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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】回転機
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/19 20060101AFI20220810BHJP
   H02K 5/20 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
H02K9/19 B
H02K5/20
H02K9/19 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018082341
(22)【出願日】2018-04-23
(65)【公開番号】P2019193395
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】若林 宏毅
(72)【発明者】
【氏名】忽那 真志
(72)【発明者】
【氏名】脇田 豊
(72)【発明者】
【氏名】冨田 徹洋
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-083139(JP,A)
【文献】特開平11-041861(JP,A)
【文献】特開2016-111918(JP,A)
【文献】特開昭58-116040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/19
H02K 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心部分に冷媒を一方向に供給可能なメイン冷媒路を有し且つ一端部に供試体が接続可能なシャフトと、
前記シャフトの軸回りに設けたロータと、
前記ロータ及び前記シャフトの少なくとも一部を内部空間に収容可能なケーシングと、
前記ケーシング内に固定したステータと、
前記シャフトの一端部近傍に配置され当該シャフトを回転可能に支持する供試体側軸受と、
前記シャフトの他端部近傍に配置され当該シャフトを回転可能に支持する反供試体側軸受と、を備えた回転機であり、
前記メイン冷媒路の冷媒供給方向下流端を、前記シャフトの両端のうち前記供試体が接続される側の端に至らない位置であって且つ前記シャフトのラジアル方向において前記供試体側軸受の少なくとも一部と重なる位置または前記冷媒供給方向において前記供試体側軸受よりも下流側の所定位置に設定し、
前記シャフトは、始端が前記冷媒供給方向下流端または前記供給方向下流端近傍に連通し且つ終端が前記ケーシングの内部空間に連通する供試体側サブ冷媒路を有するものであり、
前記冷媒供給方向は、前記供試体が接続されない側の端から前記供試体が接続される側の端に向かう方向であり、
前記供試体側サブ冷媒路の終端を前記供試体側軸受よりも前記供試体が接続されない側に設定していることを特徴とする回転機。
【請求項2】
前記供試体側サブ冷媒路が、前記始端から前記終端に向かって所定角度傾斜した流路である請求項1に記載の回転機。
【請求項3】
前記シャフトは、始端が前記メイン冷媒路のうち前記供試体側軸受よりも前記冷媒供給方向上流端側の所定部分に連通し且つ終端が前記ケーシングの内部空間のうち前記反供試体側軸受よりも前記冷媒供給方向下流側に連通する反供試体側サブ冷媒路を有するものであり、
前記反供試体側サブ冷媒路を前記供試体側サブ冷媒路と同一形状、同一角度及び同数に設定している請求項1又は2に記載の回転機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用試験装置の回転機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
供試体である電動機、発電機、エンジン、パワートレイン等の車輛駆動系などの特性等を評価するための自動車用試験装置には、供試体の出力軸に連結されて「擬似負荷」或いは「擬似駆動源」として機能する回転機(ダイナモ装置)が用いられている。
【0003】
