(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】空気極材料、電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220809BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220809BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20220809BHJP
C01G 51/00 20060101ALN20220809BHJP
【FI】
H01M4/86 T
H01M4/88 T
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
C01G51/00 B
(21)【出願番号】P 2020150278
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2021-11-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 千栄
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-036534(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030132(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極を形成するための空気極材料において、
ABO
3で表されるペロブスカイト型酸化物と、硫酸塩と、を含有し、
前記硫酸塩は、前記ペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含み、
前記空気極材料における前記ペロブスカイト型酸化物と前記硫酸塩との合計重量に対する前記硫酸塩の重量の割合である硫酸塩含有率は、0.09重量%未満である、
ことを特徴とする空気極材料。
【請求項2】
請求項1に記載の空気極材料において、
前記硫酸塩含有率は、0.001重量%以上である、
ことを特徴とする空気極材料。
【請求項3】
電解質層と、前記電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極と、を備える電気化学反応単セルにおいて、
前記空気極における少なくとも一部分である特定部分は、ABO
3で表されるペロブスカイト型酸化物と、硫酸塩と、を含有し、
前記硫酸塩は、前記ペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含み、
前記特定部分における前記ペロブスカイト型酸化物と前記硫酸塩との合計重量に対する前記硫酸塩の重量の割合である硫酸塩含有率は、0.09重量%未満である、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項4】
請求項3に記載の電気化学反応単セルにおいて、
前記硫酸塩含有率は、0.001重量%以上である、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項5】
複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックにおいて、
前記複数の電気化学反応単位の少なくとも1つは、
請求項3または請求項4に記載の電気化学反応単セルと、
Crを含有し、前記空気極に電気的に接続された集電部材と、
を含む、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、空気極材料、電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCの構成単位である燃料電池単セル(以下、単に「単セル」という。)は、固体酸化物を含む電解質層と、電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極とを備える。
【0003】
一般に、空気極は、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物(例えば、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、ランタンストロンチウム鉄酸化物(LSF)、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC)、ランタンストロンチウムマンガン酸化物(LSM)、ランタンニッケル鉄酸化物(LNF)等)を含有している。ペロブスカイト型酸化物を含有する空気極を形成するために、ペロブスカイト型酸化物を含有する空気極材料(粉末材料)が用いられる。
【0004】
また、空気極の焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化するために、空気極を形成するための空気極材料に、硫酸塩の1つである硫酸ストロンチウム(SrSO4)を含有させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SOFCでは、一般に、空気極の近傍に、クロム(Cr)を含む材料(例えば、フェライト系ステンレス鋼)により形成された導電性部材(例えば、空気極と電気的に接続される集電部材)が配置される。このような導電性部材がSOFCの作動中に高温(例えば、700℃~1000℃)の雰囲気にさらされると、該導電性部材の表面からCrが放出され、該Crが飛散して空気極に付着し、空気極の電極反応速度が低下する「空気極のCr被毒」と呼ばれる現象が発生するおそれがある。
【0007】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、空気極(空気極材料)がペロブスカイト型酸化物と硫酸塩とを含有する構成において、空気極に含有させる硫酸塩の種類および量を制御することにより、空気極における不純物の増大を抑制しつつ、かつ、高抵抗層の形成に伴う抵抗の増大を抑制しつつ、空気極のCr被毒の発生を抑制できることを新たに見出した。
