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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】密閉容器の開封方法及び液体移送装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/02 20060101AFI20220810BHJP
【FI】
G01N35/02 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018085539
(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公開番号】P2019191054
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】平村 史人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 迅
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-122091(JP,A)
【文献】特表2014-517916(JP,A)
【文献】特開2000-074927(JP,A)
【文献】特表2011-515701(JP,A)
【文献】特開平09-015113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を移送する移送先端が装着されるノズルを備えるとともに、ラミネートフィルムで開口部が密閉された密閉容器が装着され、前記密閉容器に前記移送先端が挿入されて液体が移送される液体移送装置における、密閉容器の開封方法であって、
前記ノズルは前記液体移送装置に装着された前記密閉容器の前記開口部の上方に設けられ、前記ノズルの下端に前記ラミネートフィルムを押し延ばし可能な接触面と前記接触面に設けられた前記ラミネートフィルムを穿孔する突起とを備え、
前記ノズルを下降させて前記ラミネートフィルムを前記突起で穿刺して仮孔を形成する仮穿刺工程と、
前記ノズルを下降させて前記ラミネートフィルムを前記ノズルの前記接触面で押し延ばして前記ラミネートフィルムを非可逆的に変形させる変形工程と、
前記仮穿刺工程及び前記変形工程の後に前記ノズルに前記移送先端を装着する工程と、
前記非可逆的な変形を被った前記ラミネートフィルムに前記ノズルに装着された前記移送先端を穿刺する穿刺工程と、を有し、
前記穿刺工程においては、前記ラミネートフィルムにおいて前記非可逆的な変形を被った範囲である押し延ばし範囲に、前記移送先端が穿刺されている範囲である穿刺範囲の少なくとも一部が包含されていることを特徴とする、密閉容器の開封方法。
【請求項2】
前記変形工程は、前記ラミネートフィルムのうち前記仮孔が形成された位置を含む範囲を前記接触面で押し延ばす、請求項1記載の密閉容器の開封方法。
【請求項3】
前記ノズルを下降させて前記仮穿刺工程と前記変形工程を同時に行う、請求項1又は請求項2に記載の密閉容器の開封方法。
【請求項4】
前記変形工程は、前記移送先端とは別に設けられた前記ノズルによって実行されることを特徴とする、請求項1記載の密閉容器の開封方法。
【請求項5】
液体を移送する移送先端が装着されるノズルを備え、
ラミネートフィルムで開口部が密閉された密閉容器が装着され、
前記ノズルは前記密閉容器の前記開口部の上方に設けられ、前記ノズルの下端に前記ラミネートフィルムを押し延ばし可能な接触面と前記接触面に設けられた突起とを備え、
前記密閉容器に前記移送先端が挿入されて液体が移送され、
前記密閉容器前記移送先端の挿入に先立ち、前記ノズルを下降させて前記ラミネートフィルムを前記突起で穿刺して仮孔を形成する仮穿刺工程と、前記ノズルを下降させて前記ラミネートフィルムを前記ノズルの前記接触面で押し延ばして前記ラミネートフィルムを非可逆的に変形させる変形工程とを行う制御手段を備えることを特徴とする液体移送装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記ラミネートフィルムのうち前記仮孔が形成された位置を含む範囲を前記接触面で押し延ばす、請求項5記載の液体移送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミネートフィルムで密閉された密閉容器の開封方法及び液体移送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査分野などにおいては、必要な試薬類が複数種類、それぞれ別のウェルに収容されている試薬パックを、測定キットとして測定装置に装着した上で所望の測定を行う、ということが行われている。その試薬パックの各ウェルの開口部は、分注されている試薬が酸化などで変質するのを防ぐために、ラミネートフィルムで密閉されている。このラミネートフィルムは、不必要に破れたりしないよう、延伸性の高い材質が使用されていることがある。
