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特許7121232銅端子材、銅端子及び銅端子材の製造方法
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  • 特許-銅端子材、銅端子及び銅端子材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】銅端子材、銅端子及び銅端子材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20220810BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20220810BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20220810BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/50
C25D5/12
H01R13/03 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018186108
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020056056
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】玉川 隆士
(72)【発明者】
【氏名】久保田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】中矢 清隆
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/134665(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00- 7/12
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる基材と、該基材の表面に被覆されたニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層と、最表面に被覆された錫又は錫合金からなる錫層と、前記ニッケル層と前記錫層との間の前記ニッケル層側に位置するNiSnからなるニッケル錫合金層と、前記ニッケル錫合金層上に存在し、その一部が表面に向けて延び、前記錫層内に入り込んでいるNiSnからなるニッケル錫金属間化合物と、を備え
前記錫層の平均結晶粒径が15μm以下であり、かつ、結晶粒間の回転角が15°以上の大傾角粒界の比率が50%以上であることを特徴とする銅端子材。
【請求項2】
前記ニッケル錫金属間化合物は、鱗片状又は針状であることを特徴とする請求項1に記載の銅端子材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の銅端子材からなる銅端子であって接点部分の表面に前記錫層が位置していることを特徴とする銅端子。
【請求項4】
銅又は銅合金からなる基材の表面の一部に、ニッケル又はニッケル合金めっきを施してニッケルめっき層を前記基材に形成するニッケルめっき層形成工程と、
前記ニッケルめっき層形成工程後に、前記ニッケルめっき層の表面を活性化させる活性化処理工程と、
活性処理工程後に、最表面に錫又は錫合金めっきを施して錫めっき層を形成する錫めっき層形成工程と、
前記錫めっき層形成工程後に、10℃以上40℃以下の温度で低温処理してニッケル層と錫層との間の前記ニッケル層側に位置するNiSnからなるニッケル錫合金層と、前記ニッケル錫合金層上に存在し、その一部が表面に向けて延び、前記錫層内に入り込んでいるNiSnからなるニッケル錫金属間化合物と、を形成するニッケル錫合金形成工程と、を備えることを特徴とする銅端子材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微摺動が発生する自動車や民生機器等の電気配線の接続に使用されるコネクタ用端子として有用な被膜が設けられた銅端子材、銅端子及び銅端子材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の電気配線の接続に用いられるコネクタが知られている。この車載用コネクタには、メス端子に設けられた接触片が、メス端子内に挿入されたオス端子に所定の接触圧を有して接触することで、電気的に接続されるように設計された端子対を備えるものが用いられている。
