクセル以上である。高速カメラ36および低速カメラ38は、全ての個別領域Rを撮像する。なお、高速カメラ36および低速カメラ38の解像度は、上記数値に限定されず、技術的に整合する範囲で任意の値に設定することができる。
【0029】
制御装置50は、輝度解析部14と、状況解析部16と、灯具制御部18と、光源制御部20とを有する。撮像部12が取得した画像データは、輝度解析部14および状況解析部16に送られる。
【0030】
輝度解析部14は、撮像部12から得られる情報(画像データ)に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、状況解析部16に比べて精度の低い画像解析を実行し、高速に解析結果を出力する高速低精度解析部である。本実施の形態の輝度解析部14は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、例えば0.1~5ms毎に各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14の検出結果、すなわち個別領域Rの輝度情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
【0031】
状況解析部16は、撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方の状況を検出する。例えば、状況解析部16は、自車前方に存在する物標を検出する。状況解析部16は、輝度解析部14に比べて精度の高い画像解析を実行し、低速に解析結果を出力する低速高精度解析部である。本実施の形態の状況解析部16は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて自車前方の状況を検出する。状況解析部16は、例えば50ms毎に状況を検出する。状況解析部16によって検出される物標としては、図3に示すように、対向車100や歩行者200等が例示される。また、先行車や、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示、道路形状等も物標に含まれる。
【0032】
状況解析部16は、アルゴリズム認識やディープラーニング等を含む、従来公知の方法を用いて物標を検出することができる。例えば、状況解析部16は、対向車100を示す特徴点を予め保持している。そして、状況解析部16は、低速カメラ38の撮像データの中に対向車100を示す特徴点を含むデータが存在する場合、対向車100の位置を認識する。前記「対向車100を示す特徴点」とは、例えば対向車100の前照灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点102(図3参照)である。同様に、状況解析部16は、歩行者200やその他の物標を示す特徴点を予め保持しており、低速カメラ38の撮像データの中にこれらの特徴点を含むデータが存在する場合、当該特徴点に対応する物標の位置を認識する。状況解析部16の検出結果、すなわち自車前方の物標情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
【0033】
灯具制御部18は、輝度解析部14および/または状況解析部16の検出結果を用いて、特定物標の決定、特定物標の変位検出、特定個別領域R1の設定、各個別領域Rに照射する光の照度値の設定等を実行する。一例として、灯具制御部18は、トラッキング部40と、照度設定部42とを含む。
【0034】
トラッキング部40は、状況解析部16により検出された物標の中から特定物標を決定する。また、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。本実施の形態では、一例として対向車100を特定物標とする。
【0035】
具体的には、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果と状況解析部16の検出結果とを統合する。そして、輝度解析部14で検出された各個別領域Rの輝度のうち、特定物標である対向車100の光点102が位置する個別領域Rの輝度を対向車100と関連付ける。トラッキング部40は、その後に取得する輝度解析部14の検出結果において、対向車100と関連付けた輝度の位置を認識することで、特定物標である対向車100の変位を検出することができる。トラッキング部40は、例えば50ms毎に特定物標の決定処理を実行する。また、トラッキング部40は、例えば0.1~5ms毎に特定物標の変位検出処理(トラッキング)を実行する。
【0036】