【0003】
たとえば、下記特許文献1には、手切れ性に優れて、かつ耐熱性、ヒートシール特性のバランスを兼ね備えたポリエチレン系のフィルムが開示されている。同フィルムは、たとえば、カレー、シチュー及びおでん等のレトルト食品類、ジュース及びコーヒー等飲料類、スナック菓子類、洋和菓子類、調味料類並びに粉末又は顆粒状医薬品等の薬包紙等の軟包装材料等に好ましく使用することができる。
【0004】
また、下記特許文献2には、ポリオレフィンの力学的強度等を有しつつ、TD(traverse direction)にのみ、易裂性に優れ引裂抵抗が小さい易裂性多層インフレーションフィルムを提供するために、非晶性ポリアミド(a)を70重量%以上含有する非晶性ポリアミド層(A)と、所定密度を有するオレフィン系樹脂(b)を含むポリオレフィン層(B)とが、層(B)/層(A)/層(B)の順で積層され、層(A)の厚みが、特定範囲である易裂性多層インフレーションフィルムが開示されている。
【0005】
各ウェルにおいては、測定装置が備えるノズルにより、液体の検体が注入されて収容されている試薬との混合に供される。また、収容されている試薬が、ノズルにより吸引され別のウェルへ移送されて注入されることもある。さらには、ウェルの中で検体と混合された後の試薬が、ノズルにより吸引され別のウェルへ移送されて注入されることもある。なお、ウェルへの液体の注入又は吸引の際には、ノズルの先端にピペットチップが装着されることがある。
【0006】
このようなノズルを用いた液体の注入又は吸引の際には、ノズルの先端又はノズルに装着されたピペットチップの先端が、ウェルを密閉するラミネートフィルムを穿孔し、そのウェルの中に挿入される。たとえば、下記特許文献3には、封止シールを穿孔して開封するための尖頭部を設けた分注ノズルを備えた自動分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO 2014/181696 A1
【文献】WO 2013/121622 A1
【文献】特開2018-4270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したような試薬パックのような密閉容器において、ラミネートフィルムを、ノズル又はピペットチップのような液体の移送先端で穿孔する際、ラミネートフィルムの延伸性により、ウェル内に挿入された移送先端にラミネートフィルムの断縁が密着してしまうことがあった。ラミネートフィルムの断縁が移送先端に密着すると、ウェルの内部と外部との空気の流通が遮断された状態となり、結局ウェルが密封された状態のままとなる。この状態では、移送先端によるウェルからの溶液の吸引及びウェルへの溶液の注入が円滑に行えないばかりか、溶液の噴出による測定装置の汚染も引き起こされるおそれもある。
【0009】
これに対して、ウェル内に挿入される移送先端よりも十分に大きな孔を空ける方法もある。しかし、測定装置や試薬パックのような密閉容器を小型化するという設計上の要請から、移送先端の駆動範囲が制限されていたり、また、試薬が封入されているウェルの開口部が小さすぎて十分に大きな孔をあけることができない場合もある。
【0010】
上記の問題点に鑑み、本発明の実施態様は、挿入した移送先端に、穿孔されたラミネートフィルムの断縁が密着することなく、溶液の移送を円滑に実行可能な密閉容器の開封方法及びそれを可能とする液体移送装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示における密閉容器の開封方法は、液体を移送する移送先端を備えるとともに、ラミネートフィルムで開口部が密閉された密閉容器が装着され、前記密閉容器に前記移送先端が挿入されて液体が移送される液体移送装置における、密閉容器の開封方法であって、
前記ラミネートフィルムを押し延ばして前記ラミネートフィルムを非可逆的に変形させる変形工程と、
前記非可逆的な変形を被った前記ラミネートフィルムに前記移送先端を穿刺する穿刺工程と、を有し、
前記穿刺工程においては、前記ラミネートフィルムにおいて前記非可逆的な変形を被った範囲である押し延ばし範囲に、前記移送先端が穿刺されている範囲である穿刺範囲の少なくとも一部が包含されている。
【0012】
本開示における液体移送装置は、液体を移送する移送先端を備え、
