(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】炭酸感増強剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20220810BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L2/00 T
(21)【出願番号】P 2018115118
(22)【出願日】2018-06-18
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】葛西 賢造
(72)【発明者】
【氏名】和田 布美子
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-068749(JP,A)
【文献】特開2015-047148(JP,A)
【文献】特開2017-153460(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0286259(US,A1)
【文献】優しい辛味のピンクの胡椒『知って得するピンクペッパーの成分と保存方法』,ケノコト,2017年10月22日,URL:<https://kenokoto.jp/44615>
【文献】KRAMER F. L.,The pepper tree, Schinus Molle L.,ECONOMIC BOTANY,1957年,PP.322-326
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コショウボクの実の抽出物を有効成分とする炭酸感増強剤
であって、コショウボクの実の抽出物がコショウボクの実の水抽出物であり、コショウボクの実の抽出物の最終製品に対する添加量が、原料コショウボクの実の質量に換算した添加量で12ppb~6ppmの濃度で添加されることを特徴とする炭酸感増強剤。
【請求項2】
コショウボクの実の抽出物を有効成分とする炭酸感増強剤であって、コショウボクの実の抽出物がコショウボクの実の含水エタノール抽出物であ
り、コショウボクの実の抽出物の最終製品に対する添加量が、原料コショウボクの実の質量に換算した添加量で1ppb~10ppmの濃度で添加されることを特徴とする炭酸感増強剤。
【請求項3】
請求項2の炭酸感増強剤を質量比で
0.1~1000ppm添加してなる炭酸飲料。
【請求項4】
抽出溶媒が40~60容量%の含水エタノールである請求項2に記載の炭酸感増強剤の製造方法。
【請求項5】
抽出温度が50~80℃である請求項1又は2に記載の炭酸感増強剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭酸感増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸飲料の需要は古くからあり、その歴史は紀元前にまで遡ると言われている。また現代においても、特に人気のある飲料であって日本においても清涼飲料水の品目としては最も多く生産されている。炭酸飲料の特徴は、飲用時に口中や喉が心地よく刺激され独特な爽快感や清涼感が得られる刺激、すなわち炭酸感にある。特にシュワシュワ感、ピリピリ感、ヒリヒリ感などと表現される刺激感は溶存二酸化炭素による化学的刺激によるものであり、溶存二酸化炭素がある程度高濃度でないと検知されないことが知られている。この化学的刺激と発泡・破泡時の音や圧力などを含む物理的刺激とがあいまって炭酸飲料の独特な清涼感をもたらす。しかしながら、容器入り飲料中の二酸化炭素は開封した直後から圧力の解放と温度上昇による溶存ガスの放出によって、継時的に炭酸飲料独特の刺激すなわち炭酸感が低下してしまうことは避けられない。
【0003】
一方、容器の耐圧性能や開封時の安全性などの面から、刺激を強化するにあたって単純に飲料中の二酸化炭素溶存量を増やすことも難しい。これらの事情から、溶存二酸化炭素によらない炭酸感増強の手段が種々提案されている。例えば、スピラントール又はスピラントールを含有する植物抽出物若しくは植物精油を、スピラントール含量が5~150ppbとなるように添加したことを特徴とする炭酸飲料(特許文献1)や、辛味成分を有効成分として含有し、かつ、辛味成分が最終製品において辛味閾値の1/10濃度以上ないし辛味閾値未満の範囲内の濃度で添加されることを特徴とする炭酸感増強剤(特許文献2)。以下の要件(1)~(5)を満たす炭酸飲料、(1)甘味度が、2以下であり、(2)カフェイン、クワシン、ナリンジンからなる群から選択される1ないし2以上の成分を含有し、(3)[カフェイン濃度(重量%)+クワシン濃度(重量%)×10000+ナリンジン濃度(重量%)×3.3]で表される苦味度(A)が、0.0001~0.055であり、(4)酸度(B)が、0.01~0.2であり、(5)苦味度(A)と酸度(B)の比(A/B)が、0.01~1.1である、炭酸感が増強された容器詰め低甘味度炭酸飲料(特許文献3)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4679132号公報
