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特許7121153筆記具用水性インキ組成物及びそれを用いた筆記具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物及びそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20220809BHJP
   C09D 11/17 20140101ALI20220809BHJP
   B43K 5/00 20060101ALI20220809BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20220809BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C09D11/16
C09D11/17
B43K5/00
B43K7/00
B43K8/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021029478
(22)【出願日】2021-02-26
(62)【分割の表示】P 2016253270の分割
【原出願日】2016-12-27
(65)【公開番号】P2021091917
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】桝重 直登
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-217532(JP,A)
【文献】特開平06-287499(JP,A)
【文献】特表2007-518656(JP,A)
【文献】特開2008-115226(JP,A)
【文献】特開平11-148040(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0066757(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/16
C09D 11/17
B43K 5/00
B43K 7/00
B43K 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料粒子と、湿式シリカと、含水カオリンと、凝集コントロール剤と、水とを含むことを特徴とする、筆記用具用水性インキ組成物であって、前記凝集コントロール剤がセルロース誘導体であり、前記組成物の粘度が、20℃、回転数100rpm(剪断速度380sec-1)の条件下で1~20mPa・sである、組成物。
【請求項2】
前記顔料粒子が酸化チタンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
さらに凝集分散剤を含み、前記凝集分散剤が多塩基酸のアルキロールアンモニウム塩である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記含水カオリンが、その平均粒子径が0.1μm~5.0μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物に関するものである。さらに詳しくは、インキの保存安定性、筆跡の発色性に優れる筆記具用水性インキ組成物に関するものである。また、本発明は、その組成物を用いた筆記具にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、隠蔽性を有する筆跡を得る為に、酸化チタンなどの白色顔料を用いた筆記具用水性インキ組成物が知られている。更に、そのような隠蔽性の高いインキ組成物に補色顔料などを併用することで、下地を隠蔽しながらパステル調や有彩色の筆跡が得られることが知られる様になり、そのような組成物が盛んに検討されている。
【0003】
しかしながら、酸化チタンなどの比重の重い顔料を使用した際には、時間の経過に伴って顔料が沈降して所謂ハードケーキとなってしまうと、再分散が困難になってしまうことがあった。そこで、組成物に用いる各種材料の改質や、分散剤の併用などによる、顔料の沈降防止が試みられている。しかしながら、従来報告されている技術では、沈降速度を遅くすることはできるものの、長期間の経時では、ハードケーキとなることは避けられず、それらの対策は十分な結果に結びついていないのが実情である。更に、所謂ゲル化剤や増粘剤などを用いて、インキ粘度を高くしたり、構造粘性を発現させるなどの対策も検討されている。しかしながら、これらの対策手段を講じたインキ組成物を繊維芯やポーラス体などのペン先を用いた筆記具に用いると、インキ吐出量が少なくなることがあった。さらに、筆記具に用いた際に、ペン先で顔料の沈降が起こり、筆記する際に筆記線が見えなかったり、かすれが生じることがあった。以上の通り、比重の重い顔料を含むインキ組成物の経時保存安定性ついて、これまでの技術は改良の余地があり、さらなる改良方法の検討がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-138192号公報