ラミネートフィルムで開口部が密閉された密閉容器が装着され、
前記密閉容器に前記移送先端が挿入されて液体が移送され、
前記密閉容器の開封に先立ち、前記ラミネートフィルムを押圧して押し延ばす押圧手段を備える。
【発明の効果】
【0013】
本実施態様の密閉容器の開封方法によれば、十分な大きさの開口部を設けることのできない密閉容器であったとしても、密閉容器に挿入した移送先端に、穿孔されたラミネートフィルムの断縁が密着することなく、溶液の移送を円滑に実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の各態様における液体移送装置及び密閉容器を模式的に示す。
図2】本発明の各態様における液体移送装置のブロック図である。
図3】本発明の別の態様における液体移送装置のブロック図である。
図4】本発明の各態様における密閉容器を模式的に示す。
図5】第1の態様における変形工程前の密閉容器を模式的に示す。
図6】第1の態様における変形工程中の密閉容器を模式的に示す。
図7】第1の態様における変形工程後の密閉容器を模式的に示す。
図8】第1の態様における穿刺工程中の密閉容器を模式的に示す。
図9】第1の態様において押し延ばし範囲と穿刺範囲との位置関係を模式的に示す。
図10】第1の態様において押し延ばし範囲と穿刺範囲との別の位置関係を模式的に示す。
図11】第2の態様における変形工程中の密閉容器を模式的に示す。
図12】第2の態様における変形工程の別の例を模式的に示す。
図13】第2の態様における変形工程の別の例を模式的に示す。
図14】第2の態様における変形工程の別の例を模式的に示す。
図15】第2の態様における変形工程の別の例を模式的に示す。
図16】第3の態様における押圧部材の例を模式的に示す。
図17】第3の態様における押圧部材の例を模式的に示す。
図18】第3の態様における押圧部材の例を模式的に示す。
図19】第3の態様における押圧部材の例を模式的に示す。
図20】第4の態様における変形工程後の仮穿刺工程を模式的に示す。
図21】第4の態様における変形工程後の仮穿刺工程を模式的に示す。
図22】第4の態様における変形工程前の仮穿刺工程を模式的に示す。
図23】第4の態様においてあらかじめ仮孔が設けられている例を模式的に示す。
図24】第4の態様における変形工程と同時の仮穿刺工程を模式的に示す。
図25図24のノズルの正面図である。
図26図24のノズルの斜視図である。
図27】ノズルに装着されるピペットチップの正面図である。
図28】実施例及び比較例における変形工程の有無の効果をグラフにて示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各態様を、適宜図面を参照しつつ説明する。
【0016】
以下に示す各態様においては、図1に模式的に示す密閉容器50と、この密閉容器50が内部に装着される液体移送装置10とにより、所定の測定が行われる。
【0017】
この液体移送装置10は、図2のブロック図に示すように、液体移送装置10における測定に係る制御全般を司る制御手段15を備える。この制御手段15とは、たとえば、液体移送装置10に内蔵されるマイクロコンピュータのCPUが、所定の制御プログラムを実行することで実現される。この制御手段15が、後述する移送先端20及び押圧部材30の動作も制御する。ここで、液体移送装置10に、これら移送先端20及び押圧部材とは別に後述する仮穿刺部材40も設けられる場合には、図3のブロック図に示すように、制御手段15はこの仮穿刺部材40の動作も制御する。なお、本発明の各態様で言及する液体移送装置10には実際にはこの他にも様々な機構(たとえば、発光機構、受光機構、電圧印加機構、温度制御機構、表示機構、扉開閉機構等)を備えており、制御手段15はこれらの機構も制御するが、図2及び図3ではその図示を省略し、以下ではそれら機構についての言及は割愛する。
【0018】
密閉容器50は、試薬パックとして形成されており、図4の斜視図に示すように、液体移送装置10の内部において水平にセットされる天板51Aと、この天板51Aの左右両端から下方へ延設される側板51Bとから成る枠体51を備える。これら天板51A及び側板51Bにより、枠体51は、正面視及び背面視で逆U字型を呈する。
【0019】
天板51Aには、上方に開口したウェル52が複数設けられている。各ウェル52のうちには、その中に測定用の試薬を収容するものや、その中に測定に供される検体が注入されるものや、その中で検体と試薬とが混合されるものがある。また、各ウェル52のうち、所定の測定が行われるのが、測定ウェル52Aである。各ウェル52の間では、液体移送装置10が備える、後述する移送先端20を用いて試薬や検体としての液体の分注や移動などが行われる。また、各ウェル52の開口部はラミネートフィルム60にて密閉されている。
