(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】熱電変換材料、及び、熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 35/14 20060101AFI20220810BHJP
H01L 35/34 20060101ALI20220810BHJP
C01B 33/06 20060101ALI20220810BHJP
C22C 1/05 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
H01L35/14
H01L35/34
C01B33/06
C22C1/05 N
(21)【出願番号】P 2017127098
(22)【出願日】2017-06-29
【審査請求日】2020-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中田 嘉信
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-049538(JP,A)
【文献】特開2013-179322(JP,A)
【文献】特開2013-235971(JP,A)
【文献】特開平11-040583(JP,A)
【文献】特開昭47-028877(JP,A)
【文献】国際公開第2011/013609(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/075789(WO,A1)
【文献】特開2013-219105(JP,A)
【文献】S. Fiameni,外8名,Introduction of Metal Oxides into Mg2Si Thermoelectric Materials by Spark Plasma Sintering,Journal of Electronic Materials,米国,Springer Science+Business Media New York,2013年,Vol. 42, No.7,p. 2062-2066
【文献】D. Cederkranz,外5名,Enhanced thermoelectric properties of Mg2Si by addition of TiO2 nanoparticles,Journal of Applied Physics,米国,American Institute of Physics,2012年,Vol. 111,p. 023701-1 - 023701-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14
H01L 35/34
C01B 33/06
C22C 1/05
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料であって、
アルミニウムを0.3mass%以上
1.0mass%以下の範囲内で含有するとともに、チタン酸化物を
1.5mass%以上9.5mass%以下の範囲内で含有しており、
550℃におけるPFが2.71×10
-3W/m・K
2以上
2.96×10
-3
W/m・K
2
以下であることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
ドーパントとして、Li、Na、K、B、Al、Ga、In、N、P、As、Sb,Bi、Ag,Cu、Yから選択される1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなり、550℃におけるPFが2.71×10
-3W/m・K
2以上
2.96×10
-3
W/m・K
2
以下である熱電変換材料の製造方法であって、
Mg及びSiを含む原料粉に、アルミニウム粉を0.3mass%以上
1.0mass%以下の範囲内、且つ、チタン酸化物粉を
1.5mass%以上9.5mass%以下の範囲内となるように混合して焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程と、
前記焼結原料粉を加圧しながら加熱して焼結体を形成する焼結工程と、を備えており、
前記Mg及びSiを含む原料粉の平均粒径が0.5μm以上100μm以下の範囲内とされ、
前記焼結工程における焼結温度が800℃以上1020℃以下の範囲内とされていることを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料、及び、熱電変換材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料からなる熱電変換素子は、ゼーベック効果、ペルティエ効果といった、熱と電気とを相互に変換可能な電子素子である。ゼーベック効果は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する効果であり、熱電変換材料の両端に温度差を生じさせると起電力が発生する現象である。こうした起電力は熱電変換材料の特性によって決まる。近年ではこの効果を利用した熱電発電の開発が盛んである。
上述の熱電変換素子は、熱電変換材料の一端側及び他端側にそれぞれメタライズ層を介して電極が接合された構造とされている。
【0003】