近年、車のエレクトロニクス化の進展に伴い、このような車載用コネクタは小型化傾向にあり、車載用コネクタが小型化すると、端子の接触圧力は小さくなる。この点、端子の接触圧力が低下すると、自動車走行による摺動やエンジンの振動により、オス端子とメス端子の接点部において、数十μm程度の微小な繰り返しの摺動が発生しやすくなる。この微小な繰り返し摺動が発生すると、端子接点部が摩耗して、摩耗粉が発生(微摺動摩耗現象)し、発生した摩耗粉により接触抵抗が上昇する現象が起こる。そのため、オス端子とメス端子の接点部において、微摺動摩耗が発生しても、接触抵抗が上昇しないような耐微摺動摩耗性に優れた材料が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の表面被膜付き銅は、銅又は銅合金板条を母材とし、母材の表面にNi,Co又はFe層のいずれか1つ又は2つからなる下地層、Cu-Sn層、及びSn層をこの順で積層し、最表面が耐微摺動摩耗性に優れたSn層(錫層)により構成されている。これと同様に、耐微摺動摩耗性に優れた材料としては、例えば、銅系基板の上に銅錫合金層及び錫層を有しているめっき材料があげられる(例えば、特許文献2~5参照)。また、例えば、ニッケル下地層上に銀もしくは銀合金層を有しているめっき材料などが挙げられる(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-082307号公報
【文献】特開2017-043827号公報
【文献】特開2016-211031号公報
【文献】特許第5897084号
【文献】特許第6103811号
【文献】特開2015-206094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の構成では、最表層の純錫層の厚みが薄く、純錫量が少ないことから、微摺動摩耗が発生しても錫の摩耗粉の発生は少ないので、抵抗値の増加は抑制できるが、摩耗により純錫めっきが消失するのが早く、素材が早期に露出してしまう。また、高温環境下での接続信頼性が悪くなる他、中間層に銅錫合金層が存在しているため、銅の摩耗や酸化による抵抗値の増大も懸念される。
一方、特許文献3~5に記載の構成では、最表層の純錫層の厚みが厚く、純錫量が多いため、耐熱性が特許文献1及び2に記載の構成よりも優れるものの、特許文献1及び2に記載の構成と比較すると、錫の摩耗粉の発生が多く、酸化した摩耗粉が接点部に堆積しやすいため、抵抗値が上昇してしまう。
また、特許文献6に記載の構成では、表面層を銀めっき合金とすることで、凝着摩耗を低減できるとともに、銀が貴な元素であるため、摩耗粉の酸化も抑制できるが、銀が高価なため、コスト面でデメリットがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐微摺動摩耗性及び接続信頼性を向上できる銅端子材、銅端子及び銅端子材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の銅端子材は、銅又は銅合金からなる基材と、該基材の表面に被覆されたニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層と、最表面に被覆された錫又は錫合金からなる錫層と、前記ニッケル層と前記錫層との間の前記ニッケル層側に位置するNiSnからなるニッケル錫合金層と、前記ニッケル錫合金層上に存在し、その一部が表面に向けて延び、前記錫層内に入り込んでいるNiSnからなるニッケル錫金属間化合物と、を備え、前記錫層の平均結晶粒径が15μm以下であり、かつ、結晶粒間の回転角が15°以上の大傾角粒界の比率が50%以上である。
【0008】
本発明では、ニッケル錫合金層(NiSn)が微細で平坦であり、ニッケル錫合金層が錫層の摩耗に影響を及ぼさない。そのため、Snの結晶同士の激しい摩耗が抑制され、摩耗粉の発生及び酸化を抑制できる。また、錫層内でニッケル錫金属間化合物(NiSn)が表面に向けて延びているので、微摺動における摺動過程で接触する端子の錫層との間で凝着摩耗を抑制できる。したがって、摩耗粉の酸化に起因する抵抗値の上昇及び基材の露出を抑制でき、耐微摺動摩耗性を向上できる。
また、錫層の平均結晶粒径が15μm以下と微細であり、かつ、大傾角粒界の比率が50%以上で材料の強度がより向上するため、耐微摺動摩耗性を向上させることができる。
【0009】
本発明の銅端子材の好ましい態様としては、前記ニッケル錫金属間化合物は、鱗片状又は針状である。
上記態様では、錫層内に入り込んでいるニッケル錫金属間化合物は、鱗片状又は針状であるため、より凝着摩耗が発生しにくい。また、銅端子として用いられた際に端子の摺動する方向に対する強度が小さく脆いため、ニッケル錫金属間化合物により、錫層内の錫は摺りつぶされない。そのため、錫の摩耗粉が細かくならず、酸化が少ない。したがって、摩耗粉の酸化を確実に抑制できる。
