(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】気泡噴出方法、気泡噴出用電源装置、および、気泡噴出装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220810BHJP
【FI】
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2020554829
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038170
(87)【国際公開番号】W WO2020090312
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2018202740
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医療分野研究成果展開事業・先端計測分析技術・機器開発プログラム「針なし気泡注射器を用いた低侵襲網膜血栓除去新技術の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】502251061
【氏名又は名称】株式会社ベックス
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 壮
(72)【発明者】
【氏名】渡部 廣道
(72)【発明者】
【氏名】森泉 康裕
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/052511(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/129657(WO,A1)
【文献】特表2009-527321(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017045(WO,A1)
【文献】特表2001-503208(JP,A)
【文献】KURIKI, H. et al.,Local ablation of a single cell by micro/nano bubble,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会講演論文集,2012年,1A2-V05, pages 1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体への気泡噴出方法
(ただし、ヒトに対して気泡噴出方法が行われることを除く)であって、
該気泡噴出方法は、
気泡噴出デバイスおよび対向電極を導電体に接触する導電体接触工程、
気泡噴出用電源装置から前記気泡噴出デバイスおよび前記対向電極に電圧を印加する電圧印加工程、
前記気泡噴出デバイスの気泡噴出口から前記導電体に気泡を噴出する気泡噴出工程、
を含み、
前記気泡噴出工程は、一回の電圧の印加で、一つの気泡を噴出し、
前記気泡噴出用電源装置は、少なくとも印加するパルス状の電圧の回数を任意に設定できる、
気泡噴出方法。
【請求項2】
前記気泡噴出用電源装置が、印加する電圧値、電圧の印加時間、および、電圧を印加しない電圧off時間、の少なくとも1以上を任意に設定できる、
請求項1に記載の気泡噴出方法。
【請求項3】
前記気泡噴出デバイスが、
導電材料で形成された電極と、
絶縁材料で形成され、前記電極の少なくとも先端部分の周囲の少なくとも一部を覆う外殻部と、
前記外殻部の一部であり、前記電極の先端部より延伸した部分である延伸部と、
前記延伸部の先端に形成された気泡噴出口と、
を含む、請求項1または2に記載の気泡噴出方法。
【請求項4】
気泡噴出デバイス、
および、気泡噴出用電源装置を含む気泡噴出装置であって、
前記気泡噴出デバイス
は、
導電材料で形成された電極と、
絶縁材料で形成され、前記電極の少なくとも先端部分の周囲の少なくとも一部を覆う外殻部と、
前記外殻部の一部であり、前記電極の先端部より延伸した部分である延伸部と、
前記延伸部の先端に形成された気泡噴出口と、
を含
み、
前記気泡噴出用電源装置は、少なくとも印加するパルス状の電圧の回数を任意に設定することができ、
前記電極への一回の電圧の印加で、前記気泡噴出口から一つの気泡を噴出する、
気泡噴出装置。
【請求項5】
前記気泡噴出用電源装置が、印加する電圧値、電圧の印加時間、および、電圧を印加しない電圧off時間、の少なくとも1以上を任意に設定できる、
