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特許7121442Taraxacum属植物の形質転換植物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】Taraxacum属植物の形質転換植物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/00 20060101AFI20220810BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220810BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20220810BHJP
   A01H 6/14 20180101ALN20220810BHJP
【FI】
A01H1/00 A ZNA
C12N15/09 Z
A01H5/00 A
A01H6/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018128251
(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公開番号】P2020005538
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503354480
【氏名又は名称】株式会社インプランタイノベーションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】井之上 ゆき乃
(72)【発明者】
【氏名】山口 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】寺川 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】矢野 翼
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103333902(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104604677(CN,A)
【文献】特開2017-093347(JP,A)
【文献】国際公開第2012/099100(WO,A1)
【文献】特開2013-121329(JP,A)
【文献】Plant Root (Web) ,2017年,Vol.11 ,pp.64-69,doi:10.3117/plantroot.11.64
【文献】Chinese Journal of Biotechnology(2005)Vol.21, No.2, p.244-249
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C07K
C12Q
A01H
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAPLUS/REGISTRY/CABA/AGRICOLA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Taraxacum属植物由来の組織片に、標的遺伝子又はそのフラグメント、及び、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドを含有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスを感染させる感染工程、
該感染工程で得られた組織片のうち、上記標的遺伝子を獲得した組織片をハイグロマイシンにより選択する選択培養工程、
該選択培養工程で得られた組織片を、サイトカイニン系植物ホルモン、オーキシン系植物ホルモン、及び、炭素源を含むカルス誘導培地で培養してカルスを形成させるカルス誘導工程、
該カルス誘導工程で得られたカルスを、植物生長ホルモン及び炭素源を含む再生誘導培地で培養して、不定胚、不定芽及びシュートを形成させる再生誘導工程、並びに、
該再生誘導工程で得られたシュートを、発根培地で培養して、発根させる発根工程を含
前記選択培養工程が、前記感染工程で得られた組織片を、ハイグロマイシンを0.1~2mg/Lの濃度で含有する選択培養培地で培養して、前記標的遺伝子を獲得した組織片を選択する工程であるTaraxacum属植物の形質転換植物の製造方法。
【請求項2】
前記カルス誘導培地中、サイトカイニン系植物ホルモンの濃度が0.5~1.2mg/L、オーキシン系植物ホルモンの濃度が1.2mg/L未満である請求項1載のTaraxacum属植物の形質転換植物の製造方法。
【請求項3】
前記再生誘導培地中、植物生長ホルモンが、サイトカイニン系植物ホルモン及びオーキシン系植物ホルモンを含み、
該サイトカイニン系植物ホルモンの濃度が、0.4~1.1mg/L、オーキシン系植物ホルモンの濃度が0.2mg/L未満である請求項1又は2記載のTaraxacum属植物の形質転換植物の製造方法。
【請求項4】
前記Taraxacum属植物が、Taraxacum kok-saghyz、又はTaraxacum brevicorniculatumである請求項1~のいずれかに記載のTaraxacum属植物の形質転換植物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Taraxacum属植物の形質転換植物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、工業用ゴム製品に用いられている天然ゴム(ポリイソプレノイドの1種)は、トウダイグサ科のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)を栽培し、その植物体が有する乳管細胞で天然ゴムを生合成させ、該天然ゴムを植物から手作業により採取することで得られる。
【0003】
現状、工業用天然ゴムは、パラゴムノキをほぼ唯一の採取源としている。またゴム製品の主原料として、様々な用途において幅広くかつ大量に用いられている。しかしながら、パラゴムノキは東南アジアや南米などの限られた地域でのみ生育可能な植物である。更に、パラゴムノキは、植樹からゴムの採取が可能な成木になるまでに7年程度を要し、また、採取出来る季節が限られる場合もある。また、成木から天然ゴムを採取できる期間は20~30年に限られる。
【0004】
今後、開発途上国を中心に天然ゴムの需要の増大が見込まれているが、上述の理由によりパラゴムノキによる天然ゴムの大幅な増産は困難である。そのため、天然ゴム資源の枯渇が懸念されており、パラゴムノキの成木以外の安定的な天然ゴムの供給源が望まれている。
【0005】
このような状況下、パラゴムノキ以外の天然ゴムの供給源の探索が盛んに行われており、パラゴムノキ以外にもイソプレノイドを生産している植物が2000種以上存在することが知られている。
【0006】
新たな天然ゴムの供給源として、これらの植物を利用する場合、多量の天然ゴムを生産するためには、当該植物を大量に増殖させる必要が生じることが予想される。植物を大量に増殖させる方法としては、種子から植物を栽培する方法、挿し木により植物を増殖させる方法等が挙げられるが、これらの方法では、天候や季節等に影響されやすいため、安定的に植物を増殖できないおそれがある。
【0007】
一方で、パラゴムノキによる天然ゴムの増産を図る動きも見られる。パラゴムノキは、播種により実生苗を育成させ成長させた後台木とし、クローン苗から得た芽を台木に継ぎ芽する事で苗を増殖させる。ただし、クローン苗から得られる芽には限りがあるため、優良品種を普及させるには、優良品種のクローン苗を大量増殖させる必要がある。
また従来のクローン増殖技術である接ぎ木は、元の木がもつ病気を一緒に継いでしまう可能性があり、罹病した苗を増殖させる可能性がある。従って、安定的に植物を増殖できる方法が望まれている。
【0008】
ここで、植物におけるイソプレノイドの生産量を増大させるためには、例えば、耐ストレス性の向上や、植物中に蓄積されるイソプレノイド量の増大を目的として、植物を改良する方法が考えられる。植物の改良方法としては、人工交配や突然変異を利用する方法も考えられるが、所望する性質を効率的に付与することが難しく、その実現性は低いものと考えられる。そのため、植物の改良には、植物細胞に標的遺伝子を導入し、所望する性質を付与するという細胞工学的手法が利用されることになると考えられる。
【0009】