このような熱電変換素子(熱電変換材料)の特性を表す指標として、例えば以下の(1)式で表されるパワーファクター(PF)や、以下の(2)式で表される無次元性能指数(ZT)が用いられている。なお、熱電変換材料においては、一面側と他面側とで温度差を維持する必要があるため、熱伝導性が低いことが好ましい。
PF=S2σ・・・(1)
但し、S:ゼーベック係数(V/K)、σ:電気伝導率(S/m))
ZT=S2σT/κ・・・(2)
但し、T=絶対温度(K)、κ=熱伝導率(W/(m×K))
【0004】
ここで、上述の熱電変換材料として、例えば特許文献1に示すように、マグネシウムシリサイドに各種ドーパントを添加したものが提案されている。なお、特許文献1に示すマグネシウムシリサイドからなる熱電変換材料においては、所定の組成に調整された原料粉末を焼結することによって製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、マグネシウムシリサイドを主成分とする熱電変換材料においては、高温条件で使用した際にマグネシウムシリサイドの一部が分解してマグネシウム酸化物が形成され、変色することがある。また、分解がさらに進行して酸化マグネシウムが形成されると、マグネシウムシリサイドと酸化マグネシウムの熱膨張差により熱電変換材料自体が破損したり、熱電変換材料が電極から剥離したりするといった問題が生じてしまう。このため、熱電変換材料には、高温条件で使用した際の耐久性が求められている。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなり、高温条件で使用した際の耐久性に優れた熱電変換材料、及び、この熱電変換材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の熱電変換材料は、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料であって、アルミニウムを0.3mass%以上1.0mass%以下の範囲内で含有するとともに、チタン酸化物を1.5mass%以上9.5mass%以下の範囲内で含有しており、550℃におけるPFが2.71×10-3W/m・K2以上2.96×10
-3
W/m・K
2
以下であることを特徴としている。
【0009】
この構成の熱電変換材料によれば、アルミニウムを0.3mass%以上3mass%以下の範囲内で含有するとともに、チタン酸化物を1mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しているので、アルミニウム及びチタン酸化物によって、雰囲気中の酸素がマグネシウムシリサイドの内部にまで侵入することを抑制でき、これによりマグネシウムシリサイドの分解が抑制され、高温条件で使用した際の耐久性を向上させることができると考えられる。
【0010】
ここで、本発明の熱電変換材料においては、ドーパントとして、Li、Na、K、B、Al、Ga、In、N、P、As、Sb,Bi、Ag,Cu、Yから選択される1種または2種以上を含んでいてもよい。
この場合、熱電変換材料を特定の半導体型、すなわち、n型熱電変換材料やp型熱電変換材料とすることができる。
【0011】
本発明の熱電変換材料の製造方法は、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなり、550℃におけるPFが2.71×10-3W/m・K2以上2.96×10
-3
W/m・K
2
以下である熱電変換材料の製造方法であって、Mg及びSiを含む原料粉に、アルミニウム粉を0.3mass%以上1.0mass%以下の範囲内、且つ、チタン酸化物粉を1.5mass%以上9.5mass%以下の範囲内となるように混合して焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程と、前記焼結原料粉を加圧しながら加熱して焼結体を形成する焼結工程と、を備えており、前記Mg及びSiを含む原料粉の平均粒径が0.5μm以上100μm以下の範囲内とされ、前記焼結工程における焼結温度が800℃以上1020℃以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0012】
この構成の熱電変換材料の製造方法によれば、アルミニウム粉を0.3mass%以上3mass%以下の範囲内、且つ、チタン酸化物粉を1mass%以上10mass%以下の範囲内で含む焼結原料粉を加圧加熱して焼結しているので、焼結されたマグネシウムシリサイドの粒内にAlと一部のチタン酸化物が分解して生じたTiが分散するとともに、粒界にアルミニウム及びチタン酸化物が偏在した焼結体を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなり、高温条件で使用した際の耐久性に優れた熱電変換材料、及び、この熱電変換材料の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態である熱電変換材料およびこれを用いた熱電変換素子を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態である熱電変換材料の製造方法のフロー図である。
【