【0020】
(1)第1の態様
本開示における密閉容器の開封方法の第1の態様は、前述のように、液体を移送する移送先端を備えるとともに、ラミネートフィルムで開口部が密閉された密閉容器が装着され、前記密閉容器に前記移送先端が挿入されて液体が移送される液体移送装置における、密閉容器の開封方法であって、前記ラミネートフィルムを押し延ばして前記ラミネートフィルムを非可逆的に変形させる変形工程と、前記非可逆的な変形を被った前記ラミネートフィルムに前記移送先端を穿刺する穿刺工程と、を有し、前記穿刺工程においては、前記ラミネートフィルムにおいて前記非可逆的な変形を被った範囲である押し延ばし範囲に、前記移送先端が穿刺されている範囲である穿刺範囲の少なくとも一部が包含されている。
【0021】
換言すると、前記液体移送装置は、液体を移送する移送先端を備え、ラミネートフィルムで開口部が密閉された密閉容器が装着され、前記密閉容器に前記移送先端が挿入されて液体が移送され、前記密閉容器の開封に先立ち、前記ラミネートフィルムを押圧して押し延ばす押圧手段を備える。
【0022】
本態様における密閉容器とは、その開口部がラミネートフィルムで密閉されている容器である。この密閉容器には、内部に試薬を含まれていたり、又は内部が空洞であって開封後にその中に試薬を含ませたりすることを目的に製造された、いわゆる試薬パックが含まれる。
【0023】
本態様における液体の移送とは、液体を密閉容器へ注入すること、及び、密閉容器から液体を吸引することの両方を含む概念である。なお、ここでいう液体とは、液体の性状を有する試薬、粉末又は固形状の試薬が溶解した溶液、液体の性状を呈する検体、及びこれらの混合物のいずれをも指す。
【0024】
また、本態様における移送先端とは、たとえば、密閉容器に対し液体を移送するノズルをいい、また、このノズルの先端に装着されたピペットチップのような別部材が実際には密閉容器に挿入される場合にはそのような別部材をいう。
【0025】
本態様では、ラミネートフィルムに移送先端を挿入する穿刺工程の前に、変形工程において、ラミネートフィルムに移送先端が接触する部分を含んだ領域を押し延ばす。これにより、ラミネートフィルムは移送先端を挿入する前に、予め、非可逆的に延ばされた状態になる。そのため、押し延ばされる前のラミネートフィルムと比較して、押し伸ばされたラミネートフィルムは延伸性が低減した状態となる。そして、延伸性が低減した状態のラミネートフィルムに移送先端を挿入するため、ラミネートフィルムの断縁が移送先端の形状に追従しなくなり、ラミネートフィルムの断縁が移送先端に密着することを回避することができる。
【0026】
また、延伸性が低減した状態のラミネートフィルムに移送先端を挿入してさらに応力を加えることから、移送先端を挿入する部分から延伸性が低減した部分にかけて破断が生じ、ラミネートフィルムの断縁と移送先端との間に隙間が生じ、ラミネートフィルムの断縁が挿入された移送先端に密着することを回避することができる。その結果、移送先端による溶液の移送を円滑に行うことができる。
【0027】
ここで、穿刺工程においてラミネートフィルムに非可逆的な変形をもたらす押し延ばし範囲については、移送先端をラミネートフィルムに穿刺するときに、移送先端がラミネートフィルムと接触する範囲である穿刺範囲を包含することが望ましい。ただし、押し延ばし範囲は、穿刺範囲の全部ではなくとも、その一部が穿刺範囲に包含されていればよい。すなわち、穿刺範囲は押し延ばし範囲からはみ出ていても構わないが、少なくともその一部は押し延ばし範囲と重複している必要がある。また、穿刺範囲と押し延ばし範囲とは完全一致せず、穿刺範囲ではない押し延ばし範囲が必ず存在する。
【0028】
ここで、押し延ばし範囲は、押し延ばしに用いる部材(たとえば、ノズル)が実際にラミネートフィルムに接触している部分には限られず、実際に接触している部分が押し延ばされることに付随して押し延ばされる周辺部分も含まれる。このような押し延ばし範囲においては、ラミネートフィルムが非可逆的な変形を被った結果、元の状態には戻らない。
【0029】
本態様を模式的に示した図5図10を参照しつつ、本態様を説明する。
【0030】
図5は、試薬としての液体55が封入された密閉容器50のウェル52を模式的に断面図として示すものである。密閉容器50のウェル52は、前述のようにラミネートフィルム60にて密閉されている。
【0031】