請求項4に記載の気泡噴出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気泡噴出方法、気泡噴出用電源装置、および、気泡噴出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のバイオテクノロジーの発展に伴い、細胞の膜や壁に孔をあけ、細胞から核を除去又はDNA等の核酸物質の細胞への導入等、細胞等の局所加工の要求が高まっている。局所加工技術(以下、「局所アブレーション法」と記載することがある。)としては、電気メス等のプローブを用いた接触加工技術や、レーザー等を用いた非接触アブレーション技術などを用いた方法が広く知られている。
【0003】
また、細胞等への核酸物質等を導入するための局所的な物理的インジェクション技術(以下、「局所インジェクション方法」と記載することがある。)としては、電気穿孔法、超音波を用いたソノポレーション技術及びパーティクルガン法等が広く知られている。
【0004】
更に、上記の電気メス等のプローブを用いた接触加工技術、レーザー等を用いた非接触アブレーション技術、電気穿孔法等の細胞等への核酸物質等を導入するための局所的な物理的インジェクション技術以外にも、気泡噴出部材を用いた局所アブレーション法、気液噴出部材を用いた局所アブレーション法、局所インジェクション方法も知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、上記特許文献1に類似した技術として、基板上に任意の数の気泡噴出部を形成した気泡噴出チップ(特許文献2参照)、気泡噴出口が基板の上方に開口するように気泡噴出部を形成した気泡噴出チップが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/129657号
【文献】国際公開第2016/052511号
【文献】国際公開第2017/069085号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1乃至特許文献3には、導電材料で形成された芯材(電極)の周囲を絶縁材料で形成した外殻部で覆い、更に、外殻部から延伸した延伸部と芯材(電極)とで空隙を設けた気泡噴出部材(気泡噴出部)に電圧を印加することで、気泡噴出部材(気泡噴出部)の先端から気泡を噴出している。ところで、加工対象物に対して局所アブレーションを実施、或いは、局所インジェクションを実施する際の精度を向上するためには、噴出する気泡をコントロールできることが望ましい。
【0008】
しかしながら、本発明者らは、特許文献1乃至特許文献3に記載されている電源、より具体的には、医療用電気メス等に使用されているハイフリケーター(Hyfrecator2000(ConMed(株))に着目して検討を行ったところ、(1)ハイフリケーターはコントローラーを1回押すと、500回程度のパルスが印加されること、(2)ハイフリケーターは、基本的にはワット(W)で出力を設定するため、細かな電圧の制御ができないこと、(3)出力される波形が固定されていることから、パルスを印加する間隔等の制御ができないこと、(4)出力するワット(W)を設定しても、500回程度出力されるパルスの強さが安定していないこと、等の問題を有することを新たに見出した。
【0009】
本開示は、上記問題点を解決するためになされたものであり、鋭意研究を行ったところ、(1)少なくとも、出力するパルスの回数を調整できる気泡噴出用電源装置を用いて気泡噴出デバイスにパルスを印加すると、(2)気泡噴出デバイスから噴出する気泡をコントロールできること、を新たに見出した。
【0010】
すなわち、本開示の目的は、従来の気泡噴出方法と比較して、よりコントロールされた気泡を噴出できる気泡噴出方法、該気泡噴出方法に用いる気泡噴出用電源装置、および、気泡噴出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、以下に示す、気泡噴出方法、該気泡噴出方法に用いる気泡噴出用電源装置、および、気泡噴出装置に関する。
【0012】
(1)導電体への気泡噴出方法であって、
該気泡噴出方法は、
気泡噴出デバイスおよび対向電極を導電体に接触する導電体接触工程、
気泡噴出用電源装置から前記気泡噴出デバイスおよび前記対向電極に電圧を印加する電圧印加工程、
前記気泡噴出デバイスの気泡噴出口から前記導電体に気泡を噴出する気泡噴出工程、
を含み、
前記気泡噴出用電源装置は、少なくとも印加するパルス状の電圧の回数を任意に設定できる、
気泡噴出方法。
(2)前記気泡噴出用電源装置が、印加する電圧値、電圧の印加時間、および、電圧を印加しない電圧off時間、の少なくとも1以上を任意に設定できる、