【文献】特開平11-217532号公報
【文献】特開2004-149681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、顔料などの各種成分が経時により沈降してハードケーキを作ることなく、簡単に再分散する分散状態を作ることが可能であり、繊維芯やポーラス体などのペン先を用いた筆記具に用いた際にもペン先で顔料が沈降することなく、筆跡の発色性に優れた筆記用インキ組成物およびそれを用いた筆記具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物(以下、場合により、「水性インキ組成物」または「インキ組成物」、「組成物」と表すことがある。)に、湿式シリカ、含水カオリンなどを含有することなどにより前記課題が解決された。
すなわち、本発明は、
「1.顔料粒子と、湿式シリカと、含水カオリンと、凝集コントロール剤と、水とを含むことを特徴とする、筆記用具用水性インキ組成物であって、前記凝集コントロール剤がセルロース誘導体であり、前記インキ組成物のインキ粘度が、20℃、回転数100rpm(剪断速度380sec-1)の条件下で1~20mPa・sである、組成物。
2.前記顔料粒子が酸化チタンを含む、第1項に記載の組成物。
3.さらに凝集分散剤を含む第1項または第2項に記載の組成物。
4.前記含水カオリンが、その平均粒子径が0.1μm~5.0μmである、第1項~第3項のいずれか1項に記載の組成物。
5.第1項~第4項のいずれか1項に記載の組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。」に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、筆記具用水性インキ組成物に湿式シリカを配合したことにより、従来の筆記具と比較して、インキ組成物の再分散性、経時安定性を維持しながら、ペン先での顔料の沈降を抑制でき、筆記性に優れ、また、筆跡の発色性に優れた筆記具用水性インキ組成物が得られるなど優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0009】
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、顔料粒子と、湿式シリカと、含水カオリンと、凝集コントロール剤としてセルロース誘導体と、水とを含んでなり、インキ組成物の粘度が、20℃、回転数100rpm(剪断速度380sec-1)の条件下で1~20mPa・sである。以下、本発明による水性インキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0010】
(顔料粒子)
本発明において、顔料粒子は従来知られている任意のものから選択することができる。顔料としては、金属酸化物または金属塩などの無機顔料、ならびに有機色素顔料またはレーキ顔料などの有機顔料が挙げられる。本発明においては、無機顔料粒子が好ましく、特に金属酸化物粒子が好ましい。特に酸化チタンは白色であるため、後述する補色顔料などと組み合わせることで、多様な色彩を実現できるので好ましい。さらに、酸化チタンにおいて、その表面をアルミナ処理したものを用いると、分散安定性が向上するため、特に好ましい。また、顔料として、光沢のある光輝性顔料、例えばアルミニウム顔料などを用いることもできる。
【0011】
顔料粒子の平均粒子径は、0.01μm~30μmであることが好ましく、0.05μm~20μmであることがより好ましく、0.1μm~10μmであることがさらに好ましい。顔料粒子の平均粒子径が上記数値範囲内であれば、湿式シリカと組み合わせた際に、繊維芯やポーラス体などのペン先で顔料粒子の沈降を抑制することができるため、良好な筆跡発色性が得られる。なお、顔料粒子の平均粒子径は、一例としては、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)を用いてレーザー回折法で測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により測定することができる。本明細書では、「平均粒子径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指すものとする。
