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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】経皮吸収型製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/34 20170101AFI20220810BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220810BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220810BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220810BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
A61K47/34
A61K9/70 401
B32B27/18 F
B32B27/00 M
B32B3/30
B32B27/00 103
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018158051
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2020033267
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】権田 貴司
(72)【発明者】
【氏名】矢口 直幸
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0148503(US,A1)
【文献】特開2015-080917(JP,A)
【文献】特開昭62-176455(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221672(WO,A1)
【文献】特開平01-283127(JP,A)
【文献】特開昭61-064003(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0072025(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0072608(US,A1)
【文献】SOLVAY,スペシャルティポリマーズ 高機能性プラスチック ヘルス ケア,2017年,<URL:https://www.solvay.com/sites/g/files/srpend221/fi les/2018-07/healthcare-specialty-polymers-ja.pdf> 検索日2021.12.16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/
A61K 47/
C08J 5/
B32B
B29C 48/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する支持層に透過性の粘着層が積層され、これら支持層と粘着層のうち、少なくとも支持層に経皮吸収性の薬物が設けられる経皮吸収型製剤であって、
支持層をポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとしてその比重を1.2以上1.4以下、引張弾性率を2000N/mm 以上5000N/mm 以下、引張降伏強度を50N/mm 以上100N/mm 以下、引張最大強度を50N/mm 以上200N/mm 以下、引張破断時伸びを50%以上400%以下、吸水率を1.0以下とし、
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの粘着層に積層される被積層面に薬物用の複数の貯蔵穴をナノインプリント法により形成し、この複数の貯蔵穴が形成されたポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの結晶化度を20%以上50%以下とし、
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを検体として生理食塩液又はゴマ油中で121℃、1時間の条件下で抽出した抽出液を用いて皮内反応試験を実施した場合、いずれの抽出媒体においても抽出液投与部位、及び空抽出液投与部位の採点値平均の差が1.0以下であり、
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの皮内反応試験は、生理食塩液又はゴマ油中で121℃、1時間の条件下で抽出した抽出液を用い、医療機器の生物学的安全性試験法ガイダンス、及びISO 10993‐10:2010に準拠した試験であることを特徴とする経皮吸収型製剤。
【請求項2】
粘着層に剥離可能に積層される被覆保護層を含んでなる請求項1記載の経皮吸収型製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に密着させて使用する経皮吸収型製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
経皮吸収型製剤(TTS)は、有効成分を皮膚から血液中に吸収させて全身に送り届けることを目的とした医薬品である。この経皮吸収型製剤は、持続的な薬物血中濃度を維持することができ、内服薬のような飲み忘れを防止でき、しかも、副作用が発生した場合に、製剤を剥離することにより、随時中止可能であること等から、有用な製剤として活用されている。
【0003】
従来における経皮吸収型製剤は、図示しないが、可撓性の支持層と、この支持層に積層されて皮膚に使用される膏体層と、この膏体層に剥離可能に積層されるライナー層とを備えた三層構造に形成されている(特許文献1、2、3、4、5参照)。支持層は、不織布やポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム等により形成されている。また、膏体層は、粘着剤と薬物との調合組成物が支持層の表面に塗布されて乾燥することで積層形成され、露出した粘着面がライナー層に被覆される。ライナー層は、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム等から形成され、膏体層の表面である粘着面を被覆して保護する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4604238号公報
