(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】導電性膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20220810BHJP
H05B 3/14 20060101ALI20220810BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220810BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220810BHJP
H01C 7/00 20060101ALI20220810BHJP
H05B 3/03 20060101ALN20220810BHJP
【FI】
H01B5/14 Z
H05B3/14 B
H01B13/00 503Z
H01B1/06
H01C7/00 324
H05B3/03
(21)【出願番号】P 2018004420
(22)【出願日】2018-01-15
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】米澤 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和崇
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-236519(JP,A)
【文献】特開2017-122043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/00
H05B 3/14
H01B 5/14
H01B 13/00
H01B 1/06
H05B 3/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径100nm以下のRuO
2粒が層状に凝集した構造を有し、
体積抵抗率が、1×10
-2Ωcm以下であ
り、
膜中のRuO2の密度が、3.5~4.4g/cm3である
ことを特徴とする導電性膜。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性膜において、
前記RuO
2粒間の隙間にSiO
2が介在していることを特徴とする導電性膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性膜を製造する方法であって、
前記RuO
2粒と有機溶媒と分散剤とを含有したRuO
2分散液を基材上に塗布し、乾燥させてRuO
2層を形成する工程を有することを特徴とする導電性膜の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の導電性膜の製造方法において、
前記分散剤が、多官能型イオン性の分散剤であることを特徴とする導電性膜の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の導電性膜の製造方法において、
前記RuO
2層上にシリコンアルコキシドのオリゴマー体と有機溶媒と水と酸とを含有したシリカゾルゲル液を塗布し、前記RuO
2層中に前記シリカゾルゲル液を浸透させた状態で乾燥させることで前記RuO
2粒間の隙間にSiO
2を介在させる工程を有していることを特徴とする導電性膜の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の導電性膜の製造方法において、
前記RuO
2層を形成する工程で、200℃以上の温度で加熱して前記分散剤を分解することを特徴とする導電性膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RuO2粒を用いた低抵抗な導電性膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RuO2(二酸化ルテニウム)粒を用いた導電性膜として、例えば、特許文献1では、ガラスフリットとRuO2とを含んだ膜がサーミスタの素子電極とて用いられている。この特許文献1では、電極がサーミスタ素体上の素子電極と該素子電極上のカバー電極との2層構造を有し、素子電極がガラスフリットとRuO2とを含んだ膜であり、カバー電極が貴金属とガラスフリットとを含むペーストで形成された膜であるサーミスタが記載されている。
【0003】
