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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】発泡成形品及びその成形方法
(51)【国際特許分類】
   A47C 27/14 20060101AFI20220810BHJP
   A47C 7/40 20060101ALI20220810BHJP
   B60N 2/64 20060101ALI20220810BHJP
   B68G 5/02 20060101ALI20220810BHJP
   B29C 33/14 20060101ALI20220810BHJP
   B29C 39/10 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
A47C27/14 A
A47C7/40
B60N2/64
B68G5/02
B29C33/14
B29C39/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019119541
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021003449
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000219705
【氏名又は名称】東海興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】守谷 芳則
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-150223(JP,A)
【文献】特開2009-090549(JP,A)
【文献】米国特許第06286903(US,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0119051(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 27/14
A47C 7/40
B60N 2/64
B68G 5/02
B29C 33/14
B29C 39/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートの背もたれ部を構成し、本体部と、前記本体部の縁部において前記本体部に比べて薄肉に形成されて、前記本体部の上部及び両側部の縁部から後方に延長されて、前記上部及び前記両側部に連続する壁部として形成された薄肉部と、前記本体部及び前記薄肉部の裏面側に設けられた裏面材とを有する発泡成形品を成形する方法であって、
前記壁部の縁部には、前記本体部に対向するよう折り曲げられた折曲げ部が前記上部及び前記両側部に連続して形成されており、
前記裏面材は、前記本体部の裏面側から前記壁部及び前記折曲げ部の裏面側に連続して配置される袋形状に形成されており、
前記発泡成形品の一部を成形するための下型と、前記下型に対して相対的に開閉可能であって前記発泡成形品の残部を成形するための上型とによって構成された成形型を用い、
前記薄肉部の裏面側の一部を露出させるよう前記薄肉部の上下方向の全長における下側が切り欠かれた形状の切欠き部が形成された裏面材が、前記上型に配置される裏面材配置工程と、
前記下型に発泡性原料が注入され、前記下型に対して前記上型が相対的に閉じられる注入工程と、
前記発泡性原料が、前記下型の成形面と前記上型の成形面との間に形成されたキャビティに充填されて、前記裏面材が前記本体部及び前記薄肉部の裏面側に設けられ、前記裏面材の前記切欠き部によって前記薄肉部の裏面側の一部が露出する発泡成形品が成形される成形工程と、を含む発泡成形品の成形方法。
【請求項2】
前記裏面材における、前記切欠き部を形成する縁部のうち、前記本体部の側部の縁部から後方に延長された壁部に配置される部分は、曲線によって構成される凹形状を有する、請求項に記載の発泡成形品の成形方法。
【請求項3】
車両のシートの背もたれ部を構成する発泡成形品であって、
本体部と、
前記本体部の縁部において前記本体部に比べて薄肉に形成されて、前記本体部の上部及び両側部の縁部から後方に延長されて、前記上部及び前記両側部に連続する壁部として形成された薄肉部と、
前記本体部及び前記薄肉部の裏面側に設けられた裏面材と、を有し、
前記裏面材には、前記薄肉部の裏面側の一部を露出させるよう前記薄肉部の上下方向の全長における下側が切り欠かれた形状の切欠き部が形成されており、
前記壁部の縁部には、前記本体部に対向するよう折り曲げられた折曲げ部が前記上部及び前記両側部に連続して形成されており、