【文献】特開2017‐066123号公報
【文献】特開2007‐045917号公報
【文献】特開2006‐225522号公報
【文献】特開2003‐063955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来における経皮吸収型製剤は、以上のように製造され、支持層が不織布からなる場合には、通気性や柔軟性に優れるものの、加工性に大きな問題がある。また、支持層がポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムからなる場合、機械的性質、耐熱性、透明性や電気絶縁性に優れるが、耐加水分解性、耐薬品性、耐アルカリ性、耐酸性に問題があり、これらの向上を図ることができないおそれがある。これら耐加水分解性、耐薬品性、耐アルカリ性、耐酸性は、薬物の種類によっては、大きな問題となるおそれがある。さらに、経皮吸収型製剤は、皮膚に密着して使用されるので、膏体層の他、支持層の皮膚に対する低刺激性も重要となる。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、支持層の加工性、耐加水分解性、耐薬品性、耐アルカリ性、耐酸性や低刺激性の向上を図ることのできる経皮吸収型製剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、可撓性を有する支持層に透過性の粘着層が積層され、これら支持層と粘着層のうち、少なくとも支持層に経皮吸収性の薬物が設けられる製剤であって、
支持層をポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとしてその比重を1.2以上1.4以下、引張弾性率を2000N/mm 以上5000N/mm 以下、引張降伏強度を50N/mm 以上100N/mm 以下、引張最大強度を50N/mm 以上200N/mm 以下、引張破断時伸びを50%以上400%以下、吸水率を1.0以下とし、
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの粘着層に積層される被積層面に薬物用の複数の貯蔵穴をナノインプリント法により形成し、この複数の貯蔵穴が形成されたポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの結晶化度を20%以上50%以下とし、
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを検体として生理食塩液又はゴマ油中で121℃、1時間の条件下で抽出した抽出液を用いて皮内反応試験を実施した場合、いずれの抽出媒体においても抽出液投与部位、及び空抽出液投与部位の採点値平均の差が1.0以下であり、
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの皮内反応試験は、生理食塩液又はゴマ油中で121℃、1時間の条件下で抽出した抽出液を用い、医療機器の生物学的安全性試験法ガイダンス、及びISO 10993‐10:2010に準拠した試験であることを特徴としている。
【0008】
なお、粘着層に剥離可能に積層される被覆保護層を含むことができる。
【0009】
ここで、特許請求の範囲における粘着層と薬物とは、一体でも良いし、別体でも良い。粘着層は、別体の場合、支持層の片面に積層されて薬物を被覆する透過性の樹脂フィルムと、この樹脂フィルム上に積層される粘着剤とを備えることができる。また、支持層の片面に積層されて薬物を被覆する粘着剤のみから形成することもできる。
【0010】
本発明に係る経皮吸収型製剤は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムに貯蔵穴用の凹部を形成してその凹部側の片面に粘着層を積層し、これらポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムと粘着層のうち、少なくともポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの片面に経皮吸収性の薬物を設けることにより、中間体を形成し、その後、この中間体を所定の大きさに切断することで製造することができる。
【0011】
なお、結晶化度が20%未満のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの片面に、貯蔵穴用の凹部をナノインプリント形成し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの結晶化度が20%以上とすることが好ましい。この場合、結晶化度が20%未満のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムにより、結晶化度が20%以上の支持層を形成すると良い。
【0012】
本発明によれば、支持層として不織布やポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用いるのではなく、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを選択するので、少なくとも支持層の加工性、耐加水分解性、耐薬品性、耐アルカリ性、耐酸性を向上させることができる。また、皮内反応試験で採点値平均の差が1.0以下のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを使用するので、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの皮膚に対する低刺激性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、支持層をポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとするので、支持層の加工性、耐加水分解性、耐薬品性、耐アルカリ性、耐酸性の向上を図ることができるという効果がある。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの物性は、比重が1.2以上1.4以下、引張弾性率が2000N/mm 以上5000N/mm 以下、引張降伏強度が50N/mm 以上100N/mm 以下、引張最大強度が50N/mm 以上200N/mm 以下、引張破断時伸びが50%以上400%以下、吸水率が1.0以下なので、優れた耐薬品性、耐加水分解性、耐アルカリ性、耐酸性、耐溶剤性を得ることができ、レーザにより溶着や印字が可能となる。また、難燃性にも優れ、純度が高いので、例え燃焼しても、毒ガスの発生することがない。また、薬物用の複数の貯蔵穴をナノインプリント法により形成するので、微細な複数の貯蔵穴を低コストで形成することができる。加えて、貯蔵穴の形成時におけるプロセス工程を減少させ、簡単な装置による簡易な形成が期待できる。