このサーミスタでは、ガラスフリットとRuO2とを含んだペーストをサーミスタ素体の表面に塗布し、これを焼き付け処理することで、膜状に素子電極を形成している。この素子電極によって電極面積を確保してサーミスタの電気的特性を維持させ、ハンダ付けによる配線と素子電極との電気的接続を貴金属ペーストのカバー電極により確保している。
【0004】
また、特許文献2にも、ガラスフリットとRuO2とを含んだ電気発熱体厚膜形成用抵抗ペーストが記載されている。
また、特許文献3には、溶媒(トルエン)中に溶解したルテニウムを含有する前駆体溶液を加熱された基板に向けて噴霧することにより、スプレー方式で酸化ルテニウム導電膜を形成する薄膜導電膜の形成方法が記載されている。なお、この技術では、抵抗値を1×10-2Ωcm以下とするには、300℃以上に基板を加熱する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3661160号公報
【文献】特開2001-223065号公報
【文献】特開2010-113989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、上記従来のRuO2粒を用いた導電性膜では、ガラスフリットとRuO2粒とを含んだペーストをサーミスタ素体の表面に塗布し、これを焼き付け処理することで、膜を形成しているため、RuO2粒同士の間にガラスフリットが入り込み、RuO2粒同士の電気的導通を阻害している部分が多く発生することで、膜の抵抗値が増加してしまう不都合があった。すなわち、RuO2ペーストを用いる場合、ガラス粒子とRuO2粒とが混在した状態でネットワークが形成されるため、RuO2粒同士の接触が少なく、低抵抗を得ることが困難である。加えて、強度を付与にするには、ガラス粒子を溶かすことが必要であるため、ガラスの融点以上での熱処理が必要になり、ガラス基板や樹脂基板といった耐熱性の低い基板には形成することができなかった。
また、加熱した基板にスプレー方式で成膜する方法では、前駆体を熱分解させてRuO2膜とするため抵抗値を1×10-2Ωcm以下とするには300℃以上の加熱が必要であり、やはり耐熱性の低い基板には形成することができなかった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、RuO2を含んだ膜であって比較的低い温度で成膜することができ、低抵抗化及び薄膜化が可能である導電性膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る導電性膜は、平均粒径100nm以下のRuO2粒が層状に凝集した構造を有し、体積抵抗率が、1×10-2Ωcm以下であることを特徴とする。
すなわち、この導電性膜では、平均粒径100nm以下のRuO2粒が層状に凝集した構造を有し、体積抵抗率が、1×10-2Ωcm以下であるので、RuO2粒同士の良好な接触により、密着性が高く緻密な膜となり、低い抵抗値を有している。
【0009】
第2の発明に係る導電性膜は、第1の発明において、前記RuO2粒間の隙間にSiO2が介在していることを特徴とする。
すなわち、この導電性膜では、RuO2粒間の隙間にSiO2が介在しているので、RuO2粒同士の良好な接触を妨げることなく、膜に高い強度を付与することができる。
【0010】
第3の発明に係る導電性膜の製造方法は、第1又は第2の発明の導電性膜を製造する方法であって、前記RuO2粒と有機溶媒と分散剤とを含有したRuO2分散液を基材上に塗布し、乾燥させてRuO2層を形成する工程を有することを特徴とする。
すなわち、この導電性膜の製造方法では、上記RuO2分散液を用いて導電性膜を形成するので、スパッタリング等の気相成膜法と比較し、簡便に成膜することができ、またペーストを印刷・焼き付ける方法よりも膜厚ばらつきが少なく薄膜化も可能で、高価なRuO2粒の消費量を抑えつつ、低抵抗を得ることができる。また、本発明の製法では、棒状やワイヤー状など平板以外の基体にも成膜することが可能である。
【0011】
第4の発明に係る導電性膜の製造方法は、第3の発明において、前記分散剤が、多官能型イオン性の分散剤であることを特徴とする。
すなわち、この導電性膜の製造方法では、RuO2分散液に多官能型イオン性の分散剤を含むことで、RuO2粒の分散性が高いRuO2分散液が得られ、よりRuO2粒が均一且つ緻密に充填される。この多官能型イオン性の分散剤は比較的低い熱処理で分解して除去することができるため、RuO2粒が緻密に充填され、クラックが生じ難く、体積抵抗の低い膜が得られる。