【0008】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という。)の構成単位である電解単セルに含まれる空気極にも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて電気化学反応単セルと呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応単セルに含まれる空気極にも共通の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される空気極材料は、空気極を形成するための材料である。空気極材料は、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物と、硫酸塩と、を含有する。前記硫酸塩は、前記ペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含む。前記空気極材料における前記ペロブスカイト型酸化物と前記硫酸塩との合計重量に対する前記硫酸塩の重量の割合である硫酸塩含有率は、0.09重量%未満である。
【0011】
本空気極材料は硫酸塩を含むため、該空気極材料を用いれば、硫酸塩を含む空気極を形成することができる。このような空気極では、該硫酸塩由来のS(硫黄)成分が、Crを含有する他の部材から放出されて飛散するCrと反応して複合酸化物(例えば、Sr(Cr,S)O4)が生成されることにより、Crが捕捉されるため、空気極のCr被毒の発生を抑制することができる。また、本空気極材料に含有される硫酸塩は、空気極材料に含有されるペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含むものであるため、該空気極材料を用いれば、不純物の増大が抑制された空気極を形成することができる。また、本空気極材料における硫酸塩含有率は、0.09重量%未満と比較的低いため、該空気極材料を用いて形成された空気極における硫酸塩含有率が過大であることに起因してペロブスカイト型酸化物に組成ずれが発生し、その結果、高抵抗層が形成されることを抑制することができる。以上のことから、本空気極材料によれば、不純物の増大を抑制しつつ、かつ、高抵抗層の形成による抵抗の増大を抑制しつつ、Cr被毒の発生を抑制することができるような空気極を形成することができる。そのため、本空気極材料によれば、導電率低下を抑制することができる空気極を形成することができる。
【0012】
(2)上記空気極材料において、前記硫酸塩含有率は、0.001重量%以上である構成としてもよい。このような構成とすれば、該空気極材料を用いて形成された空気極のCr被毒の発生をより効果的に抑制することができる。
【0013】
(3)本明細書に開示される電気化学反応単セルは、電解質層と、前記電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極と、を備える。前記空気極における少なくとも一部分である特定部分は、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物と、硫酸塩と、を含有する。前記硫酸塩は、前記ペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含む。前記空気極の前記特定部分における前記ペロブスカイト型酸化物と前記硫酸塩との合計重量に対する前記硫酸塩の重量の割合である硫酸塩含有率は、0.09重量%未満である。
【0014】
本電気化学反応単セルでは、空気極の特定部分が硫酸塩を含むため、該硫酸塩由来のS成分が、Crを含有する他の部材から放出されて飛散するCrと反応して複合酸化物(例えば、Sr(Cr,S)O4)が生成されることにより、Crが捕捉され、空気極のCr被毒の発生を抑制することができる。また、本電気化学反応単セルでは、空気極の特定部分に含有される硫酸塩が、空気極に含有されるペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含むものであるため、空気極における不純物の増大を抑制することができる。また、本電気化学反応単セルでは、空気極の特定部分における硫酸塩含有率は、0.09重量%未満と比較的低いため、空気極の特定部分における硫酸塩含有率が過大であることに起因してペロブスカイト型酸化物に組成ずれが発生し、その結果、高抵抗層が形成されることを抑制することができる。以上のことから、本電気化学反応単セルによれば、空気極における不純物の増大を抑制しつつ、かつ、高抵抗層の形成による抵抗の増大を抑制しつつ、空気極のCr被毒の発生を抑制することができる。そのため、本電気化学反応単セルによれば、空気極の導電率低下を抑制することができる。
【0015】
(4)上記電気化学反応単セルにおいて、前記硫酸塩含有率は、0.001重量%以上である構成としてもよい。このような構成とすれば、空気極のCr被毒の発生をより効果的に抑制することができる。
【0016】
(5)本明細書に開示される電気化学反応セルスタックは、複数の電気化学反応単位を備える。前記複数の電気化学反応単位の少なくとも1つは、上記電気化学反応単セルと、Crを含有し、前記空気極に電気的に接続された集電部材と、を含む。本電気化学反応セルスタックによれば、空気極における不純物の増大を抑制しつつ、かつ、高抵抗層の形成による抵抗の増大を抑制しつつ、集電部材から放出されるCrに起因する空気極のCr被毒の発生を抑制することができる。
【0017】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、空気極材料、空気極、空気極を備える電気化学反応単セル(燃料電池単セルまたは電解単セル)、電気化学反応単セルを有する電気化学反応単位を複数備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図