【0014】
また、複数の貯蔵穴が形成されたポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの結晶化度が20%以上50%以下なので、耐加水分解性、耐薬品性、耐アルカリ性、耐酸性や低刺激性を向上させ、貯蔵穴の物理的安定性に資することができる。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを検体とし、生理食塩液又はゴマ油中で121℃、1時間の条件下で抽出した抽出液を用いて皮内反応試験を実施した場合、いずれの抽出媒体においても、抽出液投与部位、及び空抽出液投与部位の採点値平均の差が1.0以下なので、支持層の低刺激性を向上させることができるという効果がある。さらに、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの皮内反応試験が、生理食塩液又はゴマ油中で121℃、1時間の条件下で抽出した抽出液を用い、医療機器の生物学的安全性試験法ガイダンス、及びISO 10993‐10:2010に準拠した試験なので、安全性の評価に足る試験法により、皮内反応試験の採点値やその平均の差を一義的に特定することが可能となる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、被覆保護層により、粘着層の粘着面を保護することにより、粘着層の粘着性を維持したり、粘着層の汚染を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る経皮吸収型製剤の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
図2】本発明に係る経皮吸収型製剤の第2の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における経皮吸収型製剤(TTS)は、図1に示すように、可撓性を有するテープ形の支持層1と、この支持層1に積層される透過性の粘着層10と、これら支持層1と粘着層10のうち、少なくとも支持層1に設けられる経皮吸収性の薬物20と、粘着層10に剥離可能に積層されるライナー層30とを備えたマトリックス型のテープ製剤であり、支持層1としてポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を選択し、このポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を検体とし、生理食塩液又はゴマ油中で所定の条件下で抽出した抽出液を用いて皮内反応試験を実施した場合、いずれの抽出媒体においても、抽出液投与部位、及び空抽出液投与部位の採点値平均の差が1.0以下であるようにしている。
【0018】
支持層1は、例えば可撓性を有する薄膜のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム2により平面矩形に形成され、表面3に粘着層10が積層されるとともに、表面3の凹部である貯蔵穴4に薬物20が貯蔵される。このポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2は、熱可塑性樹脂であるポリエーテルエーテルケトン樹脂が無延伸、一軸延伸、二軸延伸で製膜されることにより、樹脂フィルムに成形され、柔軟性を維持して違和感の生じることがないよう、厚さが1μm以上100μm以下、好ましくは3μm以上50μm以下、より好ましくは6μm以上30μm以下とされる。
【0019】
支持層1用のポリエーテルエーテルケトン樹脂は、特に限定されるものではないが、以下の繰り返し単位を有する結晶性の樹脂で、ガラス転移点が130℃以上160℃以下、融点が通常320℃以上360℃以下であり、500℃まで安定して耐熱性に優れる。このポリエーテルエーテルケトン樹脂は、通常は粉状、粒状、顆粒状、ペレット状の成形加工に適した形で使用される。
【0020】
【化1】
【0021】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の構造式のnは、機械的特性の観点から、10以上、好ましくは20以上が良い。このポリエーテルエーテルケトン樹脂は、〔化1〕の繰り返し単位のみからなるホモポリマーでも良いが、〔化1〕以外の繰り返し単位を有していても良い。ポリエーテルエーテルケトン樹脂中、〔化1〕の化学構造の割合は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を構成する全繰り返し単位の合計に対し、50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上が好適である。
【0022】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の具体例としては、ビクトレックス社製の商品名:Victrex Powderシリーズ Victrex Granulesシリーズ、ダイセル・エボニック社製の商品名:ベスタキープシリーズ、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製の商品名:キータスパイアポリエーテルエーテルケトンシリーズがあげられる。
【0023】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の製造方法としては、例えば特開昭50-27897号公報、特開昭5l-119797号公報、特開昭52-38000号公報、特開昭54-90296号公報、特公昭55-23574号公報、特公昭56-2091号公報等に記載の方法があげられる。このポリエーテルエーテルケトン樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で他の共重合可能な単量体とのブロック共重合体、ランダム共重合体、あるいは変性体も使用可能である。