前記裏面材は、前記本体部の裏面側から前記壁部及び前記折曲げ部の裏面側に連続して配置される袋形状に形成されている、発泡成形品。
【請求項4】
前記発泡成形品は、シートフレームに装着して使用されるものであり、
前記切欠き部は、前記シートフレームにおける、前記シートフレームよりも軟質の軟質部材が設けられた部位に対向して配置される、請求項に記載の発泡成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡成形品及びその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のシートにおける座部及び背もたれ部は、発泡性原料によって構成された発泡成形品に、表皮が被せられて形成されている。発泡成形品は、発泡性原料が成形型内に発泡して充填されることによって成形される。発泡成形品においては、発泡性原料による微細な気泡(発泡セル)が分散している。また、発泡成形品の表面側には、表皮が配置され、発泡成形品の裏面側には、金属製のシートフレーム及びばねが配置されて、シートの座部又は背もたれ部が形成される。また、発泡成形品の裏面側には、発泡成形品とシートフレーム及びばねとが擦れ合うときに生じる異音の発生を防止するための裏面材を配置することがある。
【0003】
例えば、特許文献1のシート用パッドにおいては、発泡樹脂製のパッド本体の背面側の上辺部及び左右両側部に張出し部が一体に設けられており、パッド本体の背面から張出し部に連続して補強シートが設けられている。補強シートは、パッド本体及び張出し部を補強するために、張出し部の張出先端まで形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-82909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、発泡成形品の軽量化、小型化等のために、発泡成形品の本体部の縁部から突出する部位を薄肉化したい要求がある。しかし、発泡成形品の縁部から突出する部位の薄肉化を図るためには、成形型における、これらの部位を成形するためのキャビティの幅を狭くする必要が生じる。そのため、発泡性原料が、このキャビティを通過しにくくなる。
【0006】
特に、このキャビティに裏面材が配置される場合には、裏面材の厚さ分だけ、発泡性原料がより通過しにくい状態が形成される。これにより、発泡性原料がキャビティに充填されにくく、発泡成形品における、薄肉化が図られた部位(薄肉部)の微細な気泡が潰れることに伴って、発泡成形品の表面にヒケが生じるおそれがある。
【0007】
特許文献1のシート用パッドにおいては、張出し部における連結部の厚さが、その先端側に位置するフランジ部の厚さよりも薄くなっており、この連結部及びフランジ部に補強シートが配置されている。そのため、成形型においてシート用パッドを発泡成形する際に、成形されたシート用パッドの連結部にヒケが生じるおそれがある。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、薄肉部の表面のヒケの発生を抑制することができる発泡成形品及びその成形方法を提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明は、車両のシートの背もたれ部を構成し、本体部と、前記本体部の縁部において前記本体部に比べて薄肉に形成されて、前記本体部の上部及び両側部の縁部から後方に延長されて、前記上部及び前記両側部に連続する壁部として形成された薄肉部と、前記本体部及び前記薄肉部の裏面側に設けられた裏面材とを有する発泡成形品を成形する方法であって、
前記壁部の縁部には、前記本体部に対向するよう折り曲げられた折曲げ部が前記上部及び前記両側部に連続して形成されており、
前記裏面材は、前記本体部の裏面側から前記壁部及び前記折曲げ部の裏面側に連続して配置される袋形状に形成されており、
前記発泡成形品の一部を成形するための下型と、前記下型に対して相対的に開閉可能であって前記発泡成形品の残部を成形するための上型とによって構成された成形型を用い、
前記薄肉部の裏面側の一部を露出させるよう前記薄肉部の上下方向の全長における下側が切り欠かれた形状の切欠き部が形成された裏面材が、前記上型に配置される裏面材配置工程と、
前記下型に発泡性原料が注入され、前記下型に対して前記上型が相対的に閉じられる注入工程と、
前記発泡性原料が、前記下型の成形面と前記上型の成形面との間に形成されたキャビティに充填されて、前記裏面材が前記本体部及び前記薄肉部の裏面側に設けられ、前記裏面材の前記切欠き部によって前記薄肉部の裏面側の一部が露出する発泡成形品が成形される成形工程と、を含む発泡成形品の成形方法にある。
