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特許7121395結晶化した二酸化チタンの製造方法、及び二酸化チタンの前駆物質並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】結晶化した二酸化チタンの製造方法、及び二酸化チタンの前駆物質並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/053 20060101AFI20220810BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20220810BHJP
   B01J 27/135 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C01G23/053
B01J35/02 J
B01J27/135 M
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018553759
(86)(22)【出願日】2017-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2017041141
(87)【国際公開番号】W WO2018101044
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2016232406
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】川井 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】越後 法之
(72)【発明者】
【氏名】大内 紗八香
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0301023(US,A1)
【文献】特開2009-078264(JP,A)
【文献】TiO2の構造形成過程における各種無機電解質の存在が光触媒活性に及ぼす影響,平成26年度化学系学協会東北大会プログラムおよび講演予稿集,2014年09月20日,p.93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
B01J21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化した二酸化チタンの製造方法であって、
チタンアルコキシドのアルコール溶液に、アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物の水溶液を添加して、二酸化チタンの前駆物質を得る工程、
前記二酸化チタンの前駆物質を乾燥して、前駆物質粉末を得る工程、及び、
前記前駆物質粉末を加熱して結晶化させて、結晶化した二酸化チタンを得る工程
を含み、
前記チタンアルコキシド中のチタンと前記アルカリ金属又は遷移金属との比が、50:1~1:1の範囲内であり、
前記結晶化した二酸化チタンが、AEROXIDE(登録商標)TiO 2 P25よりも高いメチレンブルーを吸着する吸着性能を備えることを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
前記チタンアルコキシドがチタンイソテトラプロポキシドであることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アルコールがイソプロパノールであることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組合せであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記遷移金属がニッケルであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記二酸化チタンの前駆物質をろ過する工程を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記前駆物質粉末を300℃以上の温度で加熱して結晶化させることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
二酸化チタンの前駆物質の製造方法であって、
チタンアルコキシドのアルコール溶液に、アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物の水溶液を添加する工程
を含み、
前記チタンアルコキシド中のチタンと前記アルカリ金属又は遷移金属との比が、50:1~1:1の範囲内であり、
前記二酸化チタンが、AEROXIDE(登録商標)TiO 2 P25よりも高いメチレンブルーを吸着する吸着性能を備えることを特徴とする、前記製造方法。
【請求項9】