アグロバクテリム菌を用いる従来の形質転換方法としては、アグロバクテリウム・リゾゲネスにより毛状根を形成させ、毛状根から不定芽を形成して植物体を得る方法が知られており、アグロバクテリウム・リゾゲネスを用いてタンポポを形質転換する方法が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】チャン(Yingxiao Zhang)、外4名、「インダストリアル クロップス アンド プロダクツ(Industrial Crops and Products)」、2015年、第66巻、p.110-118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、アグロバクテリウム・リゾゲネスを用いたタンポポの形質転換方法が検討されているが、この方法は、アグロバクテリウム・リゾゲネス菌を用いることによりRiプラスミドが同時に組み込まれ、形質転換植物が奇形化する場合があるという問題があった。このように従来の方法では形質転換方法として改善の余地があり、Taraxacum属植物を効率的に形質転換するための方法が求められていた。
【0012】
本発明は、前記課題を解決し、Taraxacum属植物の形質転換植物を短期間で効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、Taraxacum属植物の形質転換植物を製造することに成功した。そして、より効率的にTaraxacum属植物の形質転換植物を製造するための条件の検討を行い、アグロバクテリウム菌としてアグロバクテリウム・ツメファシエンスを用いることで、Riプラスミドが組み込まれることなく、また特定の植物ホルモンを添加することで効率的にカルスを誘導し、不定芽を形成させることにより、短期間で効率的に形質転換植物体を得ることができることを見出した。また、選択試薬として、ハイグロマイシンを使用することにより、効率よく組換え体の選抜が可能となることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、Taraxacum属植物由来の組織片に、標的遺伝子又はそのフラグメント、及び、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドを含有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスを感染させる感染工程、該感染工程で得られた組織片のうち、上記標的遺伝子を獲得した組織片をハイグロマイシンにより選択する選択培養工程、該選択培養工程で得られた組織片を、サイトカイニン系植物ホルモン、オーキシン系植物ホルモン、及び、炭素源を含むカルス誘導培地で培養してカルスを形成させるカルス誘導工程、該カルス誘導工程で得られたカルスを、植物生長ホルモン及び炭素源を含む再生誘導培地で培養して、不定胚、不定芽及びシュートを形成させる再生誘導工程、並びに、該再生誘導工程で得られたシュートを、発根培地で培養して、発根させる発根工程を含む、Taraxacum属植物の形質転換植物の製造方法に関する。
【0015】
上記選択培養工程は、上記感染工程で得られた組織片を、ハイグロマイシンを0.1~2mg/Lの濃度で含有する選択培養培地で培養して、上記標的遺伝子を獲得した組織片を選択する工程であることが好ましい。
【0016】
上記カルス誘導培地中、サイトカイニン系植物ホルモンの濃度は0.5~1.2mg/L、オーキシン系植物ホルモンの濃度は1.2mg/L未満であることが好ましい。
【0017】
上記再生誘導培地中、植物生長ホルモンは、サイトカイニン系植物ホルモン及びオーキシン系植物ホルモンを含み、該サイトカイニン系植物ホルモンの濃度が、0.4~1.1mg/L、オーキシン系植物ホルモンの濃度が0.2mg/L未満であることが好ましい。
【0018】
上記Taraxacum属植物は、Taraxacum kok-saghyz、又はTaraxacum brevicorniculatumであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のTaraxacum属植物の形質転換植物の製造方法は、Taraxacum属植物由来の組織片に、標的遺伝子又はそのフラグメント、及び、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドを含有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスを感染させる感染工程、該感染工程で得られた組織片のうち、上記標的遺伝子を獲得した組織片をハイグロマイシンにより選択する選択培養工程、該選択培養工程で得られた組織片を、サイトカイニン系植物ホルモン、オーキシン系植物ホルモン、及び、炭素源を含むカルス誘導培地で培養してカルスを形成させるカルス誘導工程、該カルス誘導工程で得られたカルスを、植物生長ホルモン及び炭素源を含む再生誘導培地で培養して、不定胚、不定芽及びシュートを形成させる再生誘導工程、並びに、該再生誘導工程で得られたシュートを、発根培地で培養して、発根させる発根工程を含むので、Taraxacum属植物の形質転換植物を短期間で効率的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1で得られた再生植物体の様子を示す写真である。
図2】実施例1におけるアガロースゲル電気泳動の試験結果を示す泳動写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の製造方法は、Taraxacum属植物由来の組織片に、標的遺伝子又はそのフラグメント、及び、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドを含有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスを感染させる感染工程、該感染工程で得られた組織片のうち、上記標的遺伝子を獲得した組織片をハイグロマイシンにより選択する選択培養工程、該選択培養工程で得られた組織片を、サイトカイニン系植物ホルモン、オーキシン系植物ホルモン、及び、炭素源を含むカルス誘導培地で培養してカルスを形成させるカルス誘導工程、該カルス誘導工程で得られたカルスを、植物生長ホルモン及び炭素源を含む再生誘導培地で培養して、不定胚、不定芽及びシュートを形成させる再生誘導工程、並びに、該再生誘導工程で得られたシュートを、発根培地で培養して、発根させる発根工程を含む製造方法である。
なお、本発明の製造方法は、上記各工程を含む限りその他の工程を含んでいてもよく、上記各工程は1回行ってもよいし、植え継ぐなどして複数回行ってもよい。
【0022】
本発明において、カルスとは、分化していない状態の植物細胞又は分化していない状態の植物細胞塊を意味する。また、本発明において、不定胚とは、カルスから誘導された胚様の組織を意味し、不定芽とは、葉や根、茎の節間など通常では芽を生じない場所から得られる芽様の組織を意味する。また、本発明において、シュートとは、葉や幼植物を意味する。
【0023】
Taraxacum属植物としては、特に限定されず、例えば、タンポポ(Taraxacum)、エゾタンポポ(Taraxacum venustum H.Koidz)、シナノタンポポ(Taraxacum hondoense Nakai)、カントウタンポポ(Taraxacum platycarpum Dahlst)、カンサイタンポポ(Taraxacum japonicum)、セイヨウタンポポ(Taraxacum officinale Weber)、ロシアタンポポ(Taraxacum kok-saghyz)、Taraxacum brevicorniculatum等が挙げられる。なかでも、Taraxacum kok-saghyz、Taraxacum brevicorniculatumが好ましい。
【0024】
以下において、本発明の製造方法における各工程について説明する。
【0025】
(アグロバクテリウム・ツメファシエンス調製工程)
本発明の方法では、標的遺伝子又はそのフラグメント、及び、ハイグロマイシン耐性遺伝子(以下、標的遺伝子等、と記載することがある。)を含むプラスミドを含有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスをTaraxacum属植物由来の組織片に感染させる。そこで、まず、アグロバクテリウム・ツメファシエンスの調製方法(アグロバクテリウム・ツメファシエンス調製工程)について説明する。
【0026】
アグロバクテリウム・ツメファシエンスを用いることで、Riプラスミドを組み込むことなく、良好な感染効率を得ることができる。
【0027】