【0012】
水性インキ組成物における顔料粒子の含有量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、1~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。顔料粒子の含有量が上記数値範囲内であれば、インキ吐出性の低下を防止することができるとともに、水性インキ組成物、およびそれを用いて形成させた筆跡の隠蔽性を維持することができる。
【0013】
(湿式シリカ)
本発明による水性インキ組成物は、湿式シリカを含んでいる。本発明でいう湿式シリカとは湿式法で合成した非晶質のシリカであり、数~数十nmの比較的大きい一次粒子が凝集した、分散では一次粒子とすることが困難な、数~数十μmの二次粒子である。本発明において湿式シリカは、乾式シリカと比較して、比表面積が高く、表面にシラノール基を多く有していることから、顔料粒子との相互作用により、ゆるい橋かけネットワークを形成する。そして、後述する凝集コントロール剤や凝集分散剤などとゆるい嵩高い凝集体を作ることができるため、インキ組成物中に湿式シリカを含有していることにより、顔料粒子の分散安定性が向上し、さらに、凝集体の再分散性を向上させることができる。一方、乾式シリカを用いた際には、分散安定性を保つことはできるが、少量の添加で構造粘性を生じ、インキ粘度が高くなるため好ましくない。
【0014】
さらに、湿式シリカは、筆記面として紙を用いた場合、湿式シリカが目止めの効果を強く発揮し、顔料粒子が紙の繊維間に入り込むことを防ぐことができ、後述する含水カオリンと併用により、筆跡の発色性を高める効果が得られる。
【0015】
湿式シリカの平均粒子径は、0.1μm~10μmであることが好ましい。湿式シリカの平均粒子径が上記数値範囲内であれば、インキ組成物中で安定した分散が可能となり、高い顔料の沈降抑制効果が得られる。また、さらに高い発色性えるという観点からは、0.5μm~7μmであることがより好ましく、1μm~5μmであることがさらに好ましい。湿式シリカの平均粒子径は、一例としては、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)を用いてレーザー回折法で測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により測定することができる。
【0016】
本発明に用いることができる湿式シリカとしては、具体的には、NIPSILシリーズ(東ソー社製)、Mizukasilシリーズ(水沢化学工業社製)、Carplexシリーズ(DSL.ジャパン社製)、Tokusilシリーズ(オリエンタルシリカコーポレーション社製)、Ultrasilシリーズ(エボニックデグサジャパン社製)、Zeosilシリーズ(ローディア社製)Hisilシリーズ(ピーピージー社製)などが挙げられる。
【0017】
水性インキ組成物における湿式シリカの含有量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、0.1質量%~5質量%であることが好ましく、1質量%~3質量%であることがより好ましい。湿式シリカの含有量が上記数値範囲内であれば、繊維芯やポーラス体などのペン先を用いた筆記具に用いた際にもペン先で顔料が沈降することを防止することができる。さらに、水性インキ組成物、およびそれを用いて形成させた筆跡の隠蔽性を維持することができる。
【0018】
(凝集コントロール剤)
本発明による水性インキ組成物は、凝集コントロール剤を含んでなる。凝集コントロール剤は、前記した湿式シリカにより形成された、相対的に密度の低い凝集体に対して結合し、さらに、後述する含水カオリンや体質材などを水性インキ組成物中に分散し、嵩高い凝集体を作ることができるものである。この凝集コントロール剤により、水性インキ組成物のハードケーキ化を防止し、嵩高い凝集体を作るため、再分散性を向上させることができる。凝集コントロール剤としては、例えば、セルロース誘導体を用いることができ、2種以上のセルロース誘導体を併用することもできる。
【0019】
セルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロースおよびそれらの塩などが挙げられる。これらのうちカルボキシメチルセルロースは、顔料粒子のハードケーキ化ならびに再分散性の低下を防止することができるので好ましい。これは、カルボキシメチルセルロースに含まれるカルボキシル基が、相対的に密度の低い凝集体に吸着しやすく、組成物中で均一に存在し、顔料粒子同士の凝集を阻害することができるとともに、前記の通り、体質材やポリオレフィン樹脂粒子など分散することができ、凝集体を嵩高いものとすることができるためであると考えられる。また、カルボキシメチルセルロースは、他のセルロース誘導体と比較して熱的安定性が高く、組成物が加熱された際にも物性が変化することがないため好ましい。