前記チタンアルコキシドがチタンイソテトラプロポキシドであることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記アルコールがイソプロパノールであることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組合せであることを特徴とする、請求項8~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記遷移金属がニッケルであることを特徴とする、請求項8~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
チタンアルコキシドと、アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物とを含むことを特徴とする、二酸化チタンの前駆物質であって、
前記チタンアルコキシド中のチタンと前記アルカリ金属又は遷移金属との比が、50:1~1:1の範囲内であり、
前記二酸化チタンが、AEROXIDE(登録商標)TiO 2 P25よりも高いメチレンブルーを吸着する吸着性能を備え
前記チタンアルコキシドがアルコール溶液であり、前記アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物が水溶液であることを特徴とする、前記前駆物質。
【請求項14】
前記チタンアルコキシドがチタンイソテトラプロポキシドであり、前記アルコールがイソプロパノールであることを特徴とする、請求項1に記載の前駆物質。
【請求項15】
前記アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組合せであることを特徴とする、請求項13又は14に記載の前駆物質。
【請求項16】
チタンアルコキシドと、アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物とを含むことを特徴とする、二酸化チタンの前駆物質であって、
前記チタンアルコキシド中のチタンと前記アルカリ金属又は遷移金属との比が、50:1~1:1の範囲内であり、
前記二酸化チタンが、AEROXIDE(登録商標)TiO 2 P25よりも高いメチレンブルーを吸着する吸着性能を備え、
前記遷移金属がニッケルである、前記前駆物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化した二酸化チタンの製造方法、及び二酸化チタンの前駆物質並びにその製造方法に関する。特に、本発明は、高い吸着性能及び光活性を備える結晶化した二酸化チタンの製造方法、さらには優れた製膜性を有する二酸化チタンの前駆物質並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶化した二酸化チタンは、様々な技術分野で、光触媒として使用されている。
二酸化チタン光触媒の工業的製造方法としては、チタン鉱を原料とする硫酸法及び塩素法が主流である。しかしながら、この方法は、副生成物である酸や塩素の取り扱いに留意する必要があった。
二酸化チタン光触媒の他の製造方法としては、チタンアルコキシドを出発原料として、これを加水分解する方法(ゾル-ゲル法)がある。この方法によれば、チタンアルコキシドに添加物を溶存させておくことにより、その後の加水分解により得られる二酸化チタン前駆物質を多様な状態で生成させることが可能であると考えられる。このため、前駆物質を加熱することにより生成する二酸化チタンの諸特性を、広い範囲で制御できると期待される。
【0003】
しかしながら、これら従来法により得られる二酸化チタン光触媒の光活性は、日本アエロジル社が販売するAEROXIDE(登録商標)TiO2 P25(以下「P25」と呼ぶ。)の性能を下回るものがほとんどであった(非特許文献1及び2)。
さらに、粉末状であるP25は、これを基材などに塗布しようとする場合には、液体に分散させておく必要があり、製膜性に優れるとは言い難い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】D. C. Hurum, et al., J. Phys. Chem. B, 107 (2003) 4545-4549
【文献】H. Hirakawa, et al. ACS Appl. Mater. Interf., 7 (2015) 3797-3806
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、P25の性能を上回る光活性を備える二酸化チタン光触媒に対する要請がある。
【0006】
本発明は、従来法により得られる二酸化チタン光触媒、特に、P25の性能を上回る高い光活性及び吸着性能を備える、結晶化した二酸化チタンの製造方法提供することを目的とするものである。
