(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】魚貝類養殖水浄化装置、魚貝類養殖装置、及び魚貝類養殖水の浄化方法
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20220810BHJP
B01F 23/232 20220101ALI20220810BHJP
B01F 25/50 20220101ALI20220810BHJP
C02F 1/24 20060101ALI20220810BHJP
C02F 1/78 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
A01K63/04 F
B01F23/232
B01F25/50
C02F1/24 C
C02F1/78
(21)【出願番号】P 2019201246
(22)【出願日】2019-11-06
(62)【分割の表示】P 2014244435の分割
【原出願日】2014-12-02
【審査請求日】2019-12-06
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 良亮
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】佐藤 美紗子
【審判官】前川 慎喜
(56)【参考文献】
【文献】実開平2-93961(JP,U)
【文献】特開2012-106211(JP,A)
【文献】De-jing,S.et al.,Experiment on water treatment of protein skimmer with different ozone concentrations in industrial fish farming system, JOURNAL OF FISHERIES OF CHINA, 2005年10月, Vol.29,No.5,pp.719-723
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K61/00-61/65
A01K61/80-63/10
A01G31/00-31/06
C02F1/20-1/26
C02F1/30-1/38
C02F1/70-1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飼育水槽中における被浄化水に、オゾンを含むガスのマイクロバブルを発生させ、被浄化水中の固形有機物とアンモニウムイオンとを除去する魚貝類養殖水の浄化方法であって、
前記飼育水槽中における前記被浄化水を浄化槽に供給する工程と、
前記浄化槽における前記被浄化水にオゾンを含むガスのマイクロバブルを発生させる工程と、
前記マイクロバブルを前記浄化槽において浮上させる工程と、
水面近傍に浮上した前記マイクロバブルを前記浄化槽の外部に排出することにより泡沫分離を行
い、固形有機物及びアンモニウムイオンを被浄化水中から除去する工程と、
前記泡沫分離を行った後の水を、直接、前記飼育水槽に送水する工程と、を有し、
前記マイクロバブルの気泡径の平均が1μm以上50μm以下とされ、前記マイクロバブルの消滅によるフリーラジカルの発生と前記マイクロバブルの消滅の際に放出される前記オゾンと前記被浄化水の水との反応による前記フリーラジカルの発生とを並行して生じさせる前記オゾンを含むガスの前記マイクロバブルを発生させており、
前記被浄化水は、0.5質量%以上5質量%以下の塩化ナトリウムを含有することを特徴とする魚貝類養殖水の浄化方法。
【請求項2】
前記ガスは、大気中における酸素をオゾンに変化させてなるガスであることを特徴とする請求項1に記載の魚貝類養殖水の浄化方法。
【請求項3】
前記マイクロバブルを発生させる工程によって発生したオゾンのマイクロバブルを前記水に溶け出させてフリーラジカルを発生させ、発生した前記フリーラジカルが固形有機物の表面を酸化させてヒドロキシル基を形成する工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の魚貝類養殖水の浄化方法。
【請求項4】
前記マイクロバブルの消滅により発生した前記フリーラジカルが固形有機物の表面を酸化させてヒドロキシル基を形成する工程を有することを特徴とする請求項3記載の魚貝類養殖水の浄化方法。
【請求項5】