【0010】
第2発明は、車両のシートの背もたれ部を構成する発泡成形品であって、
本体部と、
前記本体部の縁部において前記本体部に比べて薄肉に形成されて、前記本体部の上部及び両側部の縁部から後方に延長されて、前記上部及び前記両側部に連続する壁部として形成された薄肉部と、
前記本体部及び前記薄肉部の裏面側に設けられた裏面材と、を有し、
前記裏面材には、前記薄肉部の裏面側の一部を露出させるよう前記薄肉部の上下方向の全長における下側が切り欠かれた形状の切欠き部が形成されており、
前記壁部の縁部には、前記本体部に対向するよう折り曲げられた折曲げ部が前記上部及び前記両側部に連続して形成されており、
前記裏面材は、前記本体部の裏面側から前記壁部及び前記折曲げ部の裏面側に連続して配置される袋形状に形成されている、発泡成形品にある。
【発明の効果】
【0011】
(発泡成形品の成形方法)
前記第1発明の発泡成形品の成形方法においては、発泡成形品における薄肉部に裏面材が配置される場合に、裏面材によって薄肉部の発泡成形が阻害されないようにしている。この成形方法において用いる裏面材の、薄肉部の裏面側に配置される部位には、この部位の一部が切り欠かれた形状の切欠き部を形成しておく。そして、裏面材配置工程及び注入工程が行われて、成形型内に裏面材が配置されたときには、成形型における、薄肉部を成形するためのキャビティにおいては、裏面材が配置された部位と、切欠き部によって裏面材が配置されていない部位とが形成される。そして、キャビティにおける、裏面材が配置されていない部位においては、裏面材がない分、キャビティの幅が大きくなり、発泡性原料が通過しやすくすることができる。
【0012】
これにより、成形後の発泡成形品において、薄肉部の全体に円滑に発泡性原料が充填され、薄肉部の全体を構成する部分の微細な気泡(発泡セル)が潰れないようにすることができる。それ故、前記第1発明の発泡成形品の成形方法によれば、発泡成形品の薄肉部の表面のヒケの発生を抑制することができる。
【0013】
「切欠き部」とは、薄肉部に配置される裏面材の一部が意図的に取り除かれている部分のことをいう。「切欠き部」は、裏面材を形成するための補材の一部を切り欠いて形成することができる。また、「切欠き部」は、補材が切り欠かれて形成されていなくても、切欠き形状として形成されていればよい。
【0014】
(発泡成形品)
前記第2発明の発泡成形品における裏面材の、薄肉部の裏面側に配置された部位には、この部位の一部が切り欠かれた形状の切欠き部が形成されている。そして、発泡成形品においては、薄肉部の全体を構成する部分の微細な気泡(発泡セル)がほとんど潰れていない。それ故、前記第2発明の発泡成形品によれば、発泡成形品の薄肉部の表面のヒケの発生が抑制された発泡成形品を得ることができる。また、発泡成形品に外観不良がほとんど生じず、発泡成形品の表面側に表皮が被せられたときにも、表皮に皺が発生せず、表皮の外観を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態にかかる、背もたれ部を構成する発泡成形品を示す斜視図である。
図2図2は、実施形態にかかる、図1におけるII-II断面図である。
図3図3は、実施形態にかかる、図1におけるIII-III断面図である。
図4図4は、実施形態にかかる、裏面材を示す斜視図である。
図5図5は、実施形態にかかる、成形型を示す斜視図である。
図6図6は、実施形態にかかる、閉じた状態の成形型を示す、図5のVI-VI断面相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前述した第1発明の成形方法及び第2発明の発泡成形品にかかる好ましい実施の態様について説明する。第1発明及び第2発明における発泡成形品及び裏面材の構成は、次のようにすることができる。
【0017】
前記発泡成形品は、前記シートの背もたれ部を構成しており、前記薄肉部は、前記背もたれ部における本体部の上部、下部、右側部及び左側部のうちの少なくともいずれかの縁部から後方に延長された壁部として形成されてい。この構成により、発泡成形品の薄肉部の表面のヒケの発生が抑制されたシートの背もたれ部を得ることができる。
【0018】
また、前記薄肉部は、前記本体部の両側部のうちの少なくとも一方の側部の縁部から後方に延長された壁部として形成されており、前記裏面材の前記切欠き部は、前記薄肉部の上下方向の全長における下側が切り欠かれることによって形成されてい。この構成により、発泡性原料が、薄肉部を成形するためのキャビティに入り込みやすくなり、発泡成形品におけるヒケの発生を効果的に抑制することができる。また、裏面材のうちの薄肉部の上下方向の全長における上側(下側を除く部分)を残しておくことによって、薄肉部を補強することができ、かつ裏面材配置工程において、裏面材を上型に留められる部分を多く確保して、裏面材を上型に簡単に配置することができる。
