(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】自律移動体
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20220810BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20220810BHJP
G09B 29/00 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
G08G1/16 D
B60W40/06
G09B29/00 Z
(21)【出願番号】P 2018123834
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 直樹
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-215939(JP,A)
【文献】特開2014-228637(JP,A)
【文献】特開2004-213489(JP,A)
【文献】特開2015-199439(JP,A)
【文献】特開2012-216143(JP,A)
【文献】特開2017-111739(JP,A)
【文献】特開2016-122308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 40/06
G09B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
障害物の情報を観測する障害物観測手段と、
前記障害物観測手段によって観測された障害物の情報を用いて
、自律移動体が移動可能な移動可能領域と、前記障害物が存在している障害物占有領域と、前記移動可能領域か否かが不明な死角領域とが表された障害物マップを生成する障害物マップ生成装置
と、
前記障害物マップ生成装置によって生成された前記障害物マップに基づいて移動制御を行う移動制御手段とを備え、
前記障害物マップ生成装置は、
前記障害物観測手段によって観測された前記障害物の前記情報を取得する障害物情報取得部と、
前記障害物情報取得部によって取得された前記障害物の前記情報に基づき、前記障害物の位置を算出する算出部と、
前記算出部によって算出された前記障害物の位置に基づき、前記障害物占有領域を決定すると共に、前記障害物観測手段の位置を基点として前記移動可能領域及び前記死角領域を決定する領域決定部と、
前記障害物観測手段が設置された位置とは異なる位置を仮想点として設定する仮想点設定部と、
前記算出部によって算出された前記障害物の位置に基づき、前記障害物占有領域を決定すると共に、前記仮想点設定部に設定された前記仮想点の位置及び前記算出部によって算出された前記障害物の位置に基づき、前記仮想点の位置を基点として前記移動可能領域及び前記死角領域を決定する仮想領域決定部と
、
前記領域決定部又は前記仮想領域決定部によって決定された前記移動可能領域、前記障害物占有領域、及び前記死角領域を基に前記障害物マップを作成する障害物マップ作成部とを有し、
前記移動制御手段は、他経路よりも相対的に優先度の高い経路を直進している場合は、前記領域決定部によって決定された前記移動可能領域及び前記死角領域を基に前記障害物マップ作成部が作成した前記障害物マップに基づいて前記移動制御を行ない、他経路への合流時、車線変更時、又は相対的に優先度の低い経路から他経路への進入時は、前記仮想領域決定部によって決定された前記移動可能領域及び前記死角領域を基に前記障害物マップ作成部が作成した前記障害物マップに基づいて前記移動制御を行うことを特徴とする
自律移動体。
【請求項2】
前記算出部は、さらに前記障害物の高さを算出し、
前記仮想点設定部は、さらに前記仮想点の高さを設定し、
前記仮想領域決定部は、前記仮想点設定部に設定された前記仮想点の位置及び前記仮想点の高さと、前記算出部によって算出された前記障害物の位置及び前記障害物の高さとに基づき、前記仮想点の位置及び前記仮想点の高さを基点として前記移動可能領域及び前記死角領域を決定することを特徴とする請求項1に記載の
自律移動体。
【請求項3】
前記仮想領域決定部は、
前記障害物の位置を示す障害物点を直交座標系のグリッドマップに表し、
前記障害物点が表されたグリッドを前記障害物占有領域として決定し、
前記障害物占有領域として決定された前記グリッドを極座標系に変換して前記障害物の高さを保存し、
前記仮想点の高さと前記障害物の高さを用いて、極座標グリッドマップ上に移動可能フラグ及び死角フラグのフラグ付けを行い、
前記直交座標系のグリッドマップの前記グリッドを極座標系に変換して、前記グリッドの前記仮想点からの距離と角度を取得し、
前記グリッドについて、前記仮想点からの前記距離と前記角度に基づいて、前記極座標グリッドマップにおける前記移動可能フラグ及び前記死角フラグとの対応付けを行い、前記移動可能領域及び前記死角領域を決定することを特徴とする請求項2に記載の
自律移動体。
【請求項4】
前記障害物観測手段が前端に配置されていることを特徴とする請求項
1から請求項3のいずれか一項に記載の自律移動体。
【請求項5】
前記仮想点設定部は、前記前端に配置された前記障害物観測手段よりも後方に前記仮想点を設定し、
前記移動制御手段は、前記他経路への合流時、前記車線変更時、又は前記相対的に優先度の低い経路から他経路への進入時において、
前記仮想領域決定部によって決定された前記移動可能領域及び前記死角領域が反映された前記障害物マップに基づいて前記移動制御を行う際、5km/h以下の速度で徐々に前進させ、動作開始後に衝突可能性がある前記障害物が検知された場合に前記自律移動体の移動を止める停止制御モードと、