【0024】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の物性は、例えば比重が1.2以上1.4以下、引張弾性率が2000N/mm以上5000N/mm以下、引張降伏強度が50N/mm以上100N/mm以下、引張最大強度が50N/mm以上200N/mm以下、引張破断時伸びが50%以上400%以下、吸水率が1.0以下とされる。このポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2は、溶かせる溶剤が殆どないので、耐薬品性、耐加水分解性、耐アルカリ性、耐酸性、耐溶剤性に優れ、レーザにより溶着や印字が可能である。さらに、難燃性にも優れ、純度が高いので、例え燃焼しても、毒ガスの発生することがないという特徴を有する。
【0025】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の他、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂等のポリイミド樹脂、ポリアミド4T(PA4T)樹脂、ポリアミド6T(PA6T)樹脂、変性ポリアミド6T(PA6T)樹脂、ポリアミド9T(PA9T)樹脂、ポリアミド10T(PA10T)樹脂、ポリアミド11T(PA11T)樹脂、ポリアミド6(PA6)樹脂、ポリアミド66(PA66)樹脂、ポリアミド46(PA46)樹脂等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂等のポリエステル樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルエーテル(PEEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂等のポリアリーレンエーテルケトン樹脂、ポリサルホン(PSU)樹脂)、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリフェニレンサルホン(PPSU)樹脂等のポリサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンスルフィルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトンスルホン樹脂等のポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピル共重合体(FEP)樹脂、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)樹脂、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)樹脂、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂等のフッ素樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂等を必要に応じ、添加することができる。
【0026】
また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2には、本発明の特性を損なわない範囲で上記樹脂の他、酸化防止剤、光安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、耐熱向上剤、難燃剤、無機化合物、有機化合物、樹脂改質剤等を選択的に添加することが可能である。
【0027】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2は、皮膚に対する低刺激性を確保する観点から、皮内反応試験に供される。この場合、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を検体とし、生理食塩液又はゴマ油中で121℃、1時間の条件下で抽出した抽出液を用い、リスク評価に好適な「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」(平成24年 薬食機発0301第20号)の別付「医療機器の生物学的安全性試験法ガイダンス」、及びISO 10993‐10:2010,Biological evaluation of medical devices‐Part 10:Tests for irritation and skin sensitizationに準拠して試験され、低刺激性に関する数値が一義的に特定される。
【0028】
係る皮内反応試験の結果、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2は、いずれの抽出媒体においても、抽出液投与部位、及び空抽出液投与部位の採点値平均の差が1.0以下の場合には、皮膚に対する低刺激性有りと判定され、使用される。これに対し、採点値平均の差が1.0を越える場合には、皮膚に対する刺激性に問題があると判定され、不採用とされる。
【0029】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の粘着層10に積層される表面3のXY方向には、薬物用の貯蔵穴4がナノインプリント法により複数凹み形成され、各貯蔵穴4がミクロン単位の微細な凹部に形成されており、この微細な貯蔵穴4に薬物20が充填して貯蔵される。ナノインプリント法は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2にモールドを圧接し、ナノメーターオーダーでモールドの微細なパターンをポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2に転写する方法である。このナノインプリント法によれば、低コストで微細な複数の貯蔵穴4の配列パターンを形成することができ、しかも、プロセス工程も少なく、簡単な装置で簡易な形成が期待できる。
【0030】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の粘着層10が積層される表面3には、清浄化や粘着性向上等を図るため、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、酸化処理、紫外線処理、火炎処理、イトロ処理、ヘアライン加工、サンドマット加工等の表面処理が施されるのが好ましい。
