(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】断熱材用塗料および断熱材
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20220810BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20220810BHJP
C09D 7/43 20180101ALI20220810BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220810BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220810BHJP
F16L 59/04 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D175/04
C09D7/43
C09D7/61
C09D5/02
F16L59/04
(21)【出願番号】P 2018160475
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2017188187
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 信志
(72)【発明者】
【氏名】片山 直樹
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1083743(KR,B1)
【文献】特開2018-043927(JP,A)
【文献】特開2014-237910(JP,A)
【文献】特表2012-525290(JP,A)
【文献】韓国特許第10-2018-0108270(KR,B1)
【文献】中国特許出願公開第108658623(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108004852(CN,A)
【文献】特開2017-031386(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022420(WO,A1)
【文献】特開2013-100406(JP,A)
【文献】特開2017-137497(JP,A)
【文献】特表2007-514810(JP,A)
【文献】特開2011-057749(JP,A)
【文献】特開2015-163815(JP,A)
【文献】国際公開第2012/147812(WO,A1)
【文献】特開2018-189334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/00
C09D 5/02
C09D 7/43
C09D 7/61
C09D 175/04
F16L 59/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、シリカエアロゲルと、水溶性バインダーと、ナノファイバーと、を有
し、
該水溶性バインダーは、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂から選ばれる一種以上を含み、
該ナノファイバーは、セルロースナノファイバーを含む断熱材用塗料。
【請求項2】
前記ナノファイバーの含有量は、塗料全体を100質量%とした場合の0.02質量%以上0.27質量%以下である請求項1に記載の断熱材用塗料。
【請求項3】
基材の表面および内部の少なくとも一部に、請求項1
または請求項2に記載の断熱材用塗料の硬化物を有する断熱材。
【請求項4】
前記硬化物における前記ナノファイバーの含有量は、0.12質量%以上1.50質量%以下である
請求項3に記載の断熱材。
【請求項5】
前記硬化物における前記ナノファイバーの直径は、1nm以上40nm以下である
請求項3または
請求項4に記載の断熱材。
【請求項6】
前記硬化物における前記ナノファイバーの長さは、100nm以上5μm以下である
請求項3ないし
請求項5のいずれかに記載の断熱材。
【請求項7】
前記硬化物における前記シリカエアロゲルは、球状を呈する
請求項3ないし
請求項6のいずれかに記載の断熱材。
【請求項8】
前記硬化物における前記シリカエアロゲルの含有量は、40質量%以上75質量%以下である
請求項3ないし
請求項7のいずれかに記載の断熱材。
【請求項9】