標的遺伝子等を含むプラスミドを含有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスは、従来公知のいずれの手法を用いて作製してもよい。例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンスが有するTiプラスミドのT-DNA領域と相同組み換え可能なプラスミドに、標的遺伝子等を組み込んだ標的遺伝子組み換え中間ベクターを作製し、該標的遺伝子組み換え中間ベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンスに導入してもよい。また、アグロバクテリウム法において汎用されているバイナリーベクターに標的遺伝子等を組み込んだ標的遺伝子バイナリーベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンスに導入してもよい。その他、標的遺伝子等を含むプラスミドをエレクトロポレーション法によってアグロバクテリウム・ツメファシエンスに導入する方法などが挙げられる。
【0028】
本発明において、標的遺伝子とは、Taraxacum属植物に導入する目的の遺伝子を意味する。標的遺伝子としては、Taraxacum属植物に導入された結果、当該Taraxacum属植物の遺伝的形質を変化させ得るものであれば特に限定されるものではなく、導入されるTaraxacum属植物が本来有している遺伝子であってもよく、当該Taraxacum属植物以外の生物由来の遺伝子であってもよく、人工的に作製した遺伝子であってもよい。人工的に作製した遺伝子としては、例えば、2種類以上の遺伝子をつなぎ合わせたキメラ遺伝子であってもよく、いずれかの生物が有する遺伝子を変異させた変異遺伝子であってもよい。変異遺伝子としては、例えば、遺伝子を構成するDNAの塩基配列のうちの一部の塩基を欠損させたものであってもよく、置換させたものであってもよい。また、該塩基配列の途中に部分塩基配列を挿入したものであってもよい。
【0029】
また、標的遺伝子は、構造遺伝子であってもよく、調節領域であってもよい。例えば、プロモーターやターミネーター等の転写や翻訳の制御領域を含む構造遺伝子であってもよい。なお、制御領域の遺伝子は、遺伝子が導入されるTaraxacum属植物中で機能し得るものであればよく、遺伝子が導入されるTaraxacum属植物と同種の生物由来の遺伝子であってもよく、異種の生物由来の遺伝子であってもよいことは言うまでもない。このような異種プロモーターとしては、例えば、CaMV35 promoter、NOS promoter等の遺伝子組み換えに係る分野において汎用されているプロモーターを使用することができる。
【0030】
Taraxacum属植物に導入される標的遺伝子は、遺伝子の全長であってもよく、フラグメントであってもよい。例えば、構造遺伝子の機能ドメインのみからなるフラグメントを導入するものであってもよい。
【0031】
Taraxacum属植物に導入する標的遺伝子としては、例えば、ラテックスの生合成機構やポリイソプレン鎖延長反応に関与し、ラテックスの産生量や分子量に対して機能する遺伝子、並びに、ラテックス中に含まれる、タンパク質、イノシトール、ケブラキトールなどの糖類、ビタミンEの一種であり天然の老化防止剤としても効果のあるトコトリエノールの生合成に関与し、その生産量に対して影響を与える遺伝子、さらには、これらのタンパク質、糖類、トコトリエノールの変異体を生ずる遺伝子等であることが好ましい。また、これらの遺伝子に組織特異的に機能するプロモーター等の調節領域を含ませることにより、標的遺伝子がコードしているタンパク質を、植物体の特定の組織において発現させることもできる。
【0032】
標的遺伝子等には、標的遺伝子又はそのフラグメントに加え、マーカー遺伝子としてハイグロマイシン耐性遺伝子が含まれ、標的遺伝子又はそのフラグメントは、ハイグロマイシン耐性遺伝子と共にベクターに組み込まれる。そして更には、場合により、レポーター遺伝子も共にベクターに組み込まれていてもよい。
マーカー遺伝子であるハイグロマイシン耐性遺伝子は、後述する選択培養培地に含まれるハイグロマイシンに対する抵抗性を付与する選択マーカーをコードする遺伝子であり、これにより、形質転換された組織片であれば、ハイグロマイシンを含有する選択培養培地中でも生育することができ、結果、形質転換された組織片を選択的に生育させることが可能となる。
【0033】
上記レポーター遺伝子は、これを組み込むことにより形質転換植物体中での発現位置を確認することが可能となるものであり、ルシフェラーゼ遺伝子、GUS(βグルクロニダーゼ)遺伝子、GFP(緑色蛍光タンパク質)、RFP(赤色蛍光タンパク質)等が挙げられる。
【0034】
アグロバクテリウム・ツメファシエンス調製工程では、上述の説明等の通りに作製した標的遺伝子等を含むプラスミドを含有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスを、常法により培養(例えば、培養温度20~35℃で、YEB培地又はLB培地で10~30時間振とう培養)し、増殖させることにより、カルスに感染させるために必要な量を調製することができる。
【0035】
次に、標的遺伝子等を含むプラスミドを含有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスを感染させるTaraxacum属植物由来の組織片について説明する。該組織片としては、特に限定されず、例えば、葉、葉柄、葉片、茎、節、根、芽、腋芽、頂芽、花弁、子葉、胚軸、葯、種子などが挙げられ、これらを用いることができるが、必要に応じて、当該組織片を培養して得られる培養組織片を用いてもよい。そして更には、当該培養組織片を大量に増殖させて数を増やしてから用いることも可能であるし、また、当該培養組織片を更に伸長させた後に用いてもよい。
【0036】
(感染工程)
感染工程では、Taraxacum属植物由来の組織片に、標的遺伝子又はそのフラグメント、及び、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドを含有するアグロバクテリウム・ツメファシエンス(アグロバクテリウム・ツメファシエンス調製工程により得られたアグロバクテリウム・ツメファシエンス)を感染させる。
【0037】
感染工程は、アグロバクテリウム法において一般的に行われている手法で行うことができる。例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを感染培地中に懸濁させ、該懸濁液中に、組織片を浸漬させることにより、感染させることができる。そして、浸漬後、懸濁液と、組織片をろ紙等で分離すればよい。なお、浸漬中は、静置してもよく、振とうしてもよいが、組織片にアグロバクテリウム・ツメファシエンスを感染させやすいことから、振とうすることが好ましい。
【0038】
感染に用いられるアグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液の菌濃度は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスの増殖活性、浸漬時間等を考慮して適宜決定することができる。例えば、組織片100個に対し、600nmで測定した吸光度(O.D.600)が0.01~1.0(好ましくは0.05~0.8、より好ましくは0.08~0.6)のアグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁溶液10~50mL(好ましくは20~40mL、より好ましくは25~35mL)に相当する菌体数のアグロバクテリウム・ツメファシエンスを接触させることが好ましい。これにより、組織片へ感染するアグロバクテリウム数を最適化でき、形質転換体を効率的に作製できる。
【0039】
感染工程におけるアグロバクテリウム・ツメファシエンスと組織片の共存時間、すなわち、アグロバクテリウム・ツメファシエンスと組織片を接触させる時間は、0.5~60分が好ましく、1~40分がより好ましく、5~35分が更に好ましい。これにより、組織片へ感染するアグロバクテリウム数を最適化でき、形質転換体を効率的に作製できる。なお、該共存時間は、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液中に、組織片を浸漬させる場合、浸漬時間を意味する。
【0040】
