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特許7121545コンクリート構造物の接合方法及びプレキャストコンクリート部材の接合方法
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  • 特許-コンクリート構造物の接合方法及びプレキャストコンクリート部材の接合方法 図1
  • 特許-コンクリート構造物の接合方法及びプレキャストコンクリート部材の接合方法 図2
  • 特許-コンクリート構造物の接合方法及びプレキャストコンクリート部材の接合方法 図3
  • 特許-コンクリート構造物の接合方法及びプレキャストコンクリート部材の接合方法 図4
  • 特許-コンクリート構造物の接合方法及びプレキャストコンクリート部材の接合方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の接合方法及びプレキャストコンクリート部材の接合方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20220810BHJP
   E04B 1/06 20060101ALI20220810BHJP
   E04B 1/61 20060101ALI20220810BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
E01D19/12
E04B1/06
E04B1/61 502H
E04G21/12 104B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018103262
(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2019206870
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 周斗
(72)【発明者】
【氏名】横関 康祐
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】取違 剛
(72)【発明者】
【氏名】横田 祐起
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-307549(JP,A)
【文献】特開2009-299277(JP,A)
【文献】特開平07-148718(JP,A)
【文献】特開平04-132648(JP,A)
【文献】特開2007-046262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/12
E04B 1/06
E04B 1/61
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレキャストコンクリート部材にプレストレスを導入して前記プレキャストコンクリート部材同士を接合する接合方法であって、
前記プレキャストコンクリート部材と、熱可塑性樹脂を含み前記プレキャストコンクリート部材の端面に固定された樹脂部材と、を有する複合部材を複数準備する複合部材準備工程と、
前記複合部材の前記樹脂部材同士を溶着させ、前記樹脂部材同士が一体化されてなる溶着樹脂部を介して前記プレキャストコンクリート部材同士が接合された状態とする樹脂部材溶着工程と、
前記樹脂部材溶着工程で接合された複数の前記プレキャストコンクリート部材にプレストレスを導入するプレストレス導入工程と、を備え、
前記樹脂部材溶着工程は、
各々の前記複合部材の前記樹脂部材を加熱する加熱工程と、
前記プレストレス導入工程におけるプレストレスよりも小さい加圧力で、前記加熱工程で加熱された前記樹脂部材同士を押し付ける方向に前記複合部材を加圧する加圧工程と、を有する、プレキャストコンクリート部材の接合方法。
【請求項2】
前記樹脂部材はシリカ成分を含み、
前記複合部材準備工程は、
前記プレキャストコンクリート部材の材料であるフレッシュコンクリートを、前記樹脂部材に接触した状態で硬化させて前記複合部材を製作する工程を含む、請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の接合方法。
【請求項3】
前記樹脂部材はシリカ成分を含み、
前記複合部材は、
