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特許7121390すず合金電気めっき浴及びそれを用いためっき方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】すず合金電気めっき浴及びそれを用いためっき方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/60 20060101AFI20220810BHJP
   C25D 5/18 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C25D3/60
C25D5/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018154703
(22)【出願日】2018-08-21
(65)【公開番号】P2020029582
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000109657
【氏名又は名称】ディップソール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】森井 豊
(72)【発明者】
【氏名】長田 剛
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 智志
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-265491(JP,A)
【文献】特開2017-031447(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0173255(US,A1)
【文献】特開2009-185358(JP,A)
【文献】特開2014-122410(JP,A)
【文献】特開平11-152595(JP,A)
【文献】特開2009-185381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00- 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
すず合金電気めっき浴であって、
(A)可溶性すず塩と、
(B)可溶性ニッケル塩及び可溶性コバルト塩の少なくとも1種と、
(C)脂肪族オキシカルボン酸又はその塩と、
(D)含窒素6員複素環式不飽和化合物又は含窒素5員複素環式不飽和化合物である含窒素複素環式不飽和化合物と、
(E)界面活性剤とを含み、
pHが3~7である、すず合金電気めっき浴。
【請求項2】
前記脂肪族オキシカルボン酸が、鎖状飽和脂肪族オキシカルボン酸である、請求項1に記載のすず合金電気めっき浴。
【請求項3】
前記含窒素複素環式不飽和化合物が、ピリジン及びその誘導体、並びにピラジン及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1つの含窒素6員複素環式不飽和化合物を含む、請求項1に記載のすず合金電気めっき浴。
【請求項4】
前記界面活性剤が、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる、請求項1~3のいずれか1項に記載のすず合金電気めっき浴。
【請求項5】
物品をすず合金電気めっきする方法であって、
請求項1~4のいずれか1項に記載のすず合金電気めっき浴中で前記物品に直流電流又はパルス電流を0.1~30A/dm2の電流密度で通電することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すず合金電気めっき浴及びそれを用いためっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
すず-ニッケル、すず-コバルト等のすず合金電気めっきは電子部品、チップ型セラミック電子部品の半田付けのためのすず合金電気めっき皮膜等の分野で用いられてきている。
従来、電解によるすず-ニッケル合金もしくはすず-コバルト合金めっき浴としてフッ化浴、ピロリン酸浴、および有機酸浴など各種の浴が開発されている。フッ化浴を使用する場合、フッ化物が排水規制物質で有害のため作業環境が悪く設備劣化も著しい。ピロリン酸浴(特開昭60-29482号公報)はpHがアルカリ性のためすずの供給源が4価イオンで2価イオンを供給源とする酸性~中性浴よりも析出速度が50%低く、かつ作業電流密度範囲も最大1A/dm2程度のため生産性に乏しい。有機酸浴としては例えばメタンスルホン酸を含む酸性のすず‐コバルト合金電気めっき浴(特開2006-9039号公報)が開発されている。有機酸浴の中性浴としてはコゲ防止剤としてフェナントロリンジオンを必須成分としたpH4.0のすず‐ニッケル合金電気めっき浴(特開2013-44001号公報)が開発されているがフェナントロリンジオンは極微量でその効果を発揮するため浴管理が難しい。また錫酸アルカリを使用しエチレンジアミンおよびアミノカルボン酸の1種が必須のpH6.5~10のすず‐コバルト合金電気めっき浴(特開平9-241885号公報)も開発されているが、工業的に浴管理が困難なすず酸アルカリやエチレンジアミンおよびアミノカルボン酸の1種を必須成分としている。