【0031】
粘着層10は、所定の粘着剤がポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の表面3に塗布されて乾燥することにより、積層形成され、皮膚に粘着して密着する。所定の粘着剤としては、特に限定されるものではないが、例えば光や酸素に対して安定性を有し,かぶれにくいアクリル系粘着剤、品質の一定化に優れるゴム系粘着剤、耐熱老化性,耐薬品性,耐水性,薬物20の放出性等に優れるシリコーン系粘着剤等があげられる。粘着剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、粘着層10の厚さは、柔軟性等を確保する観点からすると、1μm以上100μm以下、好ましくは10μm以上80μm以下、より好ましくは20μm以上60μm以下が良い。
【0032】
薬物20は、限定されるものではないが、例えば経皮吸収性に優れるスコポラミン、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、クロニジン、ツロブテロール、エストラジオール、フェンタニル等からなる。この薬物20は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の複数の貯蔵穴4に対象疾患の予防又は治療に対する少量の有効量が塗布・充填され、乾燥して貯蔵される。
【0033】
ライナー層30は、限定されるものではないが、例えば平面矩形のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂フィルムやポリエチレン樹脂フィルム等のポリオレフィン樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムやポリエチレンナフタレート樹脂フィルム等のポリエステル樹脂フィルム、ポリアミド6樹脂フィルムやポリアミド66樹脂フィルム、ポリアミド9T樹脂フィルム等のポリアミド樹脂フィルム、ポリフェニレンサルファイド樹脂フィルム、剥離紙等からなる。これらの樹脂フィルムは、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルム等の如何なる形状の樹脂フィルムでも使用することができる。このようなライナー層30は、粘着層10の表面である粘着面を被覆して保護するよう機能する。
【0034】
上記構成において、経皮吸収型製剤を製造する場合には、先ず、ポリエーテルエーテルケトン樹脂により、支持層1となるポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を成形する。この際、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化度は、20%未満が好ましい。これは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化度が20%以上の場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の軟化に支障を来し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2のナノインプリント成形等の熱成形性に問題が生じるからである。
【0035】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化度は、示差走査熱量計を用いた熱分析結果に基づき、以下の式により算出される。
結晶化度(%)={(ΔHm-ΔHc)/ΔHx}×100 …(式1)
ここで、ΔHm:ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶融解ピークの熱量
(J/g)、
ΔHc:ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の再結晶化ピークの熱量
(J/g)、
ΔHx:100%結晶化したポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の融
解エネルギーの理論値であり、130J/gである。
【0036】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2は、溶融押出成形法、カレンダー成形法、キャスティング法等の公知の製造法により製造可能であるが、ハンドリング性や設備の簡略化の観点からすると、溶融押出成形法により連続的に薄く押出成形されることが好ましい。ここで、溶融押出成形法とは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を溶融押出成形機に投入して溶融混練し、溶融押出成形機のTダイスから帯形のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を連続的に押し出して製造する方法である。
【0037】
押出成形されたポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化度は、熱成形性の観点から、上記したように20%未満であるが、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満が最適である。これに対し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化度の下限については、特に限定されるものではないが、1%以上が良い。
【0038】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を押出成形したら、複数の圧着ロール、冷却ロール、テンションロール、巻取機の巻取管に順次巻架し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を冷却ロールにより冷却した後、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の両端部をスリット刃でそれぞれカットするとともに、巻取管に順次巻き取り、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を製造する。
【0039】