図5に示す状態から、前記制御手段15(図2参照)により、図6に示すように、液体移送装置10が備える押圧手段としての押圧部材30が、ラミネートフィルム60を押圧して押し延ばす変形工程を実施するように制御される。このとき、押圧部材30の先端である接触面33がラミネートフィルム60に接触している範囲が、接触範囲61である。
【0032】
図6に示す状態から、再び前記制御手段15により押圧部材30が上方へ退却するよう制御されて変形工程が終了すると、図7に示すように、ラミネートフィルム60は非可逆的な変形を被り下方へ陥凹した状態となる。このとき、前記接触面33が実際にラミネートフィルム60に接触していた接触範囲61の周辺部分も、非可逆的に押し延ばされ変形を被った状態となっている。このように押し延ばされた部分の全体が、押し延ばし範囲62である。
【0033】
この押し延ばし範囲62に、前記制御手段15により、図8に示すように、移送先端20としてのノズル21の先端に装着されたピペットチップ22の先端が押し延ばし範囲62を穿刺する穿刺工程を実施するように制御されると、穿刺された箇所が穿刺範囲64となり、ラミネートフィルム60のこの部分が穿孔する。このとき、ラミネートフィルム60は押し延ばし範囲62において延伸性を喪失しているため、ラミネートフィルム60の断縁65は移送先端20に密着することなく、密閉容器50の内外が穿刺範囲64により連絡する。この状態で、移送先端20による液体55の移送が円滑に実施される。
【0034】
この状態を平面視で示したのが図9である。この図9に示すように、密閉容器50の上面を覆うラミネートフィルム60に押し延ばし範囲62が形成され、穿刺範囲64はその前端が押し延ばし範囲62に包含されている。
【0035】
なお、穿刺範囲64は、図10に示すように、押し延ばし範囲62から一部が外れた位置に来るようにしてもよい。この状態では、穿刺範囲64の少なくとも一部は押し延ばし範囲62に包含されている。また、押し延ばし範囲62の大部分は、穿刺範囲64ではない領域である。
【0036】
(2)第2の態様
本開示における密閉容器の開封方法の第2の態様は、前記第1の態様の構成に加え、前記変形工程は、前記移送先端によって実行される。
【0037】
換言すると、前記移送先端の先端部分が前記押圧手段となる。
【0038】
たとえば、移送先端として、液体とは直に触れないノズルの先端にピペットチップを装着してこれが液体と接触するようなものを使用する場合、ピペットチップを装着する前のノズルでラミネートフィルムを押し延ばして変形工程を実行してもよい。そして、その後ノズルにピペットチップを装着してから、このピペットチップの先端で穿刺工程が実行される。この場合、変形工程を実行する、ピペットチップ装着前のノズルがラミネートフィルムと接触する部分の面積は、ピペットチップがラミネートフィルムと接触する部分の面積より大きい必要がある。なお、移送先端の先端部分の形状は、変形工程でラミネートフィルムに穿孔しないよう、ラミネートフィルムとの接触面が鋭利ではない形状とすることが望ましい。
【0039】
本態様においては、前記第1の態様の図6で説明した、押圧部材30の代わりに、図11に示すように、前記押圧手段としての、移送先端20を構成するノズル21の先端で同様にラミネートフィルム60が押し延ばされる。換言すると、前記図2において、移送先端20が押圧部材30の機能を兼ねることになる。すなわち、前記制御手段15により、液体移送装置10が備えるノズル21が、ラミネートフィルム60を押し延ばす変形工程を実施するように制御する。このとき、ノズル21の先端である接触面23がラミネートフィルム60に接触している範囲が、接触範囲61である。この接触面は緩やかなテーパを形成しているので、ラミネートフィルムとの接触面が鋭利ではなく、変形工程でラミネートフィルムを穿孔することはない。その他は、前記第1の態様と同様である。
【0040】
ここで、ノズルの位置を微調整できる機構が設けられていれば、前記制御手段15がその機構によりノズルがラミネートフィルムと接触する部位を移動させるよう制御することで、ノズルの面積以上に押し延ばし範囲を拡大させることもできる。たとえば、図12に示すように、ノズル21が最初にラミネートフィルム60を押し延ばして、図13のように一旦、押し延ばし範囲62を形成する。そしてこの押し延ばし範囲62に対し、図14のようにノズル21の位置を移動させて再度押し延ばすことで、図15のように押し延ばし範囲62を拡大することができる。
【0041】
(3)第3の態様
本開示における密閉容器の開封方法の第3の態様は、前記第1の態様の構成に加え、前記変形工程は、前記移送先端とは別に設けられた押圧部材によって実行される。
【0042】