【0020】
水性インキ組成物における凝集コントロール剤の含有量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、0.05~1.0質量%であることが好ましく、0.1~0.5質量%であることがより好ましい。
【0021】
(含水カオリン)
本発明による水性インキ組成物は、含水カオリンを含んでなる。本発明でいう含水カオリンとは、天然粘土鉱物であるカオリンクレーを精製し得られる、結晶水を含んだケイ酸アルミニウムを主成分とする扁平または板状の天然粘土鉱物である。本発明において、含水カオリンは、前記の通り、扁平または板状の粒子形状を有することから、インキ組成物中に含水カオリンを含有していることにより、筆記面として紙を用いた場合、含水カオリンが目止めの効果を強く発揮し、顔料粒子が紙の繊維間に入り込むことを防ぐことができ、より一層、筆跡の発色性を高める効果が得られる。
【0022】
また、含水カオリンは、インキ組成物中で顔料粒子と湿式シリカと凝集コントロール剤で形成した、相対的に密度の低い凝集体中に均一に分散されるため、相対的に密度が低いながらも嵩高い凝集体を作るため、焼成カオリンを用いた場合と比較して、再分散性を向上することができる。
【0023】
さらに、含水カオリンは、筆記した際にその扁平または板状の粒子形状から、筆記した際に、紙面に対して並行に載置される為、重ね書きした際にも紙面を引っ掻くことが無い為、紙面を削ること無く、筆記することが可能となる。
【0024】
含水カオリンの平均粒子径は、0.1μm~5μmであることが好ましい。含水カオリンの平均粒子径が上記数値範囲内であれば、インキ組成物の再分散性、筆跡の発色性を高めることができ、紙面を削ることを防止することができる。また、さらに高い発色性えるという観点からは、0.2μm~3μmであることがより好ましく、0.5μm~2μmであることがさらに好ましい。含水カオリンの平均粒子径は、一例としては、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)を用いてレーザー回折法で測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により測定することができる。
【0025】
本発明に用いることができる含水カオリンとしては、具体的には、ASP-G90(平均粒子径0.2μm)、ASP-G92(平均粒子径0.2μm)、ASP-072(平均粒子径0.3μm)、ASP-101(平均粒子径0.4μm)、ASP-102(平均粒子径0.4μm)、ASP-170(平均粒子径0.4μm)、ASP-172(平均粒子径0.4μm)、ASP-200(平均粒子径0.4μm)、ASP-400P(平均粒子径3.5μm)、ASP-600(平均粒子径0.6μm)、ASP-602(平均粒子径0.6μm)、ASP-802(平均粒子径2.5μm)、ASP-900(平均粒子径1.5μm)、ASP-RO(平均粒子径0.4μm)、ASP-NCX1(平均粒子径0.7μm)(いずれも商品名、BASF社製)Hydrite PXN-LCS(平均粒子径0.68μm)、Hydrite RS (平均粒子径0.77μm)、Hydrite Flat-DS (平均粒子径5.0μm)、Barrisurf HX(平均粒子径1.49μm)、Eckalite 1(平均粒子径0.40μm)、Eckalite ED(平均粒子径0.32μm)(いずれも商品名、イメリススペシャリティーズジャパン(株)社製)、KaMin35(平均粒子径4.0μm)、KaMin35B(平均粒子径4.0μm)、 KaMin80(平均粒子径0.5μm)、 KaMin80B(平均粒子径0.5μm)、 KaMin90(平均粒子径0.4μm)、 KaMin90B(平均粒子径0.4μm) KaMinHG90(平均粒子径0.3μm)、KaMinTEK2001(平均粒子径0.25μm)、Polygloss90(平均粒子径0.2μm)、PolyplateP(平均粒子径0.8μm)、PolyplateP01(平均粒子径0.8μm)、PolyplateHMT(平均粒子径1.5μm)(いずれも商品名、KaMin LLC社製)、などが挙げられる。
【0026】