このようなすず合金電気めっきの場合、例えば高速電気めっき装置が用いられるが、このような装置においては、めっき浴は必要とされる高速に対応した幅広い電流密度範囲において所望の合金比率の皮膜を析出できなければならず、析出皮膜は均一で素地との密着性に優れ、所望の外観を呈していなければならず、まためっき溶液は撹拌と空気接触に対する酸化等に対し安定でなければならず、明澄性及び濁りのなさも維持しなければならない。
しかしながら従来知られたすず合金電気めっき浴、とりわけSn比率の高いすず合金電気めっき浴においては、このような性能は満足のゆくものではなく、更なる改良が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭60-29482号公報
【文献】特開2006-9039号公報
【文献】特開2013-44001号公報
【文献】特開平9-241885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、所望の合金比率の皮膜を析出でき、析出皮膜は素地との密着性が良好で均一な外観を呈し、まためっき溶液は撹拌と空気接触に対する酸化等に対し安定で、明澄性及び濁りのなさも維持が可能なすず-ニッケル及びすず-コバルト合金電気めっき浴及びそれを用いためっき方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、すず合金電気めっき浴に、錯化剤としてオキシカルボン酸又はその塩を用い、含窒素複素環式不飽和化合物と、界面活性剤とを含有させることにより、上記課題が解決したすず合金電気めっき浴が得られることを見出した。すなわち、本発明は、すず合金電気めっき浴であって、(A)可溶性すず塩と、(B)可溶性ニッケル塩及び可溶性コバルト塩の少なくとも1種と、(C)オキシカルボン酸又はその塩と、(D)含窒素複素環式不飽和化合物と、(E)界面活性剤とを含み、pHが3~7である、すず合金電気めっき浴を提供する。
また、本発明は、物品をすず合金電気めっきする方法であって、前記すず合金電気めっき浴中で前記物品に直流電流又はパルス電流を1~30A/dm2の電流密度で通電することを含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のすず合金電気めっき浴は、所望の合金比率の皮膜を析出でき、析出皮膜は素地との密着性も良好で、均一な外観を呈し、まためっき溶液は撹拌と空気接触に対する酸化等に対し安定で、明澄性及び濁りのなさも維持でき、pHが3~7の弱酸性~中性であり、アミン化合物、アミノカルボン酸化合物等の光沢剤を用いることなく、浴管理の容易なすず-ニッケル及びすず-コバルト合金電気めっき浴である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のすず合金電気めっき浴は、(A)可溶性すず塩と、(B)可溶性ニッケル塩及び可溶性コバルト塩の少なくとも1種と、(C)オキシカルボン酸又はその塩と、(D)含窒素複素環式不飽和化合物と、(E)界面活性剤とを含む。
(A)可溶性すず塩としては、基本的に水中でSn2+を発生させる有機又は無機のすず塩であり、具体的には、例えばメタンスルホン酸、2-プロパノ-ルスルホン酸などの有機スルホン酸の塩、ピロリン酸すず、スルファミン酸すず、硫酸第一すず、酸化第一すず、塩化第一すず、ホウフッ化第一すずなどが挙げられる。これらのなかでは無機すず塩が好ましい。
上記可溶性第一すず塩は、単独で、又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
すず合金電気めっき浴中のすずイオンの濃度は、合計で好ましくは1~100g/Lであり、より好ましくは5~80g/Lであり、さらに好ましくは30~80g/Lである。
