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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】車両用シートの支持構造
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/005 20060101AFI20220810BHJP
   B60N 2/20 20060101ALI20220810BHJP
   B60N 2/32 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
B60N2/005
B60N2/20
B60N2/32
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018134328
(22)【出願日】2018-07-17
(65)【公開番号】P2020011578
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】竹林 清
(72)【発明者】
【氏名】朝居 輝三
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特許第5895743(JP,B2)
【文献】特開2014-029178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/005
B60N 2/20
B60N 2/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可倒式のシートバックを有する車両用シートの支持構造であって、
車体に固定されて車幅方向に延びる軸体と、
前記シートバックの側面部に設けられ、車幅方向に延びる取付穴を有した球状体と、この球状体の外周面に対応する断面円弧状の受け面を有し、当該受け面で前記球状体を転動可能に保持する保持部と、を備え、
前記シートバックは、前記取付穴に前記軸体が挿入されることにより、当該軸体を支点として前記車体に対して前後方向に揺動可能に支持されている、ことを特徴とする車両用シートの支持構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートの支持構造であって、
前記球状体は、前記取付穴の開口縁部に沿って形成されたボス部を備え、
前記保持部は、前記ボス部と係合することにより前記球状体の転動範囲を規制する規制部を備える、ことを特徴とする車両用シートの支持構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用シートの支持構造であって、
前記取付穴の端部であって、前記軸体の入口側となる端部の内周面には、当該取付穴の外側から内側向かって内径が小さくなるテーパ部が設けられている、ことを特徴とする車両用シートの支持構造。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の車両用シートの支持構造であって、
前記シートバックの側面部を第1側面部、前記軸体を第1軸体と各々定義したときに、
前記シートバックは、車幅方向における前記第1側面部とは反対側の第2側面部に、前記第1軸体と同一軸線上に沿って当該第2側面部から外向きに延びる第2軸体を備え、
前記車体のフロア部には、前記第2軸体を回動可能に支持する支持部が備えられ、
前記第2軸体には、前記支持部と係合することにより当該第2軸体が軸方向に変位することを規制する係合部が設けられている、ことを特徴とする車両用シートの支持構造。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用シートの支持構造であって、
前記第1軸体は、車体の内壁部から車室内に向かって延びるものであり、
前記支持部は、前記フロア部のうち、車幅方向における車室の中央又はその近傍位置に設けられている、ことを特徴とする車両用シートの支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両用シート、特に、リヤシートに適した車両用シートの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シートクッションとシートバックとを備え、シートクッションに折り重なるようにシートバックを前傾させることにより、荷室を拡張できるようにした車両用のリヤシートが知られている。この種のリヤシートの一例として特許文献1が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されるリヤシートは、分割可倒式の左右一対のシートバックを備えている。左右のシートバックは、各々、車内側に突出するようにホイルハウスフレームに固定された車体側ピンと、車体フロアの中央部に固定された取付具とによって傾倒(揺動)可能に支持されている。詳しくは、シートバックフレームの車外側(ドア側)の側面部に貫通穴が形成され、この貫通穴に車体側ピンが挿入される一方、シートバックフレームの車内側(センター側)の側面部にシート側ピンが設けられ、このシート側ピンが取付具に支持されている。この構成により、左右のシートバックが、各々、車体側ピンとシート側ピンとを支点として、車体に対して前後方向に傾倒可能に支持されている。