ここで、複数の圧着ロールと冷却ロールは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の〔ガラス転移点(Tg)+20℃〕以下、好ましくはポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2のガラス転移点(Tg)以下、より好ましくは50℃以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の〔ガラス転移点(Tg)-10℃〕以下の温度に調整される。これは、複数の圧着ロールと冷却ロールの温度がポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の〔ガラス転移点(Tg)+20℃〕を越える場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化が進行してポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化度が20%以上となり、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2が軟化しないので、後のナノインプリント法による熱成形性が悪化するからである。
【0040】
次いで、製造したポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の一部を切断して検体とし、上記皮内反応試験を実施してポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の低刺激性を検査する。皮内反応試験の結果、いずれの抽出媒体においても、抽出液投与部位、及び空抽出液投与部位の採点値平均の差が1.0以下の場合には、製造したポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2に低刺激性有りと判定し、製造したポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を良品として使用する。
【0041】
次いで、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の表面3に微細な複数の貯蔵穴4をナノインプリント法により凹み形成する。ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の表面3に微細な複数の貯蔵穴4をナノインプリント法により凹み形成する場合、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を軟化させるため、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の〔ガラス転移点(Tg)-10℃〕以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の〔ガラス転移点(Tg)+50℃〕以下の温度範囲、好ましくはポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2のガラス転移点(Tg)以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の〔ガラス転移点(Tg)+30℃〕以下、より好ましくはポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2のガラス転移点(Tg)以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の〔ガラス転移点(Tg)+20〕以下の温度範囲で予備加熱し、その後、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の変形等を防止する観点から、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2のガラス転移点(Tg)以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の融点未満の温度範囲、好ましくはポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の〔ガラス転移点(Tg)+30℃〕以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの〔融点-50℃〕以下、より好ましくはポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の〔ガラス転移点(Tg)+30℃〕以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の〔融点-100℃〕以下の温度範囲で凹み形成する。
【0042】
複数の貯蔵穴4がナノインプリント成形されたポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化度は、耐加水分解性、耐薬品性、耐アルカリ性、耐酸性や低刺激性を向上させ、貯蔵穴4の物理的安定性に資するため、20%以上、好ましくは23%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは27%以上が最適である。これに対し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化度の上限は、特に限定されるものでないが、50%以下が好適である。これは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化度が50%を越える場合には、長時間の熱処理を必要とし、生産性に問題が生じるという理由に基づく。
【0043】
複数の貯蔵穴4がナノインプリント成形されたポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化度を向上させる方法としては、ナノインプリント法による凹み形成と同時に行う方法、ナノインプリント法による凹み形成後の熱処理法等による方法等がある。ナノインプリント法による凹み形成後の熱処理は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2のガラス転移点(Tg)以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の融点未満、好ましくはポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の〔ガラス転移点(Tg)+30℃〕以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の〔融点-50℃〕以下の温度範囲で施される。但し、設備の簡略化の観点からすると、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化度の向上は、ナノインプリント法による貯蔵穴4の凹み形成と同時が良い。