【0019】
また、前記壁部は、前記本体部の上部及び両側部に連続して形成されており、前記壁部の縁部には、前記本体部に対向するよう折り曲げられた折曲げ部が前記上部及び前記両側部に連続して形成されており、前記裏面材は、前記本体部の裏面側から前記壁部及び前記折曲げ部の裏面側に連続して配置される袋形状に形成されてい。この構成により、裏面材配置工程において、袋形状の裏面材を、上型に被せるようにして上型に簡単に配置することができる。
【0020】
また、前記裏面材における、前記切欠き部を形成する縁部のうち、前記本体部の側部の縁部から後方に延長された壁部に配置される部分は、曲線によって構成される凹形状を有していてもよい。この構成により、裏面材配置工程において、裏面材の本体部に対応する部分に対して、裏面材の側部の壁部に対応する部分が開きにくくすることができ、裏面材を上型に安定して配置することができる。
【0021】
また、前記発泡成形品は、シートフレームに装着して使用されるものであり、前記切欠き部は、前記シートフレームにおける、前記シートフレームよりも軟質の軟質部材が設けられた部位に対向して配置されていてもよい。この構成により、発泡成形品のうちの裏面材に切欠き部が形成された部分においては、軟質部材によって、発泡成形品とシートフレームとが擦れ合うときに生じる異音の発生が防止される。
【0022】
前述した第1発明の成形方法及び第2発明の発泡成形品にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態>
本形態の発泡成形品1は、図1図4に示すように、車両のシートの一部としての背もたれ部(シートバック)7を構成するものである。発泡成形品1は、本体部10と、本体部10の裏面側102、並びに本体部10の縁部としての上部11及び両側部12R,12Lにおける各壁部111,121の裏面側102に設けられた裏面材2とを有する。各壁部111,121は、本体部10に比べて薄肉の薄肉部として形成されている。裏面材2には、右側部12Rの壁部121の裏面側102において発泡体の一部を露出させるよう切り欠かれた形状の切欠き部25が形成されている。
【0023】
以下に、本形態の発泡成形品1及び発泡成形品1の成形方法について詳説する。
(発泡成形品1)
図1図3に示すように、発泡成形品1は、自動車のシートの背もたれ部7を構成するものである。自動車のシートは、座部と背もたれ部7とによって構成されている。背もたれ部7を構成する発泡成形品1の本体部10は、上部11、右側部12R、左側部12L及び下部13に囲まれた中心側部分を示す。
【0024】
本体部10の上部11、右側部12R及び左側部12Lの縁部から後方には、それぞれ壁部111,121が延長されて形成されている。壁部111,121は、本体部10の上部11及び両側部12R,12Lに連続して形成されている。換言すれば、上部11に形成された壁部111と、両側部12R,12Lに形成された壁部121とは、互いに繋がっている。壁部111,121の縁部には、本体部10に対向するよう折り曲げられた折曲げ部112,122が上部11及び両側部12R,12Lに連続して形成されている。
【0025】
上部11に形成された壁部111は、本体部10の上下方向Hの上側H1の端部から前後方向Dの後方D2に向けて形成されている。壁部111の後方D2の端部には、上下方向Hの下側H2に向けて延びる折曲げ部112が形成されている。折曲げ部112は、本体部10に対して空間Sを開けた状態で、壁部111に対して折り曲げられている。
【0026】
右側部12R及び左側部12Lに形成された各壁部121は、本体部10の車幅方向Wの左右の端部から前後方向Dの後方D2に向けて形成されている。各壁部121の後方D2の端部には、車幅方向Wの内方に向けて延びる折曲げ部122が形成されている。折曲げ部122は、本体部10に対して空間Sを開けた状態で、壁部121に対して折り曲げられた形状に形成されている。
【0027】
空間Sとは、本体部10と壁部111,121の折曲げ部112,122との間に位置するスペースのことをいう。上部11の壁部111に形成された折曲げ部112と本体部10とは、空間Sを介して対向しており、両側部12R,12Lの壁部121に形成された折曲げ部122と本体部10とは、空間Sを介して対向している。
【0028】