オゾンを発生させる工程と、該発生したオゾンと前記被浄化水とを混合する工程と、該オゾンが混合された被浄化水を加圧してオゾンを過飽和状態にする工程とを備え、
前記マイクロバブルを発生させる工程が、前記オゾンを過飽和状態にした被浄化水を前記浄化槽に供給することにより、前記浄化槽における前記被浄化水にオゾンを含むガスのマイクロバブルを発生させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の魚貝類養殖水の浄化方法。
【請求項6】
飼育水槽と、浄化槽と、魚貝類養殖水浄化装置と、を備え、請求項1から5のいずれか1項に記載の魚貝類養殖水の浄化方法を実施する、魚貝類養殖装置。
【請求項7】
前記魚貝類養殖水浄化装置は、泡沫分離装置と、オゾンガス発生装置と、を備えてなり、
前記泡沫分離装置は、前記浄化槽と、前記浄化槽に被浄化水を供給可能に配設されてなる送水管と、前記送水管の一部に設けられた被浄化水を圧送する水圧送ポンプと、前記被浄化水に前記ガスを圧入可能に設けられてなるガス圧入管と、被浄化水中に前記ガス圧入管より圧入されるガスのマイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生器とを有し、
前記ガス圧入管には、前記オゾンガス発生装置が接続されてなることを特徴とする請求項6に記載の魚貝類養殖装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚貝類養殖水浄化装置、魚貝類養殖装置、及び魚貝類養殖水の浄化方法に関し、さらに詳しくは、固形有機物とアンモニウムイオンとを含む被浄化水から容易に清浄な水を得ることのできる魚貝類養殖水浄化装置、この魚貝類養殖水浄化装置を有し魚貝類を容易に養殖することのできる魚貝類養殖装置、及び魚貝類を容易に養殖することのできる魚貝類養殖水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類、貝類、及び水草類等(以下、「魚貝類」と称することがある。)が、飼育水槽において養殖されることがある。飼育水槽内の水には、魚貝類に与えた餌の食べ残し、魚貝類の排泄物、及び魚貝類等の死骸によって、徐々に汚れが蓄積していく。飼育水槽内における水の汚れの程度が大きいと、魚貝類の健康状態が損なわれる。そこで、各種の浄化装置を用いることにより、飼育水槽内における汚れの蓄積した水を、魚貝類の飼育に適した清浄な水に浄化する必要がある。
【0003】
飼育水槽においては、特に、水中に溶解せずに懸濁する固形有機物の蓄積と、水中に溶存するアンモニウムイオンの蓄積とが問題になる。固形有機物は、水中で腐敗することによって水中の溶存酸素を減少させたり、魚類のえらに付着することによって魚類を窒息死させたり、水中の光透過を妨害し植物の光合成に障害を与えたりすることがある。また、水中に溶存するアンモニウムイオンは、水中の魚貝類の健康状態に害を及ぼすことがある。水中における固形有機物又はアンモニウムイオンを分解することにより、清浄な水が得られる技術は既に知られている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、「懸濁物の吸着に必要な気泡を微細化して多量に供給する一方、気泡を加圧下から一気に開放して膨張させ、活性化して大きな気泡を生成するため、気泡が懸濁物を吸着しやすくなると共に懸濁物を吸着した泡沫をしばらくの間滞留させるので、泡沫の懸濁物との接触時間が長くなり、また、泡沫どうしが凝集して濃縮されやすくなって安定泡沫に成長しやすく、安定泡沫を形成した状態で槽外へ排出されるので、懸濁物の除去能力を著しく高めることができる」泡沫分離装置が開示されている(特許文献1の段落番号0024欄)。しかし、特許文献1には、水中に溶存するアンモニウムイオンが除去されることについて記載も示唆もない。
【0005】
また、特許文献2においては、「自然水域に棲息している微生物にマイクロバブルを接触させることによって、微生物増殖速度を高め、活性化し、アンモニア性窒素を亜硝酸化又は硝酸化することを特徴とする」自然水域水の浄化方法が開示されている(特許文献2の請求項2参照)。しかし、特許文献2には、水中に懸濁する固形有機物が除去されることについて記載も示唆もされてない。
【0006】