【
図2】
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
【
図3】
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図
【
図4】
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
【
図5】
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.実施形態:
A-1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
図4以降についても同様である。
【0020】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)発電単位102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。
【0021】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ軸方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0022】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、
図2および
図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0023】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。
図1および
図2に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0024】
また、
図1および
図3に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0025】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、
図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、
図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0026】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、Z軸方向視で略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0027】
(発電単位102の構成)
図4は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図5は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0028】
図4および
図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ軸方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0029】
インターコネクタ150は、Z軸方向視で略矩形の平板形状の導電性部材であり、Crを含む材料、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(
図2および
図3参照)。
【0030】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112に対して上側に配置された空気極(カソード)114と、電解質層112に対して下側に配置された燃料極(アノード)116と、電解質層112と空気極114との間に配置された中間層180とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116によって単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、中間層180)を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0031】
電解質層112は、Z軸方向視で略矩形の平板形状部材であり、緻密な(気孔率が低い)層である。電解質層112は、固体酸化物(例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、CSZ(カルシア安定化ジルコニア))を含んでいる。このように、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0032】
空気極114は、Z軸方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、気孔率が電解質層112の気孔率よりも高い多孔質な層である。空気極114は、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物(例えば、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、ランタンストロンチウム鉄酸化物(LSF)、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC)、ランタンストロンチウムマンガン酸化物(LSM)、ランタンニッケル鉄酸化物(LNF)等)を含有している。空気極114の構成については、後に詳述する。
【0033】
燃料極116は、Z軸方向視で電解質層112と略同一の大きさの略矩形の平板形状部材であり、気孔率が電解質層112の気孔率よりも高い多孔質な層である。なお図示しないが、本実施形態では、燃料極116は、燃料極116における下方側の表面を構成する基板層と、基板層と電解質層112との間に位置する機能層とを備える。燃料極116の機能層は、主として、電解質層112から供給される酸素イオンと燃料ガスFGに含まれる水素等とを反応させて、電子と水蒸気とを生成する機能を発揮する層であり、電子伝導性物質であるNiと、酸素イオンイオン伝導性酸化物(例えば、YSZ)とを含んでいる。また、燃料極116の基板層は、主として、機能層と電解質層112と空気極114とを支持する機能を発揮する層であり、電子伝導性物質であるNiと、酸素イオン伝導性酸化物(例えば、YSZ)とを含んでいる。