水性インキ組成物における含水カオリンの含有量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、1質量%~20質量%であることが好ましく、5質量%~15質量%であることがより好ましい。含水カオリンの含有量が上記数値範囲内であれば、インキ粘度が高くなりすぎること、ハードケーキ化、ならびに筆記する際に紙面を削ることを防止することができる。さらに、水性インキ組成物、およびそれを用いて形成させた筆跡の隠蔽性を維持することができる。
【0027】
(樹脂)
水性インキ組成物は、さらに樹脂を含むことができる。本発明に用いることができる樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体などが挙げられ、水溶性樹脂、樹脂が水中に粒子状に分散されてなる樹脂エマルションなどを用いることができる。水性インキ組成物にアクリル樹脂を含有させることにより、水性インキ組成物の定着性を向上させ、これを用いて形成される筆記線の耐擦性をさらに向上させることができる。
【0028】
本発明に用いるアクリル樹脂としては、繰り返し単位にアクリル酸またはメタクリル酸を含むポリマーである。このアクリル樹脂は、任意のアルカリ等により溶解させたものまたは水に分散させたものいずれを用いても構わない。
【0029】
アクリル樹脂としては、アクリル酸エステル樹脂、アクリルスチレン共重合樹脂、アクリル酸エステル共重合樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル共重合樹脂などを用いることができる。これらの樹脂は、通常、エマルションとして用いられることが多い。これらのアクリル樹脂の分子量は特に限定されないが、一般に質量平均分子量で1,000~100,000のものが用いられる。
【0030】
本発明に用いることができるアクリル樹脂としては具体的には、JONCRYLシリーズ(BASF社製)、プライマルACシリーズ (ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製)、JSRAEシリーズ(JSR株式会社製)、モビニールシリーズ(日本合成化学工業株式会社製)ニカゾールシリーズ(日本カーバイド工業株式会社製)、Neocrylシリーズ(DSM社製)、ボンコートシリーズ(DIC社製)などが挙げられる。
【0031】
本発明に用いることができるウレタン樹脂としては、ポリエーテルポリオール共重合型、ポリエステルポリオール共重合型、ポリカーボネートポリオール共重合型などのウレタン樹脂を用いることができる。
【0032】
ウレタン樹脂として具体的には、Neorezシリーズ(DSM社製)、ハイドランシリーズ(DIC製)、ユリアーノWシリーズ(荒川化学工業社製)、スーパーフレックス(第一工業社製)、メルシシリーズ(トーヨーポリマー社製)などが挙げられる。
【0033】
本発明に用いることができるエチレン-酢酸ビニル共重合体としては、具体的には、歩リゾールシリーズ(昭和電工社製)、スミカフレックスシリーズ(住友化学工業社製)などが挙げられる。
【0034】
水性インキ組成物における樹脂の含有量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、0.5~15質量%であることが好ましく、2~8質量%であることがより好ましい。
【0035】
(凝集分散剤)
本発明による水性インキ組成物は、凝集分散剤を含むことができる。ここで凝集分散剤とは顔料粒子の表面に吸着し、顔料粒子を相互に離間させながら、顔料粒子同士の距離を一定以上に保ち、顔料粒子同士が直接凝集することを防ぐことができるものである。この結果、顔料粒子の凝集が抑制され、凝集体が形成される場合であっても、相対的に密度の低い凝集体が形成される。さらに、顔料粒子、湿式シリカ、凝集コントロール剤、含水カオリンで形成された嵩高い凝集体の顔料粒子に対して、前記の通りの効果を発揮するため、再分散性をさらに向上することができる。
【0036】
このような凝集分散剤としては、多塩基酸のアルキロールアンモニウム塩が好ましく用いられる。多塩基酸は、複数の酸基を有していればよいが、より多数の酸基を有する酸性ポリマー、例えばアクリル酸、メタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリリン酸、などが挙げられる。また、これ以外にも、クロトン酸などの不飽和脂肪酸を重合させたポリマーも多塩基酸の例である。多塩基酸のアルキロールアンモニウム塩は、これらの多塩基酸にアルキロールアンモニウムを反応させることにより得ることができる。このような反応によって得られた塩は、下記の様な部分構造を含む。