【0010】
なお、上記態様では、前記ニッケル錫金属間化合物の一部は、前記錫層の表面に露出しているとよい。この場合、ニッケル錫金属間化合物の一部が錫層の表面に露出しているので、凝着摩耗の発生をさらに抑制できる。
【0012】
本発明の銅端子は、上記銅端子材からなる銅端子であって、接点部分の表面に前記錫層が位置している。
本発明では、銅端子の接点部分に錫層が位置し、この錫層内にニッケル錫金属間化合物が入り込んでいるため、接点部分の耐微摺動摩耗性を抑制できる。
【0013】
本発明の銅端子材の製造方法は、銅又は銅合金からなる基材の表面の一部に、ニッケル又はニッケル合金めっきを施してニッケルめっき層を前記基材に形成するニッケルめっき層形成工程と、前記ニッケルめっき層形成工程後に、前記ニッケルめっき層の表面を活性
化させる活性化処理工程と、活性化処理工程後に、最表面に錫又は錫合金めっきを施して錫めっき層を形成する錫めっき層形成工程と、前記錫めっき層形成工程後に、10℃以上40℃以下の温度で低温処理してニッケル層と錫層との間の前記ニッケル層側に位置するNiSnからなるニッケル錫合金層と、前記ニッケル錫合金層上に存在し、その一部が表面に向けて延び、前記錫層内に入り込んでいるNiSnからなるニッケル錫金属間化合物と、を形成するニッケル錫合金形成工程と、を備える。
【0014】
ここで、錫層が高温でリフローされることにより形成されている場合には、錫層内の結晶粒が粗大化しているため、このような銅端子材からなる銅端子が自動車用のコネクタの端子として用いられて、微摺動が発生した場合に、錫層内の粗大な結晶粒が錫層の摩耗に関与し、錫層が摺りつぶされるように激しく摩耗する。このため、細かい摩耗粉が発生し、酸化が早く、その摩耗粉が銅端子の接点部へ堆積すると接点抵抗が上昇する可能性がある。
これに対し、本発明では、錫層内の結晶粒が微細であることから、微摺動により生じる錫層の摩耗への影響が少なく、摩耗粉の発生及び酸化が抑制できる。このため、耐微摺動摩耗性及び接続信頼性に優れた銅端子材を提供できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐微摺動摩耗性及び接続信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る銅端子材を模式的に示す断面図である。
図2】上記実施形態の銅端子材の断面のSIM像である。
図3】上記実施形態の銅端子材におけるNiSnを錫層側から見たSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
<銅端子材の構成>
本実施形態の銅端子材1は、図1に断面を模式的に示したように、銅または銅合金からなる板状の基材2と、該基材2の表面に被覆されたニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層3と、最表面に被覆された錫又は錫合金からなる錫層6と、を備えている。これらニッケル層3と錫層6との間のニッケル層3側には、NiSnからなるニッケル錫合金層4が位置し、ニッケル錫合金層4上には、その一部が錫層6に入り込んで表面に向けて延びるNiSnからなるニッケル錫金属間化合物5が存在している。
なお、基材2は、銅または銅合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。
【0018】
ニッケル層3は、基材2上にニッケル又はニッケル合金めっきを施すことにより被覆される。このニッケル層3は、ニッケル層3上に被覆される錫層6への基材2からのCu成分の拡散を抑制する機能を有する。
このニッケル層3の厚さは、0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上2.0μm以下であるとよい。ニッケル層3の厚さが0.1μm未満であると、高温環境下では銅又は銅合金からなる基材2からCu成分が錫層6内に拡散し、Cu-Sn合金層を形成する。さらに、Cu-Sn合金層は経時的に成長し、錫層6が完全にCu-Sn合金化する。そして、Cu-Sn合金層のCuが酸化し、表面にCuOが生成すると抵抗値が上昇し、耐熱性が低下する。一方、ニッケル層3の厚さが5.0μmを超えると、曲げ加工時に割れが発生する可能性がある。
なお、ニッケル層3は、ニッケル又はニッケル合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。
【0019】
錫層6は、銅端子材1の最表面に位置し、ニッケル層3上に錫又は錫合金めっきを施すことにより被覆される。この錫層6の平均結晶粒径は15μm以下、結晶粒間の回転角が15°以上の大傾角粒界の比率は50%以上とされている。