【0034】
中間層180は、Z軸方向視で略矩形の平板形状部材である。中間層180は、例えば、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、LDC(ランタンドープセリア)、YDC(イットリウムドープセリア)等のイオン伝導性を有する固体酸化物により形成されている。
【0035】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
【0036】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0037】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0038】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0039】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、Crを含む材料、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。空気極114と空気極側集電体134との間に、両者を接合する導電性の接合層が介在していてもよい。空気極側集電体134は、特許請求の範囲における集電部材に相当する。なお、空気極側集電体134とインターコネクタ150とが一体の部材として構成されてもよい。そのような構成では、該一体の部材が、特許請求の範囲における集電部材に相当する。
【0040】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0041】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0042】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、
図3および
図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0043】
A-3.空気極114の詳細構成:
次に、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する各単セル110における空気極114の詳細構成について説明する。上述したように、空気極114は、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物を含有している。
【0044】
空気極114は、さらに、硫酸塩を含有している。空気極114に含まれる硫酸塩は、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含む硫酸塩である。例えば、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物がLSCFである場合、空気極114に含まれる硫酸塩は、硫酸ランタン(La2(SO4)3)、硫酸ストロンチウム(SrSO4)、硫酸コバルト(CoSO4)または硫酸鉄(FeSO4)の少なくとも1つである。同様に、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物がLSFである場合、空気極114に含まれる硫酸塩は、La2(SO4)3、SrSO4またはFeSO4の少なくとも1つである。
【0045】
空気極114において、ペロブスカイト型酸化物は、空気極114の全体にわたって含有されている。一方、空気極114において、硫酸塩は、空気極114における少なくとも一部分に含有されている。すなわち、硫酸塩は、空気極114の全体にわたって含有されていてもよいし、空気極114の一部分(例えば、空気極114における空気極側集電体134側に位置する層状の一部分)のみに含有されていてもよい。以下、空気極114における硫酸塩を含有する部分を、「特定部分SP」という。
【0046】
本実施形態では、空気極114における硫酸塩を含有する特定部分SPにおいて、ペロブスカイト型酸化物と硫酸塩との合計重量に対する硫酸塩の重量の割合である硫酸塩含有率は、0.09重量%未満である。なお、空気極114の特定部分SPにおける硫酸塩含有率は、0.065重量%未満であることがより好ましい。また、空気極114の特定部分SPにおける硫酸塩含有率は、0.001重量%以上であることがより好ましく、0.005重量%以上であることがさらに好ましい。なお、ある対象物の硫酸塩含有率は、該対象物を粉末状にして(対象物が粉末状である場合にはそのままの状態で)、ICP分析を行うことにより特定することができる。
【0047】
A-4.燃料電池スタック100の製造方法:
本実施形態の燃料電池スタック100の製造方法は、例えば以下の通りである。
【0048】
(電解質層112と燃料極116との積層体の形成)
YSZ粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるフタル酸ジオクチル(DOP)と、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば約10μm)の電解質層用グリーンシートを得る。また、NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末に対して、造孔材である有機ビーズと、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば約200μm)の燃料極基板層用グリーンシートを得る。また、NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば約20μm)の燃料極機能層用グリーンシートを得る。各グリーンシートを貼り付け、所定の温度(例えば約280℃)で脱脂した後、所定の温度(例えば約1350℃)で所定の時間(例えば約1時間)焼成を行う。これにより、電解質層112と燃料極116との積層体を得る。