【0004】
なお、前記貫通穴には筒状の樹脂キャップが挿着されており、車体側ピンは、正確には、この樹脂キャップの内側(取付穴という)に挿入されている。樹脂キャップの外周面は、幅方向両側(軸方向両側)にテーパ面が形成された断面山型を成しており、これにより、樹脂キャップは、シートバックフレームの側面部(貫通穴)に対して揺動可能となっている。従って、車体へのシートバックの組み付けの際には、シートバックフレームに対して樹脂キャップを傾ける、すなわち取付穴を傾けることにより、車体側ピンに対してシートバックを傾けた状態のままで、当該車体側ピンをシートバックフレームの貫通穴(取付穴)に挿入することができ、これにより、車体へのシートバックの組付作業が簡便になると、特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5895743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示される従来の車両用シートでは、樹脂キャップの外周面が山型であって、当該樹脂キャップの外周面と前記貫通穴の内周面とが線接触に近い状態となっているため、乗員の荷重などによって外周の山部を押し潰すように樹脂キャップが変形するおそれがある。このような変形は、樹脂キャップとこれが挿着された貫通穴の内周面との間に隙間を形成してシートバックのガタツキを誘発し、ひいては乗り心地を阻害する要因の1つとなる。
【0007】
また、筒状の樹脂キャップの一端に、車体側ピンを取付穴に誘導するためのフランジ部が設けられているため、樹脂キャップを傾けると、このフランジ部がシートバックフレームの側面部に当たってしまう。そのため、樹脂キャップ(取付穴)を傾かせることができる角度の範囲は比較的小さく、シートバックを、車体側ピンに対して大きく傾けた状態で車体に組み付けることは難しい。よって、従来の車両用シートは、組付作業性の向上に充分に寄与するものとは言えなかった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、シートバックのガタツキを誘発するようなことなく、車体へのシートバックの組付作業性をより向上させることができる、車両用シートの支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面に係る車両用シートの支持構造は、可倒式のシートバックを有する車両用シートの支持構造であって、車体に固定されて車幅方向に延びる軸体と、前記シートバックの側面部に設けられ、車幅方向に延びる取付穴を有した球状体と、この球状体の外周面に対応する断面円弧状の受け面を有し、当該受け面で前記球状体を転動可能に保持する保持部と、を備え、前記シートバックは、前記取付穴に前記軸体が挿入されることにより、当該軸体を支点として前記車体に対して前後方向に揺動可能に支持されているものである。なお、「車体に固定されて車幅方向に延びる軸体」とは、軸体が車体に対して直接固定されている場合の他、ブラケット等の部材を介して固定されている場合の双方を含む。
【0010】
この車両用シートの支持構造では、シートバックの側面部は、車体に固定された軸体によって支持されるが、この軸体は、シートバックの側面部に転動可能に保持された球状体に設けられた取付穴に挿入される。そのため、許容される取付穴の傾き角度の範囲が比較的大きく、シートバックを車体に組み込む際には、シートバックをより大きく傾けた状態で、軸体を取付穴に挿入することが可能となる。しかも、球状体は、その外周面に対応する断面円弧状の受け面で受けられているので、乗員の荷重などが作用しても当該荷重が分散され易く、よって変形し(ヘタリ)難くい。従って、球状体と保持部(受け面)との間に隙間が形成されてシートバックのガタツキを誘発することが効果的に抑制される。
【0011】
この支持構造において、前記球状体は、前記取付穴の開口縁部に沿って形成されたボス部を備え、前記保持部は、前記ボス部と係合することにより前記球状体の転動範囲を規制する規制部を備えるのが好適である。
