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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】浸漬ノズル
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20220810BHJP
【FI】
B22D11/10 330G
B22D11/10 330E
B22D11/10 330F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019239381
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107091
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2020-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】新妻 宏泰
(72)【発明者】
【氏名】松長 隆行
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 亮太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 佳吾
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-212725(JP,A)
【文献】特開2005-028387(JP,A)
【文献】特開2001-232449(JP,A)
【文献】特開平08-294757(JP,A)
【文献】特開平11-320046(JP,A)
【文献】特開2007-216272(JP,A)
【文献】国際公開第2005/070589(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/10,41/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状体の鉛直方向側面に少なくとも二つの吐出孔部が設けられた浸漬ノズルであって、
前記有底筒状体の内側における前記吐出孔部の鉛直方向開口幅Viおよび水平方向開口幅Hi、ならびに、前記有底筒状体の外側における前記吐出孔部の鉛直方向開口幅Voおよび水平方向開口幅Hoは、以下の式(1)および式(2)を満たす浸漬ノズル。
Vi/Vo≧1.1 式(1)
Ho/Hi≧1.1 式(2)
【請求項2】
前記吐出孔部の上縁部分と前記有底筒状体の先端部との距離である上縁部分高さについて、前記有底筒状体の内側における前記上縁部分高さLi、前記有底筒状体の外側における前記上縁部分高さLo、および前記有底筒状体の内側と外側との間の任意の位置における前記上縁部分高さLmが、以下の式(3)または式(4)を満たし、
前記吐出孔部の下縁部分と前記有底筒状体の前記先端部との距離である下縁部分高さについて、前記有底筒状体の内側における前記下縁部分高さMi、前記有底筒状体の外側における前記下縁部分高さMo、および前記有底筒状体の内側と外側との間の任意の位置における前記下縁部分高さMmが、以下の式(5)または式(6)を満たす請求項1に記載の浸漬ノズル。
Li<Lm<Lo 式(3)
Li>Lm>Lo 式(4)
Mi<Mm<Mo 式(5)
Mi>Mm>Mo 式(6)
【請求項3】
前記上縁部分高さについて前記式(4)を満たし、前記下縁部分高さについて前記式(5)を満たす請求項2に記載の浸漬ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼などの溶融金属の連続鋳造に使用可能な浸漬ノズルに関する。より詳細には、本発明は浸漬ノズルの吐出孔の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
浸漬ノズルは、タンディッシュからモールドへ溶鋼を供給する際に使用される筒状の耐火物である。その主な役割としては、大気を遮断することによる溶鋼の再酸化の防止、モールド内への安定した溶鋼の供給などがある。
【0003】
