(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】電解質膜及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1016 20160101AFI20220809BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
H01M8/1016
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2021128521
(22)【出願日】2021-08-04
【審査請求日】2022-04-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】秋山 直哉
(72)【発明者】
【氏名】龍 崇
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-120827(JP,A)
【文献】特開平6-36776(JP,A)
【文献】特開2004-158261(JP,A)
【文献】特開2002-216537(JP,A)
【文献】特開2018-159121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1016
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードとアノードとの間に配置される電解質膜であって、
Ti、Sn、Zr及びWのうち少なくとも1つの金属を含む金属酸化物と、前記金属酸化物の表面に担持された硫酸とを有する硫酸修飾金属酸化物粒子を含有し、
前記カソード側の第1表面から5μm以内の第1領域と、前記アノード側の第2表面から5μm以内の第2領域とを有し、
前記第1領域における前記金属に対する硫黄の第1モル比は、前記第2領域における前記金属に対する硫黄の第2モル比より大きい、
電解質膜。
【請求項2】
前記第1モル比は、0.010以上である、
請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
前記第1モル比は、0.150以下である、
請求項2に記載の電解質膜。
【請求項4】
前記第1モル比と前記第2モル比との差は、0.005以上である、
請求項1乃至3のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項5】
カソードと、
アノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に配置される電解質膜と、
を備え、
前記電解質膜は、Ti、Sn、Zr及びWのうち少なくとも1つの金属を含む金属酸化物と、前記金属酸化物の表面に担持された硫酸とを有する硫酸修飾金属酸化物粒子を含有し、
前記電解質膜は、前記カソード側の第1表面から5μm以内の第1領域と、前記アノード側の第2表面から5μm以内の第2領域とを有し、
前記第1領域における前記金属に対する硫黄の第1モル比は、前記第2領域における前記金属に対する硫黄の第2モル比より大きい、
燃料電池。
【請求項6】
前記第1モル比は、0.010以上である、
請求項5に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記第1モル比は、0.15以下である、
請求項6に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記第1モル比と前記第2モル比との差は、0.005以上である、
請求項5乃至7のいずれかに記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カソードと、アノードと、プロトン伝導性を有する電解質膜とを備える燃料電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。電解質膜としては、プロトン伝導性を有するパーフルオロスルホン酸イオン交換ポリマーであるナフィオン(デュポン社製、登録商標)が広く知られている。
【0003】
このような燃料電池は、燃料としてメタノールを用いた場合、下記の電気化学反応式に基づいて比較的低温(例えば、50℃~250℃)で作動する。
【0004】
・カソード: O2+4H++4e-→2H2O
・アノード: CH3OH+H2O→CO2+6H++6e-
・全体 : CH3OH+3/2O2→CO2+2H2O
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高分子材料であるナフィオン(デュポン社製、登録商標)は耐久性が低いため、耐久性の高い金属酸化物系材料を電解質膜に用いることが好ましい。
【0007】