上記(1)に記載の気泡噴出方法。
(3)前記気泡噴出デバイスが、
導電材料で形成された電極と、
絶縁材料で形成され、前記電極の少なくとも先端部分の周囲の少なくとも一部を覆う外殻部と、
前記外殻部の一部であり、前記電極の先端部より延伸した部分である延伸部と、
前記延伸部の先端に形成された気泡噴出口と、
を含む、上記(1)または(2)に記載の気泡噴出方法。
(4)気泡噴出デバイスから気泡を噴出するために用いる気泡噴出用電源装置であって、
該気泡噴出用電源装置は、少なくとも印加するパルス状の電圧の回数を任意に設定できる、
気泡噴出用電源装置。
(5)前記気泡噴出用電源装置が、印加する電圧値、電圧の印加時間、および、電圧を印加しない電圧off時間、の少なくとも1以上を任意に設定できる、
上記(4)に記載の気泡噴出用電源装置。
(6)上記(4)または(5)に記載の気泡噴出用電源装置、および、気泡噴出デバイスを含む気泡噴出装置であって、
前記気泡噴出デバイスが、
導電材料で形成された電極と、
絶縁材料で形成され、前記電極の少なくとも先端部分の周囲の少なくとも一部を覆う外殻部と、
前記外殻部の一部であり、前記電極の先端部より延伸した部分である延伸部と、
前記延伸部の先端に形成された気泡噴出口と、
を含む、
気泡噴出装置。
【発明の効果】
【0013】
本明細書で開示する気泡噴出用電源装置を含む気泡噴出装置で気泡噴出方法を実施すると、従来の気泡噴出方法と比較して、噴出する気泡の数等のコントロールができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、気泡噴出方法のフローチャートである。
【
図2】
図2は、気泡噴出装置の概略を示す図である。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、デバイス1の他の実施形態の概略を説明するための図である。
【
図4】
図4は電源装置3が出力する電圧の波形について説明するための図で、
図4Aは略矩形波状のパルスの例、
図4Bは正弦波半波状のパルスの例を示している。
【
図5】
図5は図面代用写真で、実施例1で作製したデバイスの先端部分の写真である。
【
図6】
図6は図面代用写真で、実施例1において、電圧印加0μsec~132.8μsecまでの連続写真である。
【
図7】
図7Aは、実施例2~4において、オシロスコープで得られた1回目~8回目の印加電圧の波形を表す。
図7Bは図面代用写真で、電圧を印加後1回目、5回目、10回目の気泡噴出口部分の写真である。
【
図8】
図8A(a)は、実施例5のオシロスコープで得られた1回目~4回目の印加電圧の波形、
図8A(b)は、
図8A(a)の1回目のパルスを時間軸方向に拡大した波形、
図8A(c)は、実施例6のオシロスコープで得られた1回目~8回目の印加電圧の波形を表す。
図8Bは図面代用写真で、実施例5および実施例6において、電圧を印加後1回目、5回目、10回目の気泡噴出口部分の写真である。
【
図9】
図9は、オシロスコープで得られた比較例1の印加電圧の波形である。
【
図10】
図10は、オシロスコープで得られた比較例2~5の印加電圧の波形であって、印加直後の波形部分を拡大したものである。
【
図11】
図11は、
図10のオシロスコープの1回目のパルスを時間軸方向に拡大した波形である。
【
図12】
図12は図面代用写真で、比較例2~5において、それぞれ、気泡噴出口から1回目、5回目、10回目の気泡が噴出した際の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しながら、気泡噴出方法について、詳しく説明する。
【0016】
(気泡噴出方法および気泡噴出装置の実施形態)
図1および
図2を参照して、気泡噴出方法および気泡噴出装置の実施形態を説明する。
図1は、気泡噴出方法のフローチャート、
図2は気泡噴出装置の概略を示す図である。気泡噴出方法は、導電体接触工程(S100)、電圧印加工程(S110)、および、気泡噴出工程(S120)、を少なくとも含んでいる。
【0017】
導電体接触工程(S100)では、気泡噴出デバイス(以下、単に「デバイス」と記載することがある。)1および対向電極2を導電体Lに接触させる。電圧印加工程(S110)では、気泡噴出用電源装置(以下、単に「電源装置」と記載することがある。)3からデバイス1および対向電極2に電圧を印加する。気泡噴出工程(S120)では、デバイス1の気泡噴出口11から導電体Lに気泡Bを噴出する。