【文献】特開2010-068749号公報
【文献】特開2017-104046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、辛味物質や苦味物質を炭酸感増強剤として使用することが知られているが、これらはそれ自体の味や香気が強いため添加対象の飲料と香味が調和しないなど、所望の効果以外の理由から添加量を調整する必要があった。このため添加対象との組み合わせで十分な効果が得られないか、効果を得るために飲料の香味に対する影響を避けられないなどの課題が依然として存在していた。すなわち本発明の課題は炭酸飲料の香味に与える影響の少ない炭酸感増強剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは炭酸感を増強する効果について、種々の素材を検討するなかで、それ自体の香味による飲料に対する影響がより少ない炭酸感増強剤を見出すに至った。すなわち、本発明はコショウボクの実の抽出物を有効成分とする炭酸感増強剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコショウボクの実の抽出物はそれ自体の香味が強くないため、飲料の香味に悪影響を及ぼすことなく、炭酸感の増強や継時的な炭酸感低下の抑制を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、炭酸飲料の炭酸感を増強するための炭酸感増強剤であって、コショウボクの実の抽出物を有効成分とするものである。
【0009】
本発明で用いられるコショウボク(Schinus molle L.)の実は乾燥したコショウボクの熟果であって、一般にピンクペッパーとして市販されるものの一つであり、赤色の胡椒に似た形状をしている。その香りは弱く辛味もないので主として料理の彩として使用される。
【0010】
本発明において、コショウボクの実は溶剤にて抽出し。その抽出物を使用する。原料のコショウボクの実は抽出効率を高めるため破砕、粉砕又は磨砕をしてから抽出することが好ましいが、その後の固液分離の効率等を勘案して適宜粒度や粒度分布が設定すればよい。コショウボクの実はそれ自体の粒径が小さいため、果皮による抽出効率の低下を避けることが主目的であり、一般的にはスパイス等の粗挽き相当の粒度に破砕する。前記原料より任意の方法で抽出し、調製することができる。具体的には、浸漬抽出、撹拌抽出、連続抽出、向流抽出などが挙げられるが、簡便かつ効率的であることから撹拌抽出が好ましい。抽出溶媒としては主として水又は水と親水性溶媒の混合溶媒が用いられる。特に好ましい前記親水性溶媒はエタノールであり、水との混合溶媒である含水エタノールを使用することが最も好ましい。含水エタノールの濃度は任意に選択することができるが、40~60容量%の範囲であることが好ましい。加熱抽出するときの抽出温度は特に制限はないが、特殊な抽出装置を必要としないことから一般的には抽出溶媒の大気圧下での沸点以下の温度で抽出される。具体的な抽出温度としては、40~100℃、より好ましくは50~80℃の範囲が例示される。抽出時間は原料/溶媒の比率、抽出温度、原料粒度などの条件によって異なるが、通常の溶媒抽出と同様に時間当たりの抽出効率を勘案して決定される。抽出後の液は固液分離される。固液分離方法は任意の方法でよく、一般的にはろ過による。ろ過に際しては、ろ過助剤を加えることにより分離効率を上げることができるが、ろ過助剤の使用方法は任意の方法で構わない。加圧ろ過によりろ過時間を短縮することができる。ろ液はそのまま剤とすることもできるが、水抽出により得る場合は品質保持のためエタノール等を加えることもできる。また、抽出液は濃縮することもでき、濃縮する方法は、加熱減圧濃縮、膜濃縮、凍結濃縮など任意の方法が選択できる。
【0011】
本発明の炭酸感増強剤は、飲料の香味に影響しない範囲であれば他の炭酸感増強剤と併用することができる。また、本発明の炭酸感増強剤は他の食品添加物と配合することもできる。ここにいう他の食品添加物とは、炭酸飲料に使用され得る添加物であって、例えば甘味料、酸味料、着色料、香料、ビタミン類、ミネラル類、その他の栄養強化成分、抗酸化剤などが挙げられる。
【0012】
本発明の炭酸感増強剤は炭酸飲料に使用される。炭酸飲料としては添加物の使用が可能な飲料であって炭酸入りのものであればいずれでも使用することができる。具体的には炭酸入り清涼飲料、乳性炭酸飲料、炭酸入りフレーバードウォーター、炭酸入り果汁飲料、炭酸入りアルコール飲料などが挙げられる。