なお、上部11に形成された壁部111には、折曲げ部112が形成されていなくてもよい。また、両側部12R,12Lに形成された壁部121には、折曲げ部122が形成されていなくてもよい。また、壁部は、背もたれ部7を構成する発泡成形品1の下部13に形成されていてもよい。
【0029】
図1図3に示すように、背もたれ部7を構成する発泡成形品1の上部11とは、背もたれ部7が自動車に搭載されたときに、上下方向Hの上側H1に位置する部分のことをいう。発泡成形品1の下部13とは、背もたれ部7が自動車に搭載されたときに、上下方向Hの下側H2に位置する部分のことをいう。発泡成形品1の両側部12R,12Lとは、背もたれ部7が自動車に搭載されたときに、自動車の車幅方向Wの両側に位置する部分のことをいう。
【0030】
また、背もたれ部7を構成する発泡成形品1の表面側101とは、表皮が設けられる発泡成形品1の外側のことをいう。発泡成形品1の裏面側102とは、表面側101とは反対側であって、発泡成形品1の内側のことをいう。発泡成形品1の本体部10においては、表面側101が自動車における前方D1に向けられ、裏面側102が自動車における後方D2に向けられる。壁部111,121の厚さ方向とは、壁部111,121の表面側101と裏面側102とが対向する方向のことをいう。
【0031】
図3に示すように、発泡成形品1の右側部12Rの薄肉部としての壁部121の厚さt2は、本体部10の厚さt1、左側部12Lの壁部121の厚さt3、及び上部11の壁部111の厚さに比べて小さい。
【0032】
図示は省略するが、背もたれ部7を構成する発泡成形品1の右側部12Rの壁部121には、アームレストが取り付けられる。図1に示すように、右側部12Rの壁部121には、アームレストを取り付けるための取付穴としての貫通穴15が形成されている。右側部12Rの壁部121における貫通穴15は、発泡成形品1の車幅方向W(壁部121の厚さ方向)に向けて壁部121を貫通している。
【0033】
本形態の発泡成形品1の裏面側102には、フェルト等の裏面材2が設けられているものの、発泡成形品1の上部11、両側部12R,12L等には、ヒケが生じていない。ここで、「ヒケ」は、樹脂の発泡性原料100が発泡する際に、無数の微細な気泡(発泡セル)が発泡成形品1の内部又は表面において局所的に潰れてしまい、発泡成形品1が所定の形状を得られないことをいう。
【0034】
(背もたれ部7)
図1図3に示すように、シートの背もたれ部7を構成する発泡成形品1は、背もたれ部7を構成するシートフレーム3に装着して使用される。背もたれ部7は、シートの座部の後端位置に配置される。背もたれ部7の下部には、背もたれ部7を前後に傾倒するための軸部(図示しない)が配置される。背もたれ部7は、発泡成形品1と、発泡成形品1の表面側101を覆う表皮と、発泡成形品1の裏面側102に装着されたシートフレーム3とを備えるシート部品である。シートフレーム3は、金属製のパイプによって枠形状に形成されたフレーム部31と、フレーム部31の内側に設けられて弾性変形可能な金属製のスプリング部(図示しない)とを有する。
【0035】
図1において、背もたれ部7の本体部、上部、両側部及び下部の各部位は、発泡成形品1の本体部10、上部11、両側部12R,12L及び下部13として示す。また、図1図3において、表皮及びスプリング部の図示は省略する。表皮は、織物、編物、人工皮革等の表皮材によって構成されている。スプリング部は、金属製の線材等によって構成されており、フレーム部31によって支持されて、シートに着座する乗員の荷重を受けるものである。
【0036】
シートフレーム3のフレーム部31は、発泡成形品1の本体部10における上部11、両側部12R,12L及び下部13の各裏面側102に配置されている。発泡成形品1の裏面側102における、裏面材2が配置された部位においては、裏面材2があるため、発泡体とフレーム部31とが直接接触せず、異音が発生しない。
【0037】
発泡成形品1の裏面側102において、フレーム部31のうちの、裏面材2が切り欠かれた切欠き部25と対向する部位においては、図1及び図4に示すように、フレーム部31の外周に、フレーム部31を構成する金属材料よりも軟質の軟質部材32が被せられている。換言すれば、裏面材2の切欠き部25は、フレーム部31における、フレーム部31よりも軟質の軟質部材32が設けられた部位に対向して配置される。これにより、発泡成形品1のうちの裏面材2の切欠き部25に対応する部分においては、発泡体とフレーム部31とが直接接触することがなく、異音が発生しない。本形態の軟質部材32は、繊維材料によって形成されたフェルト(不織布)から構成されている。
【0038】
(裏面材2)