図3】本発明の一実施形態である熱電変換材料の製造方法で用いられる焼結装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態である熱電変換材料、及び、熱電変換材料の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0016】
図1に、本発明の実施形態である熱電変換材料11、及び、この熱電変換材料11を用いた熱電変換素子10を示す。
この熱電変換素子10は、本実施形態である熱電変換材料11と、この熱電変換材料11の一方の面11aおよびこれに対向する他方の面11bに形成されたメタライズ層18a,18bと、このメタライズ層18a,18bに積層された電極19a,19bと、を備えている。
【0017】
メタライズ層18a,18bは、ニッケル、銀、コバルト、タングステン、モリブデン等が用いられる。このメタライズ層18a,18bは、通電焼結、メッキ、電着等によって形成することができる。
電極19a,19bは、導電性に優れた金属材料、例えば、銅やアルミニウムなどの板材から形成されている。本実施形態では、アルミニウムの圧延板を用いている。また、熱電変換材料11(メタライズ層18a,18b)と電極19a,19bとは、AgろうやAgメッキ等によって接合することができる。
【0018】
そして、熱電変換材料11は、マグネシウムシリサイドを主成分とした焼結体とされており、本実施形態では、マグネシウムシリサイド(Mg2Si)にドーパントとしてアンチモン(Sb)を添加したものとされている。例えば、本実施形態の熱電変換材料11は、Mg2Siにアンチモンを0.1at%以上2.0at%以下の範囲内で含む組成とされている。なお、本実施形態の熱電変換材料11においては、5価ドナーであるアンチモンの添加することによって、キャリア密度の高いn型熱電変換材料とされている。
【0019】
なお、熱電変換材料11を構成する材料としては、Mg2SiXGe1-X、Mg2SiXSn1-xなど、マグネシウムシリサイドに他の元素を付加した化合物も同様に用いることができる。
また、熱電変換材料11をn型熱電変換素子とするためのドナーとしては、アンチモン以外にも、ビスマス、アルミニウム、リン、ヒ素などを用いることができる。
また、熱電変換材料11をp型熱電変換素子にしてもよく、この場合、アクセプタとしてリチウムや銀などのドーパントを添加することによって得られる。
【0020】
そして、本実施形態である熱電変換材料11においては、アルミニウムを0.3mass%以上3mass%以下の範囲内で含有するとともに、チタン酸化物を1mass%以上10mass%以下の範囲内で含有している。
なお、熱電変換材料11におけるチタン酸化物の含有量は、熱電変換材料11から測定試料を採取し、蛍光X線分析法によってAl量とTi量を求め、TiO2量はこのTiの全量がTiO2であると仮定して換算することによって算出される。
【0021】
本実施形態である熱電変換材料11においては、上述のように、アルミニウム及びチタン酸化物を含有しており、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体中に分散されたアルミニウム及びチタン酸化物によって、雰囲気中の酸素が熱電変換材料の内部にまで侵入することが抑制され、マグネシウムシリサイドの分解が抑制されることになる。
【0022】
ここで、アルミニウムの含有量が0.3mass%未満の場合には、雰囲気中の酸素がマグネシウムシリサイドの内部に侵入することを十分に抑制することができないおそれがある。一方、アルミニウムの含有量が3mass%を超えると、熱伝導率が高くなり、ゼーベック係数が低下するおそれがある。
以上のことから、本実施形態においては、アルミニウムの含有量を0.3mass%以上3mass%以下の範囲内に規定している。
なお、雰囲気の酸素がマグネシウムシリサイドの内部に侵入すること確実に抑制するためには、アルミニウムの含有量の下限を0.3 mass%以上とすることが好ましく、0.5mass%以上とすることがさらに好ましい。
また、熱伝導率が高くなることをさらに抑制するためには、アルミニウムの含有量の上限を3mass%以下とすることが好ましく、2mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0023】
また、チタン酸化物の含有量が1mass%未満の場合には、雰囲気の酸素がマグネシウムシリサイドの内部に侵入することを十分に抑制することができないおそれがある。一方、チタン酸化物はバンドギャップが大きい半導体であるため、チタン酸化物の含有量が10mass%を超えると、電気抵抗が高くなり、パワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)が逆に低下するおそれがある。
以上のことから、本実施形態においては、チタン酸化物の含有量を1mass%以上10mass%以下の範囲内に規定している。
なお、雰囲気の酸素がマグネシウムシリサイドの内部に侵入することを確実に抑制するためには、チタン酸化物の含有量の下限を1mass%以上とすることが好ましく、3mass%以上とすることがさらに好ましい。
また、電気抵抗が高くなることをさらに抑制するためには、チタン酸化物の上限を10mass%以下とすることが好ましく、7mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0024】
以下に、本実施形態である熱電変換材料11の製造方法について、