本発明はまた、そのような高い吸着性能及び光活性を備える結晶化した二酸化チタンを提供し得るものであって、しかも優れた製膜性を有する二酸化チタンの前駆物質並びにその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、チタンアルコキシドと、アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物とを併用し、その際特に、前者をアルコール溶液、後者を水溶液として使用することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明によれば、二酸化チタンの結晶構造(アナターゼ型あるいはブルッカイト型、ルチル型)にアルカリ金属カチオン又は遷移金属カチオンを担持させることができ、その結果、従来よりも高い光触媒性能(吸着性能及び光活性)を備える結晶化した二酸化チタンが得られるものと考えられる。
【0008】
すなわち、本発明は、結晶化した二酸化チタンの製造方法であって、チタンアルコキシドのアルコール溶液に、アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物の水溶液を添加して、二酸化チタンの前駆物質を得る工程、前記二酸化チタンの前駆物質を乾燥して、前駆物質粉末を得る工程、及び、前記前駆物質粉末を加熱して結晶化させて、結晶化した二酸化チタンを得る工程を含むことを特徴とするものである。
【0009】
上記製造方法において、チタンアルコキシドがチタンイソテトラプロポキシドであるのが好ましい。また、その場合、アルコールがイソプロパノールであるのが好ましい。
上記製造方法において、アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組合せであるのが好ましい。
また、遷移金属はニッケルであるのが好ましい。
上記製造方法において、前記チタンアルコキシド中のチタンと前記アルカリ金属又は遷移金属との比が、50:1~1:1の範囲内であるのが好ましい。
上記製造方法はさらに、前記二酸化チタンの前駆物質をろ過する工程を含むものとすることができる。
上記製造方法において、前記前駆物質粉末を300℃以上の温度で加熱して結晶化させるのが望ましい。
さらに、前記前駆物質粉末を600℃以下の温度で加熱して結晶化させるのが望ましい。
【0010】
本発明はまた、二酸化チタンの前駆物質の製造方法であって、チタンアルコキシドのアルコール溶液に、アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物の水溶液を添加する工程を含むことを特徴とするものである。
【0011】
上記製造方法において、チタンアルコキシドがチタンイソテトラプロポキシドであるのが好ましい。また、その場合、アルコールがイソプロパノールであるのが好ましい。
上記製造方法において、アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組合せであるのが好ましい。
また、遷移金属はニッケルであるのが好ましい。
上記製造方法において、前記チタンアルコキシド中のチタンと前記アルカリ金属又は遷移金属との比が、50:1~1:1の範囲内であるのが好ましい。
【0012】
本発明はさらに、チタンアルコキシドと、アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物とを含むことを特徴とする、二酸化チタンの前駆物質である。
【0013】
上記二酸化チタンの前駆物質において、チタンアルコキシドがアルコール溶液であり、アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物が水溶液であるのが好ましい。
上記二酸化チタンの前駆物質において、チタンアルコキシドがチタンイソテトラプロポキシドであり、アルコールがイソプロパノールであるのが好ましい。
上記二酸化チタンの前駆物質において、アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組合せであるのが好ましい。
また、遷移金属はニッケルであるのが好ましい。
上記二酸化チタンの前駆物質において、前記チタンアルコキシド中のチタンと前記アルカリ金属又は遷移金属との比が、50:1~1:1の範囲内であるのが好ましい。
本発明において、上記前駆物質は非晶質であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来よりも高い光触媒性能(吸着性能及び光活性)を備える結晶化した二酸化チタンが得られるとともに、そのような二酸化チタンが得られるばかりでなく、優れた製膜性を有する二酸化チタンの前駆物質並びにその製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1の二酸化チタン粉末の色素溶液の退色試験による吸着性能及び光活性評価結果を示すグラフである。
図2】比較例1の二酸化チタン粉末の色素溶液の退色試験による吸着性能及び光活性評価結果を示すグラフである。
図3】比較例2の二酸化チタン粉末の色素溶液の退色試験による吸着性能及び光活性評価結果を示すグラフである。