動作開始後に衝突可能性がある前記障害物が検知された場合に前記自律移動体の速度を上昇させる加速制御モードとを有し、
前記仮想点の位置を基点として決定された前記死角領域が所定値よりも大きい場合には前記停止制御モードが選択され、
衝突可能性がある前記障害物が後方又は側方にあり、前記仮想点の位置を基点として決定された前記死角領域が所定値以下のときには前記加速制御モードが選択されることを特徴とする請求項
4に記載の自律移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などの自律移動体の移動制御に用いられる障害物マップを生成する障害物マップ生成装置を備えた自律移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通事故の削減や交通渋滞の緩和、誰もが利用できる移動手段の提供を目的として自動運転自動車等の自律移動体の開発が盛んに行われている。自律移動体を自律的に移動させるためには、移動の障害となる物体を認識し、自律移動体が移動可能な領域、移動不能な領域(障害物占有領域)、及び移動可否が不明な死角領域を示す障害物マップを作成する必要がある。
【0003】
ここで、特許文献1には、無人車に搭載され周囲の障害物の有無を計測するセンサと、障害物との衝突を回避させる制御手段とを備え、障害物による未計測領域と移動可能領域とが接する境界を検出し、この境界と移動予定路との間の距離が所定の距離未満である場合には、境界と移動予定路との間の距離が所定の距離以上となるまで、無人車を減速又は停止させる自律移動装置が開示されている。
また、特許文献2には、車両に取り付けたカメラによって得られた撮像映像に基づいて車両前方の左右の状況を車内表示する表示部と、表示部が車内表示をした後、車両が進入しようとする交差道路の状況を表示部によって運転者が認識可能となる所定位置まで車両が到達したことを判別する到達判断部と、到達判断部の判別結果を運転者に報知する報知部とを備えた車両周辺監視装置が開示されている。
また、特許文献3には、合流地点の位置と自車両の現在位置との位置関係が、合流地点に自車両が差し掛かっていることを表す条件として規定された合流条件を満たすか否かを判定し、合流地点が合流条件を満たしていれば、合流地点における他の道路の存在方向へと自車両を移動させる合流支援制御を実行する運転支援装置が開示されている。
また、特許文献4には、自車両にとって死角となる死角領域を検出し、死角領域から出現する可能性のある移動体の進路と自車両の進路の相対的な優先度を判定し、判定した優先度に基づいて自車両に対する制御信号を出力する車両制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-294934号公報
【文献】特開2010-2275号公報
【文献】特開2017-4307号公報
【文献】特開2016-122308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の障害物マップに表された移動可能領域や死角領域は、自律移動体に取り付けられたセンサ等の障害物観測手段の位置を基準として決定されているため、決定された死角領域と搭乗者から見た死角とにずれが生じ、決定された死角領域に基づいた移動制御に不安感を持つことがある。特許文献1、3、4の文献においても、搭乗者から見た死角は考慮されていない。また、特許文献2は、運転者が車両に取り付けられたカメラの映像を参照しながら交差点への進入操作を行うものであり、制御装置に交差点への進入制御を委ねるものではない。
また、特許文献1~4のように、自律移動体が見通しの悪い交差点等に進入する場合や車線変更等を行う場合は、他車両等の障害物と衝突しないように進入又は車線変更可否が特に慎重に判断される。そして、進入又は車線変更動作の開始が許可された後に衝突可能性がある障害物が検知された場合には、衝突回避のため自律移動体の移動を停止させる停止制御が行われる。しかし、自律移動体の進入又は車線変更の進行度合いによっては、移動を停止させるとかえって障害物との衝突を招来する場合がある。
【0006】
そこで本発明は、搭乗者にとって不安感が少ない移動制御を行うための障害物マップを生成する障害物マップ生成装置が搭載された自律移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明の自律移動体は、障害物の情報を観測する障害物観測手段と、前記障害物観測手段によって観測された障害物の情報を用いて、自律移動体が移動可能な移動可能領域と、前記障害物が存在している障害物占有領域と、前記移動可能領域か否かが不明な死角領域とが表された障害物マップを生成する障害物マップ生成装置と、前記障害物マップ生成装置によって生成された前記障害物マップに基づいて移動制御を行う移動制御手段とを備え、前記障害物マップ生成装置は、前記障害物観測手段によって観測された前記障害物の前記情報を取得する障害物情報取得部と、前記障害物情報取得部によって取得された前記障害物の前記情報に基づき、前記障害物の位置を算出する算出部と、前記算出部によって算出された前記障害物の位置に基づき、前記障害物占有領域を決定すると共に、前記障害物観測手段の位置を基点として前記移動可能領域及び前記死角領域を決定する領域決定部と、前記障害物観測手段が設置された位置とは異なる位置を仮想点として設定する仮想点設定部と、前記算出部によって算出された前記障害物の位置に基づき、前記障害物占有領域を決定すると共に、前記仮想点設定部に設定された前記仮想点の位置及び前記算出部によって算出された前記障害物の位置に基づき、前記仮想点の位置を基点として前記移動可能領域及び前記死角領域を決定する仮想領域決定部と、前記領域決定