図2に示すように、気泡噴出方法を実施する際には、電源装置3と、デバイス1および対向電極2とを、電線4で接続しておけばよい。
【0018】
図2示すデバイス1aは、導電材料で形成された電極12、絶縁材料で形成され電極12の周囲を覆う外殻部13、外殻部13の一部であり電極12の先端部より延伸した部分である延伸部131、延伸部131の先端に形成された気泡噴出口11、を少なくとも含んでいる。
【0019】
電極12は、電気を通し電極として使用できる導電材料で形成されていれば特に制限はない。例えば、金、銀、銅、鉄、アルミニウム、白金、タングステン等の金属が挙げられる。また、前記金属に、スズ、マグネシウム、クロム、ニッケル、ジルコニウム、ケイ素、イリジウムなどを加えた合金でもよく、例えば、ステンレス等が挙げられる。また、金属以外では、カーボン等が挙げられる。
【0020】
外殻部13および延伸部131を形成する絶縁材料としては、電気を絶縁するものであれば特に限定はない。例えば、ガラス、マイカ、石英、窒化ケイ素、酸化ケイ素、セラミック、アルミナ、等の無機系絶縁材料、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム等ゴム材料、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、シラン変性オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン系樹脂、弗素系樹脂、シリコン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース系樹脂、UV硬化樹脂等の絶縁性樹脂が挙げられる。
【0021】
図2に示すデバイス1aは、外殻部13として熱溶融性の絶縁材料を用いる場合は、例えば、管状の絶縁材料の中に電極12を挿入し、加熱して引き切ることで作製することができる。なお、デバイス1a作製の詳細な手順は、特許文献1を参照することができる。また、デバイス1aは、管状の絶縁材料に、電極12を挿入することで作製してもよい。
図2に示すデバイス1aは、電極12の先端部と延伸部131とで空隙14が形成されている。そして、気泡噴出口11は、電極12の先端部とは反対側の空隙14に形成されている。
【0022】
デバイス1は、電極12と絶縁材料13を組み合わせ、電圧を印加することでデバイス1の気泡噴出口11から導電体Lに気泡Bを噴出できれば、
図2に示す例に制限されない。
図3Aおよび
図3Bは、デバイス1の他の実施形態の概略を説明するための図である。
図3Aおよび
図3Bに示す例では、絶縁材料として感光性樹脂を用い、フォトリソグラフィ技術を用いて作製することができる。
【0023】
より具体的には、
図3Aに示すデバイス1bは、基板15上に通電部16が形成され、電極12が通電部16に接するように気泡噴出部を設けている。なお、前記のように気泡噴出部を設けることで、
図3Aに示す例では、気泡噴出部、換言すると、気泡噴出口14を複数形成できる。気泡噴出部は、電極12、電極12を挟むように形成した外殻部13、外殻部13の一部であり電極12の先端部より延伸した部分である延伸部131、延伸部131の先端に形成された気泡噴出口11、を少なくとも含んでいる。また、
図3Aには記載を省略しているが、
図3Aに示すデバイス1bを用いる場合は、必要に応じて、蓋部材を用いてもよい。蓋部材は基板15と反対側に設けられ、基板15と蓋部材で気泡噴出部を挟むようにして用いられる。
【0024】
電極12は、デバイス1aと同様の材料を用いることができるが、電気めっき、無電解めっき等の方法により基板15に電極12を積層により作製する場合は、例えば、ニッケル、金、白金、銀、銅、スズ、マグネシウム、クロム、タングステン等の金属、又はそれらの合金等、めっきにより堆積できる材料を用いればよい。また、通電部16は、デバイス1aの電極12と同じ材料を用いることができる。なお、通電部16は、基板15上に最初から形成しておいてもよいが、デバイス1bの使用時に、電極12と接触するように配置してもよい。
【0025】
外殻部13(延伸部131)を形成する感光性樹脂は、市販されているフォトレジストを用いることができる。フォトレジストの例としては、TSMR V50、PMER等のポジティブ型フォトレジスト、SU-8、KMPR等のネガティブ型フォトレジストが挙げられる。
【0026】
基板15を形成する材料としては、電極12、外殻部13(延伸部131)を堆積できるものであれば特に制限は無く、例えば、ガラス、石英、PMMA、シリコン等が挙げられる。
【0027】
