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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルスコーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20220810BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20220810BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220810BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220810BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220810BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20220810BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20220810BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D5/14
C09D7/61
C09D7/20
C09D5/02
B05D5/00 Z
B05D3/00 D
B05D7/24 302A
B05D7/24 303B
B05D7/24 302B
B05D7/24 302Y
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020197442
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085649
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2021-04-01
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】522184121
【氏名又は名称】日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】安東 弘喜
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 泰士
(72)【発明者】
【氏名】阿部 洋太郎
(72)【発明者】
【氏名】西尾 正浩
(72)【発明者】
【氏名】村田 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】高木 洋二
(72)【発明者】
【氏名】高見 浩輔
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/052986(WO,A1)
【文献】特開2002-060687(JP,A)
【文献】特開2008-080253(JP,A)
【文献】特開2010-209337(JP,A)
【文献】特開2006-232729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
A01N 1/00- 65/48
A01P 1/00- 23/00
B05D 1/00- 7/26
B32B 1/00- 43/00
B01J35/00- 35/12
C01G 1/00- 23/08
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系バインダー(A)、光触媒型酸化チタン(B)、アルコール(C)及び水を含み、
前記無機系バインダー(A)は、酸性タイプであり、
前記無機系バインダー(A)は、シリカ微粒子であり、
前記無機系バインダー(A)に対する前記光触媒型酸化チタン(B)の質量比[(B)/(A)]は、0.5~5.0の範囲にあり、
水の含有率が、5質量%以上である、
抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
【請求項2】
前記無機系バインダー(A)に対する前記光触媒型酸化チタン(B)の質量比[(B)/(A)]は、0.5以上2.5未満である、請求項1に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
【請求項3】
前記シリカ微粒子の平均一次粒子径は、3~50nmである、請求項1又は2に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
【請求項4】
前記光触媒型酸化チタン(B)は、銀及び銅並びに水酸化第四アンモニウムを含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
【請求項5】
前記アルコール(C)は、炭素数1~7のアルコールを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
【請求項6】
前記アルコール(C)は、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール及びプロピレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
【請求項7】
水の含有率が、25.89質量%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
【請求項8】
更に、界面活性剤を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤である、請求項に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
【請求項10】
更に、消色性色素を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物により形成された、抗菌・抗ウイルスコーティング層。
【請求項12】
基材と、該基材の表面に請求項11に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング層とを含む物品。
【請求項13】
被塗物に、請求項1~10のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物を、該抗菌・抗ウイルスコーティング組成物の乾燥後の質量が0.02~0.20g/mとなるように塗装して抗菌・抗ウイルスコーティング層を形成する工程、を含む、抗菌・抗ウイルスコーティング層の形成方法。
【請求項14】
前記抗菌・抗ウイルスコーティング層の形成は、前記抗菌・抗ウイルスコーティング組成物を、浸漬塗装、刷毛塗装、布を用いての塗装、ローラー塗装、ロールコーター塗装、スプレー塗装、カーテンフローコーター塗装、ローラーカーテンコーター塗装及びダイコーター塗装からなる群から選ばれる少なくとも1つの方法により塗装することにより行われる、請求項13に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング層の形成方法。
【請求項15】
前記スプレー塗装は、エアゾールスプレー塗装又は非エアゾールスプレー塗装である、請求項14に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング層の形成方法。
【請求項16】
前記布を用いての塗装は、前記抗菌・抗ウイルスコーティング組成物を布に含浸させ、被塗物の表面を拭くことにより行われる、請求項14に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗ウイルスコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型インフルエンザ等のウイルスやO157等の細菌による感染症は、人間の生命を脅かす事態となっており、抗ウイルス機能及び/又は抗菌機能を備えた商品へのニーズが高まっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、少なくとも樹脂及び硬化剤を含有する粉体塗料母粒子の表面に、銀、銅、亜鉛あるいはこれらの錯体を含有する抗菌性無機微粒子が付着していることを特徴とする抗菌性粉体塗料について記載されている。また、特許文献2には、抗菌性金属成分と該抗菌性金属成分以外の金属酸化物とを含む抗菌剤が粉体塗料粒子表面に付着された抗菌性粉体塗料について記載されている。また、特許文献3には、負の電荷を有する無機酸化物コロイド粒子に抗菌性金属成分を付着せしめた抗菌性無機酸化物コロイド溶液からなる抗菌剤について記載されている。また、特許文献4には、所定構造のアミン化合物を含む組成物が抗ウイルス活性に優れることが記載されている。更に、特許文献5には、被コーティング材表面に、チタン化合物とアンモニア水溶液との反応により得られた水酸化チタンを含有する溶液を、該溶液の沸点以下の温度で加熱処理した酸化チタン溶液を用いた光触媒コーティング材料について記載されており、それを塗布・乾燥して得られた光触媒被膜は抗菌性を有することが記載されている。
【0004】