前記基材は、樹脂または布である
請求項3ないし
請求項8のいずれかに記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカエアロゲルを用いた断熱材用塗料および断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカエアロゲルは、シリカ微粒子が連結して骨格をなし10~50nm程度の大きさの細孔構造を有する多孔質材料である。シリカエアロゲルの熱伝導率は、空気のそれよりも小さい。このため、シリカエアロゲルの高い断熱性を活かした断熱材の開発が進んでいる。
【0003】
例えば、特許文献1には、水分散性ポリウレタンによって結合されたシリカエアロゲルを含む低熱伝導率の物品が記載されている。特許文献2には、繊維径が50nm以下のナノファイバーが分散されたシリカエアロゲルを内部に含む繊維系断熱材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2013-534958号公報
【文献】特開2014-237910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように、シリカエアロゲルの固定などを目的としてウレタンバインダーを用いる場合、疎水性の内部細孔を保持し断熱性を発現するためには、細孔内部に浸入しやすい疎水性溶媒を使用することができないため、水にウレタンバインダーを分散した分散液にシリカエアロゲルを添加して塗料を調製していた。シリカエアロゲルは、表面や内部に疎水基を有するため、水になじみにくい。加えて、比重が小さいため、水に浮きやすい。よって、水を溶媒とするバインダー分散液にシリカエアロゲルを分散させるのは難しく、分散工程に時間を要していた。また、一旦塗料を調製しても、すぐにシリカエアロゲルが水と分離して浮いてしまうという問題があった。このため、塗料を調製したら速やかに成形、塗工などの次工程を行わなければならず、作業工程上の制約が大きかった。また、塗料に圧力を加えると分離してしまうため、塗工機による塗工が難しく、連続生産に対応することができなかった。さらに、塗料を乾燥して硬化物とした後には、シリカエアロゲルの脱落(いわゆる粉落ち)が発生するという問題があった。また、断熱性を高めるため、シリカエアロゲルの含有量を多くすると、硬化物がもろくなり、表面にひび割れが生じるおそれもあった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、シリカエアロゲルが分離しにくく塗工性が良好な断熱材用塗料を提供することを課題とする。また、断熱性が高く、シリカエアロゲルが脱落しにくい断熱材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するため、本発明の断熱材用塗料は、水と、シリカエアロゲルと、水溶性バインダーと、ナノファイバーと、を有することを特徴とする。
【0008】
(2)上記課題を解決するため、本発明の断熱材は、基材の表面および内部の少なくとも一部に、上記(1)に記載した本発明の断熱材用塗料の硬化物を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
(1)本発明の断熱材用塗料は、シリカエアロゲル、水溶性バインダーに加えてナノファイバーを有する。ナノファイバーは、直径がナノメートルオーダーの繊維状物質である。ナノファイバーの太さは、シリカエアロゲルの粒子径と比較して極めて小さい。細い繊維状物質であるナノファイバーは、シリカエアロゲルの周りに物理的に絡み合って存在する。親水性のナノファイバーが周りを覆うことにより、シリカエアロゲルが水となじみやすくなる。その結果、シリカエアロゲルの分散性が向上し、分散に要する時間が短縮される。ナノファイバーは、増粘剤としても機能する。このため、ナノファイバーを含まないものと比較して、断熱材用塗料の粘度は高くなる。これにより、シリカエアロゲルに撹拌のせん断力が加わりやすくなり、シリカエアロゲルの分散性がより向上する。
【0010】
シリカエアロゲルは、ナノファイバーの網目構造に保持される。このため、断熱材用塗料を調製した後においても、シリカエアロゲルが分離しにくい。よって、断熱材用塗料を調製した後に、急いで次工程を行う必要はない。例えば、断熱材用塗料の調製後、数日経ってから次工程を行うことができる。また、シリカエアロゲルの分離が抑制されるため、塗工機による塗工が可能になり、連続生産にも対応することができる。また、断熱材用塗料の粘度が高ければ、フィルム状の基材にも塗工しやすくなるため、様々な形態の断熱材を容易に製造することができる。