しかしながら、金属酸化物系材料によって構成される電解質膜を用いた場合、電解質膜からカソードへプロトンをスムーズに移動させることが容易ではないため、プロトンの供給速度が低下して、カソード反応における過電圧が大きくなってしまう。
【0008】
本発明は、カソード反応における過電圧を低減可能な電解質膜及びそれを備える燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電解質膜は、カソードとアノードとの間に配置され、硫酸修飾金属酸化物粒子を含有する。硫酸修飾金属酸化物粒子は、Ti、Sn、Zr及びWのうち少なくとも1つの金属を含む金属酸化物と、金属酸化物の表面に担持された硫酸とを有する。電解質膜は、カソード側の第1表面から5μm以内の第1領域と、アノード側の第2表面から5μm以内の第2領域とを有する。第1領域における金属に対する硫黄の第1モル比は、第2領域における金属に対する硫黄の第2モル比より大きい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カソード反応における過電圧を低減可能な電解質膜及びそれを備える燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】実施形態に係る硫酸修飾金属酸化物粒子の模式図である。
【
図3】実施形態に係る硫酸修飾金属酸化物粒子の表面の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(燃料電池10)
以下、本発明に係る電解質膜を備える燃料電池の一例として、プロトン(H+)をキャリアとする燃料電池10について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係る燃料電池10の構成を示す断面図である。燃料電池10は、カソード12、アノード14及び電解質膜16を備える。燃料電池10は、燃料としてメタノールを用いた場合、下記の電気化学反応式に基づいて比較的低温(50℃以上250℃以下)で発電する。
【0014】
・カソード12: O2+4H++4e-→2H2O
・アノード14: CH3OH+H2O→CO2+6H++6e-
・全体 : CH3OH+3/2O2→CO2+2H2O
【0015】
カソード12は、一般的に空気極と呼ばれる陽極である。燃料電池10の発電中、カソード12には、酸化剤供給手段13を介して、酸素(O2)を含む酸化剤が供給される。酸化剤としては、空気を用いるのが好ましく、空気は加湿されていることがより好ましい。カソード12は、内部に酸化剤を拡散可能な多孔質体である。カソード12の気孔率は特に制限されない。カソード12の厚みは特に制限されないが、例えば10~200μmとすることができる。
【0016】
カソード12は、公知の燃料電池に使用されるカソード触媒を含むものであればよく、特に限定されない。カソード触媒の例としては、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)等の第8~10族元素(IUPAC形式での周期表において第8~10族に属する元素)、Cu、Ag、Au等の第11族元素(IUPAC形式での周期表において第11族に属する元素)、ロジウムフタロシアニン、テトラフェニルポルフィリン、Coサレン、Niサレン(サレン=N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、銀硝酸塩、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。カソード12における触媒の担持量は特に限定されないが、好ましくは0.05~10mg/cm2、より好ましくは、0.05~5mg/cm2である。カソード触媒はカーボンに担持させるのが好ましい。カソード12ないしそれを構成する触媒の好ましい例としては、白金担持カーボン(Pt/C)、白金コバルト担持カーボン(PtCo/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0017】
カソード12の作製方法は特に限定されないが、例えば、カソード触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質膜16の第1表面16Sに塗布することにより形成することができる。
【0018】
アノード14は、一般的に燃料極と呼ばれる陰極である。燃料電池10の発電中、アノード14には、燃料供給手段15を介して、水素原子(H)を含む燃料が供給される。アノード14は、内部に燃料を拡散可能な多孔質体である。アノード14の気孔率は特に制限されない。アノード14の厚みは特に制限されないが、例えば10~500μmとすることができる。
【0019】