蓋部材は、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、パリレン、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリエチレン、ガラス、石英、PMMA、シリコン等の絶縁材料を用いることができる。デバイス1b作製の詳細な手順は、特許文献2を参照することができる。
【0028】
次に、
図3Bに示すデバイス1cは、基板15上に通電部16が形成され、電極12が通電部16に略鉛直方向に接する、換言すると、気泡噴出部を基板15に対して上方に向けて設けている。
図3Bに示すデバイス1cも、気泡噴出部、換言すると、気泡噴出口14を複数形成できる。気泡噴出部は、電極12、一端が基板15上に形成され電極12の周囲を覆うように形成された外殻部13、外殻部13の一部であり電極12の先端部より延伸した部分である延伸部131、延伸部131の先端に形成された気泡噴出口11、を少なくとも含んでいる。また、
図3Bに示すデバイス1cは、電極12の先端部と延伸部131とで空隙14が形成されている。そして、気泡噴出口11は、電極12の先端部とは反対側の空隙14に形成されている。
【0029】
図3Bに示すデバイス1cの電極12、外殻部13(延伸部131)、基板15、通電部16を形成する材料は、
図3Aに示すデバイス1bと同様の材料を用いることができる。デバイス1cの具体的な作製手順は、特許文献3を参照することができる。なお、
図3Aおよび
図3に示すデバイス1b・1cは、気泡噴出部(気泡噴出口)を複数形成した例を示しているが、気泡噴出部(気泡噴出口)は一つでもよい。
【0030】
図2、
図3Aおよび
図3Bに示したデバイス1a乃至1cは、電極12が導電材料で形成されている点、外殻部13および延伸部131が絶縁材料で形成されている点、延伸部131の先端に気泡噴出口11が形成されている点、で共通する。一方、デバイス1aおよびデバイス1cでは、電極12の先端部分(気泡噴出口11側の端部近傍を意味する。)の周囲は、絶縁材料で覆われているのに対して、
図3Aに示すデバイス1bは、電極12の先端部分(気泡噴出口11側の端部)は、絶縁材料で挟まれるように形成され、電極12は基板15および必要に応じて蓋部材に接触することになる。そのため、デバイス1a乃至1cは、電極12の周囲の少なくとも一部が外殻部13で覆われている点で共通する。したがって、本明細書において、「電極の周囲」とは、
図3Bを例に説明すると、電極12の先端部(気泡噴出口11側の端部)と後端部(気泡噴出口11とは反対側の端部)の中心軸xと略平行な面(電極12が円柱や角柱の場合)、或いは、中心軸xと交差しない面(電極12が先端部に向けて細くなる形状の場合等)を意味する。そして、「電極の少なくとも先端部分の周囲の少なくとも一部を覆う」とは、電極12の中心軸x方向の少なくとも気泡噴出口11側の先端部分の「電極の周囲」の全体を覆う(例えば、デバイス1aおよび1c)、および、前記「電極の周囲」の一部を覆う(挟む、例えば、デバイス1b)を意味する。
【0031】
対向電極2は、電極12と回路を形成することができれば特に制限はなく、電極12と同様の材料で作製することができる。また、電極12と対向電極2は、同じ材料であってもよいし、異なっていてもよい。また、対向電極2は露出した導電材料を液体に浸漬することができれば形状等に特に制限はなく、線状、板状等の任意の形状であればよい。
【0032】
[電源装置3の実施形態]
次に、
図4を参照して、電源装置3の実施形態について説明する。
図4は、電源装置3が出力する電圧の波形の例について説明するための図である。
図4Aは、電源装置3が出力する電圧が略矩形波状のパルスの例を示す図で、
図4Bは、電源装置3が出力する電圧が略正弦波半波状のパルスの例を示す図である。本開示で使用する電源装置3は、印加するパルス状の電圧の回数を任意に設定できることが大きな特徴である。なお、本明細書において「パルス状の電圧」とは、「電圧の印加時間」と「電圧を印加しない電圧off時間」とを交互に繰り返すことができ、「電圧の印加時間」の際に印加される電圧がプラス、又は、マイナスの一方のみ印加される電圧を意味する。換言すると、プラス-マイナスに振幅するパルス状の交流電圧は、本明細書で開示する「パルス状の電圧」には含まれない。印加する電圧の回数は、気泡噴出の使用目的に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1~1000回程度が挙げられる。
【0033】