部又は前記仮想領域決定部によって決定された前記移動可能領域、前記障害物占有領域、及び前記死角領域を基に前記障害物マップを作成する障害物マップ作成部とを有し、前記移動制御手段は、他経路よりも相対的に優先度の高い経路を直進している場合は、前記領域決定部によって決定された前記移動可能領域及び前記死角領域を基に前記障害物マップ作成部が作成した前記障害物マップに基づいて前記移動制御を行ない、他経路への合流時、車線変更時、又は相対的に優先度の低い経路から他経路への進入時は、前記仮想領域決定部によって決定された前記移動可能領域及び前記死角領域を基に前記障害物マップ作成部が作成した前記障害物マップに基づいて前記移動制御を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の自律移動体において、前記算出部は、さらに前記障害物の高さを算出し、前記仮想点設定部は、さらに前記仮想点の高さを設定し、前記仮想領域決定部は、前記仮想点設定部に設定された前記仮想点の位置及び前記仮想点の高さと、前記算出部によって算出された前記障害物の位置及び前記障害物の高さとに基づき、前記仮想点の位置及び前記仮想点の高さを基点として前記移動可能領域及び前記死角領域を決定することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の本発明は、請求項2に記載の自律移動体において、前記仮想領域決定部は、前記障害物の位置を示す障害物点を直交座標系のグリッドマップに表し、前記障害物点が表されたグリッドを前記障害物占有領域として決定し、前記障害物占有領域として決定された前記グリッドを極座標系に変換して前記障害物の高さを保存し、前記仮想点の高さと前記障害物の高さを用いて、極座標グリッドマップ上に移動可能フラグ及び死角フラグのフラグ付けを行い、前記直交座標系のグリッドマップの前記グリッドを極座標系に変換して、前記グリッドの前記仮想点からの距離と角度を取得し、前記グリッドについて、前記仮想点からの前記距離と前記角度に基づいて、前記極座標グリッドマップにおける前記移動可能フラグ及び前記死角フラグとの対応付けを行い、前記移動可能領域及び前記死角領域を決定することを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の自律移動体において、前記障害物観測手段が前端に配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の自律移動体において、前記仮想点設定部は、前記前端に配置された前記障害物観測手段よりも後方に前記仮想点を設定し、前記移動制御手段は、前記他経路への合流時、前記車線変更時、又は前記相対的に優先度の低い経路から他経路への進入時において、前記仮想領域決定部によって決定された前記移動可能領域及び前記死角領域が反映された前記障害物マップに基づいて前記移動制御を行う際、5km/h以下の速度で徐々に前進させ、動作開始後に衝突可能性がある前記障害物が検知された場合に前記自律移動体の移動を止める停止制御モードと、動作開始後に衝突可能性がある前記障害物が検知された場合に前記自律移動体の速度を上昇させる加速制御モードとを有し、前記仮想点の位置を基点として決定された前記死角領域が所定値よりも大きい場合には前記停止制御モードが選択され、衝突可能性がある前記障害物が後方又は側方にあり、前記仮想点の位置を基点として決定された前記死角領域が所定値以下のときには前記加速制御モードが選択されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、搭乗者にとって不安感が少ない移動制御を行うための障害物マップを生成する障害物マップ生成装置が搭載された自律移動体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例による障害物マップ生成装置を備えた自律移動体を示す図
【
図2】同障害物マップ生成装置を備えた自律移動体がT字路に差し掛かった状態を示す図
【
図3】同障害物マップ生成装置を備えた自律移動体がT字路において左折動作を行っている状態を示す図
【
図4】同自律移動体の周辺の2次元空間をグリッド状に分割したマップ
【
図5】同障害物点のマップへの投影と極座標変換を示す図
【
図6】同角度差による最近傍障害物点の保存を示す図
【
図8】同障害物点のマップへの投影と極座標グリッドマップにおける高さの保存を示す図
【
図9】同角度差による障害物点の高さ情報の保存を示す図
【
図11】同死角領域内に障害物が存在している場合や障害物高さが保存されたグリッドが連続している場合の問題点を説明する図
【
図12】同死角領域内の障害物を考慮した死角領域の決定方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の実施の形態による障害物マップ生成装置は、自律移動体に備えられた障害物観測手段によって観測された障害物の情報を用いて、自律移動体が移動可能な移動可能領域と、障害物が存在している障害物占有領域と、移動可能領域か否かが不明な死角領域とが表された障害物マップを生成する障害物マップ生成装置であって、障害物観測手段によって観測された障害物の情報を取得する障害物情報取得部と、障害物情報取得部によって取得された障害物の情報に基づき、障害物の位置を算出する算出部と、障害物観測手段が設置された位置とは異なる位置を仮想点として設定する仮想点設定部と、仮想点設定部に設定された仮想点の位置及び算出部によって算出された障害物の位置に基づき、仮想点の位置を基点として移動可能領域及び死角領域を決定する仮想領域決定部とを備えるものである。