水素原子を含む燃料は、アノード14において水(H2O)と反応可能な燃料化合物を含んでいればよく、液体燃料及び気体燃料のいずれの形態であってもよい。燃料としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類やエーテル類を含む炭化水素系液体燃料、メタン等の炭化水素系ガス、或いは純水素などを用いることができる。特に、本実施形態に係る燃料電池10に用いられる燃料としては、メタノールが好適である。メタノールは、気体状態、液体状態、及び気液混合状態のいずれであってもよい。
【0020】
アノード14は、公知の燃料電池に使用されるアノード触媒を含むものであればよく、特に限定されない。アノード触媒の例としては、Pt、Ni、Co、Fe、Ru、Sn、及びPd等の金属触媒が挙げられる。金属触媒は、カーボン等の担体に担持されるのが好ましいが、金属触媒の金属原子を中心金属とする有機金属錯体の形態としてもよく、この有機金属錯体を担体として担持されていてもよい。また、アノード触媒の表面には多孔質材料等で構成された拡散層を配置してもよい。アノード14及びそれを構成する触媒の好ましい例としては、ニッケル、コバルト、銀、白金担持カーボン(Pt/C)、白金ルテニウム担持カーボン(PtRu/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0021】
アノード14の作製方法は特に限定されないが、例えば、アノード触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質膜16の第2表面16Tに塗布することにより形成することができる。
【0022】
電解質膜16は、カソード12とアノード14との間に配置される。電解質膜16は、膜状、層状、或いは、シート状に形成される。電解質膜16の厚みは特に制限されないが、例えば15μm~200μmとすることができる。
【0023】
電解質膜16の厚みは、次のように測定される。まず、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)を用いて、電解質膜16の厚み方向に沿った断面を倍率500倍で拡大したSEM画像を取得する。次に、SEM画像上において電解質膜16を面方向(厚み方向に垂直な方向)に4等分する3カ所で電解質膜16の厚みを測定し、それらの算術平均値を電解質膜16の厚みとする。
【0024】
電解質膜16は、カソード12側の第1表面16Sと、アノード32側の第2表面16Tとを有する。本実施形態では、カソード12及びアノード14によって電解質膜16が直接挟まれているため、電解質膜16の第1表面16Sはカソード12と接触し、電解質膜16の第2表面16Tはアノード32と接触する。
【0025】
第1表面16S及び第2表面16Tのそれぞれは、電解質膜16の厚み方向(カソード12、アノード14及び電解質膜16の積層方向)に平行な断面において成分濃度をマッピングした場合に、電解質膜16にのみ含まれる元素の濃度が急激に変化するラインに規定することができる。具体的には、実質的に電解質膜16にのみ含まれる元素の濃度が、その最大濃度の10%となる2つのラインそれぞれを第1表面16S及び第2表面16Tとする。
【0026】
電解質膜16は、第1領域16a、第2領域16b及び第3領域16cを有する。
【0027】
第1領域16aは、電解質膜16のうち第1表面16Sから5μm以内の領域である。第1領域16aは、第1表面16Sを厚み方向に沿って5μm内側に平行移動させたラインと第1表面16Sとによって規定される。
【0028】
第2領域16bは、電解質膜16のうち第2表面16Tから5μm以内の領域である。第2領域16bは、第2表面16Tを厚み方向に沿って5μm内側に平行移動させたラインと第2表面16Tとによって規定される。
【0029】
第3領域16cは、電解質膜16のうち第1領域16aと第2領域16bとによって挟まれた領域である。
【0030】
電解質膜16は、プロトン伝導性を有する。
図2は、電解質膜16を構成するプロトン伝導性材料である硫酸修飾金属酸化物粒子20の模式図である。
図3は、硫酸修飾金属酸化物粒子20の表面の構成を示す模式図である。
【0031】
硫酸修飾金属酸化物粒子20は、担体としての金属酸化物22と、金属酸化物22に担持される複数の硫酸24とを有する。
図2では、金属酸化物22の表面に硫酸24が担持された状態が図示されている。
図3では、金属酸化物22としてTiO
2が例示され、硫酸24としてスルホニル基が例示されている。
【0032】
金属酸化物22は、Ti、Sn、Zr及びWのうち少なくとも1つの金属を含む。金属酸化物22は、強酸性(Ph3未満)において溶出しないことが好ましい。
【0033】