アグロバクテリウム・ツメファシエンスを懸濁させる感染培地としては、Whiteの培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、Hellerの培地(Heller R, Bot.Biol.Veg.Paris 14 1-223(1953))、SH培地(SchenkとHildebrandtの培地)、MS培地(MurashigeとSkoogの培地)(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、LS培地(LinsmaierとSkoogの培地)(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、Gamborg培地、B5培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、MB培地、WP培地(Woody Plant:木本類用)等の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地に必要に応じて植物生長ホルモン、炭素源を加えたものを使用すればよい。なかでも、MS培地、LS培地、B5培地、WP培地が好ましく、MS培地がより好ましい。植物生長ホルモンとしては、例えば、オーキシン系植物ホルモン及び/又はサイトカイニン系植物ホルモンが挙げられ、オーキシン系植物ホルモンとしては、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸、インドール-3-酪酸、インドール-3-酢酸、インドールプロピオン酸、クロロフェノキシ酢酸、ナフトキシ酢酸、フェニル酢酸、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸、パラクロロフェノキシ酢酸、2-メチル-4-クロロフェノキシ酢酸、4-フルオロフェノキシ酢酸、2-メトキシ-3,6-ジクロロ安息香酸、2-フェニル酸、ピクロラム、ピコリン酸等が挙げられ、また、サイトカイニン系植物ホルモンとしては、ベンジルアデニン、カイネチン、ゼアチン、ベンジルアミノプリン、イソペンチニルアミノプリン、チジアズロン、イソペンテニルアデニン、ゼアチンリポシド、ジヒドロゼアチン等が挙げられる。また、炭素源としては、特に限定されず、スクロース(ショ糖)、グルコース、トレハロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、マンノース、イドース、アラビノース、アピオース、マルトース等の糖類が挙げられる。
【0041】
好適な感染培地の組成は、植物種により異なるが、通常は(特に、ロシアタンポポの場合は)以下の組成である。
【0042】
感染培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。なお、本明細書において、炭素源の濃度とは、糖類の濃度を意味する。
【0043】
感染培地にオーキシン系植物ホルモン及びサイトカイニン系植物ホルモンを実質的に加えないことが好ましく、感染培地中のオーキシン系植物ホルモン、サイトカイニン系植物ホルモンの濃度としてはそれぞれ、具体的には、好ましくは1.0mg/L以下、より好ましくは0.1mg/L以下、更に好ましくは0.05mg/L以下、特に好ましくは0.01mg/L以下である。
【0044】
組織片がアグロバクテリウム・ツメファシエンスに感染しやすくなるという理由から、感染培地は更にアセトシリンゴンを含むアセトシリンゴン含有培地であることも好ましい形態の1つである。感染培地にアセトシリンゴンを加える場合の、感染培地中のアセトシリンゴン濃度としては、好ましくは1~500μM、より好ましくは10~400μM、更に好ましくは50~250μMである。
【0045】
感染培地のpHは、特に限定されないが、4.0~10.0が好ましく、5.0~6.0がより好ましい。感染させる温度(感染培地の温度)は、0~40℃が好ましく、20~36℃がより好ましく、22~30℃が更に好ましく、22~26℃が最も好ましい。感染工程は、暗所で行っても明所で行ってもよい。なお、本明細書において、暗所とは、照度が0~0.1lxであることを意味し、明所とは、照度が0.1lxを超えていることを意味する。
【0046】
上述の条件のなかでも、植物生長ホルモンを実質的に含まず、pHが5.0~6.0、培養温度が22~30℃であることが特に好ましい。
【0047】
以上のように、感染工程では、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス調製工程により得られたアグロバクテリウム・ツメファシエンスを液体の感染培地中に懸濁させ、該懸濁液中に、組織片を浸漬させることにより、組織片にアグロバクテリウム・ツメファシエンスを感染させることができる。そして、浸漬後、懸濁液と、組織片をろ紙等で分離し、分離した組織片は、次の共存培養工程に供されることが好ましい。
【0048】
(共存培養工程)
共存培養工程では、例えば、感染工程により得られた組織片(アグロバクテリウム・ツメファシエンスが感染した組織片)を共存培養培地中で培養する。これにより、感染により組織片に導入された標的遺伝子等の遺伝子断片が、植物細胞の遺伝子中に組み込まれ、より安定した形質転換体を得ることができる。
【0049】
なお、共存培養培地は、液体であっても固体であってもよいが、培地上に置床して培養することで、安定した形質転換体を得ることができるため、固体培養が好ましい。また、共存培養培地が液体培地である場合には、静置培養を行ってもよいし、振とう培養を行ってもよい。なお、共存培養培地を固体培地とする場合、固形化剤を使用して培地を固体にすればよい。固形化剤としては、特に限定されず、寒天、ゲランガム、アガロース、ゲルライト、ゼラチン、シリカゲル等が挙げられる。
【0050】
共存培養培地としては、上述の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地に必要に応じて植物生長ホルモン、炭素源を加えたものを使用すればよい。なかでも、MS培地、LS培地、B5培地、WP培地が好ましく、MS培地又はその組成に変更を加えたMS改変培地がより好ましい。植物生長ホルモン、炭素源としては、上記感染培地と同様のものが好適に用いられる。
【0051】
好適な共存培養培地の組成は、植物種により異なるが、通常は(特に、ロシアタンポポの場合は)以下の組成である。
【0052】
共存培養培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。
【0053】
共存培養培地にオーキシン系植物ホルモンを加える場合の、共存培養培地中のオーキシン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.05mg/L以上、更に好ましくは0.1mg/L以上である。該オーキシン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは5.0mg/L以下、より好ましくは1.0mg/L以下である。
【0054】
共存培養培地にサイトカイニン系植物ホルモンを加える場合の、共存培養培地中のサイトカイニン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.1mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上である。特に好ましくは0.8mg/L以上である。該サイトカイニン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは7.0mg/L以下、より好ましくは6.0mg/L以下である。
【0055】
安定した形質転換体がより得やすくなるという理由から、共存培養培地は更にアセトシリンゴンを含むアセトシリンゴン含有培地であってもよい。共存培養培地中のアセトシリンゴン濃度としては、好ましくは1~500μM、より好ましくは10~400μM、更に好ましくは50~250μMである。
【0056】
固体培地の場合、共存培養培地中の固形化剤の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。該固形化剤の濃度は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。
【0057】
共存培養培地のpHは、特に限定されないが、4.0~10.0が好ましく、5.0~6.0がより好ましい。なお、本明細書において、固体培地のpHは、固形化剤を除く全成分を添加した培地のpHを意味する。
【0058】
培養温度は、0~40℃が好ましく、10~36℃がより好ましく、20~28℃が更に好ましく、22~25℃が最も好ましい。培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、暗所で培養を行うことが好ましく、暗所の照度は、0~0.1lxが好ましい。培養時間は、特に限定されないが、2~4日間培養することが好ましい。
【0059】
上述の条件のなかでも、植物生長ホルモンがオーキシン系植物ホルモン(特に、1-ナフタレン酢酸)、及び、サイトカイニン系植物ホルモン(特に、ベンジルアデニン)で、その濃度がそれぞれ、0.1~1.0mg/L、0.8~6.0mg/Lであり、培養温度が20~28℃であることが特に好ましい。
【0060】
以上のように、共存培養工程では、感染工程により得られた組織片(アグロバクテリウム・ツメファシエンスが感染した組織片)を上記共存培養培地中で培養することにより、感染により組織片に導入された標的遺伝子等の遺伝子断片が、植物細胞の遺伝子中に組み込まれ、より安定した形質転換体を得ることができる。この共存培養工程により得られた組織片(形質転換された組織片と、形質転換されていない組織片の混合物)は、次の選択培養工程に供されることが好ましい。