図4】実施例1~5及び比較例1~2の二酸化チタン粉末について測定されたESRスペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0017】
(二酸化チタンの前駆物質)
本発明の二酸化チタンの前駆物質は、チタンアルコキシドと、アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物とを含むものである。
チタンアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンノルマルテトラプロポキシド、チタンイソテトラプロポキシド、チタンノルマルテトラブトキシド、チタンイソテトラブトキシド等を使用することができる。高分散性の観点から、チタンアルコキシドがチタンイソテトラプロポキシドであるのが好ましい。
チタンアルコキシドは、アルコール溶液であるのが好ましい。アルコールとしては、エタノール、イソプロパノール等を使用することができる。チタンアルコキシドとしてチタンイソテトラプロポキシドを使用する場合には、アルコールとしてイソプロパノールを使用するのが好適である。
アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物は、水溶液であるのが好ましい。
アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組合せであるのが好ましい。前駆物質から得られる結晶化した二酸化チタンの光触媒性能(吸着性能及び光活性)の観点から、アルカリ金属がカリウム、ルビジウム、又はセシウムのいずれかであるのがさらに好ましく、カリウムであるのが特に好ましい。
遷移金属としては、コバルト、ニッケル、銅等を使用することができる。遷移金属は、ニッケルであるのが好ましい。
チタンアルコキシド中のチタンとアルカリ金属又は遷移金属との比は、高分散性の観点から、50:1~1:1の範囲内であるのが好ましい。
本発明の二酸化チタンの前駆物質を使用して、これを乾燥し加熱することにより、二酸化チタン粉末を得ることができ、あるいは、ディップコート法、スプレー法などを用いて二酸化チタンを製膜することもできる。
【0018】
(二酸化チタンの前駆物質の製造方法)
本発明の二酸化チタンの前駆物質は、チタンアルコキシドのアルコール溶液に、アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物の水溶液を添加することにより、製造することができる。
温度が室温を超えるとプロパノールの揮発が促進されるため、また、チタンイソテトラプロポキシドの融点が20℃程度のため、なるべく25℃程度の温度で製造するのが好ましい。
【0019】
(結晶化した二酸化チタンの製造方法)
本発明の結晶化した二酸化チタンの製造方法は、チタンアルコキシドのアルコール溶液に、アルカリ金属の塩化物又は遷移金属の塩化物の水溶液を添加して、二酸化チタンの前駆物質を得る工程、二酸化チタンの前駆物質を乾燥して、前駆物質粉末を得る工程、及び前駆物質粉末を加熱して結晶化させて、結晶化した二酸化チタンを得る工程を含むものである。
【0020】
二酸化チタンの前駆物質を乾燥して、前駆物質粉末を得る場合、乾燥は例えば、前駆物質の構造安定性の観点から、60℃程度で、自然対流などの方法により行うのが望ましい。
なお、二酸化チタンの前駆物質を乾燥するに先立ち、二酸化チタンの前駆物質をろ過するのが望ましい。ろ過は、濾紙を用いた吸引ろ過などの方法により行うことができる。
前駆物質粉末を加熱して結晶化させて、結晶化した二酸化チタンを得る場合、前駆物質粉末を300℃以上の温度で加熱して結晶化させるのが望ましい。光触媒効果を有するとされる二酸化チタンの結晶構造(アナターゼ型)ができる温度(320℃以上)で加熱するのがさらに望ましいが、ルチル型の結晶構造ができる温度(500℃以上800℃以下)で加熱してもよい。ただし、高い光触媒効果を得るという観点からは、高い比表面積が維持されると考えられる、600℃以下の温度で前駆物質粉末を加熱して結晶化させるのが望ましい。加熱する際、昇温速度及び加熱時間は、特に制限はないが、5℃/min.程度で昇温し、1時間程度加熱するのが望ましい。
【実施例
【0021】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
(1)二酸化チタン(粉末)の調製
(実施例1)
チタンアルコキシドとして、市販のチタンイソテトラプロポキシド液(高純度化学社製)を用意した。これを、イソプロパノール(和光純薬工業社製)で10倍に希釈した。この溶液に、溶液中のアルカリ金属の濃度が0.1mol/L(チタン:アルカリ金属のモル比が3.4:1)となるように、アルカリ金属の塩化物としてKCl(和光純薬工業社製)を超純水に溶かして調製した水溶液を加え、20分間撹拌して、二酸化チタンの前駆物質を得た。得られた二酸化チタンの前駆物質から、沈殿物をろ過した。次いで、残渣を60℃で乾燥して、前駆物質粉末を得た。得られた粉末を5℃/min.で昇温して400℃で1時間加熱して、結晶化した二酸化チタンの粉末を得た。