照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果と、トラッキング部40の検出結果とに基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。照度設定部42は、各個別領域Rのうち、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対しては特定照度値を定める。
【0037】
具体的には、まず照度設定部42は、特定物標である対向車100の存在位置に基づいて特定個別領域R1を定める。例えば照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に含まれる対向車100の位置情報に基づいて、特定個別領域R1を定める。特定個別領域R1の設定について、例えば照度設定部42は、対向車100の前照灯に対応する2つの光点102間の水平方向距離a(図3参照)に対して、予め定められた所定比率の鉛直方向距離b(図3参照)を定め、横a×縦bの寸法範囲と重なる個別領域Rを特定個別領域R1(図3参照)とする。特定個別領域R1には、対向車の運転者と重なる個別領域Rが含まれる。そして、照度設定部42は、特定個別領域R1に対する特定照度値を定める。例えば、特定照度値0が設定される。
【0038】
また、照度設定部42は、特定個別領域R1を除く他の個別領域Rについても、輝度解析部14の検出結果に基づいて照度値を定める。本実施の形態の照度設定部42は、特定個別領域R1を除く他の個別領域Rの照度値設定に際し、輪郭強調制御を実行する。輪郭強調制御では、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定され、これにより輪郭強調配光パターンが決定される。
【0039】
図4(A)は、輝度解析部が生成した輝度画像データを示す模式図である。図4(B)は、高輝度領域と低輝度領域との境界線を示す模式図である。図5(A)および図5(B)は、実施の形態に係る輪郭強調制御を説明するための模式図である。図5(A)および図5(B)は、光源部10によって輪郭強調配光パターンが形成されている状況で輝度解析部14が生成する輝度画像データを模式的に示している。図5(B)は、図5(A)から符号、縁部と内側領域との境界を示す破線、および境界線320を示す実線を削除したものに相当する。
【0040】
図4(A)に示すように、まず照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、互いに接する高輝度領域300と低輝度領域310とを検出する。つまり、照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果である輝度画像データの中で、隣接する高輝度領域300と低輝度領域310とを定める。高輝度領域300は、低輝度領域310と比べて輝度の高い領域である。低輝度領域310は、高輝度領域300と比べて輝度の低い領域である。例えば高輝度領域300は、光源部10の光が物標によって反射された結果として形成される。低輝度領域310は、この物標の背景によって形成される。背景は物標よりも光の反射量が小さいため、背景と重なる個別領域Rは高輝度領域300に比べて低輝度となる。高輝度領域300は、所定以上の面積を有する領域としてもよい。次に、図4(B)に示すように、照度設定部42は高輝度領域300と低輝度領域310との境界線320を導出する。
【0041】
続いて、図5(A)および図5(B)に示すように、照度設定部42は、高輝度領域300のうち境界線320から所定の距離以内にある領域を、高輝度側縁部302と定める。また、高輝度側縁部302よりも境界線320から離れた領域を、高輝度内側領域304と定める。また、照度設定部42は、低輝度領域310のうち、境界線320から所定の距離以内にある領域を低輝度側縁部312と定め、低輝度側縁部312よりも境界線320から離れた領域を低輝度内側領域314と定める。したがって、高輝度側縁部302と低輝度側縁部312とは境界線320を挟んで並び、高輝度内側領域304と低輝度内側領域314とは高輝度側縁部302、境界線320および低輝度側縁部312を挟んで並ぶ。つまり、高輝度内側領域304と低輝度内側領域314とで挟まれる領域に、高輝度内側領域304側から高輝度側縁部302、境界線320、低輝度側縁部312がこの順に並ぶ。前記「所定の距離」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0042】
そして、照度設定部42は、境界線320に沿った高輝度側縁部302と低輝度側縁部312との輝度差が大きくなるように各個別領域Rの照度値を設定する。高輝度側縁部302と低輝度側縁部312との輝度差を大きくする照度値設定により、自車前方には、境界線320を強調する輪郭強調配光パターンが形成される。輪郭強調配光パターンの形成によって自車前方に存在する物標の輪郭が強調されるため、運転者が物標を視認しやすくなる。
【0043】