回転機は、円筒状のケーシングと、そのケーシング内に配置されたステータ及びロータとを備えており、シャフト回りに固定したロータをシャフトと一体回転可能に構成している。例えば自動車用試験装置の回転機は、高速回転且つ大容量化が求められ、通常のモータに比べて発熱量が多くなり、ケーシング内部におけるステータやロータからの発熱を抑制する必要がある。特に、回転機の大容量化は軸受のサイズアップを伴うものであり、シャフトの高速回転と相俟って軸受の摩擦損失が増大し、軸受の冷却能力を向上させる必要がある。
【0004】
特許文献1には、シャフトの軸心部に軸方向に延伸する給油路(軸中穴)と、給油路に連通するラジアル孔(噴射ノズル)とを形成し、噴射ノズルから噴射された冷却油を飛沫若しくはミスト状にして冷却油をコイルのコイルエンドに誘導するための所定の傾斜角度を有する傾斜面が形成された反射コーンを備えた冷却機構が開示されている。また、同文献には、反射コーンの傾斜面に衝突した冷却油の飛沫若しくはミストの一部が重力により反射コーンを伝って軸受にも供給され、冷却油を軸受の潤滑油にも利用できる点が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、シャフトに、スラスト方向に延び潤滑油を流通させるためのスラスト油路(軸中穴)と、スラスト油路からシャフト部のラジアル方向に延びるラジアル油路とが形成された、少なくとも1本のラジアル油路の位置が、スラスト油路における潤滑油の供給方向において供試体側の軸受よりも下流側に設定された構成が開示されている。同文献には、ラジアル油路の開口部から出た潤滑油を、軸受に向けて傾斜する傾斜部が形成された案内部材によって軸受に向けて案内する構成も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-159325号公報
【文献】特開2008-289279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に記載の構成では、シャフトの軸心部分に形成された給油路(軸中穴)の下流端が、供試体側軸受よりも供給方向上流側の位置に設定されているため、給油路に供給する冷媒を供試体側軸受近傍まで流すことができず、給油路と供試体側軸受との離間距離が長くなり、熱抵抗が大きく(高く)なることから、供試体側軸受の発熱を奪いきれず、供試体側軸受に対する十分な冷却能力を発揮し難く、軸受の温度を許容範囲内に抑えることが困難である。また、特許文献1記載のラジアル孔(噴射ノズル)は、軸中穴の下流端からラジアル方向に直線状に延びているため、ラジアル孔から噴射した冷媒油を供試体側軸受に直接吹き付けることができず、やはり供試体側軸受に対する十分な冷却能力を発揮し難いと考えられる。
【0008】
一方、特許文献2に記載の回転機は、シャフトの全長に亘ってスラスト油路が形成されているため、特許文献1に記載の構成と比較して、供試体側軸受と冷却面(スラスト油路)の離間距離が短くなり、距離が短くなった分だけ熱高低も小さく、供試体側軸受に対する冷却能力は向上する。
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の回転機は、上述の通り、シャフトの全長に亘ってスラスト油路が形成されているため、ラジアル孔から排出された冷媒油が飛沫あるいは霧状になり、軸端の隙間から回転機の外部に漏出してしまうという問題が生じ得る。軸端の隙間を埋めるべく高性能のメカニカルシールを適宜箇所に設けた構成であっても、高速回転時に軸端の隙間から冷媒油が回転機の外部に漏出する事態を完全に解消することは困難である。
【0010】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、主たる目的は、冷媒がケーシング外に漏出する事態を防止するとともに、供試体側軸受を効果的に冷却することが可能な回転機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、軸心部分に冷媒を一方向に供給可能なメイン冷媒路を有し且つ一端部に供試体が接続可能なシャフトと、シャフトの軸回りに設けたロータと、ロータ及びシャフトの少なくとも一部を内部空間に収容可能なケーシングと、ケーシング内に固定したステータと、シャフトの一端部近傍に配置され当該シャフトを回転可能に支持する供試体側軸受と、シャフトの他端部近傍に配置され当該シャフトを回転可能に支持する反供試体側軸受と、を備えた回転機に関するものである。
【0012】