【0061】
(選択培養工程)
選択培養工程では、感染工程で得られた組織片(感染工程の後、共存培養工程を行う場合には、共存培養工程で得られた組織片)のうち、標的遺伝子を獲得した組織片をハイグロマイシンにより選択する。すなわち、感染工程で得られた組織片を、ハイグロマイシンを含有する選択培養培地で培養して、標的遺伝子を獲得した組織片を選択する。
【0062】
選択培養工程は、アグロバクテリウム法において一般的に行われている手法で行うことができる。この工程により、形質転換された組織片と、形質転換されていない組織片を選別できる。
【0063】
上記選択培養工程は、感染工程で得られた組織片を、ハイグロマイシンを0.1~2mg/Lの濃度で含有する選択培養培地で培養して、標的遺伝子を獲得した組織片を選択する工程であることが好ましい。選択培養培地中のハイグロマイシン濃度をこのような範囲とすることにより、より効率よく形質転換体を選抜することが可能となる。
【0064】
選択培養工程では、まず、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを滅菌するために、上述の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地にカルベニシリンやオーグメンチン等の抗生物質(除菌剤)を加えたものを使用して、感染工程により得られた組織片(感染工程の後、共存培養工程を行う場合には、共存培養工程により得られた組織片)(形質転換された組織片と、形質転換されていない組織片の混合物)の洗浄を行うことが好ましい。なお、滅菌の前に、上述の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地により予め感染工程により得られた組織片(感染工程の後、共存培養工程を行う場合には、共存培養工程により得られた組織片)(形質転換された組織片と、形質転換されていない組織片の混合物)を洗浄しておいてもよい。
【0065】
次に、抗生物質により滅菌された組織片は、選択培養培地中で培養される。選択培養工程の培養条件は、形質転換された組織片(標的遺伝子を獲得した組織片)が選択的に生育できる条件であれば、特に限定されない。
【0066】
なお、選択培養培地は、液体であっても固体であってもよい。また、選択培養培地が液体培地である場合には、静置培養を行ってもよく、振とう培養を行ってもよい。
【0067】
選択培養培地としては、上述の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地に、ハイグロマイシンを加えたものを使用すればよい。なかでも、MS培地、LS培地、B5培地、WP培地にハイグロマイシンを加えたものが好ましく、MS培地にハイグロマイシンを加えたものがより好ましい。なお、必要に応じて、オーグメンチン等の抗生物質を加えてもよい。また、必要に応じて、植物生長ホルモン、炭素源を加えてもよい。植物生長ホルモン、炭素源としては、上記感染培地と同様のものが好適に使用できる。
【0068】
上述のとおり選択培養培地にハイグロマイシンを加えることで、組織片(抗生物質により滅菌された組織片(形質転換された組織片と、形質転換されていない組織片の混合物))を培養することにより、形質転換された組織片は、標的遺伝子と共にハイグロマイシンに対する耐性遺伝子(ハイグロマイシン耐性遺伝子)も導入されているため当該培地中で生育することができるが、形質転換されていない組織片は、当該培地中で生育することがない。このように、ハイグロマイシンを加えた培地で、形質転換された組織片と、形質転換されていない組織片の混合物を培養することにより、形質転換された組織片を選択的に生育させることができる。
【0069】
選択培養培地中のハイグロマイシンの濃度は、0.1~2mg/Lであることが好ましいが、0.3mg/L以上がより好ましく、0.5mg/L以上が更に好ましい。また、1.5mg/L以下がより好ましく、1.0mg/L以下が更に好ましい。
【0070】
好適な選択培養培地の組成は、植物種により異なるが、通常は(特に、ロシアタンポポの場合は)以下の組成である。
【0071】
選択培養培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは4質量%以下である。
【0072】
選択培養培地にオーキシン系植物ホルモンを加える場合の、選択培養培地中のオーキシン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.05mg/L以上、更に好ましくは0.1mg/L以上である。該オーキシン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは5.0mg/L以下、より好ましくは1.0mg/L以下である。
【0073】
選択培養培地にサイトカイニン系植物ホルモンを加える場合の、選択培養培地中のサイトカイニン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.1mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上である。該サイトカイニン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは7.0mg/L以下、より好ましくは6.0mg/L以下である。
【0074】
選択培養培地が固体培地の場合、上記共存培養培地の場合と同様に、固形化剤を使用して培地を固体にすればよい。
【0075】
固体培地の場合、選択培養培地中の固形化剤の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。該固形化剤の濃度は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。
【0076】
選択培養培地のpHは、特に限定されないが、5.0~7.0が好ましく、5.6~6.5がより好ましい。
【0077】
選択培養培地中での培養は、通常、温度、照明時間等の培養条件の管理された制御環境下で行われる。培養条件は適宜設定することができるが、例えば、培養温度は、0~40℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~35℃が更に好ましい。培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、1000~50000lxの照明の下、10~16時間の明時間という条件などが好適に挙げられる。培養時間は、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、1~20週間培養することが好ましく、2~18週間がより好ましく、4~15週間が更に好ましい。そして、1~4週間おきに継代培養することが好ましい。
【0078】
上述の条件のなかでも、植物生長ホルモンがオーキシン系植物ホルモン(特に、1-ナフタレン酢酸)、及び、サイトカイニン系植物ホルモン(特に、ベンジルアデニン)で、その濃度がそれぞれ、0.1~1.0mg/L、0.5~6.0mg/Lであり、ハイグロマイシンを0.1~2mg/Lの濃度で含み、培養温度が25~35℃であることが特に好ましい。
【0079】
以上のように、選択培養工程では、感染工程により得られた組織片(感染工程の後、共存培養工程を行う場合には、共存培養工程により得られた組織片)(形質転換された組織片と、形質転換されていない組織片の混合物)を、必要に応じて、抗生物質を使って洗浄し、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを滅菌する。次に、組織片を選択培養培地中で培養することにより、形質転換された組織片を選択的に生育させることができ、形質転換された組織片と、形質転換されていない組織片を選別することができる。この選択培養工程により選別された組織片(形質転換された組織片)は、次のカルス誘導工程に供される。
【0080】
(カルス誘導工程)
カルス誘導工程では、選択培養工程で得られた組織片を、サイトカイニン系植物ホルモン、オーキシン系植物ホルモン、及び、炭素源を含むカルス誘導培地で培養して、カルスを形成させる(カルスを誘導する)。なお、カルス誘導培地は、液体であっても固体であってもよいが、培地上に置床して培養することで、カルス化しやすいため、固体培養が好ましい。また、カルス誘導培地が液体培地である場合には、静置培養を行ってもよく、振とう培養を行ってもよい。
【0081】
カルス誘導培地としては、上述の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地にサイトカイニン系植物生長ホルモン、オーキシン系植物ホルモン、及び、炭素源を加えたものを使用すればよい。なかでも、MS培地、LS培地、B5培地、WP培地が好ましく、MS培地又はその組成に変更を加えたMS改変培地がより好ましい。サイトカイニン系植物生長ホルモン、オーキシン系植物ホルモン、炭素源としては、上記感染培地と同様のものが好適に用いられる。