【0012】
この構造によれば、取付穴の傾き角度の範囲を比較的大きく確保しながら、球状体が転動して取付穴が保持部に隠れてしまうことを防止することができる。そのため、シートバックの組付作業性の向上に寄与するものとなる。
【0013】
上記の各支持構造において、前記取付穴の端部であって、前記軸体の入口側となる端部の内周面には、当該取付穴の外側から内側向かって内径が小さくなるテーパ部が設けられているのが好適である。
【0014】
この構造によれば、取付穴に対して軸体の先端を誘導し易くなるため、シートバックの組付作業性の向上に寄与するものとなる。
【0015】
上記の各支持構造においては、前記シートバックの側面部を第1側面部、前記軸体を第1軸体と各々定義したときに、前記シートバックは、車幅方向における前記第1側面部とは反対側の第2側面部に、前記第1軸体と同一軸線上に沿って当該第2側面部から外向きに延びる第2軸体を備え、前記車体のフロア部には、前記第2軸体を回動可能に支持する支持部が備えられ、前記第2軸体には、前記支持部と係合することにより当該第2軸体が軸方向に変位することを規制する係合部が設けられているのが好適である。
【0016】
この構造によれば、球状体(取付穴)に挿入された第1軸体によってシートバックを支持しながら、当該シートバックを車幅方向の特定位置に位置決めすることが可能となる。
【0017】
上記の各支持構造において、前記第1軸体は、車体の内壁部から車室内に向かって延びるものであり、前記支持部は、前記フロア部のうち、車幅方向における車室の中央又はその近傍位置に設けられているものである。
【0018】
このような構造は、2列シートのリヤシートや、3列シートの第3列目のシートについて多く採用される。このような構造では、第1軸体に対してシートバックを傾けた状態で車体に組み付けることが求められる場合あり、上述した各態様の支持構造は、このように第1軸体が車体の内壁部に設けられ、支持部が車体のフロア部に備えられる場合に特に有用となる。
【発明の効果】
【0019】
上記の各態様に係る車両用シートの支持構造によれば、シートバックのガタツキを誘発するようなことなく、車体へのシートバックの組付作業性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る車両用シート(リヤシート)の斜視図である。
図2】リヤシートのシートバックの支持構造を示す図であり、(a)は、シートバックフレームの正面図、(b)は、シートバックフレームの側面図である。
図3】シートバックフレームの車外側の支持構造を示す側面図である。
図4】シートバックフレームの車外側の支持構造を示す分解斜視図である。
図5】シートバックフレームの車外側の支持構造を示す断面図(図3のV-V線断面図)である。
図6】シートバックフレームの車内側の支持構造を説明するための斜視図である。
図7】シートバックフレームの車内側の支持構造を説明するための分解斜視図である。
図8】車体に対するシートバックの組付手順を説明する説明図である。
図9】球状体(取付穴)とピンとの関係を示すシートバックフレームの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
[車両用シートの全体構成]
図1は、本発明の実施形態に係る車両用シートの斜視図である。同図に示す車両用シート1は、車両の後部席として用いられるリヤシートであり、前後2列のシートを有する車両のリヤシート、或いは前後3列のシートを有する車両の第3列目のシートに相当するものである。
【0023】
なお、以下の説明で使用する「方向」に関する用語(前後左右等)は、車両に搭載された状態の車両用シート1を基準とする。
【0024】
車両用シート1は、シートバックを分割して傾倒することが可能な、いわゆる分割可倒式のシートである。詳しくは、図1に示すように、車両用シート1は、車幅方向に亘って延在するシートクッション2と、シートクッション2の左側の領域に対応して設けられた左側シートバック3と、シートクッション2の右側の領域に対応して設けられた右側シートバック4と、右側及び左側のシートバック3、4の各々に設けられたヘッドレスト3a、4aとを備えている。左側シートバック3および右側シートバック4は、前後方向に個別に傾倒可能とされ、図1の二点鎖線に示すように、シートクッション2に折り重なるように前傾させることで、車両用シート後方の荷室空間などを拡張できるようになっている。
【0025】
左側シートバック3と右側シートバック4との車幅方向の比率は、当例では5:5である。但し、この比率は5:5に限定されるものではなく6:4などであってもよい。
【0026】
