(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】植物への正珪酸施用方法
(51)【国際特許分類】
C05F 11/00 20060101AFI20220810BHJP
C07F 7/04 20060101ALI20220810BHJP
C05G 5/20 20200101ALI20220810BHJP
C05D 9/00 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C05F11/00
C07F7/04 K
C05G5/20
C05D9/00
(21)【出願番号】P 2019113196
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】503106432
【氏名又は名称】有限会社グリーン化学
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 由一
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 ゆかり
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特許第4449030(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2017/0190634(US,A1)
【文献】特表2013-530109(JP,A)
【文献】特開2020-180107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05F 11/00
C07F 7/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施用時に、水の存在下でコリンと次の一般式(1)
Si(OR)
4・・・・・(1)
(式中、Rは炭素数1~3のアルキル基を示す)
で表される正珪酸アルキルを反応させて得られる正珪酸及び珪酸コリン含有水溶液に、有機酸或いは無機酸の1種または2種類以上を混合し、得られる正珪酸含有水溶液を植物に施用することを特徴とする正珪酸の植物への施用方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正珪酸を植物に供給する方法に関し、特に、正珪酸の縮重合が起こらない状態で正珪酸を植物に供給する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者の一人は水あるいは無機物及び/又は有機物を含有する水溶液に一般式Si(OR)4(Rは炭素数1~3のアルキル基を示す)で表される正珪酸アルキルを添加し、酸性状態下、正珪酸アルキルを加水分解することによって植物に吸収されやすい正珪酸を含有する液体肥料が得られることを見出した。当該正珪酸含有水溶液は、水稲、小麦、イチゴ、トマト、キユウリ、ネギ、カボチャなどの様々な農作物や芝生などの根張り向上、耐病性向上、品質向上、収量アップなどの目的で主として葉面散布方式で使用されている。そして上記の作物などに於いて、散布する正珪酸濃度が高い程、根張りの向上、品質向上、収量アップなどの効果が顕著に現れることから高濃度の正珪酸が望まれていた。しかしながら、正珪酸濃度が高くなるにつれて正珪酸水溶液が増粘次いでゲル化が早まり、また、気温が高くなるにつれてその現象が促進されることが判明した。
そこで、本発明者らは水に一般式Si(OR)4(Rは炭素数1~3のアルキル基を示す)で表される正珪酸アルキルを添加し、酸性状態下、正珪酸アルキルを加水分解することによって得られる正珪酸含有水溶液に炭素数1~3のアルコールを添加することによって、正珪酸の縮重合によって生じるゲル化が抑制され正珪酸水溶液の安定性が飛躍的に向上することを見出したが、正珪酸のゲル化を完全に阻止させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4449030号
【文献】特開2018-111641号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、経日によって正珪酸の縮重合が起こらない状態で正珪酸を植物に供給する方法を提供することにある。