【0012】
第5の発明に係る導電性膜の製造方法は、第3又は第4の発明の導電性膜の製造方法において、前記RuO2層上にシリコンアルコキシドのオリゴマー体と有機溶媒と水と酸とを含有したシリカゾルゲル液を塗布し、前記RuO2層中に前記シリカゾルゲル液を浸透させた状態で乾燥させることで前記RuO2粒間の隙間にSiO2を介在させる工程を有していることを特徴とする。
すなわち、この導電性膜の製造方法では、RuO2層中にシリカゾルゲル液を浸透させた状態で乾燥させることでRuO2粒間の隙間にSiO2を介在させる工程を有しているので、RuO2粒間の隙間にSiO2が低温で硬化する無機バインダーとして含浸し硬化することで、高強度の膜を得ることができる。したがって、まず上記RuO2層を形成する工程で、RuO2粒同士の接触点が多い状態を形成し、次に上記SiO2を介在させる工程で、SiO2によって層全体を硬化させることで、低温で高い導電性を実現しつつ十分な膜強度を得ることができる。
【0013】
第6の発明に係る導電性膜の製造方法は、第4の発明の導電性膜の製造方法において、
前記RuO2層を形成する工程で、200℃以上の温度で加熱して前記分散剤を分解することを特徴とする。
すなわち、この導電性膜の製造方法では、RuO2層を形成する工程において、200℃以上の温度で加熱することで多官能型イオン性の分散剤が分解するので、200℃の低温熱処理でも分散剤を分解でき、ガラス基板や樹脂基板等の耐熱性の低い基板上にも、RuO2粒が均一に分布した低抵抗の導電性膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る導電性膜によれば、平均粒径100nm以下のRuO2粒が層状に凝集した構造を有し、体積抵抗率が、1×10-2Ωcm以下であるので、RuO2粒同士の良好な接触により、密着性が高く緻密な膜となり、低い抵抗値を有している。
また、本発明に係る導電性膜の製造方法によれば、RuO2分散液を用いて導電性膜を形成するので、スパッタリング等の気相成膜法と比較し、簡便に成膜することができ、またペーストを印刷・焼き付ける方法よりも膜厚ばらつきが少なく薄膜化も可能で、高価なRuO2粒の消費量を抑えつつ、低抵抗を得ることができる。
たとえば、多官能型イオン性の分散剤を用いれば、200℃の比較的低い熱処理で分散剤を分解することができるので、ガラス基板や樹脂基板等の耐熱性の低い基板上にも、RuO2粒が均一に分布した低抵抗の導電性膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る導電性膜及びその製造方法の一実施形態において、導電性膜の製造方法を工程順に示す断面図である。
【
図2】本発明に係る導電性膜及びその製造方法において、SiO
2無しの導電性膜表面を示す分散剤を含まない場合の実施例(a)及び分散剤を含む場合の実施例(b)のSEM写真である。
【
図3】本発明に係る導電性膜及びその製造方法において、SiO
2無しの導電性膜断面を示す分散剤を含まない場合の実施例(a)及び分散剤を含む場合の実施例(b)のSEM写真である。
【
図4】本発明に係る導電性膜及びその製造方法において、SiO
2有りの導電性膜表面を示す分散剤を含まない場合の実施例(a)及び分散剤を含む場合の実施例(b)のSEM写真である。
【
図5】本発明に係る導電性膜及びその製造方法において、SiO
2有りの導電性膜断面を示す分散剤を含まない場合の実施例(a)及び分散剤を含む場合の実施例(b)のSEM写真である。
【
図6】本発明に係る比較例として、RuO
2ペーストを用いて形成した導電性膜の表面(a)及び断面(b)を示すSEM写真である。
【
図7】本発明に係る実施例において、ベーキング温度に対する比抵抗を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る導電性膜及びその製造方法の一実施形態を、
図1を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0017】
本実施形態の導電性膜1は、
図1の(b)に示すように、例えばサーミスタ素体等のセラミックス基板、シリコン基板、ガラス基板又は樹脂基板等の基材2上に成膜され、平均粒径100nm以下のRuO