また、次亜塩素酸や過酸化水素等の薬剤を使用して、ウイルスや微生物に対抗することも試みられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平09-263715号公報
【文献】特開平10-168346号公報
【文献】特開平6-80527号公報
【文献】特開2020-125259号公報
【文献】特開2005-219967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~4に記載されている組成物では、いずれも抗菌性又は抗ウイルス性の持続性に問題のあることが分かった。また、特許文献5に記載されている組成物では、抗菌性は持続するものの、被塗物に十分に定着せず、耐久性(水ラビング耐性)に劣ることが分かった。
【0007】
一方、次亜塩素酸や過酸化水素水等の薬剤は、人体又は環境に与える影響が大きく、抗菌性又は抗ウイルス性の持続性にも問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような問題点に着目したものであり、水ラビング耐性を有する抗菌・抗ウイルスコーティング層を形成できる抗菌・抗ウイルスコーティング組成物であり、更に貯蔵安定性及び塗装時の作業性が良好な抗菌・抗ウイルスコーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下の[1]~[16]を提供する。
[1]
無機系バインダー(A)、光触媒型酸化チタン(B)及びアルコール(C)を含み、
前記無機系バインダー(A)は、酸性タイプであり、
前記無機系バインダー(A)に対する前記光触媒型酸化チタン(B)の質量比[(B)/(A)]は、0.5~5.0の範囲にある、
抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
[2]
前記無機系バインダー(A)は、ケイ素化合物系バインダーを含む、[1]に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
[3]
前記無機系バインダー(A)は、コロイダルシリカ及びアルキルシリケートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]又は[2]に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
[4]
前記光触媒型酸化チタン(B)は、銀及び銅並びに水酸化第四アンモニウムを含有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
[5]
前記アルコール(C)は、炭素数1~7のアルコールを含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
[6]
前記アルコール(C)は、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール及びプロピレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
[7]
更に、水を含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
[8]
更に、界面活性剤を含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
[9]
前記界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤である、[8]に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
[10]
更に、消色性色素を含む、[1]~[9]のいずれか1つに記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物。
[11]
[1]~[10]のいずれか1つに記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物により形成された、抗菌・抗ウイルスコーティング層。
[12]
基材と、該基材の表面に[11]に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング層とを含む物品。
[13]
被塗物に、[1]~[10]のいずれか1つに記載の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物を、該抗菌・抗ウイルスコーティング組成物の乾燥後の質量が0.02~0.20g/mとなるように塗装して抗菌・抗ウイルスコーティング層を形成する工程、を含む、抗菌・抗ウイルスコーティング層の形成方法。
[14]
前記抗菌・抗ウイルスコーティング層の形成は、前記抗菌・抗ウイルスコーティング組成物を、浸漬塗装、刷毛塗装、布を用いての塗装、ローラー塗装、ロールコーター塗装、スプレー塗装、カーテンフローコーター塗装、ローラーカーテンコーター塗装及びダイコーター塗装からなる群から選ばれる少なくとも1つの方法により塗装することにより行われる、[13]に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング層の形成方法。
[15]
前記スプレー塗装は、エアゾールスプレー塗装又は非エアゾールスプレー塗装である、[14]に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング層の形成方法。
[16]
前記布を用いての塗装は、前記抗菌・抗ウイルスコーティング組成物を布に含浸させ、被塗物の表面を拭くことにより行われる、[14]に記載の抗菌・抗ウイルスコーティング層の形成方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水ラビング耐性を有する抗菌・抗ウイルスコーティング層を形成できる抗菌・抗ウイルスコーティング組成物であり、更に、貯蔵安定性及び塗装時の作業性、特に被塗物への濡れ性が良好な抗菌・抗ウイルスコーティング組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[抗菌・抗ウイルスコーティング組成物]
本発明の抗菌・抗ウイルスコーティング組成物(以下、「コーティング組成物」と称することもある)は、無機系バインダー(A)、光触媒型酸化チタン(B)及びアルコール(C)を含み、
前記無機系バインダー(A)は、酸性タイプであり、
前記無機系バインダー(A)に対する前記光触媒型酸化チタン(B)の質量比[(B)/(A)]は、0.5~5.0の範囲にある、。
【0012】
なお、本開示において、抗菌性とは、菌を不活性化する性質をいい、例えば、JISR 1752(2020)の抗菌活性値により評価することができる。また、抗ウイルス性とは、ウイルスを不活性化する性質をいい、例えば、JIS R 1756(2020)の抗ウイルス活性値により評価することができる。
【0013】
<無機系バインダー(A)>
本発明のコーティング組成物が無機系バインダー(A)を含むことにより、該組成物から形成される抗菌・抗ウイルスコーティング層(以下、「コーティング層」と称することもある)は、良好な耐久性、具体的には、水ラビング耐久性を有し、良好な抗菌・抗ウイルス性を維持できる。例えば、コーティング層において、日常的な水拭きに対する耐久性も向上する。また、無機系バインダー(A)は、光触媒型酸化チタン(B)と用いた場合であっても分解が生じにくい。このため、無機系バインダー(A)を用いると、コーティング組成物の劣化、特に長期的な使用においても劣化が生じにくい。
なお、本開示において、水ラビング耐性とは、日常の手入れ、具体的には、水を含ませた布でコーティング層の表面を拭いた場合に、光触媒がコーティング層に保持されること、言い換えると、抗菌性及び抗ウイルス性を持続できることをいう。例えば、本発明の抗ウイルスコーティング組成物から形成されたコーティング層は、水を含ませた布でコーティング層の表面を拭いた場合に剥落も生じにくい。
【0014】
無機系バインダー(A)としては、酸性タイプのものを用いる。酸性タイプのものを用いることにより、コーティング組成物は安定に存在し得る。ここで、コーティング組成物が安定であるとは、例えば、コーティング組成物を静置した場合に、無機系バインダー(A)や光触媒型酸化チタン(B)等の沈降が生じにくいことをいう。言い換えると、コーティング組成物の貯蔵安定性が良好である。
なお、酸性タイプとは、無機系バインダー(A)が酸性領域にある際に安定に存在し得るものをいう。例えば、後述するシリカ微粒子の懸濁液であれば、酸性タイプとは、酸性領域(例えば、pH2.0~5.0)においてゲル化しにくいことをいう。
【0015】