【問題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべき鋭意研究を重ねた結果、コリンの水溶液と一般式Si(OR)4(Rは炭素数1~3のアルキル基を示す)で表される正珪酸アルキルを混合、加熱することによって正珪酸アルキルの加水分解が起こり、1年以上経過しても増粘、ゲル化しない保存安定性に優れた高濃度の正珪酸と珪酸コリンを含有するアルカリ性水溶液が得られ、この水溶液に有機酸、無機酸の1種又は2種類以上を常温で混合することによって直ちに珪酸コリンとの中和反応が起こりコリンの有機酸塩或いはコリンの無機酸塩と正珪酸を含有した水溶液が得られることを見出した。上記二液を植物への施用時に混用することにより、植物に正珪酸の縮重合が起こらない状態で高濃度の正珪酸含有水溶液を供給することに成功した。
【本発明の効果】
【0006】
正珪酸アルキルの加水分解によって得られる正珪酸含有水溶液は経日的に増粘、ゲル化するため使用期限の問題があるが、本発明方法では保存安定性に優れているため使用期限の問題を解消することができる。また本発明方法により、正珪酸アルキルの加水分解によって得られる正珪酸含有水溶液よりも正珪酸供給量を増加させることができることから、作物、芝生、花卉に葉面散布或いは潅水時に施用することによって、光合成能力や耐病性等が向上する。
また、珪酸コリン水溶液にリン酸、リン酸マグネシム水溶液又は塩酸を添加することによって、植物に正珪酸と同時に肥料成分であるリン酸及びリン酸マグネシウムおよび、光合成の能力アップ、品質の向上に効果があることが知られているリン酸コリン及びリン酸コリンのマグネシウム塩または塩化コリンを供給することができる。
【本発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明方法について詳しく述べる。なお、以下において、「%」は重量%を意味する。
【0008】
本発明において使用されるコリンは、例えば株式会社日本ファインケムから販売されている50%水溶液を適用することができる。
【0009】
本発明において使用される正珪酸アルキルは正珪酸メチル、正珪酸エチル、正珪酸プロピル等であり、例えば多摩化学工業株式会社から販売されているものを適用することができる。
【0010】
本発明で使用される有機酸は乳酸、グリコール酸、グルコン酸等があり、望ましくはそれらの5~50%水溶液である。
【0011】
本発明において使用される無機酸とは塩酸、リン酸、亜リン酸等などで、更にはリン酸又は亜リン酸の水溶液を苛性カリまたは水酸化カルシウムまたは水酸化マグネシウムでpHを1~4に調整したものであり、望ましくはそれらの5~50%水溶液である。
【0012】
本発明において「正珪酸及び珪酸コリン含有水溶液」を得るには先ず、水の存在下にコリンと正珪酸アルキルを混合した後、50~90℃で1~2時間攪拌する。コリンの使用量は正珪酸アルキルの使用量に応じて決まり、正珪酸アルキルの使用量が多くなるほどコリンの使用量を増やす必要がある。本発明で、コリンの使用量は全体の仕上り量に対して0.07~18%、望ましくは0.1~15%である。コリンの使用量が少ないと正珪酸アルキルの加水分解速度が緩慢となるとともに、得られる「正珪酸及び珪酸コリン含有水溶液」が経日と共に増粘する。正珪酸アルキルの使用量は全体の仕上り量に対して0.3~45%、正珪酸として0.1~21%である。
【0013】
本発明では植物への施用時に「正珪酸及び珪酸コリン含有水溶液」に有機酸或いは無機酸の水溶液、又は苛性カリ、水酸化カルシム、水酸化マグネシウムなどでpH1~4に調整された無機酸の水溶液を添加・混合して、正珪酸含有水溶液を調製する。この場合、正珪酸含有水溶液のpHが2~4になるように予め、珪酸コリン及び酸の使用量を決めておく必要がある。
なお、本発明において、「施用時」とは、施用直前のみならず、ゲル化が起こる前までであればよく、通常、施用日前日頃までを含む。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を示すことによって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
[正珪酸及び珪酸コリン含有水溶液(以下、「珪酸コリン水溶液」という)の製法]
水1095gに(株)日本ファインケム製50%コリン水溶液75gと多摩化学工業(株)製正珪酸エチル330gを添加し65~70℃で1時間攪拌することによって、正珪酸10.1%含有する無色・透明の珪酸コリン水溶液(pH11.1)を得た。
この水溶液10mLをバイアブル瓶(20mL)に密閉し、80℃、30分間加温した。ヘッドスペース中のガスをガスクロマトグラフィ分析した結果、ピークのリテンションタイムはエタノール水溶液の場合と一致し、更に検討の結果、使用した正珪酸エチルの大部分が加水分解されて正珪酸に変化していることが分かった。