従来、水中に懸濁する固形有機物を除去し、水中に溶存するアンモニウムイオンを分解するためには、特許文献1に開示されるような固形有機物を除去することのできる装置と、特許文献2に開示されるようなアンモニウムイオンを分解することのできる装置とを組み合わせて使用する必要がある。しかし、複数の装置を用いることにより、装置の操作や制御が煩雑になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5130428号
【文献】特開2006-272307号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、固形有機物とアンモニウムイオンとを含む被浄化水から容易に清浄な水を得ることのできる魚貝類養殖水浄化装置、この魚貝類養殖水浄化装置を有し、魚貝類を容易に養殖することのできる魚貝類養殖装置、及び魚貝類を容易に養殖することのできる魚貝類養殖水の浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段は、
(1)被浄化水を浄化する魚貝類養殖水浄化装置であって、浄化槽における被浄化水に、オゾンを含むガスのマイクロバブルを発生させ、被浄化水中の固形有機物とアンモニウムイオンとを除去することができる魚貝類養殖水浄化装置、
(2)前記ガスは、大気中における酸素をオゾンに変化させたガスであることを特徴とする前記(1)に記載の魚貝類養殖水浄化装置、
(3)前記ガスは、マイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生器へと圧入されることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の魚貝類養殖水浄化装置、
(4)泡沫分離装置と、オゾンガス発生装置と、を備えてなり、前記泡沫分離装置は、前記浄化槽と、前記浄化槽に前記被浄化水を供給可能に配設されてなる送水管と、前記送水管の一部に設けられた被浄化水を圧送する水圧送ポンプと、前記被浄化水に前記ガスを圧入可能に設けられてなるガス圧入管と、被浄化水中に前記ガス圧入管より圧入されるガスのマイクロバブルを発生させる前記マイクロバブル発生器とを有し、前記ガス圧入管には、前記オゾンガス発生装置が接続されてなることを特徴とする前記(1)から(3)までのいずれか一つに記載の魚貝類養殖水浄化装置、
(5)前記被浄化水を収容してなる飼育水槽と、前記飼育水槽内の被浄化水が前記浄化槽へと供給可能に設けられてなる前記(1)から(4)までのいずれか一つに記載の魚貝類養殖水浄化装置と、を有することを特徴とする魚貝類養殖装置、
(6)前記魚貝類養殖水浄化装置の下流側には、前記魚貝類養殖水浄化装置において浄化された後の浄化水が送られる後段処理槽が設けられてなることを特徴とする前記(5)に記載の魚貝類養殖装置、
(7)飼育水槽中における被浄化水に、オゾンを含むガスのマイクロバブルを発生させ、被浄化水中の固形有機物とアンモニウムイオンとを除去する魚貝類養殖水の浄化方法、
(8)前記飼育水槽中における前記被浄化水を浄化槽に供給する工程と、前記浄化槽における前記被浄化水にオゾンを含むガスのマイクロバブルを発生させる工程と、前記マイクロバブルを前記浄化槽において浮上させる工程と、水面近傍に浮上した前記マイクロバブルを前記浄化槽の外部に排出することにより泡沫分離を行う工程と、前記泡沫分離を行った後の水を飼育水槽又は後段処理槽に送水する工程と、を有することを特徴とする前記(7)に記載の魚貝類養殖水の浄化方法、
(9)前記ガスは、大気中における酸素をオゾンに変化させてなるガスであることを特徴とする前記(7)又は(8)に記載の魚貝類養殖水の浄化方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る魚貝類養殖水浄化装置によると、被浄化水中において存在する固形有機物とアンモニウムイオンとの両方を減少させることができ、容易に清浄な水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、魚貝類養殖水浄化装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、魚貝類養殖水浄化装置の他の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、魚貝類養殖装置の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、実施例におけるマイクロバブル発生後の経過時間と、泡沫分離と共に除去されたアンモニア態窒素との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る魚貝類養殖水浄化装置は、浄化槽を有し、浄化槽における被浄化水にオゾンを含むガス(以下、単に「オゾンガス」と称されることがある。)のマイクロバブルが発生させられる。