【0044】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の表面3に複数の貯蔵穴4をナノインプリント成形により凹み形成したら、製造したポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の複数の貯蔵穴4に経皮吸収性の薬物20をそれぞれ塗布・充填して乾燥させ、各貯蔵穴4に薬物20を貯蔵する。
【0045】
次いで、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の表面3に粘着剤を薄く塗布して乾燥させることにより、粘着層10を積層形成し、この粘着層10の粘着面にライナー層30を積層して貼り合わせることで中間体を形成する。中間体を形成したら、中間体を所定の大きさに切断してそのライナー層30に切れ目を入れ、中間体をポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の大きさに切り抜き、包装して検査すれば、経皮吸収型製剤を製造することができる。
【0046】
次に、経皮吸収型製剤を使用する場合には、粘着層10からライナー層30を剥離し、皮膚に粘着層10を粘着すれば良い。すると、薬物20は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の貯蔵穴4から粘着層10を透過して皮膚表面に分配され、皮膚中で拡散して皮下に移行することとなる。
【0047】
上記によれば、支持層1としてポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を用いるので、従来よりも優れた加工性、耐加水分解性、耐薬品性、耐酸性や耐アルカリ性の支持層1を得ることができる。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の選択により、支持層1の機械的性質、耐熱性、耐溶剤性、耐摩耗性、摺動性、寸法安定性、難燃性等を大幅に向上させることができる。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を単に使用するのではなく、特定した皮内反応試験で採点値平均の差が1.0以下のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を選択して使用するので、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の皮膚に対する低刺激性を確保することができ、少なくとも生理食塩液やゴマ油等に対する安定性の向上が期待できる。
【0048】
また、複数の貯蔵穴4をナノインプリント法により形成するので、優れた寸法制御性により、薬物20の放出を高精度に制御することが可能になる。さらに、マトリックス型の経皮吸収型製剤なので、製剤構造が単純であり、薬物20の過量放出の可能性が低く、面積による用量調整が容易で、しかも、皮膚への追随性を向上させることが可能となる。
【0049】
次に、図2は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、経皮吸収型製剤の製造時に粘着層10の粘着剤と薬物20とを調合することにより、粘着層10と薬物20とを一体化し、粘着層10にも薬物20を貯蔵させるようにしている。
【0050】
本実施形態において、経皮吸収型製剤を製造する場合には、粘着層10の粘着剤と薬物20とを攪拌・調合して調合組成物を調製し、良品のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の表面3に調合組成物を厚く塗布するとともに、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の複数の貯蔵穴4に調合組成物をそれぞれ充填し、調合組成物を乾燥させて薬物20含有の粘着層10を積層形成した後、粘着層10の粘着面にライナー層30を剥離可能に積層して中間体を形成すれば良い。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0051】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、薬物20を塗布・充填して乾燥させた後、粘着剤を塗布して乾燥させることで粘着層10を積層形成する必要がないので、製造作業の簡素化や迅速化を図ることができるのは明らかである。また、粘着層10と薬物20とを一体化し、粘着層10にも薬物20を貯蔵させるので、薬物20の使用量の増加が大いに期待できる。
【0052】
なお、上記実施形態では平面矩形のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を示したが、平面円形や楕円形等のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を使用しても良い。また、上記実施形態では粘着剤の塗布・乾燥により、粘着層10を積層形成したが、何らこれに限定されるものではない。
【0053】
例えば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の複数の貯蔵穴4に薬物20をそれぞれ塗布・充填して乾燥させた後、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の表面3に透過性の樹脂フィルム2を積層し、この透過性の樹脂フィルム2の表面に粘着剤を塗布して乾燥させ、粘着層10を積層形成しても良い。この透過性の樹脂フィルム2には、多数の孔を穿孔し、この多数の孔を薬物用の放出制御孔として薬物20の透過速度を長く一定に保つようにしても良い。
【実施例
【0054】
以下、本発明に係る経皮吸収型製剤の実施例を説明する。