本実施の形態によれば、障害物観測手段とは異なる位置に設定される仮想点から見た移動可能領域及び死角領域が表現された障害物マップを生成することができるので、搭乗者の眼の位置を仮想点に設定すれば、搭乗者から見た移動可能領域及び死角領域を決定することができる。
【0015】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による障害物マップ生成装置において、算出部は、さらに障害物の高さを算出し、仮想点設定部は、さらに仮想点の高さを設定し、仮想領域決定部は、仮想点設定部に設定された仮想点の位置及び仮想点の高さと、算出部によって算出された障害物の位置及び障害物の高さとに基づき、仮想点の位置及び仮想点の高さを基点として移動可能領域及び死角領域を決定するものである。
本実施の形態によれば、領域決定の際に仮想点の高さと障害物の高さも考慮されるため、精度よく移動可能領域及び死角領域を決定することができる。
【0016】
本発明の第3の実施の形態は、第2の実施の形態による障害物マップ生成装置において、仮想領域決定部は、障害物の位置を示す障害物点を直交座標系のグリッドマップに表し、障害物点が表されたグリッドを障害物占有領域として決定し、障害物占有領域として決定されたグリッドを極座標系に変換して障害物の高さを保存し、仮想点の高さと障害物の高さを用いて、極座標グリッドマップ上に移動可能フラグ及び死角フラグのフラグ付けを行い、直交座標系のグリッドマップのグリッドを極座標系に変換して、グリッドの仮想点からの距離と角度を取得し、グリッドについて、仮想点からの距離と角度に基づいて、極座標グリッドマップにおける移動可能フラグ及び死角フラグとの対応付けを行い、移動可能領域及び死角領域を決定するものである。
本実施の形態によれば、より精度よく移動可能領域及び死角領域を決定することができる。
【0017】
本発明の第4の実施の形態による自律移動体は、第1から第3のいずれか一つの実施の形態による障害物マップ生成装置と、障害物の情報を観測する障害物観測手段と、障害物マップ生成装置によって生成された障害物マップに基づいて移動制御を行う移動制御手段とを備え、移動制御手段は、他経路への合流時、車線変更時、又は相対的に優先度の低い経路から他経路への進入時は、仮想領域決定部によって決定された移動可能領域及び死角領域が反映された障害物マップに基づいて移動制御を行うものである。
本実施の形態によれば、障害物観測手段とは異なる位置に設定される仮想点から見た移動可能領域及び死角領域が表現された障害物マップに基づいた移動制御が可能な自律移動体を提供することができる。
【0018】
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態による自律移動体において、障害物観測手段が前端に配置されているものである。
本実施の形態によれば、自律移動体が前進する際に、周囲に存在する物体を早期に検知することができる。
【0019】
本発明の第6の実施の形態は、第5の実施の形態による自律移動体において、仮想点設定部は、前端に配置された障害物観測手段よりも後方に仮想点を設定し、移動制御手段は、他経路への合流時、車線変更時、又は相対的に優先度の低い経路から他経路への進入時において、動作開始後に衝突可能性がある障害物が検知された場合に自律移動体の移動を止める停止制御モードと、自律移動体の速度を上昇させる加速制御モードとを有し、仮想点の位置を基点として決定された死角領域が所定値よりも大きい場合には停止制御モードが選択され、仮想点の位置を基点として決定された死角領域が所定値以下のときには加速制御モードが選択されるものである。
本実施の形態によれば、交差点等における進入動作等をより安全に行うことができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の一実施例による障害物マップ生成装置及び自律移動体について説明する。
図1は、本実施例による障害物マップ生成装置を備えた自律移動体を示す図である。
自律移動体10は、搭乗者の輸送に用いられる車両であり、前輪及び後輪を備えている。自律移動体10には、障害物観測手段20と、障害物マップ生成装置30と、移動制御手段40が配置されている。
【0021】
障害物観測手段20は、自律移動体10の周辺に存在する障害物100までの距離、角度、相対速度といった情報を取得する。障害物100は、人、他車両、道路設置物などである。障害物観測手段20によって観測された情報は障害物マップ生成装置30に伝送される。
障害物観測手段20は、自律移動体10の前端に複数取り付けられている。自律移動体10の前端に取り付けることで、自律移動体10が前進する際に、周囲に存在する物体100を早期に検知することができる。
なお、周囲に存在する物体100に対する計測領域をさらに大きくするため、障害物観測手段20を自律移動体10の前部、後部及び側部に配置することが好ましい。この場合は、自律移動体10の周辺を全方位(360°)にわたって計測できるため、計測領域を拡げることができる。
また、自律移動体10には、GNSS複合航法システムが搭載されており、GNSS(全地球航法衛星システム)から情報が十分に得られる環境において、自律移動体10の3次元位置及び姿勢が計測可能である。また、LIDARから得られる赤外線反射率を利用した自律移動体10の自己位置推定も導入している(菅沼直樹,林悠太郎,永田大記,高橋謙太,“高齢過疎地域における自動運転自動車の市街地公道実証実験概要”,自動車技術会学術講演会 講演予稿集,No.14-15,pp.390-394,2015、山本大貴,菅沼直樹,“高解像度赤外線反射率画像を用いた自動運転自動車の自己位置推定”,第23回日本機械学会交通・物流部門大会講演論文集,pp.320-330,2014.)。この自己位置推定を用いることにより、GNSSから情報が十分に得られない環境においても自律移動体10の高精度な位置情報を取得することが可能である。