そして、本発明に係る回転機は、メイン冷媒路の冷媒供給方向下流端を、シャフトの両端のうち供試体が接続される側の端に至らない位置であって且つシャフトのラジアル方向において供試体側軸受の少なくとも一部と重なる位置または冷媒供給方向において供試体側軸受よりも下流側の所定位置に設定し、シャフトとして、始端がメイン冷媒路の冷媒供給方向下流端または供給方向下流端近傍に連通し且つ終端がケーシングの内部空間に連通する供試体側サブ冷媒路を有するものであり、冷媒供給方向は、供試体が接続されない側の端から供試体が接続される側の端に向かう方向であり、供試体側サブ冷媒路の終端を供試体側軸受よりも供試体が接続されない側(反供試体側)に設定していることを特徴とする回転機。
【0013】
ここで、本発明における「冷媒供給方向」は、冷媒を一方向に供給可能なメイン冷媒路における冷媒の供給方向であり、シャフトの他端(供試体が接続されない側の端)から一端(供試体が接続される側の端)に向かう方向と一致する。また、「メイン冷媒路の冷媒供給方向下流端を冷媒供給方向において供試体側軸受と同じ位置に設定」とは、「メイン冷媒路の冷媒供給方向下流端を、シャフトのラジアル方向(シャフトの軸方向に直交する方向)において供試体側軸受の少なくとも一部と重なる位置に設定」と同義である。
【0014】
このような本発明に係る回転機であれば、メイン冷媒路において当該メイン冷媒路の下流端(供試体側)に向かって流れる冷媒によって、反供試体側軸受及びロータのみならず、供試体側軸受からの発熱を奪うことができる。特に、本実施形態の回転機では、メイン冷媒路の下流端を冷媒供給方向において供試体側軸受と同じ位置または供試体側軸受よりも下流側の所定位置に設定しているため、メイン冷媒路の下流端を冷媒供給方向において供試体側軸受よりも上流側に設定した構成と比較して、発熱体である供試体側軸受と冷却面であるメイン冷媒路との距離が縮まり、熱抵抗を小さくして、メイン冷媒路の下流端に到達した冷媒による供試体側軸受の冷却能力が向上する。
【0015】
さらに、本発明に係る回転機では、メイン冷媒路の冷媒供給方向下流端を、シャフトの両端のうち供試体が接続される側の端に至らない位置に設定した構成(メイン冷媒路に関する第1条件)と、供試体側サブ冷媒路の始端をメイン冷媒路の冷媒供給方向下流端または供給方向下流端近傍に連通させ、当該供試体側サブ冷媒路の終端をケーシングの内部空間に連通させた構成(供試体側サブ冷媒路に関する第1条件)と、供試体側サブ冷媒路の終端を供試体側軸受よりも冷媒供給方向上流側(反供試体側)に設定した構成(供試体側サブ冷媒路に関する第2条件)を採用したことにより、メイン冷媒路を通過した冷媒が回転機の外部に漏れて供試体を汚染する事態を防止・抑制することができるとともに、メイン冷媒路の下流端を冷媒供給方向において供試体側軸受よりも上流側に設定した構成と比較して、発熱体である供試体側軸受と冷却面(メイン冷媒路)との距離が縮まり、熱抵抗を小さくして、メイン冷媒路の下流端に到達した冷媒によって供試体側軸受の発熱を奪う能力(冷却能力)が向上する。
【0016】
また、本発明における供試体側サブ冷媒路は、上述の供試体側サブ冷媒路に関する第1条件及び第2条件を満たすものであればどのような形状であってもよいが、始端から終端に向かって所定角度傾斜した流路によって供試体側サブ冷媒路を構成すれば、比較的簡単な加工によって供試体側サブ冷媒路をシャフトに形成することができる。
【0017】
本発明には、供試体側サブ冷媒路に準じた流路である反供試体側サブ冷媒路をシャフトに形成した回転機も含まれる。すなわち、本発明に係る回転機は、始端がメイン冷媒路のうち供試体側軸受よりも冷媒供給方向上流端側の所定部分に連通し且つ終端がケーシングの内部空間のうち反供試体側軸受よりも冷媒供給方向下流側に連通する反供試体側サブ冷媒路を有するものであってもよい。このような回転機において、反供試体側サブ冷媒路を供試体側サブ冷媒路と同一形状、同一角度及び同数に設定すれば、供試体側と反供試体側とで遠心ポンプ作用に差が生じる事態を回避して、反供試体側サブ冷媒路及び供試体側サブ冷媒路からそれぞれ冷媒を均等にハウジングの内部空間に放出することができる。