無機系バインダー(A)の含有量は、コーティング組成物に対し、例えば、0.05~5.0質量部が好ましく、0.5~3.0質量部がより好ましい。無機系バインダー(A)の含有量が0.05質量部未満の場合には、形成されるコーティング層が十分なラビング耐久性を有しないおそれがあり、また、5.0質量部を超えるとコーティング層の外観の低下、例えば、色相変化(例えば、厚膜化による白化)の度合いが大きくなるおそれがある。また、上記のような範囲にあることにより、コーティング組成物は安定に存在し得る。なお、本開示において、無機系バインダー(A)の含有量は、コーティング組成物の総質量に対する無機系バインダー(A)の固形分質量又は有効成分質量を意味し、具体的には、無機系バインダー(A)がケイ素化合物の場合には有効成分質量を、それ以外の場合には固形分質量を意味する。ここで、無機機系バインダーの有効成分とは、希アンモニア水で加水分解した後、水分を蒸発させ、更に900℃で焼成した後の残分を意味し、固形分とは、100℃で1時間乾燥した後の加熱残分を意味する。
【0016】
無機系バインダー(A)としては、ジルコニウム化合物、ケイ素化合物、アルミニウム化合物等を含むバインダーが挙げられる。一の態様において、無機系バインダー(A)は、ジルコニウム化合物、ケイ素化合物及びアルミニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つである。
【0017】
具体的には、ジルコニウム化合物としては、四塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム等のジルコニウム塩;テトラエトキシジルコニウム、テトラ-i-プロポキシジルコニウム、テトラ-n-ブトキシジルコニウム、テトラ-t-ブトキシジルコニウム等のジルコニウムアルコキシド、等が挙げられる。
ケイ素化合物としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム、珪酸セシウム、珪酸ルビジウム等のアルカリ珪酸塩;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のアルキルシリケート、アルキルシリケートの加水分解生成物;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロルシラン、メチルトリブロムシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリt-ブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリクロルシラン、エチルトリブロムシラン、エチルトリイソプロポキシシラン等のアルコキシシラン、アルコキシシランの加水分解生成物であるシラノール等が挙げられる。
アルミニウム化合物としては、乳酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、塩化アルミニウム等のアルミニウム塩;トリエトキシアルミニウム、トリ-i-プロポキシアルミニウム、トリ-n-ブトキシアルミニウム、トリ-t-ブトキシアルミニウムアルミニウムアルコキシド等のアルミニウムアルコキシド、等が挙げられる。
【0018】
無機系バインダー(A)は、水ラビング耐性、抗菌性及び抗ウイルス性の観点から、ケイ素化合物系バインダーを含むことが好ましい。コーティング組成物は、ケイ素化合物系バインダーを含むことにより、被塗物への定着性が特に良好になり得る。なお、ケイ素化合物系バインダーとしては、シリカのような粒子タイプ、シラノールオリゴマーのような溶解分子タイプが挙げられる。
【0019】
ケイ素化合物系バインダーは、より好ましくは、ケイ素化合物である。ケイ素化合物としては、例えば、アルカリ系酸塩、具体的には、シリカ微粒子、アルキルシリケート等を挙げることができる。このような化合物は、それら自身の有する親水性によりコーティング層に水分を呼び込み、光触媒によるヒドロキシラジカルの発生が効率的に行われるため、より抗菌性及び抗ウイルス性が発揮しやすくなると考えられる。
【0020】
ケイ素化合物の形状は特に限定されないが、例えば、球状、鎖状等を挙げることができる。
【0021】
(シリカ微粒子)
シリカ微粒子の平均一次粒子径は、例えば、3~50nmであり、好ましくは、10~25nmであり、より好ましくは、10~15nmである。平均一次粒子径が上記の範囲にあることにより、コーティング組成物は、安定に存在し得、安定に存在し得る。また、コーティング組成物は、外観の良好なコーティング層の形成に寄与できる。
シリカ微粒子の平均一次粒子径の測定は、電子顕微鏡観察、BET法(比表面積法)等の公知の測定方法によって測定することができる。一の態様においては、シリカ微粒子の平均一次粒径は、BET法による比表面積から換算して求める値である。
【0022】
シリカ微粒子は、シリカ微粒子を含む懸濁液(即ち、コロイダルシリカ)として用いることができる。
上記懸濁液の分散媒としては、水;メタノール、エタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の有機溶剤を挙げることができる。
上記懸濁液は、シリカ微粒子を、懸濁液に対して、例えば5~50質量%含むものを用いることができる。
【0023】
シリカ微粒子を含む懸濁液としては、例えば、シリカ微粒子を含む懸濁液に一般的に含まれるナトリウム等の電解質を除去したものや、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸等の酸で安定化させたものが挙げられ、好ましくは、電解質を除去したものを用いることができる。これらのうち1成分のみ、又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0024】
シリカ微粒子の懸濁液のpHは、2.0~5.0であるのが好ましく、2.5~4.5であるのがより好ましい。pHがこの範囲内であることで、シリカ微粒子の懸濁液において、ゲル化や固形分の沈降が生じることなく安定に存在できる。また、コーティング組成物に加えた場合にも、コーティング組成物は、ゲル化や固形分の沈降を起こしにくく、安定に存在できる。
【0025】
このようなシリカ微粒子(シリカ微粒子の懸濁液である形態のものを含む)として、市販品を用いてもよい。
市販品としては、例えば、スノーテックス(登録商標)O、O-40、OL、OXS、OS、OUP、PS-SO、PS-MO(日産化学社製)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
(アルキルシリケート)
アルキルシリケートとは、アルキルシリケート化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を意味する。アルキルシリケート化合物は、加水分解性基の結合したケイ素を有する化合物であり、例えば、下記一般式(1)で表わされる。
Si(OR) ・・・(1)
上記式(1)中、Rは、炭素数1~4個のアルキル基を示し、同一でも異なっていてもよい。
【0027】
上記式(1)で表わされるアルキルシリケート化合物としては、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラ-n-プロピルシリケート、テトラ-i-プロピルシリケート、テトラ-n-ブチルシリケート、テトラ-i-ブチルシリケート、テトラ-t-ブチルシリケート、メチルエチルシリケート、メチルプロピルシリケート、メチルブチルシリケート、エチルプロピルシリケート、プロピルブチルシリケート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
アルキルシリケート化合物の部分加水分解縮合物としては、上記アルキルシリケート化合物が部分的に加水分解縮合したものが挙げられる。その縮合度は、1~20が好ましく、3~15がより好ましい。
【0029】
アルキルシリケートは、例えば、水中に溶解した状態で用いることができる。このとき、該水溶液のpHは例えば2~3である。
【0030】
アルキルシリケートとしては、市販品を用いることができる。
市販品としては、例えば、エチルシリケート48(テトラエトキシシラン部分加水分解縮合物、コルコート社製)、MKCシリケート MS51(テトラメトキシシラン部分加水分解縮合物、三菱化学社製)、EMS485(エチルメチルシリケート部分加水分解縮合物、コルコート社製)等を挙げることができる。
【0031】
<光触媒型酸化チタン(B)>
コーティング組成物が光触媒型酸化チタン(B)を含むことにより、抗菌性及び抗ウイルス性をコーティング層に付与できる。光触媒型酸化チタン(B)は、光エネルギーが付与されることにより、光触媒効果を発揮する。光エネルギーは、例えば、紫外光、可視光によって付与される。
【0032】
光触媒型酸化チタン(B)は、光触媒性を示すものであれば、その使用形態は特に限定されないが、粉末状、ゾル状、溶液状等で用いることができる。コーティング組成物中に安定に存在し得る観点からは、光触媒型酸化チタン(B)は、酸化チタンが微粒子として存在する酸化チタンゾルとして用いることが好ましい。
【0033】
光触媒型酸化チタン(B)は、光触媒効果を有するアナターゼ型又はルチル型の結晶並びにこれらの混合物からなる。少なくとも乾燥して得られる粉の粉末X線回折の結果が、明らかにアナターゼ型又はルチル型と同定されるものをいう。アナターゼ型又はルチル型を示す酸化チタンは、高い光触媒性能を示す。
光触媒型酸化チタン(B)は、アナターゼ型であることが好ましい。これは、屋内の微弱な光エネルギーでも十分な光エネルギーを得ることができるためである。