(B)可溶性ニッケル塩としては、有機又は無機のニッケル塩であり、具体的には、例えば塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、臭化ニッケル、次亜リン酸ニッケル、リン酸ニッケル、塩化ニッケルアンモニウム、硫酸ニッケルアンモニウム、硫酸ニッケルカリウム、スルファミン酸ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトネート、ギ酸ニッケル、ヨウ化ニッケル、シュウ酸ニッケル、ステアリン酸ニッケル、クエン酸ニッケル、酒石酸ニッケル、乳酸ニッケルなどが挙げられる。これらのなかでは無機ニッケル塩が好ましい。
上記可溶性ニッケル塩は、単独で、又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
すず合金電気めっき浴中のニッケルイオンの濃度は、合計で好ましくは0.05~20g/Lであり、より好ましくは0.1~10g/Lである。
(B)可溶性コバルト塩としては、有機又は無機のコバルト塩であり、具体的には例えば硫酸コバルト、塩化コバルト、硝酸コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト、次亜リン酸コバルト、リン酸コバルト、硫酸コバルトアンモニウム、塩化コバルトアンモニウム、硫酸コバルトカリウム、スルファミン酸コバルト、酢酸コバルト、炭酸コバルト、コバルトアセチルアセトネート、ギ酸コバルト、シュウ酸コバルト、ステアリン酸コバルト、クエン酸コバルト、酒石酸コバルト、乳酸コバルトなどが挙げられる。これらのなかでは無機ニッケル塩が好ましい。
上記可溶性コバルト塩は、単独で、又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
すず合金電気めっき浴中のコバルトイオンの濃度は、合計で好ましくは0.05~20g/Lであり、より好ましくは0.1~10g/Lである。
また、すず合金電気めっき浴中に含まれるニッケルイオン及びコバルトイオンの合計濃度は、好ましくは0.05~20g/Lであり、より好ましくは0.1~10g/Lである。
【0008】
(C)オキシカルボン酸又はその塩としては、脂肪族オキシカルボン酸特に鎖状飽和脂肪族オキシカルボン酸又はその塩が好ましく、具体的には例えば、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、グルコヘプトン酸、乳酸、リンゴ酸、サリチル酸を挙げることができ、オキシカルボン酸の塩としては、上記したオキシカルボン酸のカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。本発明では、これらのオキシカルボン酸又はその塩は、単独で、又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
すず合金電気めっき浴中のオキシカルボン酸及びその塩の濃度は、合計で好ましくは50~500g/Lであり、より好ましくは100~300g/Lである。オキシカルボン酸及びその塩の濃度が低すぎると、すずイオンが不安定化し、水酸化すずが形成されやすくなる。また、オキシカルボン酸及びその塩の濃度が高すぎると、オキシカルボン酸及びその塩がすず合金電気めっき浴中に溶解できない場合がある。
(D)含窒素複素環式不飽和化合物は、好ましくは含窒素6員複素環式不飽和化合物または含窒素5員複素環式不飽和化合物である。含窒素6員複素環式不飽和化合物としては、具体的には例えば、ピリジン、ピコリン酸、2,2‘-ビピリジル、4-メトキシピリジン、ニコチンアミド、3-ピリジノール、2-メルカプトピリジン、3-アセトキシピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン酸などのピリジン及びその誘導体、ピラジン、ピリタジン、ピリミジン、キノキサリン、ピラジンカルボン酸、2-アセチルピラジン、キナゾリンなどのピラジン及びその誘導体などが挙げられる。また、含窒素5員複素環式不飽和化合物としては、ピロール、インドールなどのピロール及びその誘導体、イミダゾール、ピラゾールなどのイミダゾール及びその誘導体、トリアゾール及びその誘導体などが挙げられる。本発明では、これらの含窒素複素環式不飽和化合物は、単独で、又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
すず合金電気めっき浴中の含窒素複素環式不飽和化合物濃度は、合計で好ましくは0.01~5g/Lであり、より好ましくは0.02~3g/Lであり、最も好ましくは0.03~1g/Lである。
【0009】
(E)界面活性剤として、めっき皮膜の外観、緻密性、平滑性、密着性などの改善を目的とし、通常のアニオン系、カチオン系、ノニオン系、或は両性などの各種界面活性剤が使用できる。
アニオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩などが挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、モノ~トリアルキルアミン塩、ジメチルジアルキルアンモニウム塩、トリメチルアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、C1~C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、C1~C25アルキルフェノール、アリールアルキルフェノール、C1~C25アルキルナフトール、C1~C25アルコキシルリン酸(塩)、ソルビタンエステル、ポリアルキレングリコール、C1~C22脂肪族アミドなどにエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を2~300モル付加縮合させたものなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン、イミダゾリンベタイン、アミノカルボン酸などが挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で、又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
界面活性剤は、本発明に於いては好ましくは、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤であり、特に例えば、ヤシ油脂肪酸-アミドプロピルジメチル-アミノ酢酸ベタインなどのアルキルアミドベタイン型両性界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレン牛脂アルキルアミンなどのポリオキシエチレンアルキルアミン型ノニオン界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤を含有させることにより、高速めっき装置において、緻密な合金を析出することができる。
すず合金電気めっき浴中の界面活性剤の濃度は、合計で好ましくは0.1~50g/Lであり、より好ましくは0.5~10g/Lである。界面活性剤の濃度が低過ぎると析出抑制の効果が得られず析出物は平滑な皮膜を形成できない。また、高過ぎると析出抑制効果が強すぎて十分な析出量が得られなくなる。
【0010】
本発明のすず合金電気めっき浴には、めっき時の通電性を良好にするために、硫酸、塩酸、スルホン酸、スルファミン酸、ピロリン酸、これらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム、リチウム塩)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム、カルシウム、バリウム塩等)、アンモニウム塩、及び有機アミン塩(モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等)等を含有させることができる。具体的にはメタンスルホン酸、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、ピロリン酸ナトリウム、スルファミン酸モノメチル等が挙げられる。これら化合物の含有量は10~500g/L、好ましくは30~400g/Lである。
本発明のすず合金電気めっき浴には、上記成分に加え、他の公知の、例えば平滑剤、消泡剤等の添加剤を必要に応じて適宜添加してもよい。また、本発明のすず合金電気めっき浴には光沢剤は添加しなくてもよい。
前記平滑剤としてはペプトン及びゼラチン等が挙げられる。平滑剤等の使用量は、0.1~20g/L、好ましくは0.5~10g/Lであり、平滑剤の添加により、均一かつ微細なめっきを得ることができる。
【0011】
本発明のすず合金電気めっき浴のpHは、3~7であり、好ましくは4~6である。このpH範囲では浴の安定性が良好で、めっき皮膜の均一性も優れている。pHの調整は、必要に応じて硫酸、塩酸、酢酸などの無機酸、水酸化ナトリウムなどの水酸化アルカリなどを用いてもよい。本発明のすず合金電気めっき浴における上記成分の残分は水である。
本発明の電気めっき方法は、前記すず合金電気めっき浴中で物品に通電することにより行われる。電気めっきは、直流もしくはパルス電流により行うことができるが、特にパルス電流が好ましい。パルス電流を用いる場合、デューティー比(ON/OFF比)は、好ましくは0.1~0.9であり、より好ましくは0.5~0.8である。ON時間を5~500ms及びOFF時間を5~500msとする条件のパルス電流を用いると、電析する粒子が緻密化し、平滑になるので好ましい。浴温は、通常25~120℃の範囲であり、好ましくは50~100℃の範囲である。電流密度は、通常0.1~30A/dm2の範囲であり、好ましくは1~20A/dm2の範囲である。電気めっきを実施する場合は、好ましくは公知の各種の高速めっき装置を用いることができる。