また、電圧の印加回数に加え、印加する電圧値、電圧の印加時間、および、電圧を印加しない電圧off時間、の少なくとも1以上を任意に設定できるようにしてもよい。なお、本明細書において、「印加する電圧値」とは、出力した最大電圧の絶対値を意味する(例えば、略矩形波状では
図4Aの符号a、略正弦波半波状では
図4Bの符号a)。また、「電圧の印加時間」とは、0Vから電圧が立ち上がり、所定時間経過後、電圧が立ち下がり、0Vになるまでの時間(
図4Aおよび
図4Bの符号c)を意味する。また、「電圧を印加しない電圧off時間」とは、出力した電圧が0Vに戻った後、次に電圧を印加するまでの電圧値が0Vの時間(
図4Aおよび
図4Bの符号d)を意味する。
【0034】
また、矩形波状のパルスとは、上記の「電圧の印加時間(符号c)」が、「電圧の急激な立ち上がりに要する時間(
図4Aの符号aの電圧に到達する時間)、及び、電圧の急激な立ち下がりに要する時間(
図4Aの符号bに示す電圧から0Vになる時間)」と比較して十分長い、換言すれば、所定値の電圧を印加し続ける時間を有する波形の電圧を意味する。なお、「電圧の印加時間」が、「電圧の急激な立ち上がりに要する時間、及び、電圧の急激な立ち下がりに要する時間」と比較して十分長いとは、例えば、2倍以上であれよい。また、立ち上がり時の電圧の絶対値(
図4の符号a)と立下り時の電圧の絶対値(
図4の符号b)は同じであることが望ましいが、立ち下がり時の電圧の絶対値(b)は、立ち上がり時の電圧の絶対値(a)より小さい、換言すると、所定時間電圧を印加している時に、電圧が減衰してもよい。例えば、立ち下がり時の電圧の絶対値(b)/立ち上がり時の電圧の絶対値(a)=0.8~1としてもよい。
【0035】
正弦波半波状のパルスとは、
図4Bに示すように、「電圧の立ち上がりに要する時間、及び、電圧の立ち下がりに要する時間」と比較して、所定値の電圧を印加し続ける時間が非常に短い波形の電圧を意味する。
【0036】
なお、
図4Aおよび
図4Bは、電源装置3が出力する波形の単なる例示である。上記の「パルス状の電圧」の定義を満たす範囲内であれば、例えば、台形状(
図4Aに示す例より、電圧の立ち上がりと立ち下がりに要する時間が長い)の波形等、他の波形であってもよい。
【0037】
印加する電圧値は、デバイス1の気泡噴出口11から気泡Bが噴出すれば特に制限はないが、例えば、1V~3000Vの間で、任意の電圧値を設定できるようにすればよい。また、電圧の印加時間は、デバイス1の気泡噴出口11から気泡Bが噴出すれば特に制限はないが、例えば、0.1μsec~3000μsecの間で、任意の時間を設定できるようにすればよい。また、「電圧off時間」は、例えば、30μsec~10000msecの間で、任意の時間を設定できるようにすればよい。
【0038】
電源装置3は、上記の電圧が印加できるように、電源装置3を構成する部品を調整してもよいし、一般的な電源装置の駆動プログラムを改良することで作製してもよい。
【0039】
導電体Lは、デバイス1および対向電極2が通電できれば特に制限はなく、液体、固体、或いは、液体と固体の混合物等が挙げられる。液体としては、例えば、水、または、水にKCl、NaCl2、等の塩を溶解、或いは、生物分野で用いられているPBS等の緩衝液、培地等が挙げられる。固体としては、例えば、金属や導電性樹脂等が挙げられる。液体と固体の混合物としては、例えば、葉や種等の植物組織、動物等の生体組織等が挙げられる。
【0040】
また、特許文献1乃至3に記載のように、本明細書で開示する気泡噴出方法により気泡噴出口11から噴出した気泡Bを加工対象物に衝突させることで、加工対象物を局所的にアブレーションすることができる。また、導電体Lとして液体を用いた場合、液体に、DNAやRNA等の核酸、タンパク質、アミノ酸、水溶性の薬剤、或いは、窒素・へリウム・二酸化炭素・アルゴン等の気体状のインジェクション物質を溶解しておくことで、加工対象物を局所的にアブレーションしながら、インジェクション物質を加工対象物にインジェクションすることもできる。
【0041】
加工対象物としては、気泡によりアブレーションできるものであれば特に制限は無く、動物、微生物、植物等の生体、該生体から分離した組織や細胞、或いは、タンパク質等が挙げられる。細胞としては、ヒトまたは非ヒト動物の組織から単離した幹細胞、皮膚細胞、粘膜細胞、肝細胞、膵島細胞、神経細胞、軟骨細胞、内皮細胞、上皮細胞、骨細胞、筋細胞、卵細胞等の動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、大腸菌、酵母、カビなどの微生物細胞などの細胞を挙げることができる。