【0022】
障害物マップ生成装置30は、障害物情報取得部31と、算出部32と、領域決定部33と、仮想点設定部34と、仮想領域決定部35と、障害物マップ作成部36を備える。
障害物情報取得部31は、障害物観測手段20によって観測された障害物100の情報を取得する。
算出部32は、障害物情報取得部31によって取得された障害物100の情報に基づき、障害物100の位置を算出する。
領域決定部33は、算出部32によって算出された障害物100の位置に基づき、自律移動体10が移動可能な移動可能領域と、障害物100が存在している障害物占有領域と、移動可能領域か否かが不明な死角領域を決定する。移動可能領域及び死角領域は、障害物観測手段20の位置を基点として決定される。
【0023】
仮想点設定部34は、障害物観測手段20が設置された位置とは異なる位置を仮想点4として設定する。仮想点4は任意に定めることができるが、本実施例では自律移動体10に搭乗している搭乗者の眼の位置を仮想点4としている。搭乗者の位置は、例えば自律移動体10が手動運転に切り替わった場合等に運転操作を行う運転者の位置や、自律移動体10内に配置された座席の平均的な位置等を基準として定める。
仮想領域決定部35は、算出部32によって算出された障害物100の位置に基づき、障害物100が存在している障害物占有領域を決定する。また、仮想点設定部34に設定された仮想点4の位置及び算出部32によって算出された障害物100の位置に基づき、仮想点4の位置を基点として移動可能領域及び死角領域を決定する。
これにより、障害物観測手段20とは異なる位置である仮想点4から見た死角領域が表現された障害物マップを生成することができる。本実施例では仮想点4を搭乗者の眼の位置としているので、搭乗者から見た移動可能領域及び死角領域を決定することができる。
【0024】
障害物マップ作成部36は、領域決定部33又は仮想領域決定部35によって決定された、移動可能領域、障害物占有領域、及び死角領域を基に、障害物マップを作成する。作成された障害物マップは、移動制御手段40に伝送される。
【0025】
なお、算出部32は障害物100の位置に加えて障害物の高さを算出し、仮想点設定部34は仮想点4に高さを設定し、仮想領域決定部35は、仮想点4の位置及び高さと、障害物100の位置及び高さとに基づき、仮想点4を基点として移動可能領域及び死角領域を決定することが好ましい。仮想点4の高さ及び障害物100の高さも領域決定に用いることで、より精度よく移動可能領域及び死角領域を決定することができる。
同様に、領域決定部33は、障害物観測手段20の位置及び高さと、障害物100の位置及び高さとに基づき、障害物観測手段20を基点として移動可能領域及び死角領域を決定することが好ましい。
【0026】
また、仮想領域決定部35は、障害物100の位置を示す障害物点を直交座標系のグリッドマップに表し、障害物点が表されたグリッドを障害物占有領域として決定し、障害物占有領域として決定されたグリッドを極座標系に変換して障害物100の高さを保存し、仮想点4の高さと障害物100の高さを用いて、極座標グリッドマップ上に移動可能フラグ及び死角フラグのフラグ付けを行い、直交座標系のグリッドマップのグリッドを極座標系に変換して、グリッドの仮想点4からの距離と角度を取得し、グリッドについて、仮想点4からの距離と角度に基づいて、極座標グリッドマップにおける移動可能フラグ及び死角フラグとの対応付けを行い、移動可能領域及び死角領域を決定することが好ましい。
これにより、より精度よく移動可能領域及び死角領域を決定することができる。
【0027】
図2は、本実施例による障害物マップ生成装置を備えた自律移動体がT字路に差し掛かった状態を示す図であり、
図2(a)は障害物観測手段から見た死角領域を示す図、
図2(b)は仮想点から見た死角領域を示す図である。なお、図中の矢印は自律移動体10の進行方向を示している。
自律移動体10が進行してきた進行元の経路は、進行先の経路よりも優先度(優先権)が低い経路であり、進行先の経路を走行する車両の通行のほうが自律移動体10の通行よりも優先される。
図2において、白色部分は移動可能領域1、黒色部分は障害物占有領域2、灰色部分は死角領域3を示している。
移動制御手段40は、自律移動体10が他経路よりも相対的に優先度の高い経路を直進している場合など死角領域3が比較的小さい場合には、領域決定部33によって決定された移動可能領域1及び死角領域3を基に障害物マップ作成部36が作成した障害物マップに基づいて移動制御を行い、他経路への合流時、車線変更時、又は相対的に優先度の低い経路から他経路への進入時など死角領域3が比較的大きい場合には、仮想領域決定部35によって決定された移動可能領域1及び死角領域3を基に障害物マップ作成部36が作成した障害物マップに基づいて移動制御を行う。これにより、死角領域3が比較的大きい場合には、より慎重に自律移動体10の移動が制御されることになり、自律移動体10の搭乗者の安心感が増す。
【0028】
図2に示すT字路は、右折しようとする自律移動体10の両側に死角領域3が大きく存在し、移動先の経路の見通しが悪いため、移動制御手段40は、仮想領域決定部35によって決定された移動可能領域1及び死角領域3を基に障害物マップ作成部36が作成した障害物マップに基づいて移動制御を行う。移動制御手段40は、死角領域3の存在により移動経路上における障害物100との衝突判断ができない場合は、衝突可能性がある障害物100が検知されたときに即座に停止できるように5km/h以下で自律移動体10を徐々に前進させる。また、移動制御手段40は、死角領域3が小さくなり移動経路上における障害物100との衝突可能性が無いと判断した場合は、自律移動体10を速度上昇させながら目標位置へと移動させる。