2粒3aが層状にした構造を有し、体積抵抗率が、1×10
-2Ωcm以下である。
特に、後述するように、多官能型イオン性の分散剤を使用した導電性膜1は、平均粒径100nm以下のRuO
2粒3aが均一に分布して層状に凝集した構造を有している。
また、本実施形態の導電性膜1は、RuO
2粒3a間の隙間にSiO
2が介在している。
さらに、本実施形態の導電性膜1の厚さは、100~1000nmである。
【0018】
なお、本願発明における上記「均一に分布」は、走査型電子顕微鏡による断面観察から、導電性膜1内に、周囲をRuO2粒3aに囲まれ、直径300nm以上の円を内接するRuO2粒3aの存在しない領域を、基材2の表面に沿った方向における導電性膜1の5μm中に包含しない場合を意味している。
また、上記断面観察は、イオン研磨によって断面加工し、加速電圧1kV,2次電子像で判定する。
また、上記平均粒径は、以下のように求めている。
RuO2粒子の平均粒径は、X線回折XRDによって得られた回折パターンから、解析ソフトTopasを用いたRietvelt解析を用い、結晶歪分布をガウシアン関数、結晶子径分布をローレンツ関数と仮定して算出した結晶子径として求めた。
【0019】
本実施形態の導電性膜1を製造する方法は、
図1の(a)に示すように、RuO
2粒3aと有機溶媒と分散剤とを含有したRuO
2分散液を基材2上に塗布し、乾燥させてRuO
2層3を形成する工程を有している。
上記RuO
2分散液は、多官能型イオン性の分散剤である。
このRuO
2分散液の塗布は、例えばスピンコートで行う。
上記有機溶剤は、例えばエタノール等が採用可能である。
【0020】
また、本実施形態の導電性膜1の製造方法は、
図1の(b)に示すように、RuO
2層3上にシリコンアルコキシドのオリゴマー体と有機溶媒と水と酸とを含有したシリカゾルゲル液を塗布し、RuO
2層3中にシリカゾルゲル液を浸透させた状態で乾燥させることでRuO
2粒3a間の隙間にSiO
2を介在させる工程を有している。すなわち、この工程により、RuO
2層3中にSiO
2が含浸した状態となり、導電性膜1が形成される。
【0021】
上記RuO2層3を形成する工程では、大気雰囲気中、200℃以上の温度(ベーキング温度)で加熱して多官能型イオン性の分散剤を分解する。
上記多官能型イオン性の分散剤は、1分子中に吸着基を2つ以上もつ多官能型の高分子分散剤であって、例えば日油製マリアリム(登録商標)シリーズのHFB-150A(吸着基:塩基),SC-1015(吸着基:酸),AFB-1521(吸着基:酸)等が採用可能である。上記日油製マリアリム(登録商標)シリーズの分散剤は、主鎖にイオン性基、グラフト鎖にポリオキシアルキレン鎖を有する多官能櫛型の分散剤である。
【0022】
また、他に、ソルスパース(登録商標)シリーズのうち、ポリエステル側鎖を有する含窒素グラフト共重合体である多官能櫛型の分散剤(11200、13240、13940、24000SC、24000GR、28000、32000、32500、32550、32600、33000、34750、35100、35200、36000、37500、38500、39000、43000、44000、46000、47000、55000、56000、71000、76500、X300)や、主鎖がポリウレタンでグラフト鎖にポリエーテルあるいはポリエステルを有する多官能櫛型の分散剤(BYK-9076、DISPERBYK-182, 161,162,163、2163,2164)等も多官能型イオン性の分散剤として採用可能である。
【0023】
一般に、固体粒子を均一に分散させるには、分散液中の粒子同士の凝集を抑制することが重要である。特に、RuO2粒3aのように粒子がナノサイズ(一般的には100nm以下)になると、凝集力が大きくなり、均一な分散状態を得ることが困難である。そのため、凝集を抑制するために、粒子自体が持つ電荷の静電的な反発を使用する方法と、粒子表面に有機分子(分散剤)を吸着させ、その立体的な障害を利用する方法とがある。
【0024】
上記粒子自体の静電的な反発を利用する方法では、分散媒として有機溶剤を使用する場合、有機溶剤の極性が小さいため、粒子が帯電し難く、静電的な反発を利用した分散が生じ難いことから、本実施形態では、分散剤を使用した。なお、導電性膜を形成する場合には、分散剤の残渣が電気的な障壁となって抵抗値の増加を招くため、電気的に影響を与え難く、低温で分解する単官能、低分子の分散剤を使用することが考えられる。ここで、単官能とは、分散剤1分子あたり粒子に吸着する官能基を1つ有することを意味する。