換言すると、前記押圧手段として、前記移送先端とは別の押圧部材が設けられている。
【0043】
すなわち、前記変形工程を、溶液の移送には関与しない、前記押圧手段としての専用の押圧部材によって実行させることもできる。押圧部材を移送先端とは独立させることで、移送先端に対する変形工程による機械的な負担を免じることができる。押圧部材については、ラミネートフィルムに穿孔しないように、ラミネートフィルムとの接触面が鋭利ではない形状の部材が用いられる。
【0044】
図16図19に、前記押圧手段としての押圧部材30のバリエーションを示す。押圧部材30の接触面33は、図16に示すように平坦面であってもよいし、また、図17に示すように接触方向に凸な曲面であってもよい。また、前記図6に示したように、接触方向へ緩やかなテーパを形成していてもよい。さらには、ラミネートフィルムに接触する部分を、平坦面に形成しつつ、その周辺にC面(図18参照)又はR面(図17参照)による面取りを施してもよい。
【0045】
(4)第4の態様
本開示における密閉容器の開封方法の第4の態様は、前記第1から第3までの何れかの態様の特徴に加え、前記変形工程の前、後又は同時に、前記ラミネートフィルムに仮孔を穿刺する仮穿刺工程を有する。
【0046】
換言すると、前記押圧手段の先端に、前記ラミネートフィルムに仮孔を穿刺する仮穿刺部材が設けられている。
【0047】
本開示においては、変形工程でラミネートフィルムに非可逆的な変形をもたらした後に、穿刺工程において移送先端がラミネートフィルムに挿入される。この挿入の際に、ラミネートフィルムは、移送先端により穿刺されるが、この穿刺を容易にするために、穿刺工程の前に、仮穿刺工程においてラミネートフィルムに仮孔が空けられる。
【0048】
ラミネートフィルムに仮孔を空ける場合、ラミネートフィルムを押し延ばすのは、仮孔を空ける前、仮孔を空けると同時、又は、仮孔を空けた後のいずれでもよい。ただし、操作手順を簡略化する観点からは、仮孔を空けると同時にラミネートフィルムを押し延ばすことが好ましい。
【0049】
ここで、たとえば、ピペットチップが装着される前のノズルの先端に鋭利な突起構造を設け、これによってノズルによってラミネートフィルムを押し延ばすとと同時に仮孔を空けてもよい。また、ノズルとは別に、鋭利な尖端を有する部材をラミネートフィルムに挿入する機構を設け、この機構により仮穿刺工程を実行させてもよい。
【0050】
なお、密閉容器の開口部を、仮孔があらかじめ設けられたラミネートフィルムで封印することとしてもよい。このとき、仮孔の部分を、ラミネートフィルムよりは脆弱な構造の仮封印フィルムで封じておけば、密閉容器の開口部を密閉しつつ、仮孔を容易に空けることができる。
【0051】
本態様を模式的に示した図20図24を参照しつつ、本態様を説明する。
【0052】
前記図7に示したように、ラミネートフィルム60に押し延ばし範囲62が形成された状態から、前記制御手段15(図3参照)により、図20に示すように、鋭利な先端を有する仮穿刺部材40が押し延ばし範囲62を突き刺すよう制御することで、図21に示すように、押し延ばし範囲62の中に仮孔63が形成される。この状態で、前記図8に示すように移送先端20をラミネートフィルム60に穿刺することで、穿刺範囲64がより形成しやすくなっている。
【0053】
さらに、図22に示すように、変形工程を実施する前に、仮穿刺部材40でラミネートフィルム60に仮孔63を穿孔することとしてもよい。
【0054】
なお、図23に示すように、ラミネートフィルム60には、脆弱な構造の仮封印フィルム66で閉塞された仮孔63をあらかじめ形成しておけば、単に押圧部材30又はノズル21で押し延ばすだけで、仮孔63を押し延ばし範囲62と同時に形成することができる。
【0055】
また、図24に示すように、接触面23から鋭利な仮穿刺突起24が突設されたノズル21でラミネートフィルム60を押し延ばすことで、押し延ばし範囲62と同時に仮孔を形成することもできる。すなわち、接触面23は、緩やかなテーパを形成しているので、ラミネートフィルムとの接触面が鋭利ではなく、変形工程でラミネートフィルム60を穿孔することはない。一方、仮穿刺突起24は上述のように鋭利な形状でありこれによりラミネートフィルム60が穿孔される。よって、この図24に示した形状のノズル21によって、圧延範囲62を形成しつつ仮孔63を穿孔することができる
【0056】
この図24に示すノズル21のより詳細な形状は、図25の正面図及び図26の斜視図に示す通りである。すなわち、このノズル21は、円柱状の先端部25と、この先端部25より縮径した後端部26と、これら先端部25及び後端部26の間に介在する中間部27とを有している。