金属酸化物22としては、TiO2(チタニア)、SnO2(二酸化スズ)、SnO(酸化スズ)、ZrO2(ジルコニア)、ZrSiO4(ジルコン)、Zr(WO4)2(タングステン酸ジルコニウム)、WO3(酸化タングステン)、Al2(WO4)3(タングステン酸アルミニウム)、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これに限られない。
【0034】
電解質膜16は、異なる金属酸化物を含む2種以上の硫酸修飾金属酸化物粒子20によって構成されていてもよい。
【0035】
硫酸24は、金属酸化物22の表面に担持される。硫酸24は、水分(H2O)を保持する酸性官能基である。硫酸24によって保持された水分によって、電解質膜16内におけるプロトンの移動が促進される。
【0036】
硫酸24としては、H2SO4及びその化合物に限られず、SO、S2O3、SO2、SO3、S2O7、SO4、これらの酸化イオウを含む化合物(酸、塩等)、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0037】
硫酸修飾金属酸化物粒子20は、一つの結晶子によって構成される単結晶体であってもよいが、典型的には、複数の結晶子によって構成される多結晶体である。
【0038】
ここで、電解質膜16の第1領域16aにおける金属(M)に対する硫黄(S)の第1モル比(S/M)は、電解質膜16の第2領域16bにおける金属(M)に対する硫黄(S)の第2モル比(S/M)より大きい。
【0039】
第1モル比を第2モル比より大きくすることによって、第1領域16aにおいて硫酸24に保持される水分量を第2領域16bにおいて硫酸24に保持される水分量より多くすることができる。そのため、第1領域16aにおけるプロトンの移動がスムーズになるとともに、電解質膜16の第1表面16S側における相対湿度が上昇し、第1領域16aからカソード12へのプロトンの移動が促進される。その結果、カソード12における電極反応が促進されて、カソード12における過電圧を低減させることができる。
【0040】
また、第1モル比を第2モル比より大きくすることによって、電解質膜16の内部に“カソード>アノード”という水分濃度勾配が生じるため、アノード14からカソード12へ向かって燃料が透過してしまうことを抑制できる。その結果、燃料透過に由来するカソード12における過電圧を低減できる。また、燃料ロスが低減されることによって、エネルギー密度が向上する。
【0041】
第1モル比の値は特に限られず、例えば0.001以上とすることができる。第1モル比の値は、0.010以上であることが好ましい。第1モル比の値を0.010以上とすることによって、電解質膜16の第1表面16S側における相対湿度が十分上昇し、第1領域16aからカソード12へのプロトンの移動がより促進される。その結果、カソード12における電極反応が促進され、カソード12における過電圧をより低減させることができる。また、第1モル比の値を0.010以上とすることによって、第1領域16aにおいて硫酸24に保持させることのできる水分量を十分多くすることができるため、カソード12においてフラッディング(生成水の滞留)が生じることを抑制できる。
【0042】
なお、第1モル比の上限値は特に限られないが、0.150を超えると金属酸化物22との結合の弱い余剰の硫酸が生じるおそれがある。そのため、第1モル比は、0.150以下が好ましい。
【0043】
第2モル比の値は特に限られないが、“カソード>アノード”という水分濃度勾配を大きくする観点から第2モル比の値は小さいほど好ましい。
【0044】
第1モル比と第2モル比との差分値は特に限られず、例えば0.001以上0.145以下とすることができる。第1モル比と第2モル比との差分値は、0.005以上であることが好ましい。第1モル比と第2モル比との差分値を0.005以上とすることによって、電解質膜16の内部に生じる水分濃度勾配を十分大きくすることができるため、燃料透過に由来するカソード12における過電圧を低減できる。また、燃料ロスが低減されることによって、エネルギー密度が向上する。
【0045】
電解質膜16の第3領域16cにおける金属(M)に対する硫黄(S)の第3モル比(S/M)の値は特に限られず、第1モル比と第2モル比との間の値であればよい。
【0046】
第1モル比は、第1領域16aの厚み方向に沿った断面上において第1領域16aを厚み方向に6等分する5つの測定ポイントにおいて金属及び硫黄それぞれの含有量をエリア測定し、硫黄の含有量の算術平均値を金属の含有量の算術平均値で割ることによって求められる。エリア測定は、厚み方向1μm×幅方向5μmの視野にて行うものとする。
【0047】
同様に、第2モル比は、第2領域16bの厚み方向に沿った断面上において第2領域16bを厚み方向に6等分する5つの測定ポイントにおいて金属及び硫黄それぞれの含有量をエリア測定し、硫黄の含有量の算術平均値を金属の含有量の算術平均値で割ることによって求められる。エリア測定は、厚み方向1μm×幅方向5μmの視野にて行うものとする。