図4に示すように、裏面材2は、発泡成形品1の裏面側102に設けられて、発泡成形品1の裏面側102を補強するとともに、発泡成形品1の発泡体がシートフレーム3と直接接触しないようにして、異音の発生を防止するものである。裏面材2は、フェルト(不織布)のシートによって構成されている。裏面材2は、本体部10の裏面側102から壁部111,121及び折曲げ部112,122の裏面側102に連続して配置される袋形状に形成されている。
【0039】
裏面材2は、フェルトのシートの適宜箇所が縫い合わされて、袋形状に形成されている。例えば、裏面材2は、上部11の壁部111及び折曲げ部112と両側部12R,12Lの壁部121及び折曲げ部122との角部において、上部11の壁部111及び折曲げ部112に配置されるシート部分21と、両側部12R,12Lの壁部121及び折曲げ部122に配置されるシート部分22とを互いに縫い合わせて、袋形状に形成することができる。シート部分21,22同士の縫い合わせ部を二点鎖線Eによって示す。
【0040】
裏面材2の、上部11の壁部111及び折曲げ部112に配置されるシート部分21と、裏面材2の、両側部12R,12Lの壁部121及び折曲げ部122に配置されるシート部分22とは連続して形成されている。この構成により、図5に示すように、袋形状の裏面材2を、上型52の中子型部521に被せるようにして上型52の中子型部521に簡単に配置することができる。
【0041】
裏面材2には、本体部10の裏面側102に配置されるシート部分20、及び下部13の裏面側102に配置されるシート部分23もある。裏面材2は、シート部21,22同士を必ずしも縫い合わせていなくてもよく、上型52の中子型部521に配置されたときに袋形状を有していればよい。
【0042】
図1及び図4に示すように、本形態の裏面材2の切欠き部25は、右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122の上下方向Hの全長hにおける下側部分が切り欠かれることによって形成されている。より具体的には、切欠き部25は、右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122の上下方向Hの全長hにおける下端から1/2の範囲h1内が切り欠かれることによって形成されている。また、右側部12Rの壁部121に切欠き部25が形成されていることにより、左側部12Lの壁部121の上下方向Hの長さhlに比べて、右側部12Rの壁部121の上下方向Hの長さhrは短い。上下方向Hの長さとは、壁部121の上下方向Hの最上端から最下端までの距離のことをいう。
【0043】
「切欠き部25」とは、右側部12Rの壁部121に配置される裏面材2の一部が意図的に取り除かれている部分のことをいう。切欠き部25が形成されていることにより、発泡成形品1においては、右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122の裏面側102において発泡体が露出している。
【0044】
裏面材2における、右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122の下側部分に切欠き部25が形成されていることにより、発泡成形品1の成形時に、発泡性原料100が、右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122の下側部分を成形するためのキャビティ53に入り込みやすくなる。また、裏面材2における、右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122の上側部分が残されていることによって、右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122を補強することができ、かつ発泡成形品1の成形時に、裏面材2を上型52に留められる部分を多く確保して、裏面材2を上型52に簡単に配置することができる。
【0045】
図4に示すように、裏面材2における、切欠き部25を形成する縁部のうち、右側部12Rの縁部120から後方に延長された壁部121及び折曲げ部122に配置される部分は、曲線によって構成される凹形状を有している。この構成により、発泡成形品1の成形時の裏面材配置工程において、裏面材2の本体部10に対応するシート部分20に対して、裏面材2の右側部12Rの壁部121に対応するシート部分22が開きにくくすることができ、裏面材2を上型52の中子型部521に安定して配置することができる。
【0046】