但し、反供試体側サブ冷媒路の形状、角度、数を供試体側サブ冷媒路と異ならせることも可能であり、その場合は、遠心ポンプ作用に差が生じないように各サブ冷媒路の形状(径も含む)、角度、数等の条件を適切に設定すればよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シャフトの軸心部分に、シャフトのうち供試体が接続される側の端に近い位置に終端を設定したメイン冷媒路(軸中孔)を形成するとともに、シャフトのうち軸心部分(中空部分)を囲む断面環状の外周縁部分(肉厚部分)に、始端がメイン冷媒路の下流端近傍に連通する供試体側サブ冷媒路を形成し、供試体側サブ冷媒路の終端(排出口)を供試体側軸受よりも冷媒供給方向上流側の位置に設定しているため、大容量化及び回転の高速化に伴って生じる供試体側軸受に対する冷却不足を解決することができるとともに、供試体側サブ冷媒路を通じてシャフトの他端部側(供試体が接続されない側)に向かって流れ、ケーシングの内部空間に排出する冷媒を利用してロータ等の発熱体も冷却することもでき、さらに回転機の外部に冷媒が漏出する事態も防止することが可能な回転機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る回転機の断面模式図。
図2】同実施形態に係る回転機の要部拡大断面模式図。
図3】同実施形態に係る回転機の一比較例を図2に対応して示す図。
図4】同実施形態に係る回転機の第1変形例を示す図。
図5】同実施形態に係る回転機の第2変形例を示す図。
図6】同実施形態に係る回転機の第3変形例を示す図。
図7】同実施形態に係る回転機の第4変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態に係る回転機1は、図1に示すように、円筒状のケーシング2と、ケーシング2内に固定したステータ3と、シャフト4と、シャフト4の軸回りに設けたロータ5と、シャフト4を回転可能に支持する軸受(供試体側軸受6A、反供試体側軸受6B)とを備えている。本実施形態に係る回転機1は、例えば自動車用試験装置に適用されるダイナモ装置として機能するものであり、自動車用試験装置に適用した場合、回転機1に連結された供試体(自動車に用いられる回転体(パワートレイン)等、図示省略)の特性を測定することが可能である。ここで、供試体の種類により、回転機1は「擬似負荷」として機能したり、「擬似駆動源」として機能する。
【0022】
ケーシング2は、シャフト4の軸方向Xに沿って横臥姿勢で配置される概略円筒状のケーシング本体21と、ケーシング本体21の一端部に取り付けた供試体側カバー22Aと、ケーシング本体21の他端部に取り付けた反供試体側カバー22Bとを備えている。なお、「供試体側,反供試体側」は、「負荷側,反負荷側」、「一次側(P側),二次側(S側)」とも称される。供試体側カバー22A及び反供試体側カバー22Bは、それぞれ中心部に供試体側軸受6A、反供試体側軸受6Bを収容可能な貫通孔を有するものである。
【0023】
供試体側軸受6A及び反供試体側軸受6Bは、供試体側カバー22A、反供試体側カバー22Bの貫通孔内に収容された状態で、それぞれ軸受支持部材(供試体側軸受支持部材7A、反供試体側軸受支持部材7B)によって支持されている。本実施形態では、供試体側軸受6Aと供試体側軸受支持部材7Aの間、及び反供試体側軸受6Bと反供試体側軸受支持部材7Bの間にそれぞれスペーサ8を介在させている。
【0024】
供試体側カバー22Aの中心部には、シャフト4の径方向における供試体側カバー22Aとシャフト4の一端4A部近傍との隙間を埋める供試体側サブカバー9Aを配置している。供試体側サブカバー9Aの中心部にも貫通孔9Cを形成し、この貫通孔9Cを通じてシャフト4の一端4A近傍部分(供試体側端部)をケーシング2の外部に表出させている。一方、反供試体側サブカバー9Bの中心部には、供試体側に突出し且つシャフト4の他端4Bを含む所定部分に接続可能な接続部9Dを設けている。
【0025】