すず合金電気めっき浴を攪拌するか又は/及び被めっき物を揺動することが望ましい。例えば、ジェット噴流や超音波攪拌などを使用すれば、電流密度をさらに高くすることができる。また、本発明の電気めっき方法を使用する被めっき物としては、銅、鉄、ニッケル及びそれらの合金が挙げられる。本発明は、セラミックス、鉛ガラス、プラスチック、フェライトなどの絶縁物質を複合化した金属を使用した場合に、特に有効である。本発明の電気めっき方法では、被めっき物を陰極として用い、例えば、これらに限定されるものではないが、プリント配線板、リードフレーム、抵抗器、コンデンサ、サーミスタ、LED、水晶発振子、リード線等の電子部品など導通が得られるものであれば陰極として適用できる。陽極には、錫金属、亜鉛金属、銅金属、鉛金属、ビスマス金属、インジウム金属及びそれらの合金を使用し、場合によっては白金めっきしたチタン板、カーボン板等の不溶性陽極を使用することができる。
【0012】
めっきに際して、被めっき物は、常法により前処理したあとにめっき工程に付される。前処理工程では、浸漬脱脂、酸洗、陽極の電解洗浄及び活性化の少なくとも1つの操作が行われる。各操作間は水洗を行う。めっき後は得られた皮膜を簡単に洗浄して乾燥すればよい。また、錫めっきや錫合金めっき後に行われる変色防止処理(リン酸三ナトリウム水溶液への浸漬処理等)を行ってもよい。
本発明のめっき溶液から電気めっき方法により得られる、すず合金析出皮膜は、その合金比率は任意に調整できる。低速めっき装置においては、好ましくは析出合金中のNi(Ni/(Sn+Ni))またはCo(Co/(Sn+Co))は5~50wtの範囲、より好ましくは10~40質量%の範囲、最も好ましくは10~30質量%の範囲であり、高速めっき装置においては、好ましくは析出合金中のNiまたはCoは0.01~20質量%の範囲、より好ましくは0.02~10質量%の範囲、さらに好ましくは0.03~7質量%の範囲であり、最も好ましくは0.05~3質量%の範囲である。本発明のすず合金電気めっき浴は特に、高速めっき装置において、NI、Coの析出比率が0.01~20質量%程度の低い合金比率のSn-NiまたはSn-Co皮膜を所望の合金比率で析出するのに好適である。
次に、実施例および比較例を示して本発明を説明する。
【実施例
【0013】
(実施例1)
[めっき液]
クエン酸アンモニウム150g/L、硫酸アンモニウム170g/L、硫酸第一すず80g/L、硫酸ニッケル6水和物5g/L、ヤシ油脂肪酸-アミドプロピルジメチル-アミノ酢酸ベタイン1.5g/L、及びピコリン酸0.2g/Lをイオン交換水に溶解し、アンモニア水適量を加えてpHを6.0に調整した。調整後のめっき液は緑色の外観を呈した。
[めっき方法]
1.0cm×3.0cmのタフピッチ銅平板を陰極電解脱脂し(ディップソール製電解脱脂・清浄剤NC-20を使用)、水洗し、酸活性処理し(10%硫酸)、さらに水洗した後に上記めっき液に浸漬した。タフピッチ銅平板を陰極とし、純度99.99%のすず板を陽極として液温度50℃、液流と陰極搖動を伴った環境下で直流の電源装置を用いて電流密度15A/dm2で100秒間通電を行った。銅平板は通電後直ちに取り出して十分な水洗を行った後にエアブローで水分を完全に取り除いた。
[結果]
得られた析出物を目視にて観察した。析出物は均一な灰白色無光沢外観であった。析出物にセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製CT-18)を張り付け剥がしたところ、テープへの析出物の付着は認められず良好な密着性を示した。外観観察の後に100mLビーカーに析出物を入れて6mol/L塩酸20mLと35%過酸化水素水0.4mLを加えた。下地の銅が完全に露出するまで析出物を取り除いた。得られた溶液を適量に希釈して原子吸光分光光度計(島津製作所製AA-6300)にてすず及びニッケル濃度を測定し、析出量を確認した。ニッケル析出量÷(すず析出量+ニッケル析出量)の式よりニッケルの共析率を算出し、析出物に1.55質量%のニッケルが含まれることを確認した。めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0014】
(実施例2)
[めっき液]
クエン酸アンモニウム150g/L、硫酸アンモニウム170g/L、硫酸第一すず80g/L、硫酸ニッケル6水和物5g/L、ヤシ油脂肪酸-アミドプロピルジメチル-アミノ酢酸ベタイン1.5g/L、ポリオキシエチレン牛脂アルキルアミン0.5g/L、及びピコリン酸0.1g/Lをイオン交換水に溶解し、アンモニア水適量を加えてpHを6.0に調整した。調整後のめっき液は緑色の外観を呈した。