【0082】
カルス誘導培地は、ジャスモン酸、及びモノテルペン化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。
モノテルペン化合物としては、D-リモネン、α-ピネン、β-ピネン、l-メントール、ゲラニオール、カラン、ピナン、ミルセン、オシメン、コスメン等が挙げられる。なかでも、D-リモネン、α-ピネンが好ましい。
【0083】
好適なカルス誘導培地の組成は、植物種により異なるが、通常は(特に、ロシアタンポポの場合は)以下の組成である。
【0084】
カルス誘導培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは4質量%以下である。
【0085】
カルス誘導培地中のオーキシン系植物ホルモンの濃度は、1.2mg/L未満であることが好ましい。より好ましくは1.0mg/L以下である。該オーキシン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.05mg/L以上、更に好ましくは0.1mg/L以上である。
【0086】
カルス誘導培地中のサイトカイニン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.1mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上である。該サイトカイニン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは1.2mg/L以下、より好ましくは1.0mg/L以下である。
【0087】
カルス誘導培地が固体培地の場合、上記共存培養培地の場合と同様に、固形化剤を使用して培地を固体にすればよい。
【0088】
固体培地の場合、カルス誘導培地中の固形化剤の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。該固形化剤の濃度は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。
【0089】
カルス誘導培地のpHは、特に限定されないが、4.0~10.0が好ましく、5.6~6.5がより好ましい。
【0090】
培養温度は、0~40℃が好ましく、20~26℃がより好ましい。培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、1000~50000lxの照明の下、10~16時間の明時間という条件などが好適に挙げられる。培養時間は、1~7週間(好ましくは1~6週間、より好ましくは1~5週間)である。
【0091】
上述の条件のなかでも、オーキシン系植物ホルモン(特に、1-ナフタレン酢酸)の濃度が1.2mg/L未満、サイトカイニン系植物ホルモン(特に、ベンジルアデニン)の濃度が0.5~1.2mg/Lであり、培養温度が20~26℃であることが特に好ましい。
【0092】
以上のように、選択培養工程で得られた組織片を上記カルス誘導培地中で培養することにより、カルスの誘導を行うことが可能である。このカルス誘導工程で得られたカルスは、次の再生誘導工程に供されるが、より多量の植物を増殖できるという理由から、誘導したカルスを先ず増殖させ、増殖させたカルスを再生誘導工程に供することもできる。カルスの増殖は、カルスが増殖可能な条件でカルスを培養すればよく、例えば、カルス誘導工程と同様の培地組成、培養条件でカルスの培養を行うことにより、カルスの増殖が可能である。
【0093】
(再生誘導工程)
再生誘導工程では、カルス誘導工程で得られたカルスを、植物生長ホルモン及び炭素源を含む再生誘導培地中で培養することにより不定胚、不定芽及びシュートを形成させる。カルスから不定胚を誘導(形成)し、不定胚を培養することにより、不定芽を経て安定的にシュートの形成を行うことができるため、再生誘導工程の培養条件は、カルスから不定胚を誘導できる条件であれば、特に限定されない。
【0094】
再生誘導工程では、例えば、カルス誘導工程により誘導されたカルスを再生誘導培地中で培養して不定胚を誘導する。なお、再生誘導培地は、液体であっても固体であってもよいが、培地上に置床して培養することで、不定胚を誘導しやすいため、固体培養が好ましい。また、再生誘導培地が液体培地である場合には、静置培養を行ってもよく、振とう培養を行ってもよい。
【0095】
再生誘導培地としては、上述の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地に植物生長ホルモン及び炭素源を加えたものを使用すればよい。なかでも、MS培地、LS培地、B5培地、WP培地が好ましく、MS培地又はその組成に変更を加えたMS改変培地がより好ましい。植物生長ホルモン、炭素源としては、上記感染培地と同様のものが好適に使用できる。また、不定胚の誘導に適しているという理由から、植物生長ホルモンとして、オーキシン系植物ホルモン及びサイトカイニン系植物ホルモンを含むことが好ましく、1-ナフタレン酢酸及びベンジルアデニンを含むことがより好ましい。
【0096】
好適な再生誘導培地の組成は、植物種により異なるが、通常は(特に、ロシアタンポポの場合は)以下の組成である。
【0097】
再生誘導培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは4質量%以下である。
【0098】
再生誘導培地中のオーキシン系植物ホルモンの濃度は、0.2mg/L未満であることが好ましい。より好ましくは0.1mg/L以下である。該オーキシン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.05mg/L以上、更に好ましくは0.07mg/L以上である。
【0099】
再生誘導培地中のサイトカイニン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは0.4mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上である。該サイトカイニン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは1.2mg/L以下、より好ましくは1.1mg/L以下、更に好ましくは1.0mg/L以下である。
【0100】
再生誘導培地が固体培地の場合、上記共存培養培地の場合と同様に、固形化剤を使用して培地を固体にすればよい。
【0101】
固体培地の場合、再生誘導培地中の固形化剤の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。該固形化剤の濃度は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。
【0102】
再生誘導培地には、組織の成長阻害物質蓄積の防止のため、FeNaEDTAを培地中に添加してもよい。また、不定胚形成促進のために、ジベレリンを添加してもよい。その他、カルベニシリンやオーグメンチン等の抗生物質(除菌剤)や、ハイグロマイシンを添加してもよい。
【0103】
再生誘導培地のpHは、特に限定されないが、4.0~10.0が好ましく、5.6~6.5がより好ましい。
【0104】
培養温度は、0~40℃が好ましく、20~36℃がより好ましく、23~32℃が更に好ましい。培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、1000~50000lxの照明の下、10~16時間の明時間という条件などが好適に挙げられる。培養時間は、特に限定されないが、1~10週間培養することが好ましく、4~10週間培養することがより好ましい。
【0105】
上述の条件のなかでも、オーキシン系植物ホルモン(特に、1-ナフタレン酢酸)の濃度が0.2mg/L未満、サイトカイニン系植物ホルモン(特に、ベンジルアデニン)の濃度が0.4~1.1mg/Lであり、培養温度が23~32℃であることが特に好ましい。
【0106】
以上のように、再生誘導工程では、カルス誘導工程で得られたカルスを上記再生誘導培地中で培養することにより、不定胚、不定芽及びシュートを形成させることが可能である。この再生誘導工程により形成されたシュートは、次の発根工程に供されるが、形成されたシュートを更に伸長させてから、より伸長したシュートを発根工程に供してもよい。シュートの伸長は、シュートが伸長可能な条件でシュートを培養すればよく、例えば、再生誘導工程と同様の培地組成、培養条件でシュートの培養を行うことにより、シュートの伸長が可能である。
【0107】
(発根工程)