【0013】
浄化槽は、被浄化水を内部に収容することができる水槽であればよい。また、浄化槽は、マイクロバブルを発生させることにより、固形有機物とアンモニウムイオンとを除去することができる程度の大きさであればよい。浄化槽の形状は、特に制限されず、円柱形、角柱形、円錐台形、角錐台形等であればよい。
【0014】
浄化槽における被浄化水は、固形有機物と、アンモニウムイオンとを有する。固形有機物は、水中において溶存することなく、懸濁されてなる有機物であればよく、固形有機物の種類は特に制限されない。固形有機物は、通常、魚貝類の養殖活動において放出される有機物であり、例えば、魚類の糞、餌の食べ残し、水草の破片等が固形有機物の具体例として挙げられる。固形有機物の大きさは特に制限されず、後述するマイクロバブルの浮力により水面近傍まで浮上可能な程度の大きさであればよい。
【0015】
被浄化水は、淡水であってもよいし、海水であってもよい。被浄化水は、特に0.5質量%以上5質量%以下程度の塩化ナトリウムを含有する塩水であることが好ましい。被浄化水が前記数値範囲内の塩化ナトリウムを含有していると、被浄化水中に微細なマイクロバブルを発生させやすい。
【0016】
マイクロバブルは、被浄化水中において発生する微小な泡であり、通常、気泡径が100μm以下であればよい。マイクロバブルの大きさは、気泡径の平均が1μm以上50μm以下であることがより好ましい。マイクロバブルの大きさが前記数値範囲内にあると、後述するマイクロバブルの消滅によるラジカルの発生と、マイクロバブル同士の接合による安定泡沫の形成とがバランスよく起こる。尚、マイクロバブルの大きさは、例えば、液中パーティクルカウンターの光遮断法により測定される。気泡径の平均は、例えば、100個以上のマイクロバブルの気泡径を相加平均することによって求められる。
【0017】
マイクロバブルは、通常の気泡と比べて上昇速度が遅く、水中において内部のガスが溶解することにより、消滅する。マイクロバブルの消滅に伴ってフリーラジカルが発生する。後述するように、本発明において、マイクロバブルの消滅の際に発生するフリーラジカルは、固形有機物と反応し、固形有機物の表面に多量のヒドロキシル基を発生させる。また、マイクロバブルの一部は、水中で消滅することなく、安定泡沫を形成する。安定泡沫は、複数のマイクロバブル同士が接合することによって形成される。安定泡沫は、水中をゆっくりと上昇し、やがて水面近傍にまで達することができる。
【0018】
被浄化水中に発生させるマイクロバブルの量は特に制限されない。マイクロバブルの量が少ないと、マイクロバブルによる固形有機物及び溶存アンモニアの除去が十分に行われないことがある。本発明の効果を奏する限りにおいて、被浄化水中に発生させるマイクロバブルの量を適宜調節することができる。
【0019】
被浄化水中にマイクロバブルを発生させる方法は特に制限されないが、例えば、乱流中において泡をせん断させることによりマイクロバブルを発生させる乱流法、高圧下で気体を大量に被浄化水中に溶解させた後に減圧することによりマイクロバブルを発生させる加圧減圧法、及び被浄化水に高速の渦を作り、この渦中に気体を吹き込み、渦中において気泡を切断、粉砕させることによりマイクロバブルを発生させる気液せん断法等により、マイクロバブルを発生させることができる。
【0020】
マイクロバブルに含まれるガスは、本発明の効果を奏する限りにおいて、オゾン以外の気体を含んでいてもよい。例えば、マイクロバブルに含まれるガスは、窒素、酸素、アルゴン、及び二酸化炭素等を必要に応じて含んでいてもよい。
【0021】
次に、被浄化水中におけるマイクロバブルによって、固形有機物とアンモニウムイオンとが除去される反応機構の一例について説明する。
【0022】