[めっき方法]
実施例1から電源装置をパルス電源に変更し、それ以外は同様な操作を行った。パルス電源はデューティー比が0.8になるようにオンタイムを0.4秒、オフタイムを0.1秒に設定した。
[結果]
実施例1と同様に目視で観察し、析出物は均一な灰白色無光沢外観であることを確認した。析出物にセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製CT-18)を張り付け剥がしたところ、テープへの析出物の付着は認められず良好な密着性を示した。実施例1と同様な手順でニッケルの共析率を確認し、析出物に2.40質量%のニッケルが含まれることを確認した。めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0015】
(実施例3)
[めっき液]
クエン酸アンモニウム150g/L、硫酸アンモニウム170g/L、硫酸第一すず80g/L、硫酸コバルト七水和物15g/L、ヤシ油脂肪酸-アミドプロピルジメチル-アミノ酢酸ベタイン1.5g/L、ポリオキシエチレン牛脂アルキルアミン0.5g/L、及びピコリン酸0.1g/Lをイオン交換水に溶解し、アンモニア水適量を加えてpHを6.0に調整した。調整後のめっき液は紫色の外観を呈した。
[めっき方法]
実施例1から電流密度を5A/dm2に変更し、それ以外は同様な操作を行った。
[結果]
実施例1と同様に目視にて観察し、析出物は均一な灰白色無光沢外観であることを確認した。析出物の表面にセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製CT-18)を張り付け剥がしたところ、テープへの析出物の付着は認められず良好な密着性を示した。実施例1のニッケルをコバルトに変更し、それ以外は同じ手順でコバルト共析率の確認を行った。析出物に1.07質量%のコバルトが含まれることを確認した。めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0016】
(実施例4)
[めっき液]
クエン酸アンモニウム150g/L、硫酸アンモニウム170g/L、硫酸第一すず80g/L、硫酸コバルト七水和物15g/L、ヤシ油脂肪酸-アミドプロピルジメチル-アミノ酢酸ベタイン1.5g/L、ポリオキシエチレン牛脂アルキルアミン0.5g/L、及びピコリン酸0.1g/Lをイオン交換水に溶解し、アンモニア水適量を加えてpHを6.0に調整した。調整後のめっき液は紫色の外観を呈した。
[めっき方法]
実施例1から電流密度を10A/dm2に変更し、電源装置をパルス電源に変更し、それ以外は同様な操作を行った。パルス電源はデューティー比が0.8になるようにオンタイムを0.4秒、オフタイムを0.1秒に設定した。
[結果]
実施例1と同様に目視で観察し、析出物は均一な灰白色無光沢外観であることを確認した。析出物の表面にセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製CT-18)を張り付け剥がしたところ、テープへの析出物の付着は認められず良好な密着性を示した。実施例1のニッケルをコバルトに変更し、それ以外は同じ手順でコバルト共析率の確認を行った。析出物に1.46質量%のコバルトが含まれることを確認した。めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0017】
(実施例5)
[めっき液]
グルコン酸190g/L、メタンスルホン酸350g/L、酸化第一すず62g/L、塩化ニッケル六水和物10g/L、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル1.0g/L、及びピラジン0.2g/Lをイオン交換水に溶解し、アンモニア水適量を加えてpHを5.0に調整した。調整後のめっき液は黄緑色の外観を呈した。
[めっき方法]
実施例1から電流密度を10A/dm2に変更し、それ以外は同様な操作を行った。
[結果]
実施例1と同様に目視で観察し、析出物は均一な灰白色無光沢外観であることを確認した。析出物の表面にセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製CT-18)を張り付け剥がしたところ、テープへの析出物の付着は認められず良好な密着性を示した。実施例1と同様な手順でニッケルの共析率を確認し、析出物に0.40質量%のニッケルが含まれることを確認した。めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0018】
(実施例6)
[めっき液]