【0034】
光触媒型酸化チタン(B)の平均粒子径は、5nmを超え20nm以下であることが好ましく、10nm以上20nm以下であることがより好ましい。なお、本開示において光触媒型酸化チタンの平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出した値を意味する。粒子の形状としては、真球が最も良いが、略円形や楕円形でも良く、その場合の粒子径は((長径+短径)/2)として略算出される。
【0035】
光触媒型酸化チタン(B)が、光触媒酸化チタンゾルとして存在する場合、光触媒酸化チタンゾルに含まれる酸化チタン(TiO)の濃度は、通常の濃縮等の操作によって調整可能である。例えば、光触媒酸化チタンゾルに対してTiOとして3~15質量%の範囲であることが好ましい。上記範囲内にあることで、酸化チタンゾルに沈降、増粘等が無く、貯蔵安定性を良好にでき、また、コーティング液の生産性も向上する利点がある。
【0036】
光触媒型酸化チタン(B)は、酸化チタン(TiO)とともに、好ましくは銀及び銅並びに水酸化第四アンモニウムを含有する。
【0037】
上記銀は、酸化物、水酸化物等のイオン化していない形態で光触媒型酸化チタン(B)に含有させることが好ましい。銀の含有量は、TiOに対するAgOの質量比、言い換えるとAgO/TiOとした場合に、好ましくは0.1~5.0質量%の範囲にあり、より好ましくは0.8~3.0質量%の範囲にある。銀の含有量が上記範囲内にあることで、酸化チタンがゾル中に良好に分散でき、かつ、抗菌・抗ウイルス効果が十分に発現するという利点がある。
【0038】
上記水酸化第四アンモニウムは、光触媒型酸化チタン(B)が、光触媒酸化チタンゾルとして安定にするために加えられる。
水酸化第四アンモニウムは抗菌金属をほとんど溶解させないため、酸化チタンゾルを安定化させながら抗菌金属の変色を抑制し得る。
【0039】
水酸化第四アンモニウムとしては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムを例示することができる。入手の容易さの観点からは、水酸化テトラエチルアンモニウムが好ましい。
【0040】
水酸化第四アンモニウムは、TiO 1モルに対して、0.01~0.1モルの範囲で含有されることが好ましい。上記の範囲にあることにより、酸化チタンゾルはより安定に存在し得る。
【0041】
上記銅は、水酸化第四アンモニウムとともに加えることにより、光触媒酸化チタンゾル中の銀の変色の抑制に寄与し得る。銅は、ゾルを不安定化する硝酸イオンや塩素イオンを含まない観点から、酸化物、水酸化物等として添加することが好ましい。
銅の含有量は、酸化銀に対する酸化銅の割合、言い換えるとCuO/AgO(質量比)として換算したときに、好ましくは1~30の範囲、より好ましくは1~10の範囲である。
【0042】
上述したように、光触媒型酸化チタン(B)が、銀、銅及び水酸化第四アンモニウムを含有する酸化チタンゾルである場合に、銀の変色を大幅に抑えることができる。例えば、光触媒型酸化チタン(B)の色質指数ΔL値を測定したときに、300~400nmの波長閾の光照射によるΔL値が10以下とし得る。
【0043】
無機系バインダー(A)に対する光触媒型酸化チタン(B)の質量比[(B)/(A)]は、0.5~5.0の範囲にあり、好ましくは0.5~2.5、より好ましくは0.5~2.0である。
なお、本開示において、無機系バインダーの量は無機系バインダーの固形分質量又は有効成分質量を、光触媒型酸化チタンの量は光触媒型酸化チタンの固形分質量を、それぞれ意味する。
光触媒型酸化チタン(B)のみを用いた場合には、水ラビング耐性が悪く、例えば日常的な水拭きを行った場合であっても、コーティング層において抗菌性及び抗ウイルス性を維持することができない。これに対して、無機系バインダー(A)と光触媒型酸化チタン(B)とを上記比率で用いることによって、コーティング層は、抗菌性及び抗ウイルス性を示すとともに良好な水ラビング耐性を示すことができる。更に、上記比率で用いることにより、コーティング層は、良好な耐久性を示し、抗菌性及び抗ウイルス性を維持できる。
【0044】
例えば、無機系バインダー(A)がケイ素化合物である場合、上記質量比[(B)/(A)]は、無機系バインダー(A)に含まれるSiOに対する、光触媒型酸化チタン(B)に含まれるTiOの質量比、言い換えるとTiO/SiOであることが好ましい。なお、無機系バインダー(A)に含まれるSiOの質量は、無機系バインダー(A)に含まれるケイ素含有量をSiOに換算した値である。
【0045】
光触媒型酸化チタン(B)のゾルの形成には、チタン塩をアンモニア水で中和分解して得られるチタン酸のゲルを出発原料として用いることができる。光触媒酸化チタンゾルの製造方法に関しては、具体的には以下の方法を例示することができる。
(1)チタン酸のゲルに銀及び銅の酸化物又は水酸化物を添加してから水熱処理した後、水酸化第四アンモニウムを添加する方法。
(2)チタン酸のゲルに水酸化第四アンモニウムのみを添加してから水熱処理した後、銀及び銅の酸化物又は水酸化物を添加する方法。
(3)チタン酸のゲルに銀及び銅の酸化物又は水酸化物並びに水酸化第四アンモニウムを同時に添加してから水熱処理する方法。
(4)チタン酸のゲルを水熱処理した後に銀及び銅の酸化物又は水酸化物並びに水酸化第四アンモニウムを添加する方法。
上記(1)及び(3)の如く銀及び銅の酸化物又は水酸化物共存下で水熱処理した方が、銀の変色を抑えることができる。一般的に、これら添加物が多くなるに従い酸化チタンのアナターゼ型への結晶化を阻害する場合もあるのでこれら添加物の種類、量等を本発明の範囲内で適宜選択して製造することが好ましい。また、上記(4)の如く水熱処理後に銀と銅の酸化物又は水酸化物及び水酸化第四アンモニウムを添加した場合には、必要に応じて更に加熱することによって更に安定化させることができる。加熱の時間は60~100℃の温度で1~3時間処理すればよい。
【0046】
<アルコール(C)>
コーティング組成物がアルコール(C)を含むことにより、被塗物(例えば、基材表面、基材表面に予め形成された塗膜等)への濡れ性が良好になり、塗装時の作業性が良好になる。また、アルコール(C)を用いることにより、コーティング組成物の貯蔵安定性が良好になり得る。なお、本願においては、アルコール(C)とは、少なくとも1つの水酸基を有する化合物を意味する。
【0047】
アルコール(C)としては、好ましくは、炭素数1~7のアルコールを用いることができる。炭素数1~7のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のモノアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル等を挙げることができる。なお、上記アルコールは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
アルコール(C)は、一の実施態様において、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール及びプロピレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種である。これらのアルコール(C)を用いることは、塗装作業性の向上の観点から特に好ましい。
【0049】
アルコール(C)は、より好ましくは、炭素数1~4のアルコールである。
【0050】
アルコール(C)としては、揮発乾燥性の観点から、モノアルコールが好ましく、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノールがより好ましい。
【0051】
アルコール(C)としては、エタノール、ノルマルプロパノール及びイソプロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。上記アルコールを用いると、コーティング層において抗菌性及び抗ウイルス性の発揮までの時間を短くし得、コーティング組成物を塗装直後からも、抗菌性及び抗ウイルス性を発揮することができる。
【0052】
一の実施態様において、アルコール(C)は、コーティング組成物に対し、好ましくは15~90質量%含まれ、より好ましくは50~80質量%、更に好ましくは50~59質量%含まれる。上記含有量であることにより、コーティング層において抗菌性及び抗ウイルス性の発揮までの時間がより短くなる。また、上記含有量であるは、輸送、保管等の観点からも有利である。
【0053】
一の実施態様において、アルコール(C)は、コーティング組成物に対し、好ましくは10~50質量%、より好ましくは10~30質量%含まれる。
【0054】
本発明のコーティング組成物は、アルコール以外の溶媒を含んでいてもよい。アルコール以外の溶媒としては、水、又は有機溶媒(アルコールは除く)が挙げられる。
【0055】
本発明のコーティング組成物は、水を含むことが好ましい。水を含むことにより、作業性が良好になる。
コーティング組成物の貯蔵安定性の点から、上記水は、イオン交換水、蒸留水、ろ過水又は純水であることが好ましい。