前記プレキャストコンクリート部材の材料であるフレッシュコンクリートを、前記樹脂部材に接触した状態で硬化させて製作されたものである、請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の接合方法及びプレキャストコンクリート部材の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、接合部の止水性を確保しながらコンクリート構造物同士を接合する方法として、コンクリート構造物同士の間にコンクリートや無収縮モルタル等を充填して間詰めする方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-264040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの方法では間詰め材が硬化して強度を発現するまでに時間を要するので、工期短縮にも限界があった。また、長期に亘る間詰め材の収縮で接合部にひび割れが生じ、止水性や耐久性が低下する懸念もあった。本発明は、接合部の止水性や耐久性を確保しつつ、工期短縮を図ることができるコンクリート構造物の接合方法及びプレキャストコンクリート部材の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のコンクリート構造物の接合方法は、コンクリート構造物と、熱可塑性樹脂を含みコンクリート構造物の表面に固定された樹脂部材と、を有する複合構造物を複数準備する複合構造物準備工程と、複合構造物の樹脂部材同士を溶着させ、樹脂部材同士が一体化されてなる溶着樹脂部を介してコンクリート構造物同士が接合された状態とする樹脂部材溶着工程と、を備える。
【0006】
この接合方法によれば、コンクリート構造物の接合端面の表面に固定された樹脂部材の溶着によって、コンクリート構造物同士が接合される。溶着される樹脂部材は比較的速く硬化し強度を発現するので、コンクリート構造物の接合の時間が短縮され、ひいては工期短縮を図ることができる。また、樹脂部材は熱可塑性樹脂を含むので、樹脂部材同士の溶着によってコンクリート構造物同士の接合部が連続体(溶着樹脂部)として一体化し、その後は、溶着樹脂部自体はほとんど収縮しない。従って、長期に亘る収縮に起因して溶着樹脂部にひび割れが発生する等の可能性も低く、接合部の止水性、耐久性が確保される。よって、工期短縮と止水性、耐久性の確保とを両立することができる。
【0007】
本発明のコンクリート構造物の接合方法では、樹脂部材はシリカ成分を含み、複合構造物準備工程は、コンクリート構造物の材料であるフレッシュコンクリートを、樹脂部材に接触した状態で硬化させて複合構造物を製作する工程を含むようにしてもよい。本発明のコンクリート構造物の接合方法では、樹脂部材はシリカ成分を含み、複合構造物は、コンクリート構造物の材料であるフレッシュコンクリートを、樹脂部材に接触した状態で硬化させて製作されたものであるようにしてもよい。
【0008】
フレッシュコンクリートが硬化する際には、セメントの水和反応過程において、樹脂部材に含まれるシリカ成分とフレッシュコンクリートに含まれる水酸化カルシウムとの化学反応によって、珪酸カルシウム水和物の一種であるトバモライト(5CaO・6SiO2・5H2O)が生成する。よって、上記接合方法によれば、コンクリート構造物と樹脂部材とが強固に接合され、コンクリート構造物と樹脂部材との接合部の止水性も高い。
【0009】
樹脂部材溶着工程は、樹脂部材同士を振動溶着法によって溶着する工程を含むようにしてもよい。樹脂部材溶着工程は、加熱された樹脂部材同士を押し付ける方向に複合構造物を加圧する加圧工程を含むこととしてもよい。
【0010】
本発明のコンクリート構造物の接合方法は複数のプレキャストコンクリート部材にプレストレスを導入してプレキャストコンクリート部材同士を接合する接合方法であって、プレキャストコンクリート部材と、熱可塑性樹脂を含みプレキャストコンクリート部材の端面に固定された樹脂部材と、を有する複合部材を複数準備する複合部材準備工程と、複合部材の樹脂部材同士を溶着させ、樹脂部材同士が一体化されてなる溶着樹脂部を介してプレキャストコンクリート部材同士が接合された状態とする樹脂部材溶着工程と、樹脂部材溶着工程で接合された複数のプレキャストコンクリート部材にプレストレスを導入するプレストレス導入工程と、を備え、樹脂部材溶着工程は、各々の複合部材の樹脂部材を加熱する加熱工程と、プレストレス導入工程におけるプレストレスよりも小さい加圧力で、加熱工程で加熱された樹脂部材同士を押し付ける方向に複合部材を加圧する加圧工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、接合部の止水性、耐久性を確保しつつ、工期短縮を図ることができるコンクリート構造物の接合方法及びプレキャストコンクリート部材の接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の接合方法に使用される複数の複合部材の斜視図である。