【0042】
アブレーションは、例えば、導電体として液体を用い、液体に浸漬したデバイス1および対向電極2の間に加工対象物を配置し、デバイス1および対向電極2に電圧を印加することで噴出した気泡を加工対象物に衝突させることで実施できる。また、加工対象物が生体組織や金属等の導電体の場合は、デバイス1および対向電極2を加工対象物に接触させ、デバイス1および対向電極2に電圧を印加することで、加工対象物を直接アブレーションできる。
【0043】
以下に実施例を掲げ、各実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単にその具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は、発明の範囲を限定したり、あるいは制限するものではない。
【実施例】
【0044】
<実施例1>
[デバイス1の作製]
電極12は、直径約100μmのタングステン線(株式会社ニラコ製)を用いた。また、外殻部13(延伸部131)は、PFAマイクロチューブ(ふっ素樹脂製、内径0.1mm、外径0.3mm、アズワン株式会社製1-4423-01)を用いた。タングステン線をPFAマイクロチューブに挿入することで、デバイス1を作製した。
図5は作製したデバイスの先端部分の写真で、延伸部131の長さは約30μmであった。
【0045】
[電源装置3の作製]
細胞融合・卵子活性化用の電源装置CFB16-HB(株式会社ベックス社製)のプログラムを改良することで、印加する電圧値が1V~1500V、電圧の印加時間が1μsec~3000μsec、電圧off時間が75μsec~10000msec、電圧の印加回数が1回~1000回の範囲で、任意に設定できる電源装置を作製した。
【0046】
[気泡噴出装置の作製および気泡噴出方法の実施]
ステンレス綱(ニッケル、クロムを含む)(約3mm×約50mm×約0.5mm)で対向電極2を作製した。次に、作製したデバイス1と対向電極2とを電線を用いて電源装置3に接続し、デバイス1の気泡噴出口11と対向電極2を生理食塩水に浸漬した。次に、電源装置3の出力条件を、印加する電圧値を600V、電圧の印加時間を8μsec、電圧の印加回数を1回に設定し、電圧を出力した。デバイス1の気泡噴出口11付近の状況は、ハイスピードカメラ(Keyence社製 VW-9000)を用い、120000fpsの条件で撮影した。
図6は、電圧印加0μsec~132.8μsecまでの連続写真である。
図6に示すように、電圧印加後に気泡噴出口11付近で気泡の成長が確認され、そして、66.4μsの写真の矢印に示すように、気泡の噴出が確認され、その後は気泡の噴出は確認されなかった。以上の結果より、実施例1の気泡噴出方法では、一回の電圧の印加で、一つの気泡が形成・噴出することを確認した。したがって、本開示による気泡噴出方法を用いると、噴出する気泡の数を印加する電圧の回数でコントロールできる。
【0047】
<実施例2~4>
電源装置3の出力条件を、印加する電圧値を500V(実施例2)、600V(実施例3)、800V(実施例4)とし、電圧の印加時間を2μsecとし、電圧off時間を0.1msecとし、電圧の印加回数を20回とした以外は、実施例1と同様の手順により、気泡噴出方法を実施した。
【0048】
図7Aはオシロスコープで得られた1回目~8回目の印加電圧の波形、
図7Bは、電圧を印加後1回目、5回目、10回目の気泡噴出口部分の写真である。
図7Aに示すように、印加する電圧値(500V、600V、800V)に関係なく、1回目~8回目に出力される電圧値は、実施例2乃至4の何れもほぼ同じ値であった。また。
図7Bに示すように、電圧値が大きくなると、生成する気泡も大きくなった。以上の結果より、本開示による気泡噴出方法を用いると、複数回電圧を印加した場合でも、個々の印加電圧が均質であることから、発生した気泡も均質な気泡になること、そして、印加する電圧値により発生する気泡のサイズをコントロールできるという顕著な効果を奏することを確認した。
【0049】
<実施例5、6>
電源装置3の出力条件を、(1)実施例5では、印加する電圧値を500V、電圧の印加時間を4μsec、電圧off時間を0.2msec、電圧の印加回数を20回、(2)実施例6では、印加する電圧値を500V、電圧の印加時間を12μsec、電圧off時間を0.1msec、電圧の印加回数を20回、とした以外は、実施例1と同様の手順により、気泡噴出方法を実施した。
【0050】