吐出孔から吐出された溶鋼流(以下、「吐出流」と記載する。)はモールドの短辺に衝突した後に当該短辺に沿って下降する短辺下降流と、短辺に沿って上昇後にメニスカスをノズル側に向かって流れるメニスカス流とに分岐する。短辺下降流およびメニスカス流の流速は、吐出流が短辺に衝突する際の流速やその衝突位置などに支配される。吐出流がモールドの深部に衝突する場合には、短辺下降流の流速が大きくなる一方、メニスカス流の流速は小さくなる。反対に、衝突位置が浅くなる場合には、短辺下降流の流速は小さくなるが、メニスカス流の流速は大きくなる。メニスカス流の流速が過大な場合、溶鋼の上方側に位置するモールドパウダースラグを巻き込むリスクが増大する。一方、短辺下降流の流速が過大な場合、溶鋼中に混入している介在物やガス気泡などの浮上を阻害し、これらが鋳片に捕捉されてしまうリスクが増大する。いずれの場合も鋼の品質を維持および向上する観点からは好ましくない。そのため、メニスカス流および短辺下降流のいずれの流速も極端に速くならないようにバランスをとる浸漬ノズルの設計がなされてきた。
【0004】
メニスカス流の流速と短辺下降流の流速とを同時に低減させるためには、浸漬ノズルの内管径と吐出孔の開口面積とを大きくすることが最も簡便な手法である。ただし、浸漬ノズルの外形形状はモールド寸法によって決定されているため、浸漬ノズルの内管径を大きくする方法には限度がある。そのため、吐出孔の形状についての種々の検討が従来なされてきた。たとえば特開2009-106968号公報(特許文献1)では、浸漬ノズルを形成する筒状体の内側から外側に向かうに従って水平方向に拡大する形状の吐出孔が開示されている。また、特開2011-212725号公報(特許文献2)では、一般的な浸漬ノズルにおける吐出流の流速が、吐出孔の下側で早く上側で遅いことに着目し、吐出孔の上側からの吐出を促進することによって吐出流の流速を平均化し、吐出流速の最速値を低減する方法が開示されている。特許文献1および2のような技術によって、吐出流の流速を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-106968号公報
【文献】特開2011-212725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のような技術では、筒状体の外側において吐出孔を拡大するにあたって浸漬ノズルの外形形状による制限を受ける場合があった。また、特許文献2のような技術によっても、吐出流の流速を低減する効果が十分ではない場合があった。そのため、特許文献1および2のような技術では、近年の製鋼に求められる高スループット化および高鋼品質化に対応するには不十分であった。
【0007】
そこで、メニスカス流および短辺下降流のいずれの流速も大きく低減しうる浸漬ノズルの実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、吐出流に擾乱効果を与えて吐出流の持つ運動エネルギーを消費させることによって、メニスカス流および短辺下降流のいずれの流速も大きく低減しうることを見出した。そこで、浸漬ノズルの吐出孔部の形状を種々検討し、吐出流に対して擾乱効果を効果的に与えうる吐出孔部の形状条件を明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明に係る浸漬ノズルは、有底筒状体の鉛直方向側面に少なくとも二つの吐出孔部が設けられた浸漬ノズルであって、前記有底筒状体の内側における前記吐出孔部の鉛直方向開口幅Viおよび水平方向開口幅Hi、ならびに、前記有底筒状体の外側における前記吐出孔部の鉛直方向開口幅Voおよび水平方向開口幅Hoは、以下の式(1)および式(2)を満たすことを特徴とする。
Vi/Vo≧1.1 式(1)
Ho/Hi≧1.1 式(2)
【0010】
この構成によれば、メニスカス流および短辺下降流のいずれの流速も大きく低減しうる。その結果として、溶鋼中介在物の鋳片への混入抑制や、湯面変動によるモールドパウダースラグの溶鋼への混入などを抑制し、鋳片の品質を向上しうる。
【0011】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0012】
本発明に係る浸漬ノズルは、前記吐出孔部の上縁部分と前記有底筒状体の先端部との距離である上縁部分高さについて、前記有底筒状体の内側における前記上縁部分高さLi、前記有底筒状体の外側における前記上縁部分高さLo、および前記有底筒状体の内側と外側との間の任意の位置における前記上縁部分高さLmが、以下の式(3)または式(4)を満たし、前記吐出孔部の下縁部分と前記有底筒状体の前記先端部との距離である下縁部分高さについて、前記有底筒状体の内側における前記下縁部分高さMi、前記有底筒状体の外側における前記下縁部分高さMo、および前記有底筒状体の内側と外側との間の任意の位置における前記下縁部分高さMmが、以下の式(5)または式(6)を満たすことが好ましい。
Li<Lm<Lo 式(3)
Li>Lm>Lo 式(4)
Mi<Mm<Mo 式(5)
Mi>Mm>Mo 式(6)
【0013】
この構成によれば、メニスカス流および短辺下降流の流速を低減する効果が一層得られやすい。
【0014】
本発明に係る浸漬ノズルは、前記上縁部分高さについて前記式(4)を満たし、前記下縁部分高さについて前記式(5)を満たすことがさらに好ましい。
【0015】
この構成によれば、メニスカス流および短辺下降流の流速を低減する効果がより一層得られやすい。
【0016】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る浸漬ノズルの鉛直方向断面図
図2】本発明の実施形態に係る浸漬ノズルの水平方向断面図
図3】本発明の実施形態に係る浸漬ノズルの変形例を示す図
図4】本発明の実施形態に係る浸漬ノズルの変形例を示す図
図5】本発明の実施形態に係る浸漬ノズルの変形例を示す図
図6】本発明の実施形態に係る浸漬ノズルの変形例を示す図
図7】本発明の実施形態に係る浸漬ノズルの変形例を示す図
図8】従来の浸漬ノズルの鉛直方向断面図
図9】本発明の実施形態に係る浸漬ノズルのシミュレーション結果
図10】従来の浸漬ノズルのシミュレーション結果
図11】水モデル試験の実施方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る浸漬ノズルの実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る浸漬ノズルを、スラブ連続鋳造機用の浸漬ノズル1に適用した例について説明する。本実施形態では、浸漬ノズル1を通過する溶鋼の質量流量が毎分2.0トン以上であるスラブ連続鋳造機への適用を想定している。
【0019】
〔浸漬ノズルの構成〕
本実施形態に係る浸漬ノズル1は、有底筒状体2の鉛直方向側面21に、一対の吐出孔部3、3が設けられた構造を有する(図1)。図1に示すように、一対の吐出孔部3、3は互いに反対方向に開口している。なお、以下の説明において、図1に示した浸漬ノズル1の使用状態における姿勢、すなわち有底筒状体2の先端部22を下方に配置した姿勢に基づいて上下方向を定義する。
【0020】
有底筒状体2は、外径140mm、内径80mmの有底円筒状に構成されている。有底筒状体2は、厚さ30mmの耐火材料により構成されている。有底筒状体2を構成する耐火材料は、アルミナ、シリカ、スピネル、マグネシア、ジルコニア、ジルコン、カルシウムジルコネートなどの酸化物原料と、黒鉛、カーボンブラック、ピッチなどの炭素原料とを主体とし、炭化ケイ素、炭化ホウ素、ホウ化ジルコニム、アルミニウム、窒化ケイ素、などの非酸化物添加物を一種類または複数種類含んでなる。
【0021】
吐出孔部3は、有底筒状体2の鉛直方向側面21に設けられている(図1図2)。吐出孔部3は、有底筒状体2の半径方向外側から見た形状が、略長方形状に形成されている。吐出孔部3の鉛直方向の開口幅は、有底筒状体2の内側における鉛直方向開口幅Viが、同外側における鉛直方向開口幅Voより大きい(図1)。一方、吐出孔部3の水平方向の開口幅は、有底筒状体2の外側における水平方向開口幅Hoが、同内側における水平方向開口幅Hiより大きい(図2)。より詳細には、各部の寸法は下表の通りである。
【0022】
【表1】
【0023】
上記の寸法関係より、Vi/Vo=1.37であり、Ho/Hi=1.18である。したがって吐出孔部3の開口寸法は、以下の式(1)および(2)を満たす。
Vi/Vo≧1.1 式(1)
Ho/Hi≧1.1 式(2)
【0024】
吐出孔部3の上縁部分31は、その鉛直方向断面において、有底筒状体2の内側から外側に向けて下方に延びる直線状に形成されている(図1)。したがって、吐出孔部3の上縁部分31と有底筒状体2の先端部22との距離である上縁部分高さについて、内側上縁部分31aの上縁部分高さLiは、外側上縁部分31bの上縁部分高さLoより大きい。また、内側上縁部分31aと外側上縁部分31bとの間の任意の位置31cにおける上縁部分高さLmは、内側上縁部分31aの上縁部分高さLiより小さく、外側上縁部分31bの上縁部分高さLoより大きい。すなわち、上縁部分高さLi、Lo、およびLmは以下の式(4)を満たす。
Li>Lm>Lo 式(4)
【0025】
吐出孔部3の下縁部分32は、その鉛直方向断面において、有底筒状体2の内側から外側に向けて上方に延びる直線状に形成されている(図1)。したがって、吐出孔部3の下縁部分32と有底筒状体2の先端部22との距離である下縁部分高さについて、内側下縁部分32aの下縁部分高さMiは、外側下縁部分32bの下縁部分高さMoより小さい。また、内側下縁部分32aと外側下縁部分32bとの間の任意の位置32cにおける下縁部分高さMmは、内側下縁部分32aの下縁部分高さMiより大きく、外側下縁部分32bの下縁部分高さMoより小さい。すなわち、下縁部分高さMi、Mo、およびMmは以下の式(5)を満たす。
Mi<Mm<Mo 式(5)
【0026】
なお、本実施形態における上縁部分31および下縁部分32の各部寸法は下表の通りである。
【0027】
【表2】
【0028】
〔変形例〕
以下では、本発明に係る浸漬ノズルの吐出孔部の形状について、変形例を示す。なお、上記の実施例と同様の部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0029】
図3に示した変形例では、吐出孔部3の下縁部分33が、有底筒状体2の内側から外側に向けて下方に延びる直線状に形成されている。すなわち、下縁部分の延出方向が上記の実施形態とは反転している。なお、上縁部分31は上記の実施形態と同様である。したがって、図3に示した変形例では以下の式(4)および式(6)が成立する。
Li>Lm>Lo 式(4)
Mi>Mm>Mo 式(6)
【0030】
図4に示した変形例では、吐出孔部3の上縁部分34が、有底筒状体2の内側から外側に向けて上方に延びる直線状に形成されている。すなわち、上縁部分の延出方向が上記の実施形態とは反転している。なお、下縁部分35は、傾斜角の大きさが上記の実施形態における下縁部分32と異なるが、下縁部分高さの関係については上記の実施形態と同様である。したがって、図3に示した変形例では以下の式(3)および式(5)が成立する。
Li<Lm<Lo 式(3)
Mi<Mm<Mo 式(5)
【0031】
図5に示した変形例では、吐出孔部3の上縁部分36が、その鉛直方向断面において、有底筒状体2の内側から外側に向けて下方に延びる二本の直線361、362が接続点363において接続された形状に形成されている。ただし、内側の直線361および外側の直線362はいずれも有底筒状体2の内側から外側に向けて下方に延びているので、上縁部分36の全域にわたって上記の式(4)が成立する。
【0032】
図6に示した変形例では、吐出孔部3の上縁部分37が、その鉛直方向断面において、
有底筒状体2の内側から外側に向けて下方に延びる曲線371と、当該曲線と連続して下方に延びる直線372とが接続点373で接続された形状に形成されている。ただし、曲線371および直線372はいずれも有底筒状体2の内側から外側に向けて下方に延びているので、上縁部分37の全域にわたって上記の式(4)が成立する。
【0033】
図7に示した変形例では、吐出孔部3の下縁部分38が、その鉛直方向断面において、有底筒状体2の内側から外側に向けて水平に延びる直線状に形成されている。なお、上縁部分31は上記の実施形態と同様である。したがって、図3に示した変形例では上記の式(4)と、以下の式(7)とが成立する。
Mi=Mm=Mo 式(7)
【0034】
なお、以上に説明したいずれの変形例においても、吐出孔部3の鉛直方向開口幅および水平方向開口幅に係る式(1)および式(2)は、上記の実施形態と同様に成立する。
Vi/Vo≧1.1 式(1)
Ho/Hi≧1.1 式(2)
【0035】
〔その他の実施形態〕
以下では、本発明に係る浸漬ノズルのその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0036】
上記の実施形態では、吐出孔部3が、有底筒状体2の半径方向外側から見て略長方形状に形成されている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る吐出孔部を有底筒状体の外側から見た形状は、矩形状、楕円状、長円状などでありうる。
【0037】
上記の実施形態では、互いに反対方向に開口している一対の吐出孔部3、3が設けられている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る浸漬ノズルにおいて、吐出孔部は三つ以上設けられていてもよい。ただし、多くのモールドが長方形状に構成されているので、互いに反対方向に開口している一対の吐出孔部を設けると、モールドの長辺に沿って溶鋼を吐出できる。これによって、モールドの長辺に直接に衝突する吐出流が生じにくいので、モールドの損傷を抑制しやすい。
【0038】
上記の実施形態では、有底筒状体2が、外径140mm、内径80mmの有底円筒状に構成されている構成を例として説明した。しかし、本発明に係る浸漬ノズルにおいて、有底筒状体の形状は特に限定されない。たとえば、有底筒状体の内管部分の形状は、径が部分的に縮径している構造、半球状や液滴状などの形状の突起を複数有する形状、液滴状の突起が円周方向に連続した形状、などでありうる。また、有底筒状体の内管部分に通気性の高い材質が配置され、鋳造中に内管からガス吹きを行う機能が付与されていてもよい。なお、有底筒状体の寸法は、浸漬ノズルの使用条件(溶鋼の流量など)を考慮して決定される。
【0039】
上記の実施形態では、浸漬ノズル1を通過する溶鋼の質量流量が毎分2.0トン以上であるスラブ連続鋳造機への適用を想定した構成について説明した。しかし、本発明に係る浸漬ノズルを通過する溶鋼の質量流量は、特に限定されない。ただし、当該質量流量が毎分2.0トン以上であると、メニスカス流および短辺下降流の流速が低減される効果が特に発現しやすい点で好ましい。なお、当該質量流量が毎分2.5トン以上であることがより好ましい。
【0040】
上記の実施形態では、本発明に係る浸漬ノズルをスラブ連続鋳造機用に用いた例について説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る浸漬ノズルは、スラブ連続鋳造機用のほか、ブルーム連続鋳造機にも使用できる。
【0041】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例
【0042】
以下では、本発明に係る浸漬ノズルの非限定的な実施例を示して、本発明をさらに説明する。
【0043】
〔コンピュータシミュレーションによる乱流エネルギー解析〕
上記の実施形態に係る浸漬ノズル1(図1、実施例)および従来の形状の吐出孔部5を有する浸漬ノズル10(図8、比較例)について、吐出孔部周辺における吐出流の乱流エネルギー値分布に係るコンピュータシミュレーションを行った。なお、比較例の浸漬ノズル10では吐出孔部5の上縁部分51と下縁部分52とが平行に形成されており、したがってVi=Voであり、Vi/Vo=1.0である。また、図示は省略するが、Hi=Hoであり、Hi/Ho=1.0である。なお、本シミュレーションでは、浸漬ノズルを通過する溶鋼の質量流量を毎分2.0トンとした。
【0044】
本発明の実施形態に係る浸漬ノズル1に係る吐出流Fのコンピュータシミュレーション結果を、図9に示した。図9では、吐出孔部3の外側において明瞭な乱流エネルギーの集中Faが認められる。一方、従来の形状の吐出孔部5を有する浸漬ノズル10に係る吐出流Fのコンピュータシミュレーション(図10)では、図9で見られたような乱流エネルギーの集中は見られなかった。
【0045】
以上のシミュレーション結果から、本発明に係る浸漬ノズルでは、吐出流の運動エネルギーが乱流エネルギーとして消費されていることがわかる。本発明に係る浸漬ノズルでは、このエネルギー消費によって、メニスカス流および短辺下降流の流速が、従来の浸漬ノズルを用いた場合よりも大幅に低減されると考えられる。
【0046】
〔水モデル試験〕
