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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】発泡性スチレン系樹脂粒子
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/18 20060101AFI20220810BHJP
   C08L 25/14 20060101ALI20220810BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220810BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20220810BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20220810BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C08J9/18 CET
C08L25/14
C08L83/04
C08K5/01
C08K5/098
C08K5/101
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018202211
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020066720
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝倉 耀平
(72)【発明者】
【氏名】島 昌臣
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/096327(WO,A1)
【文献】特開2003-277514(JP,A)
【文献】特開2001-220458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29C 44/00-44/60、67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
99.0質量%を超え99.9質量%以下のスチレン系単量体(A1)と0.1質量%以上1.0質量%未満のアクリル酸アルキルエステル(A2)との共重合体(A)(ただし、スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)との合計を100質量%とする)からなるスチレン系樹脂、流動パラフィン(B1)及び炭素数5~7の環式脂肪族炭化水素(B2)を含む粒子本体と、
高級脂肪酸金属塩(C1)、高級脂肪酸エステル(C2)及びシリコーンオイル(C3)を含み、前記粒子本体の表面を被覆する被覆剤(C)と、を有し、
前記共重合体(A)100質量部に対する前記流動パラフィン(B1)と前記環式脂肪族炭化水素(B2)との含有量の合計は2.0~4.0質量部であり、
前記粒子本体100質量部に対する前記高級脂肪酸金属塩(C1)の被覆量は0.05~0.30質量部であり、前記高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量は0.06~0.30質量部であり、前記シリコーンオイル(C3)の被覆量は0.01~0.10質量部である、発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項2】
前記共重合体(A)は99.5質量%を超え99.8質量%以下のスチレン系単量体(A1)と0.2質量%以上0.5質量%未満のアクリル酸アルキルエステル(A2)との共重合体(ただし、スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)との合計を100質量%とする)である、請求項1に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項3】
前記アクリル酸アルキルエステル(A2)はアクリル酸ブチルである、請求項1または2に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項4】
前記流動パラフィン(B1)の含有量に対する前記環式脂肪族炭化水素(B2)の含有量の比は1.0~2.0である、請求項1~3のいずれか1項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項5】
前記流動パラフィン(B1)と前記環式脂肪族炭化水素(B2)との含有量の合計に対する前記高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量の比は0.02~0.06である、請求項1~4のいずれか1項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項6】
前記高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量に対する前記シリコーンオイル(C3)の被覆量の比は0.05~0.50である、請求項1~5のいずれか1項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項7】
前記高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量に対する前記高級脂肪酸金属塩(C1)の被覆量の比は0.5~1.5である、請求項1~6のいずれか1項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項8】
前記被覆剤(C)には前記高級脂肪酸エステル(C2)としての硬化ひまし油が含まれており、前記高級脂肪酸エステル(C2)中の前記硬化ひまし油の含有量は45質量%以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項9】
前記被覆剤(C)には、前記高級脂肪酸エステル(C2)として、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート及びグリセリントリステアレートのうち1種または2種以上が含まれている、請求項1~8のいずれか1項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項10】
前記シリコーンオイル(C3)がメチルフェニルシリコーンオイルである、請求項1~9のいずれか1項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項11】
前記粒子本体には、更に、炭素数3~6の鎖式脂肪族炭化水素(B3)が含まれている、請求項1~10のいずれか1項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項12】
前記鎖式脂肪族炭化水素(B3)には、ブタン及びペンタンが含まれており、前記発泡性スチレン系樹脂粒子中の、ブタンの含有量が4.0~6.0質量%であり、ペンタンの含有量が0.5~1.0質量%である、請求項11に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性スチレン系樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂発泡粒子は、スチレンとアクリル酸アルキルエステルとの共重合体からなるスチレン系樹脂を基材樹脂とし、発泡剤を含有する発泡性スチレン系樹脂粒子を発泡させることにより得られる。この発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体は、魚箱、食品容器などの包装材として幅広く使用されている。以下において、「スチレン系樹脂発泡粒子」のことを「発泡粒子」といい、「発泡性スチレン系樹脂粒子」のことを「発泡性粒子」といい、「発泡粒子成形体」のことを「発泡成形体」ということがある。また、スチレンとアクリル酸アルキルエステルとの共重合体のことを、「共重合体(A)」ということがある。
【0003】
発泡粒子成形体は、例えば次のようにして製造される。まず、発泡剤を含有する発泡性粒子を蒸気などの加熱媒体により加熱して発泡させることにより、発泡粒子を作製する。次いで、所望する成形体の形状に対応したキャビティを有する金型内に発泡粒子を充填し、蒸気などの加熱媒体により金型内で多数の発泡粒子を加熱する。キャビティ内の発泡粒子は、加熱によってさらに発泡すると共に、相互に融着する。これにより、多数の発泡粒子を一体化させ、キャビティの形状に応じた発泡粒子成形体を得ることができる。