水の含有量は、特に限定されず、コーティング組成物において、他の成分との合計量が100質量%になるように調製すればよいが、例えば、5~85質量%、具体的には35~70質量%含んでいてもよい。
【0056】
本発明のコーティング組成物は、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤を含むことにより、該組成物の塗装作業性、特に、被塗物への濡れ性が向上し得る。
【0057】
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。ノニオン系界面活性剤は、コーティング組成物の安定性の向上に寄与し得る。また、ノニオン系界面活性剤は、コーティング組成物の被塗物への濡れ性の向上に寄与し得る。更に、ノニオン系界面活性剤を含むことにより、コーティング層における組成の偏りを低減し得る。これは、コーティング組成物からアルコール(C)が先に揮発した場合であっても、ノニオン系界面活性剤が存在することによって、該組成物において無機系バインダー(A)や光触媒型酸化チタン(B)の偏りを防止し得るためである。
【0058】
上記ノニオン系界面活性剤の含有量は、コーティング組成物に対し、好ましくは0.02~5質量%、より好ましくは、0.02~1質量%である。ノニオン系界面活性剤を上記範囲含むことにより、コーティング組成物から得られるコーティング層において抗菌性、抗ウイルス性を発揮し得る。更に、上記範囲含むことにより、コーティング組成物の製造時の泡立ちを抑制しつつ、被塗物への濡れ性を確保することができる。
ノニオン系界面活性剤を2種類以上併用する場合は、ノニオン系界面活性剤の合計量が、コーティング組成物に対して、上記範囲となるよう調整される。
【0059】
ノニオン系界面活性剤のHLBは、好ましくは12以下であり、より好ましくは4~12である。ここでHLBは、グリフィン法によって定義される、(ノニオン系界面活性剤の親水性部分の分子量)÷(ノニオン系界面活性剤の全分子量)×20で表される親水性と親油性のバランスを表す指標である。
ノニオン系界面活性剤におけるHLBがこのような範囲であることにより、コーティング組成物の製造時の泡立ちを抑制しつつ、被塗物への濡れ性を確保することができる。なお、ノニオン系界面活性剤を2種以上併用する場合は、各界面活性剤のHLBの平均が上記範囲となるよう、適宜調整される。
【0060】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキレンオキサイドユニットを有する界面活性剤、アセチレンジオール系界面活性剤、ビニル系ポリマー界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独又は2種以上を併用してもよい。
【0061】
上記アルキレンオキサイドユニットを有する界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤;ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル系界面活性剤を挙げることができる。
このような界面活性剤は、市販品を使用してもよい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤としては、例えば、ニューコール(登録商標)2302、2303、2305、3508、1204、1305、2502-A、2303-Y、2304-YM、2304-Y、(日本乳化剤社製)エマルミン(登録商標)40、50、70、NL-70、NL-80、セドラン(登録商標)FF-180、SF-506、ニューポール(登録商標)PE-62、64、74、75、(三洋化成社製)等を挙げることができる。ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル系界面活性剤としては、例えば、イオネット(登録商標)MS-400、MS-1000、MO-600、DS-4000、DO-1000(三洋化成社製)を挙げることができる。
【0062】
上記アセチレンジオール系界面活性剤は、例えば、アセチレンジオールユニットを有する(すなわち、同一分子内にアセチレン結合と2つの水酸基を同時に有する)界面活性剤、上記水酸基にアルキレンオキサイドが導入された、アルキレンオキサイドユニットとアセチレンジオールユニットとを有する界面活性剤であり得る。
このような界面活性剤は、市販品を使用してもよい。例えば、サーフィノール(登録商標)104E、420、440、2502、ダイノール(登録商標)604、607、オルフィン(登録商標)PD-001、002W、004、EXP.4001、4200、4300(日信化学工業社製)等を挙げることができる。
【0063】
上記ビニル系ポリマー界面活性剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP);ポリビニルアルコール(PVA)にポリビニルピロリドンをグラフト重合させた界面活性剤を挙げることができる。
このような界面活性剤は、市販品を使用してもよい。例えば、ピッツコール(登録商標)K-30、K-30L、K-90、K-90L、V-7154(第一工業製薬社製)を挙げることができる。
【0064】
上記シリコーン系界面活性剤としては、例えば、グラノール(登録商標)100、400、440、ポリフロー(登録商標)KL-245、KL-270、KL-280、KL-600(共栄社化学社製)、BYK-307、333、345、346、348、375、378(ビッグケミージャパン社製)、SNウェット(登録商標)125、126(サンノプコ社製)を挙げることができる。
【0065】
上記フッ素系界面活性剤としては、例えば、フタージェント(登録商標)250、251、222F、208G(ネオス社製)、メガファック(登録商標)F-443、F-444、F-445、F-470、F-471、F-475、F-477、F-479(DIC社製)、NOVEC FC-4430、4432(3M社製)、ユニダイン(登録商標)DS-401、403(日進化成社製)、エフトップ(登録商標)EF-121、EF-122A、EF-128B、EF-122C(ジェムコ社製)を挙げることができる。
【0066】
一の実施態様において、上記アセチレンジオール系界面活性剤を好ましい化学式で表すと、次のようになる。
【0067】
アセチレンジオールユニットを有する界面活性剤:
【0068】
【化1】
【0069】
上記式中、R、R、R、Rは、同一又は異なって、炭素数が1~10の直鎖又は分岐の炭化水素基、好ましくは、炭素数が1~8の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。
【0070】
アルキレンオキサイドユニットとアセチレンジオールユニットとを有する界面活性剤:
【0071】
【化2】
【0072】
上記式中、R、R、R、Rは、同一又は異なって、炭素数が1~10の直鎖又は分岐の炭化水素基、好ましくは、炭素数が1~8の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。n1及びn2は、同一又は異なって、0~20の整数を表し、同時に0を表すものではなく、好ましくは、1~20の整数を表す。
【0073】
一の実施態様において、コーティング組成物に対し、水が5~20質量%及びノニオン系界面活性剤が0.0~0.05質量部含まれる。
【0074】
一の実施態様において、コーティング組成物に対し、水が50~85質量%及びノニオン系界面活性剤が0.02~1.0質量部含まれる。
【0075】
一の実施態様において、コーティング組成物に対し、アルコール(C)が50~90質量%、水が5~45質量%及びノニオン系界面活性剤が0.0~0.05質量部含まれる。
【0076】
一の実施態様において、コーティング組成物に対し、アルコール(C)が10~30質量%、水が65~85質量%及びノニオン系界面活性剤が0.02~1.0質量部含まれる。
【0077】
本発明のコーティング組成物は、例えば、その表面張力が20~40mN/mであり、好ましくは24~35mN/mである。
コーティング組成物の表面張力が上記範囲内にあることで、被塗物表面にコーティング組成物を均一に塗装することができる。
なお、本発明のコーティング液の表面張力は、例えば、「色材と高分子材料のための最新機器分析法-分析と物性評価-」(ソフトサイエンス社 社団法人色材協会編 編集代表 星埜由典、p.289 表面張力測定法、「Du Nouy円環法」)に記載の方法に従って測定される。
【0078】
本発明のコーティング組成物は、必要に応じて、上記以外のその他の添加剤を含有してもよい。
【0079】
その他の添加剤としては、例えば、顔料、骨材(砂等)、造膜助剤、乾燥遅延助剤、粘性調整剤、防腐剤、防かび剤、防腐剤、消泡剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、pH調整剤等を挙げることができる。
【0080】
本発明のコーティング組成物は、顔料を含むエナメルコーティング組成物であってもよいし、顔料を含まないクリヤーコーティング組成物であってもよい。
【0081】