車両用シート1のうち、シートクッション2は、車体のフロア部7に固定的に支持されている。一方、左側シートバック3及び右側シートバック4は、各々、車体のフロア部7と、ホイルハウスフレーム等の車体の内壁部6とに跨って支持されている。
【0027】
[車両用シート(シートバック)の支持構造]
図2は、車両用シート1の左側シートバック3の支持構造を示す図であり、(a)は、左側シートバック3のシートバックフレーム10の正面図、(b)は、シートバックフレーム10の側面図である。左側シートバック3は、同図に示すシートバックフレーム10と、このシートバックフレーム10に組付けられる図外のシートバックパッドと、シートバックパッドを外側から覆う図外のシート表皮などによって構成されている。
【0028】
シートバックフレーム10は、パイプ部材等の金属製の複数の部材が接合されることにより構成された、左側シートバック3の骨組みであり、正面視で略矩形を成している。シートバックフレーム10の車外側(左側方)には、車室内に向かって膨出するホイルハウスフレーム等の内壁部6が存在しており、シートバックフレーム10の車外側(左側)の側面部12のうち、上下方向中央部よりも下側の部分は、この膨出した内壁部6を避けるように、上側の部分に比べて車内側(車幅方向中央側)にオフセットされている。
【0029】
シートバックフレーム10の車外側の側面部12の下端の近傍位置には、球状体22を保持した保持部12aが設けられており、内壁部6に固定されたピン6a(本発明の第1軸体に相当する)が、この球状体22に設けられた取付穴24(図5参照)に挿入されている。これによって、シートバックフレーム10の車外側の側面部12が、ピン6aにより前後方向に傾倒(揺動)可能に支持されている。
【0030】
図3図5は、このようなシートバックフレーム10の車外側の側面部12の支持構造を詳細に示しており、図3は側面図で、図4は分解斜視図で、図5は断面図(図3のV-V線断面図)で各々前記支持構造を示している。
【0031】
図3図5に示すように、シートバックフレーム10の車外側の側面部12は、断面コ字型の金属プレートからなるブラケット20と、これに固定されるリテーナ40とを有している。
【0032】
ブラケット20には、車幅方向に貫通する円形の開口部30が形成されている。この開口部30は、例えばバーリング加工により形成されており、その周囲には車内側(右方)に向かって立ち上がる円環状の立ち上がり部32が形成されている。開口部30の内周面、すなわち立ち上がり部32の内周面32aは、ブラケット20の車外側の側面(左側面/後記リテーナ40の接合面Fa)の位置で内径が最大とされ、車内側(右方)に向かって内径が徐々に小さくなるように、詳しくは、球状体22の外周面に対応した断面円弧状となるように先窄まり形成されている。
【0033】
球状体22は、ブラケット20の車外側(左方)から開口部30に挿入されており、リテーナ40がこの球状体22の外側からブラケット20の車外側の側面(左側面)に固定されている。
【0034】
リテーナ40は、車幅方向に貫通する円形の開口部42を中央に備えた金属製のプレート状の部材である。開口部42は、ブラケット20の開口部30と同様に、例えばバーリング加工で形成されており、その周囲には、車外側(左方)に向かって立ち上がる円環状の立ち上がり部44が形成されている。リテーナ40の開口部42の内周面、すなわち立ち上がり部44の内周面44aは、ブラケット20の前記立ち上がり部32の内周面32aと左右対称に形成されている。つまり、当該内周面44aは、車幅方向におけるブラケット20との接合面Faの位置で内径が最大とされ、車外側(左方)に向かって内径が徐々に小さくなるように、詳しくは球状体22の外周面に対応した断面円弧状となるように先窄まり成されている。
【0035】
リテーナ40は、前記球状体22を開口部42に受け入れた状態で、ブラケット20に一体的に固定されている。具体的には、リベットR1が、ブラケット20の車内側(右方)から、当該ブラケット20の貫通穴34とリテーナ40の貫通穴46とに亘って挿通され、リテーナ40の外側(左外側)でカシメられることにより、リテーナ40がブラケット20に固定されている。これにより、ブラケット20の立ち上がり部32の内側とリテーナ40の立ち上がり部44の内側とに各々球状体22が挿入され、かつ、当該立ち上がり部32、44によって車幅方向に抜け止めされた状態で、球状体22がシートバックフレーム10の車外側(左側方)の側面部12に保持されている。
【0036】
