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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】グラスラン
(51)【国際特許分類】
   B60J 10/76 20160101AFI20220810BHJP
   B60J 10/50 20160101ALI20220810BHJP
   B60J 10/16 20160101ALI20220810BHJP
【FI】
B60J10/76
B60J10/50
B60J10/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018096797
(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公開番号】P2019202555
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【弁理士】
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】大和 雄一
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-076441(JP,A)
【文献】特開2000-318459(JP,A)
【文献】特開2004-338469(JP,A)
【文献】特開2008-006968(JP,A)
【文献】特開2013-147203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 10/76
B60J 10/50
B60J 10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のドアに装着され、昇降するドアガラスを案内する断面略コ字状の溝部を形成する底壁部と前記底壁部の両端から延びる両側壁部とからなる本体部と、前記両側壁部からそれぞれ内側に折曲して延びる両リップ部を備えるグラスランであって、
前記底壁部及び前記両側壁部の外方に、制振性を有する材料からなる層を断面略コ字状に形成し、
前記制振性を有する材料には、20℃でtanδが0.5以上、0℃~40℃間でtanδが0.3以上のものを使用し、
前記両リップ部には、低tanδ(0.2以下)で高Cs(圧縮永久歪み率)材(70℃×22hr×40%圧縮以下)のものを使用したことを特徴とするグラスラン。
【請求項2】
自動車のドアに装着され、昇降するドアガラスを案内する断面略コ字状の溝部を形成する底壁部と前記底壁部の両端から延びる両側壁部とからなる本体部と、前記両側壁部からそれぞれ内側に折曲して延びる両リップ部を備えるグラスランであって、
前記底壁部及び前記両側壁部の内方に、制振性を有する材料からなる層を断面略コ字状に形成し、
前記制振性を有する材料には、20℃でtanδが0.5以上、0℃~40℃間でtanδが0.3以上のものを使用し、
前記両リップ部には、低tanδ(0.2以下)で高Cs(圧縮永久歪み率)材(70℃×22hr×40%圧縮以下)のものを使用したことを特徴とするグラスラン。
【請求項3】
前記制振性を有する材料からなる層の厚みは、前記両側壁部の厚みの2倍以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のグラスラン。
【請求項4】
自動車のドアに装着され、昇降するドアガラスを案内する断面略コ字状の溝部を形成する底壁部と前記底壁部の両端から延びる両側壁部とからなる本体部と、前記両側壁部からそれぞれ内側に折曲して延びる両リップ部を備えるグラスランであって、
前記底壁部及び前記両側壁部を、制振性を有する材料で構成し、
前記制振性を有する材料には、20℃でtanδが0.5以上、0℃~40℃間でtanδが0.3以上のものを使用し、
前記両リップ部には、低tanδ(0.2以下)で高Cs(圧縮永久歪み率)材(70℃×22hr×40%圧縮以下)のものを使用したことを特徴とするグラスラン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のドアに装着され、昇降するドアガラスを案内するグラスランに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図8に示すような自動車のフロントドア1及びリヤドア2の窓枠3には、グラスラン100が取付けられ、昇降するドアガラスGに摺接して窓枠とドアガラスGの間をシールするようになっている。