【0004】
例えば、特許文献1~3には、スチレンと、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステルとの共重合体からなるスチレン系樹脂を基材樹脂とし、発泡剤を含有する発泡性粒子、この発泡性粒子を用いて得られる発泡粒子、この発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-199923号公報
【文献】国際公開WO2009/096327号
【文献】特許2012-197405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スチレンとアクリル酸アルキルエステルとの共重合体(A)からなるスチレン系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子は、型内成形時において、比較的低いスチーム圧力(以下、単に成形圧力ともいう。)で発泡粒子成形体を得ることができる。一方で、このような発泡粒子を用いた場合、成形圧が高くなると、発泡粒子成形体表面において樹脂の溶融等が生じやすく、良好な成形体を成形可能な成形圧力の範囲が狭いという問題があった。
【0007】
また、近年では、エネルギー効率改善の観点から、発泡粒子を型内成形する際の蒸気量を低減することや、従来よりも更に低い成形圧で発泡粒子成形体を成形することが望まれている。しかし、型内成形時の成形圧を低くすると、発泡粒子同士を十分に融着させると共に、外観に優れる発泡粒子成形体を得ることがより難しくなる。特に、例えば0.03MPa等の極めて低い成形圧で型内成形を行う場合、特許文献1~3の発泡粒子においても得られる発泡粒子成形体の外観の悪化等を抑制することが難しいのが現状である。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、極めて低い成形圧での型内成形が可能であり、型内成形が可能な条件範囲が広く、得られる発泡粒子成形体の機械的物性が良好な発泡粒子を得ることができる発泡性スチレン系樹脂粒子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、99.0質量%を超え99.9質量%以下のスチレン系単量体(A1)と0.1質量%以上1.0質量%未満のアクリル酸アルキルエステル(A2)との共重合体(A)(ただし、スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)との合計を100質量%とする)からなるスチレン系樹脂、流動パラフィン(B1)及び炭素数5~7の環式脂肪族炭化水素(B2)を含む粒子本体と、
高級脂肪酸金属塩(C1)、高級脂肪酸エステル(C2)及びシリコーンオイル(C3)を含み、前記粒子本体の表面を被覆する被覆剤(C)と、を有し、
前記共重合体(A)100質量部に対する前記流動パラフィン(B1)と前記環式脂肪族炭化水素(B2)との含有量の合計は2.0~4.0質量部であり、
前記粒子本体100質量部に対する前記高級脂肪酸金属塩(C1)の被覆量は0.05~0.30質量部であり、前記高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量は0.06~0.30質量部であり、前記シリコーンオイル(C3)の被覆量は0.01~0.10質量部である、発泡性スチレン系樹脂粒子にある。
【発明の効果】
【0010】
前記発泡性粒子は、前記特定の量のスチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)との共重合体(A)からなるスチレン系樹脂と、流動パラフィン(B1)と、環式脂肪族炭化水素(B2)と、を含む粒子本体を有している。また、粒子本体の表面は、高級脂肪酸金属塩(C1)と、高級脂肪酸エステル(C2)と、シリコーンオイル(C3)とを含む被覆剤(C)により被覆されている。かかる構成を有する発泡性粒子を発泡させて得られる発泡粒子は、極めて低い成形圧での型内成形が可能であり、型内成形が可能な条件範囲を広くすることができる。そのため、幅広い成形条件において、発泡粒子同士を十分に融着させることができると共に、外観に優れる発泡粒子成形体を得ることができる。
【0011】
また、前記発泡粒子を型内成形することにより、優れた機械的強度を有する発泡粒子成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[発泡性粒子、発泡粒子、発泡粒子成形体]
以下の説明において、括弧内に付されたアルファベットや数字は、本発明を何ら限定するものではない。また、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。
【0013】
発泡性粒子の粒子本体には、上記のように、基材樹脂としての共重合体(A)からなるスチレン系樹脂と、流動パラフィン(B1)と、環式脂肪族炭化水素(B2)とが含まれている。また、粒子本体の表面は、被覆剤(C)により被覆されている。
【0014】
流動パラフィン(B1)及び環式脂肪族炭化水素(B2)は、基材樹脂に対して配合された添加剤(B)としてとらえることができる。流動パラフィン(B1)は、主に基材樹脂を可塑化させる可塑剤としての機能を有している。また、環式脂肪族炭化水素(B2)は、主に可塑剤としての機能を有するが、発泡剤としての機能も有している。
【0015】
粒子本体には、発泡剤が含まれている。発泡性粒子は、蒸気などの加熱媒体による加熱によって発泡させることができ、これにより発泡粒子を得ることができる。つまり、発泡性粒子は、発泡粒子を得るために用いられる。
【0016】
発泡粒子は、主に型内成形に使用される。発泡粒子は、基材樹脂としての共重合体(A)と、流動パラフィン(B1)と、環式脂肪族炭化水素(B2)とを含む。
【0017】
多数の発泡粒子を型内成形することにより、発泡粒子同士が相互に融着してなる発泡粒子成形体を得ることができる。発泡粒子の型内成形は、例えば、所望する成形体の形状に対応したキャビティを有する金型内に発泡粒子を充填した後、キャビティ内に蒸気等の加熱媒体を供給し、発泡粒子を加熱しつつ二次発泡させて発泡粒子同士を融着させることにより行うことができる。
【0018】
発泡性粒子中の水分量は1.0質量%以下であることが好ましい。この場合には、発泡性粒子を用いて得られる発泡粒子の気泡の粗大化を抑制することができる。そのため、気泡の大きさが均一化するまでの熟成期間をより短くすることができる。その結果、発泡性粒子の熟成期間をより短くした場合にも、発泡粒子成形体の機械的強度の低下をより抑制することや、発泡粒子成形体の外観をより向上させることが可能になる。なお、熟成期間は、例えば10℃以下の低温環境下で密閉容器等に発泡性粒子を保管する期間のことである。この効果をより高めるという観点から、発泡性粒子の水分量は、0.50質量%以下であることがより好ましく、0.20質量%以下であることがさらに好ましい。発泡性粒子中の水分量の測定には、加熱気化装置を備えたカールフィッシャー水分計を使用することができる。
【0019】
<共重合体(A)>
共重合体(A)は、99.0質量%超え99.9質量%以下のスチレン系単量体(A1)と0.1質量%以上1.0質量%未満のアクリル酸アルキルエステル(A2)との共重合体からなる。なお、前記の比は、スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)との合計を100質量%とした場合の値である。
【0020】
共重合体(A)におけるアクリル酸アルキルエステル(A2)は、共重合体(A)のガラス転移温度を下げる作用を有している。スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)との比率を前記特定の範囲とすることにより、低い成形圧での型内成形が可能な発泡粒子を得ることができる。また、この発泡粒子を型内成形することにより機械的物性に優れた発泡粒子成形体を得ることができる。
【0021】
アクリル酸アルキルエステル(A2)の含有量が少なすぎる場合には、低成形圧での成形が可能な発泡粒子を得ることが困難になる。一方、アクリル酸アルキルエステル(A2)の含有量が多すぎる場合には、発泡粒子成形体の曲げ強度等の機械的物性が低下するおそれがある。
【0022】