ニッケル錫合金層4を含む錫層6の厚さは、0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.5μm以上2.0μm以下であるとよい。このニッケル錫合金層4を含む錫層6の厚さが0.1μm未満であると、錫層6が薄すぎて摩耗により錫層6が消失するのが早く、基材2が早期に露出する。基材2が露出すると、基材2の銅が摩耗して銅の摩耗分が生じ、この銅の摩耗粉が酸化すると抵抗値が上昇して、接続信頼性(耐熱性)が悪化する可能性がある。一方、ニッケル錫合金層4を含む錫層6の厚さが5.0μmを超えると、錫層6が厚すぎて摩耗粉の発生が多く、酸化した摩耗粉が接点部に堆積して、抵抗値が上昇する可能性がある。
なお、錫層6も錫又は錫合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。
【0020】
ニッケル錫合金層4は、NiSnからなり、ニッケル層3と錫層6との間のニッケル層3側に位置する層状の合金層である。
また、ニッケル錫合金層4の錫層6側(上側)には、該ニッケル錫合金層4上に存在し、その一部が錫層6内に入り込んで表面(錫層6)に向けて延びるNiSnからなるニッケル錫金属間化合物5が位置している。このニッケル錫金属間化合物5を構成するNiSnは、図2及び図3に示すように、鱗片状又は針状である。
鱗片状又は針状のニッケル錫金属間化合物5は、錫層6の表面近傍まで成長しているため、凝着摩耗が発生しにくい。また、摺動する方向に対する強度が小さく脆い。このため、銅端子材1を用いた銅端子が他の銅端子と接触した状態で微摺動した場合であっても、錫層6内の結晶粒が押しつぶされることなく摩耗することで、摩耗粉の発生及び酸化を抑制している。なお、鱗片状又は針状のニッケル錫金属間化合物5は、錫層6の表面近傍まで成長していることとしたが、これらの一部が錫層6の表面に露出していてもよい。
【0021】
次に、この銅端子材1の製造方法について説明する。
この銅端子材1の製造方法は、基材の表面を洗浄する前処理工程と、ニッケルめっき層を基材に形成するニッケルめっき層形成工程と、ニッケルめっき層の表面を活性化させる活性化処理工程と、錫めっき層をニッケルめっき層上に形成する錫めっき層形成工程と、ニッケルめっき層と錫めっき層とを熱処理することによりニッケル錫合金を形成するニッケル錫合金形成工程と、を備える。
【0022】
[前処理工程]
まず、基材2として、銅又は銅合金からなる板材を用意し、この板材に脱脂、酸洗等をすることによって表面を清浄する前処理を行う。
【0023】
[ニッケルめっき層形成工程]
この基材2の表面の一部に対して、ニッケル又はニッケル合金めっきを施してニッケルめっき層を基材2に形成する。具体的には、スルファミン酸ニッケル300g/L、塩化ニッケル30g/L、ホウ酸30g/Lからなるニッケルめっき液を用いて、浴温45°、電流密度3A/dmの条件下でニッケルめっきを施して形成される。
なお、ニッケルめっき層を形成するニッケルめっきは、緻密なニッケル主体の膜が得られるものであれば特に限定されず、公知のワット浴を用いて電気めっきにより形成してもよい。
【0024】
[活性化処理工程]
ニッケルめっき層形成工程後に、酸洗等のニッケルめっき表面を清浄化する活性化処理工程を行う。この活性化処理工程において、ニッケルめっきを酸洗する場合は、5~10質量%硫酸を用いる。なお、活性化処理工程は、Niストライクめっき工程に置き換えることができる。この場合、塩化ニッケル200g/L、塩酸50g/Lからなるニッケルめっき液を用いる。
【0025】
[錫めっき層形成工程]
そして、活性化処理工程後に、ニッケルめっき層上に錫又は錫合金めっきを施して錫めっき層を形成する。具体的には、ニッケル層3が被覆された基材2に対して、メタンスルフォン酸錫30g/L~80g/L、メタンスルフォン酸80mL~200ml/L、添加剤(ユケン株式会社製のメタスFSM-07)25ml/L~75ml/Lからなる錫めっき液を用いて、浴温10℃~35℃、電流密度2A/dm~40A/dmの条件下で錫めっきを施して形成される。
【0026】
[ニッケル錫合金形成工程]
この錫めっき層形成工程が施された基材2を10℃以上60℃以下(好ましくは、20°以上40℃以下)の温度で12時間以上保持(熱処理)することにより、ニッケル層3と錫層6との間のニッケル層3側に位置するNiSnからなるニッケル錫合金層4と、ニッケル錫合金層4上に存在し、その一部が錫層6内に入り込んで表面(錫層6)に向けて延びるNiSnからなるニッケル錫金属間化合物5と、を形成する。これにより、耐微摺動摩耗性及び接続信頼性に優れた銅端子材1を提供できる。
【0027】