本実施の形態の照度設定部42は、高輝度側縁部302の輝度が高輝度内側領域304の輝度よりも高く、且つ低輝度側縁部312の輝度が低輝度内側領域314の輝度よりも低くなるように照度値を設定する。高輝度側縁部302の輝度を高めることで、低輝度側縁部312との輝度差を大きくすることができる。また、低輝度側縁部312の輝度を下げることで、高輝度側縁部302との輝度差を大きくすることができる。さらに、両者を組み合わせることで、輝度差をより大きくすることができる。
【0044】
また、高輝度領域300全体の輝度を高めるのではなく、高輝度内側領域304に対して高輝度側縁部302の輝度を高めることで、境界線320をより強調することができる。また、低輝度領域310全体の輝度を下げるのではなく、低輝度内側領域314に対して低輝度側縁部312の輝度を下げることで、境界線320をより強調することができる。さらに、両者を組み合わせることで、境界線320をより一層強調することができる。
【0045】
一例として、照度設定部42は輪郭強調制御の最初に、特定個別領域R1を除く全ての個別領域Rに対して、輝度解析部14の検出結果に依存しない輝度非依存配光パターンを光源部10により形成する。輝度非依存配光パターンは、例えば特定個別領域R1を除く全ての個別領域Rの照度を同一の所定値(以下では適宜、基準照度値という)に定めた照度一定配光パターンである。この輝度非依存配光パターンが形成されている状況で得られる各個別領域Rの輝度が、輪郭強調配光パターンの形成に利用される。光源部10に加えて従来公知の一般的な灯具ユニットをさらに備える場合には、輪郭強調制御の最初に当該灯具ユニットで輝度非依存配光パターンを形成してもよい。
【0046】
輪郭強調配光パターンの形成において、照度設定部42は、高輝度側縁部302と重なる個別領域Rの照度値を、輝度非依存配光パターンにおける基準照度値よりも上げる。また、低輝度側縁部312と重なる個別領域Rの照度値を、基準照度値よりも下げる。高輝度内側領域304および低輝度内側領域314と重なる個別領域Rについては、基準照度値とする。これにより、高輝度側縁部302の輝度を高輝度内側領域304の輝度よりも高くすることができ、また低輝度側縁部312の輝度を低輝度内側領域314の輝度よりも低くすることができる。高輝度側縁部302の照度値の増加量と、低輝度側縁部312の照度値の低下量とは、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0047】
以降は、輪郭強調配光パターンが形成されている状況で得られる各個別領域Rの輝度が、新たな輪郭強調配光パターンの形成に利用される。例えば、高輝度領域300を形成している物標が移動した場合、移動前の高輝度側縁部302に照射されていた光は物標で反射されなくなるため、移動前の高輝度側縁部302は低輝度領域310となる。一方、移動前の低輝度側縁部312に照射されていた光は移動後の物標で反射されることになるため、移動前の低輝度側縁部312は高輝度領域300となる。このため、照度設定部42は、物標の移動に追従して境界線320を設定することができる。
【0048】
高輝度領域300および低輝度領域310の検出方法、境界線320の導出方法、ならびに高輝度側縁部302、高輝度内側領域304、低輝度側縁部312および低輝度内側領域314の設定方法は、従来公知の方法を用いて実行することができる。
【0049】
また、照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の変位を認識し、特定個別領域R1の位置情報を更新する。そして、各個別領域Rに照射する光の照度値を更新する。つまり、照度設定部42は、新たな特定個別領域R1に対して特定照度値を定めるとともに、残りの個別領域Rに対して照射する新たな輪郭強調配光パターンを決定する。トラッキング部40による処理と照度設定部42による処理とは、少なくとも一時において並行して実行される。照度設定部42は、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部20に送信する。照度設定部42は、例えば0.1~5ms毎に照度値を設定する。
【0050】
光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。光源制御部20は、光源22の点消灯と、各ミラー素子30のオン/オフ切り替えとを制御する。光源制御部20は、各個別領域Rに照射する光の照度値に基づいて、各ミラー素子30のオンの時間比率(幅や密度)を調節する。これにより、各個別領域Rに照射される光の照度を独立に調節することができる。そして、複数の部分照射領域が集まって、各種の配光パターンが構成される。光源制御部20は、例えば0.1~5ms毎に、光源22および/または光偏向装置26に駆動信号を送信する。
