(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】人造大理石
(51)【国際特許分類】
B44F 9/04 20060101AFI20220810BHJP
B29C 39/24 20060101ALI20220810BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20220810BHJP
B29C 70/02 20060101ALI20220810BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20220810BHJP
C04B 14/22 20060101ALI20220810BHJP
C04B 26/18 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
B44F9/04
B29C39/24
B29C39/10
B29C70/02
B29C70/42
C04B14/22
C04B26/18 Z
(21)【出願番号】P 2018159828
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】313014077
【氏名又は名称】トクラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002033
【氏名又は名称】特許業務法人東名国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 康弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-344531(JP,A)
【文献】特開2007-143832(JP,A)
【文献】特開平06-172001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44F 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂コンパウンドからなるコンパウンド層と、
前記コンパウンド層上に配置された装飾シートと、
前記装飾シート上に配置された光透過性を有するゲルコート樹脂からなる表面側保護層とを備えた人造大理石において、
前記装飾シートは、一部に非装飾部分を備えたものであり、
前記表面側保護層の光沢度が60度光沢度において60%以下、表面粗さRaが0.2μm以上で
あり、当該表面粗さは、成形型の表面を転写したものであることを特徴とする人造大理石。
【請求項2】
樹脂コンパウンドからなるコンパウンド層と、
前記コンパウンド層上に配置された装飾シートと、
前記装飾シート上に配置された光透過性を有するゲルコート樹脂からなる表面側保護層とを備えた人造大理石において、
前記装飾シートは、一部に非装飾部分を備えたものであり、
前記表面側保護層の光沢度が60度光沢度において60%以下、表面粗さRaが0.2μm以上であり、当該表面粗さは、表面保護層に直接加工したものであることを特徴とする人造大理石。
【請求項3】
前記コンパウンド層は、7mm厚成形品で380~780nm波長域の光の平均透過率が4~40%であることを特徴とする請求項
1又は2記載の人造大理石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人造大理石に係り、更に詳しくは、システムキッチン、システムバス、洗面化粧台等に適用することのできる人造大理石に関する。
【背景技術】
【0002】
システムキッチンのカウンター、システムバスの浴槽、バスカウンター、バスエプロン、或いは、洗面化粧台の洗面ボウル等に人造大理石からなる成形品が広く利用されている。これらの成形品は、コンパウンド層と、当該コンパウンド層との間に装飾シートを介して表面側に配置された光透過性を有するゲルコートからなる表面側保護層とを備えた構成が知られている。装飾シートとしては不織布等を用いたものがあり、その面内に印刷を施すことによって装飾された模様や色彩が表面側保護層を通して視認できるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような層構造を有する人造大理石は、装飾シートにおける印刷が不織布の一部に施されて非印刷部分(非装飾部分)がある場合や、人造大理石の一部しか不織布を配置できないときに当該不織布の外縁がコンパウンドの面内に位置する場合がある。これらの場合には、非装飾部分における不織布の繊維や、不織布の外縁が境界として成形品の表面から見えてしまい、人造大理石の質感を著しく低下させてしまう、という不都合を招来する。特に、特許文献1の表面側保護層は、光沢度が80~100%とされているため、上記不都合は顕著なものとなる。
【0005】
なお、特許文献1のものは、コンパウンド層の柄模様等を装飾シートの繊維を通して見えるようにして奥行感を付与するための、当該コンパウンド層の光透過率について何らの示唆も与えていない。
【0006】
[発明の目的]
本発明は、このような人造大理石の質感を著しく低下させてしまう、という不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、装飾シートの繊維やその外縁が成形品の表面側から見えないようにした高品質な人造大理石を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、コンパウンド層の柄や色等を装飾シートを通して視認できるようにして奥行感を付与することのできる人造大理石を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は特許請求の範囲に記載した構成を採用した。すなわち、本発明は、樹脂コンパウンドからなるコンパウンド層と、前記コンパウンド層上に配置された装飾シートと、前記装飾シート上に配置された光透過性を有するゲルコート樹脂からなる表面側保護層とを備えた人造大理石において、