供試体側軸受6A及び反供試体側軸受6Bは、外周面を供試体側カバー22A、反供試体側カバー22Bによってそれぞれ固定され、シャフト4に対する摺接面を内周面に設定したものである。シャフト4の外周面には、シャフト4に対する供試体側軸受6A及び反供試体側軸受6Bの装着位置を規定する段部を設けている。本実施形態の回転機1では、段部と上述のスペーサ8及び軸受支持部材(供試体側軸受支持部材7A、反供試体側軸受支持部材7B)との間に軸受(供試体側軸受6A、反供試体側軸受6B)を挟み込んだ状態にすることによって、軸受(供試体側軸受6A、反供試体側軸受6B)の軸方向Xに沿った移動を規制している。なお、図1及び図2では、カバー(供試体側カバー22A、反供試体側カバー22B)をケーシング本体21に取り付けたり、サブカバー(供試体側サブカバー9A、反供試体側サブカバー9B)をカバー(供試体側カバー22A、反供試体側カバー22B)に取り付けるための部材やボルト等を省略している。本実施形態の回転機1では、ケーシング本体21、カバー(供試体側カバー22A、反供試体側カバー22B)、サブカバー(供試体側サブカバー9A、反供試体側サブカバー9B)によって仕切られるケーシング2の内部空間を外部空間から隔離した気密性の高い空間に維持することができる。なお、ケーシング2の内部空間は、シャフト4の周方向において環状に連続する空間である。
【0026】
ケーシング2の内部空間に配置されるステータ3やロータ5は周知のものを適用することができるため、詳細な説明は省略する。なお、図1に示すように、ステータ3のうち軸方向Xにおける両端部にはコイルエンド31を配置し、ロータ5のうち軸方向Xにおける両端部にはエンドリング51を配置している。
【0027】
シャフト4は、一端部に供試体が接続可能なものであり、軸心部分に軸方向Xに延伸する冷媒の供給路であるメイン冷媒路41を有するものである。メイン冷媒路41は、シャフト4の他端4B(供試体が接続されない側の端)に開口する入口を始端(上流端411)とし、終端(下流端412)をシャフト4の一端4A(供試体が接続される側の端)に至らない位置に設定したものである。以下の説明では、メイン冷媒路41の上流端411から下流端412に向かう方向を「冷媒供給方向Y」とする。この「冷媒供給方向Y」は、シャフト4の他端4B(供試体が接続されない側の端)から一端4A(供試体が接続される側の端)に向かう方向と一致する。本実施形態では、メイン冷媒路41の下流端412を供試体側軸受6Aよりも冷媒供給方向Y下流側に設定している。なお、メイン冷媒路41の上流端411には、反供試体側サブカバー9Bの接続部9Dを挿入した状態で取り付けている。シャフト4に向かって突出する接続部9Dの軸心部分には、メイン冷媒路41に連通する貫通孔9Eを形成している。
【0028】
本実施形態のシャフト4には、始端421,431がメイン冷媒路41に連通する供試体側サブ冷媒路42及び反供試体側サブ冷媒路43を形成している。本実施形態では、供試体側サブ冷媒路42の始端421を、冷媒供給方向Yにおいて供試体側軸受6Aと同じ位置又は略同じ位置に設定し、供試体側サブ冷媒路42の終端422を、ケーシング2の内部空間のうち供試体側軸受6Aよりも冷媒供給方向Y上流側の位置に設定している。供試体側サブ冷媒路42は、始端421から終端422に向かって所定角度傾斜した直線状の貫通孔によって構成した流路である。したがって、メイン冷媒路41を流れてメイン冷媒路41の終端412近傍に到達した冷媒の一部または全部が、供試体側サブ冷媒路42の始端421(入口)から供試体側サブ冷媒路42内に流入し、供試体側サブ冷媒路42の終端422(出口)からケーシング2の内部空間に放出される。本実施形態では、供試体側サブ冷媒路42の終端422を、冷媒供給方向Yにおいてロータ5のエンドリング51(相対的に供試体側軸受6Aに近いエンドリング51)と同じ位置または略同じ位置に設定し、供試体側サブ冷媒路42の終端422(出口)から放出した冷媒がエンドリング51に降り掛かるように構成している。本実施形態のシャフト4は、複数本(例えば6本)の供試体側サブ冷媒路42をシャフト4の周方向に等ピッチで形成している。
【0029】
反供試体側サブ冷媒路43は、始端431を相対的に供試体側軸受6Aに近いエンドリング51よりも冷媒供給方向Y上流側に設定し、終端432をケーシング2の内部空間のうち反供試体側軸受6Bよりも冷媒供給方向Y下流側の位置であって且つ冷媒供給方向Yにおいて相対的に反供試体側軸受6Bに近いエンドリング51と同じ位置または略同じ位置に設定している。本実施形態では、反供試体側サブ冷媒路43の形状、傾斜角度、本数を供試体側サブ冷媒路42と同じ形状、傾斜角度、本数に設定している。本実施形態の反供試体側サブ冷媒路43は、始端431から終端432に向かって所定角度傾斜した直線状の貫通孔によって構成した流路である。したがって、メイン冷媒路41を流れる冷媒の一部は、反供試体側サブ冷媒路43の始端431(入口)から反供試体側サブ冷媒路43内に流入し、反供試体側サブ冷媒路43の終端432(出口)からケーシング2の内部空間に放出される。本実施形態の回転機1では、反供試体側サブ冷媒路43の終端432(出口)から放出した冷媒がエンドリング51(反供試体側軸受6Bに近いエンドリング51)に降り掛かるように構成している。