【0011】
(2)本発明の断熱材は、基材の表面および内部の少なくとも一部に、本発明の断熱材用塗料を乾燥させた硬化物を有する。硬化物はシリカエアロゲルを含むため、硬化物の熱伝導率は低い。したがって、本発明の断熱材は断熱性に優れる。硬化物においても、ナノファイバーはシリカエアロゲルの周りに絡み合って存在し、シリカエアロゲルはナノファイバーの網目構造に保持される。このため、シリカエアロゲルは脱落しにくい。加えて、ナノファイバーの網目構造の構築により、硬化物の強度は高くなる。これにより、表面のひび割れなども生じにくい。
【0012】
なお、上述した特許文献2に記載されている繊維系断熱材においては、水溶性バインダーは使用されていない。当該繊維系断熱材においては、ナノファイバーの水酸基とシリカエアロゲルの水酸基とを脱水縮合させることにより、ナノファイバーとシリカエアロゲルとを化学結合させている。この点、本発明の断熱材を構成する硬化物は、水溶性バインダーを有する本発明の断熱材用塗料から形成される。硬化物において、シリカエアロゲルは水溶性バインダーにより固定され、ナノファイバーとは化学結合していない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の断熱材用塗料および断熱材の実施の形態について説明する。なお、本発明の断熱材用塗料および断熱材は、以下の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0014】
<断熱材用塗料>
本発明の断熱材用塗料(以下適宜、「塗料」と称する)は、水と、シリカエアロゲルと、水溶性バインダーと、ナノファイバーと、を有する。
【0015】
[シリカエアロゲル]
シリカエアロゲルの構造、形状、大きさなどは、特に限定されない。例えば、シリカエアロゲルの骨格をなすシリカ微粒子(一次粒子)の直径は2~5nm程度、骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは、10~50nm程度であることが望ましい。細孔の多くは、50nm以下のいわゆるメソ孔である。メソ孔は、空気の平均自由行程よりも小さいため、空気の対流が制限され熱の移動が阻害される。これにより、シリカエアロゲルは高い断熱性を有する。
【0016】
シリカエアロゲルの形状としては、球状、異形状の塊状などがあるが、球状が望ましい。球状の場合、最密充填しやすいため充填量を多くすることができ、断熱性を高める効果が大きくなる。また、表面積が小さくなるため、熱伝導率が比較的大きい水溶性バインダーの量を低減することができ、断熱性の向上につながる。
【0017】
シリカエアロゲルの最大長さを粒子径とした場合、平均粒子径は1~200μm程度が望ましい。シリカエアロゲルの粒子径が大きいほど、表面積が小さくなり細孔(空隙)容積が大きくなるため、断熱性を高める効果は大きくなる。例えば、平均粒子径が10μm以上のものが好適である。一方、塗料の安定性や塗工のしやすさを考慮すると、平均粒子径が100μm以下のものが好適である。また、粒子径が異なる二種類以上を併用すると、小径のシリカエアロゲルが大径のシリカエアロゲル間の隙間に入りこむため、充填量を多くすることができ、断熱性を高める効果が大きくなる。
【0018】
シリカエアロゲルの製造方法は、特に限定されず、例えば、乾燥工程を常圧で行ったものでも、超臨界で行ったものでも構わない。球状のシリカエアロゲルを常圧乾燥により製造する方法としては、例えば、特許第4960534号公報に記載されている方法が挙げられる。同公報によると、シリカエアロゲルは、水性シリカゾル調製工程→エマルション形成工程→ゲル化工程→溶媒置換工程→疎水化処理工程→乾燥工程を経て製造することができる。エマルション形成工程においては、前工程で得られた水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させて、W/O型エマルション(疎水性溶媒中に水滴が分散しているエマルション)を形成する。これにより、分散質であるシリカゾルが表面張力などにより球状になり、それを後工程でゲル化することにより、球状のゲル化体を得ることができる。