前記装飾シートは、一部に非装飾部分を備えたものであり、前記表面側保護層の光沢度が60度光沢度において60%以下、表面粗さRaが0.2μm以上であり、当該表面粗さは、成形型の表面を転写したものである、という構成を採っている。
【0008】
また、本発明は、樹脂コンパウンドからなるコンパウンド層と、前記コンパウンド層上に配置された装飾シートと、前記装飾シート上に配置された光透過性を有するゲルコート樹脂からなる表面側保護層とを備えた人造大理石において、
前記装飾シートは、一部に非装飾部分を備えたものであり、前記表面側保護層の光沢度が60度光沢度において60%以下、表面粗さRaが0.2μm以上であり、当該表面粗さは、表面保護層に直接加工したものである、という構成を採っている。
【0009】
また、前記コンパウンド層は、7mm厚成形品で380~780nm波長域の光の平均透過率が4~40%であるものが採用されている。ここで、「7mm厚」は、厚みが7mmのものに特定されることを意味したものではなく、7mm厚の場合の光透過率が4~40%とされていることを意味する。
【0010】
本発明の実施にあたっては、樹脂コンパウンドからなるコンパウンド層と、前記コンパウンド層上に配置され、接着用の樹脂材料が含浸された装飾シートとを備える人造大理石であって、前記装飾シート上に、光透過性を有するゲルコート樹脂からなり、前記装飾シートを保護する表面側保護層が配置される人造大理石が製造される。更に、表面側保護層そのものを荒らす、または型を荒らしそれを転写させることにより、表面側保護層に微小な凹凸をつける。表面を荒らす手法としては、研磨粒子を貼り付けた研磨紙にて荒らす方法、研磨粒子を圧力で打ち付けるブラスト方法等が挙げられる。
【0011】
樹脂コンパウンドは、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂に、充填剤、柄材、補強材、硬化剤などの添加剤を配合することにより構成される。熱硬化性樹脂としては、ポリエステル系樹脂、熱硬化型アクリル系樹脂などが挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂は単独で用いることができるが、必要に応じて複数種類を併用してもよい。なお、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂としては、様々な色のものを用いることができるが、天然大理石の質感や高級感を得るためには、天然大理石に近似させた色のものを用いることが好ましい。また、充填材としても、様々なものを用いることができるが、アルミナ、水酸化アルミ、硫酸バリウム、シリカ、ガラス粉、炭酸カルシウム等の無機質フィラー微粉体などを用いることが好ましい。
【0012】
樹脂コンパウンドを構成する柄材としては、無機系または有機系の染料や顔料によって着色されたプラスチック材を粉砕して得られる粒体や、人造大理石、雲母等の天然石を粉砕して得られる粒体などが挙げられ、様々な色、形状、大きさのものを用いることができる。しかし、天然大理石調の外観や高級感を得るためには、天然大理石に近似させた色、形状、大きさのものを用いることが好ましい。
【0013】
装飾シートとしては、ガラス繊維、合成繊維等からなる織布、ガラス繊維、合成繊維等からなる不織布、印刷・情報用紙、新聞巻取紙等の紙類、塩化ビニル、PET等の樹脂フィルムなどが挙げられる。これらの中でも、装飾シートとして、ガラス不織布やPET等の合成繊維不織布を用いることが好ましい。不織布を用いることで樹脂の含浸性が良好になり含浸作業がしやすいというメリットがある。
なお、装飾シートへの装飾の施し方としては、インクジェット印刷やスクリーン印刷等による印刷、UVや熱による塗装によって装飾を施すことなどが挙げられる。また、装飾シートが織布である場合、繊維を着色することなどが挙げられる。
【0014】
また、接着用の樹脂材料としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂及び熱硬化型アクリル樹脂のうちの少なくとも1つからなるものであることが好ましい。また粘度調整用としてスチレン等のモノマーを追加してもよい。このようにすれば、装飾シートに接着用の樹脂材料を容易に含浸させることができる。
【0015】
前記人造大理石において、前記表面側保護層の厚さは、0.15mm~0.6mmに設定されることが好ましい。表面側保護層の厚さを0.15mm以上に設定することにより、表面側保護層からの装飾シートの露出を確実に防止することができ、表面側保護層を荒らす場合、荒らしすぎて表面側保護層を喪失させるリスクが小さくなる。また、表面側保護層の厚さを0.6mm以下に設定することにより、表面側保護層の垂直面の垂れ防止や、硬化時にクラックの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一部に印刷等が施されていない非印刷部分すなわち非装飾部分を備えた装飾シートを表面側保護層とコンパウンド層との間に配しても、装飾シートの繊維やその外縁を成形品の表面側から視認できないようになり、高品質な人造大理石を提供することができる。
また、表面側保護層を荒らすにあたり、成形型の表面を転写した構成では、成形品毎の表面粗さを一定に保つことができ、品質を安定化させることができる。更に、成形後の表面側保護層を荒らす作業を併用する構成では、成形型の表面を荒らすことが難しい部位に対応する成形品の表面部分も荒らすことができる。