発根工程では、再生誘導工程で得られたシュートを、発根培地で培養することにより発根させる。
【0108】
発根工程では、例えば、再生誘導工程により形成されたシュートを発根培地中で培養して発根させる。なお、発根培地は、液体であっても固体であってもよいが、培地上に置床して培養することで、発根させやすいため、固体培養が好ましい。また、発根培地が液体培地である場合には、静置培養を行ってもよく、振とう培養を行ってもよい。
【0109】
発根培地としては、上述の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地に炭素源、必要に応じて植物生長ホルモンを加えたものを使用すればよい。なかでも、MS培地、LS培地、B5培地、WP培地が好ましく、MS培地又はその組成に変更を加えたMS改変培地がより好ましい。植物生長ホルモン、炭素源としては、上記感染培地と同様のものが好適に使用できるが、好適に発根できるという理由から、発根培地は植物生長ホルモンを含まない培地であることが好ましい。
【0110】
好適な発根培地の組成は、植物種により異なるが、通常は(特に、ロシアタンポポの場合は)以下の組成である。
【0111】
発根培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは4質量%以下である。
【0112】
発根培地中にオーキシン系植物ホルモン及びサイトカイニン系植物ホルモンを実質的に加えないことが好ましく、発根培地中のオーキシン系植物ホルモン、サイトカイニン系植物ホルモンの濃度としてはそれぞれ、具体的には、好ましくは1.0mg/L以下、より好ましくは0.1mg/L以下、更に好ましくは0.05mg/L以下、特に好ましくは0.01mg/L以下である。
【0113】
発根培地が固体培地の場合、上記共存培養培地の場合と同様に、固形化剤を使用して培地を固体にすればよい。
【0114】
固体培地の場合、発根培地中の固形化剤の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。該固形化剤の濃度は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。
【0115】
発根培地には、好適に発根できるという理由から、カルベニシリンやオーグメンチン等の抗生物質(除菌剤)を添加してもよい。
【0116】
発根培地のpHは、特に限定されないが、4.0~10.0が好ましく、5.6~6.5がより好ましい。
【0117】
培養温度は、0~40℃が好ましく、10~36℃がより好ましく、20~30℃が更に好ましい。培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、1000~50000lxの照明の下、10~16時間の明時間という条件などが好適に挙げられる。培養時間は、特に限定されないが、1~10週間培養することが好ましく、2~8週間培養することがより好ましい。
【0118】
上述の条件のなかでも、植物生長ホルモンを実質的に含まず、培養温度が20~30℃であることが特に好ましい。
【0119】
以上のように、発根工程では、再生誘導工程で得られたシュートを上記発根培地中で培養することにより、発根させることが可能であり、発根させたシュート(幼植物)が得られる。この幼植物は、直接土壌に移植してもよいが、バーキュライト等の人工土壌に移すなどして馴化してから土壌に移植することが好ましい。
【0120】
以上の説明のとおり、本発明は、Taraxacum属植物由来の組織片に、標的遺伝子又はそのフラグメント、及び、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドを含有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスを感染させる感染工程、該感染工程で得られた組織片のうち、上記標的遺伝子を獲得した組織片をハイグロマイシンにより選択する選択培養工程、該選択培養工程で得られた組織片を、サイトカイニン系植物ホルモン、オーキシン系植物ホルモン、及び、炭素源を含むカルス誘導培地で培養してカルスを形成させるカルス誘導工程、該カルス誘導工程で得られたカルスを、植物生長ホルモン及び炭素源を含む再生誘導培地で培養して、不定胚、不定芽及びシュートを形成させる再生誘導工程、並びに、該再生誘導工程で得られたシュートを、発根培地で培養して、発根させる発根工程を含む製造方法であるので、これにより、Taraxacum属植物の形質転換植物を短期間で効率的に製造することができる。
【0121】
なお、上記再生(製造)された形質転換植物が実際に形質転換されているかは当該植物からDNA抽出を行い、標的遺伝子等が導入されているかをPCR分析により分析する、といった方法や、更にGUS遺伝子やGFP遺伝子といったレポーター遺伝子をベクターに組み込んでおき、GUS観察やGFP観察をする、といった方法等の従来公知の方法により確認することができる。
【実施例
【0122】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0123】
以下、実施例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
ゲルライト:和光純薬工業(株)製
アセトシリンゴン:東京化成工業(株)製
NAA:1-ナフタレン酢酸
BA:ベンジルアデニン
ハイグロマイシン:和光純薬工業(株)製
オーグメンチン:グラクソ・スミスクライン社製
【0124】
(実施例1)
[播種・休眠打破・発根・栽培]
シャーレに濾紙2~3枚を重ねて敷き、脱イオン水で湿らせた。濾紙上に、ロシアタンポポ(Taraxacum kok-saghyz)の種子(United States Department of Agriculture, Animal and Plant Health Inspection Service, Plant Protection and Quarantineより入手)を互いに1.5cm以上離して置いた。シャーレのふたをしてパラフィルムでシールした。シャーレを冷蔵庫(4℃)に3日間入れておき、休眠打破した。休眠打破処理後は、種を発芽培地に置床し、16~22℃の培養機内に置いた。発芽培地は、MS培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)に、ショ糖を20g/L添加し、培地のpHを5.8に調整した後、ゲルライトを3g/L添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0125】
[アグロバクテリウム・ツメファシエンス調製工程]
標的遺伝子と共にハイグロマイシン耐性遺伝子を挿入したプラスミドをエレクトロポレーション法によって導入したアグロバクテリウム・ツメファシエンス(EHA105系統)をLB液体培地中で培養温度28℃、一晩振とう培養した。600nmで測定した吸光度(OD600)=約1.0になるまで培養し、遠心分離で集菌し、懸濁用溶液(感染培地;0.1mmol/Lのアセトシリンゴン、0.01mmol/Lのメルカプトエタノール、30g/Lのショ糖を添加し、pH5.8に調整したMS液体培地)でOD600=0.1~0.2になるように調整した。なお、吸光度は、サーモ・サイエンティフィック社製のNano Drop 2000 cにより測定した。
【0126】
[感染工程、共存培養工程]
発芽後1ヶ月栽培した植物の子葉を5mm幅に切り出し(100個)、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを懸濁させた感染培地(40mL)中に25℃で5~10分静置した(感染工程)。その後、子葉片に付着した余分なアグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液を取り除き、共存培養培地上に、向軸面を下にして、置床し、培養温度25℃、暗所(0.1lx未満の明るさ)で、2日間共存培養した(共存培養工程)。
共存培養培地は、MS培地に、ベンジルアデニン(BA)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、ショ糖をそれぞれ、1.0mg/L、0.1mg/L、30g/L添加し、培地のpHを5.8に調整した後、ゲルライトを3g/L添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0127】
[選択培養工程]
共存培養後の子葉片を回収し、ハイグロマイシンを含有する表1に記載の選択培養培地に移植し、培養温度25℃、24時間中16時間の照明下(2000lx)で4週間培養した。なお、培地交換を1週間おきに行った。