【0057】
先端部25の側面には周方向に2箇所の溝部25Aが形成されている。また、溝部25Aより先端寄りの位置に、正面側から背面側までを貫通する通気口25Bが穿設されている。この通気口25Bは、後端部26の後端から穿設される通気路26A(図26参照)と連絡している。また、先端部25の先端はテーパ状に縮径した接触面23となっていて、さらにその先端からは先端がテーパ状に縮径したより小径の円柱状の仮穿刺突起24が突設されている。
【0058】
中間部27は、先端部より大径の短円柱形状であって、正面側及び背面側が平面状に削ぎ落とされた形状を呈している。
【0059】
後端部26は、液体移送装置10(図1参照)が備える移動機構側に接続される部分である。なお、この移動機構によってこのノズル21は、試薬パックとしての密閉容器50が装着された液体移送装置10(図1参照)の内部で、密閉容器50の天板51A(図4参照)に沿った長手方向(左右方向)と、この左右方向に対する鉛直方向である上下方向に移動可能となっている。
【0060】
また、このノズル21には、液体55の移送の際に、図27の正面図に示す形状のピペットチップ22が装着される。すなわち、このピペットチップ22は、先端に向かって徐々に縮径する略円錐形状を呈する。最も小径の部分である最先端の先端開口22Aからは、液体の吸入及び排出が行われる。最も大形の部分である最後端の後端開口22Bからは、ノズル21の先端部25が圧入される。
【0061】
このピペットチップ22は、液体移送装置10の内部に複数本収容され、密閉容器50間の液体55の移送の際には、ノズル21の先端が圧入された状態で装着される。
【実施例
【0062】
(1)ノズル、ピペットチップ、ラミネートフィルム
実施例及び比較例では図25及び図26に示すノズル21を使用した。このノズル21の先端部25の外径は6.5mmで、仮穿刺突起24の外径は2.0mmであった。
【0063】
また、このノズル21を用いた液体55の移送の際には、図27に示すピペットチップ22が先端部25に装着された。このピペットチップ22の後端開口22Bの内径は6.0mmであった。
【0064】
また、このノズル21を用いてラミネートフィルム60の変形が行われる密閉容器50(図9参照)の短辺の幅は9.2mmであった。
【0065】
ラミネートフィルム60は、12μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)層、7μm厚のアルミニウム層及び30μm厚の無延伸ポリプロピレン(CPP)層の三層構造のものを使用した。なお、PET層で使用されたポリエチレンテレフタレートは、流れ方向(MD)の破断伸びが100%で弾性率が3,920MPaであり、垂直方向(TD)の破断伸びが90%で弾性率が4,020MPaであった。また、アルミニウム層で使用されたアルミニウムは、流れ方向(MD)及び垂直方向(TD)の破断伸びがともに1.2%であり、弾性率がともに70MPaであった。さらに、CPP層で使用された無延伸ポリプロピレンは、流れ方向(MD)の破断伸びが630%で弾性率が850MPaであり、垂直方向(TD)の破断伸びが835%で弾性率が840MPaであった。
【0066】
(2)実施例
実施例では、以下の工程1~8を順に実行した。
【0067】
工程1として、液体移送装置10に、試薬パックとしての密閉容器50をセットした。
【0068】
工程2として、ノズル21を左右方向へ移動させ、開封する密閉容器50の上方まで移動させた。
【0069】
工程3として、仮穿刺突起24の先端がラミネートフィルム60の上面から3mm下の位置に来るまでノズル21を下降させ、仮孔63を穿孔した(仮穿刺工程)。
【0070】
工程4として、ノズル21を一旦上昇させてから、再び下降させて、仮穿刺突起24を仮孔63に挿入させた状態で、仮穿刺突起24の先端がラミネートフィルム60の上面から7mm下の位置に来るまでノズルを下降させ、接触面23でラミネートフィルム60を押し延ばした(変形工程)。この変形工程により、直径約7.0mmの押し延ばし範囲62が、ラミネートフィルム60に形成された。
【0071】
工程5として、ノズル21を上昇させて、ピペットチップ22を装着してから、ピペットチップ22で別のウェルにある試薬を吸引した。
【0072】
工程6として、ノズル21を下降させて、ピペットチップ22の先端を仮孔63に挿入し、さらにラミネートフィルム60の上面から22.45mm下の位置まで下降させてラミネートフィルム60を開封した(穿刺工程)。
【0073】