【0013】
本発明の炭酸感増強剤の炭酸飲料への添加量は、一般的に炭酸飲料に対して質量比で1~500ppmが挙げられ、より好ましい範囲として10~100ppmが挙げられる。また、原料コショウボクの実に換算して炭酸飲料に対して質量比で1ppb~500ppm、より好ましくは10ppb~1ppmの範囲が提示される。より具体的には、熱水抽出物について炭酸飲料に対して質量比で1~500ppm、より好ましくは1~100ppmの範囲が提示される。また、水抽出物の添加量を原料コショウボクの実に換算した場合は炭酸飲料に対して質量比で12ppb~6ppm、より好ましくは12ppb~1.2ppmの範囲が提示される。さらに、例えば50容量%の含水エタノールで抽出した抽出物の場合の具体的な炭酸飲料への添加量としては、抽出物の添加量として炭酸飲料に対して質量比で0.1~1000ppm、より好ましくは10~500ppmの範囲が提示される。含水エタノール抽出物の添加量を原料コショウボクの実に換算した場合は炭酸飲料に対して質量比で1ppb~10ppm、より好ましくは100ppb~5ppmの範囲が提示される。
【実施例1】
【0014】
(コショウボクの実抽出物の製造例)
コショウボクの実を粗挽きにし、50gを抽出釜に仕込み、水3500gを加えた。その後、80℃で90分間撹拌下に抽出を行ってから室温まで冷却した。冷却した抽出液を抽出釜から抜き出し、珪藻土を加えて撹拌した後、加圧濾過によりろ過をした。得られた濾液にエタノールを加えて炭酸感増強剤4200gを得た。
【0015】
(炭酸感増強効果試験)
上記で得られた炭酸感増強剤を炭酸飲料に添加して官能試験により炭酸感の変化を確認した。炭酸飲料としてはビタミン入り炭酸飲料と乳性炭酸飲料を用いた。官能評価は5名の専門パネルにより以下の基準によって行い、点数を平均した。結果を表1に示す。
(評価方法)
コントロールと比較して、炭酸感が強く感じる(5点)
炭酸感がやや強く感じる(3点)
炭酸感が変わらないもしくは弱くなった(0点)
【0016】
【0017】
官能試験の結果、表1に示した通り本発明の炭酸感増強剤の添加によって、性状の異なるビタミン入り炭酸飲料及び乳性炭酸飲料のいずれにおいても炭酸感増強効果が認められた。本発明の炭酸感増強剤は熱水抽出物で1ppmの添加で充分な炭酸感増強効果が得られることを確認した。また、500ppmの添加まで効果が認められたが、添加量が多くなると増強効果が得られるものの、やや減少する傾向があることを確認した。このことから本発明の炭酸感増強剤の添加量は熱水抽出物で1ppm~100ppmの範囲であることがより望ましいものと判断した。このときの添加量を原料コショウボクに換算すると12ppb~6ppm、より好ましい範囲としては12ppb~1.2ppmとなった。このことから原料コショウボクの質量に換算した場合の好ましい添加率を10ppb~10ppm、より好ましい範囲としては10ppb~1ppmであると判断した。
【実施例2】
【0018】
(コショウボクの実抽出物の製造例)
コショウボクの実を粗挽きにし、50gを抽出釜に仕込み、抽出溶媒として50容量%の含水エタノール5kgを加えた。その後、60℃で60分間撹拌下に抽出を行ってから室温まで冷却した。冷却した抽出液を抽出釜から抜き出し、珪藻土を加えて撹拌した後、加圧濾過によりろ過をして炭酸感増強剤5kgを得た。
【0019】
(炭酸感増強効果試験)
上記で得られた炭酸感増強剤を炭酸飲料に添加して官能試験により炭酸感の変化を確認した。炭酸飲料としてはビタミン入り炭酸飲料と乳性炭酸飲料を用いた。官能評価は5名の専門パネルにより以下の基準によって行い、点数を平均した。結果を表2に示す。
(評価方法)
コントロールと比較して、炭酸感が強く感じる(5点)
炭酸感がやや強く感じる(3点)
炭酸感が変わらないもしくは弱くなった(0点)
【0020】
【0021】
官能試験の結果、表2に示した通り本発明の炭酸感増強剤の添加によって、炭酸感増強効果が認められた。本発明の炭酸感増強剤は、抽出物で0.1ppmの添加で充分な炭酸感増強効果が得られることを確認した。また、1,000ppmの添加まで効果が認められたが、添加量が多くなると増強効果が得られるものの、やや減少する傾向があることを確認した。このことから本発明の炭酸感増強剤の添加量は含水アルコール抽出物で10ppm~500ppmの範囲であることが望ましいものと判断した。このときの添加量を原料コショウボクに換算すると1ppb~10ppm、より好ましい範囲としては100ppb~5ppmとなった。このことから原料コショウボクの質量に換算した場合の好ましい添加率を1ppb~10ppm、より好ましい範囲としては100ppb~5ppmであると判断した。