-C(=O)-N(-R)(-R-OH)
ここで、Rはアルキル基、Rはアルキレン基である。本発明において用いられる分散凝集剤は、このような部分構造を有するポリマーが好ましい。このようなポリマーは、上記の構造を複数有していればよく、その分子量は特に限定されないが、質量平均分子量が1,000~100,000であることが好ましく、5,000~20,000であることがより好ましい。
【0037】
また、用いられる顔料によっては、カルボキシル基などの酸性基が同様の機能を発揮することもある。すなわち、凝集分散剤として、酸性基を含むポリマー類を用いることもできる。
【0038】
本発明において凝集分散剤は、上記のような基によって顔料粒子の表面に結合し、また他の凝集分散剤分子と水素結合することにより、ポリマーの主鎖構造が顔料粒子間に入り込み、顔料粒子同士を離間させるものと考えられる。
【0039】
このような凝集分散剤は、一般に市販されており、例えばAnti-Terra 203、Anti-Terra 204、Anti-Terra 206、Anti-Terra 250、Anti-Terra U、DISPER BYK-102、DISPER BYK-180、DISPER BYK-191(いずれも商品名、ビックケミー社製)、TEGO Disper630、TEGO Disper700(いずれも商品名、エボニックデグサジャパン社製)などが挙げられる。
【0040】
(体質材)
本発明による水性インキ組成物は、その性能に影響を及ぼさない範囲で、湿式シリカ、含水カオリンの他に体質材を含んでもよい。本発明において体質材は従来知られている任意のものから選択することができるが、具体的には、焼成カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。また、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムなどのウィスカーなどを用いることもできる。
【0041】
水性インキ組成物における体質材の含有量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、1質量%~20質量%であることが好ましく、5質量%~15質量%であることがより好ましい。体質材の含有量が上記数値範囲内であれば、インキ粘度が高くなりすぎること、ハードケーキ化、ならびに筆記する際のインキ吐出性の低下を防止することができる。さらに、水性インキ組成物、およびそれを用いて形成させた筆跡の隠蔽性を維持することができる。
【0042】
(補色顔料)
本発明による水性インキ組成物は、得られる筆記線の色彩を調整するため、補色顔料を含んでいてもよい。特に、主たる顔料粒子として白色の酸化チタンを選択した場合、補色顔料との組み合わせにより種々の発色を実現できる。補色顔料は、特に限定されず、赤、青、黄、緑、白、黒など様々な色の顔料を用いることができる。補色顔料としては、例えば、SPシリーズ(冨士色素株式会社製)Emacolシリーズ、Sandyeシリーズ(以上、山陽色素株式会社製)、ルミコールシリーズ(日本蛍光化学株式会社製)、EM・Colorシリーズ(東洋インキ社製)、シンロイヒカラーベースシリーズ(シンロイヒ社製)、WAカラーシリーズ(大日精化社製)などが挙げられる。
【0043】
水性インキ組成物における補色顔料の含有量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、0.01~15質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましい。
【0044】
(その他)
また、水性インキ組成物は、必要に応じて、界面活性剤、防腐剤、濡れ剤、消泡剤、防錆剤、pH調整剤、気泡抑制剤、気泡吸収剤、剪断減粘性付与剤および粘度調整剤などを含んでいてもよい。
【0045】
(筆記具用水性インキ組成物)
本発明による水性インキ組成物の粘度は低いことが好ましい。組成物の粘度の測定はE型回転粘度計(ブルックフィールド社製)を用いて行うことができる。具体的には、20℃における水性インキ組成物の粘度は、回転数が100rpm(剪断速度380sec-1)の条件で測定した場合、1~20mPa・sであることが好ましく、8~18mPa・sであることがより好ましい。水性インキ組成物の粘度が上記数値範囲内であれば、マーカーなどの筆記用具に使用した場合のインキ吐出性を向上させることができ、またフィルムなど非浸透性の記録媒体への筆記性が向上する。
【0046】