グルコン酸190g/L、メタンスルホン酸350g/L、酸化第一すず62g/L、塩化ニッケル六水和物10g/L、ポリオキシエチレンβナフトールエーテル1.0g/L、及びピラジン0.2g/Lをイオン交換水に溶解し、アンモニア水適量を加えてpHを5.0に調整した。調整後のめっき液は黄緑色の外観を呈した。
[めっき方法]
実施例1から電流密度を20A/dm2に変更し、電源装置をパルス電源に変更し、それ以外は同様な操作を行った。パルス電源はデューティー比が0.8になるようにオンタイムを0.4秒、オフタイムを0.1秒に設定した。
[結果]
実施例1と同様に目視で観察し、析出物は均一な灰白色無光沢外観であることを確認した。析出物の表面にセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製CT-18)を張り付け剥がしたところ、テープへの析出物の付着は認められず良好な密着性を示した。実施例1と同様な手順でニッケルの共析率を確認し、析出物に1.05質量%のニッケルが含まれることを確認した。めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0019】
(実施例7)
[めっき液]
グルコン酸190g/L、メタンスルホン酸350g/L、酸化第一すず62g/L、塩化コバルト六水和物20g/L、ポリオキシエチレンβナフトール硫酸エステル4.0g/L、及びピラジン0.2g/Lをイオン交換水に溶解し、アンモニア水適量を加えてpHを5.0に調整した。調整後のめっき液は紫色の外観を呈した。
[めっき方法]
実施例1と同じ条件で処理を行った。
[結果]
実施例1と同様に目視で観察し、析出物は均一な灰白色無光沢外観であることを確認した。析出物の表面にセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製CT-18)を張り付け剥がしたところ、テープへの析出物の付着は認められず良好な密着性を示した。実施例1のニッケルをコバルトに変更し、それ以外は同様な手順でコバルトの共析率を確認し析出に1.92質量%のコバルトが含まれることを確認した。めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0020】
(実施例8)
[めっき液]
リンゴ酸220g/L、硫酸アンモニウム170g/L、硫酸第一すず60g/L、硫酸ニッケル六水和物10g/L、ヤシ油脂肪酸-アミドプロピルジメチル-アミノ酢酸ベタイン0.3g/L、ポリオキシエチレン牛脂アルキルアミン0.2g/L、及び2.2’-ビピリジル0.05g/Lをイオン交換水に溶解し、アンモニア水適量を加えてpHを5.0に調整した。調整後のめっき液は緑色の外観を呈した。
[めっき方法]
実施例1から電流密度を10A/dm2に変更し、それ以外は同様な操作を行った。
[結果]
実施例1と同様に目視で観察し、析出物は均一な灰白色無光沢外観であることを確認した。析出物の表面にセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製CT-18)を張り付け剥がしたところ、テープへの析出物の付着は認められず良好な密着性を示した。実施例1と同様な手順でニッケルの共析率を確認し、析出物に0.11質量%のニッケルが含まれることを確認した。めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0021】
(実施例9)
[めっき液]
硫酸ニッケル6水和物の濃度を5g/Lから10g/Lに変更したこと以外は実施例1と同様に調製した。調製後のめっき液は緑色の外観を呈した。
[めっき方法]
実施例1と同じ条件で処理を行った。
[結果]
実施例1と同様に目視で観察し、析出物は均一な灰白色無光沢外観であることを確認した。析出物の表面にセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製CT-18)を張り付け剥がしたところ、テープへの析出物の付着は認められず良好な密着性を示した。実施例1と同様な手順でニッケルの共析率を確認し、析出物に2.80質量%のニッケルが含まれることを確認した。実施例1の結果と照らし合わせるとめっき浴中のニッケル塩の濃度を変更することによって任意のニッケル共析率が得られるものと判断できる。また、めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0022】
(実施例10)
[めっき液]
硫酸コバルト7水和物の濃度を15g/Lから10g/Lに変更したこと以外は実施例4と同様に調製した。調製後のめっき液は紫色の外観を呈した。
[めっき方法]
実施例4と同じ条件で処理を行った。