図2及び
図3を参照して説明する。
【0025】
(マグネシウムシリサイド粉末準備工程S01)
まず、熱電変換材料11である焼結体の母相となるマグネシウムシリサイド(Mg2Si)の粉末を製造する。
本実施形態では、マグネシウムシリサイド粉末準備工程S01は、塊状のマグネシウムシリサイドを得る塊状マグネシウムシリサイド形成工程S11と、この塊状のマグネシリサイド(Mg2Si)を粉砕して粉末とする粉砕工程S12と、を備えている。
【0026】
塊状マグネシウムシリサイド形成工程S11においては、シリコン粉末と、マグネシウム粉末と、ドーパントとをそれぞれ計量して混合する。例えば、n型の熱電変換材料を形成する場合には、ドーパントとして、アンチモン、ビスマス、など5価の材料やアルミニウムを、また、p型の熱電変換材料を形成する場合には、ドーパントとして、リチウムや銀などの材料を混合する。本実施形態では、n型の熱電変換材料を得るためにドーパントとしてアンチモンを用いており、その添加量は0.1at%以上2.0at%以下の範囲内とした。
【0027】
そして、この混合粉末を、例えばアルミナるつぼに導入し、800℃以上1150℃以下の範囲内にまで加熱し、冷却して固化させる。これにより、例えば塊状のマグネシウムシリサイドを得る。
なお、加熱時に少量のマグネシウムが昇華することから、原料の計量時にMg:Si=2:1の化学量論組成に対して例えば5at%ほどマグネシウムを多く入れることが好ましい。
【0028】
粉砕工程S12においては、得られた塊状のマグネシウムシリサイドを、粉砕機によって粉砕し、マグネシウムシリサイド粉を形成する(粉砕工程S12)。
ここで、マグネシウムシリサイド粉の平均粒径を、0.5μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0029】
なお、市販のマグネシウムシリサイド粉や、ドーパントが添加されたマグネシウムシリサイド粉を使用する場合には、塊状マグネシウムシリサイド形成工程S11および粉砕工程S12を省略することもできる。
【0030】
(焼結原料粉形成工程S02)
次に、得られたマグネシウムシリサイド粉に、アルミニウム粉及びチタン酸化物粉を混合し、アルミニウム粉の含有量が0.3mass%以上3mass%以下の範囲内、かつ、チタン酸化物粉の含有量が1mass%以上10mass%以下の範囲内とされた焼結原料粉を得る。
なお、アルミニウム粉及びチタン酸化物粉の平均粒径は、マグネシウムシリサイド粉の平均粒径よりも小さいことが好ましい。具体的には、アルミニウム粉の均結晶粒径は、0.5μm以上30μm以下の範囲内とすることが好ましい。また、チタン酸化物粉の平均粒径は、0.5μm以上30μm以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、チタン酸化物粉としては、TiO2(アナタース、ルチル)粉の他、TiO、Ti2O3等を用いることができる。
【0031】
(焼結工程S03)
次に、上述のようにして得られた焼結原料粉を、加圧しながら加熱して焼結体を得る。
本実施形態では、焼結工程S03において、
図3に示す焼結装置(通電焼結装置100)を用いている。
【0032】
図3に示す焼結装置(通電焼結装置100)は、例えば、耐圧筐体101と、この耐圧筐体101の内部を減圧する真空ポンプ102と、耐圧筐体101内に配された中空円筒形のカーボンモールド103と、カーボンモールド103内に充填された焼結原料粉Qを加圧しつつ電流を印加する一対の電極部105a,105bと、この一対の電極部105a,105b間に電圧を印加する電源装置106とを備えている。また電極部105a,105bと焼結原料粉Qとの間には、カーボン板107、カーボンシート108がそれぞれ配される。これ以外にも、図示せぬ温度計、変位計などを有している。
また、本実施形態においては、カーボンモールド103の外周側にヒーター109が配設されている。ヒーター109は、カーボンモールド103の外周側の全面を覆うように四つの側面に配置されている。ヒーター109としては、カーボンヒーターやニクロム線ヒーター、モリブデンヒーター、カンタル線ヒーター、高周波ヒーター等が利用できる。
【0033】
焼結工程S03においては、まず、
図3に示す通電焼結装置100のカーボンモールド103内に、焼結原料粉Qを充填する。カーボンモールド103は、例えば、内部がグラファイトシートやカーボンシートで覆われている。そして、電源装置106を用いて、一対の電極部105a,105b間に直流電流を流して、焼結原料粉Qに電流を流すことによって自己発熱により昇温する。また、一対の電極部105a,105bのうち、可動側の電極部105aを焼結原料粉Qに向けて移動させ、固定側の電極部105bとの間で焼結原料粉Qを所定の圧力で加圧する。また、ヒーター109を加熱させる。
これにより、焼結原料粉Qの自己発熱及びヒーター109からの熱と、加圧により、焼結原料粉Qを焼結させる。
【0034】
本実施形態においては、焼結工程S03における焼結条件は、焼結原料粉Qの焼結温度が800℃以上1020℃以下の範囲内、この焼結温度での保持時間が0.15分以上 5分以下の範囲内とされている。また、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の範囲内とされている。