【0049】
(中間層180の形成)
GDC粉末に、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを加えて混合し、粘度を調整して中間層用ペーストを調製する。得られた中間層用ペーストを、上述した電解質層112と燃料極116との積層体における電解質層112の表面に、例えばスクリーン印刷によって塗布し、所定の温度(例えば1200℃)で焼成を行う。これにより、中間層180が形成され、中間層180と電解質層112と燃料極116との積層体を得る。
【0050】
(空気極114の形成)
ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF)の粉末と硫酸塩(例えばSrSO4)の粉末との混合粉末を準備し、該混合粉末に対し、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを加えて混合し、粘度を調整することにより、空気極用ペーストを調製する。得られた空気極用ペーストを、上述した中間層180と電解質層112と燃料極116との積層体における中間層180の表面に、例えばスクリーン印刷によって塗布して乾燥させ、空気極用ペーストが塗布された積層体を所定の温度(例えば約1100℃)で焼成する。これにより、空気極114が形成され、燃料極116と電解質層112と中間層180と空気極114とを備える単セル110が作製される。なお、空気極114を形成するためのペロブスカイト型酸化物の粉末と硫酸塩の粉末との混合粉末において、該硫酸塩は、該ペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含むものである。また、この混合粉末におけるペロブスカイト型酸化物と硫酸塩との合計重量に対する硫酸塩の重量の割合である硫酸塩含有率は、0.09重量%未満である。混合粉末における硫酸塩含有率は、焼成後の空気極114においても概ね維持されるため、このような混合粉末を用いて空気極114を作製すれば、空気極114(空気極114のうちの硫酸塩を含む特定部分SP)における硫酸塩含有率も0.09重量%未満となる。なお、該混合粉末における硫酸塩含有率は、0.065重量%未満であることがより好ましい。また、該混合粉末における硫酸塩含有率は、0.001重量%以上であることがより好ましく、0.005重量%以上であることがさらに好ましい。ペロブスカイト型酸化物の粉末と硫酸塩の粉末との混合粉末は、特許請求の範囲における空気極材料に相当する。
【0051】
上述した方法に従い複数の単セル110を作製した後、組み立て工程(例えば、各単セル110にセパレータ120等の他の部材を取り付ける工程、複数の単セル110を積層する工程、ボルト22により締結する工程等)を行う。以上により、燃料電池スタック100の製造が完了する。
【0052】
A-5.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで互いに対向する空気極114および燃料極116とを備える。空気極114における少なくとも一部分である特定部分SPは、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物と、硫酸塩とを含有する。該硫酸塩は、該ペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含む。空気極114の特定部分SPにおけるペロブスカイト型酸化物と硫酸塩との合計重量に対する硫酸塩の重量の割合である硫酸塩含有率は、0.09重量%未満である。
【0053】
このように、本実施形態では、空気極114の特定部分SPが硫酸塩を含む。そのため、該硫酸塩由来のS(硫黄)成分が、空気極側集電体134やインターコネクタ150から放出されて飛散するCrと反応して複合酸化物(例えば、Sr(Cr,S)O4)が生成されることにより、Crが捕捉される。従って、空気極114のCr被毒の発生を抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態では、空気極114の特定部分SPに含有される硫酸塩が、空気極114に含有されるペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含むものである。そのため、空気極114における不純物の増大を抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態では、空気極114の特定部分SPにおける硫酸塩含有率は、0.09重量%未満と比較的低い。そのため、空気極114の特定部分SPにおける硫酸塩含有率が過大であることに起因してペロブスカイト型酸化物に組成ずれが発生し、その結果、高抵抗層が形成されることを抑制することができる。
【0056】
以上のことから、本実施形態の単セル110および燃料電池スタック100によれば、空気極114における不純物の増大を抑制しつつ、かつ、高抵抗層の形成による抵抗の増大を抑制しつつ、空気極114のCr被毒の発生を抑制することができる。そのため、本実施形態の単セル110および燃料電池スタック100によれば、空気極114の導電率低下を抑制することができる。
【0057】
なお、空気極114の特定部分SPにおける硫酸塩含有率は、0.001重量%以上であることが好ましい。このような構成とすれば、空気極114のCr被毒の発生をより効果的に抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態の空気極114を形成するための空気極材料(混合粉末)は、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物と、硫酸塩とを含有する。該硫酸塩は、該ペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含む。空気極材料におけるペロブスカイト型酸化物と硫酸塩との合計重量に対する硫酸塩の重量の割合である硫酸塩含有率は、0.09重量%未満である。