【0030】
これら供試体側サブ冷媒路42及び反供試体側サブ冷媒路43は、何れもシャフト4のメイン冷媒路41に連通し、各排出口(終端422、終端432)から冷媒をケーシング2の内部空間に向けて噴射する噴射ノズルとして機能する。
【0031】
次に、本実施形態の回転機1における冷媒の流れについて説明する。
【0032】
反供試体側サブカバー9Bの接続部9Dに形成した貫通孔9Eを通じてシャフト4の他端4B(シャフト4のうち反供試体側の端4B)からメイン冷媒路41に注入された冷媒は、メイン冷媒路41の終端412に向かって流れる。これにより、本実施形態の回転機1は、反供試体側軸受6Bの摩擦損失、ロータ5の電気損失(二次銅損、鉄損等)、供試体側軸受6Aの摩擦損失による発熱を冷媒で奪うことができる。特に、本実施形態の回転機1では、図2に示すように、メイン冷媒路41の下流端412を供試体側軸受6Aよりも冷媒供給方向Y下流側(シャフト4のうち供試体が接続される一端4A側)に設定しているため、図3に示す構成、すなわちメイン冷媒路41の下流端412を供試体側軸受6Aよりも冷媒供給方向Y上流側に設定した構成と比較して、発熱体である供試体側軸受6Aと冷却面(メイン冷媒路41)との距離が縮まり、熱抵抗(図2及び図3において符号Rで模式的に示す熱抵抗)を小さくして、メイン冷媒路41の下流端412まで流れ込む冷媒によって供試体側軸受6Aに対する冷却能力を高めることができる。すなわち、図3に示す構成では、発熱体である供試体側軸受6Aと冷却面(メイン冷媒路41)との距離が長いため熱抵抗が高く、冷却能力が低かったが、本実施形態に係る回転機1では、図2に示すように、メイン冷媒路41の終端412をシャフト4の軸方向Xにおいて供試体側軸受6Aよりもシャフト4の一端4Aに近い位置に設定し、この終端412に到達する冷媒の流れを作ることにより、発熱体である供試体側軸受6Aに対する冷却面(メイン冷媒路41)の距離を縮めて熱抵抗を小さくし、冷却能力が向上する。
【0033】
さらに、本実施形態に係る回転機1によれば、シャフト4の回転による遠心力で冷媒を供試体側サブ冷媒路42及び反供試体側サブ冷媒路43の各排出口(終端422、終端432)からケーシング2の内部空間に噴射することによって、ケーシング2の内部空間に配置されている発熱体に触れることで冷却することができる。特に、シャフト4の軸方向Xにおいて供試体側サブ冷媒路42の終端422や反供試体側サブ冷媒路43の終端432と同じ位置または略同じ位置に配置されている発熱体(本実施形態ではエンドリング51)に対して冷媒がダイレクトに触れることで、より一層高い冷却機能を発揮する。
【0034】
このように、本実施形態に係る回転機1によれば、回転機1の大容量化、高速化に伴って生じる供試体側軸受6Aの冷却問題を解決できるだけでなく、ケーシング2の内部空間に排出した冷媒を利用してケーシング2内において熱を帯びるロータ5等のパーツに対する冷却処理も実行することができる。
【0035】
加えて、本実施形態に係る回転機1は、供試体側サブ冷媒路42の終端422をケーシング2の内部空間(供試体側軸受6Aよりも反供試体側の空間)に設定したことにより、供試体側サブ冷媒路42から放出される冷媒(例えば飛沫あるいは霧状の油)がシャフト4の一端4A近傍部分における隙間(ケーシング2との隙間、軸端隙間)から回転機1の外部に漏出する事態を防止・抑制することができる。
【0036】