【0023】
(実施例2)
アルカリ金属の塩化物として、KClに代えてLiCl(和光純薬工業社製)を使用したことを除き、実施例1と同様に二酸化チタンの前駆物質を得、さらに結晶化した二酸化チタンの粉末を得た。
【0024】
(実施例3)
アルカリ金属の塩化物として、KClに代えてNaCl(和光純薬工業社製)を使用したことを除き、実施例1と同様に二酸化チタンの前駆物質を得、さらに結晶化した二酸化チタンの粉末を得た。
【0025】
(実施例4)
アルカリ金属の塩化物として、KClに代えてRbCl(和光純薬工業社製)を使用したことを除き、実施例1と同様に二酸化チタンの前駆物質を得、さらに結晶化した二酸化チタンの粉末を得た。
【0026】
(実施例5)
アルカリ金属の塩化物として、KClに代えてCsCl(和光純薬工業社製)を使用したことを除き、実施例1と同様に二酸化チタンの前駆物質を得、さらに結晶化した二酸化チタンの粉末を得た。
【0027】
(実施例6)
KClに代えて、遷移金属の塩化物としてNiCl2(和光純薬工業社製)を使用したことを除き、実施例1と同様に二酸化チタンの前駆物質を得、さらに結晶化した二酸化チタンの粉末を得た。
【0028】
(比較例1)
KClを使用しなかったことを除き、実施例1と同様に二酸化チタンの前駆物質を得、さらに結晶化した二酸化チタンの粉末を得た。
【0029】
(比較例2)
比較のため、二酸化チタンの基準試料として、P25を用意した。
【0030】
(2)色素溶液の退色試験による二酸化チタン粉末の吸着性能及び光活性評価
(実施例1の評価)
2ppmに調製したメチレンブルー(MB)水溶液を用意し、二酸化チタン粉末を加える前のMB水溶液の可視光吸収スペクトル(測定装置:紫外可視分光計(U-1900、HITACHI製)、測定条件:温度:298K、波長範囲:450~750nm、スキャン間隔:1nm、使用セル:幅1cmポリスチレン製セル)を予め測定した(吸着前)。
次に、このMB水溶液に、実施例1で得られた二酸化チタン粉末50mgを加え、1時間撹拌して、懸濁液を得た。この懸濁液をメンブレンフィルターでろ過し、粉末成分を除いた液体の可視光吸収スペクトルを、同様に測定した(吸着後(光照射無))。
さらに、濾過する前の懸濁液に、310nm以下の波長をカットできるフィルターを介して、キセノンランプの光を10分間照射した。その後、懸濁液をメンブレンフィルターでろ過し、粉末成分を除いた液体の可視光吸収スペクトルを、同様に測定した(吸着後(光照射有))。
【0031】
結果を図1に示す。波長660nmでの可視光吸収を見ると、二酸化チタン粉末を加える前(吸着前)は極大吸収の吸光度0.30を示したのに対し、二酸化チタン粉末を加えて撹拌した後(吸着後(光照射無))では吸光度が0.03まで減少しており、さらに光照射後(吸着後(光照射有))では0.00にまで至っている。
結果から、本発明による二酸化チタン粉末は、高い光触媒効果を有するだけでなく、優れた分子吸着効果を有するものであることから、極めて高いMB退色性を示すものと考えられる。
【0032】
(比較例1の評価)
比較例1で得られた二酸化チタン粉末についても、実施例1の場合と同様に、MB水溶液の可視光吸収スペクトルを測定することにより、吸着性能及び光活性評価を行った。
結果を図2に示す。波長660nmでの可視光吸収を見ると、二酸化チタン粉末を加えて撹拌した後(吸着後(光照射無))でも吸光度は0.23までしか減少せず、光照射後(吸着後(光照射有))においても、0.08に減少するに留まった。
【0033】
(比較例2の評価)
比較例2として用意した二酸化チタン粉末P25について、実施例1の場合と同様に、MB水溶液の可視光吸収スペクトルを測定することにより、吸着性能及び光活性評価を行った。
結果を図3に示す。波長660nmでの可視光吸収を見ると、二酸化チタン粉末を加えて撹拌した後(吸着後(光照射無))でも、吸光度は吸着前の0.20から0.13までしか減少しなかったが、光照射後(吸着後(光照射有))では、0.00まで減少した。
結果から、本発明による二酸化チタンは、当業界で高い性能を有する二酸化チタンとして知られるP25と同等の光活性を有するだけでなく、P25よりもはるかに優れた吸着性能を有することがわかる。
実施例1及び比較例1~2について得られた波長660nmでの可視光吸収の結果を、表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
(3)ESR分析による二酸化チタン粉末の光活性評価
(実施例1の評価)
光触媒作用を示す物質に紫外線を照射すると、励起エネルギーにより系内にヒドロキシラジカル(・OH)が生成することが知られている。この・OHは、5,5-ジメチル-1-ピロリン-N-オキシド(DMPO)と反応してDMPO-OHを生成し、これをESR(電子スピン共鳴)分析によってESRシグナル(ピーク)として検出することにより、光触媒作用を示す物質の光活性を評価することができる。