【0048】
第1領域16a及び第2領域16bにおける金属の含有量は、SEM(日本電子(株)製型式:JSM-6610LV)を用いて上記方法にて視野を選定し、SEMに組み込んだEDS検出器(Energy Dispersive Spectroscopy、Oxford社製 型式:x-act)を用いて測定される。具体的には、SEMにて組成分析を行う視野に対して加速電圧を10kV、WD(ワーキングディスタンス、作動距離)を10mm、EDSソフト(AZTEC)に表示されるデッドタイムを20~30%に設定し、ピントを合わせる。その後、一視野当たり1~2分で組成分析を実施する。
【0049】
(硫酸修飾金属酸化物粒子20の作製方法)
次に、硫酸修飾金属酸化物粒子20の作製方法の一例を説明する。
【0050】
(1)金属酸化物22がTiO2である場合
まず、TiOSO4(硫酸チタニル)水溶液を調製する。TiOSO4の濃度は、例えば0.4質量%以上15質量%以下とする。
【0051】
次に、TiOSO4水溶液を加熱することによって加水分解する。これによって、表面に硫酸根が残留したTiO2粒子が得られる。このTiO2粒子は、多量の水を含んでいることから含水酸化チタンと呼ばれる。
【0052】
次に、得られた含水酸化チタンを洗浄した後に乾燥(40℃~60℃、4時間~24時間)させることによって硫酸修飾TiO2粒子を得る。
【0053】
金属酸化物22がTiO2である場合、TiOSO4水溶液の濃度を調節することによって、硫酸修飾金属酸化物粒子20における金属(M)に対する硫黄(S)のモル比を調整することができる。TiOSO4水溶液の濃度が高いほど加水分解中のTiOSO4水溶液における硫酸濃度が高くなるため、硫黄(S)のモル比を大きくすることができる。
【0054】
なお、乾燥後の硫酸修飾TiO2粒子は、そのまま硫酸修飾金属酸化物粒子20として用いることができるが、乾燥後の硫酸修飾TiO2粒子にエージング処理(80℃~90℃、80%RH~98%RH、5時間~24時間)又は焼成処理(大気雰囲気、300℃~600℃、0.5時間~10時間)を施してもよい。乾燥後の硫酸修飾TiO2粒子にエージング処理又は焼成処理を施すことによって、細孔径が5nm以下の微細な細孔が形成されるため、毛管凝縮現象を利用して電解質膜16により多くの水分を取り込むことができる。その結果、電解質膜16のプロトン伝導性が低下してしまうことを抑制できる。
【0055】
(2)金属酸化物22がSnO2である場合
まず、スズ酸ナトリウム(Na2SnO3)を水に溶解して調製した水溶液に硫酸(1mol/L)を滴下して加水分解した後に水熱処理(80℃~150℃、5時間~50時間)することによって硫酸修飾SnO2粒子を得る。
【0056】
次に、得られた硫酸修飾SnO2粒子を洗浄した後に乾燥(40℃~60℃、4時間~24時間)させる。
【0057】
金属酸化物22がSnO2である場合、硫酸の滴下量を調整することによって、硫酸修飾金属酸化物粒子20における金属(M)に対する硫黄(S)のモル比を調整することができる。
【0058】
なお、乾燥後の硫酸修飾SnO2粒子には、上述のエージング処理又は焼成処理を施してもよい。
【0059】
(3)金属酸化物22がZrO2である場合
まず、塩化酸化ジルコニウム(ZrOCl2)を水に溶解して調製した水溶液に水酸化アンモニウム(NH4OH)を滴下して加水分解する。
【0060】
次に、加水分解によって得られた粉末に硫酸(1mol/L)を滴下することによって、硫酸修飾ZrO2粒子を得る。
【0061】
次に、得られた硫酸修飾ZrO2粒子を洗浄した後に乾燥(40℃~60℃、4時間~24時間)させる。
【0062】
金属酸化物22がZrO2である場合、硫酸の滴下量を調整することによって、硫酸修飾金属酸化物粒子20における金属(M)に対する硫黄(S)のモル比を調整することができる。
【0063】
なお、乾燥後の硫酸修飾ZrO2粒子には、上述のエージング処理又は焼成処理を施してもよい。
【0064】
(4)金属酸化物22がWO3である場合
まず、タングステン酸ナトリウム(Na2WO4)を水に溶解して調製した水溶液に硫酸(1mol/L)を滴下して加水分解した後に水熱処理(80℃~150℃、5時間~50時間)することによって硫酸修飾WO3粒子を得る。
【0065】
次に、得られた硫酸修飾WO3粒子を洗浄した後に乾燥(40℃~60℃、4時間~24時間)させる。
【0066】
金属酸化物22がWO3である場合、硫酸の滴下量を調整することによって、硫酸修飾金属酸化物粒子20における金属(M)に対する硫黄(S)のモル比を調整することができる。
【0067】
なお、乾燥後の硫酸修飾WO3粒子には、上述のエージング処理又は焼成処理を施してもよい。
【0068】