前述した作用効果をより高める観点から、アクリル酸アルキルエステル(A2)の含有量は、0.8質量%以下であることが好ましく、0.5質量%未満であることがさらに好ましい。一方、アクリル酸アルキルエステル(A2)の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましい。
【0023】
共重合体(A)の重量平均分子量Mwは20×104以上であることが好ましい。この場合には、発泡粒子成形体の機械的物性、つまり、たとえば曲げ強度や圧縮強度をより向上させることができる。機械的物性をさらに向上させるという観点から、共重合体(A)の重量平均分子量Mwは、22×104以上であることがより好ましく、25×104以上であることがさらに好ましい。一方、発泡性粒子の発泡性を向上させる観点からは、共重合体(A)の重量平均分子量Mwは、35×104以下であることがより好ましく、30×104以下であることがさらに好ましい。なお、共重合体(A)の重量平均分子量Mwは、ポリスチレンを標準物質とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により測定されたポリスチレン換算分子量である。
【0024】
共重合体(A)は、本発明の目的を阻害しない範囲内において、スチレン系単量体(A1)及びアクリル酸アルキルエステル(A2)に加えて、これら以外のモノマーを共重合してなるものであってもよい。
【0025】
また、共重合体(A)には、本発明の目的を阻害しない範囲内において、他の樹脂や添加剤等を配合することができる。他の樹脂や添加剤等の含有量は、共重合体(A)100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5.0質量部以下であることがより好ましく、3.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0026】
スチレン系単量体(A1)としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-オクチルスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム等を採用することができる。これらのスチレン系単量体(A1)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。スチレン系単量体(A1)は、スチレンであることがより好ましい。スチレン系単量体(A1)としてのスチレンを含む発泡粒子は、低成形圧での成形性と得られる成形体の強度とをよりバランスよく向上させることができる。
【0027】
アクリル酸アルキルエステル(A2)としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等の、炭素数1~20のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルを使用することができる。これらのアクリル酸アルキルエステル(A2)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。アクリル酸アルキルエステル(A2)は、アクリル酸ブチルであることがより好ましい。アクリル酸アルキルエステル(A2)としてのアクリル酸ブチルを含む発泡粒子は、低成形圧での成形性と得られる成形体の強度とをよりバランスよく向上させることができる。
【0028】
低成形圧での成形性と得られる成形体の強度とを更にバランスよく向上させる観点からは、共重合体(A)が、スチレン系単量体(A1)としてのスチレンと、アクリル酸アルキルエステル(A2)としてのアクリル酸ブチルとの共重合体であることが特に好ましい。
【0029】
共重合体(A)のガラス転移温度は、100~107℃であることが好ましい。上記範囲内であれば、低い成形圧での発泡粒子の成形性をより高めることができると共に、得られる成形体の機械的物性をより向上させることができる。同様の観点から、共重合体(A)のガラス転移温度は102~106℃であることがより好ましい。
【0030】
共重合体(A)のガラス転移温度は、示差走査熱量(DSC)分析により測定することができる。具体的には、まず、発泡性粒子の再沈殿精製を行う。発泡性粒子の試料1gをメチルエチルケトン20mLに溶解させる。次いで、メタノール500mLを強く撹拌しながら、得られたメチルエチルケトン溶液をメタノール中に滴下することにより、樹脂を沈殿させる。沈殿した樹脂を濾取し、室温にて風乾し、その後、樹脂を恒量になるまで真空乾燥させる。このようにして再沈殿精製した試料を得る。
【0031】
次に、この試料2mgを秤量し、DSC分析を行う。分析は、ティ・エイ・インスツルメント社製のDSC測定装置Q1000を用いて、JIS K 7121(1987年)に準拠して行う。そして、昇温速度10℃/分の条件で得られるDSC曲線の中間点ガラス転移温度を求める。この温度を共重合体(A)のガラス転移温度とする。なお、発泡性樹脂粒子の代わりに、発泡粒子、発泡粒子成形体の試料を用いても、ガラス転移温度を測定することが可能である。
【0032】
<添加剤(B)>
発泡性粒子の粒子本体には、添加剤(B)としての流動パラフィン(B1)と、環式脂肪族炭化水素(B2)とが含まれている。流動パラフィン(B1)の含有量(b1)と、環式脂肪族炭化水素(B2)の含有量(b2)の合計(b1)+(b2)は、上記共重合体(A)100質量部に対して2.0~4.0質量部である。
【0033】
上記含有量の合計(b1)+(b2)が少なすぎる場合には、低い成形圧で型内成形を行った際に発泡粒子同士が十分に融着せず、発泡粒子成形体の強度の低下を招くおそれがある。一方、含有量の合計(b1)+(b2)が多すぎる場合には、発泡性粒子を発泡させる際に、ブロッキングと呼ばれる、発泡性粒子同士が相互に融着する現象や発泡粒子の収縮が発生し、得られる発泡粒子成形体の曲げ強度の低下を招くおそれがある。
【0034】
発泡性粒子の発泡時のブロッキングを防止するとともに、発泡粒子成形体の曲げ強度をより向上させる観点から、含有量の合計(b1)+(b2)は、共重合体(A)100質量部に対して2.5質量部以上3.5質量部以下であることがより好ましい。なお、発泡粒子のブロッキングや発泡粒子の収縮が発生すると、型内成形により良好な成形体を得ることが困難になる。
【0035】
本発明の発泡性粒子においては、粒子本体中に流動パラフィン(B1)及び環式脂肪族炭化水素(B2)が配合されていることが重要である。流動パラフィン(B1)と環式脂肪族炭化水素(B2)が相互に関連して作用することで、高い曲げ強度を有する発泡粒子成形体の製造を可能にする発泡性粒子となる。流動パラフィン(B1)及び環式脂肪族炭化水素(B2)のうち少なくとも一方が粒子本体中に含まれていない場合には、発泡性粒子を発泡させてなる発泡粒子を用いて低い成形圧で型内成形を行うと、成形不良、つまり、発泡粒子同士の融着不良や発泡粒子間に隙間が発生しやすくなるおそれや、発泡粒子成形体の強度が低下するおそれがある。
【0036】
なお、発泡性粒子は、流動パラフィン(B1)及び環式脂肪族炭化水素(B2)以外にも、可塑剤や発泡剤として機能する他の物質を含有することができる。
【0037】
(流動パラフィン(B1))
流動パラフィン(B1)は、Cmn(n<2m+1、n,mは自然数)で示される飽和炭化水素の混合物である。流動パラフィンは、常温常圧(例えば、25℃、1気圧)で液体のパラフィン類である。また、流動パラフィン(B1)としては、JIS K2231に定められた流動パラフィンが特に好ましく使用される。
【0038】
流動パラフィン(B1)の平均炭素数は20~35であることが好ましい。平均炭素数が20~35の流動パラフィンは、常温常圧で液体であることに加え、揮発性が小さいという性質を有している。かかる流動パラフィン(B1)を使用することにより、成形体とした際の強度を確保しつつ、共重合体(A)を可塑化して発泡粒子同士の融着性をより向上させることができる。
【0039】
また、JIS K2283の方法により測定される、流動パラフィン(B1)の、40℃での動粘度が1~80mm2/sであることが好ましく、2~60mm2/sであることがより好ましい。この場合にも、前述と同様に、成形体とした際の強度を確保しつつ、共重合体(A)を可塑化して発泡粒子同士の融着性をより向上させることができる。
【0040】