また、本発明のコンパウンド層の平均透過率を請求項4記載の範囲とすることで、コンパウンド層に付与された柄材等による柄や色等が装飾シートを通して見えるようになり、深さ(厚み)方向で柄材等が点在していることが視認でき、人造大理石としての奥行感を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は、本実施形態における人造大理石の概略分解断面図、(B)は、同人造大理石の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施例1)
本実施例における人造大理石は、
図1(A)、(B)に示されるように、コンパウンド層10、装飾シート20、表面側保護層30及び図示しない裏面側保護層の層構造である。
成形に際しては、先ず、図示しないFRP成形型を構成する第1型(凸状の下型)の表面に離型剤を塗布した後に表面側保護層を形成する。すなわち、第1型の表面に光透過性を有する透明のゲルコート樹脂に硬化剤(化薬アクゾ株式会社製カヤメック)とスチレンモノマーとを混合して厚さ0.3mm程度となるように塗布した。
【0019】
また、第2型(凹状の上型)の表面には隠蔽用の裏面側保護層を形成した。具体的には、白色のゲルコート樹脂と硬化剤(化薬アクゾ株式会社製カヤメック)とスチレンモノマーとを混合したものである。
【0020】
表面側保護層及び裏面側保護層を加熱硬化させた後、厚み0.07mmのポリエチレンテレフタレート(PET)製の不織布からなる装飾シートに不飽和ポリエステル樹脂を接着剤として含浸させ、これを表面側保護層上に配置し、所定時間加熱して熱硬化させた。なお、この装飾シートは印刷が施された部分と、印刷がなされていない非装飾部分とからなるシートである。
【0021】
次いで、FRP成形型の型合わせを行い、注入口より不飽和ポリエステル樹脂100部にガラス粉200部、硬化剤1部、トナー0.2部を配合したコンパウンド樹脂を注入した。
所定時間加熱、硬化させた後、FRP成形型の型開きを行い、7mm厚となる成形品を取り出した後、表面側保護層に対して#150のペーパー研磨で荒らして艶消し(マット調)とした。
【0022】
以上の成形品の光沢度及び表面粗さの測定を行った。表1に示されるように、実施例1の成形品の光沢度は60度光沢度で2.6%、表面粗さRaが1.45μmであり、装飾シートの非印刷部分における不織布の繊維や外縁は認められず、外観が良好なものとなり、人造大理石としての高質感を保つことができるものとなった。
【0023】
【0024】
(実施例2)
表面側保護層に対して#320のペーパー研磨で荒らした以外は実施例1と同じ条件で成形を行った。
この実施例における成形品の光沢度は、2.9%、表面粗さRaは0.81μmであり、実施例1と同様の効果が認められた。
【0025】
(実施例3)
FRP成形型の第1型表面に対して#320のペーパー研磨で荒らしてこれを表面側保護層に転写した。その他の条件は実施例1と同様である。
この実施例3における成形品の光沢度は4.3%、表面粗さRaは0.67μmであるが、実施例1と同様の効果が認められた。
【0026】
(実施例4)
表面側保護層に対して#400のペーパー研磨で荒らした以外は実施例1と同じ条件で成形を行った。
光沢度は4.1%、表面粗さRaは0.45μmであり、実施例1と略同様の効果が認められた。
【0027】
(実施例5)
表面側保護層に対して#400のペーパー研磨とバフ研磨で荒らした以外は実施例1と同じ条件で成形を行った。
実施例5の成形品の光沢度は46.9%、表面粗さRaは0.29μmであり、不織布の非印刷部分は僅かに認められた程度であり、人造大理石としての質感には影響を及ぼさないレベルであった。
【0028】
(実施例6)
白トナーを「0」とした以外は実施例2と同条件で成形を行った。
装飾シートの非印刷部分における不織布の目立ち難さに関しては、実施例2と同様であった。
なお、成形品の光線透過率の測定を更に行った。この光線透過率は33.2%となり、装飾シートを通してコンパウンドの柄等を視認することができ、奥行感のある成形品となった。
【0029】
(実施例7)
実施例2と同条件で成形を行い、光線透過率を測定したところ、光線透過率は16.03となり、実施例6と同様の奥行感が得られた。
【0030】
(実施例8)
白トナーを1重量部とした以外は実施例2と同様の条件で成形を行い、光線透過率が4.42となる成形品を得た。この実施例では、非印刷部分の不織布の目立ち難さは実施例2と同様であった。コンパウンドの柄などによる奥行感は、実施例6、7に比べて若干落ちるものとなったが人造大理石としての質感は問題ないものと認めることができた。
【0031】
(実施例9)
白トナーを5重量部とした以外は実施例8と同様の条件で成形を行い、光線透過率が0.34となる成形品を得た。この実施例では、非印刷部分の不織布の目立ち難さは実施例8と同様に良好であったが、ごく表面の柄材等のみ視認できる程度で、奥行感を認めることはできなかった。
【0032】
(比較例1)
表面側保護層に対して#600のペーパー研磨とバフ研磨で荒らした以外は実施例2と同じ条件で成形を行った。成形品の光沢度は80.1%であり、表面粗さRaは0.15であった。この比較例では、非印刷部分の不織布の繊維と、その外縁が視認される結果となり、人造大理石の質感を低減させるものであった。
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、装飾シートの非印刷部分における不織布の繊維やその外縁を目立ち難くし、また、人造大理石としての奥行感を付与することができる、という効果を得る。
【符号の説明】
【0034】
10…コンパウンド層、20…装飾シート、30…表面側保護層