水性インキ組成物のpHは、6.0~10.0であることが好ましく、7.0~9.0であることがより好ましい。水性インキ組成物のpHが上記数値範囲内であれば、インキの変色やインキ粘度が高くなることなどがなく、インキに影響がなく、用いることができる。本発明において、pHの値は、例えばIM-40S型pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)により20℃にて測定することができる。
【0047】
本願発明による水性インキ組成物が、優れた再分散性を発現する理由は、詳細には解明されていないが、以下の様なメカニズムによるものと推定される。
【0048】
前記のとおり、顔料粒子、湿式シリカ、凝集コントロール剤により、相対的に密度の低い凝集体を形成するが、特に顔料粒子が酸化チタン等比重の大きいものである場合、経時により凝集体が次第に最密充填されハードケーキとなる。ここに含水カオリンを併用することで含水カオリンの扁平、板状構造が凝集体となった顔料粒子間に存在することで最密充填を阻害することで再分散性が従来よりもよくなると考えらえる。さらに凝集分散剤が、顔料粒子の表面に吸着し、顔料粒子同士の距離を一定に保つことができるため、最密充填を阻害にさらに効果的に働き、再分散性をより向上させると考える。
【0049】
本発明による水性インキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0050】
(筆記具)
本発明の水性インキ組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップなどのペン芯またはボールペンチップなどを筆記先端としたマーキングペンやボールペン、金属製の筆記先端を用いた万年筆などの筆記具に用いることができる。その中でも、ペン先が繊維チップ、フェルトチップである筆記具に用いた際に、チップ内での顔料粒子の沈降を抑制できる為、筆記性能が向上するなど、特にその効果が高くなる。また、前記ペン芯の気孔率は、50~80%とすることが好ましい。前記ペン芯の気孔率が上記数値範囲内であれば、前記顔料の目詰まりがなく、適切なインキ吐出量を維持することができる。
【0051】
本発明の筆記具は、水性インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、水性インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。
【0052】
本発明の筆記具の出没機構は、特に限定されず、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式、ノック式、回転式およびスライド式などが挙げられる。また、軸筒内にペン先を収容可能な出没式であってもよい。
【0053】
また、筆記具におけるインキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、(2)櫛溝状のインキ流量調節部材を備え、これを介在させ、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、(3)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、および(4)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、水性インキ組成物を直接、ペン先に供給する機構などを挙げることができる。
【0054】
一実施形態において、筆記具は、マーキングペンであり、ペン先は、特に限定されず、例えば、繊維チップ、フェルトチップまたはプラスチックチップなどであってよく、さらに、その形状は、砲弾型、チゼル型または筆ペン型などであってよい。
【0055】
一実施形態において、筆記具は、ボールペンであり、インキ逆流防止体を備えたボールペンであることが好ましい。
【0056】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
(実施例1)
下記原材料および配合量にて、室温で1時間攪拌混合することにより、筆記具用インキ組成物を得た。得られた水性インキ組成物の粘度をE型回転粘度計(DV-II+Pro、コーン型ローターCPE-42、ブルックフィールド社製)により測定した。具体的には、20℃、剪断速度380sec-1(回転速度100rpm)における粘度は13mPa・sであった。
・顔料粒子 25質量%
(表面がアルミナ処理された酸化チタン粒子、平均粒子径:0.21μm、テイカ株式会社製、商品名:JR-405)
・湿式シリカ 2質量%
(平均粒子径2μm、商品名:MizkasilP-527、水沢化学工業社製)
・含水カオリン 10質量%