流動パラフィン(B1)の含有量(b1)は、共重合体(A)100質量部に対して0.5~2.0質量部であることが好ましい。流動パラフィン(B1)の配合量(b1)を上記範囲とすることにより、発泡性粒子を発泡させる際にブロッキングの発生を抑制することができると共に、高い強度を有する発泡粒子成形体をより容易に得ることができる。また、幅広い成形条件において、発泡体表面における間隙や溶融の発生を抑制でき、表面性状がより良好な発泡粒子成形体を得ることができる。
【0041】
また、共重合体(A)100質量部に対する流動パラフィン(B1)の配合量(b1)を0.7~1.8質量部、更に好ましくは1.0~1.5質量部とすることにより、前述した作用効果を得つつ、更に、良好な発泡粒子成形体を得られる成形圧の範囲をより広くすることができる。
【0042】
(環式脂肪族炭化水素(B2))
環式脂肪族炭化水素(B2)としては、炭素数が5~7の環式脂肪族炭化水素を用いることができる。これらの環式脂肪族炭化水素(B2)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、環式脂肪族炭化水素(B2)は、常温常圧(例えば、25℃、1気圧)で液体である。
【0043】
環式脂肪族炭化水素(B2)としては、具体的には、シクロヘキサン、シクロペンタン等を使用することができる。環式脂肪族炭化水素(B2)のうち、特に、シクロヘキサン及びシクロペンタンは、揮発性を有するため、共重合体(A)の可塑化だけでなく、発泡にも寄与して成形性を向上させることができる。そのため、シクロヘキサン及びシクロペンタンのうち1種以上の環式脂肪族炭化水素(B2)を流動パラフィン(B1)と組み合わせることにより、型内成形時、幅広い成形条件において、発泡粒子同士を十分に融着させることができ、強度が良好な発泡粒子成形体を得ることができるという特有の効果を発揮し得る。かかる作用効果をより確実に奏する観点から、粒子本体には、少なくとも、環式脂肪族炭化水素(B2)としてのシクロヘキサンが含まれていることがより好ましい。
【0044】
また、環式脂肪族炭化水素(B2)の沸点は40~90℃であることが好ましく、より好ましくは50~85℃である。この場合にも、前述と同様に、型内成形時、幅広い成形条件において、発泡粒子同士を十分に融着させることができ、強度が良好な発泡粒子成形体を得ることができるという特有の効果を発揮し得る。
【0045】
環式脂肪族炭化水素(B2)の含有量(b2)は、共重合体(A)100質量部に対して0.5~2.0質量部であることが好ましい。環式脂肪族炭化水素(B2)の含有量(b2)を上記範囲とすることにより、重合時における凝結の発生をより効果的に抑制して良好な発泡性粒子が得られるとともに、発泡性粒子の発泡時におけるブロッキングの発生をより効果的に抑制することができる。
【0046】
また、環式脂肪族炭化水素(B2)の含有量(b2)を共重合体(A)100質量部に対して0.7~2.0質量部、さらに好ましくは1.0~2.0質量部、特に好ましくは1.5質量部を超え2.0質量部以下とすることにより、前述した作用効果を得つつ、更に、良好な発泡粒子成形体を得られる成形圧の範囲をより広くすることができる。
【0047】
(流動パラフィン(B1)と環式脂肪族炭化水素(B2)との比)
流動パラフィン(B1)の含有量(b1)に対する前記環式脂肪族炭化水素(B2)の含有量の比(b2)/(b1)は1.0~2.0であることが好ましい。前述したように、本発明においては、流動パラフィン(B1)と環式脂肪族炭化水素(B2)とを併用することが重要である。なお、通常、成形体が使用される常温常圧において、流動パラフィン(B1)は液体であり、環式炭化水素(B2)は液体である。
【0048】
本発明においては、物理的特性の異なる2種の添加剤(B1)、(B2)を前記特定の比で配合することによって、例えば0.03MPaという極めて低い成形圧で型内成形を行っても、成形体の融着状態が良好であり、表面における発泡粒子同士の間隙が少ない成形体の製造が可能な発泡性粒子を得やすくなる。さらに、幅広い成形圧力条件において、高い強度を有する発泡粒子成形体の製造が可能な発泡性粒子を得やすくなる。かかる作用効果をより高める観点からは、比(b2)/(b1)の値は1.1~1.7であることが好ましく、1.2~1.6であることがさらに好ましい。この場合には、流動パラフィン(B1)と環式脂肪族炭化水素(B2)との配合バランスがより優れるので、更なる成形性の向上が可能となる。
【0049】
(鎖式脂肪族炭化水素(B3))
粒子本体には、添加剤(B)としての炭素数3~6の鎖式脂肪族炭化水素(B3)が含まれていることが好ましい。鎖式脂肪族炭化水素(B3)としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン等を使用することができる。これらの鎖式脂肪族炭化水素(B3)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
鎖式脂肪族炭化水素(B3)は、主に、発泡剤としての機能を有している。鎖式脂肪族炭化水素(B3)を用いることにより、発泡剤が粒子本体内により保持されやすくなると共に、より高い発泡倍率で発泡性粒子を発泡させることができる。かかる作用効果をより高める観点からは、発泡性粒子中に、炭素数3~6の鎖式脂肪族炭化水素(B3)が3.0~8.0質量%含まれることが好ましい。また、鎖式脂肪族炭化水素(B3)には、ブタン及びペンタンが含まれていることが好ましい。この場合には、前記発泡性スチレン系樹脂粒子中の、ブタンの含有量が4.0~6.0質量%であり、ペンタンの含有量が0.5~1.0質量%であることが好ましい。
【0051】
<被覆剤(C)>
前記発泡性粒子は、共重合体(A)と添加剤(B)とを含む粒子本体の表面を被覆する被覆剤(C)を有している。被覆剤には、高級脂肪酸金属塩(C1)と、高級脂肪酸エステル(C2)と、シリコーンオイル(C3)とが含まれている。前記発泡性粒子は、樹脂本体の表面をこれら3種の化合物(C1)~(C3)を含む被覆剤(C)で被覆することにより、発泡時のブロッキング、つまり、発泡性粒子同士が融着し、塊状になる現象を抑制しつつ、型内成形時においては低い成形圧でも発泡粒子同士を容易に融着させることができる。それ故、前記発泡性粒子を発泡させて得られる発泡粒子によれば、幅広い成形条件において、表面性状が良好であり、強度の高い発泡粒子成形体の作製が可能となる。上記観点から、被覆剤(C)の被覆量の合計は、粒子本体100質量部に対して0.20~0.50質量部であることが好ましく、0.20~0.40質量部であることがより好ましい。
【0052】
(高級脂肪酸金属塩(C1))
高級脂肪酸金属塩(C1)としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウム等のステアリン酸金属塩や、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム等のラウリン酸金属塩等を使用することができる。これらの高級脂肪酸金属塩(C1)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。発泡時のブロッキングを抑制しつつ低い成形圧での型内成形を可能にする観点から、高級脂肪酸金属塩(C1)は、ステアリン酸亜鉛であることが特に好ましい。
【0053】
高級脂肪酸金属塩(C1)の被覆量(c1)は、粒子本体100質量部に対して0.05~0.30質量部である。高級脂肪酸金属塩(C1)の被覆量(c1)が少なすぎると、発泡性粒子の発泡時において、発泡粒子にブロッキングが発生するおそれがある。一方、被覆量(c1)が多すぎると、低圧成形時において、発泡粒子同士の融着が低下するおそれや、発泡粒子間に間隙が生じるおそれがある。上記観点から、高級脂肪酸金属塩(C1)の被覆量(c1)は、粒子本体100質量部に対して0.06~0.25質量部であることが好ましく、0.07~0.20質量部であることがより好ましい。
【0054】
発泡時のブロッキングを抑制しつつ、型内成形時の発泡粒子同士の融着状態を向上させる観点から、高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量(c2)に対する高級脂肪酸金属塩(C1)の被覆量(c1)の比(c1)/(c2)は0.5~1.5であることが好ましく、0.6~1.2であることがより好ましい。
【0055】
(高級脂肪酸エステル(C2))