【0059】
このように、本実施形態では、空気極114を形成するための空気極材料が硫酸塩を含む。そのため、該空気極材料を用いれば、硫酸塩を含む空気極114を形成することができる。このような空気極114では、該硫酸塩由来のS成分が、空気極側集電体134やインターコネクタ150から放出されて飛散するCrと反応して複合酸化物(例えば、Sr(Cr,S)O4)が生成されることにより、Crが捕捉される。従って、空気極114のCr被毒の発生を抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態では、空気極材料に含有される硫酸塩が、空気極材料に含有されるペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含むものである。そのため、該空気極材料を用いれば、不純物の増大が抑制された空気極114を形成することができる。
【0061】
また、本実施形態では、空気極材料における硫酸塩含有率は、0.09重量%未満と比較的低い。そのため、該空気極材料を用いて形成された空気極114における硫酸塩含有率が過大であることに起因してペロブスカイト型酸化物に組成ずれが発生し、その結果、高抵抗層が形成されることを抑制することができる。
【0062】
以上のことから、本実施形態の空気極材料によれば、不純物の増大を抑制しつつ、かつ、高抵抗層の形成による抵抗の増大を抑制しつつ、Cr被毒の発生を抑制することができるような空気極114を形成することができる。そのため、本実施形態の空気極材料によれば、導電率低下を抑制することができる空気極114を形成することができる。
【0063】
なお、空気極材料における硫酸塩含有率は、0.001重量%以上であることが好ましい。このような構成とすれば、該空気極材料を用いて形成された空気極114のCr被毒の発生をより効果的に抑制することができる。
【0064】
A-6.性能評価:
複数の単セル110のサンプルを用いて性能評価を行った。
図6は、性能評価結果を示す説明図である。
図6に示すように、性能評価には、上述した実施形態の製造方法に準じて作製された18個の単セル110のサンプル(S1~S18)が用いられた。各サンプルにおいて、空気極114は、ペロブスカイト型酸化物と、該ペロブスカイト型酸化物の成分元素のうち、酸素以外の成分元素を含む硫酸塩とを含有している。各サンプルは、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物の種類と、空気極114に含まれる硫酸塩の種類および含有率とが互いに異なっている。なお、ここで言う硫酸塩の含有率は、空気極114におけるペロブスカイト型酸化物と硫酸塩との合計重量に対する硫酸塩の重量の割合(重量%)である。
【0065】
各サンプルについて初期性能を調べたところ、すべてのサンプルについて、温度700℃、電流密度0.55A/cm2の条件で、出力密度が0.45W/cm2となり、良好な初期性能を示した。
【0066】
各サンプルについて、熱耐性試験およびCr被毒試験を行った。熱耐性試験では、電気炉内にサンプルを配置し、1000℃、100時間保持した後、温度700℃、電流密度0.55A/cm2の条件でIR抵抗を測定した。初期状態からのIR抵抗の増加量ΔIRを求めた。ΔIRが0.06Ωcm2より大きい場合に不合格(×)と評価し、ΔIRが0.03Ωcm2より大きく0.06Ωcm2以下である場合に良好(〇)と評価し、ΔIRが0.03Ωcm2以下である場合に特に良好(◎)と評価した。
【0067】
また、Cr被毒試験では、Crが蒸散しやすい環境下に、温度780℃、1000時間、サンプルを配置し、試験前後において、温度700℃、電流密度0.55A/cm2の条件で電圧を測定し、劣化率(%)(=(試験前電圧-試験後電圧)×100/試験前電圧)を算出した。劣化率が0.5%より大きい場合に不合格(×)と評価し、劣化率が0.3%より大きく0.5%以下である場合に良好(〇)と評価し、劣化率が0.3%以下である場合に特に良好(◎)と評価した。
【0068】
総合評価として、熱耐性試験およびCr被毒試験の少なくとも一方において不合格と評価されたサンプルを総合的に不合格(×)と評価し、熱耐性試験およびCr被毒試験の両方において特に良好と評価されたサンプルを総合的に特に良好(◎)と評価し、それ以外のサンプルを総合的に良好(〇)と評価した。
【0069】
図6に示すように、Cr被毒試験において、すべてのサンプルは、良好(〇)または特に良好(◎)と評価された。すべてのサンプルでは、空気極114がペロブスカイト型酸化物と硫酸塩とを含有しているため、該硫酸塩由来のS成分がCrと反応して複合酸化物(例えば、Sr(Cr,S)O
4)が生成されることによりCrが捕捉され、その結果、空気極のCr被毒の発生が抑制されたためであると考えられる。
【0070】
また、熱耐性試験において、サンプルS6,9,12,15,17は、不合格(×)と評価された。これらのサンプルでは、空気極114における硫酸塩の含有率が0.09重量%以上と過大であり、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物に組成ずれが発生し、その結果、高抵抗層が形成されたためであると考えられる。一方、サンプルS1~5,7,8,10,11,13,14,16,18は、良好(〇)または特に良好(◎)と評価された。これらのサンプルでは、空気極114における硫酸塩の含有率が0.09重量%未満と過大ではなく、上記のような高抵抗層の形成が抑制されたためであると考えられる。
【0071】