被浄化水中において、マイクロバブル内のガスは少しずつ被浄化水へと溶け出す。これによりマイクロバブルは縮小し、やがて消滅する。マイクロバブルが水中で消滅する際に、マイクロバブルの表面から水酸基ラジカル等のフリーラジカルが発生する。さらに、マイクロバブルの消滅の際に水中に放出されるガスに含まれるオゾンは、水と反応することにより水酸基ラジカルを発生する。よって、本発明におけるオゾンを含むガスのマイクロバブルは、水中で消滅することにより、大量の水酸基ラジカルを発生させることができる。尚、水酸基ラジカルは、ヒドロキシラジカルと称されることもあり、・OHという式で表されることもある。
【0023】
被浄化水中において、水酸基ラジカルと固形有機物とが反応すると、固形有機物は完全に分解されることなく、固形有機物の表面に親水性のヒドロキシル基が多数形成される。被浄化水中において、陽イオンであるアンモニウムイオン(NH4+)は、固形有機物の表面に形成されたヒドロキシル基に吸着する。固形有機物の表面に形成された全てのヒドロキシル基にアンモニウムイオンが吸着すると、固形有機物の表面は疎水性を帯びる。表面が疎水性を帯びた固形有機物は、マイクロバブル同士が接合して形成される安定泡沫の表面に吸着しやすく、安定泡沫とともに水中を浮上する。水面近傍まで浮上してきた安定泡沫が水中から除去することにより、マイクロバブルの表面に付着する固形有機物と、固形有機物の表面に吸着するアンモニウムイオンとを、同時に被浄化水中から除去することができる。尚、安定泡沫を除去した後に得られる浄化水中には、固形有機物とアンモニウムイオンとが残存することがあるが、安定泡沫を除去する前の被浄化水における固形有機物の含有量及びアンモニウムイオン濃度に比べて、安定泡沫を除去した後の浄化水における固形有機物の含有量及びアンモニウムイオン濃度は、ともに大きく減少させられる。
【0024】
マイクロバブルにおけるガスは、大気中における酸素をオゾンに変化させたガスであることが好ましい。大気中には体積比で約20%の酸素O2が含まれる。大気に放電処理又は紫外線照射等を行うことにより、大気中の酸素O2の一部又は全部がオゾンO3に変化したガスが得られる。マイクロバブルにおけるガスとしては、大気中に含有される酸素の全てをオゾンに変化させたガスが用いられてもよく、大気中における酸素の一部をオゾンに変化させたガスが用いられてもよい。ガス中に含まれるオゾン濃度が高くなりすぎることを防止するために、大気中における酸素の一部をオゾンに変化させたガスを用いることが好ましい。
【0025】
被浄化水中におけるマイクロバブルは、マイクロバブル発生器により発生することが好ましい。マイクロバブル発生器は、外部からオゾンを含むガスを取り込み、前記ガスを水中に放出し、前記ガスのマイクロバブルを水中に発生させる機能を有する装置であればよい。マイクロバブル発生器がオゾンを含むガスを取り込むことにより、被浄化水中にオゾンを含むガスのマイクロバブルが発生する。
【0026】
前記ガスは、マイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生器へと圧入されることが好ましい。ガスを圧入することにより、より多くのマイクロバブルを被浄化水中に発生させることができる。マイクロバブル発生器へガスを圧入する際の圧力は特に制限されない。ガスを圧入するには、例えば、ポンプ等を用いて、マイクロバブル発生器に接続される配管内部を加圧すればよい。
【0027】
マイクロバブル発生器としては、従来公知の装置を用いることができる。マイクロバブル発生器の一例として、乱流法により吐出出口からマイクロバブルを発生させることのできるマイクロバブル発生ノズルが挙げられる。マイクロバブル発生器として、市販のマイクロバブル発生ノズルが用いられる例を
図1に示す。
【0028】
図1において、被浄化水3は、送水管2を通って浄化槽4へと送られる。送水管2の一部に水圧送ポンプ16を設けることによって、送水管2の上流側から浄化槽4へと被浄化水を送水することができる。浄化槽4に収容された被浄化水3は、浄化槽4の底部に設けられた水中ポンプ5の取水口6から、水中ポンプ5の内部へと取り込まれる。水中ポンプ5に取り込まれた被浄化水3は、水中ポンプ5における吐出口7を通って、浄化槽4へと戻される。吐出口7には、マイクロバブル発生ノズル8が接続される。マイクロバブル発生ノズル8におけるエアー吸入管9は、チューブ10を介してオゾンガス発生装置11と接続される。オゾンガス発生装置11によって発生したオゾンガスは、チューブ10を通って、エアー吸入管9からマイクロバブル発生ノズル8へと取り込まれる。