高級脂肪酸エステル(C2)としては、例えば、高級脂肪酸と高級脂肪族1価アルコールとのエステル、高級脂肪酸とソルビタンとのエステル、高級脂肪酸とグリセリンとのエステル、硬化油等を使用することができる。これらの高級脂肪酸エステル(C2)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、高級脂肪酸金属塩(C1)及び高級脂肪酸エステル(C2)における「高級脂肪酸」という概念には、例えば、炭素数が12個以上の脂肪酸が含まれる。高級脂肪酸としては、炭素数が12~24の脂肪酸を用いることが好ましく、炭素数14~20の脂肪酸を用いることより好ましい。また、高級脂肪酸は、飽和脂肪酸であることがより好ましい。
【0056】
高級脂肪酸と高級脂肪族1価アルコールとのエステルとしては、例えば、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸オクチルドデシル、ベヘニン酸ベヘニル等を使用することができる。高級脂肪酸とソルビタンとのエステルとしては、例えば、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノベヘネート等を使用することができる。高級脂肪酸とグリセリンとのエステルとしては、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ミリスチン酸グリセリル、パルミチン酸グリセリル、ベヘニン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル等を使用することができる。硬化油としては、例えば、牛脂極度硬化油、ヒマシ硬化油、極度硬化大豆油等を使用することができる。
【0057】
被覆剤(C)中には、高級脂肪酸エステル(C2)として、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート及びグリセリントリステアレートのうち1種または2種以上が含まれていることが好ましい。この場合には、低い成形圧で型内成形を行う場合の成形性をより向上可能な発泡性粒子を得ることができる。
【0058】
また、被覆剤(C)中には、前記高級脂肪酸エステル(C2)としての硬化ひまし油が含まれており、前記高級脂肪酸エステル(C2)中の前記硬化ひまし油の含有量は45質量%以上であることが好ましい。この場合にも、低い成形圧で型内成形を行う場合の成形性をより向上可能な発泡性粒子を得ることができる。なお、硬化ひまし油は、水素添加処理を施すことによりひまし油に水素を付加した物質である。また、ひまし油の主な成分は、リシノール酸のトリグリセリドである。
【0059】
高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量(c2)は、粒子本体100質量部に対して0.06~0.30質量部である。高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量(c2)が少なすぎると、低い成形圧での成形性が低下するおそれがあり、発泡粒子同士の融着状態の悪化や、発泡粒子間の間隙の増大を招くおそれがある。また、高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量(c2)が多すぎると、発泡性粒子の発泡時にブロッキングが発生するおそれや、低い成形圧での成形性が低下するおそれがある。
【0060】
これらの問題をより確実に回避する観点から、流動パラフィン(B1)の含有量(b1)と環式脂肪族炭化水素(B2)の含有量(b2)との合計(b1)+(b2)に対する高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量の比は0.02~0.06であることが好ましい。
【0061】
また、高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量(c2)を粒子本体100質量部に対して0.07~0.25質量部、より好ましくは0.08~0.20質量部、さらに好ましくは0.10~0.16質量部とすることにより、前述した作用効果を得つつ、更に、低い成形圧で型内成形を行う場合の成形性をより向上させることができる。
【0062】
(シリコーンオイル(C3))
シリコーンオイル(C3)は、オルガノポリシロキサンからなり、常温においてオイル状を呈する化合物である。シリコーンオイル(C3)としては、例えば、メチルフェニルシリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル等を用いることができる。シリコーンオイル(C3)は、前述した化合物のうち1種のみから構成されていてもよいし、2種以上の混合物であってもよい。これらの中でも、メチルフェニルシリコーンオイルを用いることが好ましい。なお、メチルフェニルシリコーンオイルは、ジメチルポリシロキサンにおけるメチル基の一部がフェニル基に置換された化学構造を有する化合物である。
【0063】
シリコーンオイル(C3)としてのメチルフェニルシリコーンオイルの25℃における屈折率は1.45以上であることが好ましい。なお、屈折率は、JIS K 0062(1992)に基づいて測定される値である。
【0064】
シリコーンオイル(C3)の被覆量(c3)は、粒子本体100質量部に対して0.01~0.10質量部である。シリコーンオイル(C3)の被覆量(c3)が少なすぎると、低い成形圧での成形性が低下するおそれがあり、発泡粒子同士の融着状態や、発泡粒子間に間隙が生じるおそれがある。また、シリコーンオイル(C3)の被覆量が多すぎると、発泡性粒子の発泡時にブロッキングが発生するおそれや、発泡粒子同士の融着が悪化するおそれがある。
【0065】
これらの問題をより確実に回避する観点から、シリコーンオイル(C3)の被覆量(c3)は、粒子本体100質量部に対して0.01~0.05質量部であることが好ましい。また、同様の観点から、高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量(c2)に対するシリコーンオイル(C3)の被覆量(c3)の比(c3)/(c2)は0.05~0.50であることが好ましく、0.06~0.40であることがより好ましい。
【0066】
[発泡性粒子の製造]
発泡性粒子を製造する方法としては、例えば次のような方法がある。まず、撹拌装置の付いた密閉容器内で、スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)とを、前述した流動パラフィン(B1)、環式脂肪族炭化水素(B2)及び重合開始剤と共に適当な懸濁剤の存在下で水性溶媒中に分散させる。
【0067】
次いで、スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)との重合反応を開始して共重合体(A)を生成させる。この重合反応の進行とともに、水性溶媒中に粒子本体が形成される。流動パラフィン(B1)及び環式脂肪族炭化水素(B2)は、スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)とが重合する過程において、粒子本体の内部に取り込まれる。なお、主に発泡剤として機能する鎖式脂肪族炭化水素(B3)は、この重合途中あるいは重合完了後に密閉容器内に添加することにより、共重合体(A)に含浸させることが好ましい。このようにして、粒子本体を得ることができる。
【0068】
重合開始剤としては、スチレン系単量体(A1)に可溶な開始剤を用いることができる。具体的には、例えばアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物、クメンヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、1,1-ジメチルプロピルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、1,1-ジメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、ペンチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、ラウロイルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシ-2-メチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種類または2種類以上組み合わせて用いることができる。重合開始剤の使用量は、スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)との合計100質量部に対して、0.01~3質量部が好ましい。