図9は、図8のA-A拡大断面図であり、フロントドア1の窓枠に取付けられたグラスラン100を示している。グラスラン100は主として、窓枠(サッシュ)3に装着される本体部70と、本体部70に一体成形され、ドアガラスGに摺接するリップ部76,76から構成されている。
【0003】
本体部70は、底壁部71と底壁部71の両端から延びる両側壁部72,72を有し、断面略コ字状の溝部75が形成されて、その溝部75内にドアガラスGを案内するようになっている。また、両側壁部72,72からそれぞれ外側に向けて折曲して延びる両モール部73,73が形成されており、側壁部72とモール部73で窓枠3のフランジを挟み込むようになっている。
さらに、両側壁部72,72からそれぞれ内側に向けて折曲して延びるように両リップ部76,76が形成されていて、特に両リップ部76,76は制振性を有する材料(制振材)で形成するという提案が既になされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5067832号公報
【0005】
これによれば、両リップ部76,76を、制振材で形成したので、ドアガラスGを開閉する際に両リップ部76,76に生じる振動を抑制して、いわゆるキュー音、すなわち、ドアガラスGと両リップ部76,76の間の摩擦のためにスティックスリップ(付着すべり)現象が生じ、これにより発生する音を効果的に低減することができるといった効果が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リップ部76が経年的に徐々に変化してドアガラスGとの間に隙間が形成されると、自動車の走行時などに振動がドアガラスGに伝わったときにその振動をリップ部76が抑えることができずにガタガタといった、いわゆるラトル音(バタツキ音)が発生してしまう。
ラトル音は、10~50Hzで揺れるドアガラスGがリップ部76から一旦離れ、再び衝突したときの衝撃音と、そのときのリップ部76の共振周波数(500~2000Hz)の音によるものであり、特許文献1の発明のように、両リップ部76,76を、制振材で形成した場合には、有効的に抑えることは困難である。
【0007】
そこで、本発明の目的とするところは、自動車の走行時などに発生するラトル音を有効的に軽減するグラスランを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明のグラスランは、自動車のドア(1)に装着され、昇降するドアガラス(G)を案内する断面略コ字状の溝部(14)を形成する底壁部(13)と前記底壁部(13)の両端から延びる両側壁部(11,12)とからなる本体部(10)と、前記両側壁部(11,12)からそれぞれ内側に折曲して延びる両リップ部(15,16)を備えるグラスラン(200)であって、
前記底壁部(13)及び前記両側壁部(11,12)の外方に、制振性を有する材料からなる層(30)を断面略コ字状に形成し、
前記制振性を有する材料には、20℃でtanδが0.5以上、0℃~40℃間でtanδが0.3以上のものを使用し、
前記両リップ部(15,16)には、低tanδ(0.2以下)で高Cs(圧縮永久歪み率)材(70℃×22hr×40%圧縮以下)のものを使用したことを特徴とする。
【0009】
また本発明は、自動車のドア(1)に装着され、昇降するドアガラス(G)を案内する断面略コ字状の溝部(14)を形成する底壁部(13)と前記底壁部(13)の両端から延びる両側壁部(11,12)とからなる本体部(10)と、前記両側壁部(11,12)からそれぞれ内側に折曲して延びる両リップ部(15,16)を備えるグラスラン(200)であって、
前記底壁部(13)及び前記両側壁部(11,12)の内方に、制振性を有する材料からなる層(31)を断面略コ字状に形成し、
前記制振性を有する材料には、20℃でtanδが0.5以上、0℃~40℃間でtanδが0.3以上のものを使用し、
前記両リップ部(15,16)には、低tanδ(0.2以下)で高Cs(圧縮永久歪み率)材(70℃×22hr×40%圧縮以下)のものを使用したことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記制振性を有する材料からなる層(30,31)の厚み(S)は、前記両側壁部(11,12)の厚み(T)の2倍以上であることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、自動車のドア(1)に装着され、昇降するドアガラス(G)を案内する断面略コ字状の溝部(14)を形成する底壁部(13)と前記底壁部(13)の両端から延びる両側壁部(11,12)とからなる本体部(10)と、前記両側壁部(11,12)からそれぞれ内側に折曲して延びる両リップ部(15,16)を備えるグラスラン(200)であって、