【0051】
車両用灯具システム1は、自車前方の特定物標の位置に応じて最適な配光パターンを形成するADB(Adaptive Driving Beam)制御を実行する。一例として、照度設定部42は、対向車100の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対して、特定照度値「0」を設定し、他の個別領域Rに対して、照度値「1」を設定する。この設定を、第1照度情報とする。また、照度設定部42は、輪郭強調制御に準じて、特定個別領域R1を含む全ての個別領域Rに対する照度値を設定する。この設定を、第2照度情報とする。
【0052】
そして、照度設定部42は、第1照度情報と第2照度情報とをAND演算する。これにより、特定個別領域R1に対する特定照度値が「0」であり、他の個別領域Rに対する照度値が輪郭強調制御に準じて定まる照度値である照度情報が生成される。すなわち、特定個別領域R1は遮光され、特定個別領域R1を除く各個別領域Rには、輪郭強調配光パターンが形成される。
【0053】
なお、特定物標が歩行者200である場合、特定目標輝度値は、一例として他の個別領域Rに比べて高い値に設定される。これにより、より高い照度の光を歩行者200に照射して、自車運転者が歩行者200を視認しやすくすることができる。この場合、歩行者200の顔が位置する個別領域Rは、遮光することが望ましい。トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果である各個別領域Rの輝度データにエッジ強調等の公知の画像処理を施すことで、歩行者200の位置を検出することができる。エッジ強調は、輝度解析部14の処理に含めてもよい。また、歩行者200は、輪郭強調配光パターンの照射対象であってもよい。
【0054】
図6(A)及び図6(B)は、実施の形態に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の一例を示すフローチャートである。このフローは、例えば図示しないライトスイッチによってADB制御の実行指示がなされ、且つイグニッションがオンのときに所定のタイミングで繰り返し実行され、ADB制御の実行指示が解除される(あるいは停止指示がなされる)か、イグニッションがオフにされた場合に終了する。また、図6(A)に示すフローは、例えば0.1~5ms毎に繰り返される高速処理であり、図6(B)に示すフローは、例えば50ms毎に繰り返される低速処理である。この低速処理と高速処理とは、並行して実行される。
【0055】
図6(A)に示すように、高速処理では、まず輪郭強調配光パターン形成フラグがオンであるか判断される(S101)。当該判断は、例えば照度設定部42により実行される。輪郭強調配光パターン形成フラグがオンである場合(S101のY)、輪郭強調配光パターンが形成されている状態にあることを示す。この場合、高速カメラ36によって自車前方が撮像される(S103)。輪郭強調配光パターン形成フラグがオンでない場合(S101のN)、照度一定配光パターンが形成された後に(S102)、高速カメラ36によって自車前方が撮像される(S103)。
【0056】
次に、輝度解析部14によって、高速カメラ36の画像データに基づいて、各個別領域Rの輝度が検出される(S104)。続いて、特定個別領域R1が設定されているか判断される(S105)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。特定個別領域R1が設定されている場合(S105のY)、トラッキング部40によって、特定物標がトラッキングされて特定個別領域R1の位置(変位)が検出される。照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の設定(位置情報)を更新する(S106)。
【0057】
次に、照度設定部42によって、輪郭強調制御に準じて特定個別領域R1を除く各個別領域Rに照射する光の照度値が設定される(S107)。特定個別領域R1に対しては、特定照度値が設定される。次に、光源制御部20によって光源部10が駆動され、定められた照度の光が光源部10から照射される(S108)。そして、照度設定部42により輪郭強調配光パターン形成フラグがオンにされて(S109)、本ルーチンが終了する。特定個別領域R1が設定されていない場合(S105のN)、照度設定部42によって、個別領域Rに照射する光の照度値が設定される(S106)。この場合、設定される照度値の中には、特定照度値は含まれない。その後は、ステップS107,S108,S109の処理が実行されて、本ルーチンが終了する。
【0058】