【0025】
しかしながら、RuO2粒3aは分散剤を吸着し難く、単官能、低分子の分散剤では十分な分散効果を得ることが難しい。そこで、本実施形態では、多官能型の高分子分散剤を採用することで、RuO2粒3aの十分な分散効果を得ている。すなわち、多官能型の高分子分散剤は、1分子中に複数の吸着基を持つことで、粒子への吸着力が強く、RuO2粒3aでも十分な分散性を得ることができる。
【0026】
このように本実施形態の導電性膜1では、平均粒径100nm以下のRuO2粒3aが層状に凝集した構造を有し、体積抵抗率が、1×10-2Ωcm以下であるので、RuO2粒3a同士の良好な接触により、密着性が高く緻密な膜となり、低い抵抗値を有している。
また、RuO2粒3a間の隙間にSiO2が介在しているので、RuO2粒3a同士の良好な接触を妨げることなく、膜に高い強度を付与することができる。
【0027】
また、本実施形態の導電性膜の製造方法では、上記RuO2分散液を用いて導電性膜1を形成するので、スパッタリング等の気相成膜法と比較し、簡便に成膜することができ、またペーストを印刷・焼き付ける方法よりも膜厚ばらつきが少なく薄膜化も可能で、高価なRuO2粒の消費量を抑えつつ、低抵抗を得ることができる。
また、RuO2分散液に多官能型イオン性の分散剤を含むことで、RuO2粒の分散性が高いRuO2分散液が得られ、よりRuO2粒が均一且つ緻密に充填される。この多官能型イオン性の分散剤は比較的低い熱処理で分解して除去することができるため、RuO2粒が緻密に充填され、クラックが生じ難く、体積抵抗の低い膜が得られる。
【0028】
また、RuO2層3中にシリカゾルゲル液を浸透させた状態で乾燥させることでRuO2粒3a間の隙間にSiO2を介在させる工程を有しているので、RuO2粒3a間の隙間にSiO2が低温で硬化する無機バインダーとして含浸し硬化することで、高強度の膜を得ることができる。したがって、まず上記RuO2層3を形成する工程で、RuO2粒3a同士の接触点が多い状態を形成し、次に上記SiO2を介在させる工程で、SiO2によって層全体を硬化させることで、低温で高い導電性を実現しつつ十分な膜強度を得ることができる。
【0029】
さらに、RuO2層3を形成する工程において、200℃以上の温度で加熱することで多官能型イオン性の分散剤が分解するので、200℃の低温熱処理でも分散剤を分解でき、ガラス基板や樹脂基板等の耐熱性の低い基板上にも、RuO2粒3aが均一に分布した低抵抗の導電性膜1を形成することができる。
【実施例】
【0030】
本発明の実施例1として、まず有機溶剤としてエタノール4.5gと、RuO
2粒(高純度化学、99.9%)0.5gと、0.5mmφのZrO
2ビーズ20gとを20mlスクリュー管瓶に充填し、ペイントシェーカーを使用して3時間分散してRuO
2インクを作製した。このRuO
2インクをスピンコートによって回転数1000rpmの条件でシリコン基板の基材上に成膜して本発明の実施例1(分散剤無し)の導電性膜とした。
実施例1として、分散剤を含まないRuO
2インクを用いてシリコン基板の基材上に成膜したSiO
2含浸前における導電性膜の表面及び断面のSEM写真を、
図2及び
図3における(a)に示す。
【0031】
次に、実施例2~4(分散剤有り)として、20mlスクリュー管瓶に上記多官能型イオン性分散剤であるマリアリム(登録商標)シリーズのうち、HFB-150A、SC-1015、AFB-1521をそれぞれ有効成分が0.05gになるように秤量し、分散剤と有機溶剤であるエタノールとの総量が4.5gになるようにエタノールを加えて分散剤を溶解させた。そこに、RuO
2粒(高純度化学、99.9%)0.5gと、0.5mmφのZrO
2ビーズ20gとを充填し、ペイントシェーカーを使用して3時間分散してRuO
2インクを作製した。この分散剤を含むRuO
2インク(RuO
2分散液)をスピンコートによって回転数1000rpmの条件でシリコン基板の基材上に成膜して本発明の実施例の導電性膜とした。このうち、マリアリムHFB-150Aを分散剤として用い、SiO
2含浸前における実施例の導電性膜の表面及び断面のSEM写真を、
図2及び
図3における(b)に示す。
【0032】