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム〔信越ポリマー株式会社製:製品名Shin‐Etsu Sepla Film PEEK(登録商標)〕を用意し、このポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムに関する皮内反応試験を実施した。
【0055】
この皮内反応試験においては、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを検体とし、生理食塩液又はゴマ油中で121℃、1時間の条件下で抽出した抽出液を用い、リスク評価に好適な「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」(平成24年 薬食機発0301第20号)の別付「医療機器の生物学的安全性試験法ガイダンス」、及びISO 10993‐10:2010,Biological evaluation of medical devices‐Part 10:Tests for irritation and skin sensitizationに準拠して試験した。
【0056】
[抽出液の調製]
1)生理食塩液抽出
先ず、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムから検体を採取して約1.5cm×1.5cmの大きさに切断し、この検体の表面積(片面)6cmに対して生理食塩液(日局)を1mLの割合で加え、121℃、1時間の条件下で抽出した。こうして抽出したら、室温で放冷し、激しく振ろうとしたが、浮遊物が認められたので、3600r/minで5分間遠心分離して得た上澄み液を抽出液とした。
【0057】
また、別に生理食塩液について、抽出液と同様の方法で空抽出液を調製した。これら抽出液と空抽出液のpHを確認したところ、抽出液及び空抽出液共にpH5であった。抽出液と空抽出液は、室温で保存し、抽出処理終了後、24時間以内に皮内反応試験に使用した。
【0058】
2)ゴマ油抽出
先ず、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムから検体を採取して約1.5cm×1.5cmの大きさに切断し、この検体の表面積(片面)6cmに対してゴマ油(日局)を1mLの割合で加え、121℃、1時間の条件下で抽出した。抽出したら、室温で放冷し、これを抽出液とした。
また、別にゴマ油について、抽出液と同様の方法で空抽出液を調製した。抽出液と空抽出液は、室温で保存し、抽出処理終了後、24時間以内に皮内反応試験に使用した。
【0059】
[試験動物及び飼育条件]
1)試験動物
種/系統/性別:ウサギ/日本白色種/雄
微生物制御:ヘルシー
供給源:北山ラベス株式会社
使用動物の選択:以下の条件を満たした動物を皮内反応試験に使用した。
a)1週間以上予備飼育し、一般状態に異常のないことが確認された動物
b)投与当日の体重が2kg以上の動物
【0060】
2)飼育条件
温度:20~26℃
相対湿度:30~80%
照明時間:12時間(午前8時点灯、午後8時消灯)
ケージ:FRP製ケージに個別収容
飼料:ウサギ・モルモット用ガンマ線照射飼料〔LRC4,オリエンタル酵母工業株式
会社製〕を制限供与
飲料水:自動給水により水道水を自動摂取
【0061】
[試験方法]
試験動物3匹の背部被毛を電気バリカンにより剪毛し、脊柱を挟んで片側に生理食塩液抽出液、及び空抽出液を各5箇所、反対側にゴマ油抽出液、及び空抽出液を各5箇所、0.2mLずつ皮内投与した。
【0062】
観察は、投与直後、投与後24時間、48時間、72時間に実施し、表1に示す基準にしたがい皮膚反応を採点した。採点に際しては、試験動物3匹の抽出液投与部位、及び空抽出液投与部位それぞれにおける紅斑及び浮種の採点値を合計し、抽出媒体毎に式1を用いて採点値の平均を算出した。抽出液投与部位の採点値平均から空抽出液投与部位の採点値平均を減じ、得られた値が1.0以下の場合には、抽出液の刺激性は「無い又は無視できる程度」であると評価した。それ以外の場合には、刺激性を有すると評価した。
【0063】
なお、投与の影響が残るため、投与直後の観察結果については、採点値平均の算出に用いないこととした。また、採点値平均の差が0.0以下の場合には、0とした。投与日と観察終了日には、試験動物の体重をそれぞれ測定した。
【0064】
採点値平均=全試験動物の24時間、48時間、72時間の紅斑及び浮種の採点値合計
/45 …(式2)
ここで、45=3(試験動物数)×3(観察ポイント;投与後24時間、48時間、7
2時間)×5(投与部位数)
【0065】
【表1】
【0066】
[試験結果]
1)体重変化
投与日と観察終了日の試験動物の体重を表2に示した。
【0067】
【表2】
【0068】
2)生理食塩液抽出
抽出液投与部位、及び空抽出液投与部位のいずれも、皮膚反応は認められなかった。また、投与後24時間、48時間、72時間の採点値平均は抽出液投与部位、及び空抽出液投与部位共に0/45と算出され、その差は0であった(表3、表4参照)。
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
3)ゴマ油抽出
抽出液投与部位、及び空抽出液投与部位のいずれも、非常に軽度な紅斑(点数1)が確認された。また、投与後24時間、48時間、72時間の採点値平均は抽出液投与部位、及び空抽出液投与部位共に45/45と算出され、その差は0であった(表5、表6参照)。
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
[結論]
いずれの抽出媒体においても、抽出液と空抽出液の採点値平均の差は1.0以下であった。この結果から、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムは、生理食塩液抽出液、及びゴマ油抽出液の刺激性が「無い又は無視できる程度」であると評価することができ、経皮吸収型製剤の支持層として適切であるのが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る経皮吸収型製剤は、皮吸収型製剤の製造分野で使用される。
【符号の説明】
【0076】
1 支持層
2 ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム
3 表面(被積層面)
4 貯蔵穴
10 粘着層
20 薬物
30 ライナー層(被覆保護層)
図1
図2