本発明のコーティング組成物をクリヤーコーティング組成物として用いた場合、クリヤーコーティング組成物は無色透明又は薄い有色透明の状態であるため、コーティング層と未コーティング層との境界を見分け難く、コーティング層の重複塗装部分又はコーティング組成物の塗装忘れ部分が生じ得る。その重複塗装部分では、例えば、必要以上のコーティング組成物が使用されるためコーティング組成物が無駄になる、コーティング層の膜厚が必要以上に厚くなる、余分なコーティング層がタレる等の不具合の生じるおそれがある。また、塗装忘れ部分では、コーティング層が存在しないため、抗ウイルス性が得られなくなる。
これに対し、本発明の抗ウイルスコーティング組成物は、消色性色素を含み得る。消色性色素は、一態様において、コーティング組成物の状態では有色を示し、コーティング層の形成後に、例えば、光、pH変化等によって消色し得る成分である(光によって消色し得る成分を「光消色性色素」とも言う)。
【0082】
本発明のコーティング組成物では、例えば、光消色性色素としては、ベニコウジ系色素、ベタレイン系色素及びスピルリナ系色素からなる群から選ばれる1種以上を含み得る。
【0083】
理論に拘束されることを望むものではないが、これらの光消色性色素の分子は、ある程度以上の強度の光によってその構造が破壊されて消色すると考えられる。そのため、このような光消色性色素を有する本発明のコーティング組成物を用いると、光という簡便な手段によってコーティング層の消色化が可能となる。
【0084】
・ベニコウジ系色素
ベニコウジ系色素としては、例えば、アンカフラビン(CAS番号50980-32-0)、モナスコルブリン(CAS番号13283-90-4)、モナスコルブラミン(CAS番号3627-51-8)、キサントモナシンA1(Xanthomonascin A1)、キサントモナシンA2(Xanthomonascin A2)、キサントモナシンA(Xanthomonasin A)及びキサントモナシンB(Xanthomonasin B)等が挙げられる。ベニコウジ系色素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。キサントモナシンA1(Xanthomonascin A1)、キサントモナシンA2(Xanthomonascin A2)、キサントモナシンA(Xanthomonasin A)及びキサントモナシンB(Xanthomonasin B)の構造は、以下のとおりである。
【0085】
【化3】
【0086】
・ベタレイン系色素
ベタレイン系色素としては、例えば、ベタニン(CAS番号7659-95-2)、ベタニジン(Betanidin、CAS番号2181-76-2)、イソベタニン(CAS番号15121-53-6)、イソベタニジン(CAS番号4934-32-1)、ベタキサンチン、ベタシアニン等が挙げられる。ベタレイン系色素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ベタキサンチン及びベタシアニンの構造は、以下のとおりである。
【0087】
【化4】
【0088】
・スピルリナ系色素
スピルリナ系色素としては、例えば、フィコシアノビリン(CAS番号20298-86-6)等が挙げられる。スピルリナ系色素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
本発明に係るコーティング組成物の一実施形態では、ベニコウジ系色素が、アンカフラビン、モナスコルブリン、モナスコルブラミン、キサントモナシンA1、キサントモナシンA2、キサントモナシンA及びキサントモナシンBからなる群から選ばれる1種以上を含む。
本発明に係るコーティング組成物の別の実施形態では、ベニコウジ系色素が、アンカフラビン、モナスコルブリン、モナスコルブラミン、キサントモナシンA2及びキサントモナシンAからなる群から選ばれる1種以上を含む。
【0090】
本発明に係るコーティング組成物の一実施形態では、ベタレイン系色素が、ベタニン、ベタニジン、イソベタニン、イソベタニジン、ベタキサンチン、ベタシアニンからなる群から選ばれる1種以上を含む。
【0091】
本発明に係るコーティング組成物の一実施形態では、スピルリナ系色素が、フィコシアノビリンを含む。
【0092】
また、消色性色素の一態様としては、コーティング組成物のpHに依存して呈色又は消色する色素を用いてもよい。具体的には、酸性~中性色が無色で塩基性色が有色であるpH指示薬、例えば、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、ブロムカルボキシチモールフタレイン、o-クレゾールフタレイン、シアニン、α-ナフトールフタレイン、p-ニトロフェニール等が挙げられる。
【0093】
コーティング組成物における消色性色素の量は、消色性色素の色の濃さ、コーティング組成物の濃度又は粘度、コーティング層の厚さ、消色までの時間等に応じて適宜調整できる。コーティング組成物における消色性色素の量は、例えば、コーティング組成物100質量部に対して、0.001~5.00質量部である。
【0094】
(コーティング組成物の製造方法)
コーティング組成物を調製する方法は、特に限定されない。例えば、サンドグラインドミル、ボールミル、ブレンダー、ペイントシェーカー又はディスパー等の混合機、分散機、混練機等を選択して使用し、各成分を混合することにより、調製することができる。
【0095】
(コーティング組成物の使用方法)
本発明のコーティング組成物の使用方法は、特に限定されないが、例えば、菌又はウイルスが付着又は付着するおそれのある箇所に、コーティング組成物を塗装する又は予め塗装しておくことができる。
【0096】
一の実施態様において、本発明のコーティング組成物は、例えば、浸漬塗装、刷毛塗装、ローラー塗装、布を用いての塗装、ロールコーター塗装、スプレー塗装、カーテンフローコーター塗装、ローラーカーテンコーター塗装、ダイコーター塗装等を用いて塗装することができる。塗装方法は被塗物の種類・用途に応じて適宜選ばれる。
【0097】
上記スプレー塗装としては、一の実施態様において、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装を挙げることができる。
【0098】
上記スプレー塗装としては、一の実施態様において、エアゾールスプレー塗装、非エアゾールスプレー塗装を挙げることができる。
この場合、コーティング組成物は、例えば、吐出容器に充填して使用し得る。
上記吐出容器としては、スプレー容器やスクイズ容器等が挙げられる。対象物に対する塗装性に優れる点からは、吐出容器としてスプレー容器を用いることが好ましい。
上記スプレー容器、即ち、エアゾールスプレー容器、非エアゾールスプレー容器は、手動式のものでもよいし、電動式のものでもよい。
【0099】
上記エアゾールスプレー容器は、耐圧容器を用いる。この場合、本発明のコーティング組成物は、液体ガス及び圧縮ガス等のガスと共に用いる。液体ガス及び圧縮ガスとしては、例えば、液化石油ガス、ジメチルエーテル、炭酸ガス、窒素ガス及びイソペンタン等が挙げられる。
【0100】
上記非エアゾールスプレー容器は、容器中に充填される液体を霧状及び泡状等の形態で容器外へ噴出させる機構を備えているものである。この場合、液体ガス及び圧縮ガス等のガスを実質的に用いない。非エアゾールスプレー容器としては、例えば、ポンプ式及びトリガー式等の蓄圧式又は直圧式のスプレー容器が挙げられる。
【0101】
一の態様において、コーティング組成物は、塗装箇所に噴霧する、塗装箇所にペーパーをかぶせ直接組成物を振りかける等によっても、コーティング層を形成し得る。
【0102】
一の態様において、コーティング組成物は、布を用いての塗装によりコーティング層をを形成し得る。具体的には、コーティング組成物を布に含浸させ、塗装箇所(被塗物の表面)を拭くことによってもコーティング層を形成し得る。布を構成する繊維としては特に限定されず、例えば、天然繊維、合成繊維、半合成繊維及び再生繊維等が挙げられる。また、布の種類としては特に限定されないが、例えば、織布、不織布及び編物等が挙げられる。
【0103】
[コーティング層]
コーティング層は、本発明のコーティング組成物によって形成される。
【0104】
コーティング層の形成は、
被塗物に、コーティング組成物を、該コーティング組成物の乾燥後の質量が0.20g/m以下となるように塗装してコーティング層を形成する工程、
を含む方法で行うことが好ましい。
上記乾燥後の質量は、例えば、0.02~0.20g/mであってもよい。上記のような範囲にあることにより、抗菌性、抗ウイルス性等の物性の良好なコーティング層が形成できる。
上記コーティング組成物は、必要に応じて複数回塗り重ねしてもよく、その塗り重ね回数は、上記コーティング組成物の固形分濃度や一回の塗布量により適宜調整される。。
上記コーティング層の膜厚(乾燥後の膜厚)は、好ましくは50nm~5μmであり、より好ましくは50nm~1μmである。
【0105】
コーティング層は、被塗物の表面全体に設けられてもよく、被塗物の表面の一部のみに設けられてもよい。
【0106】
コーティング層は、コーティング組成物を被塗物に塗装後、室温(例えば、5℃~35℃)において乾燥することによって得られる。