このようにして基材2の表面の一部に各層3、4及び6が形成された銅端子材1に対してプレス加工等を施し、接点として用いられる部分に錫層6が配置される端子を形成する。
本実施形態では、ニッケル錫合金層4が微細かつ平坦であり、錫層6内に鱗片状のニッケル錫金属間化合物5が入り込んでいることから、Snの結晶同士が激しく摩耗されることなく、摩耗粉の発生及び酸化さらには基材の露出も抑制される。したがって、摩耗粉の酸化に起因する抵抗値の上昇を抑制でき、耐微摺動摩耗性を向上できる。
【0028】
その他、細部構成は実施形態の構成のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例
【0029】
各試料(実施例1,2、参考例3~5及び比較例1~3)を以下の方法により製造した。具体的には、実施例1,2、参考例3~5、比較例1及び2については、表1に示す基材を用意し、この基材に脱脂、酸洗等をすることによって表面を清浄する前処理を行った後、板材の表面の一部に対して、スルファミン酸ニッケル300g/L、塩化ニッケル30g/L、ホウ酸30g/Lからなるニッケルめっき液を用いて、浴温45°、電流密度3A/dmの条件下でニッケルめっきを施してニッケルめっき層を基材に形成した。そして、5質量%硫酸を用いてニッケルめっき表面を清浄化する活性化処理を行った。
【0030】
そして、実施例1,2、参考例3~5では、活性化処理後に、ニッケルめっき層が被覆された基材に対して、メタンスルフォン酸錫50g/L、メタンスルフォン酸100ml/L、添加剤(ユケン株式会社製のメタスFSM-07)からなる錫めっき液を用いて、浴温30℃、所定の電流密度の条件下で錫めっきを施して形成した。なお、実施例1では、メタスFSM-07 75ml/L、電流密度5A/dmとし、実施例2では、メタスFSM-07 50ml/L、電流密度5A/dmとし、参考例3では、メタスFSM-07 50ml/L、電流密度20A/dmとし、参考例4では、メタスFSM-07 50ml/L、電流密度40A/dmとし、参考例5では、メタスFSM-07 25ml、電流密度10A/dmとすることで、平均粒径と大傾角粒界を変量した。
そして、上記各条件に基づいて、錫めっき層が形成された板材を35℃の温度で12時間保持することにより、ニッケル層と錫層との間のニッケル層側に位置するNiSnからなるニッケル錫合金層と、ニッケル錫合金層上に存在し、その一部が錫層6内に入り込んで表面(錫層)に向けて延びるNiSnからなるニッケル錫金属間化合物と、を形成した。なお、各実施例1,2、参考例3~5におけるニッケル層の厚さは1.0μmとし、ニッケル錫合金層を含む錫層の厚さは1.0μmとした。
【0031】
一方、比較例1及び2では、活性化処理後に、ニッケルめっき層が被覆された基材に対して、メタンスルフォン酸錫50g/L、メタンスルフォン酸100ml/L、FSM-07 50ml/Lからなる錫めっき液を用いて、浴温30℃、電流密度5A/dmとし、錫めっきを施して形成した。そして、比較例1及び2では、錫めっき層が形成された基材に対して、300℃、3秒間の熱処理を行った。なお、比較例1では、錫層を錫めっき剥離剤(ストリッパーL80 レイボルト株式会社製)で溶かして、再度上記方法で錫めっき層を形成した。なお、比較例1及び2におけるニッケル層の厚さは1.0μmとし、錫層の厚さを1.0μmとした。
一方、比較例3では、表1に示す基材を用意し、この基材に脱脂、酸洗等をすることによって表面を清浄する前処理を行った後、一般的な銅めっき液(硫酸銅(CuSO)及び硫酸(HSO)を主成分とした硫酸銅浴)を用いて、浴温45℃、電流密度5A/dmの条件で、Cuめっきを行った。そして、銅めっき層上に、錫めっき層を形成した。この錫めっき層は、一般的な硫酸(HSO)と硫酸第一錫(SnSO)を主成分とした硫酸浴を用いて、浴温30℃、電流密度5A/dmの条件で行い錫めっき層の膜厚は1μmとした。そして、めっき処理を施した後、300℃、3秒間の熱処理を行った。すなわち、比較例3の試料は、ニッケルめっき層を有していない。なお、比較例3における錫層の厚さは1.0μmとした。
【0032】
試料作製後に各層の厚み、ニッケル錫合金(NiSn)の形状、錫層の平均結晶粒径、大傾角粒界長さ比率を測定し、微摺動摩耗性及び接続信頼性を評価した。各層の厚みはエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の蛍光X線分析装置で測定した。ニッケル錫合金(NiSn)の同定は、セイコーインスツル株式会社製の集束イオンビーム装置:FIB(型番:SMI3050TB)を用いて、試料を100nm以下に薄化した断面の試料を作製し、この試料をFEI社製の走査透過型電子顕微鏡:STEM(型番:Titan G2 ChemiSTEM)を用いて、加速電圧200kVで観察を行い、STEMに付属するエネルギー分散型X線分析装置:EDSを用いて測定した。ニッケル錫合金の形状は、日本表面化学株式会社製のめっき剥離液SD-501に浸漬し、錫層のみを選択的に溶解して、株式会社日立ハイテクノロジーズ(SU8000)を用いて観察した。