(電解質膜16の作製方法)
まず、第1領域16a用の硫酸修飾金属酸化物粒子20と、第2領域16b用の硫酸修飾金属酸化物粒子20と、第3領域16c用の硫酸修飾金属酸化物粒子20とを準備する。
【0069】
第1領域16a用の硫酸修飾金属酸化物粒子20には、第2領域16b用の硫酸修飾金属酸化物粒子20に比べて金属(M)に対する硫黄(S)のモル比が大きいものを用いる。第3領域16c用の硫酸修飾金属酸化物粒子20には、第1領域16a用の硫酸修飾金属酸化物粒子20よりも前記モル比が小さく、かつ、第2領域16b用の硫酸修飾金属酸化物粒子20よりも前記モル比が大きいものを用いる。
【0070】
次に、第1領域16a、第2領域16b及び第3領域16cそれぞれの成形体を形成する。各成形体の作製方法は特に限定されないが、例えば硫酸修飾金属酸化物粒子20と有機バインダーとを混合したペーストを印刷法でシート化し、このシートに熱処理(80~200時間、80~150℃)を施すことによって各成形体を形成することができる。また、金型一軸プレスや冷間等方圧加圧(CIP)などの公知の手法で硫酸修飾金属酸化物粒子20を圧粉成形することによって各成形体を形成することもできる。さらに、硫酸修飾金属酸化物粒子20と分散媒を混合したスラリーを多孔質基材に含浸させて乾燥処理(80~150℃)を施すことで、硫酸修飾金属酸化物粒子20を多孔質基材に充填することによって各成形体を形成することもできる。
【0071】
次に、第1領域16aの成形体、第3領域16cの成形体及び第2領域16bの成形体を順に積層し、コールドプレス及び/又はCIPにて一体化することによって電解質膜16が完成する。
【実施例】
【0072】
以下において、本発明の実施例について説明する。本実施例では、電解質膜16において、第1領域16aにおける金属(M)に対する硫黄(S)の第1モル比(S/M)を第2領域16bにおける金属(M)に対する硫黄(S)の第2モル比(S/M)より大きくすることによって過電圧を低減できることを検証する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0073】
(サンプルNo.1~20の作製)
サンプルNo.1~20に係る燃料電池10を以下のように作製した。
【0074】
まず、第1領域16a用の硫酸修飾金属酸化物粒子20と、第2領域16b用の硫酸修飾金属酸化物粒子20と、第3領域16c用の硫酸修飾金属酸化物粒子20とを準備した。
【0075】
サンプルNo.1~3,5~10,12~16,18,20では、硫酸チタニルを水に溶解して調製したTiOSO4水溶液を80℃で1時間加熱することによって含水酸化チタンを作製した。そして、含水酸化チタンを洗浄した後に乾燥(60℃、16時間)させることによって硫酸修飾TiO2粒子を得た。サンプルNo.1~3,5~10,12~16,18,20では、TiOSO4水溶液の濃度を調節することによって、表1に示すように、第1乃至第3領域16a~16cそれぞれにおける硫酸修飾金属酸化物粒子20の第1乃至第3モル比(S/M)を変更した。
【0076】
サンプルNo.4,17では、スズ酸ナトリウム(Na2SnO3)を水に溶解して調製した水溶液に硫酸(1mol/L)を滴下して加水分解した後、100℃で16時間水熱処理することによって硫酸修飾SnO2粒子を硫酸修飾金属酸化物粒子20として得た。サンプルNo.11では、塩化酸化ジルコニウム(ZrOCl2)を水に溶解して調製した水溶液に水酸化アンモニウム(NH4OH)を滴下して加水分解することによって得られた粉末に硫酸(1mol/L)を滴下して硫酸処理を行うことで硫酸修飾ZrO2粒子を得た。サンプルNo.19では、タングステン酸ナトリウム(Na2WO4)を水に溶解して調製した水溶液に硫酸(1mol/L)を滴下して加水分解した後、100℃で16時間水熱処理することによって硫酸修飾WO3粒子を得た。サンプルNo.4,11,17,19では、硫酸の滴下量を調整することによって、表1に示すように、第1乃至第3領域16a~16cそれぞれにおける硫酸修飾金属酸化物粒子20の第1乃至第3モル比(S/M)を変更した。
【0077】
次に、第1領域16a用、第2領域16b用及び第3領域16b用それぞれの硫酸修飾金属酸化物粒子20と有機バインダーとを混合したペーストを印刷法でシート化し、このシートに熱処理(80~200時間、80~150℃)を施すことによって、第1領域16a、第2領域16b及び第3領域16cそれぞれの成形体を形成した。
【0078】
次に、第1領域16aの成形体、第3領域16cの成形体及び第2領域16bの成形体を順に積層した後、CIPにて一体化することによって電解質膜16を作製した。電解質膜16の厚みは過電圧に対して実質的に影響を与えないため、サンプルNo.1~20では、電解質膜16の厚みを15μmに統一した。