これらから分かるように、分散剤を含まないRuO2インクを用いた本発明の実施例1は、空隙やクラックが見られるのに対し、分散剤を含むRuO2インク(RuO2分散液)を用いた本発明の実施例2~4は、空隙やクラックがほとんど無く、緻密な膜が形成されている。
なお、成膜方法はスピンコートに限らず、ディップコートやスプレーコート、スロットダイコートなど、公知の湿式成膜法を用いることができる。
【0033】
また、本発明の実施例として、分散剤を含まないRuO
2インクを用いて作製したSiO
2含浸後における導電性膜の表面及び断面のSEM写真を、
図4及び
図5における(a)に示す。また、分散剤を含むRuO
2インク(RuO
2分散液)を用いて作製したSiO
2含浸後における導電性膜の表面及び断面のSEM写真を、
図4及び
図5における(b)に示す。
これらの実施例では、ベーキング温度を200℃とした。また、シリカゾルゲル液を浸透させた状態で乾燥させる工程では、150℃で加熱処理した。
なお、シリカゾルゲル液を乾燥・硬化させる条件は、溶媒が乾燥する条件、たとえば室温でよく、膜強度や脱溶媒の観点から80℃以上であることが好ましい。
なお、比較例として、RuO
2ペーストを用いて形成した導電性膜の表面及び断面のSEM写真を、
図6の(a)(b)に示す。この比較例の熱処理温度はRuO
2ペースト中のガラスフリットを溶融させるため、850℃とした。
【0034】
これらから分かるように、RuO2ペーストを用いて形成した比較例では断面のSEM像から膜中に大きな空隙が存在しており、その体積抵抗値は2×10-2Ωcmと低抵抗にならない。
一方で、本発明の実施例では空隙は見られず、分散剤を含まない実施例1では3×10-3Ωcmであり、分散剤を含む実施例2では4×10-3Ωcmであり、いずれも1×10-2Ωcm以下の低抵抗になっている。なお、実施例の導電性膜を比較例と同様に850℃で熱処理を行うと、実施例1では2×10-3Ωcmとなり、実施例2では6×10-4Ωcmとなって、さらに低抵抗となる。また、分散剤を含まないRuO2インクを用いた実施例1は、幅約100nmの小さなクラックが長さ5μm以上にわたって見られるのに対し、分散剤を含むRuO2インク(RuO2分散液)を用いた実施例2は、RuO2粒が緻密かつ均一に分布して成膜されたため、クラックがほとんど無く、非常に均一な膜になっている。
これらの膜について、膜中のRuO2の密度を算出したところ、分散剤を使用していない実施例1では3.5~4.0g/cm3であり、分散剤を使用した実施例2~4では分散剤の種類による違いは見られず4.1~4.4g/cm3であった。また、RuO2ペースト使用した比較例では1.9~2.2g/cm3であった。RuO2の密度が高いことは、RuO2粒子同士の接触点、接触面積が多いことを意味しており、本発明の導電膜が低抵抗であることを表している。従来は、スパッタ法などの高価な方法を使わないと高密度の膜を得ることはできなかったが、本発明のRuO2インクを使う方法では、簡便で安価な方法でありながらRuO2の密度が高い膜を得ることができる。なお、膜中のRuO2の密度は、RuO2膜の膜厚をSEMによる断面観察で測定(5点)し、RuO2膜を溶解させて誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)によってRuO2膜の単位面積当たりのRuO2の搭載重量を算出し、単位面積当たりのRuO2を膜厚で除することで算出した。
【0035】
次に、上記マリアリム(登録商標)シリーズのHFB-150A、SC-1015、AFB-1521を分散剤として用いて作製した本発明の各実施例と、分散剤を用いずに作製した比較例の導電性膜とについて、ベーキング温度を変えて膜の比抵抗を測定した結果を、
図7に示す。
これらの結果からわかるように、多官能型の分散剤を使用した本発明の各実施例は、いずれも200℃以上でベーキングすることで、分散剤を用いていない比較例と同等の低抵抗となっている。すなわち、200℃以上で分散剤が完全に分解していると考えられ、10
-3Ωcm台の低抵抗が実現されている。
【0036】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態および上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…導電性膜、2…基材、3…RuO2層、3a…RuO2粒