ステップS106において、トラッキングにより特定物標の消失が検出された場合には、特定個別領域R1の設定も消失する。したがって、ステップS107で設定される照度値の中には、特定照度値は含まれないこととなる。また、次回のルーチンにおけるステップS105では、後述するステップS205の処理が実行されるまでは、特定個別領域R1が設定されていない(S105のN)と判定される。
【0059】
図6(B)に示すように、低速処理では、まず低速カメラ38によって自車前方が撮像される(S201)。次に、状況解析部16によって、低速カメラ38の画像データに基づいて、自車前方に存在する物標が検出される(S202)。次に、検出された物標の中に特定物標が含まれているか判断される(S203)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。
【0060】
特定物標が含まれている場合(S203のY)、トラッキング部40によって、特定物標が決定される(S204)。次に、照度設定部42によって、特定物標の存在位置に基づいて特定個別領域R1が設定され(S205)、本ルーチンが終了する。特定物標が含まれていない場合(S203のN)、本ルーチンが終了する。なお、上記フローチャートでは、低速処理において特定個別領域が設定されているが、当該設定は高速処理において実行されてもよい。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、撮像部12と、輝度解析部14と、照度設定部42と、光源部10と、光源制御部20とを備える。輝度解析部14は、自車前方を撮像する撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rそれぞれの輝度を検出する。照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10を制御する。
【0062】
ここで、照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、互いに接する高輝度領域300と低輝度領域310とを検出する。そして、高輝度領域300と低輝度領域310との境界線320に沿った高輝度側縁部302と低輝度側縁部312との輝度差が大きくなるように照度値を設定し、これにより境界線320を強調する。このように、高輝度領域300と低輝度領域310との境界線320を強調することで、運転者の視認性を向上させることができる。この結果、運転者は前方の障害物をより確実に認識することができるようになり、運転の安全性が向上する。また、低速カメラ38の画像データは、輪郭強調配光パターンが形成された状態で取得される。このため、状況解析部16は、物標をより高精度に検出することができる。
【0063】
また、輪郭強調制御は、各個別領域Rの輝度情報のみを用いて実行される。このため、輪郭強調配光パターンを高速に更新することができる。よって、自車前方の状況変化に対し、輪郭強調配光パターンを高精度に追従させることができる。
【0064】
また、照度設定部42は、高輝度側縁部302の輝度が高輝度内側領域304の輝度よりも高く、且つ低輝度側縁部312の輝度が低輝度内側領域314の輝度よりも低くなるように照度値を設定する。これにより、高輝度側縁部302の輝度を上げるだけの場合や、低輝度側縁部312の輝度を下げるだけの場合に比べて、高輝度側縁部302と低輝度側縁部312との輝度差をより大きくすることができる。また、高輝度領域300全体の輝度を上げる場合や低輝度領域310全体の輝度を下げる場合に比べて、境界線320をより強調することができる。その結果、運転者の視認性をより高めることができる。
【0065】
また、車両用灯具システム1は、状況解析部16と、トラッキング部40とを備える。状況解析部16は、自車前方に存在する物標を検出する。トラッキング部40は、状況解析部16により検出された物標の中から特定物標を決定し、輝度解析部14の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果と、トラッキング部40の検出結果とに基づいて、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対する特定照度値を含む、各個別領域Rの照度値を定める。
【0066】
状況解析部16は、高精度に物標を検出できるが画像処理に比較的長時間を要するため、解析速度が劣る。このため、状況解析部16の解析結果のみに基づいてADB制御を実行すると、例えば特定物標が対向車100である場合、遮光領域を絞り込んで自車運転者の視認性を高めた配光パターンの形成が可能であるが、対向車100の変位に遮光領域を高精度に追従させることが困難である。
【0067】
一方、簡単な輝度検出を行う輝度解析部14は、画像処理に要する時間が比較的短時間であるため、高速な解析が可能である。しかしながら、物標の検出精度が低いため、物標の存在位置を正確に把握することが困難である。このため、輝度解析部14の解析結果のみに基づいてADB制御を実行すると、配光パターンの遮光領域を広めに設定する必要があり、自車運転者の視認性が犠牲となる。