また、耐圧筐体101内の雰囲気はアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気や真空雰囲気とするとよい。真空雰囲気とする場合は、圧力5Pa以下とするとよい。
【0035】
ここで、焼結原料粉Qの焼結温度が800℃未満の場合には、焼結原料粉Qの各粉末の表面に形成された酸化膜を十分に除去することができず、結晶粒界に酸化膜が残存してしまうとともに、焼結体の密度が低くなる。このため、得られた熱電変換材料の抵抗が高くなってしまうおそれがある。
一方、焼結原料粉Qの焼結温度が1020℃を超える場合には、マグネシウムシリサイドの分解が短時間で進行してしまい、組成ずれが生じ、抵抗が上昇するとともにゼーベック係数が低下してしまうおそれがある。
このため、本実施形態では、焼結工程S03における焼結温度を800℃以上1020
℃以下の範囲内に設定している。
なお、焼結工程S03における焼結温度の下限は、850℃以上とすることが好ましく、900℃以上であることがさらに好ましい。一方、焼結工程S03における焼結温度の上限は、1000℃以下とすることが好ましく、980℃以下であることがさらに好ましい。
【0036】
また、焼結温度での保持時間が0.15分未満の場合には、焼結が不十分となって、得られた熱電変換材料の抵抗が高くなってしまうおそれがある。
一方、焼結温度での保持時間が5分を超える場合には、マグネシウムシリサイドの分解が進行してしまい、組成ずれが生じ、抵抗が上昇するとともにゼーベック係数が低下してしまうおそれがある。
このため、本実施形態では、焼結工程S03における焼結温度での保持時間を0.15分以上5分以下の範囲内に設定している。
なお、焼結工程S03における焼結温度での保持時間の下限は、0.15分以上とすることが好ましく、0.5分以上であることがさらに好ましい。一方、焼結工程S03における焼結温度での保持時間の上限は、5分以下とすることが好ましく、3分以下であることがさらに好ましい。
【0037】
さらに、焼結工程S03における加圧荷重が20MPa未満の場合には、密度が高くならず、熱電変換材料の抵抗が高くなってしまうおそれがある。
一方、焼結工程S03における加圧荷重が50MPaを超える場合には、焼結体の作製に使用しているカーボンモールドの寿命が短くなったり、場合によっては破損してしまうおそれがある。
このため、本実施形態では、焼結工程S03における加圧荷重を20MPa以上50MPa以下の範囲内に設定している。
なお、焼結工程S03における加圧荷重の下限は、20MPa以上とすることが好ましく、25MPa以上であることがさらに好ましい。一方、焼結工程S03における加圧荷重の上限は、50MPa以下とすることが好ましく、40MPa以下であることがさらに好ましい。
【0038】
以上のような工程により、本実施形態である熱電変換材料11が製造される。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態である熱電変換材料11によれば、アルミニウムを0.3mass%以上3mass%以下の範囲内で含有するとともに、チタン酸化物を1mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しているので、アルミニウム及びチタン酸化物によって、雰囲気中の酸素がマグネシウムシリサイドの内部にまで侵入することを抑制でき、これによりマグネシウムシリサイドの分解が抑制され、高温条件で使用した際の耐久性を向上させることができたと考えている。また、マグネシウムシリサイドに分散したAlや、一部のチタン酸化物が分解して生じたTiが、外気と接している表面で優先的に酸化して、酸化の進行を防いでいると考えられる。
【0040】
また、本実施形態である熱電変換材料11によれば、ドーパントを含有しており、具体的には、Mg2Siにアンチモンを0.1at%以上2.0at%以下の範囲内で含む組成とされているので、キャリア密度の高いn型熱電変換材料として好適に使用することができる。
【0041】
さらに、本実施形態である熱電変換材料の製造方法によれば、マグネシウムシリサイドの粉末に、アルミニウム粉及びチタン酸化物粉を混合し、アルミニウム粉の含有量が0.3mass%以上3mass%以下の範囲内とされるとともに、チタン酸化物粉の含有量が1mass%以上10mass%以下の範囲内とされた焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程S02を備えているので、焼結されたマグネシウムシリサイドの粒内にAlと一部のチタン酸化物が分解して生じたTiが分散するとともに、粒界にアルミニウム及びチタン酸化物が偏在した焼結体を得ることができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、
図1に示すような構造の熱電変換素子を構成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、本発明の熱電変換材料を用いていれば、メタライズ層や電極の構造及び配置等に特に制限はない。
【0043】
また、本実施形態では、
図3に示す焼結装置(通電焼結装置100)を用いて焼結を行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、焼結原料を間接的に加熱しながら加圧して焼結する方法、例えばホットプレス、HIPなどを用いても良い。