以上の性能評価結果から、空気極114がペロブスカイト型酸化物と硫酸塩とを含有し、該硫酸塩の含有率が0.09重量%未満であると、高抵抗層の形成による抵抗の増大を抑制しつつ、空気極114のCr被毒の発生を抑制できることが確認された。
【0072】
なお、Cr被毒試験において、サンプルS2~6,8,9,11,12,14~18では、特に良好(◎)と評価された。これらのサンプルでは、空気極114における硫酸塩の含有率が0.001重量%以上と比較的高いため、空気極のCr被毒の発生が効果的に抑制されたものと考えられる。この結果から、空気極114における硫酸塩の含有率が0.001重量%以上であると、空気極のCr被毒の発生を効果的に抑制することができ、より好ましいと言える。
【0073】
また、熱耐性試験において、サンプルS1~4,7,8,10,11,13,14,16,18は、特に良好(◎)と評価された。これらのサンプルでは、空気極114における硫酸塩の含有率が0.065重量%未満と比較的低く、上記のような高抵抗層の形成が効果的に抑制されたためであると考えられる。この結果から、空気極114における硫酸塩の含有率が0.065重量%未満であると、高抵抗層の形成による抵抗の増大を効果的に抑制することができ、より好ましいと言える。
【0074】
なお、上述のCr被毒試験における加熱処理後のサンプルS1~18を以下の方法に従い分析した。すなわち、サンプルS1~18を所定の長さに切断し、エポキシ樹脂に埋め込んで固化した後、各層の積層方向に略平行な断面が観察できるように切断して、鏡面状に研磨した。その後、研磨面(観察面)にカーボン蒸着を行った後、EPMAにより、空気極の画像取得および元素マッピング分析を行った。Sマッピング画像とCrマッピング画像からS元素とCr元素とが互いに同じ部位に存在している箇所にSr(Cr,S)O4が存在し、このS元素とCr元素とが互いに同じ部位に存在している箇所が画像に占める割合が大きいほど、Sr(Cr,S)O4が多い、すなわち、クロム捕捉量が多いと言える。サンプルS1~18について分析した結果、劣化率が低いサンプルほどS元素とCr元素とが互いに同じ部位に存在している箇所が画像に占める割合が大きいという結果が得られた。
【0075】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0076】
上記実施形態における単セル110または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、単セル110が中間層180を含んでいるが、単セル110が中間層180を含んでいなくてもよい。また、上記実施形態では、燃料極116が基板層と機能層との2層構成であるとしているが、燃料極116が単層構成であってもよいし、3層以上の構成であってもよい。また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。
【0077】
また、上記実施形態では、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間の空間を各マニホールドとして利用しているが、これに代えて、各ボルト22の軸部に軸方向の孔を形成し、その孔を各マニホールドとして利用してもよい。また、各マニホールドを各ボルト22が挿入される各連通孔108とは別に設けてもよい。
【0078】
また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。
【0079】
また、上記実施形態において、必ずしも燃料電池スタック100に含まれるすべての単セル110について、上述した空気極114の詳細構成が実現されている必要は無く、燃料電池スタック100に含まれる少なくとも1つの単セル110について、上述した空気極114の詳細構成が実現されていれば、該単セル110について、空気極114における不純物の増大を抑制しつつ、かつ、高抵抗層の形成による抵抗の増大を抑制しつつ、空気極114のCr被毒の発生を抑制することができる、という効果を奏する。
【0080】
また、上記実施形態では、平板形の単セル110を対象としているが、本明細書に開示される技術は、平板形以外の他の単セルにも同様に適用可能である。
【0081】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本明細書に開示される技術は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルや、複数の電解単セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解単セルおよび電解セルスタックにおいても、上記実施形態と同様の空気極114や空気極材料の構成を採用すれば、同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0082】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 100:燃料電池スタック 102:発電単位 104,106:エンドプレート 108:連通孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 134:空気極側集電体 135:集電体要素 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 144:燃料極側集電体 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 147:連接部 149:スペーサー 150:インターコネクタ 161:酸化剤ガス導入マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス導入マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:中間層 FG:燃料ガス FOG:燃料オフガス OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス