(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】茶類飲料用沈殿抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23F 3/16 20060101AFI20220810BHJP
【FI】
A23F3/16
(21)【出願番号】P 2018055584
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】淺井 裕司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 名苗
(72)【発明者】
【氏名】久礼 昭二
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-502573(JP,A)
【文献】特表平08-504590(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031858(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/103987(WO,A1)
【文献】特表平08-504591(JP,A)
【文献】特開昭62-228227(JP,A)
【文献】特開2000-300226(JP,A)
【文献】特表2015-528280(JP,A)
【文献】特開平03-216150(JP,A)
【文献】Matcha Latte,Mintel GNPD, [online], ID#4338897: ,2016年10月,[Retrieved on 28-06-2022],Retrieved from the internet: <URL:https://portal.mintel.com>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00-5/50
A23L 2/00-2/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆、エンドウ豆またはアラビアゴムノキ由来の水溶性多糖類を有効成分として含有する茶類飲料用沈殿抑制剤を、大豆、エンドウ豆またはアラビアゴムノキ由来の水溶性多糖類として茶類の固形分に対して1~10重量%含有する、茶類飲料の固形分濃度が7~13重量%である茶類飲料。
【請求項2】
大豆、エンドウ豆またはアラビアゴムノキ由来の水溶性多糖類を有効成分として含有する茶類飲料用沈殿抑制剤を、大豆、エンドウ豆またはアラビアゴムノキ由来の水溶性多糖類として茶類の固形分に対して1~10重量%添加することを特徴とする、茶類飲料の固形分濃度が7~13重量%である茶類飲料の製造方法。
【請求項3】
大豆、エンドウ豆またはアラビアゴムノキ由来の水溶性多糖類を有効成分として含有する茶類飲料用沈殿抑制剤を、大豆、エンドウ豆またはアラビアゴムノキ由来の水溶性多糖類として茶類の固形分に対して1~10重量%添加することを特徴とする、茶類飲料の固形分濃度が7~13重量%である茶類飲料の沈殿抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶類飲料用沈殿抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
紅茶、緑茶、ウーロン茶等の茶類飲料は、茶類を熱水抽出することにより得られる。これらの茶類飲料に含まれるタンニンが蛋白質等の夾雑物と反応して不溶性の凝集沈澱が発生する。クリームダウンと呼ばれるこの現象は、特に希釈して飲料に供するような高濃度の茶類抽出液ほど発生しやすい傾向にある。こうした沈殿は飲料としての見栄えを損ない、商品価値を著しく低下させるので問題であった。
【0003】
このような沈殿を抑制する技術として、茶類抽出液にカラギーナンを添加し沈殿発生を防止する方法(特許文献1)、また、微細セルロースと親水性高分子の複合体を添加する方法(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-316475号公報
【文献】特開2004-313124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では飲料に顕著な増粘傾向を示す場合があった。また、特許文献2の技術では高圧ホモゲナイザーによる処理が必要であり、単に飲料とセルロース、親水性高分子を混合するだけでは効果が得られず、簡便性の面で問題があった。
本発明は、茶類抽出液を保存したときに発生する沈殿を簡便な方法で抑制する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題の解決に対し鋭意検討を重ねた結果、豆科植物由来の水溶性多糖類を含有する沈殿抑制剤を、ホモゲナイザーで均質化処理する等の煩雑な工程を経ず、単に茶類飲料に添加することで、茶類飲料の沈殿を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)豆科植物由来の水溶性多糖類を有効成分として含有する、茶類飲料用沈殿抑制剤、
(2)豆科植物が、大豆、エンドウ豆またはアラビアゴムノキである、(1)記載の茶類飲料用沈殿抑制剤、
(3)(1)または(2)記載の茶類飲料用沈殿抑制剤を、豆科植物由来の水溶性多糖類として茶類の固形分に対して0.1~20重量%含有する茶類飲料、
(4)(1)または(2)記載の茶類飲料用沈殿抑制剤を豆科植物由来の水溶性多糖類として、茶類の固形分に対して0.1~20重量%添加することを特徴とする、茶類飲料の製造方法、
(5)(1)または(2)記載の茶類飲料用沈殿抑制剤を、豆科植物由来の水溶性多糖類として茶類の固形分当たり0.1~20重量%添加する、茶類飲料の沈殿抑制方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、茶類飲料の保存時の沈殿の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(茶類飲料用沈殿抑制剤)
本発明の茶類飲料用沈殿抑制剤は、豆科植物由来の水溶性多糖類を含有することを特徴とする。茶類飲料は例えば、調製後冷蔵保存した場合に凝集沈殿する現象が見られるが、本発明の茶類飲料用沈殿抑制剤を茶類飲料に添加することにより、凝集沈殿を大幅に抑制することができる。
このような凝集沈殿は、茶類飲料を冷蔵保存(例えば10℃以下)をした場合等茶類飲料が冷やされた状態になった場合に起こりやすい。従って、例えば、常温で保存していた茶類飲料に氷を入れる等して茶類飲料が例えば10℃以下となるような冷やされた状態になった場合も凝集沈殿が起こるため、このような態様の凝集沈殿も本発明の対象となる。
また、本発明の沈殿抑制剤を茶類飲料に添加しても、茶類飲料の粘度に影響を与えることはなく飲み口もすっきりとし良好なものである。
【0010】
本発明の茶類として、紅茶、緑茶、ウーロン茶、煎茶、抹茶、白茶、ほうじ茶、テン茶、プーアル茶、グァバ茶、ウコン茶、ハーブティ等が挙げられる。好ましくは、紅茶またはウーロン茶である。
また、本発明の茶類飲料は、上記茶類を熱水抽出するか、熱水中で茶類を煮出すことにより得ることができ、これらの液をさらに濃縮することもできる。また、これらの液を一旦乾燥したものを、水等の液体に溶解することで得ることもできる。
茶類の固形分の濃度は特に限定されないが、概ね、0.3~15重量%である。本発明において、茶類飲料の固形分の濃度が高い方がより本発明の効果が発揮される傾向にあることから、好ましくは1~15重量%、より好ましくは3~15重量%、さらに好ましくは5~15重量%、さらにより好ましくは7~13重量%である。
本発明の茶類飲料は、茶葉から抽出等して得たものをそのまま飲用することができるが、高濃度のものを適宜液体で希釈して飲用することもできる。希釈する液体としては、水、牛乳、豆乳、果汁、野菜汁等が例示できる。
本発明の茶類飲料には、本発明の効果に影響を与えない範囲で、糖類、pH調整剤、安定剤、塩類、香料、酸味料等の食品素材や添加剤を添加することができる。
【0011】
本発明の茶類飲料用沈殿抑制剤は、茶類の固形分に対して、豆科植物由来の水溶性多糖類として好ましくは0.1~20重量%、より好ましくは1~10重量%である。茶類飲料用沈殿抑制剤の添加量が少なすぎると本発明の効果が発揮されない場合があり、添加量が多すぎても本発明の効果に差がでない且つ茶類飲料本来の風味を損なう場合がある。
茶類飲料用添加抑制剤を添加するタイミングは特に限定されない。茶類飲料に添加する他、例えば、茶葉からの抽出時に添加すること等茶類飲料を製造する過程の任意のタイミングで添加することができる。
【0012】
(豆科植物由来の水溶性多糖類)
本発明の茶類飲料用沈殿抑制剤に用いる豆科植物由来の水溶性多糖類は、大豆、エンドウ豆、小豆、ササゲ、インゲン豆、ソラ豆、ヒヨコ豆、レンズ豆、アラビアゴムノキ等の豆科植物より得ることができ、これらは1種、または2種以上を併用して使用することができる。好ましくは、大豆、エンドウ豆またはアラビアゴムノキ由来のものである。
水溶性多糖類が大豆由来のものである場合の製造法の好ましい一例を示すと以下の通りである。おから等の大豆由来の原料を酸性乃至アルカリ性の条件下、好ましくはpH3~6で、温度として好ましくは80℃以上130 ℃以下、より好ましくは100℃を超え、130 ℃以下にて加熱分解して水溶性大豆多糖類を抽出し、これを遠心分離等で固液分離することで水溶性画分を得る。この水溶性画分をそのまま乾燥するか、例えば活性炭処理或いは樹脂吸着処理或いはエタノール沈澱処理して疎水性物質あるいは低分子物質を除去した後乾燥することによって、水溶性大豆多糖類を得ることができる。
また、水溶性多糖類がエンドウ豆由来のものである場合、例えば、国際公開WO2012/176852号や国際公開WO2014/103833号に記載の方法で水溶性エンドウ多糖類を得ることができる。
【0013】
本発明の茶類飲料は、缶、瓶、紙パック、ペットボトル容器等に充填され、冷蔵で流通、保存される。
この過程で、従来の茶類飲料では沈殿の発生があったが、本発明の茶類飲料は沈殿が抑制されるので、商品価値を低下させることなく一般家庭やコンビニエンスストア、量販店、飲食店等に提供することが可能となる。
【実施例】
【0014】
以下に実施例を記載することで本発明を説明する。尚、例中の部及び%は特に断らない限り重量基準を意味するものとする。
【0015】
(実施例1~6、比較例1~4)
「紅茶エキスパウダーN」及び「ウーロン茶エキスU1」(佐藤食品工業社製)を固形分濃度が10%になるよう水に溶解し、水溶性大豆多糖類(「ソヤファイブ-S-DA100」、不二製油株式会社製)を茶類の固形分に対して、0、0.02、1、5、10%となるよう添加し溶解して、茶類飲料を得た。この飲料を容器(110ml容のスクリュー管瓶)に入れ、湯浴中で80℃, 20分間加温し、4℃、7日間保存後、沈殿の有無を観察した。
沈殿の有無について、パネル6名で以下に示す評価基準に基づいて評価し、合議により評価点を決定した。評価結果を表1に示した。
【0016】
(沈殿の評価基準)
4点:沈殿がなく非常に良好である。
3点:わずかに沈殿があるが問題ないレベルで、良好である。
2点:やや沈殿が多く、やや不良である。
1点:沈殿が多く、不良である。
評価点が、3点以上の場合、合格と判断した。
【0017】
【0018】
実施例1~6の飲料では沈殿がなく良好な状態であった。また、実施例1~6の飲料は、飲み口がすっきりとしたものであった。一方、沈殿抑制剤が無添加の比較例2や4の飲料では沈殿が多く不良であった。また、沈殿抑制剤の添加量が低すぎると比較例1や3のように効果が不十分な結果となった。比較例1~4の飲料を振とうして沈殿物の再分散を試みたが、凝集物を完全には再分散させることができなかった。
【0019】
(実施例7~18、比較例5~21)
水溶性多糖類として、下記に示す製造例1の水溶性エンドウ多糖類、アラビアガム(商品名「アラビックコールSS」、三栄薬品貿易社製)、カルボキシメチルセルロース(商品名「セロゲン」、第一工業製薬社製)を用いる以外は実施例1と同様にして、茶類飲料を製造し、評価を行った。評価結果を表2~4に示した。
【0020】
(製造例1)水溶性エンドウ多糖類の製造例
エンドウの種子50kgを脱皮した後、5倍量の水を加えて24時間浸漬した。ホモミキサー(5,000rpm, 30分間)にて種子を砕き、蛋白質と澱粉を抽出した。遠心濾過機を用いて1,500×g,20分間で水に分散している蛋白質や澱粉などの成分を除去し、繊維質を回収した。更に、繊維質に5倍量の水を加えてホモミキサー(3,000rpm, 30分間)で攪拌し、遠心濾過(1,500×g,20分間)により繊維質を回収した。この操作を2回繰り返し、凍結乾燥して10kgのエンドウ繊維を得た。エンドウ繊維80部を920部の水に分散し、塩酸を用いてpH5に調整した後、120℃にて90分間加熱して水溶性エンドウ多糖類を抽出した。エンドウ繊維100部に対して0.2部に相当するアミラーゼ(Fungamyl:ノボザイム社製)を抽出液に添加し、澱粉を分解した後、不溶性繊維を遠心分離(5,000rpm, 30分間)にて除去して上清を回収した。この上清に60重量%になるようにエタノールを加えて水溶性エンドウ多糖類を沈殿させ、90重量%の含水エタノールで精製し、得られた沈殿を風乾して水溶性エンドウ多糖類を得た。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
表2~4の結果が示すように、沈殿抑制剤として水溶性エンドウ多糖類やアラビアガムを用いた場合にも良好な結果が得られた。一方、カルボキシメチルセルロースを用いた場合、効果がない結果が得られた。