図2図1の複合部材同士の隣接する接合端面近傍を拡大して示す正面図である。
図3】(a)~(c)は、複合部材の製作方法を示す断面図である。
図4】(a)~(c)は、複合部材同士の接合方法を示す正面図である。
図5】(a)は、樹脂部材の表面を拡大して示す平面図であり、(b)は、樹脂部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るコンクリート構造物の接合方法の実施形態について詳細に説明する。本実施形態の接合方法は、コンクリート建造物の施工現場においてコンクリート構造物同士を接合する用途に用いられ、特に接合部の止水性が要求される用途で用いられる。
【0014】
本実施形態では、図1に示されるように、道路橋に用いられるプレキャスト床版5(コンクリート構造物、プレキャストコンクリート部材)同士の接合方法を例として説明する。当該接合方法によって、複数のプレキャスト床版5が橋軸方向に連続的に連結される。最終的には、橋軸方向に配列された複数のプレキャスト床版5に対しプレストレスが導入され互いに強固に連結されることで、道路橋床版(コンクリート建造物)が構築される。本実施形態の接合方法は、以下に説明する複合部材準備工程と、樹脂部材溶着工程と、プレストレス導入工程と、を備える。
【0015】
(複合部材準備工程)
複合部材準備工程では、図1及び図2に示されるように複数の複合部材3(複合構造物)が準備される。複合部材3とは、接合の対象であるプレキャスト床版5の接合端面7に予め樹脂部材9を固定してなる構造物である。すなわち、各複合部材3は、接合の対象であるプレキャスト床版5と、当該プレキャスト床版5の表面に固定された樹脂部材9と、を有する構造物である。複合構造物準備工程では、例えば、予め工場で製作された複数の複合部材3が道路橋床版の施工現場に搬入される。
【0016】
樹脂部材9は、薄板状又はシート状をなしており、接合対象である接合端面7に固定される。樹脂部材9は熱可塑性樹脂を主成分とする。この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ABS樹脂、ナイロン、EVA樹脂等が使用される。樹脂部材9は、ポリマーセメント、砂、石灰石微粉末、繊維等の異種材料を含有してもよい。また、樹脂部材9は、シリカ(SiO2)成分を含有している。シリカ源としてフライアッシュが樹脂部材9に含有されてもよい。
【0017】
複合部材3は、例えば次のような方法により工場で製造される。図3(a)に示されるように、コンクリート型枠11内の両端に樹脂部材9を仕込んだ状態で、図3(b)に示されるように、コンクリート型枠11内にフレッシュコンクリートCが打設される。後述の挿通孔13をプレキャスト床版5に形成するため、フレッシュコンクリートCが投入される空間には予めシース管12が設置される。当該シース管12の中空部が、後述の緊張材15を挿通させるための挿通孔13として機能する。また、樹脂部材9にも予め対応する位置に挿通孔13が設けられてもよい。また、詳細な図示は省略するが、フレッシュコンクリートCが投入される空間には鉄筋が予め設置される。
【0018】
投入されたフレッシュコンクリートCは、樹脂部材9に接触した状態で硬化し、プレキャスト床版5となる。ここで、フレッシュコンクリートCが硬化する際には、セメントの水和反応過程において、樹脂部材9に含まれるシリカ成分とフレッシュコンクリートCに含まれる水酸化カルシウムとの化学反応によって、珪酸カルシウム水和物の一種であるトバモライト(5CaO・6SiO2・5H2O)が生成する。よって、プレキャスト床版5と樹脂部材9とが強固に接合されると共に、プレキャスト床版5と樹脂部材9との接合部の止水性も高い。その後、図3(c)に示されるようにコンクリート型枠11が除去されて、複合部材3が完成する。なお、上記のフレッシュコンクリートCの打設においては、樹脂部材9を埋設型枠として機能させてもよい。この場合、複合部材3の即脱成形が可能であり製造効率が向上する。
【0019】
(樹脂部材溶着工程)
続く樹脂部材溶着工程は、道路橋床版の施工現場で実行される。樹脂部材溶着工程では、隣接する複合部材3の樹脂部材9同士を溶着させることによりプレキャスト床版5同士が接合される。以下、樹脂部材溶着工程の処理を具体的に説明する。以下の説明では、図2に示されるようにプレキャスト床版5同士の1つの接合部に注目して主に説明するが、樹脂部材溶着工程では他の接合部においても同じ処理が実行される。