(平均粒子径0.6μm、商品名:ASP-600、BASF社製)
・凝集分散剤 1.5質量%
(高分子量酸性ポリマーのアルキロールアンモニウム塩、商品名:Anti-Terra 250、ビックケミー社製)
・凝集コントロール剤 2質量%
(カルボキシメチルセルロース、10%水溶液、商品名:F-907A、第一工業製薬(株)社製)
・アクリル樹脂 7質量%
(スチレン-アクリル酸共重合体エマルジョン、固形分含有量47%、商品名:JONCRYL PDX-7600、BASF社製)
・濡れ剤 0.4質量%
(アセチレングリコール、商品名:ダイノール604、日信化学工業(株)社製)
・防腐剤 0.2質量%
(1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、商品名:プロキセルXL-2、ロンザジャパン(株)社製)
・イオン交換水 61.9質量%
【0057】
(実施例2~4、比較例1~6)
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1に示したとおりに変更して、実施例2~4、比較例1~6のインキ組成物を得た。これらの例で使用した材料の詳細は以下の通りである。
・酸化チタン(1) JR-405(Al処理、平均粒径:0.21μm、テイカ株式会社製)
・酸化チタン(2) JR-600E(Al処理、平均粒径:0.27μm、テイカ株式会社製)
・湿式シリカ(1) (Mizkasil P-527、水沢化学工業社製)
・湿式シリカ(2) (Mizkasil P-763、水沢化学工業社製)
・乾式シリカ (アエロジル200、日本アエロジル社製)
・含水カオリン(1) (ASP-600、平均粒径:0.6μm、BASF社製)
・含水カオリン(2) (ASP-900、平均粒径:1.5μm、BASF社製)
・焼成カオリン (Satintone 5HB、平均粒径:0.8μm、BASF社製)
・凝集分散剤 Anti-Terra 250(高分子量酸性ポリマーのアルキロールアンモニウム塩、ビックケミー製)
・凝集コントロール剤 CMC(カルボキシメチルセルロース 商品名:F-907A、第一工業製薬(株)社製)
・アクリル樹脂 JONCRYL PDX-7600(スチレン-アクリル酸共重合体エマルション、固形分含有量47%、BASF社製)
・ウレタン樹脂 Neorez R-650 (ポリエーテルポリオール共重合型ウレタン樹脂エマルション、固形分含有量38%、DSM社製)
【0058】
(再分散性の評価)
水性インキ組成物を、直径15mmの密閉ガラス試験管に入れて、常温にて14日間放置した。その後、一度沈降した各ガラス試験管を上下に振とうして、水性インキ組成物の再分散状態を目視により観察した。下記基準に従って、凝集状態を評価した。
A:振とうにより、容易に再分散された
B:振とうにより再分散されるが、時間がかかったもの
C:振とうにより十分に再分散されないもの
D:振とうしても再分散しないもの
【0059】
(筆跡発色性の評価)
ペン先には、気孔率60%の砲弾型ポリエステル繊維芯のチップを用いた。このマーキングペンにより、筆記試験用紙に筆記を行った。その際の筆跡発色性を目視により観察した。なお、筆記試験用紙として黒色紙(紀州製紙(株)社製、色上質紙、中厚口)を用いた。
A:筆跡が筆記面を隠蔽しており、良好な筆跡が得られている。
B:筆跡が筆記面を隠蔽しているものの十分でなく、筆記面の色がやや透過している。
C:筆跡は視認できるが、筆記面をほとんど隠蔽しておらず、筆記面の色が透過している。
D:筆跡の視認ができず、筆記面を全く隠蔽していない。
【0060】
(書き出し性能の評価)
ペン先には、気孔率60%の砲弾型ポリエステル繊維芯のチップを用いた。このマーキングペンを用い、筆記試験用紙に筆記した後、チップ上向き状態で30日間放置した後、筆記試験用紙に筆記し、そのときの紙面の状態を目視により観察した。なお、筆記試験用紙として黒色紙を用いた。
A:筆跡が筆記面を隠蔽しており、良好な筆跡が得られている。
B:筆跡が筆記面を隠蔽しているものの十分でなく、筆記面の色がやや透過している。
C:筆跡の視認ができず、筆記面を全く隠蔽していない。
【0061】
【表1】
【0062】
(表1)の結果から明らかなように、本発明の筆記具用水性インキ組成物は、インキの再分散性に優れており、インキ保存安定性が良好であった。さらに、筆記具にペン先には、気孔率60%の砲弾型ポリエステル繊維芯のチップを用いたマーカーにより筆記した際に、筆跡発色性が良好であり、書き出し性能も良好であった。特に書き出し性能においては、実施例のインキ組成物を用いた際には、チップ内での顔料の沈降もなく、良好な筆記性能が得られていた。