図8Aはオシロスコープで得られた印加電圧の波形で、(a)は実施例5の1回目~4回目の波形、(b)は実施例5の1回目のパルスを時間軸(横軸)方向に拡大した波形、(c)は実施例6の1回目~8回目の波形である。
図8Bは、電圧を印加後1回目、5回目、10回目の気泡噴出口部分の写真である。
図8A(a)および
図8A(c)に示すように、印加する電圧の条件を変更しても、出力される電圧値は、ほぼ同じ値となることを確認した。また、
図8A(b)に示すように、印加される電圧は、「電圧の印加時間」が、「電圧の立ち上がり、及び、電圧の立ち下がりに要する時間」と比較して十分長い、略矩形波状の電圧であることを確認した。また、
図8Bに示すように、電圧の印加時間や電圧off時間等の条件を変更しても、一回の電圧の印加で一気泡を生成・噴出することを確認した。
【0051】
<比較例1>
電源装置として、特許文献1乃至3に記載されている「Hyfrecator2000(ConMed(株))、以下「比較電源」と記載することがある。」を用いた。なお、比較電源は、通電中は、約24.4kHzで電圧が印加される交流電流装置である。また、比較電源は、比較電源のコンロトーラー(外部パソコンによるソフト操作、VisualStudioのProject4)を1回押すことで、500回程度のパルスが印加される構造となっている。また、比較電源は、HiおよびLowモードはあるが、基本的にはワット(W)で強さを決めるため、細かな電圧の制御ができず、更に、波形が固定であるため、電圧の印加時間や電圧off時間の制御もできない構造となっている。
【0052】
比較電源を10Wに設定し、コントローラーを1回押した以外は、実施例1と同様の手順で気泡噴出方法を実施した。
図9は、オシロスコープで得られた比較例1の印加電圧の波形である。
図9に示すように、比較電源が出力する電圧は、1回の操作で複数のパルスが印加され、且つ、印加されたパルスの電圧のばらつきが非常に大きいことを確認した。なお、得られたオシロスコープからの計算では、コントローラーを1回押した時のパルス数は約488回(41μsec/1パルス)となり、比較電源のほぼスペック通りであることを確認した。
【0053】
<比較例2~5>
比較電源の出力を、5W(比較例2)、8W(比較例3)、10W(比較例4)、12W(比較例5)に設定し、比較例1と同様の手順で気泡噴出方法を実施した。
図10は、オシロスコープで得られた比較例2~5の印加電圧の波形であって、印加直後の波形部分を拡大したものである。
図10に示すように、比較電源が出力する電圧値は、特に印加開始時には不安定であった。
【0054】
図11は、
図10のオシロスコープの1回目のパルスを時間軸方向に拡大した波形である。
図10に示す波形からは、一見すると、印加されるパルスの電圧は段階的に大きくなる、換言すると、個々のパルスが区別できるように見られた。しかしながら、
図11から明らかなように、1回目のパルス中には、細かな振幅が確認され、気泡噴出に寄与するパルスを特定することは困難であった。
【0055】
図12は、比較例2~5において、それぞれ、気泡噴出口から1回目、5回目、10回目の気泡が噴出した際の写真である。なお、比較例2~5においては、上記のとおり、比較電源から出力される電圧に振幅が見られ、気泡噴出に寄与するパルスが特定できないことから、実施例2~6とは異なり、噴出した気泡の回数の写真で比較した。例えば、比較例3では、5回目と10回目の気泡の大きさは大きく異なり、また、比較例4では5回目より10回目の気泡が小さく、更に、比較例2~5の順に印加する電圧は大きくなるものの、実施例2~4と異なり、気泡の大きさに比例関係は見られなかった。
【0056】
以上の結果より、本開示の気泡噴出用電源装置を含む気泡噴出装置で気泡噴出方法を実施すると、従来の電源装置を用いた気泡噴出方法と比較して、噴出する気泡をより正確にコントロールできるという顕著な効果を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本明細書で開示する気泡噴出用電源装置を含む気泡噴出装置で気泡噴出方法を実施すると、従来の気泡噴出方法と比較して、噴出する気泡をより正確にコントロールできる。したがって、畜産・農林水産分野等、気泡により加工対象物を加工する分野において有用である。
【符号の説明】
【0058】
1、1a、1b、1c…気泡噴出デバイス、2…対向電極、3…気泡噴出用電源装置、4…電線、11…気泡噴出口、12…電極、13…外殻部、14…空隙、15…基板、16…通電部、31…制御部、131…延伸部、B…気泡、L…溶液