【0020】
まず、図1及び図2に示されるように、隣接する複合部材3の接合端面7同士が向かい合うように設置される。そして、接合端面7上の樹脂部材9が加熱され、加熱によって樹脂部材9が溶融する(加熱工程)。このときの樹脂部材9の加熱温度は、樹脂部材9の材料の特性に合わせて設定されればよく、例えば80~500℃である。樹脂部材9の加熱方法としては、種々の加熱方法を採用することができる。樹脂部材9は、例えば、ヒーターや電熱線等で加熱されてもよく、レーザや電磁誘導を利用した加熱方法により加熱されてもよい。電熱線が予め樹脂部材9やプレキャスト床版5に仕込まれていてもよい。また、対面する樹脂部材9同士の間に高温の金属板材等を挟み込むといった加熱方法が採用されてもよい。
【0021】
次に、図4(a)に示されるように、複数の複合部材3に亘って挿通孔13に緊張材15が挿通され、緊張材15に緊張力が付与される。この緊張力に起因して、図4(b)に示されるように、溶融した双方の樹脂部材9同士が突き合わされ、樹脂部材9同士が押し合う方向に加圧力Pが付与される(加圧工程)。緊張材15としては、例えばPC鋼材が用いられる。
【0022】
この場合の加圧力Pは、樹脂部材9同士を溶着させる程度で十分である。従って、ここで緊張材15に付与される緊張力は、後述のプレストレス導入工程で付与される緊張力よりも低い。具体的には、後述のプレストレス導入工程で接合端面7に付与される圧力は例えば2.0~4.0MPaであるのに対し、この加圧工程で接合端面7に付与される圧力は例えば0.3~0.5MPaである。上記の圧力は、樹脂部材9の材料の特性に合わせて適宜設定されればよい。なお、加圧力Pが大きすぎると溶融した樹脂が接合端面7から大きくはみ出すので好ましくない。このように、後工程(プレストレス導入工程)で使用される緊張材15を利用して複合部材3に加圧力Pが付与されるので、樹脂部材9の溶着のための加圧手段を別途用意する必要がない。但し、加圧力Pを付与する方法は、緊張材15を緊張する方法には限定されず、他の種々の加圧手段を採用することもできる。
【0023】
その後、図4(c)に示されるように、加圧力Pの付与の継続中において、樹脂部材9が放熱により温度低下し再硬化すると、双方の樹脂部材9同士が溶着され一体化された溶着樹脂部19が生成する。そうすると、溶着樹脂部19を介してプレキャスト床版5同士が接合された状態となる。そして、溶着樹脂部19が完全に硬化しプレキャスト床版5同士の接合が完了する。
【0024】
なお、樹脂部材9同士を溶着させる方法としては、振動溶着法が採用されてもよい。溶着法を採用する場合、樹脂部材9同士を圧着させ、例えば、周波数約200Hz,振幅1~5mmで一方の樹脂部材9を往復動させる。上記の往復動により樹脂部材9同士の間に摩擦熱が発生し、当該摩擦熱によって樹脂部材9が溶融する。
【0025】
(プレストレス導入工程)
溶着樹脂部19が硬化した後、更に緊張材15に緊張力が付与され、複数のプレキャスト床版5に亘ってプレストレスが導入される。これにより、複数の複数のプレキャスト床版5が道路橋の橋軸方向に連結され、道路橋床版が完成する。プレストレス導入工程では、プレキャスト床版5同士のプレストレスによる連結において、設計上必要な緊張力が付与される。前述の通り、プレストレス導入工程で接合端面7に付与される圧力は、例えば2.0~4.0MPaである。
【0026】
本実施形態の接合方法による作用効果について説明する。当該接合方法によれば、プレキャスト床版5の接合端面7に設けられた樹脂部材9の溶着によって、プレキャスト床版5同士が接合される。溶着された樹脂部材9は、モルタル等の硬化と比べてより速く硬化して強度を発現するので、プレキャスト床版5の接合の時間が短縮され、ひいては工期短縮を図ることができる。すなわち、溶融された樹脂部材9が比較的速く再硬化して溶着樹脂部19となり強度を発現するので、その後のプレキャスト導入工程に早期に移行することができ、その結果、工期短縮が図られる。特に、道路橋床版の取替え工事等では、工事可能な時間帯が限られている場合も多く、工期短縮の必要性が高いので、本実施形態の接合方法が好適に適用される。
【0027】
また、樹脂部材9が仮にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分とする場合には、未硬化の樹脂部材9をプレキャスト床版5の接合端面7同士の間に設置し、加熱して硬化させる、といった一連の作業を施工現場で実行することになる。また、樹脂部材9が仮に常温硬化性の接着剤である場合にも同様に、接合端面7に接着剤を塗布する処理を施工現場で実行することになる。