別の実施態様において、コーティング層は、コーティング組成物を室温~80℃で乾燥させて得られる。別の実施態様においては、コーティング層は、コーティング組成物を80℃~130℃で乾燥させて得られる。
乾燥時間は特に限定されないが、好ましくは30秒~20分、より好ましくは30秒~10分である。
【0107】
上記被塗物としては、特に限定されないが、例えば、金属基材、プラスチック基材、無機材料基材等を挙げることができる。また、これら基材の上に予め形成した塗膜を被塗物としてもよい。本発明のコーティング組成物を、被塗物の表面に塗装することにより、耐水ラビング性が良好であり、抗菌性及び抗ウイルス性が良好であり、抗菌性及び抗ウイルス性の持続も可能なコーティング層を得ることができる。
【0108】
上記金属基材としては特に限定されず、例えば、アルミニウム板、鉄板、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム亜鉛メッキ鋼板、ステンレス板、ブリキ板等を挙げることができる。
上記プラスチック基材としては、アクリル板、ポリ塩化ビニル板、ポリカーボネート板、ABS板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリオレフィン板等を挙げることができる。
上記無機材料基材としては、JIS A 5422、JIS A 5430等に記載された窯業系基材、ガラス基材等を挙げることができる。
【0109】
一の実施態様において、被塗物の材質として、例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ゴム等の有機ないしプラスチック材料;ガラス;ブリキ、鉄材、鋼材、銅材、金、銀、アルミニウム等の金属;アスファルト;セラミック;コンクリート、モルタル、れんが、スレート、大理石等の石材;木材、合板等を挙げることができる。
【0110】
上記塗膜としては、有機塗膜、無機塗膜、有機無機ハイブリッド塗膜又はフッ素樹脂塗膜を挙げることができる。本発明の抗ウイルスコーティング組成物は、これらの塗膜とも良好に付着し得る。本発明のコーティング組成物を、これらの塗膜上に塗装し、層を形成することにより、抗菌性及び抗ウイルス性を付与できるだけでなく、良好な外観がもたらされ、色相変化等を抑制できる。また、形成されたコーティング層の剥がれも抑制し得る。
更に、上記コーティング層を用いることで、エナメル系塗膜等のチョーキング、退色等も抑制できる。
【0111】
[物品]
本発明は、基材と、該基材の表面に本発明のコーティング層とを含む物品にも関する。
【0112】
上記物品としては、特に限定されず、適宜選択することができる。例えば、自動車、電車、バス、タクシー等の車両の内外装;船;飛行機、ヘリコプター等の航空機の内外装;エスカレーター、エレベーター等の移動手段の外装;戸建住宅、マンション等の集合住宅、オフィスビル、公共施設、商業施設、教育・研究施設等建築物の内外装(壁面、床面、天井、屋根、柱、看板、電子看板(デジタルサイネージ)、トイレ、門扉、手すり、ドアノブ、窓枠、スイッチ類、カーテン等を含む)、机、テーブル、椅子、棚、パーテーション、鏡、ベッド等の家具類;テレビ、冷蔵庫等の家電製品;コピー機、ロッカー、宅配ボックス等の設備類;各種製品のタッチパネル;自動販売機;衣類;靴等の履物;傘等の雨具;包装材等が挙げられる。
【実施例
【0113】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中「部」及び「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0114】
[光触媒型酸化チタン(B1)の調製方法]
四塩化チタン水溶液(TiOを0.5質量%含有)に、アンモニア水(NHを3.0質量%含有)をかくはん下で添加し、チタンゲルを生成させた。このチタンゲルを、塩素イオンが、チタンゲルに対して100ppm以下になるまでろ過水洗し、チタンゲルからなるスラリー(該スラリーに対して、TiOを6.2質量%含有)を得た。このスラリー200gに、TiOに対してAgO及びCuOの合計が5質量%、且つ、銀に対する銅の割合[CuO/AgO(質量比)]が5となるように、酸化銀(AgO、和光純薬工業社製)0.1gと水酸化銅(Cu(OH)、関東化学社製)0.6gとを添加した。更に、酸化チタン(TiO)1モルに対して、0.03モルとなるように水酸化テトラエチルアンモニウム25%水溶液(多摩化学工業社製)1.7gを添加してよくかくはんした。その後、これをオートクレーブに入れ、130℃で10時間の水熱処理を行い、光触媒型酸化チタン(B1)を調製した。各成分の含有量は、TiO:6.10質量%、AgO:0.05質量%、CuO:0.24質量%、水酸化テトラエチルアンモニウム:0.21質量%であった。これを100℃で乾燥させて得られた粉末を粉末X線回折法により測定したところ、アナターゼ型の酸化チタンのピークが認められた。
【0115】
[光触媒型酸化チタン(B2)の調製方法]
AgO及びCuOの量を、TiOに対してAgO及びCuOの合計を7質量%、且つ、銀に対する銅の割合[CuO/AgO(質量比)]を5に変更した以外は上記と同様にして、光触媒型酸化チタン(B2)を調整した。各成分の含有量は、TiO:6.10質量%、AgO:0.07質量%、CuO:0.36質量%、水酸化テトラエチルアンモニウム:0.21質量%であった。
【0116】
実施例及び比較例で用いた無機系バインダー、アルコール、界面活性剤、消色性色素はそれぞれ以下のとおりである。
【0117】
(A1)ST-O、コロイダルシリカ、酸性タイプ、球状(日産化学社製);平均粒子径12nm、有効成分濃度:20質量%
(A2)ST-OUP、コロイダルシリカ、酸性タイプ、鎖状(日産化学社製);平均一次粒子径:12nm、有効成分濃度:15質量%
(A3)ST-PS-SO、コロイダルシリカ、酸性タイプ、パールネックレス状(日産化学社製);平均一次粒子径:15nm、有効成分濃度:15質量%
(A4)ST-OXS、コロイダルシリカ、酸性タイプ、球状(日産化学社製);平均一次粒子径:5nm、有効成分濃度:10質量%
(A5)ST-OL、コロイダルシリカ、酸性タイプ、球状(日産化学社製);平均一次粒子径:45nm、有効成分濃度:20質量%
(A6)MKCシリケート MS51、テトラメトキシシラン部分加水分解縮合物(三菱化学社製)、有効成分濃度:52質量%
(A7)50L、リン酸アルミニウム、酸性(多木化学社製)、固形分濃度:38質量%
(a1)ST-N、コロイダルシリカ、アルカリ性タイプ、球状(日産化学社製);平均一次粒子径:12nm、有効成分濃度:20質量%
(a2)ST-C、コロイダルシリカ、中性タイプ、アルミナ処理、球状(日産化学社製);平均一次粒子径:12nm、有効成分濃度:20質量%
【0118】
(アルコール)
(C1)エタノール、コニシ社製
(C2)イソプロパノール、林純薬工業社製
(C3)ノルマルプロパノール、林純薬工業社製
(C4)プロピレングリコール、林純薬工業社製
【0119】
(ノニオン系界面活性剤)
(D1)サーフィノール420:アセチレンジオール系界面活性剤(日信化学工業社製)、HLB:4、有効成分濃度:100質量%
(D2)エマルミンNL-70:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤(三洋化成社製)、HLB:10.6、有効成分濃度:100質量%
【0120】
(消色性色素)
モナスコレッドAL900R:ベニコウジ色素(キリヤ化学)、有効成分濃度:45質量%(エタノール溶液)
【0121】
(その他)
・トルエン:三菱ケミカル社製
・イオン交換水
【0122】
(実施例1)
シリカ微粒子(A1)0.75質量部、光触媒型酸化チタン(B1)4.33質量部、アルコール(C1)59.00質量部及びイオン交換水35.92質量部を、かくはんしながら、順次添加して混合し、コーティング組成物1を調製した。
【0123】
(実施例2~20及び比較例1~7)
実施例2~20及び比較例1~7は、各成分の含有量及び種類を表1A~1Dに記載の条件に変更した以外は実施例1と同様に操作し、コーティング組成物をそれぞれ調製した。
なお、(A6)は、MKCシリケート MS51 8.5質量部に、アルミキレートD(川研ファインケミカル社製、有効成分濃度:76質量%)0.1質量部、エタノール40.0質量部及びイオン交換水51.4質量部を添加し、60℃で3時間かくはんをすることにより調製したもの(pH:3.5、有効成分濃度:5質量%)を用いた。
【0124】
【表1A】
【0125】
【表1B】
【0126】
【表1C】
【0127】
【表1D】
【0128】
(試験板の調製)
実施例及び比較例で得られたコーティング組成物を、ガラス板にコーティング組成物の液の塗布量が10g/mとなるようにスプレー塗装し、ジェット乾燥機(風速:10m/s)にて100℃で10分間乾燥させて試験板を得た。
【0129】
得られたコーティング組成物及び試験板について、それぞれ以下のように評価した。
【0130】
1)コーティング組成物の貯蔵安定性