【0029】
自律移動体10の前端が進行先の経路に突出すると、
図2(a)に示すように、障害物観測手段20から見た死角領域3は小さくなるため、仮に移動制御手段40が、領域決定部33によって決定された移動可能領域1及び死角領域3を基に障害物マップ作成部36が作成した障害物マップに基づいて移動制御を行っている場合は、自律移動体10は速度上昇しながら進行先の経路に進入してしまう。
しかし、自律移動体10の前端だけが進行先の経路に突出した状態では、
図2(b)に示すように、仮想点4の位置にいる搭乗者の死角領域3はまだ大きいため、搭乗者は進行先の経路をよく見通せていない。よって、この状態で自律移動体10が速度上昇しながら進行先の経路に進入すると、進行先の経路を目視確認できていない搭乗者は不安を感じる。
これに対して、本実施例による移動制御手段40は、仮想領域決定部35によって決定された移動可能領域1及び死角領域3を基に障害物マップ作成部36が作成した障害物マップに基づいて移動制御を行っているため、たとえ領域決定部33によって決定された移動可能領域1及び死角領域3に従えばT字路に進入可能な場合であっても、仮想点4(搭乗者)から見た死角領域3が小さくなり移動経路上における障害物100との衝突可能性が無いと判断するまでは自律移動体10が即座に停止できる速度で徐々に前進するように制御する。このため、自律移動体10が速度上昇しながら進行先の経路に進入する時には、搭乗者4が目視によって衝突可能性がある障害物100の存否を確認できる状態であるため、搭乗者は安心して移動制御手段40に制御を委ねることができる。
【0030】
図3は、本実施例による障害物マップ生成装置を備えた自律移動体がT字路において左折動作を行っている状態を示す図である。なお、図中の矢印は自律移動体10の進行方向を示している。
上述のように、本実施例においては搭乗者の眼の位置を仮想点4としている。すなわち、仮想点設定部34に設定されている仮想点4は、前端に配置された障害物観測手段20よりも後方に位置する。また、移動制御手段40は、仮想領域決定部35によって決定された移動可能領域1及び死角領域3を基に障害物マップ作成部36が作成した障害物マップに基づいて移動制御を行う。
【0031】
図3に示す障害物100Aは、自律移動体10が進入動作前に行った衝突判定において検知されていなかったか、又は衝突可能性が無いと判断された車両である。移動制御手段40は、目標とする経路等への進入動作開始後に衝突可能性がある障害物100が検知された場合に自律移動体10の移動を止める停止制御モードと、自律移動体の速度を上昇させる加速制御モードを有する。
仮想点4の位置を基点として決定された死角領域3が所定値よりも大きいときには停止制御モードが選択され、仮想点の位置を基点として決定された死角領域3が所定値以下のときには加速制御モードが選択される。所定値は、仮想点4の位置や自律移動体10の大きさ等に基づいて設定される。
このように、停止制御モードと加速モード制御との切り換えは、仮想点4の位置を基点として決定された死角領域3の大小に基づいて判断される。仮想点4は障害物観測手段20よりも後方に位置しているため、死角領域が所定値以下になった場合には進入先の経路への自律移動体10の進入量が大きくなっている。よって、後方又は側方から障害物100Aが迫ってきている場合には、自律移動体10の移動を止めるよりも、自律移動体10を前方に加速させて障害物100Aとの衝突を回避するほうが安全である。また、衝突可能性がある障害物100Aが検知された場合に常に自律移動体10の移動を止める制御とすると、交通の流れを必要以上に妨げてしまう可能性があるが、本実施例の回避制御によれば円滑な自動運転を実現することができる。
【0032】
次に、仮想点4を用いて移動可能領域、障害物占有領域、及び死角領域を決定し、障害物マップを作成する第1の作成例を説明する。
図4は、自律移動体10の周辺の2次元空間をグリッド状に分割したマップである。
第1の作成例では、極座標系の各角度で障害物観測手段20からの最近傍障害物点を保存し、仮想点4を基点として最近傍障害物点よりも内側を自律移動体10が移動可能な移動可能領域1に決定し、それ以外の領域を死角領域3に決定する。
【0033】
図4に示すように、自律移動体10の周辺の2次元空間がグリッド状に分割されたマップを作成する。ここで、マップの直交座標系をx-yとし、座標(x、y)におけるグリッドをm
x,yと定義する。なお、グリッドサイズΔgは0.25[m]×0.25[m]としている。512×512個のグリッドを用意し、その対応面積は128[m]×128[m]である。ここで、
図4におけるグリッドマップにおける自律移動体10の位置P
v
mapは、下式(1)で表される。
【数1】
【0034】
図4に示すように、マップにおける障害物観測手段20の位置の整数部分Pv
integral,map及び小数部分P
v
fractional,mapに分割して計算する。ここで、P
v
integral,mapは、Yaw各ψv、及び速度Vを基に下式(2)で表される。
【数2】
【0035】
なお、P
0
map=[x
0
map y
0
map]
Tはマップの中心位置を示し、本作成例で用いるグリッドサイズではP
0
map=[256 256]
Tと設定する。また、t
preは速度に依存してマップにおける障害物観測手段20の位置を調整するパラメータであり、本実施例では経験的にt
pre=5[s]としている。式(2)では自律移動体10の速度Vが大きいほど、自律移動体10のYaw角ψ