前記底壁部(13)及び前記両側壁部(11,12)を、制振性を有する材料(32)で構成し、
前記制振性を有する材料には、20℃でtanδが0.5以上、0℃~40℃間でtanδが0.3以上のものを使用し、
前記両リップ部(15,16)には、低tanδ(0.2以下)で高Cs(圧縮永久歪み率)材(70℃×22hr×40%圧縮以下)のものを使用したことを特徴とする。
【0012】
なお、括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に記載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0013】
本発明のグラスランによれば、本体部の外方、つまり底壁部及び両側壁部の外方に、20℃でtanδが0.5以上、0℃~40℃間でtanδが0.3以上のものとなる、制振性を有する材料(制振材)からなる層を断面略コ字状に形成したので、ドアガラスの揺れを抑えることができ、その結果、自動車の走行時などに発生するラトル音を有効的に軽減することができる。
制振性を有する材料からなる層の厚みは、両側壁部の厚みの2倍以上であることがラトル音を軽減する上において好ましい。
【0014】
また、本体部の内方、つまり底壁部及び両側壁部の内方に、制振性を有する材料からなる層を断面略コ字状に形成したり、あるいは、底壁部及び両側壁部のそのものを、制振性を有する材料で構成したりしてラトル音を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るグラスランを示す図8のA-A線拡大断面図である。
図2図1にグラスランの要部を示す拡大断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る別のグラスランを示す図8のA-A線拡大断面図である。
図4】本発明の実施形態に係るさらに別のグラスランを示す図8のA-A線拡大断面図である。
図5】ダイナミックダンパの有無でドアガラスを振動させたときの、ドライバ席の耳位置における周波数と音圧レベルとの関係を示すグラフである。
図6】制振試験を行うためのサンプル器具を示す断面図である。
図7図6に示したサンプル器具を使用して試験した結果を示すグラフであり、(a)は制振ゴムを使用した場合、(b)は制振ゴムを使用しない場合を示した。
図8】自動車の外観側面図である。
図9】従来例に係るグラスランを示す図8のA-A線拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、本発明の実施形態に係るグラスランについて説明する。なお、従来例と同一部分は同一符号を付した。
このグラスラン200は、図1及び図8に示すように、自動車のフロントドア1及びリヤドア2の窓枠(サッシュ)3に装着され、昇降するドアガラスGに摺接して窓枠とドアガラスGの間をシールするようになっている。
【0017】
グラスラン200は、断面略コ字状の本体部10と2つのリップ部15,16を備えている。
本体部10は、底壁部13とその底壁部13の両端から延びる車内側壁部11と車外側壁部12からなり、内方に、昇降するドアガラスGを案内する断面略コ字状の溝部14を形成している。
リップ部は、車内側壁部11の端部から内側に向けて折曲して延びるインナリップ部15と、車外側壁部12の端部から内側に向けて折曲して延びるアウタリップ部16からなり、ドアガラスGに摺接する。
【0018】
また、車内側壁部11の端部から外側に向けて折曲して延びる車内側モール部17と、車外側壁部12の端部から外側に向けて折曲して延びる車外側モール部18が形成され、車内側壁部11と車内側モール部17、及び車外側壁部12と車外側モール部18で窓枠3に形成されたフランジを挟み込むようになっている。
【0019】
そして、底壁部13及び両側壁部11,12の外方に、制振性を有する材料(制振材)からなる層30を断面略コ字状に形成している。すなわち、制振性を有する材料は、両リップ部15,16に形成されるのではなく、本体部10に対して形成されている。また、制振性を有する材料の対象とする振動周波数は、10~40Hzの低周波振動としている。
ここで、制振性を有する材料(制振材)としては、20℃でtanδが0.5以上、0℃~40℃間でtanδが0.3以上のものが望ましく、本体部10にエチレンプロピレンゴムを使用した場合、そのエチレンプロピレンゴムとの親和性からブチルゴムが好ましい。また、本体部10にTPO(熱可塑性オレフィン樹脂)を用いる場合、制振性を有する熱可塑性樹脂(オレフィン樹脂かスチレン系エラストマ)などを選択することが好ましい。