又、この珪酸コリン水溶液を室温で1年間放置しても増粘及びゲル化現象は見られず安定であった。
【実施例2】
【0016】
実施例1で得られた珪酸コリン水溶液50gに有機酸の水溶液を添加混合し混合液のpHを調べた(表-1)。何れの酸によっても珪酸コリンは中和されていることから、植物への施用時にこの方法に準じて行えば植物に葉面散布法或いは潅水施用により正珪酸とコリンの有機酸塩を供給することができる。
【表1】
【実施例3】
【0017】
水956gに85%リン酸441gを添加した後、攪拌下、水酸化マグネシウム104gを徐々に添加しながらリン酸を中和しpH1.7、苦土4.7%、水溶性リン酸18.1%を含有する水溶液を得た。この水溶液25.0gと実施例1で得られた珪酸コリン水溶液50gを混合することによってpH2.8、正珪酸6.7%、リン酸コリン2.8%、水溶性リン酸6.0%、苦土1.6%を含有する水溶液が得られた。植物への施用時に、この方法に準じて、更に必要に応じて水で希釈することによって植物にリン酸コリン、水溶性リン酸、苦土を含有した正珪酸の縮重合が起こっていない正珪酸含有水溶液を供給することができる。
【実施例4】
【0018】
水288gに亜リン酸175gを添加・溶解した後、攪拌下、フレーク状の水酸化カリウム34gを徐々に添加しながら亜リン酸を中和しpH1.4、水溶性カリ5.4%、水溶性リン酸30.5%を含有する亜リン酸水溶液を得た。この亜リン酸水溶液1.8gと実施例1で得られた珪酸コリン水溶液50gを混合してpH2.9、正珪酸9.7%、亜リン酸コリン2.4%、水溶性リン酸1.1%、水溶性カリ0.2%を含有する肥料が得られた。植物への施用時に、この方法に準じて、更に必要に応じて水で希釈することによって植物に亜リン酸コリン、水溶性リン酸、水溶性カリを含有した正珪酸の縮重合が起こっていない正珪酸含有水溶液を植物に供給することができる。
【実施例5】
【0019】
水310gに(株)日本ファインケム製50%コリン250gと多摩化学工業(株)製正珪酸エチル440gを添加し70~75℃で1時間攬拌することによって正珪酸20.3%含有するpH13.3の珪酸コリン水溶液を得た。この水溶液7gに水43g加えて7倍に希釈した後85%リン酸0.8g加えて混合するとpH3.6、正珪酸2.8%、リン酸コリン2.8%、水溶性リン酸1.4%を含有する肥料が得られた。
植物への施用時に、この方法に準じて、更に必要に応じて水で希釈することによって、リン酸コリン、水溶性リン酸、水溶性カリを含有した正珪酸の縮重合が起こっていない正珪酸含有水溶液を植物に供給することができる。
【0020】
[農薬との混用試験]
20℃の水65mLに実施例1で得られた珪酸コリン水溶液2.5mLと実施例3で得られた苦土4.8%、水溶性リン酸24%を含有するリン酸水溶液2.5mLを、また、同時に対照区として20℃の水60mLに正珪酸エチルをリン酸で加水分解した後、室温で1ヶ月保管した1.7%の正珪酸を含有する水溶液(pH1.7)10mLを添加し、次いで、表-2に示した水稲において8倍希釈による無人ヘリコプター散布が認められているフロアブル系農薬10mLを添加、よくかき混ぜた後20℃の恒温槽に放置し、30分後、60分後の分離状況を農薬単体と比較した(表-2)。尚、農薬単体の水使用量は70mLとした。明らかに、本発明品は対照区である従来の正珪酸含有水溶液と比べて農薬単体と挙動が変わらず農薬と混用できる利点がある。
【表2】
【0021】
[水稲への評価試験]
出穂始期に10a当たり実施例1で得られた正珪酸10.1%含有する珪酸コリン水溶液30mLと実施例3で使用した苦土4.7%、水溶性リン酸18.1%含有するリン酸水溶液30mLを混合したのち水25Lで希釈しビークルで散布した。更に、出穂最盛期に同様の方法で混合散布した。本発明品を散布した区では本発明の方法を採用しなかった対照区に比べて、屑米率が低くなり精玄米率及び食味が向上した。
【0022】
[イチゴへの評価試験]
イチゴ苗(品種「とちおとめ」)の定植後、10a当たり実施例5に示した方法によって得られる正珪酸20.3%含有する珪酸コリン水溶液300mLを水300Lが入ったタンクに添加、撹拌し、更に20%リン酸250mLをタンクへ添加、混合し(pH5.4)、葉面散布を行った。これと同様の操作を収穫終了まで月に2~3回を行うことによって、本発明の方法を採用しなかった対照区と比べて、うどん粉病の発生が抑えられ、収量が増加し品質が向上した。