【0069】
懸濁剤としては、例えば、ポリビニルアルコ-ル、メチルセルロ-ス、ポリビニルピロリドン等の親水性高分子や、第3リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難水溶性無機塩を用いることができる。また、必要に応じて懸濁剤と界面活性剤とを併用しても良い。難水溶性無機塩を使用する場合は、例えばアルキルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤を併用することが好ましい。
【0070】
懸濁剤の使用量は、スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)との合計100質量部に対して0.01~5質量部が好ましい。難水溶性無機塩とアニオン性界面活性剤を併用する場合は、スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)との合計100質量部に対して、難水溶性無機塩を0.05~3質量部、アニオン性界面活性剤を0.0001~0.5質量部用いることが好ましい。
【0071】
スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)との重合反応の際には、必要に応じて、水性溶媒中に難燃剤、難燃助剤、気泡調整剤、帯電防止剤、導電化剤、粒度分布調整剤、連鎖移動剤、ゴム成分等を添加することができる。難燃剤としては有機臭素化合物を用いることができる。
【0072】
気泡調整剤としては、メタクリル酸メチル系共重合体、ポリエチレンワックス、タルク、シリカ、エチレンビスステアリルアミド、シリコ-ン等を使用することができる。ゴム成分としては、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム等を使用することができる。
【0073】
以上により得られた粒子本体を水性溶媒から取り出し、乾燥させる。その後、必要に応じて、粒子本体の分級を行ってもよい。乾燥後の粒子本体と前述した被覆剤(C)とを混合することにより、粒子本体の表面に被覆剤(C)を付着させることができる。以上により、発泡性粒子を得ることができる。
【0074】
[発泡粒子]
発泡性粒子を発泡させることにより発泡粒子を得ることができる。発泡の方法としては、例えば、撹拌装置の付いた円筒形の発泡機内で、発泡性粒子にスチーム等の加熱媒体を供給することにより、発泡性粒子を加熱して発泡させる方法がある。
【0075】
[発泡粒子成形体]
多数の発泡粒子を型内成形することにより、発泡粒子成形体を得ることができる。型内成形は、例えば、所望とする成形体形状のキャビティを有する金型内に多数の発泡粒子を充填し、スチーム等の加熱媒体によって発泡粒子を加熱することにより製造される。つまり、発泡粒子は、加熱により発泡すると共に、発泡粒子が相互に融着する。これにより、発泡粒子成形体が得られる。特に、上記特定の組成の発泡性粒子を発泡させることにより、低い成形圧での型内成形が可能な、成形性に優れる発泡粒子を得ることができ、さらにこれらの発泡粒子を型内成形することにより、強度に優れる発泡粒子成形体を得ることができる。
【0076】
発泡粒子成形体の見掛け密度は、10~100kg/m3であることが好ましい。この場合には、成形体が強度などの物性と軽量性とを両立することができる。優れた物性及び軽量性をより高めるという観点から、発泡粒子成形体の見掛け密度は、12~80kg/m3であることがより好ましく、15~60kg/m3であることがさらに好ましい。
【実施例
【0077】
以下に、前記発泡性粒子の実施例及び比較例について説明する。本例では、以下の方法により、表1の実施例及び比較例に示す発泡性粒子を製造した。
【0078】
(実施例1)
撹拌装置の付いた内容積が3Lのオートクレーブ内に、脱イオン水833g、懸濁剤(第3リン酸カルシウム)0.9g、界面活性剤(α-オレフィンスルホン酸ナトリウム)0.03g、界面活性剤(アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)0.01g、電解質(酢酸ナトリウム)1.25gを投入した。
【0079】
次いで、スチレン697gとアクリル酸n-ブチル3gとの混合物に、重合開始剤(I)1.6g、重合開始剤(II)0.54g、流動パラフィン(B1)9.4g、環式脂肪族炭化水素(B2)11.8g及び核剤0.3gを溶解させた。そして、溶解物を撹拌速度400rpmで撹拌しながらオートクレーブ内に投入した。
【0080】
なお、重合開始剤(I)としては、過酸化ベンゾイル(日油株式会社製「ナイパー(登録商標)」BW、水希釈粉体品)を用いた。重合開始剤(II)としては、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(日油株式会社製「パーブチル(登録商標)E」)を用いた。また、流動パラフィン(B1)としては、炭素数20~35の流動パラフィン(三光化学工業株式会社製「RCMS」)を用いた。環式脂肪族炭化水素(B2)としては、シクロヘキサンを用いた。核剤としては、ポリエチレンワックス(Baker Petrolite社製「PW1000」)を用いた。
【0081】
次に、オートクレーブ内の空気を窒素にて置換した後、オートクレーブ内を密閉した。次いで、オートクレーブ内の内容物を撹拌速度400rpmで撹拌しながら昇温を開始し、30分かけてオートクレーブ内の温度を90℃まで昇温させた。温度90℃に到達後、この温度を4時間30分保持し、その後、90℃から96℃まで25分かけて昇温した。温度96℃に到達後、120℃まで1時間30分かけて昇温させ、この温度を1時間10分保持した。次いで、オートクレーブ内を25℃まで4時間かけて冷却した。なお、前述した過程において、温度90℃に到達してから5時間20分経過した時点から、オートクレーブ内に発泡剤としてブタン(イソブタンとノルマルブタンの混合物)37gとペンタン7gとを20分かけて添加した。発泡剤の添加後には、撹拌速度を350rpmに下げた。
【0082】
このようにして共重合体(A)からなるスチレン系樹脂と、流動パラフィン(B1)及び環式脂肪族炭化水素(B2)を含む粒子を得た後、この粒子に発泡剤を含浸させることで、粒子本体を得た。オートクレーブ内の冷却が完了した後、内容物である粒子本体をオートクレーブから取り出した。次いで、遠心分離機を用いて粒子本体の脱水及び洗浄を行った。
【0083】
遠心分離機で粒子本体の脱水を行った後、気流乾燥装置を用いて粒子本体に気流を吹きつけ、粒子本体の乾燥を行った。粒子本体と気流とが混合したときの気流の温度は40℃になるように調整した。なお、以下において、この乾燥工程を1次乾燥という。
【0084】
次いで、1次乾燥後の粒子本体を流動層乾燥機に移した。乾燥機の槽内に温度40℃の空気を送り込むことにより粒子本体を槽内で浮遊させ、この状態で60分以上粒子本体を乾燥させた。なお、以下において、この乾燥工程を2次乾燥という。
【0085】
次に、粒子本体を分級機にかけて、直径が0.7~1.3mmの粒子を取り出した。次いで、粒子本体100質量部に対して、被覆剤(C)としてのステアリン酸亜鉛0.106質量部、ヒマシ硬化油(大日化学工業株式会社、「ダイワックスOHG」)0.060質量部、グリセリンモノステアレート0.067質量部、グリセリン0.025質量部、メチルフェニルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社、「KF-54」)0.025質量部を添加して混合し、粒子本体の表面を被覆剤(C)で被覆した。以上により、発泡性粒子を得た。
【0086】
実施例1の発泡性粒子の処方は、表1に示す通りである。なお、表1においては、化合物名を以下の略称で示した。
SM:スチレン
BA:アクリル酸ブチル
RCMS:流動パラフィン
CH:シクロヘキサン
ZnSt:ステアリン酸亜鉛
GMS:グリセリンモノステアレート
GDS:グリセリンジステアレート
GTS:グリセリントリステアレート
CW:硬化ひまし油
MePh:メチルフェニルシリコーンオイル
GLN:グリセリン
【0087】
(実施例2)
粒子本体100質量部に対して、被覆剤(C)としてのステアリン酸亜鉛0.099質量部、ヒマシ硬化油0.060質量部、グリセリンモノステアレート0.046質量部、グリセリンジステアレート0.015質量部、グリセリントリステアレート0.002質量部、グリセリン0.025質量部、メチルフェニルシリコーンオイル0.025質量部を添加して混合した以外は、実施例1と同様の方法により発泡性粒子を作製した。実施例2の発泡性粒子の処方は、表1に示す通りである。