vを基に自律移動体10の速度ベクトルと逆方向にP
v
integral,mapはずらされるため、自律移動体10の進行方向により多くのグリッドが用意され、より遠方の障害物100を早期発見できるようになっている。また、式(2)において、round( )は数値を四捨五入する関数である。
小数部分P
v
fractional,mapは絶対座標でのグリッドの解像度以下の小数部分を考慮したものであり、絶対座標系における位置P
v
abs=[x
v
abs y
v
abs]
Tを基に下式(3)で表される。このようにマップにおける位置を小数部分まで考慮することにより、障害物観測手段20による計測値をマップに対してより正確に投影することができる。
【数3】
【0036】
図5は、障害物点のマップへの投影と極座標変換を示す図である。
障害物観測手段20によって観測された物体100の位置を示す障害物点は、自律移動体10の周辺を512×512個に区切ったグリッドマップに表す。障害物点の2次元位置情報x、yをマップ座標に変換する。
図4における障害物点のマップ座標は、下式(4)で表される。
【数4】
この際障害物点が表されたグリッドは、
図5(a)に示すように、障害物占有領域2として決定される。次に障害物占有領域2に設定されたグリッドを、
図5(b)に示すように、r-θ空間の極座標系に変換する。
図5(c)に示すように、分解能0.25[deg]で最近傍障害物点の障害物観測手段20からの距離rを保存する。
障害物占有領域2として決定されたすべてのグリッドにおいて、障害物観測手段20から最近傍障害物点までの距離を求め、0.25[deg]毎で各角度での最近傍障害物点を保存する。
【0037】
図6は、角度差による最近傍障害物点の保存を示す図である。
図6(a)に示すように、障害物観測手段20中心のx-y座標系グリッドマップにおいて障害物観測手段20よりも遠いグリッドに比べて、障害物観測手段20に近いグリッドの方が取り得る角度が大きくなる。この角度差によって最近傍障害物点の保存に抜けができてしまうことを防ぐために、
図6(b)に示すように、各グリッドが取り得る角度の最小値ψ
minから最大値ψ
maxまでのすべての配列要素に最近傍障害物点の距離rの値を保存する。
以上により、自律移動体10の周辺の0.25[deg]毎の最近傍障害物点の保存が完了する。この保存された最近傍障害物点を基準にして障害物マップの移動可能領域1の設定を行う。
【0038】
図7は、移動可能領域の設定方法を示す図である。
自律移動体10の周辺の最近傍障害物点を保存した後に障害物マップの移動可能領域1を決定する。手順は次の通りである。
(1)x-y座標系でのマップのグリッドm
x,yをr-θ空間での極座標系に変換し、仮想点4からの距離rとθを取得する。
(2)上記(1)で得られた角度θでの距離rと保存された最近傍障害物点との比較を行う。最近傍障害物距離よりも距離rが小さい場合は、m
x,yが移動可能領域1に設定する。
(3)すべてのグリッドについて上記(2)を行い、障害物マップを完成する。
【0039】
512×512個のグリッド1つ1つを極座標系に変換し、全グリッドで
図7に示すように仮想点4から最近傍障害物点までの距離を比較する。最近傍障害物点よりも仮想点4に近いグリッドの場合はそのグリッドを移動可能領域1に設定する。また、移動可能領域1及び障害物占有領域2以外の領域は、死角領域3に設定する。
【0040】
次に、仮想点4を用いて移動可能領域、障害物占有領域、及び死角領域を決定し、障害物マップを作成する第2の作成例を説明する。障害物点は2次元情報だけでなく自律移動体10の後輪の車軸を基準(z=0)とした高さzの情報も持っているため、第2の作成例においては、仮想点4と障害物の位置関係を用い、仮想点4から見た障害物100の死角となる領域を決定して死角領域3を導出する。
【0041】
図8は、障害物点のマップへの投影と極座標グリッドマップにおける高さの保存を示す図である。
まず、
図8(a)に示すように、第1の作成例と同様にして障害物点を自律移動体10の周辺を512×512個のグリッドに区切ったグリッドマップに表わす。障害物点が表されたグリッドは、障害物占有領域2に決定する。
図8(a)において自律移動体10の周辺に表された●印が障害物点を示している。
次に、
図8(b)に示すように、障害物100の高さを保存するために1440×500個のグリッドからなる極座標グリッドマップ(以下、「高さマップ」という)を作成する。
図8(b)において黒塗されたグリッドが高さを有するグリッドを示している。なお、1つのグリッドサイズは、0.25[deg]×0.35[m]であり、0.35[m]はx-y座標系グリッドマップのグリッドの対角線の値である。障害物点は障害物観測手段20から0.35[m]×285=100[m]の距離までの障害物点を扱っている。極座標グリッドマップの初期設定は、全グリッドで自律移動体10の後輪の車軸を基準とした高さz=0[m]である。障害物点占有グリッドの極座標変換を行い、対応する極座標系グリッドに高さを保存する。
【0042】
図9は、角度差による障害物点の高さ情報の保存を示す図である。
第1の作成例と同様に、障害物観測手段20中心のx-y座標系グリッドマップにおいて障害物観測手段20よりも遠いグリッドに比べて、障害物観測手段20に近いグリッドの方が取り得る角度が大きくなる。この角度差によって障害物100の高さ情報の保存に抜けができてしまうことを防ぐために、
図9に示すように、各グリッドが取り得る角度の最小値ψ
minから最大値ψ
maxまでのすべてのグリッドに障害物点の高さ情報zの値を保存する。
【0043】