【0028】
これに対し、本実施形態の接合方法では、樹脂部材9の主成分が熱可塑性樹脂であるので、複合部材3は、硬質の樹脂部材9がプレキャスト床版5に固定された態様であるので、事前に工場で製作して施工現場に搬送するといった運用が可能である。そうすると、施工現場においては、プレキャスト床版5の接合端面7に対して樹脂部材9を固定する作業が省略され、工期短縮が図られる。或いは、施工現場において、樹脂部材9をプレキャスト床版5に固定する作業を、複合部材3が設置される位置(道路橋床版の完成位置)とは別の場所で予め進行することができ、工期短縮が図られる。また、一般的に、熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂に比べて紫外線による劣化が少ない傾向にあり、接合部の耐久性も向上する。
【0029】
また、接合完了後におけるプレキャスト床版5同士の継目には、熱可塑性樹脂からなる溶着樹脂部19が充填されるので、膨潤ゴムや無収縮モルタル等が充填される場合に比較して止水性が高い。また、膨潤ゴム等では、接合端面7間から受ける圧力のバラツキによって止水性にバラツキが生じるが、これに対し溶着樹脂部19は接合端面7間で加圧されながら硬化したものであるので、接合端面7から溶着樹脂部19に作用する圧力のバラツキが低減されており、止水性のバラツキも小さい。また、溶着樹脂部19とプレキャスト床版5との接合面は、前述したようなトバモライトが生成する化学反応によって強固に接合されているので、当該接合面の止水性も高い。
【0030】
また、樹脂部材9は熱可塑性樹脂を含むので、樹脂部材9同士の溶着によってプレキャスト床版5同士の接合部が連続体(溶着樹脂部19)として一体化し、その後は、溶着樹脂部19自体はほとんど収縮しない。従って、長期に亘る収縮に起因して溶着樹脂部19にひび割れが発生する等の可能性も低く、接合部の止水性、耐久性が確保される。よって、工期短縮と止水性、耐久性の確保とを両立することができる。
【0031】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0032】
実施形態では、道路橋に用いられるプレキャスト床版5の接合方法を説明したが、本発明はこれに限定されず、種々のコンクリート構造物同士の接合方法に適用することができる。また、実施形態では3以上のプレキャスト床版5が連続的に接合される例を説明したが、本発明の接合方法は、2つのコンクリート構造物同士の接合にも適用することができる。また本発明は、プレストレス導入により接合されるタイプのコンクリート構造物の接合方法には限定されず、プレストレス導入工程は必須ではない。
【0033】
前述のとおり、樹脂部材9同士を溶着させる方法としては、振動溶着法が採用されてもよい。振動溶着法が採用される場合、樹脂部材9は摩擦力が伝達しやすい形状であることが必要であり、また樹脂の溶け代や溶けた樹脂の逃げ道が必要であるので、樹脂部材9の表面(他の樹脂部材9に対面する面)が凹凸形状であることが好ましい。この観点から、樹脂部材9の表面の全面に、例えば、図5に拡大して示されるように格子状に多数のV溝23を形成してもよい。この場合、V溝23同士の間隔は3~10mmとすることが好ましい。なお、接合対象のコンクリート構造物が箱抜き部材又はレンコン柱梁である場合、上記のような凹凸形状の樹脂部材9の製作は困難であるので、振動溶着法以外の方法(例えば、ヒーターや電熱線により樹脂部材9を加熱する方法)を採用することが好ましい。
【0034】
また、樹脂部材9の裏面(プレキャスト床版5に固定される面)を凹凸形状としてもよい。この場合、プレキャスト床版5と樹脂部材9との一体性が機械的に向上する。また、凹凸形状がせん断キーとして機能し、プレキャスト床版5と樹脂部材9との間でせん断応力の伝達が可能になる。
【0035】
また、実施形態では、フレッシュコンクリートを樹脂部材9に接触した状態で硬化させて複合部材3を製作したが、硬化済みのプレキャスト床版5の接合端面7に、例えば接着剤等により樹脂部材9を固定して複合部材3を製作してもよい。また、樹脂部材9がシリカ成分を含むものでなくてもよい。
【符号の説明】
【0036】
3…複合部材(複合構造物)、5…プレキャスト床版(コンクリート構造物、プレキャストコンクリート部材)、9…樹脂部材、15…緊張材、19…溶着樹脂部、C…フレッシュコンクリート。
図1
図2
図3
図4
図5