実施例1で得られた二酸化チタン粉末5mgに対して、リン酸緩衝液(PBS)で10倍希釈したDMPO(ラボテック社製)の溶液を50μL添加した。次いで、この溶液に、310nm以下の波長をカットできるフィルターを介して、キセノンランプの光を40秒間照射した。光照射後の溶液を試料として、ESRスペクトル(測定装置:X-BAND ESR(FR-30、JEOL製)、測定条件:温度:298K、マイクロ波出力:4mW、磁場掃引幅:335.3±5mT、磁場掃引時間:2min、磁場変調幅:0.1mT)を測定した。
【0036】
(実施例2~5及び比較例1~2の評価)
実施例2~5及び比較例1で得られた二酸化チタン粉末、並びに比較例2として用意した二酸化チタン粉末P25についても、実施例1の場合と同様に、ESRスペクトルを測定することにより、光活性評価を行った。
【0037】
結果を図4に示す。
ESRスペクトルは、いずれの試料の場合も、両端に基準となるMnO(3)マーカーのシグナルピークが確認されたほか、その間に、試料中の・OHがDMPOと反応して生成したDMPO-OHに起因する4つのシグナルピークが検出された。この4つのシグナルピークのうち、基準となるMnO(3)のシグナルピーク強度で割った相対値(SM比)を、各試料の・OH生成能(すなわち、二酸化チタン粉末の光活性)として比較した。
さらに、実施例6で得られた二酸化チタン粉末についても、実施例1の場合と同様に、ESRスペクトルを測定することにより、光活性評価を行った。結果を表2に示す。SM比は、各試料について3回(n=3)評価を行った結果についての標準偏差を示す。本発明による試料(実施例1~6)は、いずれも比較例1よりも高いSM比を有し、ほとんどのものが比較例2よりも高いSM比を有していた。したがって、本発明による二酸化チタンは、優れた光活性を有するものと考えられる。
【0038】
【表2】

【0039】
(4)二酸化チタン粉末の結晶化温度と光活性評価
実施例1と同様に二酸化チタンの前駆物質を得、さらに、それぞれ300℃(実施例7)、500℃(実施例8)、及び600℃(実施例9)で1時間加熱したことを除き、実施例1と同様に結晶化した二酸化チタンの粉末を得た。
実施例7~9で得られた二酸化チタン粉末について、実施例1の場合と同様に、ESRスペクトルを測定することにより、光活性評価を行った。結果を表3に示す。光触媒効果を有するとされるアナターゼ型の結晶構造ができやすい300℃以上の温度であって、高い比表面積が維持されると考えられる600℃以下の温度で前駆物質粉末を加熱して結晶化させることにより、高い光触媒効果が得られることが確認された。
【0040】
【表3】
【0041】
(5)二酸化チタンの前駆物質の成膜性評価
(実施例10)
チタンアルコキシドとして、市販のチタンイソテトラプロポキシド液(高純度化学社製)を用意した。これを、イソプロパノール(和光純薬工業社製)で10倍に希釈した。この溶液に、スライドガラス(Matsunami社製)を数秒間浸漬した。その後、このスライドガラスを、溶液中のアルカリ金属の濃度が0.1mol/L(チタン:アルカリ金属のモル比が3.4:1)となるように、アルカリ金属の塩化物としてKCl(和光純薬工業社製)を超純水に溶かして調製した水溶液に同様に数秒間浸漬して、スライドガラスに二酸化チタンの前駆物質が塗布されるようにした。これらの浸漬操作を1~3回繰り返した後、スライドガラスを60℃で乾燥し、さらに5℃/min.で昇温して400℃で1時間加熱した。
これらの処理を行ったスライドガラスの表面を目視により観察したところ、浸漬操作を1回だけ行ったものでも、浸漬したスライドガラスの箇所全体を二酸化チタンが被覆している様子が認められた。
結果から、本発明による二酸化チタンの前駆物質は、ディップコート法により成膜可能なものであることが認められた。
【0042】
(実施例11)
スライドガラスをKCl水溶液に浸漬することに代えて、同様のKCl水溶液をスライドガラスに噴霧(繰り返し3回)したことを除き、実施例10と同様にスライドガラスに二酸化チタンの前駆物質を塗布し、これを乾燥し、加熱した。
これらの処理を行ったスライドガラスの表面を目視により観察したところ、噴霧を行ったスライドガラスの箇所全体を二酸化チタンが被覆している様子が認められた。
結果から、本発明による二酸化チタンの前駆物質は、スプレー法により成膜可能なものであることが認められた。
【0043】
(6)二酸化チタン膜の光活性評価
(実施例10の評価)
実施例10で得られたスライドガラス表面に形成した二酸化チタン膜に対して、2ppmに調製したメチレンブルー(MB)水溶液を滴下し、1時間静置した。その後、310nm以下の波長をカットできるフィルターを介して、キセノンランプの光を10分間照射した。
目視により、滴下した液滴の色が、薄青色から無色透明に退色変化することが確認された。結果から、本発明による二酸化チタンの前駆物質を製膜して得られた二酸化チタン膜は、光活性を有するものであることが理解される。
図1
図2
図3
図4