【0019】
シリカエアロゲルのBET法による比表面積は400m2/g以上1000m2/g以下、BJH法による細孔容積は3ml/g以上8ml/g以下であるとよい。「BET法による比表面積」とは、測定対象のサンプルを、1kPa以下の真空下において200℃の温度で3時間以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を測定し、該吸着等温線をBET法により解析して求めた値を意味する。その際の解析に用いる圧力範囲は、相対圧0.1~0.25の範囲である。「BJH法による細孔容積」とは、上記同様に取得した吸着側の吸着等温線をBJH法(Barrett, E. P.; Joyner, L. G.; Halenda, P. P., J. Am. Chem. Soc. 73, 373 (1951))により解析して得られる細孔半径1nm以上100nm以下の細孔に由来する細孔容積を意味する。
【0020】
[水溶性バインダー]
水溶性バインダーとしては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂とウレタン樹脂との混合物などが挙げられる。断熱材用塗料の硬化物において、バインダー層の強度を高めて、断熱材の強度を向上させるという観点から、架橋剤などを併用して水溶性バインダーを架橋させてもよい。すなわち、本発明の断熱材用塗料は、水、シリカエアロゲル、水溶性バインダー、およびナノファイバーの他に、架橋剤などの他の成分を含んでいてもよい。
【0021】
[ナノファイバー]
ナノファイバーは、直径が1nm以上100nm以下の繊維状物質である。例えば、親水性を有するものとして、セルロースナノファイバー、シリカナノファイバー、キチンナノファイバーなどが挙げられる。なかでも、木材などの植物原料から製造することができ、植物由来で環境負荷が少ない、軽量で高強度、熱による変形が少ないという理由から、セルロースナノファイバーが好適である。セルロースナノファイバーは、化学処理した後、機械処理して製造されるものと、機械処理のみで製造されるものがあるが、繊維径が細く比較的長いものが得られるという理由から、化学処理を併用して製造されるものが望ましい。
【0022】
ナノファイバーは、増粘剤としての役割を果たすと共に、絡み合いながらシリカエアロゲルの周囲を覆うように存在する。これにより、塗料においてはシリカエアロゲルの分離が抑制され、塗料の硬化物においてはシリカエアロゲルの脱落が抑制される。一般に、ナノファイバーの長さは、直径の100倍以上であるとされている。すなわち、ナノファイバーの長さは100nm以上である。ナノファイバーが長くなると、ナノファイバー同士が絡み合いやすくなるため、シリカエアロゲルを保持するという点で有利になる。しかし、ナノファイバーが長いと、塗料の硬化物において熱の伝達経路が形成されやすくなるため、断熱性を高めるという点で不利になる。これらを考慮すると、ナノファイバーの長さは、5μm以下であることが望ましい。好適な長さは、1~5μm程度である。同様に、ナノファイバーの直径が大きくなる、すなわちナノファイバーが太くなると、塗料の硬化物において熱の伝達経路が形成されやすくなるため、断熱性を高めるという点で不利になる。よって、ナノファイバーの直径は、40nm以下であることが望ましい。好適な直径は、4~10nm程度である。
【0023】
断熱材用塗料におけるナノファイバーの含有量は、塗料の分離抑制、硬化物におけるシリカエアロゲルの脱落抑制と、硬化物の断熱性向上と、のバランスを考慮して、適宜決定すればよい。例えば、塗料の分離、硬化物におけるシリカエアロゲルの脱落を抑制するには、ナノファイバーの含有量を、塗料全体の質量を100質量%とした場合の0.02質量%以上にすることが望ましい。0.04質量%以上、0.10質量%以上にするとより好適である。一方、硬化物の断熱性を向上させるという観点では、ナノファイバーの含有量を、塗料全体の質量を100質量%とした場合の0.27質量%以下にすることが望ましい。0.20質量%以下にするとより好適である。
【0024】
[調製方法]
本発明の断熱材用塗料は、シリカエアロゲル、水溶性バインダー、およびナノファイバーと、必要に応じて添加剤と、を水に分散させて調製すればよい。なお、シリカエアロゲルは、表面や内部に疎水基を有するため、水になじみにくい。加えて、比重が小さいため、水に浮きやすく分散しにくい。よって、シリカエアロゲルの分散性を考慮すると、以下の手順を採用することが望ましい。