【0079】
次に、Pt担持量50wt%(田中貴金属工業(株)社製TEC10E50E)の白金担持カーボン(以下、「Pt/C」という。)とPVDF粉末(以下、「PVDFバインダー」という。)とを準備した。そして、(Pt/C):(PVDFバインダー):(水)の重量比が9wt%:0.9wt%:90wt%となるように、Pt/C、PVDFバインダー及び水を混合してカソード用ペーストを作製した。
【0080】
次に、電解質膜16の第1表面16Sにカソード用ペーストを塗布することによってカソード12を形成した。
【0081】
次に、Pt-Ru担持量54wt%(田中貴金属工業(株)社製TEC61E54)の白金ルテニウム担持カーボン(以下、「Pt-Ru/C」という。)と、PVDFバインダーとを準備した。そして、(Pt-Ru/C):(PVDFバインダー):(水)の重量比が9wt%:0.9wt%:90wt%の比率となるように、Pt-Ru/C、PVDFバインダー及び水を混合してアノード用ペーストを作製した。
【0082】
次に、電解質膜16の第2表面16Tにアノード用ペーストを塗布することによってアノード14を形成した。
【0083】
(過電圧の測定)
サンプルNo.1~20に係る燃料電池10における過電圧を測定した。
【0084】
具体的には、湿度80%RHの空気をカソード12に供給し、かつ、湿度80%RHの10vol%メタノールをアノード14に供給しながら、各ガス、燃料電池セルの温度を80℃に保持し、電子負荷装置で電気化学反応を生じさせた。次に、電流密度を0.05A/cm2に制御した際の電圧値及び電流値から交流インピーダンス法で求められる電解質膜16の抵抗値に基づいて、電解質膜16の抵抗過電圧を算出した。そして、燃料電池10の理論起電力1.19Vから電流密度を0.05A/cm2に制御した際の電圧値及び電解質膜16の抵抗過電圧を差し引いた値を過電圧とした。
【0085】
表1に測定結果を纏めて示す。表1では、過電圧が0.82V以上のサンプルを「×」と評価し、過電圧が0.71V超0.82V未満のサンプルを「〇」と評価し、過電圧が0.71V以下のサンプルを「◎」と評価した。
【0086】
【0087】
表1に示すように、第1領域16aにおける第1モル比を第2領域16bにおける第2モル比より大きくしたサンプルNo.3,4,7,8,11,12,15~20では、過電圧を低減させることができた。このような結果が得られたのは、第1領域16aにおいて硫酸24に保持される水分量を第2領域16bにおいて硫酸24に保持される水分量より多くすることによって、第1領域16a内及び第1領域16aからカソード12へのプロトンの移動が促進されてカソード12における過電圧を低減できたためである。
【0088】
また、第1モル比の値を0.010以上としたサンプルNo.11,15では、第1モル比の値が0.010未満であったサンプルNo.3,4,7に比べて過電圧をより低減させることができた。このような結果が得られたのは、電解質膜16の第1表面16S側における相対湿度が十分高まって、第1領域16aからカソード12へのプロトンの移動がより促進されてカソード12における過電圧をより低減できたためである。
【0089】
また、第1モル比と第2モル比との差分値を0.005以上としたサンプルNo.8では、差分値が0.005未満であったサンプルNo.3,4,7に比べて過電圧をより低減させることができた。このような結果が得られたのは、電解質膜16の内部に生じる水分濃度勾配を十分大きくすることによって、アノード14からカソード12への燃料透過がより抑制されてアノード14における過電圧をより低減できたためである。
【0090】
さらに、第1モル比の値を0.010以上とし、かつ、第1モル比と第2モル比との差分値を0.005以上としたサンプルNo.12,16~20では、No.8,11,15に比べて過電圧をより低減させることができた。このような結果が得られたのは、上述したそれぞれの効果が相乗的に作用したためである。
【符号の説明】
【0091】
10 燃料電池
12 カソード
14 アノード
16 電解質膜
16a 第1領域
16b 第2領域
16c 第3領域
16S 第1表面
16T 第2表面
20 硫酸修飾金属酸化物粒子
22 金属酸化物
24 硫酸
【要約】
【課題】カソード反応における過電圧を低減可能な電解質膜及びそれを備える燃料電池を提供する。
【解決手段】電解質膜16は、硫酸修飾金属酸化物粒子20を含有する。電解質膜16は、カソード12側の第1表面16Sから5μm以内の第1領域16aと、アノード14側の第2表面16Tから5μm以内の第2領域16bとを有する。第1領域16aにおける金属(M)に対する硫黄(S)の第1モル比(S/M)は、第2領域16bにおける金属(M)に対する硫黄(S)の第2モル比(S/M)より大きい。
【選択図】
図1