保存した障害物高さを用いて移動可能領域1と死角領域3のフラグ付を行う。移動可能フラグと死角フラグを保存するために高さの保存の時と同様にグリッドサイズ0.25[deg]×0.35[m]の1440×500の極座標グリッドマップ(以下、「フラグマップ」という)を作成する。フラグマップの初期設定は全グリッド死角フラグである。よって移動可能フラグを決めることになる。
まず、高さマップで自律移動体10の後輪の車軸を基準とした高さz=0となるグリッドと対応するフラグマップのグリッドに移動可能フラグを与える。
次に、説明のために高さマップでのある角度に注目する。距離rを進めていき障害物高さが保存されているグリッドを探索する。高さzの値が0ではないグリッドを見つけたときに死角領域3の計算を行う。極座標系に高さを保存しているため障害物観測手段20から障害物100までの距離は既知であり、仮想点4の位置と合わせて死角領域3を幾何的に計算できる。以下に式(5)を示す。
【数5】
【0044】
図10に式(5)に用いている記号の意味を示す。
図10において自律移動体10の右横に記載しているグリッドは、白色が移動可能領域1、黒色が障害物占有領域2、灰色が死角領域3を示している。ψはz軸と仮想点4と障害物100の高さを結んだ線分がなす角度、d
unknownは求めようとしている障害物100による死角領域距離、h
obsは高さマップに保存されている障害物高さを、r
obsは障害物100までの仮想点4からの平面距離を、h
velodyneは仮想点4の高さを表している。
図10内の三角形ABCと三角形BDEの相似関係を用いることで死角領域距離d
unknownを幾何的に求めることができる。フラグマップの各グリッドにおける初期設定は死角フラグであるため、求められた死角領域3内でのフラグ付の必要はなく、計算に用いた障害物高さが保存されているグリッドから死角領域距離d
unknown分のグリッドを飛ばし、次の障害物高さが保存されているグリッドを探索する。これをすべての角度で行い、フラグマップでの移動可能フラグ及び死角フラグのフラグ付を行う。
【0045】
図11は死角領域内に障害物が存在している場合や障害物高さが保存されたグリッドが連続している場合の問題点を説明する図である。
図11において自律移動体10の右横に記載しているグリッドは、白色が移動可能領域1、黒色が障害物占有領域2、灰色が死角領域3を示している。
障害物高さが保存されたグリッドを探索する際には仮想点から近いグリッドから順に探索していくと、死角領域距離d
unknownが計算されると死角領域距離に相当するグリッドでの障害物探索は行わず、次の障害物高さが保存されているグリッドを探索してしまうため、
図11のように、求めた死角領域距離d
unknown内に障害物高さが保存されたグリッドが存在した場合、本来死角となる領域に対して死角フラグを与えることができない。よって、死角領域距離d
unknown内に障害物高さが保存されたグリッドが存在した場合でも死角領域距離d
unknownが正確に計算できるようにすることが好ましい。
【0046】
死角領域内に障害物が存在している場合や障害物高さが保存されたグリッドが連続している場合でも死角領域距離dunknownが正確に計算されるには、以下の手順で死角領域3を決定する。
(1)障害物高さが保存されたグリッドで計算を行う前に、1つ隣のグリッドに障害物高さが保存されているか否かを確認する。保存されている場合は現在のグリッドで死角領域距離dunknownの計算は行わずに1つ隣のグリッドへと進める。これを障害物高さが保存されたグリッドに隣接したグリッドがz=0になるまで繰返す。
(2)連続する障害物占有グリッドの中で距離rが最も大きいもので死角領域距離dunknownを計算する。
(3)(2)で求めた死角領域距離dunknown内に障害物高さが保存されているグリッドが存在するか否かを確認する。存在する場合は死角領域距離dunknownを計算する。
【0047】
図12は死角領域内の障害物を考慮した死角領域の決定方法を示す図である。
図12において自律移動体10の右横に記載しているグリッドは、白色が移動可能領域1、黒色が障害物占有領域2、灰色が死角領域3を示している。
図12に示すように、障害物高さが保存されたグリッドがr方向に連続する場合は、連続するグリッドの中で最も距離rが大きい値のもので死角領域3の計算を行い、死角領域3内に障害物100が無いようにする。それでも死角領域3内に障害物100がある場合、その障害物100の高さを用い、再度死角領域距離d
unknownを計算する。
【0048】
フラグマップのすべてのグリッドでフラグ付が完了した後に障害物マップの移動可能領域1を決定する。移動可能領域1の決定は以下の手順で行われる。
(1)x-y座標系でのグリッドマップのグリッドmx,yを極座標系に変換し、グリッドの仮想点4からの距離rと角度ψを取得する。
(2)(1)で得られた距離rと角度ψを基にフラグマップのグリッドmψ,rに保存されたフラグが移動可能フラグか死角フラグかを確認する。フラグが移動可能フラグならばmx,yを移動可能領域1に設定する。
(3)全グリッドで上記(2)を行い障害物マップを完成する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、特に有人の自動運転自動車に適用することで、搭乗者に安心感を与える自動運転を実現できる。
【符号の説明】
【0050】
1 移動可能領域
2 障害物占有領域
3 死角領域
4 仮想点(搭乗者)
10 自律移動体
20 障害物観測手段
30 障害物マップ生成装置
31 障害物情報取得部
32 算出部
33 領域決定部
34 仮想点設定部
35 仮想領域決定部
36 障害物マップ作成部
40 移動制御手段
100 障害物