図1では、オゾンガス発生装置11とマイクロバブル発生ノズル8とを接続するチューブ10が、水中ポンプ5中の被浄化水にオゾンガスを圧入するガス圧入管として機能する。マイクロバブル発生ノズル8において、被浄化水とオゾンガスとが混ざり、乱流を形成することにより、被浄化水中にオゾンガスのマイクロバブルが発生する。その後、マイクロバブル発生ノズル8の出口から、オゾンガスのマイクロバブルを含んだ被浄化水が、浄化槽4へと放出される。オゾンガス発生装置11において発生するオゾンガスを被浄化水に圧入させるには、オゾンガス発生装置11がガスの圧入機能を有していてもよいし、オゾンガス発生装置11とは別に、例えば各種ポンプ等の圧入部材をチューブ10の一部に設けてもよい。尚、
図1における例では、浄化槽4、送水管2、水圧送ポンプ16、チューブ10、及びマイクロバブル発生ノズル8によって、泡沫分離装置が形成される。
【0029】
マイクロバブル発生器の他の一例として、加圧減圧法によってマイクロバブルを発生させることのできるマイクロバブル発生装置が挙げられる。マイクロバブル発生器として、加圧減圧法によるマイクロバブル発生装置が用いられる例を
図2に示す。
【0030】
図2において、被浄化水23は、送水管22を通って浄化槽24へと送られる。送水管22の一部に水圧送ポンプ17を設けることによって、送水管22の上流側から浄化槽24へと被浄化水を送水することができる。浄化槽24に収容される被浄化水23は、水中に設けられた取水口26から配管20を介して浄水槽24の外部へと汲み上げられる。配管20は、浄化槽24中に設けられた一方の端部において取水口26を有し、浄化槽24中に設けられた他方の端部において吐出口27を有し、取水口26と吐出口27との間において上流側よりポンプ30と気体溶解槽19とをこの順に接続する。配管20において、取水口26とポンプ30との間には分岐部が設けられ、分岐部よりガス圧入管28が延在する。ガス圧入管28における分岐部と反対側の末端には、オゾン発生装置29が設けられる。取水口26から汲み上げられた被浄化水23には、ガス圧入管28が分岐する分岐部において、オゾンガス発生装置29において発生したオゾンガスが吹き込まれる。その後、オゾンガスの吹き込まれた被浄化水は、ポンプ30によって高圧状態に保たれた気体溶解槽19に送られる。気体溶解槽19において、オゾンガスは、定圧条件下における飽和量を超えて、被浄化水中に溶け込む。その後、被浄化水23は、吐出口27へと送水される。大気圧条件下にある吐出口27において、配管20内の被浄化水中において過飽和状態にあったオゾンガスは、マイクロバブルとして水中に放出される。これにより、吐出口27より、浄化槽24内へと、マイクロバブルを含んだ被浄化水が放出される。オゾンガス発生装置29において発生するオゾンガスを被浄化水に圧入させるには、オゾンガス発生装置29がガスの圧入機能を有していてもよいし、オゾンガス発生装置29とは別に、例えば各種ポンプ等の圧入部材をガス圧入管28の一部に設けてもよい。
図2における例では、取水口26、配管20、ポンプ30、気体溶解槽19、及び吐出口27によって、加圧減圧法を利用したマイクロバブル発生装置が形成される。また、
図2における例では、浄化槽24、送水管22、水圧送ポンプ17、ガス圧入管28、及び前記マイクロバブル発生装置によって、泡沫分離装置が形成される。
【0031】
次に、本発明に係る魚貝類養殖装置について説明する。
【0032】
図3に示されるように、本発明に係る魚貝類養殖装置31は、飼育水槽32と、前記魚貝類養殖水浄化装置33と、を有する。飼育水槽32には、魚類、貝類、水草類等の生物が飼育される。飼育水槽における飼育水は、餌の食べ残し、生物の死骸等によって汚れが蓄積する。汚れの蓄積した飼育水は、水中に懸濁される固形有機物、及び溶存アンモニウムイオンを多量に含有する。このような汚れの蓄積した飼育水は、飼育水中における魚類等の生育に悪影響を及ぼすので、浄化が必要な被浄化水とされる。
図3の(1)で示されるように、飼育水槽32における被浄化水は、前記魚貝類養殖水浄化装置33における浄化槽に供給可能となっている。具体的には、
図1及び
図2に示される例のように、前記魚貝類養殖水浄化装置が送水管を有するときには、送水管の上流側末端が飼育水槽32と接続されていればよい。これにより、飼育水槽32における被浄化水は送水管を通して浄化槽へ供給される。浄化槽へ供給される被浄化水の水量は、浄化槽の処理能力に応じて調節されればよい。