上記の実施形態と同様に、外径140mm、内径80mmの有底筒状体の鉛直方向側面に一対の吐出孔部が設けられた浸漬ノズルを作成した。なお、実施例および比較例の各例における吐出孔部の寸法については後述する。浸漬ノズルの先端を、240mm×1400mmのモールドCに貯留した水中に進入させたのちに、当該浸漬ノズルから毎分700kgの水(溶鋼換算毎分5トン)を流出させた(図11)。水を流出させ始めてから15分以上経過した後に、プロペラ式の流速計を用いてメニスカス流および短辺下降流の流速を測定した。
【0047】
まず、標準例(比較例1)として、従来の形状の吐出孔部5を有する浸漬ノズル10(図7)についての試験を行い、メニスカス流および短辺下降流の流速を測定した。比較例1では、Vi/Vo=1.0であり、Hi/Ho=1.0である。以降の試験例(実施例および比較例)では、メニスカス流および短辺下降流の流速を、比較例1におけるメニスカス流および短辺下降流の流速をそれぞれ100とする指数値で表し、当該指数値に基づいて各試験例を以下のように評価した。
評価A:メニスカス流および短辺下降流の双方で指数値95未満
評価B:メニスカス流および短辺下降流の少なくとも一方で指数値95以上
【0048】
下記の表3では、Ho/HiおよびVi/Voの値を種々変更した実施例1~6および比較例1~3について、メニスカス流および短辺下降流の流速の指数値を示した。なお、実施例1~6および比較例1~3の浸漬ノズルにおいて、吐出孔部3の上縁部分および下縁部分の延出方向は図1と同様である。すなわち、鉛直方向断面において、上縁部分は有底筒状体の内側から外側に向けて下方に延びる直線状に形成され、下縁部分は同内側から外側に向けて上方に延びる直線状に形成されている。
【0049】
実施例1~6に示すように、Ho/HiおよびVi/Voの値が式(1)および式(2)を満たす場合に、メニスカス流および短辺下降流の双方の流速が効果的に低減された。一方、式(1)および式(2)の少なくとも一方を満たさない比較例1~3では、十分な流速低減効果が得られなかった。
Vi/Vo≧1.1 式(1)
Ho/Hi≧1.1 式(2)
【0050】
【表3】
【0051】
また、下記の表4では、Ho/HiおよびVi/Voの値を一定とし、吐出孔部の下縁部分の形状を変更した実施例4、7、および8について、メニスカス流および短辺下降流の流速の指数値を示した。実施例4、7、および8の下縁部分の形状は、それぞれ図1図7、および図3に対応する。すなわち、実施例4では以下の式(5)が成立し、実施例5では以下の式(7)が成立し、実施例8では以下の式(6)が成立する。
Mi<Mm<Mo 式(5)
Mi>Mm>Mo 式(6)
Mi=Mm=Mo 式(7)
【0052】
実施例4、7、および8に示すように、吐出孔部の下縁部分の形状に関わらず、メニスカス流および短辺下降流の双方の流速が効果的に低減された。なお、メニスカス流の流速の低減については実施例8が最も優れており、短辺下降流の流速の低減については実施例4が最も優れていた。したがって、短辺下降流の流速を特に低減したい場合は、吐出孔部の下縁部分が上方に延出する形状を採用すればよいことがわかった。
【0053】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、たとえばスラブ連続鋳造機用の浸漬ノズルに利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 :浸漬ノズル
2 :有底筒状体
21 :有底筒状体の鉛直方向側面
22 :有底筒状体の先端部
3 :吐出孔部
31 :上縁部分
32 :下縁部分
33 :下縁部分(変形例)
34 :上縁部分(変形例)
35 :下縁部分(変形例)
36 :上縁部分(変形例)
37 :上縁部分(変形例)
38 :下縁部(変形例)
Hi :水平方向開口幅(内側)
Ho :水平方向開口幅(外側)
Vi :鉛直方向開口幅(内側)
Vo :鉛直方向開口幅(外側)
Li :上縁部分高さ(内側)
Lm :上縁部分高さ(内側と外側の間の位置)
Lo :上縁部分高さ(外側)
Mi :下縁部分高さ(内側)
Mm :下縁部分高さ(内側と外側の間の位置)
Mo :下縁部分高さ(外側)
F :吐出流(シミュレーション)
Fa :乱流エネルギーの集中(シミュレーション)
C :モールド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11