実施例及び比較例で得られたコーティング組成物を、40℃で14日間静置した。静置後のコーティング組成物の状態を目視観察し、コーティング組成物の安定性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
○: 分離及び/又は沈降が生じなかった。
×: 分離及び/又は沈降が生じた。
【0131】
2)基材への濡れ性
実施例及び比較例で得られたコーティング組成物を、ソーダガラス板(50mm×50mm×2mm)にコーティング組成物の塗布量がWET質量として10g/mとなるようにスプレー塗装した。塗装後の状態を目視で観察し、基材への濡れ性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
○: 全面が均一に濡れる(コーティング組成物が玉状にならない)。
△: 全面がほぼ均一に濡れるが、端面に塗りもれが生じる(コーティング組成物が僅かに中央部による)。
×: 全面がはじく(コーティング組成物が玉状となり、全面が均一に濡れない)。
【0132】
3)抗菌性評価
実施例及び比較例で得られた試験板について、JIS R 1752(2020)に規定する方法に従って、黄色ブドウ球菌を用いて、抗菌性試験を実施した。
すなわち、20Wの白色蛍光灯ネオラインFL20S・W(東芝ライテック社製)を光源として用い、紫外線カットフィルターN-169(日東樹脂工業社製)を通して、380nm以上の可視光を、照度500ルクスで照射した。なお、照度は照度計IM-5(トプコン社製)を用いて測定した。可視光の照射時間を8時間として、明所の抗菌活性値(R)を下式により算出した。基準板は抗菌加工が成されていないソーダガラス板を用いた。
明所の抗菌活性値:R=Log10(UB/TB)
TB:光照射後の試験板あたりの生菌数(cfu)
UB:光照射後の基準板あたりの生菌数(cfu)
測定された明所の抗菌活性値(R)を以下の評価基準で評価した。評点1が最も良く、評点5が最も悪いとし、評点3以上を合格とした。
1:Rが4以上
2:Rが3以上4未満
3:Rが2以上3未満
4:Rが1以上2未満
5:Rが1未満
【0133】
4)抗ウイルス性
実施例及び比較例で得られた試験板について、JIS R 1756(2020)に規定する方法に従って、バクテリオファージQβを用いて、抗ウイルス試験を実施した。
すなわち、20Wの白色蛍光灯ネオラインFL20S・W(東芝ライテック社製)を光源として用い、紫外線カットフィルターN-169(日東樹脂工業社製)を通して、380nm以上の可視光を、照度500ルクスで照射した。なお、照度は照度計IM-5(トプコン社製)を用いて測定した。可視光の照射時間を4時間として、明所の抗ウイルス活性値(V)を下式により算出した。基準板は抗ウイルス加工が成されていないソーダガラス板を用いた。
明所の抗ウイルス活性値:V=Log10(UV/TV)
TV:光照射後の試験板あたりのバクテリオファージ感染価(pfu)
UV:光照射後の基準板あたりのバクテリオファージ感染価(pfu)
なお、抗ウイルス性を評価する前に、塗装体の表面及び裏面をそれぞれ、クリンベンチ内にて殺菌灯を照射して、滅菌処理した。殺菌灯は15Wの殺菌灯(波長254nm)がクリンベンチの側面に各1本、計2本設置され、塗装体から光源までの距離を30cm~60cmとした。殺菌灯の照射時間は15分とした。
測定された明所の抗ウイルス活性値(V)を以下の評価基準で評価した。評点1が最も良く、評点5が最も悪いとし、評点3以上を合格とした。
1:Vが4以上
2:Vが3以上4未満
3:Vが2以上3未満
4:Vが1以上2未満
5:Vが1未満1
【0134】
5)耐久性(水ラビング試験)
摩擦摩擦解析装置TS501(協和界面科学社製)の評価台に、実施例及び比較例で得られた試験板を粘着テープで貼り付け、ラビング試験を実施した。測定条件は、摩擦材としてイオン交換水を含ませたウエス脱脂綿を用い、荷重20g/cm、往復速度60回/分、往復距離60mm、往復回数10回とした。
試験終了後、ラビング試験を行った部位及び行っていない部位それぞれに、1質量%硝酸銀水溶液を1g/10cm塗布し、紫外光を照射(照度:80mW/m、照射時間:5秒)した。試験を行った部位及び行っていない部位について、それぞれの硝酸銀水溶液を塗布していない部位を基準として、色彩色差計CR-400(コニカミノルタ社製)を用いて色差(ΔE)を測定し、下記式に従って残存光触媒率を算出した。評価基準は以下のとおりである。なお、色差測定の際、試験板の下に白色コート紙(TP技研社製)を敷いて実施した。
残存光触媒率(%)=摩擦試験を行った部位の色差(ΔE)/摩擦試験を行っていない部位の色差(ΔE)×100
◎: 残存光触媒率が95%以上
○: 残存光触媒率が80%以上95%未満
△: 残存光触媒率が40%以上80%未満
×: 残存光触媒率が40%未満
【0135】
6)視認性評価
実施例20で得られた試験板について、試験板を作製した(コーティング層を形成した)直後のコーティング層の色を目視で観察し、以下の基準で評価した。○以上を合格とした。
◎:着色コーティング層の色をはっきり確認できる。
○:着色コーティング層の色を確認できる。
△:着色コーティング層の色をかろうじて確認できる。
【0136】
6)光消色性評価
実施例20で得られた試験板について、可視光を照射し、光消色性試験を実施した。
試験板を作製した(コーティング層を形成した)直後のコーティング層の色を基準として、色彩色差計CR-400(コニカミノルタ社製)を用いて、可視光の照射の開始から1時間ごとにコーティング層の色差(ΔE)を測定した。ΔEが1以下となるまでの時間を測定し、以下の基準で評価した。評価△以上を合格とした。
可視光光源:白色蛍光灯、ネオラインFL20SW(東芝ライテック社製)、波長:400~800nm、照度:500ルクス(波長400nm未満はカットフィルターで除去した)
◎:照射開始から3時間未満でΔEが1以下になる。
○:照射開始から3時間以上12時間未満でΔEが1以下になる。
△:照射開始から12時間以上24時間以下でΔEが1以下になる。
×:照射開始から24時間以内ではΔEが1以下にならない。
【0137】
実施例及び比較例の条件及び評価結果を以下の表に示す。
なお、実施例13においては、表の「コーティング組成物100質量部における(A)の有効成分含有量」の欄に記載している数値は「固形分含有量」に対応する。
また、実施例15においては、表の「SiOの含有量」の欄に記載している数値は「AlPOの含有量」に、「TiOとSiOとの質量比 (TiO/SiO)」の欄に記載している数値は「TiOとAlPOの質量比 (TiO/AlPO)」に、それぞれ対応する。
また、比較例3、4においては、表の「(B)と(A)の質量比」の欄に記載している数値は、それぞれ、「(B)と(a1)の質量比」、「(B)と(a2)の質量比」に対応する。更に、比較例7においては、表の「コーティング組成物100質量部における(C)の含有量」の欄に記載している数値は、「コーティング組成物100質量部におけるトルエンの含有量」に対応する。
【0138】
【表2A】
【0139】
【表2B】
【0140】
【表2C】
【0141】
【表2D】
【0142】
実施例1~20によれば、貯蔵安定性、基材への濡れ性の良好なコーティング組成物を得ることができた。実施例1~20で得られたコーティング組成物を用いることにより、抗ウイルス性、抗菌性、耐久性(水ラビング試験)の良好なコーティング層を得ることができた。実施例17、18ではコーティング組成物に界面活性剤(D)を加えており、これらの実施例においても、コーティング組成物の貯蔵安定性、基材への濡れ性が良好であり、得られたコーティング層の抗ウイルス性、抗菌性、耐久性(水ラビング試験)も良好であった。実施例20では、視認性及び消色性においても良好な結果が得られたことを確認した。
比較例1の組成物は、無機系バインダーをほとんど含まない。得られたコーティング層では、耐久性(水ラビング耐性)が悪いため抗ウイルス性を維持できないことが分かった。
比較例2の組成物では、無機系バインダー(A)に対する光触媒型酸化チタン(B)の質量比[(B)/(A)]が低く、抗ウイルス性が悪かった。
比較例3の組成物は、無機系バインダーとしてアルカリ性ゾルを、比較例4の組成物は、無機系バインダーとしてアルミナ処理ゾルをそれぞれ含んだ。得られたコーティング組成物は、貯蔵安定性が悪い結果となった。
比較例5の組成物は、アルコールを含まず、基材への濡れ性も悪かったため、コーティング層の抗菌性及び抗ウイルス性が良好でなかった。
比較例6の組成物は、比較例5の条件にノニオン系界面活性剤を加えたものである。基材への濡れ性は比較例5よりも少しは向上したが、充分でなく、抗菌性及び抗ウイルス性は比較例5と同様に悪かった。
比較例7の組成物は、アルコールの代わりにトルエンを用いたものであるが、組成物の安定性が悪く、他の評価は実施できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明のコーティング組成物は、貯蔵安定性が良好であり、かつ、抗菌性・抗ウイルス性の発揮までの時間が短く、更に、抗菌性及び抗ウイルス性の耐久性が良好であるコーティング層の形成に寄与できる。本発明のコーティング組成物を用いると、コーティング層を有する様々な物品の形成が可能になる。