【0033】
魚貝類養殖水浄化装置33において、被浄化水が浄化されることにより、浄化水が得られる。具体的には、魚貝類養殖水浄化装置33の浄化槽中において、被浄化水中にオゾンを含むガスのマイクロバブルを発生させ、水面近傍に浮上した安定泡沫が除去されることにより、浄化水が得られる。
図3の(4)で示されるように、浄化槽から除去されたマイクロバブルの安定泡沫とともに、固形有機物及びアンモニウムイオンが被浄化水から排出される。よって、魚貝類養殖水浄化装置33において浄化された後の浄化水は、浄化前の被浄化水に比べて、水中に懸濁する固形有機物量及び水中に溶存するアンモニウムイオン濃度が低くなる。尚、
図3における(2)で示されるように、オゾンを含むガスのマイクロバブルを発生させるには、オゾンガス発生装置34により、オゾンガスが被浄化水中に圧入されればよい。
【0034】
前記魚貝類養殖装置33において得られた浄化水は、直接飼育水槽32に戻されてもよいし、後段処理槽35に送られた後に飼育水槽32へと戻されてもよい。後段処理槽35は、飼育水槽32内における魚貝類の生育にさらに適した水質となるように、浄化水をより一層浄化する機能を有する。
図3における例では、(3)で示されるように、魚貝類養殖水浄化装置33によって得られた浄化水が、後段浄化槽35へと送られる。
【0035】
後段浄化槽の一例として、生物処理槽が挙げられる。生物処理槽では、浮遊微生物が存在し、槽内の水が爆気されることにより、微生物の酸化反応によって浄化水中に残存する固形有機物が分解される。後段浄化槽の他の一例として、浄化水において浮遊する微細な物質を膜及びメッシュ等を用いて物理的にろ過する、ろ過槽が挙げられる。尚、後段浄化槽は、1個だけ設けられてもよいし、複数個設けられてもよい。
【0036】
本発明に係る魚貝類養殖装置を用いると、魚貝類養殖水浄化装置のみを運転させることにより、固形有機物とアンモニウムイオンとが除去された浄化水が得られる。本発明に係る魚貝類養殖装置では、固形有機物の分離装置とアンモニウムイオンの分離装置との2つの装置を用いる必要がない。よって、本発明に係る魚貝類養殖装置により、比較的容易に飼育水槽における魚貝類の生育に適した浄化水が得られる。
【0037】
次に、本発明に係る魚貝類養殖水の浄化方法について説明する。
【0038】
本発明に係る魚貝類養殖水の浄化方法は、飼育水槽中における被浄化水に、オゾンを含むガスのマイクロバブルを発生させる工程を有する。より具体的には、被浄化水に、加圧減圧法、及び気液せん断法等の公知の方法を用いて、オゾンを含むガスのマイクロバブルを発生させればよい。マイクロバブルは、飼育水槽中において発生させてもよいし、飼育水槽以外の水槽において発生させてもよい。例えば、飼育水槽における被浄化水を、飼育水槽とは別の浄化槽に移した後に、浄化槽における被浄化水にオゾンを含むガスのマイクロバブルを発生させてもよい。
【0039】
本発明に係る魚貝類養殖水の浄化方法は、マイクロバブルを浄化槽において浮上させる工程を有することが好ましい。より具体的には、浄化槽における被浄化水中に、マイクロバブルを発生させ、マイクロバブル同士が接合することによって形成される安定泡沫が、浄化槽内に収容された被浄化水の水面近傍まで浮上させることができればよい。また、被浄化水中において発生したマイクロバブルは、被浄化水中における固形有機物及びアンモニウムイオンが十分に除去される程度の時間をかけて浮上されればよい。
【0040】
水面近傍まで浮上したマイクロバブルの安定泡沫の表面には、固形有機物が吸着しており、この固形有機物にはアンモニウムイオンが吸着している。よって、水面近傍に浮上した安定泡沫を浄化槽から外部へと排出し、泡沫と水とを分離する泡沫分離を行うことにより、泡沫と一緒に固形有機物及びアンモニウムイオンが系外へ排出される。よって、泡沫分離後には、魚貝類の生育に悪影響を及ぼす固形有機物及びアンモニウムイオンの含有量が少なく、清浄な浄化水が得られる。浄化水を飼育槽に送水することによって、魚貝類の
生育に適した水質の水が飼育槽へと供給されることになる。また、泡沫分離を行った後に得られる浄化水は、さらに清浄な水とするために、後段処理槽で処理されてもよい。
【0041】
次に、本発明に係る魚貝類養殖水浄化装置の作用について説明する。
【0042】