選択培養培地は、MS培地に、表1に記載の濃度でベンジルアデニン(BA)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、オーグメンチン、ハイグロマイシン、ショ糖を添加し、培地のpHを5.8に調整した後、ゲルライトを3g/L添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0128】
[カルス誘導工程]
選択培養工程で選抜された子葉片をカルス誘導培地に移植し、培養温度25℃、24時間中16時間の照明下(2000lx)で1週間培養した。その結果、子葉片からカルスが誘導されているものが確認された。
カルス誘導培地は、MS培地に、ベンジルアデニン(BA)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、ショ糖をそれぞれ、0.5mg/L、0.1mg/L、30g/L添加し、培地のpHを5.8に調整した後、ゲルライトを3g/L添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0129】
[再生誘導工程]
カルス誘導工程において子葉片から生じたカルスを再生誘導培地に移植し、培養温度25℃、24時間中16時間の照明下(2000lx)で4週間培養した。なお、培地交換を2週間おきに行った。その結果、カルスから不定胚の形成後、シュート(不定芽)が形成されているものが確認された。
再生誘導培地は、MS培地に、ベンジルアデニン(BA)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、オーグメンチン、ハイグロマイシン、ショ糖をそれぞれ、0.5mg/L、0.1mg/L、375mg/L、0.5mg/L、30g/L添加し、培地のpHを5.8に調整した後、ゲルライトを3g/L添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0130】
[発根工程]
再生誘導工程においてカルスから生じた1~2cm程度のシュート(不定芽)をカルスから切り出し、発根培地に移植し、培養温度25℃、24時間中16時間の照明下(2000lx)で3週間培養した。その結果、発根が観察され、再生植物体が得られたものがあった。得られた再生植物体の様子を写した写真を図1図1の(a)、(b))に示す。
発根培地は、MS培地に、オーグメンチン、ショ糖をそれぞれ、375mg/L、30g/L添加し、培地のpHを5.8に調整した後、ゲルライトを3g/L添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0131】
【表1】
【0132】
[再生個体における遺伝子導入の確認]
再生個体における遺伝子の導入の確認を以下の通りにして行った。実施例1の発根に至った再生植物体の葉の一部からCTAB法によりDNAを抽出し、抽出したDNAを鋳型にハイグロマイシン耐性遺伝子に特異的な下記プライマーを用いて、PCR反応を行った。PCR反応は、94℃で3分加熱した後、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分を1サイクルとして35サイクル行い、最後に72℃で10分加熱して行った。そして、PCR反応後の溶液の一部をアガロースゲル電気泳動して、遺伝子の導入を確認した。
プライマー1(Hyg-F):5′-GCTGATCCCCATGTGTATCACTGGC-3′
プライマー2(Hyg-R):5′-CTATTCCTTTGCCCTCGGACGAGTGC-3′
【0133】
実施例1におけるアガロースゲル電気泳動の試験結果を示す泳動写真を図2に示す。図2より、実施例1の発根に至った再生植物体にハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されていることが確認できた。この結果より、実施例1の発根に至った再生植物体が形質転換植物であることが確認された。
【0134】
(参考例11~16、比較参考例17)
[播種・休眠打破・発根・栽培]
シャーレに濾紙2~3枚を重ねて敷き、脱イオン水で湿らせた。濾紙上に、ロシアタンポポ(Taraxacum kok-saghyz)の種子(United States Department of Agriculture, Animal and Plant Health Inspection Service, Plant Protection and Quarantineより入手)を互いに1.5cm以上離して置いた。シャーレのふたをしてパラフィルムでシールした。シャーレを冷蔵庫(4℃)に3日間入れておき、休眠打破した。休眠打破処理後は、種を発芽培地に置床し、16~22℃の培養機内に置いた。発芽培地は、MS培地に、ショ糖を20g/L添加し、培地のpHを5.8に調整した後、ゲルライトを3g/L添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0135】
[カルス誘導工程]
発芽後1ヶ月栽培した植物の子葉を5mm幅に切り出し、カルス誘導培地上に、向軸面を下にして、置床し、培養温度25℃、24時間中16時間の照明下(2000lx)で、4週間培養した。培地は2週間ごとに新しい培地に変更した。
カルス誘導培地は、MS培地に、表2に記載の濃度でベンジルアデニン(BA)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、ショ糖を添加し、培地のpHを5.8に調整した後、ゲルライトを3g/L添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0136】
[誘導成功率]
参考例11~16、比較参考例17において、カルスが誘導された子葉片数をカウントして、誘導成功率を算出した。結果を表2に示す。
誘導成功率(%)=カルス誘導成功子葉片数(個)/試験子葉片数(個)×100
【0137】
【表2】
【0138】
(参考例21~22、比較参考例23)
[播種・休眠打破・発根・栽培]
シャーレに濾紙2~3枚を重ねて敷き、脱イオン水で湿らせた。濾紙上に、ロシアタンポポ(Taraxacum kok-saghyz)の種子(United States Department of Agriculture, Animal and Plant Health Inspection Service, Plant Protection and Quarantineより入手)を互いに1.5cm以上離して置いた。シャーレのふたをしてパラフィルムでシールした。シャーレを冷蔵庫(4℃)に3日間入れておき、休眠打破した。休眠打破処理後は、種を発芽培地に置床し、16~22℃の培養機内に置いた。発芽培地は、MS培地に、ショ糖を20g/L添加し、培地のpHを5.8に調整した後、ゲルライトを3g/L添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0139】
[カルス誘導工程]
発芽後1ヶ月栽培した植物の子葉を5mm幅に切り出し、カルス誘導培地上に、向軸面を下にして、置床し、培養温度25℃、24時間中16時間の照明下(2000lx)で、4週間培養した。培地は2週間ごとに新しい培地に変更した。
カルス誘導培地は、MS培地に、ベンジルアデニン(BA)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、ショ糖をそれぞれ、0.5mg/L、0.1mg/L、20g/L添加し、培地のpHを5.8に調整した後、ゲルライトを3g/L添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0140】
[再生誘導工程]
カルス誘導工程において子葉片から生じたカルスを再生誘導培地に移植し、培養温度25℃、24時間中16時間の照明下(2000lx)で4週間培養した。培地は2週間ごとに新しい培地に変更した。
再生誘導培地は、MS培地に、表3に記載の濃度でベンジルアデニン(BA)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、オーグメンチン、ハイグロマイシン、ショ糖を添加し、培地のpHを5.8に調整した後、ゲルライトを3g/L添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0141】
[健全シュート率]
参考例21~22、比較参考例23において、水浸しておらず、発根に適した状態である健全シュートの個数、水浸しているシュート(水浸状シュート)の個数をカウントして、健全シュート率を算出した。結果を表3に示す。
健全シュート率(%)=健全シュート数(個)/試験総シュート数(個)×100
【0142】
【表3】
【0143】
(配列表フリーテキスト)
配列番号1:プライマー1
配列番号2:プライマー2
図1
図2
【配列表】
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