【0068】
これに対し、本実施の形態の車両用灯具システム1では、低速だが高度な画像解析手段である状況解析部16と、単純だが高速な画像解析手段である輝度解析部14とを組み合わせて、対向車100の存在位置を高精度に把握し、配光パターンを決定している。このため、車両用灯具2における光の照射精度、言い換えれば配光パターンの形成精度を高めることができる。その結果、対向車100の運転者に与えるグレアの回避と、自車両の運転者の視認性確保とをより高い次元で両立することができる。
【0069】
また、本実施の形態の撮像部12は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。そして、輝度解析部14は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて輝度を検出する。また、状況解析部16は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて物標を検出する。このように、輝度解析部14と状況解析部16とのそれぞれにカメラを割り当てることで、それぞれの画像解析に必要とされる性能に特化したカメラを採用することができる。一般に、輝度解析部14と状況解析部16の画像解析に必要とされる性能を兼ね備えるカメラは高価である。このため、本実施の形態によれば、撮像部12の低コスト化を図ることができ、ひいては車両用灯具システム1の低コスト化を図ることができる。
【0070】
なお、本実施の形態では、特定個別領域R1に対する特定照度値の決定制御と輪郭強調制御とを組み合わせているが、輪郭強調制御単独で実行されてもよい。
【0071】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれる。上述した実施の形態と変形との組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。
【0072】
(変形例1)
実施の形態で説明した輪郭強調制御では、高輝度側縁部302の輝度増大と低輝度側縁部312の輝度低減とを組み合わせているが、輪郭強調制御の他の例として、照度設定部42は、以下のように各個別領域Rの照度値を設定してもよい。図7(A)および図7(B)は、変形例1に係る輪郭強調制御を説明するための模式図である。図7(A)および図7(B)は、光源部10によって輪郭強調配光パターンが形成されている状況で輝度解析部14が生成する輝度画像データを模式的に示している。図7(B)は、図7(A)から符号、縁部と内側領域との境界を示す破線、および境界線320を示す実線を削除したものに相当する。
【0073】
すなわち、まず照度設定部42は、実施の形態と同様に高輝度領域300および低輝度領域310を定め、境界線320を導出する。続いて、照度設定部42は、境界線320に沿った高輝度側縁部302と低輝度側縁部312との輝度差が大きくなるように各個別領域Rの照度値を設定する。本変形例において、照度設定部42は、高輝度側縁部302の輝度が高輝度内側領域304の輝度よりも高くなるように照度値を設定する。高輝度側縁部302の輝度を高めることで、低輝度側縁部312との輝度差を大きくすることができる。また、高輝度領域300全体の輝度を高めるのではなく、高輝度内側領域304に対して高輝度側縁部302の輝度を高めることで、境界線320をより強調することができる。低輝度側縁部312に対する照度値は、変更なく維持される。
【0074】
一例として、照度設定部42は、高輝度側縁部302と重なる個別領域Rの照度値を、輝度非依存配光パターンの基準照度値よりも上げる。高輝度内側領域304、低輝度側縁部312および低輝度内側領域314と重なる個別領域Rについては、基準照度値とする。これにより、高輝度側縁部302の輝度を高輝度内側領域304の輝度よりも高くすることができる。なお、本変形例では、低輝度側縁部312および低輝度内側領域314の決定を省略することができる。これにより、輪郭強調制御の簡略化を図ることができる。また、本変形例には、低輝度領域310全体の輝度を下げる照度値設定を組み合わせてもよい。これにより、境界線320をより強調することができる。
【0075】
(変形例2)
輪郭強調制御のさらに他の例として、照度設定部42は、以下のように各個別領域Rの照度値を設定してもよい。図8(A)および図8(B)は、変形例2に係る輪郭強調制御を説明するための模式図である。図8(A)および図8(B)は、光源部10によって輪郭強調配光パターンが形成されている状況で輝度解析部14が生成する輝度画像データを模式的に示している。図8(B)は、図8(A)から符号、縁部と内側領域との境界を示す破線、および境界線320を示す実線を削除したものに相当する。