本発明に係る魚貝類養殖水浄化装置の浄化槽には、固形有機物及びアンモニウムイオンを含んだ被浄化水が収容される。被浄化水中にオゾンを含むガスのマイクロバブルを発生させると、マイクロバブル自身が水中において消滅すること、及びオゾン自身が水と反応することによって、大量の水酸基ラジカルが発生する。これら水酸基ラジカルと固形有機物とが反応し、固形有機物の表面に大量のヒドロキシル基が形成される。このヒドロキシル基に、水中におけるアンモニウムイオンが吸着することにより、固形有機物の表面が疎水性を帯びる。表面が疎水性を帯びた固形有機物はマイクロバブルの表面に付着し、マイクロバブルの安定泡沫と共に水面近傍まで浮上する。水面近傍に浮上してきた泡を浄化槽から取り出すことにより、泡の表面に付着した固形有機物と、固形有機物の表面におけるヒドロキシル基に付着したアンモニウムイオンとを、同時に水中から取り出すことができる。よって、泡沫分離処理を行った後に得られる浄化水は、被浄化水に比べて、魚貝類の生育に悪影響を及ぼす固形有機物及びアンモニウムイオンの含有量が少なくなる。以上より、本発明に係る魚貝類養殖水浄化装置を用いて泡沫分離処理を行うことにより、生物の健康に害を及ぼすことがなく、特に魚貝類の養殖に適した清浄な水を簡単に得ることができる。
【0043】
次に、実施例について説明する。
【0044】
(実施例1)
チョウザメの養殖に用いた飼育水槽内の固形有機物を含む700Lの被浄化水に、被浄化水の塩分濃度が1質量%となり、アンモニア態窒素濃度が2ppmとなるように、並塩とアンモニア水(日本薬局方規格)とを添加した。次に、約10Lの実験用小型水槽である浄化槽に、30L/時の水量で前記被浄化水を送水した。オゾンガス発生装置とマイクロバブル発生器とを用いて、オゾンガスが4L/分の条件で圧入されるように、前記浄化槽における被浄化水にオゾンガスのマイクロバブルを発生させた。被浄化水中においてマイクロバブルを浮上させた後に、水面近傍にまで浮上してきたマイクロバブルの安定泡沫を含む水を回収し、安定泡沫を含む水中におけるアンモニア態窒素濃度を経時的に測定した。測定結果は、
図4において「オゾンガス」で示される直線の通りであった。
【0045】
(比較例1)
前記オゾンガスの代わりに、大気をマイクロバブル発生器に圧入し、大気によるマイクロバブルを被浄化水中に発生させたこと以外は、実施例1と同様に実験を行った。安定泡沫を含む水中におけるアンモニア態窒素濃度の測定結果は、
図4において「空気」で示される直線の通りであった。
【0046】
また、実施例1及び比較例1において用いた実験条件を以下の表1に示す。
【0047】
【0048】
図4で示されるように、実施例1におけるオゾンガスのマイクロバブルにより形成された安定泡沫を含む水のアンモニア態窒素の濃度は、実施例2における大気のマイクロバブルにより形成された安定泡沫を含む水のアンモニア態窒素の濃度よりも大きかった。これにより、実施例1では実施例2に比べて、より多くのアンモニウムイオンが被浄化水から泡沫分離されていることが確認された。
【0049】
具体的には、実施例1におけるアンモニア態窒素の被浄化水中からの除去速度は、約0.5mg/時であった。一方、比較例1におけるアンモニア態窒素の被浄化水からの除去速度は、約0.3mg/時であった。これにより、実施例1では比較例1に比べて水中に存在するアンモニウムイオンを除去する能力が約1.7倍向上したことが確認された。以上より、オゾンガスのマイクロバブルを用いた泡沫分離操作を行うことによって、被浄化水に存在するアンモニウムイオンをより効率的に除去できることが確かめられた。
【0050】
また、実施例1において回収された安定泡沫を含む水と、比較例1において回収された安定泡沫を含む水とには、同程度の量の懸濁物質が懸濁していることが目視により確認された。これにより、オゾンガスのマイクロバブルを用いた泡沫分離操作を行うことによって、被浄化水に存在する固形有機物が除去されることが確認された。
【符号の説明】
【0051】
1、21、33 魚貝類養殖水浄化装置
2、22 送水管
3、23 被浄化水
4、24 浄化槽
5 水中ポンプ
6、26 取水口
7、27 吐出口
8 マイクロバブル発生ノズル
9 エアー吸入管
10 チューブ
11、29、34 オゾンガス発生装置
16、17 水圧送ポンプ
19 気体溶解槽
20 配管
28 ガス圧入管
30 ポンプ
31 魚貝類養殖装置
32 飼育水槽
35 後段処理槽