【0044】
さらに、本実施形態においては、ドーパントとしてアンチモン(Sb)を添加したマグネシウムシリサイドの粉末を焼結原料として用いるものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えばLi、Na、K、B、Al、Ga、In、N、P、As、Bi、Ag,Cu、Yから選択される1種または2種以上をドーパントとして含んだものであってもよいし、Sbに加えてこれらの元素を含んでいても良い。
【0045】
また、マグネシウムシリサイドの粉末に加えて、シリコン酸化物の粉末を混合してもよい。なお、シリコン酸化物としては、アモルファスSiO2、クリストバライト、クオーツ、トリディマイト、コーサイト、ステイショバイト、ザイフェルト石、衝撃石英等のSiOx(x=1~2)を用いることができる。シリコン酸化物の混合量は0.5mol%以上13.0mol%以下の範囲内である。より好ましくは、0.7mol%以上7mol%以下とするとよい。シリコン酸化物は、粒径0.5μm以上100μm以下の粉末状とするとよい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の効果を確認すべく実施した実験結果について説明する。
【0047】
純度99.9%のMg(粒径180μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99%のSi(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9%のSb(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)を、それぞれ計量した。これら粉末を乳鉢中で良く混ぜ、アルミナるつぼに入れて、850℃で2時間、Ar-5%H2中で加熱した。Mgの昇華によるMg:Si=2:1の化学量論組成からのずれを考慮して、Mgを5at%多く混合した。これにより、ドーパントであるSbを1at%含有する塊状マグネシウムシリサイド(Mg2Si)を得た。
次に、この塊状マグネシウムシリサイド(Mg2Si)を乳鉢中で細かく砕いて、これを分級して平均粒径が30μmのマグネシウムシリサイド粉(Mg2Si粉)を得た。
【0048】
また、マグネシウムシリサイド粉とアルミニウム粉(高純度化学社製Al粉、平均粒径3μm)及びチタン酸化物粉(高純度化学社製TiO2、平均粒径2μm)とを混合し、焼結原料粉を得た。
【0049】
得られた焼結原料粉をカーボンシートで内側を覆ったカーボンモールドに充填した。そして、
図3に示す焼結装置(通電焼結装置100)によって表1に示す条件で通電焼結した。
【0050】
得られた熱電変換材料について、アルミニウムの含有量、チタン酸化物の含有量、高温条件で使用時の耐久性、熱電変換特性について、以下のような手順で評価した。
【0051】
(アルミニウム及びチタン酸化物の含有量)
得られた熱電変換材料から測定試料を採取し、蛍光X線分析法(リガク社製走査型蛍光X線分析装置 ZSX PrimusII)によってAl量を測定した。
また、蛍光X線分析法によってTi量を測定した。測定されたTi量の全量がTiO2であるとして、チタン酸化物の含有量を算出した。測定結果を表1に示す。
【0052】
(高温条件で使用時の耐久性)
焼結した熱電変換材料から、ダイヤモンドバンドソーにて3mm×3mm×2mmtとなるよう試料を切り出し、研磨紙を用いて(♯1000、♯2000)3mmx3mmの片面を鏡面研磨した。炉内にその熱電変換材料を装入し、1.3kPa以下にまで減圧した後、11.3kPaとなるようにArガスを導入した。この雰囲気下(11.3kPa)で、室温から550℃までの昇降温を2回繰り返した。
炉から取り出した熱電変換材料を、XPS分析(ULVAC-PHI社製PHI5000 VersaProbe II)によって表層に形成されたMgOの膜厚を評価した。なお、MgOの膜厚は、酸素の強度が最表面の1/2になるまでのスパッタ時間から算出した。評価結果を表1に示す。
【0053】
(熱電特性)
熱電特性は、焼結した熱電変換材料から4mm×4mm×15mmの直方体を切り出し、熱電特性評価装置(アドバンス理工製ZEM-3)を用いて、それぞれの試料の550℃におけるパワーファクター(PF)を求めた。
【0054】
【0055】
アルミニウム及びチタン酸化物を添加しなかった比較例1、アルミニウムの添加量が本発明の範囲よりも少ない比較例2、及び、チタン酸化物の添加量が本発明の範囲よりも少ない比較例4においては、昇降温後の酸化膜の厚さが比較的厚くなり、高温条件での使用時の耐久性が不十分であった。
アルミニウムの添加量が本発明の範囲よりも多い比較例3、及び、チタン酸化物の添加量が本発明の範囲よりも多い比較例5においては、PFが低く、熱電特性が不十分であった。
【0056】
これに対して、アルミニウムの添加量、及び、チタン酸化物の添加量が本発明の範囲内とされた本発明例1-3,6,8-10においては、昇降温後の酸化膜の厚さが薄くなっており、高温条件での使用時の耐久性が十分であった。また、PFも高く、熱電特性に優れていた。
【0057】
以上のことから、本発明例によれば、高温条件で使用した際の耐久性に優れた熱電変換材料を提供可能であることが確認された。