ブラケット20の立ち上がり部32の内周面32aおよびリテーナ40の立ち上がり部44の内周面44aは、上記の通り、球状体22の外周面に対応した断面円弧状であり、よって、球状体22は、シートバックフレーム10の側面部12に対して転動可能である。つまり、上記保持部12aは、ブラケット20の立ち上がり部32及びリテーナ40の立ち上がり部44によって構成されており、当該保持部12aは、球状体22の外周面に対応する断面円弧状の受け面を有し、当該受け面で球状体22を転動可能に保持する。
【0037】
球状体22は、POM(ポリアセタール樹脂)材などの樹脂材料、或いは含油の燒結金属など、強度および耐久性に優れた材料により全体が一体に成型されている。球状体22は、その表面に複数の凹部を備えており、これにより、強度や耐久性を保ちつつ、前記立ち上がり部32、44の内周面32a、44aとの摺動抵抗を低減させるように構成されている。
【0038】
図4及び図5に示すように、球状体22は、その中心に、車幅方向に貫通する取付穴24を有しており、上記の通り、この取付穴24に前記ピン6aが挿入されることによって、シートバックフレーム10の車外側(左側)の側面部12が、ピン6aにより前後方向に傾倒(揺動)可能に支持されている。ピン6aは、車体の内壁部6から車幅方向に沿って真っ直ぐに(前後に傾くことなく)かつ水平に延びている。
【0039】
球状体22は、取付穴24の各開口縁部に沿って環状のボス部26を備えている。これらのボス部26は、球状体22が一定角度以上傾くと、ブラケット20の立ち上がり部32の先端32b(本発明の規制部に相当する)及びリテーナ40の立ち上がり部44の先端44b(本発明の規制部に相当する)に各々当接するように設けられている。これにより、球状体22の傾き角度(転動範囲)が一定範囲内に規制されるようになっている。当例では、取付穴24の中心軸Ax1とピン6aの中心軸Ax2との成す角度θが30°を超えないように、球状体22の傾き角度が規制されるようになっている(図9参照)。換言すると、球状体22は前記角度θが0°~30°の範囲内で傾くことが許容される。
【0040】
図6及び図7は、シートバックフレーム10の車内側(右側)の側面部13の支持構造を詳細に示しており、図6は斜視図で、図7は分解斜視図で各々前記支持構造を示している。
【0041】
シートバックフレーム10の車内側の側面部13は、金属プレートかなるブラケット50を有している。このブラケット50には、車内側(右方)に延びるピン52(本発明の第2軸体に相当する)が設けられており、図2図6及び図7に示すように、このピン52が、車体のフロア部7に設けられた支持部材60により支持されることによって、シートバックフレーム10の車内側の側面部13が、支持部材60によって前後方向に傾倒(揺動)可能に支持されている。
【0042】
支持部材60は、図外のボルト等によってフロア部7に固定されるプレート状のベース部62と、このベース部62の中央に立設されたピン支持部64と、このピン支持部64に固定されるカバー部材66とを含む。支持部材60のうち、カバー部材66を除く部分は金属材料により一体に構成されている。
【0043】
ピン支持部64は、車幅方向に所定間隔を隔て対面する一対のピン支持プレート64a(本発明の支持部に相当する)を備えている。これらのピン支持プレート64aは前記ピン52を支持するものであり、左側のピン支持プレート64aは、左側シートバック3のピン52を支持し、右側のピン支持プレート64aは、右側シートバック4のピン52を支持するものである。
【0044】
ピン支持プレート64aには、上向きに開口する側面視U字型の切欠からなる軸受部65が設けられており、これら軸受部65により前記ピン52が支持されている。詳しくは、ピン52には、ピン支持プレート64aの厚み寸法よりも僅かに大きい溝幅の周溝52aが形成されており、ピン52は、この周溝52a内にピン支持プレート64aを介在させた状態で前記軸受部65によって支持されている。これにより、ピン52は、車幅方向への変位が規制された状態で軸受部65によって回動可能に支持される。
【0045】
カバー部材66は、下方が開口した例えば樹脂製の箱形の部材であり、ピン支持部64の上端部に固定されることにより、図6に示すように、各ピン支持プレート64a(軸受部65)に支持された左右のシートバック3、4のピン52を一体に上方から覆う。これにより、各シートバック3、4のピン52が軸受部65から意図せず脱落することが防止されるようになっている。カバー部材66は、ボルトB1によりピン支持部64に着脱可能に固定されている。なお、図2(a)では、右側シートバック4は省略されている。
【0046】
なお、ここでは、車両用シート1の左側シートバック3の支持構造について詳細に説明したが、右側シートバック4の支持構造も、左右が対称となる(すなわち、右側シートバック4の右側が車外側の側面部12となり、左側が車内側の側面部13となる)だけで基本的には左側シートバック3と同じである。従って、右側シートバック4の支持構造についての詳細な説明は省略する。