切欠き部25が凹形状を有していることにより、裏面材2の右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122に配置されるシート部分22の下側部分の上下方向Hの下端位置は、壁部121と折曲げ部122とにおいて異なっている。また、本形態の凹形状の切欠き部25は、貫通穴15を避けるように貫通穴15の周りに形成されている。
【0047】
(発泡成形品1の成形型5)
図5及び図6に示すように、成形型5は、発泡成形品1を成形するためのものであり、発泡成形品1の一部を成形するための下型51と、下型51に対してヒンジ部54を介して相対的に開閉可能であって発泡成形品1の残部を成形するための上型52とによって構成されている。主に、背もたれ部7の前面側が下型51によって成形され、背もたれ部7の後面側が上型52によって成形される。
【0048】
上型52は、発泡成形品1における壁部111,121の裏面側(内側部分)102を成形するための中子型部521と、中子型部521に連結され、発泡成形品1における壁部111,121の表面側(外側部分)101を成形するための外側型部522とによって構成されている。裏面材2は、上型52の中子型部521に被せるようにして、中子型部521に配置される。裏面材2には、金属製の中子型部521から裏面材2が外れないようにするための鉄粉テープ、マグネット等の磁性部材を設けることができる。磁性部材は、裏面材2の複数箇所に設けることができる。
【0049】
背もたれ部7の右側部12Rの薄肉部としての壁部121を成形するためのキャビティ53の幅T2は、本体部10を成形するためのキャビティ53の幅T1、左側部12Lの壁部121を成形するためのキャビティ53の幅T3、及び上部11の壁部111を成形するためのキャビティ53の幅に比べて小さい。右側部12Rの壁部121を成形するためのキャビティ53の幅T2は、キャビティ53の全体における各部の幅の中で最も小さい。ここで、キャビティ53の幅T1,T2,T3とは、発泡成形品1における本体部10、壁部111,121、折曲げ部112,122の厚さ方向に相当する幅のことをいう。
【0050】
右側部12Rの壁部121を成形するためのキャビティ53の幅T2は、25mm以下である。幅T2が25mm以下であるキャビティ53に裏面材2が配置されると、ヒケが生じやすく、幅T2が15mm以下であるキャビティ53に裏面材2が配置されると、ヒケが特に生じやすくなる。一方、本体部10、上部11の壁部111及び左側部12Lの壁部121を成形するための各キャビティ53の幅T1,T3は、25mmを超えている。なお、裏面材2の厚さは、例えば、2.5~3mmの範囲内とすることができる。
【0051】
(発泡成形品1の成形方法及び作用効果)
発泡成形品1を成形するに当たっては、図5に示すように、下型51及び上型52を有する成形型5を用いて、裏面材配置工程、注入工程及び成形工程を行う。裏面材配置工程においては、下型51に対して上型52が開かれ、切欠き部25が形成された裏面材2が、上型52の中子型部521に被せられ、磁性部材によって中子型部521に貼り付けられる。注入工程においては、図6に示すように、下型51に対して発泡性原料100が注入され、下型51に対して上型52が閉じられる。
【0052】
次いで、成形工程においては、発泡性原料100は、下型51と上型52との間のキャビティ53内に、発泡しながら広がっていく。そして、発泡性原料100は、本体部10付近を成形するためのキャビティ53から、上部11、両側部12R,12L、下部13、壁部111,121及び折曲げ部112,122を成形するためのキャビティ53へと充填されていく。また、キャビティ53内の発泡性原料100は、発泡しながら上方及び側方へ流動していく。
【0053】
発泡性原料100が、上部11の壁部111、及び左側部12Lの壁部121を成形するためのキャビティ53を上方へ流動するときには、発泡性原料100は、裏面材2と下型51の成形面との間を流動する。このとき、特に、上部11の壁部111、及び左側部12Lの壁部121を成形するためのキャビティ53の幅T3は25mmを超えており、発泡性原料100が、発泡による微細な気泡である発泡セルを無数に形成しながら流動し、裏面材2と下型51の成形面との間に充填される。
【0054】
一方、発泡性原料100が、右側部12Rの壁部121を成形するためのキャビティ53を上方へ流動するときには、右側部12Rの壁部121の上側部分においては、発泡性原料100は、裏面材2と下型51の成形面との間を流動する。また、このときに、右側部12Rの壁部121の下側部分においては、裏面材2が配置されていないことにより、発泡性原料100は、上型52の成形面と下型51の成形面との間を流動する。