【0088】
(実施例3)
被覆剤(C)としてのステアリン酸亜鉛の量を0.133質量部、グリセリンモノステアレートの量を0.084質量部、メチルフェニルシリコーンオイルの量を0.020質量部に変更した以外は、実施例1と同様の方法により発泡性粒子を作製した。実施例3の発泡性粒子の重合時の処方は、表1に示す通りである。
【0089】
(比較例1、2)
懸濁重合におけるアクリル酸ブチル(A2)の添加量を変更した以外は、実施例1と同様の方法により発泡性粒子を作製した。比較例1、2の発泡性粒子の処方は、表2に示す通りである。
【0090】
(比較例3、4)
懸濁重合における流動パラフィン(B1)、シクロヘキサン(B2)の添加量を変更した以外は、実施例1と同様の方法により発泡性粒子を作製した。比較例3、4の発泡性粒子の処方は、表1に示す通りである。
【0091】
(比較例5、6)
被覆剤(C)におけるステアリン酸亜鉛の添加量を変更した以外は、実施例1と同様の方法により発泡性粒子を作製した。比較例5、6の発泡性粒子の処方は、表1に示す通りである。
【0092】
(比較例7、8)
被覆剤(C)における高級脂肪酸エステルの添加量を変更した以外は、実施例1と同様の方法により発泡性粒子を作製した。比較例7、8の発泡性粒子の処方は、表1に示す通りである。
【0093】
(比較例9、10)
被覆剤(C)におけるメチルフェニルシリコーンオイルの添加量を変更した以外は、実施例1と同様の方法により発泡性粒子を作製した。比較例9、10の発泡性粒子の処方は、表1に示す通りである。
【0094】
以上により得られた発泡性粒子の諸物性を以下のように測定した。これらの結果は表1に示す通りであった。
【0095】
「発泡性粒子の発泡剤含有量」
発泡性粒子をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた後、溶解液のガスクロマトグラフィー分析を行うことにより、発泡性粒子中の発泡剤として機能する成分の含有量を測定した。そして、これらの成分の含有量の合計を、発泡剤の含有量とした。
【0096】
ガスクロマトグラフによる発泡剤の定量は、具体的には以下の手順で行った。まず、100mLのメスフラスコにシクロペンタノール約5gを小数点以下第3位まで精秤し、DMFを加えて全体を100mLとした。このDMF溶液をさらにDMFで100倍に希釈し内部標準溶液とした。次いで、測定対象となる発泡性粒子約1gを小数点以下第3位まで精秤した。精秤した発泡性粒子を約18mLのDMFに溶解させた後、更に、内部標準溶液をホールピペットにて正確に2mL加えて試料溶液とした。この試料溶液1μLをマイクロシリンジでガスクロマトグラフィー分析装置に導入し、クロマトグラムを得た。得られたクロマトグラムから各発泡剤成分及び内部標準のピーク面積を求め、下式(1)により各成分濃度を求めた。
各成分濃度(質量%)=[(Wi/10000)×2]×[An/Ai]×Fn÷Ws×100・・・(1)
【0097】
なお、上記式(1)における記号の意味は、以下の通りである。
Wi:内部標準溶液中のシクロペンタノールの質量(g)
Ws:DMFに溶解させた発泡性粒子の質量(g)
An:クロマトグラムから算出した各発泡剤成分のピーク面積
Ai:クロマトグラムから算出した内部標準物質のピーク面積
Fn:あらかじめ作成した検量線より求めた各発泡剤成分の補正係数
【0098】
また、ガスクロマトグラフにおける詳細な分析条件は以下の通りとした。
分析装置:(株)島津製作所製ガスクロマトグラフGC-6AM
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
カラム材質:内径3mm、長さ5000mmのガラスカラム
カラム充填剤:[液相名]FFAP(遊離脂肪酸)、[液相含浸率]10質量%、[担体名]ガスクロマトグラフ用珪藻土Chomasorb W、[担体粒度]60/80メッシュ、[担体処理方法]AW-DMCS(水洗・焼成・酸処理・シラン処理)、[充填量]90mL
注入口温度:250℃
カラム温度:120℃
検出部温度:250℃
キャリヤーガス:N2、流量40ml/分
【0099】
「共重合体(A)の重量平均分子量Mw」
ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により発泡性粒子のクロマトグラムを取得し、得られたクロマトグラムから算出した重量平均分子量を共重合体(A)の重量平均分子量Mwとすることができる。
【0100】
クロマトグラムの取得には東ソー(株)製のHLC-8320GPC EcoSECを使用した。測定試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて濃度0.1wt%の試料溶液を調製した後、TSKguardcolumn SuperH-H×1本、TSK-GEL SuperHM-H×2本を直列に接続したカラムを用い、溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、THF流量:0.6ml/分という分離条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定試料を分子量の違いによって分離し、クロマトグラムを得た。そして、標準ポリスチレンを用いて作成した較正曲線によって、クロマトグラムにおける保持時間を分子量に換算し、微分分子量分布曲線を得た。この微分分子量分布曲線から測定試料の重量平均分子量Mwを算出した。
【0101】
「発泡粒子成形体の作製」
次に、実施例及び比較例の発泡性粒子を発泡させて発泡粒子を作製し、これらの発泡粒子を用いて発泡粒子成形体を作製した。具体的には、まず、発泡性粒子を常圧発泡機内または、加圧発泡機(ダイセン社製のDYHL-500-U)内(300mm×300mm×50mm)に投入した。次いで、発泡性粒子を撹拌しながら予備発泡機内にスチームを供給することにより、発泡性粒子を発泡させ、嵩密度が16.6kg/m3の発泡粒子を得た。なお、嵩密度の測定方法は後述する。
【0102】
次いで、上記のようにして得られた発泡粒子を室温で1日間放置して熟成させた後、型物成形機の金型のキャビティ内に充填した。なお、本例において用いた金型は、長さ300mm×幅200mm×厚み25mmの板状の成形体を成形可能なキャビティを有している。次いで、キャビティ内にスチームを供給することにより発泡粒子を所定の成形圧力で10~15秒間加熱した後、所定時間冷却した。その後、金型から発泡粒子成形体を取り出した。得られた発泡粒子成形体を温度40℃で1日間乾燥させた。
【0103】
このようにして得られた発泡粒子及び発泡粒子成形体を用い、以下の方法により、発泡性、予備発泡時のブロッキング特性、成形性、曲げ強度及び圧縮強度の評価を行った。これらの評価結果は表1に示す通りであった。
【0104】
「発泡性」
発泡性粒子の発泡性(発泡力)は、次のような条件で発泡性粒子を発泡させたときの発泡粒子の嵩密度に基づいて評価することができる。まず棚式発泡機を用いて、発泡性粒子を加熱スチーム温度107℃で270秒間加熱することにより、発泡性粒子を発泡させて発泡粒子を得た。次いで、発泡粒子を温度23℃で24時間乾燥させた。その後、1Lのメスシリンダーに乾燥後の発泡粒子を1Lの標線まで充填し、1Lあたりの発泡粒子の質量(g)を測定し、単位換算することで、嵩密度(g/L)を算出した。
【0105】
表1の「発泡力」欄には、嵩密度が15g/L以下であった場合には記号「A」、嵩密度が15g/Lを超えて30g/L以下であった場合には記号「B」、嵩密度が30g/Lを超えた場合には記号「C」を記載した。発泡性の評価においては、記号「A」及び「B」の場合を、十分な発泡力を有しているため合格と判定し、記号「C」の場合を、発泡力が不十分であるため不合格と判定した。
【0106】
「発泡後収縮」
嵩密度16.6kg/m3に発泡させた発泡粒子の表面を目視により観察した。表1の「発泡後収縮」欄には、ほとんどの発泡粒子の表面に皺が発生していない場合は記号「A」、表面に皺が発生した発泡粒子が多数確認された場合は記号「B」を記載した。発泡後収縮の評価においては、記号「A」の場合を、発泡後の収縮がないため合格と判定し、記号「B」の場合を、発泡後の収縮があるため不合格と判定した。
【0107】
「予備発泡時のブロッキング特性」