また、本実施形態に係る回転機1は、供試体側サブ冷媒路42及び反供試体側サブ冷媒路43の形状、本数、及び傾斜角度を相互に一致させることで、供試体側と反供試体側とにおいてシャフト4の回転による遠心ポンプ作用に差が生じないように構成している。ここで、供試体側と反供試体側とでシャフト4の回転による遠心ポンプ作用に差が生じると、相対的にポンプ作用の強い方のサブ冷媒路(例えば供試体側サブ冷媒路42)からは冷媒を放出できるものの、相対的にポンプ作用の弱い方のサブ冷媒路(例えば反供試体側サブ冷媒路43)から放出する冷媒の量がゼロまたは少なくなり、ケーシング2内の部品に対する冷却効果に供試体側と反供試体側とで差が生じ得る。一方、本実施形態に係る回転機1によれば、上述の構成によりこのような不具合を解消することができる。
【0037】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、サブ冷媒路(供試体側サブ冷媒路、反供試体側サブ冷媒路)の終端の位置は、使用する冷媒の種類や使用可能な回転数領域に応じて適切に設定することができ、サブ冷媒路の終端から排出される冷媒が遠心力の作用でケーシングの内部空間に存在するロータ、ステータ等の発熱体に向かって噴出するように構成することができる。
【0038】
また、メイン冷媒路に対する供試体側サブ冷媒路及び反供試体側サブ冷媒路の傾斜角度を一致させた構成を例示したが、図4に示すように、反供試体側サブ冷媒路43の向きが供試体側サブ冷媒路42の向きと逆(供試体側サブ冷媒路42と反供試体側サブ冷媒路43とが軸方向Xにおいてハの字状に並ぶ向き)になるように設定してもよい。なお、図4以降の各図に示す本発明に係る回転機の変形例では、図1に示す回転機1の各パーツや部分と同一または対応するパーツや部分に同じ符号を付している。
【0039】
供試体側と反供試体側との遠心ポンプ作用が同じになる条件下であれば、供試体側サブ冷媒路及び反供試体側サブ冷媒路の形状、傾斜角度、または本数の何れか1つ以上を相互に異ならせてもよい。例えば、図5に示すように、反供試体側サブ冷媒路43をメイン冷媒路41の延伸方向と直交する向き(ラジアル方向)に直線状に延伸する孔に設定することができる。
【0040】
また、図6に示すように、供試体側サブ冷媒路42として、始端421が1つ(1箇所)である冷媒路42を途中で分岐させて終端422(排出口)が複数(図示例では2つ)となる形状に設定することもできる。
【0041】
また、図6に示すように、供試体側サブ冷媒路42よりも冷媒供給方向Y上流側に、始端441がメイン冷媒路41に連通し、終端442(排出口)がケーシング2の内部空間のうち供試体側の空間に開口している第2の供試体側サブ冷媒路44を形成した構成を採用することが可能である。
【0042】
また、供試体側サブ冷媒路を図7に示すクランク状に設定してもよい。すなわち、メイン冷媒路41に連通する始端421からラジアル方向に延伸する部分423(第1ラジアル部分)と、ラジアル部分423の終端から反供試体側(冷媒供給方向Y上流側)に向かって延伸する部分424(スラスト部分)と、スラスト部分424の終端からラジアル方向に延伸してケーシング2の内部空間に連通する部分425(第2ラジアル部分)とを有する屈曲した供試体側サブ冷媒路42を採用することができる。また、図示しないが、断面形状が、直線状やクランク状以外の形状、例えば湾曲状の供試体側サブ冷媒路を適用しても構わない。
【0043】
図1図4乃至図7には、メイン冷媒路の下流端を、シャフトの両端のうち供試体が接続される側の端に至らない位置であって且つ冷媒供給方向において供試体側軸受と同じ位置に設定した構成、換言すれば、メイン冷媒路の下流端を、供試体側軸受のうち反供試体側の端から供試体側軸受のうち供試体側の端までの範囲内に設定した構成を例示したが、メイン冷媒路の冷媒供給方向下流端を、供試体側軸受よりも下流側の所定位置に設定した構成、つまり、メイン冷媒路の冷媒供給方向下流端を、供試体側軸受のうち供試体側の端よりも冷媒供給方向下流側の所定位置に設定した構成を採用してもよい。
【0044】
また、本発明における冷媒は、油に限らず、水や空気を冷媒として適用することも可能である。
【0045】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1…回転機
2…ケーシング
3…ステータ
4…シャフト
41…メイン冷媒路
42…供試体側サブ冷媒路
43…反供試体側サブ冷媒路
5…ロータ
6A…供試体側軸受
6B…反供試体側軸受
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7