【0033】
錫層の平均結晶粒径は、錫層表面に電子線を走査し、EBSD法の方位回析により、隣接する測定点間の方位差が5°以上となる結晶粒界を特定し、面積割合(Area Franction)により測定した。
錫層の大傾角粒界については、日立ハイテクノロジー社製フラットミリング装置を用いて、表面をクリーニングした後に、EBSD測定装置(HITACHI社製 S4300-SE,EDAX/TSL社製 OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製 OIM Data Analysis ver.5.2)によって、試料表面から結晶粒界を測定し、その長さを算出することにより、全結晶粒界中の大傾角粒界長さ比率の解析を行った。
即ち、試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、後方散乱電子線回折による方位解析により、隣接する測定点間の方位差が5°以上となる測定点を結晶粒界とし、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点を大傾角粒界とし、測定範囲における結晶粒界の全粒界長さLを測定し、隣接する結晶粒の界面が大傾角粒界を構成する結晶粒界の位置を決定するとともに、大傾角粒界の全粒界長さLσと、上記測定した結晶粒界の全粒界長さLとの粒界長さ比率Lσ/Lを求め、大傾角粒界長さ比率とした。
【0034】
なお、EBSD法の測定条件は以下の通りとし、試料表面をイオンミリング装置により加速電圧6kV、照射時間2時間で表面を調整した後、測定した。
<EBSD条件>
解析範囲:60.0μm×90.0μm(測定範囲:60.0μm×90.0μm)測定ステップ:0.2μm取込時間:10msec/point
【0035】
(微摺動摩耗特性の評価)
平板サンプルをオス端子の代用とし、この平板サンプルに曲率半径1.0mmの凸加工を行ったサンプルをメス端子の代用とした。微摺動摩耗試験は、ブルカー・エイエックスエス株式会社の摩擦摩耗試験機(UMT-Tribolab)を用い、水平に設置したオス端子試験片にメス試験片の凸面を接触させ、2Nの荷重を負荷した状態で、オス端子試験片を水平に移動距離50μm、摺動速度1Hzで摺動させ、摺動中の接触抵抗を4端子法(通電電流10mA、解放電圧20mV)で測定した。
接触抵抗が初期値の5倍以上に達した摺動回数にて評価し、50回未満で5倍以上に達したものを「D」、50~100回未満で5倍以上に達したものを「C」、100~500回未満で5倍以上に達したものを「B」500回以上でも初期値の5倍以上に達しないものを「A」とした。
【0036】
(接触抵抗の測定)
錫層の接触抵抗は、ブルカー・エイエックスエス株式会社の摩擦摩耗試験機(UMT-Tribolab)を用い、水平に設置した平板サンプルに、曲率半径1.0mmの凸加工を行ったサンプルの凸面を接触させ、垂直荷重を負荷しながら接触抵抗を測定していき、荷重2Nでの抵抗値で比較した。接触抵抗は、4端子法(通電電流10mA、解放電圧20mV)で測定した。
【0037】
(接続信頼性の評価)
接続信頼性(耐熱性)については、上記のように接触抵抗の測定に使用するサンプルを120℃の炉に暴露し、500時間後に炉から取り出して接触抵抗を測定した。接触抵抗が5mΩ未満のものを良好「〇」とし、5mΩ以上のものを不可「×」とした。
【0038】
【表1】
【0039】
表1から明らかなように、実施例1,2、参考例3~5では、ニッケル層と錫層との間にNiSnからなるニッケル錫合金層と、錫層内に入り込んでいるNiSnからなるニッケル錫金属間化合物が存在しているので、耐微摺動摩耗性がいずれも「B」以上であり、接続信頼性も良好「〇」であった。これらのうち、実施例1及び2は、錫層の平均結晶粒径が15μm以下と小さく、大傾角粒界比率が50%以上であったことから、耐微摺動摩耗性が最良「A」であった。
【0040】
比較例1及び2は、NiSnからなるニッケル錫金属間化合物が形成されず、微摺動摩耗性が向上しなかった。また、比較例3は、ニッケル錫合金層及びニッケル錫金属間化合物が存在していなかったため、耐微摺動摩耗性が「D」、接続信頼性も不可「×」であった。
【符号の説明】
【0041】
1 銅端子材
2 基材
3 ニッケル層
4 ニッケル錫合金層
5 ニッケル錫金属間化合物
6 錫層
図1
図2
図3