500gの発泡粒子を目開き10mmの篩で分級し、篩上に残った発泡粒子の質量を測定した。表1における「ブロッキング」欄には、篩上に発泡粒子が残らなかった場合には記号「A」、篩上に残った発泡粒子の割合が0.1質量%(つまり、0.5g)以下の場合には記号「B」、篩上に残った発泡粒子の割合が0.1質量%を超える場合には記号「C」を記載した。
【0108】
ブロッキング特性の評価においては、篩上に残った発泡粒子の割合が0.1質量%以下である記号「A」及び「B」の場合を、ブロッキングを十分に抑制できているため合格と判定し、発泡粒子の割合が0.1質量%を超える記号「C」の場合を、ブロッキングの抑制が不十分であるため合格と判定した。
【0109】
「成形性」
型内成形時の成形性は、発泡粒子成形体における発泡粒子同士の融着性及び表面性状に基づいて評価することができる。成形性の評価においては、型内成形する際にキャビティ内に供給するスチームの圧力(つまり、成形圧)を0.03MPa、0.04MPa、0.05MPa、0.09MPaのいずれかに設定して発泡粒子成形体を作製した。これらの発泡粒子成形体を用い、以下の評価を行った。なお、これらの成形圧は、いずれもゲージ圧(G)である。
【0110】
・融着性
長さ300mm×幅75mm×厚み25mmの板状の成形体の一方の表面(つまり、長さ300mm、幅75mmの片面)に、2mmの深さを有し、成形体の長さ方向の中心を通る直線状の切込みを成形体の全幅にわたって形成して試験片を作製した。次いで、試験片の切込みを広げる方向に、試験片が破断するか、または、試験片の端部同士が互いに当接するまで試験片を折り曲げた。次に、試験片の断面を目視により観察し、破断(材料破壊)した発泡粒子数と、発泡粒子同士の界面で剥離した発泡粒子数をそれぞれ計測した。次いで、破断した発泡粒子と界面で剥離した発泡粒子との合計に対する、破断した発泡粒子の割合を算出し、これを百分率で表して融着性(%)とした。
【0111】
表1の「融着性」欄には、融着率が80%以上である場合に記号「A」、50%以上80%未満である場合に記号「B」、50%未満である場合に記号「C」を記載した。融着性の評価においては、融着率が50%以上である記号「A」及び「B」の場合を、発泡粒子同士が十分に融着しているため合格と判定し、50%未満である記号「C」の場合を、融着が不十分であるため不合格と判定した。
【0112】
・表面性状
発泡粒子成形体の表面を目視観察し、表面に露出した発泡粒子同士の間に隙間が存在しているか否か、及び、発泡粒子成形体の表面に溶融痕が存在しているか否かを評価した。表1の「表面間隙」欄には、発泡粒子成形体の表面に隙間がほとんど存在せず、表面全体が平滑である場合に記号「A」、発泡粒子成形体の表面に発泡粒子同士の隙間が散見される場合に記号「B」、発泡粒子成形体の表面の至る所に発泡粒子同士の隙間が存在する場合に記号「C」を記載した。表面間隙の評価においては、記号「A」及び記号「B」の場合を、表面性状が良好であるため合格と判定し、記号「C」の場合を、表面性状が悪いため不合格と判定した。
【0113】
また、表1の「表面溶融」欄には、発泡粒子成形体の表面に溶融痕がほとんど存在しない場合に記号「A」、発泡粒子成形体の表面に溶融痕が散見される場合に記号「B」、発泡粒子成形体の表面の至る所に溶融痕が存在する場合に記号「C」を記載した。表面溶融の評価においては、記号「A」及び記号「B」の場合を、表面性状が良好であるため合格と判定し、記号「C」の場合を、表面性状が悪いため不合格と判定した。
【0114】
「発泡粒子成形体の見掛け密度」
発泡粒子成形体の質量を、外形寸法に基づいて算出した見掛けの体積で除した値を発泡粒子成形体の見掛け密度とした。
【0115】
「曲げ強度」
発泡倍率を適宜調整した発泡粒子を0.05MPaの成形圧で型内成形し、見掛け密度16.6kg/m3の発泡粒子成形体を得た。この発泡粒子成形体から縦300mm、横75mm、厚さ25mmの板状を呈する試験片を採取した。この試験片を用い、JIS K7221-2(1999年)の附属書1に記載された大形試験片による曲げ試験方法に準拠して3点曲げ試験を行い、応力-歪曲線を取得した。この応力-歪曲線に基づいて算出した最大荷重における曲げ応力を発泡粒子成形体の曲げ強度とした。なお、3点曲げ試験には万能試験機(株式会社島津製作所製「オートグラフ(登録商標)」)を使用し、下部支点間距離200mm、試験速度10mm/分の条件で試験を行った。
【0116】
「圧縮強度」
発泡倍率を適宜調整した発泡粒子を0.05MPaの成形圧で型内成形し、見掛け密度16.6kg/m3の発泡粒子成形体を得た。この発泡粒子成形体の中央部分から縦50mm、横50mm、厚み25mmの直方体状の試験片を採取した。この試験片を用いて、JIS K6767(1999年)に準拠して3点曲げ試験を行い、ひずみ10%における圧縮荷重を測定した。そして、ひずみ10%における圧縮荷重を試験片の受圧面積で除した値を圧縮応力(10%圧縮応力)とした。なお、3点曲げ試験には万能試験機(株式会社島津製作所製「オートグラフ(登録商標)」)を使用し、下部支点間距離200mm、試験速度10mm/分の条件で試験を行った。
【0117】
【表1】
【0118】
表1より知られるように、実施例1~3の発泡性粒子から作製した発泡粒子は、例えば、成形圧が0.03MPaというような、極めて低い成形圧での型内成形を行うことができる。そして、かかる発泡粒子によれば、低い成形圧で型内成形を行った場合にも、発泡粒子同士が十分に融着し、幅広い成形条件において、曲げ強度及び圧縮強度が高く、良好な表面性状を有する発泡粒子成形体を得ることができる。これは、実施例の発泡性粒子が、前述した特定の組成を有しているためである。
【0119】
これに対し、比較例1の発泡性粒子は、アクリル酸アルキルエステル(A2)が含まれていないため、低成形圧条件において成形性が低下し、良好な成形体が得られなかった。
また、比較例2の発泡性粒子は、アクリル酸アルキルエステル(A2)の含有量が多すぎるため、発泡性粒子の発泡後に収縮が生じてしまった。
【0120】
比較例3の発泡性粒子は、流動パラフィン(B1)の含有量(b1)と環式脂肪族炭化水素(B2)の含有量(b2)との合計(b1)+(b2)が少なすぎたため、発泡力が不十分であった。
また、比較例4の発泡性粒子は、流動パラフィン(B1)の含有量(b1)と環式脂肪族炭化水素(B2)の含有量(b2)との合計(b1)+(b2)が多すぎたため、発泡性粒子の発泡後に収縮が生じてしまった。
【0121】
比較例5の発泡性粒子は、高級脂肪酸金属塩(C1)の被覆量が少なすぎたため、発泡性粒子の発泡時にブロッキングが発生した。
また、比較例6の発泡性粒子は、高級脂肪酸金属塩(C1)の被覆量が多すぎたため、低い成形圧で型内成形を行った場合に、発泡粒子同士の融着が不十分となった。また、得られた発泡粒子成形体の表面には発泡粒子同士の隙間が多数存在しており、良好な表面性状を有する発泡粒子成形体を得られなかった。
【0122】
比較例7の発泡性粒子は、高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量が少なすぎたため、低い成形圧で型内成形を行った場合に、発泡粒子同士の融着が不十分となった。
また、比較例8の発泡性粒子は、高級脂肪酸エステル(C2)の被覆量が多すぎたため、幅広い成形条件において、発泡粒子同士の融着が良好な発泡粒子成形体を得ることができなかった。
【0123】
比較例9の発泡性粒子は、シリコーンオイル(C3)が被覆されていなかったため、低い成形圧で型内成形を行った場合に、発泡粒子同士の融着が不十分となった。
また、比較例10の発泡性粒子は、シリコーンオイル(C3)の被覆量が多すぎたため、幅広い成形条件において、発泡粒子同士の融着が良好な発泡粒子成形体を得ることができなかった。
【0124】
以上の結果から、スチレン系単量体(A1)とアクリル酸アルキルエステル(A2)との割合が前記特定の範囲である共重合体(A)と、前記特定の量の流動パラフィン(B1)及び環式脂肪族炭化水素(B2)と、を含む粒子本体の表面に、前記特定の被覆剤(C)が被覆されてなる実施例の発泡性粒子によれば、極めて低い成形圧での成形を可能する発泡粒子が得られることが理解できる。
【0125】
また、実施例の発泡性粒子を用いて作製した発泡粒子成形体は、幅広い成形条件において、発泡粒子同士が十分に融着すると共に、良好な外観を有している。それ故、実施例の発泡性粒子によれば、低い成形圧でも型内成形ができ、発泡粒子成形体を作製する際のエネルギーの消費量を低減することができる。実施例の発泡性粒子を用いて作製した発泡粒子成形体は、例えば、魚箱、食品容器などの梱包材に特に好適である。