【0025】
まず、水溶性バインダーが水に分散した分散液に、ナノファイバーが水に分散した分散液を添加して撹拌する。そこに、シリカエアロゲルの粉末を添加して撹拌する。親水性のナノファイバーを先に投入しておくと、それがシリカエアロゲルに絡み合うことで水とのなじみ性を良くすることができ、シリカエアロゲルの分散性を向上させることができる。撹拌は、羽根撹拌でもよいが、積極的にせん断力を加えたり、超音波を加えたりしてもよい。また、シリカエアロゲルを添加する前の分散液を高せん断攪拌、超音波撹拌するなどして、ナノファイバーの分散性を向上させておくとよい。
【0026】
<断熱材>
本発明の断熱材は、基材の表面および内部の少なくとも一部に、上述した本発明の断熱材用塗料の硬化物を有する。基材の材質は、不織布などの布、樹脂などが挙げられる。基材の形状は特に限定されず、フィルム状でも成形体でもよい。本発明の断熱材は、本発明の断熱材用塗料を基材の表面に塗布し、塗膜を乾燥して製造することができる。塗布には、バーコーター、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、ロールコーターなどの塗工機や、スプレーなどを使用すればよい。あるいは、本発明の断熱材用塗料に基材を浸漬した後、乾燥させてもよい。塗布、浸漬のいずれの方法においても、基材が布や多孔質な材料からなる場合には、塗布した塗料の一部が基材の内部に含浸する。
【0027】
断熱材用塗料の硬化物は、シリカエアロゲルと、水溶性バインダーと、ナノファイバーと、を有する。各々の成分については、本発明の断熱材用塗料において説明したとおりである。硬化物におけるシリカエアロゲルの含有量は、硬化物の断熱性を向上させるという観点から、硬化物全体の質量を100質量%とした場合の40質量%以上であることが望ましい。50質量%以上、65質量%以上であるとより好適である。一方、シリカエアロゲルが多すぎると脱落しやすくなるため、シリカエアロゲルの含有量は、硬化物全体の質量を100質量%とした場合の75質量%以下であることが望ましい。
【0028】
硬化物におけるナノファイバーの含有量は、塗料の場合と同様に、シリカエアロゲルの脱落抑制と、硬化物の断熱性向上と、のバランスを考慮して、適宜決定すればよい。例えば、シリカエアロゲルの脱落を抑制するには、ナノファイバーの含有量を、硬化物全体の質量を100質量%とした場合の0.12質量%以上にすることが望ましい。0.18質量%以上、0.40質量%以上にするとより好適である。一方、硬化物の断熱性を向上させるという観点では、ナノファイバーの含有量を、硬化物全体の質量を100質量%とした場合の1.50質量%以下にすることが望ましい。0.94質量%以下にするとより好適である。
【実施例】
【0029】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0030】
<塗料の調製>
[実施例1~4]
まず、水に、ウレタン樹脂バインダー溶液(三洋化成工業(株)製「パーマリン(登録商標)UA-368」、固形分50質量%)と、セルロースナノファイバーが水に分散した分散液(第一工業製薬(株)製「レオクリスタ(登録商標)l-2SX」、固形分2質量%)と、を添加して撹拌した。そこに、球状のシリカエアロゲル(平均粒子径10μm、比表面積700m2/g、細孔容積4ml/g)を添加して撹拌し、塗料を調製した。シリカエアロゲルとしては、上述した特許第4960534号公報に記載されている方法に準じて製造されたものを使用した。セルロースナノファイバーの分散液の添加量を変えてセルロースナノファイバーの含有量が異なる4種類の塗料を調製し、実施例1~4の塗料とした。実施例1~4の塗料は、本発明の断熱材用塗料の概念に含まれる。
【0031】
[比較例1]
セルロースナノファイバーを配合しない、すなわちセルロースナノファイバーの分散液を添加しない点以外は実施例1~4と同様にして、比較例1の塗料を調製した。
【0032】
<塗料の評価方法>
調製した塗料の分離性、塗工性を次の方法により評価した。調製した塗料における各成分の含有量、および塗料の評価結果については、後出の表1にまとめて示す。
【0033】
[分離性]
調製した塗料を静置し、目視観察により分離するまでの時間を測定した。
【0034】
[塗工性]