【0076】
すなわち、まず照度設定部42は、実施の形態と同様に高輝度領域300および低輝度領域310を定め、境界線320を導出する。続いて、照度設定部42は、境界線320に沿った高輝度側縁部302と低輝度側縁部312との輝度差が大きくなるように各個別領域Rの照度値を設定する。本変形例において、照度設定部42は、低輝度側縁部312の輝度が低輝度内側領域314の輝度よりも低くなるように照度値を設定する。低輝度側縁部312の輝度を下げることで、高輝度側縁部302との輝度差を大きくすることができる。また、低輝度領域310全体の輝度を下げるのではなく、低輝度内側領域314に対して低輝度側縁部312の輝度を下げることで、境界線320をより強調することができる。高輝度内側領域304に対する照度値は、変更なく維持される。
【0077】
一例として、照度設定部42は、低輝度側縁部312と重なる個別領域Rの照度値を、輝度非依存配光パターンの基準照度値よりも下げる。高輝度側縁部302、高輝度内側領域304および低輝度内側領域314と重なる個別領域Rについては、基準照度値とする。これにより、低輝度側縁部312の輝度を低輝度内側領域314の輝度よりも低くすることができる。なお、本変形例では、高輝度側縁部302および高輝度内側領域304の決定を省略することができる。これにより、輪郭強調制御の簡略化を図ることができる。また、本変形例には、高輝度領域300全体の輝度を上げる照度値設定を組み合わせてもよい。これにより、境界線320をより強調することができる。
【0078】
(その他)
実施の形態および変形例では、撮像部12、輝度解析部14、状況解析部16、灯具制御部18及び光源制御部20が灯室8内に設けられているが、それぞれは適宜、灯室8外に設けられてもよい。例えば、撮像部12のうち低速カメラ38は、車室内に搭載されている既存のカメラを利用することができる。なお、撮像部12と光源部10とは、画角が一致していることが望ましい。
【0079】
また、高速カメラ36が低速カメラ38と同等の解像度を有する場合には、低速カメラ38を省略してもよい。これにより、車両用灯具システム1の小型化を図ることができる。この場合、状況解析部16は、高速カメラ36の画像データを用いて物標を検出する。光源部10は、DMDである光偏向装置26に代えて、光源光で自車前方を走査するスキャン光学系や、各個別領域Rに対応するLEDが配列されたLEDアレイを備えてもよい。
【0080】
以下の態様も本発明に含めることができる。
自車前方に並ぶ複数の個別領域Rのそれぞれの輝度を検出する輝度解析部14と、
輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める照度設定部42と、
照度設定部42が定めた照度値に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10を制御する光源制御部20と、
を備え、
照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて互いに接する高輝度領域300と低輝度領域310とを検出し、高輝度領域300と低輝度領域310との境界線320に沿った高輝度側縁部302と低輝度側縁部312との輝度差が大きくなるように照度値を設定して境界線320を強調する、車両用灯具2の制御装置50。
【0081】
自車前方に並ぶ複数の個別領域Rのそれぞれの輝度を検出するステップと、
検出した輝度に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定めるステップと、
定めた照度値に基づいて、各個別領域Rに光を照射するステップと、
を含み、
照度値を定めるステップにおいて、輝度を検出するステップの結果に基づいて互いに接する高輝度領域300と低輝度領域310とを検出し、高輝度領域300と低輝度領域310との境界線320に沿った高輝度側縁部302と低輝度側縁部312との輝度差が大きくなるように照度値を設定して境界線320を強調する、車両用灯具2の制御方法。
【符号の説明】
【0082】
1 車両用灯具システム、 2 車両用灯具、 10 光源部、 12 撮像部、 14 輝度解析部、 20 光源制御部、 42 照度設定部、 50 制御装置、 300 高輝度領域、 302 高輝度側縁部、 304 高輝度内側領域、 310 低輝度領域、 312 低輝度側縁部、 314 低輝度内側領域、 320 境界線。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、車両用灯具システム、車両用灯具の制御装置及び車両用灯具の制御方法に利用することができる。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8