【0047】
[車体に対する車両用シート(シートバック)の組付]
図8(a)~(c)は、車体に対する左側シートバック3の組付手順を説明する説明図である。図8(a)~(c)の各図は、図2(a)のVIII-VIII線断面に相当する断面図で各左側シートバック3の組付手順を示している。
【0048】
左側シートバック3を車体に組み込むには、まず、球状体22の取付穴24に、車体の内壁部6から突出しているピン6aを挿入する必要がある。この場合、車幅方向に沿って取付穴24にピン6aを挿入しようとすると、支持部材60のピン支持部64と左側シートバック3とが干渉する。そのため、図8(a)に示すように、車内側の側面部13が車外側の側面部12よりも後方に位置するように左側シートバック3を傾け、この状態で左側シートバック3を車外側(左方)に移動させることにより、取付穴24にピン6aを挿入する。
【0049】
この際、球状体22は側面部12に転動可能に保持されているので、図9に示すように、取付穴24の中心軸Ax1とピン6aの中心軸Ax2とが平行でない場合でも、ピン6aの先端部を取付穴24の入口部分に突き当て、この状態で左側シートバック3を左方に押圧すれば、自ずと取付穴24の中心軸Ax1とピン6aの中心軸Ax2とが一致するように球状体22が転動し、これにより取付穴24にピン6aが挿入される。つまり、左側シートバック3をピン6aに対して傾けた状態で、取付穴24にピン6aを挿入することができる。この場合、ピン6aの先端には先細りのテーパ部70が設けられ、取付穴24の入口部分の内周面には上記の通りテーパ部24aが設けられているので、取付穴24内にピン6aを誘導しながら円滑に挿入することができる。
【0050】
取付穴24にピン6aを挿入したら、次に、図8(b)に示すように、左側シートバック3の車内側の側面部13を前方に移動させ、図8(c)に示すように、当該側面部13に設けられたピン52を支持部材60のピン支持部64に支持させる。詳しくは、ピン52の周溝52a内にピン支持プレート64aが介在するように、ピン52を軸受部65によって支持させる。このようにピン52を軸受部65に支持させると、ピン支持プレート64aによってピン52の軸方向(車幅方向)への変位が規制され、これによって車幅方向の特定位置に左側シートバック3が位置決めされる。
【0051】
ここでは、左側シートバック3について説明したが、右側シートバック4についても、左右が異なるだけで、左側シートバック3と同様の手順で車体に組み込むことができる。
【0052】
左側シートバック3及び右側シートバック4を各々車体に組み込んだ後は、支持部材60のピン支持部64にカバー部材66を装着、固定する。これにより、車体へのシートバック3、4の組付作業が完了する。
【0053】
なお、図8(a)~(c)では、車内側の側面部13が車外側の側面部12よりも後方に位置するようにシートバック3、4を傾ける例について説明したが、例えば、車内側の側面部13が車外側の側面部12よりも上方に位置するようにシートバック3、4を上下に傾け、これにより支持部材60(ピン支持部64)とシートバック3、4との干渉を避けるようにしてもよい。
【0054】
[作用効果等]
以上説明した車両用シート1の支持構造では、シートバック3、4の車外側の側面部12は、車体の内壁部6に固定されたピン6aによって支持されるが、このピン6aはシートバックフレーム10に転動可能に保持された球状体22の取付穴24に挿入される。そのため、許容される取付穴24の傾き角度の範囲が比較的大きく、シートバック3、4を車体に組み込む際には、シートバック3、4をより大きく傾けて、支持部材60(ピン支持部64)を確実に避けることができる。従って、シートバック3、4と支持部材60とが干渉しないように注意を払うといった労力が軽減され、その分、左側シートバック3を車体に組み付ける際の作業性が向上する。
【0055】
ここで、例えば、シートバックの組み付け方法としては、シートバックとフロア部の支持部材とが干渉しないように、支持部材の位置をより車内側(車幅方向中央側)に設け、車体の内壁部に固定されたピンへの仮挿入後、車内側の支持部材にシートバックのピンを乗せた状態で、シートバックを車外側に動かして、車体の内壁部に固定されたピンにシートバックの軸受ブッシュを挿入することも考えられる。しかし、こうした構造をとる場合、最終的な組み付け位置に位置決めするために、その移動量分だけ、車幅方向に遊びが必要となる。本発明では、その移動量分に相当するシート車幅方向の遊びが不要となり、車内側で容易に位置決めが可能となることで、例えば、左右のシートバックの間の位置のばらつきを抑えて、外観の向上や前傾作動の安定化を図ることも可能である。