[結果]
実施例1と同様に目視で観察し、析出物は均一な灰白色無光沢外観であることを確認した。析出物の表面にセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製CT-18)を張り付け剥がしたところ、テープへの析出物の付着は認められず良好な密着性を示した。実施例4と同様な手順でコバルトの共析率を確認し、析出物に1.07質量%のコバルトが含まれることを確認した。実施例4の結果と照らし合わせるとめっき浴中のコバルト塩の濃度を変更することによって任意のコバルト共析率が得られるものと判断できる。また、めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0023】
(比較例1)
実施例1の液組成からピコリン酸を除いためっき液を調製し、実施例1のめっき条件と同じ操作を行った。調製後のめっき液は緑色の外観を呈した。実施例1と同様に目視で観察したところ、得られた析出物はムラが生じ均一性に乏しい外観であった。また、めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0024】
(比較例2)
実施例3の液組成からヤシ油脂肪酸-アミドプロピルジメチル-アミノ酢酸ベタイン及びポリオキシエチレン牛脂アルキルアミンを除いためっき液を調製し、実施例3のめっき条件と同じ操作を行った。調製後のめっき液は紫色の外観を呈した。実施例1と同様に目視で観察したところ、得られた析出物は黒色無光沢で下地から容易に離脱した。また、めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0025】
(比較例3)
実施例5の液組成からグルコン酸を除き、pH調整を行わずにめっき液を調製し(pH1.0)、実施例5のめっき条件と同じ操作を行った。調製後のめっき液は緑色の外観を呈した。実施例1と同様に目視で観察したところ、得られた析出物は暗灰色外観で粗かった。また、めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0026】
(比較例4)
比較例3のめっき液において、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテルの添加量を5.0g/Lに増やし、実施例5のめっき条件と同じ操作を行った。調製後のめっき液は緑色の外観を呈した。実施例1と同様に目視で観察したところ、得られた析出物は均一な灰白色無光沢外観であった。析出物の表面にセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製CT-18)を張り付け剥がしたところ、テープへの析出物の付着は認められず良好な密着性を示した。なお、実施例1と同様な手順でニッケルの共析率を確認したところ、ニッケルの析出は認められなかった。また、めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0027】
(比較例5)
実施例7の液組成からグルコン酸を除き、トリエチレンテトラミン六酢酸250g/Lを加えためっき液を調製し、実施例5のめっき条件と同じ操作を行った。調製後のめっき液は紫色の外観を呈した。実施例1と同様に目視で観察したところ、得られた析出物は灰色無光沢外観であった。析出物の表面にセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製CT-18)を張り付け剥がしたところ、テープへの析出物の付着は認められず良好な密着性を示した。なお、実施例7と同様な手順でコバルトの共析率を確認したところ、コバルトの析出は認められなかった。また、めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0028】
(比較例6)
実施例2の液組成からピコリン酸を除き、代わりにピロリジン0.1g/Lを加えためっき液を調製し、実施例2のめっき条件と同じ操作を行った。調製後のめっき液は緑色の外観を呈した。実施例1と同様に目視で観察したところ、得られた析出は暗灰色外観で粗く容易に脱離した。また、めっき後のめっき液の外観を確認したところ、濁り、沈殿は認められず色調の変化も確認されなかった。
【0029】
(比較例7)
実施例8の液組成からリンゴ酸を除き、代わりにエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸220g/Lを加えためっき液を調製しようとしたところ、アンモニア水を加えた際に白色の沈殿物が発生し、めっき液を得ることができなかった。
実施例1~10及び比較例1~7の結果を下記表1にまとめる。
【0030】
【表1】