調製した塗料を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにブレードコーティングした。その時に、はじきや固形分の分離が無い場合を塗工性良好(後出の表1中、〇印で示す)、はじきや固形分の分離が若干見られるが塗工可能である場合を塗工性普通(同表中、△印で示す)、はじきや固形分の分離があり塗工できなかった場合を塗工性不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0035】
<断熱材の製造および評価>
調製した塗料を基材に塗布、乾燥して断熱材を製造し、その断熱性およびシリカエアロゲルの脱落性を評価した。
【0036】
[断熱性]
断熱性の評価用サンプルを、次のようにして製造した。まず、調製した塗料を不織布(倉敷繊維加工(株)製、厚さ5mm、目付け130g/m2)の両面にブレードコーティングし、100℃下で1時間乾燥した。ブレードコーティングの際、不織布の内部に空気層ができないよう注意した。このようにして両面をブレードコーティングした不織布を2枚準備し、各々の一面に同じ塗料を重ねてブレードコーディングした後、当該一面同士を貼り合わせた。そして、重ね合わせた二枚の不織布に、1kgのおもりを載せ、その状態で100℃下で30分間乾燥した。その後、おもりを外して100℃下で2時間乾燥した。このようにして、不織布の表面および内部に塗料の硬化物を有するサンプル(縦200mm、横200mm、厚さ10mmの正方形状)を製造した。実施例1~4の塗料を用いたサンプルは、本発明の断熱材の概念に含まれる。
【0037】
次に、製造したサンプルの熱伝導率を、JIS A1412-2(1999)の熱流計法に準拠した、英弘精機(株)製の熱流束計「HC-074」を用いて測定した。
【0038】
[シリカエアロゲルの脱落性(粉落ち)]
調製した塗料を不織布(同上)の両面にブレードコーティングし、100℃下で1時間乾燥して、シリカエアロゲルの脱落性の評価用サンプルを製造した。ブレードコーティングの際、不織布の内部に空気層ができないよう注意した。実施例1~4の塗料を用いたサンプルは、本発明の断熱材の概念に含まれる。
【0039】
製造したサンプルをもみ試験し、もみ試験前後の質量変化に基づいて、シリカエアロゲルの脱落率を算出した。もみ試験は、(株)東洋精機製作所製「スコット耐揉摩耗試験機」を用い、JIS K6404-4:2015に規定されているもみ試験を参考にして行った。具体的には、つかみ間隔20mm、ストローク間隔40mm、圧縮荷重1.96Nとして、600回(往復速度120回/分)のもみ操作を行った。そして、次式(1)により、シリカエアロゲルの脱落率を算出した。
脱落率(%)=(W1-W2)/W1×100 ・・・(1)
[W1:試験前質量(g)、W2:試験後質量(g)]
シリカエアロゲルの脱落率が5%以下の場合は粉落ちほぼ無し(以下の表1中、〇印で示す)、5%を超え10%以下の場合は粉落ちやや有り(同表中、△印で示す)、10%以上の場合は粉落ち多し(同表中、×印で示す)と評価した。
【0040】
表1に、調製した塗料における各成分の含有量、塗料の硬化物における各成分の含有量、塗料の評価結果、および断熱材の評価結果を示す。
【表1】
【0041】
表1に示すように、セルロースナノファイバーを含む実施例1~4の塗料によると、比較例1の塗料と比較して、分離するまでの時間が長くなり、塗工性も向上した。特に、塗料中のセルロースナノファイバーの含有量が0.04質量%以上の実施例1、2、4の塗料においては、3日以上分離しなかった。なお、実施例3の塗料は、塗料中のセルロースナノファイバーの含有量が少ない。このため、他の実施例より分離の抑制効果は小さくなった。
【0042】
同様に、セルロースナノファイバーを含む実施例1~4の断熱材においては、比較例1と比較して、シリカエアロゲルの脱落(粉落ち)が少なくなった。また、熱伝導率もそれほど上昇しておらず、高い断熱性を維持していることがわかる。例えば、40℃の空気の熱伝導率が0.0272W/m・K以下であることから、断熱材の熱伝導率は、実施例4の断熱材の結果として示された0.028W/m・K以下であることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の断熱材は、自動車用断熱内装材、住宅用断熱材、家電用断熱材、電子部品用断熱材、保温保冷容器用断熱材などに好適である。