【0056】
しかも、球状体22を保持する保持部12aの受け面(すなわち、ブラケット20の立ち上がり部32の内周面32a及びリテーナ40の立ち上がり部44の内周面44a)は、球状体22の外周面に対応した断面円弧状に形成されているので、乗員等の荷重などが作用しても当該荷重が分散され易く、球状体22が変形し(ヘタリ)難くい。従って、球状体22が変形して保持部12aの受け面(内周面32a、44a)との間に隙間が形成され、これによってシートバック3、4にガタツキが生じることが効果的に抑制される。
【0057】
また、前記球状体22にはボス部26が形成され、このボス部26が保持部12a(すなわち、ブラケット20の立ち上がり部32及びリテーナ40の立ち上がり部44)に係合することによって、球状体22の転動範囲が規制される。従って、取付穴24の傾き角度の範囲を比較的大きくしながらも、取付穴24が意図せず保持部12aに隠れてしまうことが確実に防止される。
【0058】
また、車両用シート1の支持構造では、シートバック3、4の車内側の側面部13にピン52が設けられ、このピン52が、フロア部7に固定された支持部材60(ピン支持プレート64a)の軸受部65によって支持されるが、ピン52には周溝52aが形成されており、ピン52は、この周溝52a内にピン支持プレート64aが介在し、軸方向の変位が規制された状態で軸受部65によって支持される。従って、シートバック3、4の車外側の側面部12を、取付穴24に挿入されたピン6aによって支持する構成でありながらも、シートバック3、4の全体を車幅方向の特定の位置に適切に位置決めすることができる。つまり、シートバック3、4が車幅方向にガタツクことが防止される。
【0059】
[変形例等]
以上説明した車両用シート1の支持構造は、本発明に係る車両用シートの支持構造の好ましい実施形態の例示であって、車両用シート1の具体的な構造や、当該車両用シート1の具体的な支持構造は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、以下のような態様であってもよい。
【0060】
(1)実施形態では、球状体22を転動可能に保持する保持部12aは、シートバックフレーム10の側面部12を構成する、ブラケット20の立ち上がり部32とリテーナ40の立ち上がり部44とで構成されている。しかし、保持部12aの構成はこれに限定されない。例えば保持部12aは、球状体22を転動可能に保持するように、ブラケット20とは別に設けられた部材であって、球状体22と共にブラケット20に組付けられる部材により構成されていてもよい。
【0061】
(2)実施形態では、シートバック3、4の車内側の側面部13(ブラケット50)を支持するピン52に周溝52aが設けられており、この周溝52aにピン支持プレート64aを介在させることによってピン52の軸方向の変位を規制する(シートバック3、4を車幅方向に位置決めする)ように構成されている。すなわち、周溝52aの両側の側壁部分が、ピン52(第2軸体)の軸方向の変位を規制する本発明の「係合部」に相当する。しかし、ピン52の軸方向の変位を規制するための構造はこれに限定されない。例えばピン52に鍔部など径方向外側に突出する部分(係合部)を設ける一方、この突出部分を車幅方向両側から挟み込む部分を支持部材60のピン支持部64に設けることにより、ピン52の軸方向の変位を規制してもよい。
【0062】
(3)実施形態では、シートバック3の車内側の側面部13(ブラケット50)に設けられたピン52を、フロア部7に固定された支持部材60のピン支持部64によって支持しているが、逆の構造であってもよい。すなわち、フロア部7側に車幅方向に延びるピンを備えた支持部材を配置する一方で、シートバック3の側面部13に、前記ピンを受け入れる切欠部を備えた被支持部を設けることにより、前記ピンにより左側シートバック3を傾倒(揺動)可能に支持するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 車両用シート
2 シートクッション
3 左側シートバック
4 右側シートバック
6 側壁部
6a ピン(第1軸体)
12 側面部(第1側面部)
12a 保持部
13 側面部(第2側面部)
20 ブラケット
40 リテーナ
52 ピン(第2軸体)
52a 周溝
60 支持部材
64 ピン支持部
64a ピン支持プレート(支持部)
65 軸受部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9