【0055】
こうして、発泡性原料100は、上型52の中子型部521に配置された裏面材2と下型51の成形面との間のキャビティ53、及び裏面材2の切欠き部25に対応する上型52の中子型部521の成形面と、下型51の成形面との間のキャビティ53に充填され、加熱されて硬化し、発泡による無数の気泡(発泡セル)を有する発泡体となる。そして、裏面材2が本体部10、壁部111,121及び折曲げ部112,122の裏面側102に設けられるとともに、裏面材2の切欠き部25によって右側部12Rの壁部121の裏面側102の下側部分が露出する発泡成形品1が成形される。
【0056】
発泡成形品1の成形方法においては、発泡成形品1における壁部111,121及び折曲げ部112,122に裏面材2が配置される場合に、裏面材2によって壁部111,121及び折曲げ部112,122の発泡成形が阻害されないようにしている。この成形方法において用いる裏面材2の、右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122の裏面側102に配置される部位には、この部位の下側部分が切り欠かれた切欠き部25が形成されている。
【0057】
そして、裏面材配置工程及び注入工程が行われて、成形型5内に裏面材2が配置されたときには、成形型5における、右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122を成形するためのキャビティ53においては、裏面材2が配置された部位と、切欠き部25によって裏面材2が配置されていない部位とが形成される。そして、キャビティ53における、裏面材2が配置されていない部位においては、裏面材2がない分、キャビティ53の幅が大きくなり、発泡性原料100が通過しやすくすることができる。
【0058】
これにより、成形後の背もたれ部7の発泡成形品1において、右側部12Rの壁部121の全体に円滑に発泡性原料100が充填され、右側部12Rの壁部121の全体を構成する部分の微細な気泡(発泡セル)が潰れないようにすることができる。それ故、発泡成形品1の成形方法によれば、発泡成形品1の右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122の表面のヒケの発生を抑制することができる。
【0059】
(発泡成形品1の作用効果)
発泡成形品1における裏面材2の、右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122の裏面側102に配置された部位には、この部位の下側部分が切り欠かれた形状の切欠き部25が形成されている。そして、発泡成形品1においては、右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122の全体を構成する部分の微細な気泡がほとんど潰れていない。それ故、発泡成形品1によれば、発泡成形品1の右側部12Rの壁部121及び折曲げ部122の表面のヒケの発生が抑制された発泡成形品1を得ることができる。また、発泡成形品1に外観不良がほとんど生じず、発泡成形品1の表面側101に表皮が被せられたときにも、表皮に皺が発生せず、表皮の外観を良好に維持することができる。
【0060】
また、背もたれ部7の薄肉部は、右側部12Rの壁部121とする以外にも、左側部12Lの壁部121、又は上部11の壁部111とすることもできる。この場合には、裏面材2における切欠き部25は、左側部12Lの壁部121、又は上部11の壁部111に配置される部位に形成することができる。また、薄肉部は、下部13に形成された壁部とすることもでき、この壁部に、裏面材2における切欠き部25を配置することもできる。
【0061】
本発明は、実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。さらに、本発明から想定される様々な構成要素の組み合わせ、形態等も本発明の技術思想に含まれる。
【0062】
また、本形態の裏面材2が設けられた発泡成形品1は、シートの背もたれ部を構成するものに限定されず、シートの座部(シートクッション)を構成するものとすることもできる。
【符号の説明】
【0063】
1 発泡成形品
101 表面側
102 裏面側
11 上部
111 壁部(薄肉部)
12R 右側部
12L 左側部
121 壁部(薄肉部)
13 下部
2 裏面材
25 切欠き部
3 シートフレーム
31 フレーム部
32 軟質部材
5 成形型
51 下型
52 上型
53 キャビティ
7 背もたれ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6