工程7として、ピペットチップ22に吸入した試薬の一部を密閉容器50のウェル52内へ排出し、ピペットチップ22の先端が排出した試薬に付着しないようにノズル21を一定距離だけ、上昇させた。その後、残りの試薬を全量排出した。
【0074】
(3)比較例1
比較例1では、前記工程3及び工程4以外の工程を順に実行した。すなわち、比較例1では、仮穿刺工程及び変形工程を実行せずに、前記工程6では仮孔63が穿孔されていないラミネートフィルム60に対してピペットチップ22での穿刺工程を実行した。
【0075】
(4)比較例2
比較例2では、上記工程4以外の工程を順に実行した。すなわち、比較例2では、仮穿刺工程は実行するが変形工程は実行せずに、前記工程6で仮孔63が穿孔されているが押し延ばし範囲62は形成されていないラミネートフィルム60に対してピペットチップ22での穿刺工程を実行した。
【0076】
(5)圧力変動測定
前記工程7におけるノズル21からの圧力変動を、ノズル21と液体移送装置10内のポンプ(図示せず)を接続する配管の途中に設けた圧力センサ(ピエゾ抵抗型半導体圧力センサ、図示せず)で測定した。その結果を、図28に示す。なお、図28の横軸における「計測開始後の経過時間(秒)」とは、前記工程1で密閉容器50をセットしてからの経過時間を示している。さらに、図中「A」の時点で前記工程7の試薬の排出が開始され、図中「B」の時点でノズル21を一定距離だけ上昇させている。また、図中の縦軸は、圧力センサの出力値(V)を示す。
【0077】
まず、仮穿刺工程と変形工程とを同時に実行した実施例においては、図中「B」の時点のノズル21の上昇により、圧力が低下した。これは、ノズル21の上昇により、ピペットチップ22とラミネートフィルム60の断縁65との間に隙間ができていることを意味する。この実施例では、図中「C」の時点で試薬の全量の排出が完了しており、圧力が動作前の状態に戻っていたことが確認できる。
【0078】
一方、仮穿刺工程も変形工程も実行されなかった比較例1においては、図中「B」の時点のピペットチップ22上昇後、一時的に僅かな圧力低下が見られた。しかし、ラミネートフィルム60の形状追従性により再び断縁65がピペットチップ22に密着し、密閉容器50の中が密閉空間となることで、内圧が高いまま、初期状態に戻らず、試薬全量の吐出は完了しなかった。
【0079】
なお、仮穿刺工程は行ったが変形工程は実行されなかった比較例2においては、図中「B」の時点のピペットチップ22上昇後、一時的に僅かな圧力低下が見られた。しかし、ラミネートフィルム60の形状追従性により再び断縁65がピペットチップ22に密着し、密閉容器50の中が密閉空間となることで、比較例1ほどではないが内圧が高いまま、初期状態に戻らず、試薬全量の吐出はやはり完了しなかった。
【0080】
以上の結果より、ウェル52を覆うラミネートフィルム60には空気孔がないため、図中において圧力が高くなっている状態においては、密閉容器50内が密封状態になっており、それにより密閉容器50への液体55の注入又は密閉容器からの液体の吸引は実施不能と判断された。
【0081】
また、仮孔63を空けていた比較例2においても、密閉容器50内の圧力が余り低下しなかった。このことから、穿刺工程前に行う工程としては、仮穿刺工程よりも変形工程の方が、ラミネートフィルム60の断縁65がピペットチップ22の先端と密着するのを防ぐにはより効果的であることが明らかとなった。
【0082】
以上より、穿刺工程前に、ラミネートフィルムを押し延ばす変形工程を実行することにより、ラミネートフィルムを構成する素材が非可逆的な塑性変形を起こすことで、ピペットチップの表面に密着しているラミネートフィルムの形状追従性が低下する。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、ラミネートフィルムで密閉された密閉容器を用いた各種測定の際に用いられる測定機器に利用可能である。
【符号の説明】
【0084】
10 液体移送装置
15 制御手段
20 移送先端
21 ノズル
22 ピペットチップ
22A 先端開口
22B 後端開口
23 接触面
24 仮穿刺突起
25 先端部
25A 溝部
25B 通気口
26 後端部
26A 通気路
27 中間部
30 押圧部材
33 接触面
40 仮穿刺部材
50 密閉容器
51 枠体
51A 天板
51B 側板
52 ウェル
52A 測定ウェル
55 液体
60 ラミネートフィルム
61 接触範囲
62 押し延ばし範囲
63 仮孔
64 穿刺範囲
65 断縁
66 仮封印フィルム
図1
図2
図3
図4
図5
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