【0020】
制振性を有する材料からなる層30の厚みSは、特に限定されるわけではないが、図2に示すように、両側壁部11,12の厚みTの2倍に設定している。
【0021】
また、両リップ部15,16には、低tanδ(0.2以下)で高Cs(圧縮永久歪み率)材(70℃×22hr×40%圧縮以下)のものを使用している。
これは、ラトル音(バタツキ音)の発生メカニズムは、10~50Hzで揺れるドアガラスGがリップ(15又は16)から一旦離れ、再衝突した時の衝撃音及びリップ共振周波数(500~2000Hz)の音であり、ドアガラスGがリップから離れるのを防ぐため、衝撃時に振動位相が大きくずれる高tanδ材(応力を加えた瞬間と変位が変化する瞬間のタイムラグが大きい材質のもの)は好ましくないからである。
なお、両リップ部15,16のドアガラスGに対する摺動面を高摺動材で被膜すれば、上述した、いわゆるキュー音を効果的に抑制することができる。
【0022】
本発明者は、ドアガラスGを振動させた場合の実験を行った。
これは、図示しないダイナミックダンパ(20Hz)をドライバ席の耳位置に相対向するドアガラスGの位置に固定した場合と、固定しない場合においてドアガラスGを振動させたときの、ドライバ席の耳位置における周波数と音圧レベルとの関係を測定したものである。
【0023】
その結果は、図5に示したグラフのように、ダイナミックダンパを使用してドアガラスGの振動を抑えることでラトル音を小さくすることができることが実証された。
ダイナミックダンパを実際の車両に使用することはできないので、ダイナミックダンパを使用することなく、ドアガラスGの振動を抑えることがラトル音の低減には有効であり、そのため、グラスラン200の本体部10側に制振性を有する材料を使用することでラトル音を低減させることに、本発明者は着目した。
【0024】
そして、図6に示したような、サンプル器具を使用して制振試験を行った。
このサンプル器具は、アルミ治具51に、グラスランをかたどったEPDM製の本体部52の外周をブチルゴムからなる制振ゴム53で覆ったものを納めるとともに、本体部52に形成されたリップ部54に摺動するように、一端側に加速度ピックアップ55が取付けられたガラス56の他端側を挿入した後、インパクトハンマ(図示しない)でガラス56を振動させて振動低減効果を確認したものである。
これによれば、図7に示すように、制振ゴム53を使用したもの(図7(a))の方が、制振ゴム53を使用することなく、EPDM製の本体部52だけからなるもの(図7(b))の方よりも、減衰率が大きく、ガラス56の振動を速く低減させることが実証された。
【0025】
このように構成されたグラスラン200によれば、本体部10の外方、つまり底壁部13及び両側壁部11,12の外方に、制振性を有する材料からなる層30を断面略コ字状に形成したので、ドアガラスGの揺れを抑えることができ、その結果、自動車の走行時などに発生するラトル音を有効的に軽減することができる。
【0026】
なお、本実施形態では、本体部10の外方に制振性を有する材料からなる層30を断面略コ字状に形成したが、図3に示すように、本体部10の内方、すなわち、底壁部13及び両側壁部11,12の内方に、制振性を有する材料からなる層31を断面略コ字状に形成するようにしてもよく、これによってもラトル音を軽減することができる。
また、制振性を有する材料からなる層30の厚みSを、両側壁部11,12の厚みTの2倍に設定したが、2倍以上にしてもよく、制振性を有する材料からなる層30の厚みSがより厚いほどラトル音を抑制する効果は大きい
【0027】
さらには、図4に示すように、底壁部13及び両側壁部11,12そのものを、制振性を有する材料32で構成するようにしてもよく、これによってもラトル音を軽減することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 フロントドア
2 リヤドア
3 窓枠
10 本体部
11 車内側壁部
12 車外側壁部
13 底壁部
14 溝部
15 インナリップ部
16 アウタリップ部
17 車内側モール部
18 車外側モール部
30,31,32 制振性を有する材料からなる層
51 アルミ治具
52 本体部
53 制振ゴム
54 リップ部
55 加速度ピックアップ
56 ガラス
70 本体部
71 底壁部
72 側壁部
73 モール部
75 溝部
76 リップ部
100 グラスラン
200 グラスラン
G ドアガラス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9